ながされて藍蘭島エロパロSS

 

『寝取られて』 第15話

 

 

 

 

 

 

 

  1

 

 

 暁闇のうちから藍蘭島の一日は始まる。まどろみに寝静まった草深い郷邑に清澄な大気を破って鶏たちの励声が響き渡ると、それを目覚まし代わりに人々は蒲団から抜け出して水汲みや朝餉の支度、その日の仕事の準備など、薄暗い中で村は動き出す。

 現代人の目で見ると、日も昇りきっていないうちから働くなんて大変だな──などと思うけれど、朝が早ければ夜も早いので過労働というわけでもなかったりする。空が染まる頃には一日の仕事を終えて太陽が沈み切る前に夕食や入浴を済ませ、灯火を使うのもそこそこに床に入ってしまうのだ。冷蔵庫の無い時代は台所を北側にする風潮があったおかげで調理場が暗かったりもするから尚更だった。

 そう言えばボクが発案した氷冷式の冷蔵庫はすっかり村の家々に定着したという話だった。みちるさんが調達係として氷を入手しているらしい。皆んなが重宝してくれているのは流行らせた身としては嬉しい限りだった。

 こんな自然と一体化したような生活サイクルの島に流されてきた現代っ子のボクだけれど、慣れてしまえば電気のない暮らしも意外と平気だった。むしろ太陽に従う方が遙かに健康的だ。電気で光明を生み出し機械で道具を動かせる現代社会は、時間や労力をより有効活用できるようになったと謳いつつ、その実、心身への負担も増大したようにも思える。だからストレス社会などと言われ、心身を壊してしまう人も後を絶たないんじゃないか……と。その点、藍蘭島は電力や機械に頼れない分肉体労働は厳しいが、決して無理はしない。する必要がないほど土地が滋味豊かという側面もあるけれど。

 ただウチの場合、無理するしない以前に大抵の家事はすずがテキパキとこなしてしまうので、必然、居候のボクは暇を持て余しがちになり、剣の練習などに精を出す始末なのだけれども。

 

 日中は目が霞むほどの深い蒼さに吸い込まれそうな海も、辺りが暗いと澱んだような表情を見せる。

 太陽が昇って気温差が出てくれば強くなる潮風も今はまだ穏やかで、ブンブンと切り裂く音を出しながら木刀を打ち下ろす。

「一、ニ、一、ニ……」

 島の西端の崖に構えられたすずの家は美しい夕焼けに染まる大海を心奪われるほど観望できるのが特徴だったが、その代わり朝の到来は最も遅かった。屋根の彼方を振りさけ見れば悠然とそびえ立つ富士が天の羽衣を纏うが如く後光さす姿を拝観できるが、目を戻すと崖下に広がる溟海(めいかい)はまだ夜の昏(くら)さを湛え、視界の果てまで続いていてもまるで蓋で壅(ふさ)がれている逃げ所のない溜まり水にも見えた。

 一、ニ、一、ニ……。

 そんな海面を眺めながら木刀を振っているボクは、澱み塞いでいるのは自分自身かな──と思った。

 最近、この早朝稽古に少し身が入っていないのは自分でも気付いている。練習相手になってくれていたからあげさんは東の森に行ったきりだったし、侍になるのは止めたらしいしのぶはすっかり姿を現さなくなって、以前のような独り稽古に戻った分、張り合いが無くなってしまったのかもしれない。

 ただ、理由はそれだけではなかった。

 そう、あれが──

「──くっ」

 頭の芯に鉛を流し込まれたような感覚に襲われ、木刀の軌道がグラッと揺れる。

 一旦素振りを止めた。

 剣先がはっきりブレるほど狼狽してしまった自分の不甲斐なさを内心叱咤しながら、小休止を入れようと濡れ縁に腰掛けた。

「ハァ~……」

 地面を突いた木刀の柄頭に両掌を重ね、背を折り曲げてそこに頭を当てながら深い溜め息を吐く。

 額に滲(にじ)む汗には、運動によるものだけでなく、今思い出してしまった記憶によって絞り出されてきた嫌な水滴が混じっていた。

 おかしな夢──はじめに観たのは先月だった。それからというものの週に一、二度はやってくるだろうか。昨晩でとうとう片手指の数を突破してしまった。

 気分が最悪になるので思い返さないよう努めてはいるのだが、内容が強烈過ぎて、意識の下に封じたくてもちょっと気が緩むとすぐに出て来てしまう。始終そのためだけに気を張り詰めているのも土台無理な話なので、近頃では半ば諦めも出ていて、過分に反応せず適度に受け流す方がいいのかもしれない……などとも考え始めていた。

 それにしても、あんなものを何度も夢に見るのは、深層心理にそういう願望があるからなのかな──何度も覗き見しているせいで影響されてしまっているのかな──と、自分で自分が情けなく思えてしまう。一説によると、中学生ぐらいの男子は本来、思春期の性的衝動の波をもろに被るそうで、ボクが考えるより遙かにその方面への欲求が昂(こう)じるものらしい。でもボクは違う、こんな環境でも──生々しいセックスを実際にこの目で見てしまっても、そのセックスをしていた子たちと面向かって話しをしても、我ながら動揺を表に出さずに自分自身を抑制できている。そういう自信はあったんだけれど……。

 

 その夢の中でのボクは、単なる傍観者であった。その場にいるのに誰にも意識されない存在感の無さは夢らしいご都合主義だ。主演はすずとぱん太郎──この組み合わせが常連だったが、毎回相手がすずとは限らず、他の子が出てくる場合もある。だけど共通して言えることは、出演する“女優”は今のところボクがこの島で特に親しくしている女の子たちばかりということであった。

 ここでは毎日たくさんの女性と忌憚なく言葉を交わしている。別にボクが女好きだからというわけではなく、女しかいないから仕方がないのだ。それはともかく中学生になって性別というのをより意識するようになった分、今の状況にふと、我ながらおかしな感慨に浸った時もある。自分自身、あまり面白味のない男で本来女の子なんかにモテる筈もないと感じている部分があるし、実際学校では箸にも棒にも掛からない存在だったので、そんなボクにでもにこやかに接してくれる皆んなの態度がとても嬉しいのだ。

 そんな親しくなった女の子たちが────。

「………………ハァ………………」

 再びがっくりと深い溜息をつく。

 夢の内容がどんなものか……ここまで話せば誰だって大体想像がついてしまうだろう。彼女たちとぱん太郎のセックスが延々と繰り広げられるのだ。眠っている頭の中でアダルトビデオが自動的に垂れ流されているようなものだった。しかも濃密で鮮明な、停止ボタンのないポルノ録画が──。

 そう、それはいつも残酷なまでに鮮明で、腕を伸ばすことができれば触れることさえ出来そうな、まるで現実めいたほどの肉感を覚える光景であった。

 すず以外に出てきたことがあるのは、梅梅、ゆきの、しのぶ、みちるさんなど……。大抵の舞台はあの“屋敷”にある特大ベッドだ。いや、アイツ専用のどでかい寝台が造られたという話を小耳に挟んだことはあるが、本当に実物があるのかどうかは知らない。天蓋が付いていたり、躰が沈むほどたっぷりと柔らかい詰め物が使われた布団だったり──細かいところも含めてすべてボクの夢の中の産物だ。実際はまったく違う形をしていたり、そもそも無かったりしたとしても不思議ではない。

 ──ともかく、その途方もない大きさのベッドの上で、皆、最初に見たすずの夢のように……ねっとりとぱん太郎に犯されているのだ。

 いや……そう言うと何だか語弊があるか。正確には犯されているなどという一方的な行為ではなく……。

 愛し合っている、だ…………。

 そう……一人残らず合意上のセックスを楽しんでいるのだ……すずでさえ……くそっ……!

 さっきアダルトビデオと言ったけれど、撮られている意識も商売気もなく心底気持ち好さそうに喘ぎながら、抵抗する意志もなくぱん太郎の剛物を己がカラダの中に迎え入れ往復するのを感じている女の子たちの姿は、ポルノ以上にいやらしい光景かもしれなかった。

 あんな奴の腕に抱かれて悦び悶えている皆んな。自分から股を開き、あんな奴のペニスに突かれて善がりまくっている皆んな。角材のように太い男根を激しく突き入れられているのに、まだ十代半ばのうら若い少女とは思えないほど女の顔になって感じまくっている皆んな……。からだつきも大人びてきていて……。

 お互いがお互いを求め合う、男と女としては正しいであろうセックスのかたち──。夢の中のボクが傍観しかしないのは、そこに文句を差し挟む余地を見い出せないからかもしれない。

 ぱん太郎とすずの間にさえそんなふうに近付き難い親密な空気が流れているのだから、現実の出来事ではないとはいえ、気が滅入って仕方がなくなってしまう…………。

 この二人のセックスを観るのは、他の子たちより拷問に近い苦しみがあった。

 すずが厭がっていればまだ救いがあると考えるのはおかしいかもしれないが、そうでなくとも──毎日顔を突き合わせ、夜も枕を並べて寝ているほど近しい女の子が、あんな色情狂ととびきりいやらしいセックスを──ボクに見せたこともない表情で──しているなんて、気が狂わないよう堪えているだけでも大変だった。

 それでなくともすずを守る、と気炎を吐いたのに……これではその意志も萎えてしまう。

 ただその半面、それでもこんな夢を何度も見続けられてしまうのは何故だろう──と、我ながら不可思議でたまらないのだった。

 こういうのを不幸中の幸いと言っていいのかどうか悩むけれど、寝ている最中は感情も鈍麻していて、半ば機械のように情景を見流していられる。その辺は夢らしいものだ。苦しいほどに煩悶するのは朝起きてからだった。今まさにこうして落ち込んでいる最中だけれど……この起きてからの苦しみも言ってみれば過ぎた後のことなので、思ったよりはショックが和らいでいるのだろうか……?

 それとも、やっているのが誰であろうと、ボクにも性的なものを見たいという邪な慾求が無意識下にあって、本当はまんざらでもないのだろうか……? だとしたらボクは最低最悪な人間だ。激しい自己嫌悪に陥らずにはいられない。

 あるいは、邪魔する意欲も失せるほど動きが合わさった二人の情熱的なセックスのせいか──。

 例えば、キスをしながら抱き合っての正常位。すずとぱん太郎、互いの手足が絡まり躰が吸着した様は、アイツの体格もあってまるでダンゴムシが丸まっているようであった。全身で繋がり合っていた。すずの脚にガッシリ挟まれたぱん太郎はあまり腰を動かせなかったが、深々と繋がりながらグッグッと押し進めるような動きだけで十分過ぎるほどの快感をお互いに得ているようで、すずの悦声は途切れることがなかった。フィニッシュを迎え結合部から白濁が滾々と溢れ返っても、二人はずっと抱き合ったままからだを震わせ、何回戦もそのまま続けていた。

 例えば、四つん這いになっての後背位。官能にまみれたいやらしさを全身から発散させ、ねだるようにお尻を突き出した姿勢のすずと、それを覆うように腰を密着させるぱん太郎。夥しい愛液で濡れまくったすずのアソコに、それでなくとも巨根のぱん太郎がグンッグンッと押し込むように腰を突き進めても、開発されまくりさんざん逝かされまくったすずは、涎が垂れっぱなしの口から舌を出してだらしなく喘ぎ、快感に泣き腫らしてぐちゃぐちゃの顔で、「ンォオオ♥! ぱん太郎様がッ、ふッ、深くまでッぐるぅぅッッ♥♥!!」と、目を背けたくなるほどの発情ぶりで叫びまくり、乳首を痛々しいほどに勃たせながらさらに逝きまくるのだ。

 日常では今までと変わりなくボクの身近で穏やかな暮らしをしているすずなのに──。

 最初に見た頃はそうでもなかったが、回数を重ねるに従って全くの別人に感じてしまうほど多淫多情に乱れる時もあった。まるで夢を追うごとにすずの性感の開発が進んでいるかのように……。

 すずはぱん太郎に抱かれている最中、何遍も好き、愛してる、もっとメチャクチャにしてと本心から連呼していた。

 

 ぱん太郎様のお嫁さんになる、

 ぱん太郎様が満足するまで抜かないで、

 行人なんか私の中から消えちゃうぐらいもっと奥まで掻き回して、

 いくらでも私の子宮にぱん太郎様の精液注いで、

 早く私も孕ませて、何回でも孕ませて────

 

 現実で耳にしてしまった他の子達の台詞を、すずも遠慮なくその愛らしい唇から漏らす。ぱん太郎に甘く突き回されながら嬉しそうに笑みを浮かべさえして、本当にボクなんか忘れたような顔をして……。いや、ボクはすずの恋人でも何でもないんだから、例えそうであってもボクがショックを受けるのはおかしいのだけれど…………。

 でも、たとえ夢であってもすずの声でそう言われると、ボクの心は決して小さくない狼狽で揺さぶられてしまう。

 耳の穴を塞いでも、頭を激しく振っても、脳内に直接響いてくるのだ。一言一句余さず聞いているしかなかった。

 ──これほど悪夢に苛まされているというのに、寝ている時の自分に目を覚ますという選択肢がないのが理解しずらかった。あまりにも恐ろしい夢のせいで飛び起きたりするのはお話の中の都合のいい演出なんだろうか。ただ──自己弁護する気はないが──後々こうして夢の内容について推量することができるのは起きているからこそで、睡眠中の“意識”はコントロール不能なのだ。“夢”を意識と言っていいのかどうかわからないけれど……。ホラー映画のような瞬間的な恐怖感がないので反射で目が覚めるタイミングを取れないのか。何にしろわからない。

 とにかく、彼らは行くところまで行く。

 男と女が交わる本質である最終段階まで……。

 彼らの行為は必ず、一人残らず──そう、すずでさえ……ぱん太郎のあの大砲を深々と突き刺されての中出し種付けでフィニッシュを迎えるのだ。

 それも呆れるほど濃い精液を、長い長い時間をかけて……。

 発情しきった生殖器同士を一片の迷いなく繋げ合い、人間の射精とは思えないほどの量と勢いがすず達の胎奥にぶちまけられる。何分も何分も。夢の世界で精確な時間など計れるはずもないが、あっという間に終わる普通の射精では絶対になかった。現実で見たのと変わらない長い長い“種付け時間”──。

 射精に至るまでに彼女たちの下半身は完全に蕩かされ、種付けられている間、すず達は悶え死にそうな声を漏らし続けながら、そこまで濃厚に生殖させられていることにオルガスムスを感じまくっている。繰り返し絶頂を覚えながらぱん太郎の肉棒と精液をいつまでもからだの奥に呑み込んでいる。膣内射精中はいつもすぐに結合部から白濁液が溢れ出てきて大瀑布や大河口となる。ぱん太郎は出し終わるまで抜かない。すずの膣内(なか)からも──それどころか、すずは他の女の子たちよりも目立って熱烈に種付けされる。一回ごとに十人も百人も孕んだとしても不思議ではないほどの量の特濃ザーメンで。

 射精の間だけでも一つの世界が形作られていた。

 その上で、それが何回も何回も繰り返されるのだ…………。

 ぱん太郎は心の底から村の女子すべてを孕ませたくて仕方ないようにしか見えなかった。それほどまでに精力が横溢していた。単に溜まった性欲を吐き出す行為ではない。それを感じ取ったすず達も、気の遠くなるような長い射精が尽きるまでずっと、ぱん太郎の種付けペニスをからだ深く迎え入れたまま、受精の姿勢を崩さないのだ。本能が識っている体位。直に見えなくとも、子宮口の位置までも探り当ててしまうというぱん太郎が彼女たちの子宮へと途方もない量の精子を送り込んでいるのは確実だった。よくもキンタマが空にならないものだと呆れるばかりだった。

 ボクの仲良しの女の子たちは、そうしてぱん太郎の女に、奴の子供を孕む存在となった──結婚もしていないというのに。アイツと絡み合っている時の彼女たちからは、少女の面影など脇に追いやられてしまう。男の本性など毛ほども知らなかった頃の清純さなど微塵もなく、ぱん太郎と共に本能の快楽を貪る一対の雌雄になり下がっていた。

 

 ……救えないことに、それは夢だけの話ではなく、現実でも同じなんだけれどね……。

 

 すずだけは完全に夢の産物としても、梅梅も、ゆきのも、しのぶも、みちるさんも、そして他の女の子やその母親たちさえも……夢の中と少しも変わりはないのだ…………。

 精力絶倫の剛物自慢、かつ女を悦ばせることを忘れない色事師と化したぱん太郎にかかると、どんな女でも変貌せずにはいられないらしい。そりゃあ年がら年中暇と体力に任せてあんな慾望まみれのセックスばかりしていたら、好きこそものの上手なれというか、嫌でも上達するよね…………。

 それにしても、なんでボクがこんな夢を繰り返し観てしまうのか皆目見当がつかない。胡蝶の夢とは言うけれど、現実に目撃した光景と変わり映えしない中身に、どこからどこまでが本当に夢なんだろうか──なんて考えたこともあった。夢には現実が投影されるという話を思い出して痛感する。ただ、ボクと共に暮らしているすずまでもがあんな風になっているなんて有り得なかったし、こんな事を考え出すと虚実の境界があやふやになり、物事に対する判断能力自体が怪しくなってしまうと思ったので、夢は夢以外の何物でもありはないと結論付け、その件についてこれ以上熟考することは止めにしていた。結局は答えの出ない逡巡の迷路に彷徨い込む羽目にしかならないのだ。剣に迷いがあってはならないように、心にも迷いがあってはならない。何の証拠も無いのにこれは現実だ正夢だなどと思い込むなんて非科学的にも程があるし。

 それに何より、あんなのが夢ではないだなんて、そんな恐ろしいこと…………幻影に過ぎないと決めつけないと、正常な精神状態を保つ自信がないという恐怖感もあった────。

 

 

 

 

 

 

 

 

  2

 

 昨晩はすずとぱん太郎が手を繋ぎながら森の小径を歩いているところから始まった。

 デートのような雰囲気だ──と考えてから、セックスしていない場面を夢に見るのは初めてだと気付く。つまりこれまですずとぱん太郎がひたすらハメ狂っている所ばかり見ていたのかと、我ながら呆れてしまう。

 寄り添いながら親しげに語らう二人が何処を散策しているのか気になったが、ほぼ全体が森林に覆われていると言っても過言ではないこの島では、場所の特定など無理な話だった。

 それよりもすずとぱん太郎が本当に恋人同士であるかのように振る舞っているのが苛立たしくて仕方なかった。ボクと話している時──いや、それ以上に屈託がなく、それどころか完全に気を許した表情で、すずは頬を染め瞳をキラキラさせながら大男を見つめ上げ、とても楽しそうな様子なのだ。恋する乙女の表情とでも言うのだろうか。繋いだ手は指を一本ずつ絡め合いさえしてて……。

 二人がセックスしている光景は完膚なきまでに打ちのめされるが、こういう光景もまた、ある意味どれほど濃厚な交わりを目の当たりにするよりも敗北感に満ちた一撃を心深いところに突き刺さして来る。

(くそ……!)

 夢に悪態をついても仕方ないのに、歯軋りせずにはいられない。

 すずが悔しいほど綺麗なのがまた癪だった。いつもと変わらない服装だし、日本であればボクと同じ中学生のはずだけれど、並外れた容姿は中学生という規格に収まっていなかった。夢の中のすずはボクよりずっと年上、高校生──いや、大人にさえ見えた。顔つきというか、雰囲気というか……。

「その紅、よく似合ってるの」

「ホント?」

 ぱん太郎に褒められて嬉しそうに破顔するすず。ボクはその時ようやく彼女の唇がいつもより紅く輝いていることに気付いた。すずが口紅を……化粧をするなんて。だからやけに大人びて見えるのか──?

「すずちゃんもおめかしに目覚めてきたんだね」

「う、うん……」すずは気恥ずかしそうな笑みになり、藍色の服に空いてる方の手を当て、自分の躰を見下ろした。「服とかももっと欲しいなって思うんだけど……」

「ボクとのでえと用で?」

「……うん♥」

「でも、その服だってとってもステキのん」

「そ、そう……?」

 すずの普段着は躰のライン、特に生地の薄いスカートに包まれた腰と、肌色に近いストッキングを履いた長い脚の構成が小悪魔的と言っていいほど魅力があり、藍染めの上着に包まれた胸も大きい上に形が美(よ)いし、どこに目を置いていいのやら困るときがあるほどだった。スタイルは完璧、目鼻の整いぶりは言わずもがな。どこに文句を付ける隙もないほどの美少女だった。そして勉強は苦手だけれど器量良し、性格も素直で優しく快活、自分の美貌を鼻にかけたところなど少しもなく。運動神経は抜群、甲斐甲斐しい働き者で、炊事洗濯裁縫調理なんでもござれのお手の物。

 まだ抜けきっていない子供っぽさが救いで、これまで何とか普通に接することができていた。これで大人びた性格まで手に入れていたら、まともに正視する自信がなかった。

「モチロンのん」

と、ぱん太郎はニヤケ面になりながら、そんなすずのお尻を淫らな手つきで撫で揉んだ。

「うにゃん♥」

 思わず立ち止まるすず。少し驚いた様子だったが、まったく厭がらず、むしろ嬉しげに軽く身悶える──。

(コノヤロウ……!)

 ぱん太郎は丸みが目立つ尻をやわやわと撫で続け、いやらしい目ですずを眺め下ろしながら、

「すずちゃんのこの服、とってもそそられちゃうのん。すずちゃんが可愛いからね♥ 特にこのまあるいオシリや、短い布から出たムチムチのフトモモなんか……♥」

「そ、そんな……あっ……♥」

 男として目が行く所は同じなのか。人が往来する気配もない径の真ん中で立ち止まった二人は、その場でいかがわしいコトを始めた。ぱん太郎はすずの下半身を──尻や太ももをさらに撫で回し、その手はとうとうスカートの中にまで入り、パンティ越しにアソコまで触り出した。

 それを立ちっぱなしで当然のように甘受するすず──

「あ……うにゃ……うにゃぁん……だめぇ……♥」

 下半身に集中する愛撫に、すずはぱん太郎の恰幅のいい躰に寄り掛かりながら喉とからだを甘く震わせる。駄目と言いながらもアイツが手を動かしやすいように股を開き、決して拒んだりしない……。

「ぬふふ、ビチョビチョのん……♥」

 すずのアソコを指先で弄りながらぱん太郎が可笑しそうにそう言うと、「だってぇ……♥」と、耳の奥がザワつくぐらい甘えた声を出し、すずはアイツの胸に顔を埋(うず)めながら目を細め、恥ずかしそうに頬を染めた。

「のふふ……」

 ぱん太郎はすぐ脇にある胴の長い樹木にすずを誘導して幹に手をつかせると、自身はその横に膝をついて愛撫を続けた。

 まさか、今まで長閑に散歩していたというのに、いきなりこんな所で発情してやり出すというのか……?

 ──その通りだった。

 初めは衣類越しにアソコと乳首を弄びながら、ぱん太郎はすずの白いうなじに顔先を埋(うず)めていたが、それだけですずは表情を潤ませて切ない声を漏らし、スカートがめくれていくのもお構いなしに掲げた尻を甘く揺らすのだ。

 周囲に人はいない。物音すら遠く、二人だけの世界……。

 まだ下着に覆われているとはいえ露わになった陰部はパッと見でも分かるほどに白い布地が濡れて変色し、そこを往復するぱん太郎の指は上下に動くたびに深いクレバスに挟まれていた。時おり中指が沈み込むようにして膣内へと入ってゆくと、一緒に押し込まれたパンティの布地が引っ張られて尻肉がはみ出るかたちとなる様がひどくいやらしかった。

「ああ、ああ、あぁ……♥ イ……イイのぉ……ぱん太郎様ぁ……♥」

 あまりにも自然な移ろいだったので見落としそうになったが、すずの変わり様も相当なものだった。ほんの少し前まで和やかに談笑していたのに、もう頬に淫媚な朱を差し、ぱん太郎に隷(したが)ってしなを作り、情欲を帯びた声を出している──

 その理由はすぐに分かることになる。

 そのうちにとうとうぱん太郎の手が下着の内側へ潜り込んだ。ボクと比べても優にふた回りはある掌。双手を展(ひろ)げればすずの肉付き良い臀部でも蜘蛛の脚のように絡み覆えるほどである。指の長さも段違いで、傍から見ても動かし方は細やかだった。“ザラザラした指や舌で擦られるのがすごく気持ち好い”とは、女性たちがぱん太郎を褒める常套句だ。そんな手で弄られて、女性たちは別天地へ誘(いざな)われるように悶えるのだ。すずだけは例外であって欲しかったが──

「あっ、にゃっ、ああっ、あうっ、うにゃっ、あぁんっ……♥」

 媚びるように尻を揺らめかせながら気持ち好さそうに囀り、顔をどんどんいやらしく変貌させて、全身を甘美にわななかせるすず……。

 ここにいる少女も紛れなく、身体的長所という武器が加わったぱん太郎の淫技に溺れる一人の“女”であった──。

 こんなすずの姿は見たくなかった。

 でも──見たくないはずなのに──見てしまうのだ。顔を背けられないのだ。夢だからなのか。

 まだパンティを脱がされていないため布に隠れていたが、それでも動きだけでぱん太郎の指が彼女の中に盛んに出入りしているのが容易く分かってしまう。それも深いところまで……すずのアソコの奥まであの太くて長い指が……。その滑らかさはグチュグチュという柔肉を掻き回す音さえ聞こえてきそうで、快感に満ちたすずのくねりも直接視認するより淫らさを感じてしまう光景だった。

 蕩けていく一方のすずの表情。開けっ放しの紅唇から漏れる吐息も熱く茹だるばかりで。

 ぱん太郎の指一本に支配されているすず──。

 ボクにとってあまりにもむごい光景だった。

 そしてその時、蹂躙されているパンティの中から、ぱん太郎の指を伝ってドロドロとネトついた白い体液が垂れ落ちてきたのである。

 一瞬何だと思ったボクも即座にその正体が分かり、間を置かずにぱん太郎の口からもそれを裏付ける台詞が出てきた。

「ぬふふん、さっき注いだセーエキがこぼれてきたのん♥」

「あぁん……♥」
 

 まだ行為前だとばかり思っていたのは間違いだった。
 既に二人は済ませた後だったのだ。
 
 ボクがこの夢を見始めた時からすずの体内にはぱん太郎の精液が溜まっていて、パンティがビチョビチョになるまで濡れていたのはすずの愛液だけのせいではなく、“没入”がやけに早かったのも……つまりはそういうことなんだろう。

 種が明かされればなんてことはない筈だったが、どこかまだ心構えが出来てなかったのか、本番ではない段階で不意打ちのようにすずのアソコからぱん太郎という存在の現物が溢れ出てきたのを目の当たりにしてしまって、その時のボクの動揺はかなり深かったように感じる。今にも意識が遠のきそうなほどにズキンとした鈍く重い痛みが心の中に走った。

 

 アイツの子供を妊娠してしまう体液を胎内に満たしたすず────。

 

 すずがこんな男とこんな男女の仲に──当たり前のように中出しセックスする仲になっている。ぱん太郎の子種をさんざんに注がれて、ヤツの子供を受精させられようと──いや、しようとしている。すずまでもがそんな存在に成り果てている。その事実が心に防壁を構築する前に入り込み、鮮血を吹き上げるような生々しい傷となってしまったのかも知れない。

「にゃぁん、ぱん太郎様の赤ちゃんの素が出ちゃうよお……♥」

 勿体無いと言わんばかりに尻を揺らめかせるすず。

「のふふ、心配しなくてもすぐに追加してあげるから。それより、おマメよりオマンコの方がだいぶ感じるようになってきたかな?」

「うん、オマンコ気持ち好い……指もチンポも気持ち好くてたまらない……最高だよぉ……♥」

 蕩けたまま笑みを浮かべるすずの女っぽくていやらしい表情といったら……。

 ぱん太郎は目を細め、そんなすずの顔を横に曲げさせて唇を奪った。二人は何度も鼻を擦らせながらエロチックに唇を触れ合わせ、舌を絡ませ、周囲の森からどんな物音がしようとお構いなしに熱烈に吸い付いた。

「ぬふふ……ボクもすずちゃんを開発してきた甲斐があるってもののん」ぱん太郎は緩やかに指を動かし続けながら、下唇をくっつけたまま喋った。「でも初めて繋がった日から半年も経ってないし、イクト君ともいまだにドウセイしてるってのに……その彼を放ったらかしにして、他の男のチンポで種付けされながらオマンコ逝きしちゃうまでになっちゃうなんて……とってもイケナイ子のん♥」

「うにゃぁん……行人なんて私の裸見るのもイヤみたいだし……それに、ぱん太郎様との子作りを経験しちゃったら、もう……前には戻れないよォ……」

「ボクがいない頃に……男は彼だけしかいなかった頃に戻りたい?」

 すずは栗色の長い髪を振り乱すように激しく頭(かぶり)を振り、熱っぽい視線で自分からぱん太郎の唇を求めた。

「戻りたくない……ぱん太郎様がいなきゃイヤ……このオチンチンがないとイヤ……♥」

と、すずはぱん太郎の股間に腕を伸ばし、裾の中に手を入れてまさぐった。アイツが帯を緩めて着物の前をはだけると、すずの手に誘われて大業物が強力なバネを弾くようにビインと飛び出してきた。

 自分の手首より太いその肉竿を愛おしそうに撫でるすず。上目遣いでぱん太郎を見上げると、それだけでアイツは要を得たように立ち上がった。着物を完全に脱ぎ落として裸になったぱん太郎はすずと場所を変わり、今度はアイツが木の幹に寄りかかった。ぱん太郎は帯一本解き放つだけで全裸になれるようにしているらしく、下に褌すら付けていなかった。

 力士のようにどこも太い躰だ。外見(そとみ)から感じるほど腹は出っ張っていない。むしろそのガッシリした体格や胸板の厚さに目が行ってしまうぐらいだった。

 そして無数の血管が浮き出た猛々しいほどの肉剛刀。余った皮など少しもない。幾人もの女を斬ってきた自信を放射せんとばかりに傍若無人な雰囲気を湛え、有り余る精気にビクビクと疼いている極太淫棒は、下腹の肉に邪魔されながらも天に向かって傲然とそびえ立っていた。恥ずかしいし悔しいけど、ボクのなんて比べることも出来ない……。

 視線を離さないままその赤黒い肉茸に誘い込まれるようにしゃがみ込んだすずは、ぱん太郎の股間へ顔を埋(うず)めた。

「うにゃぁん……イイ匂い……♥」

 頬ずりするように鼻を擦り付けながら陰茎の匂いを嗅ぎ、惚れ惚れと熱い吐息を吹きかける。彼女の顔よりも長い大刀の先端は真っ赤に膨れ上がり、いつでも発射可能といった漲りに満ちていた。

「チンポのニオイってイイでしょ。女の子の大好きなニオイのん♥」

「うん……♥ 豆大福よりクセになりそう……♥」

 すずがそう言ってサワサワと亀頭と陰嚢を撫で回しながら裏筋の根元近くから舌を這い登らせると、ビクン、ビクンと肉根が何度も伸び上がり、「のの、のの♥」と、ぱん太郎も喜悦の声を発した。

「あは……オチンチン弄られてる時のぱん太郎様ってカワイイ……♥」

と、上目遣いに微笑んだすずは、さらに肉棒の至る所へと舌を這わせる。

「の、のの、のの……♥ すずちゃんにペロペロされるのが気持ち好すぎるのん♥」

「嬉しい……じゃあ、もっとしちゃうから……♥」

 裏筋だけでなく舌の届く限り肉竿の至るところを丹念に舐め上げ、傘の下もゆっくり一周する。みるみるうちにすずの唾液でコーティングされてゆくぱん太郎の男根は、すずのフェラチオで一段と元気を与えられたようにムクムクと威勢を張るのだった。

「ののの……♥」

「こっちも……♥」

 陰嚢にも舌が這う。一度睾丸を口中に含もうとしたが、とても入りきるサイズではなくすずは諦めた。大げさではなくグレープフルーツぐらいはあるのだ。

 それから口を大きく開けて先端に吸い付いたかと思うと、ヌルッと亀頭全体を呑み込み、「んっ……んっ……」と、多少苦しそうな声を漏らしながらも、すずは熱心な吸引を始めた。

 

 ズュプ、ズュプ、ズュポ、ズュプ……

 

 粘ついた水音が聞こえてくる。うっとりと細められたすずの目。そんなにアイツのペニスが美味しいのか…………

 上下に動くだけでなく、時には頭で八の字を描くように回したり、モゴモゴと口の中で亀頭を集中的に舐め回しているだろうと明らかに分かる様子を見せたり、そんなすずの口唇奉仕を受けるぱん太郎の満悦げな態度は腹立たしいことこの上なかった。

「ふぇらちおもどんどん上手くなってくのん。ホントにすずちゃんは呑み込みが早いね♥」

「えへっ……♥」

 すずは嬉しそうに笑うと、今度は乳房も動員した。すずの胸が大きいのはボクも知っているが、ここまで肉が付いていたかと思うほどタップリと柔らかくぱん太郎の剛棒を包み込み、ひたむきにすら見えるほど熱心に擦り上げ始めた。それと連動するように唾液をまぶした舌を出して鼻先まで迫った亀頭を舐め回す。ぱん太郎の言う通り、夢が回を重ねる度にすずのテクニックが熟達していくように思えた。それにしても……ボクのだったらすずの乳の谷間からやっと頭が覗くぐらいだろうな……きっと……。

「さっきまでキミのカラダの一部だったモノの味はどお?」

 すずの頭を撫でながらぱん太郎はそう尋ねた。躰の一部、という言い回しが卑猥過ぎるというか、二人が一つに溶け合うまでになっている事実を突きつけられるようで、悔しさにも似た感情が湧くというか、どうしようもなく黒いものが渦巻く。

「スゴク美味しいよ……♥」

 お世辞を言っているようには見えなかった。

「ぱん太郎様のチンポの味も、精液の味も……病みつきになっちゃう…………♥」心を奪われたようにそう言ったすずは太ももを割り開き、片手を滑り込ませて自らの淫部も弄りながら陰茎舐めを続ける。「下のクチでも、上のクチでも……どっちでも美味しすぎて……幸せ過ぎちゃう…………♥」

 よく見れば、すずの股の下からまた白濁とした体液がネトネトと滴り落ちていて、地面に小さくない水溜りを作っていた。一回だけでもアイツの精液をどれほど胎内に溜め込むのかと、暗澹とした気持ちになる……。

 すずが自分の秘所を弄り出したのを見て、

「そろそろソッチに欲しい?」

と、口端を歪めたアイツが訊ねると、

「うん、欲しい……♥!」

 そんなぱん太郎を熱っぽく見上げ返しながらすずは素直に認めた。

 ぱん太郎はすずを立たせて精液でドロドロになったパンティを脱がし、上着も半ばまで剥いて乳房を丸出しにさせると、また躰の位置を交換した。何故か九十度ズレてちょうど真横からよく見えるようにもなって、木を背にしたすずの双臀を支えながらひょいっと楽々抱え上げる様がわかった。

 駅弁の姿勢ですずの脚がぱん太郎の肘裏に引っ掛かった形になると、ぶら下がっていると言った方がいい今にもずり落ちそうな体勢にも見えた。あまりやりやすそうな体位にも思えなかったが、すずの体重を紙ほどにしか感じていないらしいぱん太郎はあっさりと剛直の位置に入り口を合わせてしまうし、ぱん太郎の首に手を回して落ちないようにしているすずもまったく大変そうには見えない。

 またすずとぱん太郎が繋がってしまう──

 それに、この時のすずの期待に満ち満ちた表情といったら────

「またボクのチンポをすずちゃんの一部にしちゃうからね。二人で一つになって気持ち好くなろ♥」

「うん……♥──ンニャアアッッ♥!!」

 ぱん太郎は苦もなくすずのからだを降ろしてゆき、白濁の残滓がこびりつく秘陰にあっけないほど簡単に剛直が割り込んでいった。

 やめろ、やめてくれ…………。

 

 ズズッ、ズズズッ──

 

「アア……ッ♥! アアア……ッ♥!!」

 それだけで悶絶したように喉を晒し、背中を張り詰めてわななくすず……。

「ぬふふ……一発やってるとはいえ、散歩前だからわりと時間経ってるし……ろーしょんも塗らずに挿入(はい)るようになっちゃったのはイイね……♥ すずちゃん痛くない?」

「うん……だいじょうぶぅ…………♥!」

 百五十を越える身長のすずでもぱん太郎と比べては幼子であるかのような錯覚が起こってしまう体格差だ。それほどぱん太郎は上背があり、アソコも馬並だった。

 その並外れた剛根をろくな前準備もせずに挿れられたという。それでも気持ち好く感じてしまうなんて……どれだけ馴染んでいるんだ…………。

 ぱん太郎の腰が滑らかに動き始めると、二人の会話は打ち切られ、後のやり取りは性器と性器の交接に移った。

 最初のうちはパンパンと腰を打ち付ける音も耳に届くか届かないほど緩やかな動きだったが、次第に強調されていくのがわかった。すずの嬌声もそれと共に艶味が増し、まだ明るい昼の森には不釣り合いな淫雑な音として樹間へ吸い込まれていく。

 これだけ身長が違うとセックスも面倒なんじゃないかとも思えるが、二人にそんな雰囲気はなかった。これまでだってそうだ。すずに限らずほぼ全ての相手が自分より遙かに小柄なので、ぱん太郎も扱いに慣れてしまったものなのだろう。

 緑したたる木立が穏やかな時を刻む中で性慾を浅ましく開放した一組の男女──しかもボクが嫌悪する男と家族のように大切に想っている女の子という最悪な組み合わせ──が淫らに喘ぎながらひたすら下半身を、性器を、肉粘膜を擦り合わせる──。

 調子が騰がってきたぱん太郎がグッと腰をさらに進め、すずを樹幹に押し付け突き上げるような貪る抽送になると、それを皮切りにすずも声が大きくなり、

「はぁ、はぁ、ああ、ああ、スゴイ、これスゴイ、あぁ、ぱん太郎様、ぱん太郎様ぁぁ……♥!」

と、大人が出すような色香匂う声音で乱れ喘ぎ、蕩けた表情でぱん太郎の首根に回した両腕をこわばらせた。ぱん太郎の男根の長さを考えるとただでさえ奥の奥まで突き刺さってしまいそうな姿勢なのに、そこからさらに深々と突き入れられ、すずの全身は痺れたように震える。

 

 パン、パン、パン、パン、パン、パン、パン

 

 二人の躰が打ち合う乾いた音が変わらないテンポで樹間に響き森の中へ染み込んでゆく。すずの張りのある乳房が、蒼いリボンが、少女から女へ変わるように霜降りはじめた尻肉が──すずのからだのあちこちが絶え間なく揺れ続ける。

 傍目には単調に思える時間の流れ。

 だが、当人達にとっては他に何ものも感じられなくなるほどの快楽の溶炉に沈み込んでゆく時間であった。

「ああ、あぁ、奥まで来てる、ズンズン来てるぅ♥!」

 しきりに仰け反りながら嬌声を張り上げるすず。ぱん太郎の肉太い男根で突かれまくるのがそれほどに好いらしかった。

 

 パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ

 

 ふと見ると二人の股間から白濁の粘糸がダラダラと滴り落ちていた。先に放った精液がぱん太郎の肉棒によって掻き出されているのだろう。すずの内股も一面白泥で汚されたようになって糸まで引いている始末だった。ああやって中が掃除された後で、改めてまた新鮮な精液が注ぎ込まれるのだ……。

「ののの……♥ こんな極上マンコを味わう気も起こさないなんて、イクト君はホント、とんだフニャチン野郎のん」

 その時、ぱん太郎がわずかに動きを変えると、

「あっ、あっ、ソコだめ、あッ、ダメッ、あ、アァッ、アーッ……ダ……ダメェ……ンンゥゥッ──ッッ♥!!」

 突如、すずがぱん太郎にしがみつくように背を丸めがちにこわばらせたかと思うと、その両脚が宙空を叩くように伸び上がってつま先までプルプル震えた。

 ダメと言われても抽送を止めなかったぱん太郎もそこで、「ののぅ……!」と呻き、腰を止める。

 もう逝ったのか──と、ボクは震えながらぱん太郎にしがみつきっぱなしのすずを見つめた。キュウッと目を瞑った顔は一見苦しそうであっても陶然としており、からだは小刻みに痙攣している。明らかに恍惚の極点を迎えていた。

「ののの、スゴイうねりのん……吸い千切られて……ボクも出ちゃいそうのんっ……♥」

 ぱん太郎も胴を震わせながらそう言う。奴にしかわからないすずの膣内の様子は、きっと経験のないボクなんか想像できないぐらい凄い有り様になっているんだろう──。

 ──と、すずの両脚がギュッと奴の躰に絡まった。

「いいの? 出しちゃうよ?」

 無言でコクコクとすずが頷くと、

「じゃ、イクト君、これ……すずちゃんへの種付け……何百回目かわからないけどっ……ののゥッ♥!」 

(何百回って──)

 その場にいるはずもないボクを呼ばわりながら、ぱん太郎の腰がググッと突き上がる。

「──ッッ♥♥!!」

 すずのからだが再度強くわななき、動きの止まった二人の意識が密着した結合部に集中するのが分かった。

 

「の、のお、のおおッ……♥!!」

「ンアア……♥! アァアア…………♥♥!!」

 

 ビクビクと震える二人の繋がり合った部分から大量の白濁液が溢れ、陰嚢を伝って落ち葉と雑草の上に降り注いでゆく。

「ののぉ……すずちゃん……最高…………♥!!」

 その両掌はしっかりとすずの双臀を掴み、彼女の小さな躰を木の間に押し潰さんとばかりに、ぱん太郎はグンッ、グンッと何度も伸張する。

「ハァッ……アアァンッ……ッ……♥!」

 溶けて弾けそうな淫声を上げるすず。

 

 “射精の時間”──

 ぱん太郎に堕とされた女子が、さらにアイツの女にされてゆく時間──さらに堕ちてゆく時間──
 

 

 すずが──すずがそれを味わっているのだ────

 

 最初からぱん太郎以外のものは見えていなかったすずは、そこまでアイツのモノにされてもなお、アイツの存在を刻み付ける証を与えられて悦び続ける。受け止め続ける。欲し続ける──。

 何度も何度も何度も何度も続くアイツの射精押し込みに、ビクビクとからだを震わせ、官能に満ちた嬌声の華を咲かせながら熱い吐息を漏らし続け、忘我艶悦の世界に入り浸る。

「のおおお……イクト君と付き合う寸前まで行ってたすずちゃんをボクが孕ませられるなんて……ホント……最高のん……♥!!」

 ぱん太郎はうわ言のようにふざけた言葉を吐いた。

 今ならすぐ傍まで寄って行っても気付かれないのではないかと思えるほどの淫落の泥沼に嵌った二人。そこまでの快感に至れる関係になってしまったのだ──。ぱん太郎はオスの、すずはメスの性の気を全身から発し、その動きは子供を作りたいという動物のような慾求を抑えようともせず──。

「すずちゃん……♥!」

 ぱん太郎がすずを呼ばわりながら呻くと、依然として脈動している肉棒が抜けないようにそのからだを降ろし、片脚を持ち上げ後ろ向きになるよう回転させて後背位に移った。そこに至ってもまだ腰の動きは射精中の様体で、

「ああっ……ああッ……ああぁッ…………♥!」

 ガクガクと震える脚でやっと立っている状態ですずはその押し込みを受け続け、発情した雌猫のように曲げた背中を伸び縮みさせていた。

 地面に垂れ落ちていく粘液の塊の大群は青草より酷い臭いを放ち、二人の開いている脚の先を濡らすまでに広がる始末で、衝撃を通り越して呆れる他ないほどであったが、ここまでの目に遭っているのが他ならぬすずという光景に、ボクは呆気と衝撃の域を引きずり回されるように行き来してしまう。

 何遍も繰り返される精液注射の突き入れに、ぱん太郎に支えられなければすずの膝は今にもくずおれそうであった。

「んほおおぉ……ぱん太郎様の射精……すごいよぉ……んあぁ……んあああぁ……♥」

「すずちゃんのオマンコも最高のん……♥! まだ射精が収まってないのに、もう次の射精感が湧いてるのん……♥!」

 まさか、と、今度こそボクは大きな呆気に捕らわれた。

「うにゃぁ、来て、来てぇ……♥ もっと、もっと……いくらでもぱん太郎様のこくまろ精液、注ぎ込んでいいからあ……♥」

「ののの……♥!」

 ぱん太郎がアホ面を隠そうともせずにピストン運動を速めた。その度にブチュッ、ブチュッと派手な音が立って山盛りの白濁粘液が結合部の隙間から噴きだして来る。

「アッ、アッ、アッ、アッ、アッ、アッ♥!」

「イクト君にすずちゃんのボテ腹見せるのんッ……♥!」

 

 ズチュッズチュッブチュッズチュッブチュッブチュッ!

 

 もはや射精の最中なのか射精に向かっているのか分からなくなる。一つはっきりしているのは、すずとぱん太郎が最高潮に盛り上がっているということだった。

 こぼれまくる涎を拭きもせず無軌道な気持ち好さに駆られながらぱん太郎は口走った。

「すずちゃんのこの肉壺、もう一生ボクのモノのん、一生ボクのチンポ、射精、味わわせ続けちゃうのん♥!」

「うんっ、私はもうぱん太郎様のモノだからぁ♥ 遠慮なく使って、一生ぱん太郎様専用の肉壷オマンコにしてぇ……♥!」

 凶悪なまでにデカい肉牙でからだの奥深くまで激しく貫かれているというのに、苦しさなど毛の先ほどすらある様子もなく、すずもぱん太郎とまったく同じであった。快感一色に溶け心まで繋がったような言葉を発する二人。

 

 ズチュッブチュッブチュッズチュッズチュッズチュッ!

 

「すずちゃんもボクの子供産むんだからね、一人じゃ済まないのん、何人でも種付けちゃうのん♥!」

「にゃあんッ、いいよぅ、何人でも産むからあ♥ 私、ぱん太郎様の赤ちゃん何人でも孕みまくるからぁ♥」宣誓するように言い放つすず。「早く、早く私の卵子も奪ってぇ♥ ぱん太郎様の精子で受精させてぇッ♥ オマンコみたいにグチョグチョにして、私の卵子をぱん太郎様の精子でグチョグチョにしてぇ♥」

 すずがこんな言葉を……卵子や受精などといった単語を使うなんて──どれだけぱん太郎の“教育”に染められているというのか…………

 そして、性急な営みは昂奮が衝き上がるままに性急に頂点を迎える。

「イクよすずちゃん、連続発射イクからね、一番奥でドプドプしてあげる、子宮が満杯になるぐらい注ぎ込んであげるからねッ!」

 そう言ったぱん太郎はすずの腰をしっかりと掴み動きをさらに加速させた。

 

 グチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュグチュ!

 

「アッアッアッアッアッアッアッアッッ♥!」

 その忙しない律動の中ですずも一段と高い快感のステージの光に包まれてゆく。昇り詰めてゆく。脱力していても腰周りに力みが宿っている感じは、つまり、ぱん太郎の絶頂をその場所で受け止めるという無言の意思表示──

 どんな言葉よりも確かな、今自分を愛している男の子種で孕みたいという明確な意思──

 

「のうんッッ♥♥!!!!」

 

 その瞬間だけ、指だけ残して二人の足の裏が揃って地面から浮き上がった。

 

「────ッッ♥♥!!!! ────ッッ♥♥!!!!」

 

 深く繋がり合ったまま絶頂の硬直を迎える二人の躰。腰ですずを押し上げたぱん太郎は、射精の緊張ですぼまった尻肉を緩慢に何度も突き上げる。その突き上げ毎にすずの胎内でアイツの肉棒がさらに伸び上がるように膨らみ、凄まじい白濁噴射を巻き起こしているのは明白で、三度目の突き上げで早くも決壊したように大量の白濁液が滴り落ちてきて、それはすぐに白糸の滝と化した。

「のの……のの……すずちゃん……すずちゃあん……♥!!」

「アァ……♥! アア……♥! ニァアァ…………♥♥!!」

 すずが痙攣する様はぱん太郎以上であった。汁まみれの顔。たまに開く目は半ば感覚が飛んでおり、眼前の幹の模様を見つめているようでまったく見ておらず、ほぼ全ての意識が胎奥に集中していることは明らかだった。

 未経験のボクでも本能で感じ取れる、逆巻く生命の奔流がただ一点に凝縮される世界。それが分かるぐらい二人の息は合っていた。

 すずが、すずの卵子が、ぱん太郎と、ぱん太郎の精子と。そういう意味で二重らせんを描くように結ばれる時間。

「すずちゃん、愛してる……愛してるよ…………♥!」

「ぱん太郎様ぁ………………♥!!」

 幸せの極致に翔びあがる二人。一部分だけ除き全身の力が抜けたように溶ける中、この上なく気持ち好さそうに、お互い猿みたいに腰だけゆるゆると動かしながら伸び上がる様は、傍目から見れば知性のかけらもない、実に間抜け極まりない様相とも言えた。

 だけど、その傍から見るだけ、思うだけのボクは、遠吠えする負け犬とどこが違うのだろうか……。自分の夢なのにほんの少しすら思い通りに動かせないことがこんなに情けなく感じるとは思わなかった。

 ぱん太郎は多くの女を虜にしてきた獰猛なまでの種付け射精を、心置きなくすずにも味わわせる。ボクと暮らしている心優しい少女ですら自分の女に、奴専用の子作り肉奴隷に作り変える。肉体だけでなく、ぱん太郎という存在がすずの心の隅々にまで行き届いてしまうぐらいに己が分身を突き刺し、己が子種を蜿蜒(えんえん)と注ぎ込み続けている。

 ある意味ここに至るまで以上に濃密な、三度目の幕開け。すずとぱん太郎が肉体の果てまで満たされながら愛慾の深みであらゆる垣根を取っ払って一つとなり、また一つとなった証を共作している中、そんな風にもはや誰の手も届かない所まで行ってしまった雰囲気を醸し出す二人を、ボクはただずっと見つめていることしか出来なかった──

 

 

 

 

 

 

 

  3

 

 草履の鼻緒に無垢な白足袋で覆われた足指を通している姉の後ろ姿を玄関で見つけたのは、富士の背中に山吹色が迫りつつある、そろそろ夕餉の支度でもしようかと思い始めていた時刻であった。

「あらお姉ぇ様、今からどっか出掛けるの? さっき戻ったばかりなのに……」

「ええ」

 あやねに声をかけられたまちは背を向けたまま立ち上がると、つま先をトントンと三和土(たたき)に当て、

「今夜は多分帰らないと思うから、私の分のご飯は用意しなくていいわよ」

と振り返り、双眸を細めてフフッと笑った。

 その視線を受け止める青袴の巫女は呆れたように軽い溜め息をついた。

「……今夜は、じゃなくて、今夜も、でしょ……」

 ぱん太郎を家の中に連れ込むまでになったまちだが、自分の方からも大男の住まいへ足しげく通っており、夜になっても戻らない場合はまず間違いなくそこに入り浸っているのだ。

「通い妻も大変だわあ」

「なーにが通い妻よ。要は男遊びにうつつを抜かしてるだけじゃない。妖怪改の方は問題ないの? 最近おろそかになってるんじゃない?」

「あら、羨ましいのかしら」

 一瞬、ぱん太郎にさんざん乱され蕩けまくり種付けされる姉や母、他の女たちの姿が脳裏によぎり、息を呑んだあやねだったが、

「そっ……そんなわけないじゃない」

と、何とか動揺を押し殺して言い返した。

 だがまちは妹の心を見透かしたように、

「興味があるのなら、是非あやねもいらっしゃいな。きっとぱん太郎様は熱烈に歓迎してくれるわよ。女に生まれてきて良かったって心底思えるぐらいに、ね……♥」

と、妖しく含み笑う口元を白衣の袂で覆った。

「じょ、冗談じゃないわっ」うろたえた様子を少し見せてしまいながら思わず叫び返すあやね。「私の意中の殿方は行人様だけなんだから! 誰があんなでぶ男と……!」

「でぶ? パッと見は太ってるように思えるけど、そんなことないわよ。あのもちもちお肌の下はすごい筋肉なんだから。アソコはもっと逞しいけどね……♥」

 アソコと聞いて一瞬何だろうと考え、ハッと頬を赤らめ顔を背けた初心らしい妹に、まちは楽しそうに目尻を下げながら言葉を続ける。

「人間見た目だけで決めつけてちゃ判断を誤る場合もあるわよ。それにさっき遊びにうつつを抜かしてるとかって言ってたけど、それも大きな間違い。ぱん太郎様と閨を共にするのは大切なお仕事なんだから」

「し、仕事ですって……? あんなのと乳繰り合うのが……?」

「ええ」まちはコロコロと軽やかに喉を鳴らした。「まだこっちの世界がわからないあなたには遊んでるように見えるのかもしれないけど、男女の付き合いに歓楽は付き物なのよ。あやねはそれに惑わされて、私が何をしているのか──いえ、そうね、村全体の総意が読めてないようね」

 総意と言われてあやねは怪訝な表情を浮かべた。何のことか分からなかったからだ。

 そんな妹を眺め、まちはホッと軽く息をついた。呆れたような溜息だった。

「──やっぱりね」

「な、何なのよ一体……」

「今、村に大きな変化が起きてるのぐらいは分かってるでしょ?」

「馬鹿にしないでよ、それぐらいは察してるわよ」

 村に新たな命を授けたぱん太郎が堂々とのし歩くようになってからというものの、特にあやねの世代は劇的に変わった。彼女たちはもう、行人のことをほとんど口にしない。ぱん太郎と赤ちゃんと子作りの三題がお喋りの主客となり、屋敷が出来上がってからは今のまちのように、まるで参拝然として熱心に足を運んでいた。屋敷の中で何をしているかは──先日、あやねも見知ってしまった通りだ。そうして夜も昼も関係なく女たちは彼と交わり、あられもない痴態を晒しながら、享楽のうちにぱん太郎の子種を植え付けられているのだ。

「……あの男のせいで皆んな変わってしまったことぐらい……私だってわかってるわ」

「本当にわかってるのかしらねえ」と、じっとあやねを見つめるまち。「時代は神様仏様海龍様ぱん太郎様、皆んながあの方に夢中なんだから。かく言う私もだけどね……でも、それが大切な仕事でもあるってわけ。──まさか、あなたはオババに言われた事を忘れたわけじゃないでしょうね」

「忘れてはないけど……」

 青袴の巫女は数ヶ月前のことを思い出していた。

 

 

 

 

 最長老であり村長でもあるオババの家に急遽、村の全ての女が集められた夜。その席でオババは産気づいていた梅梅他娘たちが無事元気な嬰児を産んだことを満座に報らせた──皆とっくに知っていたが。そして、かくなる上はおぬしたちもぱん太郎から種を授かろうではないかと娘たちに促したのだ。

(有り得ないわね、行人様以外となんて)
と、あやねはその時点で論外と断じて涼しい顔でオババの演説ぶった話を馬耳東風していたが、そんな彼女とは裏腹に周りは子供が誕生したことでわっとざわめき、衝撃を受けたような表情で真剣に耳を傾けていた。村の空気が変わったと言うならば、この時点からかもしれない。

 用件はその一点のみで短い寄り合いとなったが、散会になっても多くの女はすぐには立たず、親しい者同士で顔を近付け合って興奮気味に喋り合う団塊がそこかしこに出来た。

 そんな中、一人その場をそっと抜けて軒先で提灯に火をともす少女の背中を、あやねはポンと軽く叩いた。

「すず、帰るの? 途中まで一緒しましょ」

「あ、うん……!」

 長い髪を青いリボンでポニーテールにした少女は救われたような笑顔で元気よく振り返った。夜道は苦手だっだのだ。

 二人は肩を並べて夜の道をとぼとぼと辿った。

 満天の星々が美しく煌めく晩であったが、集落を離れると途端に周囲の景色は物寂しくなった。昼間は命の息吹もおおらかに枝葉を繁らせ心を落ち着かせてくれる深緑の森林は、灯火があってもなお真っ暗に沈み、その闇の奥に何が潜んでいてもおかしくない静けさと共に、田畑を飛び越えて全周から押し迫ってくるようであった。

 いつもなら自然と始まる会話もなく、どちらも俯き加減に提灯の微光が照らす地面に目を落としながら歩いていた。

「ねえ、すずはどうするつもりなの? まさかあんなのに従うつもりじゃないでしょうね」

と、あやねは不意に口を開いた。

「え?」

 辺りをやや不安げな目で眺め回していた少女は、澄んだ瞳でキョトンと見返した。あやねが何の話を始めたのか本気で分かっていないようであった。

「え? って……さっきの話に決まってるじゃない」

「あ、あー、あれ……うーん…………?」

 すずは答えに詰まったように口を閉ざした。それは言葉を濁しているというより、思い付かない、判断できないといった感じであった。熟考したり、何か考えがあるのを黙秘するのではなく、そもそも何も考えられていない、ということだ。

「一つわからないんだけど……子作りって結婚しなくてもいいのかな?」

「普通はそうみたいだけど、出来婚ってのもあるらしいわね」

「できこん?」

「子供が出来てから結婚することよ。男と女が結ばれる形も一つじゃないってことね」微妙に違うが、本土で生まれた言葉の正しい意味までは知らないあやねだった。「今回の場合は東のぬしが後にしてくれって言ったそうよ。まあ確かに私も結婚式は女にとって人生の一大いべんとだと思うし、焦って急ぐより落ち着いてから日取りとか決めてちゃんとやった方がいいかもね──って、オババはそのことも話してたじゃない」

 呆れながらもしっかり教えるところはあやねらしかった。

「え、そうだったっけ? なんか学校の勉強みたいに全然話の内容が入って来なくて……アハハ……」

と、すずは焦った顔で誤魔化すように笑った。

(まあこの子じゃそうよね……)

 心中苦笑いするあやね。すずはこの時十四になっていたが、しばらく前にやっと月のものが来てようやく大人の仲間入りをした。が、当人は初潮前と変わらず、“女”になった実感などまるでないようであった。長らく男性不在だった藍蘭島ではむしろ当然とも言える感覚であるが。

 娘子がどれだけ興味を募らせても決して得られることがなかった異性の存在。そこへ東方院行人が島に漂着し、俄然色めき立つ娘たちの中、すずだけがその少年と共に暮らす権利を得ても、新しい家族ができたというのが彼女の嬉しがり方であり、やはり色恋にはとんと疎いままであったのだ。

「私は……いきなり赤ちゃんを作れって言われても、ちょっとよくわからないかな……」

「確かにそうよね。話がぶっ飛びすぎてるわよね~。いわゆる婚前交渉ってヤツ? 結婚をすっ飛ばしてまでなんて必死すぎて笑っちゃうわ」

「あれ? でも確か……あやねもやろうとしてたよね。その必死すぎることを」

「へ? ──あ、ああ、そ、そういえばそんな事もあったわね…………」

 ばつが悪そうに目を逸らすあやね。彼女は一度だけ行人に婚前交渉を迫ったことがある。具体的な方法に関しては全くの無知だったが、その時に初めて経験した異性と唇を触れ合わせた心地に、思いも寄らぬほどドギマギしてしまった。それだけで脱兎の如く逃げ出してしまって──

 その後は落ち着きを取り戻して行人と接してはいるが、あの時のことを思い出すと今でも胸の奥がきゅんと熱くなる。まったく悪い気分ではなかった──ただ、実行前は既成事実を、などと目論んでいたが、再度試す勇気は出そうになかった。

 あやねは夜空を覆い尽くす無数の光を見上げ、

「……ていうか、どう考えても行人様の方が断然いいじゃない。それをなんであんなのに対してあからさまに乞い拝む必要があるのかしら」

と、ひとりごちるように言った。

「うーん……それだけ村の将来を案じてる……ってことかな……?」

 その点に関してはあやねも言下に悪たれ口をつけなかった。村の男衆が一人残らず島外に流されて以来、大人の女たちが子どもに隠れてその悩みに悲しい溜息をついていたのは薄々察していたことである。失ったのは夫や息子だけではない。村の未来までもが奪われたのだ。だからこそぬしとして今ひとつだった評判のぱん太郎であっても掌を返すように着目され始めたのだろう。

 確かに自分たちの世代で村が潰(つい)えてしまうのは正直虚しい事だとあやねも思う。その点について村の女たちは皆、行人に期待を寄せていたのだが、もしこんな事態になる以前のままだったら──つまり相変わらず行人だけしか男がいないままだったら──おそらく赤子のあの字はおろか、恋人と呼べる関係の相手すら拝めていなかっただろう。

(まあその時は、遅かれ早かれ私が産んでたでしょうけどね♪)

「やっぱり……私たちも協力しないといけないのかな?」

「はっ、バッカねー」

 ためらいがちに言うすずに、あやねは即座に否定するようにひらひらと手を扇(あお)ぎ返した。

「確かに私たちは結婚したり子供を生んだりする年齢になったけど……何を無理して行人様以外の子供を産む必要があるのよ。あんた、あんなヤツに乙女の柔肌を許すの?」

「でも、行人は結婚とかまだ考えてないし、島を出て行くかもしれないし…………」

「あなたってばまーたそんなこと言って……ん~、まあ、確かに普段は結婚はまだ早いとか言ってるけど……行人様は責任感あるお方よ。ちゃんと心を決めれば逃げずに向き合ってくれるはずだわ。

 ──すずは──そ、その……いっ、行人様が……その……す……好きじゃないの…………?」

「えっ!? そ、そ、それは……………………」

 照れたように紡ぎ出される親友の言葉に、ボッと顔を赤らめて俯いた青リボンの少女は、傾聴しなければ聞き取れないほどの小さな声で、

「す、好き……だよ…………」

とだけ呟いた。

 「だったら──」と、続けようとしたあやねだったが、

「でも……懐かしい故郷に帰って家族に再会して欲しいのも本当だよ…………」

と、一転して寂しげに微笑む友人を見て、言いかけていた台詞が萎んでしまった。

(まったく、しょうのない子ね…………一年以上も一緒に暮らしてるっていうのに…………)

 再び沈黙の帳が降りた二人は別れ道に来ると、「それじゃあまたね」と、すずは手を振り、西の岬へと続く小径を独り歩いていく。

 それでなくとも小さな背中がどことなく頼りなさそうにさらに縮んでいくのを眺めていると、ふと、その躰が何かに寄りかからなければ支えられないような儚さをおぼえ、家までついて行こうか──と、何気なく考えて足を踏み出したあやねだったが、数歩して、

(……大丈夫よね。最近はわりとしっかりしてきたし。今じゃあの子には家で待ってる行人様だっているんだし)

と立ち止まった。

「……にしたって、あの子も行人様のことが本気で好きだってこと……いい加減自覚したって不思議じゃない頃なのにねえ……」

 好きという言葉を口に出せても、それが異性としてだとは未だはっきりと理解していないのがすずだった。一年も毎日顔を合わせている相手に対してどんな感情を抱いているのかぐらい自覚出来そうなものなのに。あとどのぐらい共に過ごせばあの子も自分の気持ちにハッキリ気付くのかしら──でも、私だって負けないんだからね──などと感傷めいた思いを抱きながら、あやねも杜へと続く径に足を向けた。

 

 

 だが──────

 

 あやねが神社に帰り、他の女性たちもとっくにそれぞれの住まいに戻った時間になっても、真っ先に帰途へ就いたはずの少女は、家で帰りを待っている少年の前にその姿を見せていなかった。

 

 

 やけに広さを感じるがらんとした部屋の中、彼女を待ちわびる同居人が障子の戸枠にもたれかかり、溺れそうなほどの星の大海をぼんやり見上げている間。

 

 その無数の煌めきが淡く照らす草陰の中では────。

 

 女の弱いところを熟知した男の手によって発情に導かれた青リボンの少女が、垂涎ものの美体をくねり火照らせながら、これまで発したこともない声を上げていたのだ。

 “花”を嗅がされ、敏感な部分をいやというほど念入りに責め立てられて初めての経験とは思えないほどの快美感を覚えた少女は、淫らな熱風に全身を焦がし、溢れるほどの瑞々しさが匂い立つ肢体を男の言うがままに開いてしまい、唇、乳房、秘陰──女の大事な箇所に遠慮なくむしゃぶりつかれてさらに声を張り上げた。

 閉ざされた蕾にまずは舌、次に指、そして……ついには常人を遥かに凌ぐ大剛茎で貫かれ、生まれて初めて男を迎えると、処女喪失の痛みが遠のくほどの時間をかけて念入りに肉孔をほぐされ。

 とうとう抽送の律動を心地好く感じるまでにこなれてしまった秘洞の奥に特濃の白濁粘液をぶちまけられ──言葉にできないほどの甘い感覚に溺れながらその凄まじい噴射を全て受け止めてしまい──

 その時の少女の表情は、青姦を始める前は戸惑いと不安を浮かべていたのが嘘に思えるぐらいの感じようであった。彼女の器量の良さはここでも発揮されていたのだ。泣き腫らしながらも股を開ききり、足腰からは完全に力が抜け、初めてにも関わらず男を楽に迎えられる姿勢が自然に出来上がっていた。

 ついさっきまで固く閉じていた狭い穴だったとは信じられないほど奥までみっちりと開通され、少年ではない男と深々と繋がりながら、少年のものではない子種を滔々と胎奥に注がれて──それに淫美な感覚すら憶えていたのだ。

 念入りに数時間かけて到達したと言うべきか、たった数時間体験しただけで行き着いてしまったと言うべきか。

 初めての媾合、初めての肉の悦び、初めて迎える男性器。生殖器として目覚め歓び場と化した膣の最奥、子宮と繋がった壁を長大な肉根でグイグイ押し上げられてもその苦痛は甘い疼きに霞み紛れた。子宮口のすぐ近くで収まることなくビュウビュウと噴き猛る怒張の先端は、柔肉が盛んに蠕動する中、時には直に当たって微かに開いた穴への熱烈な口づけとなり、しかも角度が合わさって何噴射にも渡って濃厚な孕まし液がまともに浴びせ掛かり、少女の子宮内へ確実に男の精子が送り込まれていった。

 一人きりでの対面はこれが初めての、特別な想いなどこれっぽっちも抱いていない男。──とは思えないほどの牝肉の歓待は、温かな感情から来るものではなく、純粋な肉慾の喚起──むしろその方が性質が悪いと言えるか。

 躰の真芯まで響き染みるほど勁(つよ)く脈動する肉棒を、少女は体内で乱れ狂う若い本能と気が変になるほど湧き出てくる情欲に命じられるままに自分からも強く締め付け、その猛々しい肉を、夥しい精子が詰まった体液を、ともに深いところまで迎え入れてしまう──。

 今までの交尾の激しさから変転した、極めて動きの緩慢な、だが気が散じたわけでもない射精の時間。普通の男がどんなに長く放出しようともこれには及ばず、かといって事後でもなく、『種付けの時間』とでも括(くく)る他ない時間。

 それを経てようやく肉棒が暴れまくっていた胎内は静穏になり、男もやっと虚脱した。逃げる好機だった。

 その時立ち上がっていれば、この場から去ることも出来たかもしれない。

 ──だが、自分が自分でなくなったかのような──経験したこともない異様な感覚に満たされた少女は、行為がひと段落ついたと捉えられても身を離すという選択を思い付かないほど放心していて、結局は男が回復して行為が再開されてしまうまで、ずうっと、ずっと──

 

 ……少女はこの男と深く繋がり合ったままであった…………………………。

 

 未だかつてない体験や痛みに怯えや怖さもあったが、男とまぐわうことの意味もわからず、異性そのものさえよく知らない素朴な島娘は、わずかな戸惑いを経ただけで肉体の快美を受け入れてしまい、“村のため”というオババの言葉もあり、拒むことを躊躇ったのである。そもそも他人を拒むことを知らない──藍蘭島の人間なら誰しも持っている美点であるが──誰にでも親身で優しい性格の持ち主だった。

 そうしていよいよ。

 誰であろうが孕ませることしか考えていない種馬の抑圧されていた慾望が阻むものなく解放され、この美少女のからだはその捌け口と化した。彼はここ数ヶ月間禁欲を強いられていたのだ。この島の自然に培われた少女の体力も十分で、男に付き合うことを許してしまった。

 少女と男の交尾はまだまだ続いた。

 ただでさえ底無しの性慾を持つ男の途方もない量の孕まし汁は、何度も何度も、何ものにも邪魔されることなく少女の胎内に注ぎ込まれていった。生娘の清浄性を秘めるように閉ざされていた少女の膣は肉棒の大きさまで拡がり、この上ない濃密さの白濁液で満たされ、少年とこれまで過ごしてきた日々の中で育まれてきた淡くも温かい交流など初めから無かったものにされるような苛烈な淫辱を与えられ、麗しい秘肉は男の慾望をこれでもかというぐらい漬け込まれた快楽の糠床となった。

 終わりの見えない肉の交わりの中、少女はあぁあぁと言葉にならない喘ぎ声を出しながら、しまいには肉慾の歓喜に押し流され、心にずっと留まっていた異性をも忘れて頭を真っ白にしながら夢中で腰を動かし、一度始まると滔々と続く射精を最後まで膣内深くで受けきり──。

 いつしかそれは性慾を覚えることすら初めてとは思えないほどの淫気を発する性交渉となっていた。

 少年の待つ家へはあと少しという距離。

 遅い帰りを心配して捜しに出さえすれば程なく鉢合わせするほどの近傍。

 そんな道脇の草むらの中、少女は男と何時間も肌を重ねた。本能に従って情熱的に腰を密着させた。濃密な種付けが何度も繰り返された。下に敷かれた男の羽織は二人の体液でぐちゃぐちゃにまみれ、それがお互いの躰のどこもかしこをもドロドロに汚した。

 主に大きな影が小さな影に延々と覆い被さっていたが、時に少女が横や上にされると、その白い裸体が──特にたわわに実った乳房が揺れ動きながらてらてらと月光に映え、全身が淫靡にぬめり発情している様が確認できた。しかしそれを眺め愉しむ特権もまた、ここにいる男だけのものであった。少年が見たこともない少女の痴態を男だけが眼福に預かった。

 少女は途中から帰ることも忘れて気がどうにかなってしまいそうなほどの気持ち好さの中に心身を蕩かせながら、熱く固い巨根を感じ続けて甘い声をひっきりなしに上げた。唇を求められて舌を入れられると、拙いながらも舌を絡ませた。紅玉のような唇もふっくらと形の佳い乳房も心ゆくまで男に嬲られ、特に秘窟は肉と汁の坩堝と化し、男が満足しきるまで──少女が悶え狂うまで──容赦なく掻き回され、捏ねくり回され、突き回された。そうした末、腰を密着させ子宮の外壁に口づけられての濃濁子作り射精の反復。

 それを止める倫理観も知恵も少女にはなく、男にも躊躇はなく。

 

 

 ただただ快楽の本能に包まれて。

 

 これでもかというほどの生殖行為を。

 

 少女は。



 少年とは違う男とやりまくった────。

 

 

 何度目かの射精の直前、激しく腰を振る男が彼自身の放った精液でぬかるみきった膣内を往来する昂奮に駆られながら、「また出すよ、赤ちゃんができる素をどんどんあげるからねっ♥!」と言い放っても、いやらしい粘着音をひっきりなしに立てる抽送を嬌声と涎を漏らしながら恍惚と受け止めていた少女は、聞いているのかいないのか、コクコクと頷き、男の太い胴を挟む脚にギュッと力を籠めたのだ。

 射精が始まってもアソコとともに脚の締め付けを緩めようとしなかった。胎内でドクドクと脈打つ感触を少しも逃したくないかのような表情で口元を快感に蕩かしていた。

 

 その次の射精も、またその次の射精も。

 

 少女の膣壁がギュッ、ギュッと、ぎこちない動きながらも男の雄根を絞り上げ、本能から来る歓迎の意を示す。

 

 男にとってこれはただ女の柔肉を楽しむだけではなく、慾望が昂ぶるままにメスを妊娠させる、種付けするというオスの本性を全く抑える必要がない、桃源郷の仙果にかぶりつく行為であった。

 

 それが例え、星明かりの彼方微かにある家に、恋心を抱く少年(ひと)がいる娘であったとしても──。

 

 いや、むしろ逆であった。想い人がいる娘と承知して尚、男の肉棒はさらに硬度を増し、この美しい少女の子宮めがけてビュルビュル、ビュルビュルと精気尽き果てぬ量の孕まし液を放つのだった。そして少女も少女で、一個の性として逆らい難い甘美な世界を発見してしまい、別次元に飛んでいるかのような表情で淫惑に悶えながら、自分を征服しきろうとする存在を本能の命じるままにしっかりと受け止めてしまうのだった。

 村を守る大義として掲げられた子作りという名の快楽に沈められ、オババの言いつけを実践する第一号となってしまった青リボンの少女が男の肉棒と種付けをいやというほど味わい、最後には家のある方角──想い人がいる方を向かせられながら四つん這いで男に突かれまくったが、その頃にはもう遠い灯火の微光など目に映っておらず、巨体の男と激しく肉を交わらせて初めての同時絶頂に達し、射精の度に獰悪な対流を繰り返す火山のマグマ溜まりとなって一体化した生殖器の奥底で、肉慾の極致の中ついには少女の卵子までもが男の精子の雲霞に貪り喰い繋がれてしまっていた。

 自分の胎内で生命の悲劇が催されていることなど露知らぬ少女だったが、心のどこかに痼(しこ)りのような疑念はあった。あるにはあったが、目覚めてしまった性衝動、そしてこの瞬間ばかりは強烈なオルガズムスに少女は逆らうことができず、野太い棍棒をねじ込まれたように拡がった膣壁を何度も窄ませながら男の肉根を締め付け、搾り取るように男の子種を子袋の中に嬉々として飲み込んでいってしまっていたのである。

 少女が望みもしなかった性交の終盤の光景は、そこだけ画として抜き取れば、子作りセックスを合意した男と女にしか見えていなかった。
 胎奥で種付け射精されている時の少女は、快感に呑まれて腰を逃がそうともせず、数時間前に初めて会ったと言っていい男の侵入を許し、その男の精子の注入を許しているようにしか見えなかった────。

 

 

 最も親しい友人が、最も性交渉から縁遠いと思っていた友人が、密かな純心をともに同じ相手に抱いていた友人が。

 事程左様に何も知らない無垢な少女から一気に脱皮させられるような目に遭っていたことなど、あやねは知る由もなかった…………。

 

 

 

 

 

 

 

  4

 

「……というか、私の側から見れば、あやねの方がおそろかに見えるんだからね」

「へっ!?」

と、あやねは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をまちに見せた。この点で逆襲されるとは思ってもみなかったからだ。

「ど、どういうことよ……?」

「子供を産むのも私たちの大事な仕事でしょ。ゆきのですら頑張ってるっていうのに、あやね、あなたは行人様との関係はどこまで進んでるの?」

「うっ……」

 半歩後ずさるあやね。

「……まったく進んでないようね。まあ、接吻ごときで恥ずかしがってちゃねえ……」と、まちは含み笑いした。

「ちゃ、着実に確実に前進してるわよ!」

「へえ。じゃあ、接吻より先へはいったの?」

「………………イ、イッテナイケド…………」

「やっぱりねえ、フフッ……それに比べて最近の私、やけに肌がピチピチしてると思わない?」

 そう言ってうきうきと自分の頬を撫でるまちに、あやねは、「まったく見えない」と冷たく突き放そうとしたが、実際に産みたての卵のような肌、綺麗に引き締まった顔が双眸までもキラキラと輝いている姉に、喉まで出かかった言葉が急降下してしまった。我ながら悔し紛れな惨めさを感じてしまったのだ。

「服の中も凄いコトになってるわよ」巫女装束越しに自分の躰に触れるまち。「どんどん女らしさに磨きがかかって。布でほとんど隠れてて見せられないのが残念だわあ」

 そうしてまちは玄関でくるっと軽やかに一回転すると、自慢気に鼻を鳴らした。

「ふ、ふんっ……!」

 あの子といいこの人といい……と、あやねは腕を組み、内心歯ぎしりしながらそっぽを向いた。(私だってそのうち、もっと女らしくなるんだから!)

「それもこれも男を知り、女を知ったからよ。ぱん太郎様のお陰だけど、私も最初の一歩は自分から勇気を出して近づいたの。その時は怖かったし、初めは痛かったけど、ぱん太郎様は優しくりーどしてくれて……喉元過ぎれば熱さを忘れたわ。そして、別の熱さに身も心も灼かれちゃって……♥」ポッと頬を染めるまち。「わかる? 自分から行動する勇気が肝心なのよ」

「そ……そう…………」

「ぱん太郎様に近づいたのはホントは──あっ──と──」

「ん?」

「いえなんでもないわ……フフッ。とにかく、ぱん太郎様のアレは信じられないぐらい大きいけど、女のココだってアレよりおっきな赤ちゃんが通る道だしね」

 そう言ってまちは股に触れながら話を続ける。

「じっくり時間かけてトロトロにほぐされて……迎える準備が整えば、案外平気なのよ♥ ぱん太郎様はちゃんと痛くないよう気遣ってくれるし、慣れるまでとことん続けてくれるし、慣れさえすればかえってあの逞しさが病みつきになっちゃうし……♥ それでいてひとりひとり別け隔てなく気持ち好くしてくれて、とびきり濃い子種を何遍でも注いでくれて……♥ ここまで言えば、皆んながぱん太郎様になびく理由がわかって来ない?」

 ごくりと鳴るあやねの喉。姉の長広舌にいつの間にか真剣に耳を傾けている自分に気付いていなかった。

「ゆきのだって入ったんだから、あなたもきっと大丈夫なはずよ。おそろしく頑丈な躰してるんだし」

 思わず相づちを打ちそうになって、「あれ?」と、あやねは我に返り、瞬間顔を真っ赤にした。

「だ、だ、誰がそんなコトするって言ったのよっ!!」

と、抗議するように猛然と腕を振り回しながら喚き散らした。

「あら、そう♥」

「ていうかお姉ぇ様、さりげなく私を誘導しようとしてない……?」

「孤立無援の妹を可哀想だと思ってるのよ」

「余計なお世話だって…………別に孤立してないし……」

「そういう意味じゃなくて……それだけじゃないわ。行人様との仲を深めるのに必要なのも、同じ一歩を踏み出す勇気ってことよ。だからね、それをぱん太郎様の御力を借りて養えばいいじゃない、ってこと」

「────は?」

 ツインテールの巫女の顔面に意味不明という文字が乱れ飛んだ。

「あなたのことをぱん太郎様に話したの。接吻ぐらいで恥ずかしがって逃げ出しちゃう情けないウブな子だって」

「ちょ、そういう個人じょーほーをホイホイと他人にバラすな!」

「恥は忍ばないと相談にならないでしょ。で、そしたらぱん太郎様が手ほどきしてもいいって言ってくれたのよ。子作り抜きでね。男女の色事に慣れれば女らしくもなるし度胸もつくだろうって」

「はあ……? そ、そんなこと言って、体よく私を騙そうとしてるんじゃないの? そうはいかないんだから!」

 自分の躰を守るように抱きながら顔を紅潮させ激しい口調で突っぱねる妹に、

「自意識過剰ねえ。ぱん太郎様はもう女なんてよりどりみどりなのよ。厭なら別にいいわ、あの方も暇じゃないし」

と、まちは呆れたように冷たく言った。

「だ、大体非常識じゃない」今まで覗き見してきた内容を思い出し、あやねの頬がさらに赤らむ。「子作り抜きったって……あいつにカラダをへ、変な風に……弄られて……ア、アレで……アレされるのは……か、変わりないんでしょ……? それって子作りとどう違うの? それが子作りじゃないの?」

「あら、あやねは実際にどうやるか知ってるの? へえ~……なんで?」

 意地悪くニヤニヤと訊ね返す姉に、あやねは頬を染めたままエヘンエヘンと誤魔化すように咳払いを繰り返した。

「と、ともかく!」と、話題を切り上げるように言葉を続ける。「アイツとそんなことしたら、どんな顔して行人様と会えばいいのよ……論外よ、論外……!」

「あなたって妙なところでちゃんと貞操観念持ってるのねえ」

「とっ──当然の話でしょっ!?」

 憤慨するあやねとは対照的に、「いいえ」と、まちは冷静に首を振った。

「考え方と捉え方の問題よ。確かに常識的に捉えればあやねの言う通りでしょうけど、だからって今までと変わらないやり方で、果たして行人様を攻略できるのかしら?」

「うっ…………それは…………」

 返答に詰まるあやね。

「行人様は気さくな方だけど、異性との普通の付き合いに恋愛感情は持ち込まない。恋多き御方ではないのよ。どんなに多くの自分を慕う女と接しようとも、恋愛は別に考えるたいぷ。堅物な上に奥手、そして超が付くほど鈍感な殿方。あなたもそれぐらいは分かってるでしょ? そういう人間には自分の方からどんどん踏み込まなければ、いつまでたっても距離は縮まらないと思うわ。すずが良い例じゃない。行人様と一年以上も同棲してて、いちおう普通の友達以上の仲良しにはなったみたいだけど……男女としては、ね…………」

「………………」

「あの子も──まあ、それは今はいいか……。

 ……ともかく、だから女を磨け、ってことなのよ」

「女を……磨く……?」

「房事を通じて男という存在(もの)を学べば、女として成長して、男に対して度胸がつくのは嘘じゃないわ。ぱん太郎様なら絶対に女を教えてくれると思う。経験を積んで確実に前進していくのと、成長せず関係も変わらずつまらない常識なんかに縛られて虚しく足踏みし続けるのと、果たしてどっちがいいのかしらね?」

「そ……そんな……わ、私だって…………」

 あやねは肩を狭め、眉根を寄せて俯いた。それは彼女が滅多に見せることのない気弱な表情であった。

「ほら、普段は妙に自信満々なくせに、いざとなるとそうなる……それじゃあダメよ、あやね。また土壇場でこらえ切れずに逃げちゃうのが関の山よ。あぁ……あやねも勇気を出しなさい。行人様を自分のモノにするためと割り切ってぱん太郎様の“指導”を受ければ、あなただってココロもカラダも成長できるに違いないわ♥ そしたら行人様も射程圏内に入れられるんじゃない?」

「だ、だから……余計な……お世話だって……!」

「でも、あなたももう十七よね。私を行き遅れなんて言えない年になってることを自覚しなくちゃいけないんじゃないの?」

「うぐぅ!!」

 強弓を射掛けられたようにグラッと後退するツインテールの巫女。

 口喧嘩となると常套句のように使われてきた言葉をそっくりそのまま返すことができたのがよほど嬉しいのか、まちはクックックッと楽しそうに声を立てた。

「周りはもうみーんな経験してるコトなのに……経験して成長してるのに……いい年して一人だけ男も知らない生娘のままってのは……格好つかないことこの上ないわねえ? ウフフフ……」

「うぐ! うぐう!」

 まちはひとしきり笑うとやや真面目な表情になってヨロヨロしている妹を見つめた。

「あなたは妙に警戒心を持ち過ぎなのよ。分からないでもないけどね。でもぱん太郎様はもう昔のような乱暴者じゃないわ。それどころか私たちのため、村のためにわざわざ身を挺して下さってるんだから。つまりお互い欠かせない共生関係じゃない。確かにあの方は昔が昔だったし、好色には違いないけれど、今の村にはむしろ合ってる存在だと思うし。暇と躰を持て余してた私たちも心躍るひと時が生まれてる。その点、行人様はちっともあぷろーちしてくれないし、暖簾に腕押しだし、正直……男としてはちょっと物足りないところがあるのよね……。ぱん太郎様は私たち全員の面倒を見てくれて、行人様の分の穴を埋めるどころかその上に山を造っちゃうぐらい凄い甲斐性の持ち主よ……♥ あの方と懇ろな関係になって後悔してる女なんて一人もいないんだから」

 どこかで聞いたような言葉だと感じたあやねは、すぐに先日のみことの台詞と重なることに気付いた。

 女として扱ってくれる方を選ぶ──みことはそう言っていた。

「……や、やけにえらく持ち上げるわね……けど、お姉ぇ様は最近、家のこと全部私に押し付けてろくすっぽ省みなくなったじゃない! 男にかまけて周囲に迷惑かけてちゃ、どんな偉そうな言葉も虚しく聞こえるだけよ!?」

「だからこれも本分だってば……。今が一番楽しい時期なのよ、ちょっとぐらい見逃してくれない? そう長くは続かないと思うから」

「え……?」

 まちは帯の結び目のすぐ下をさすりながら嬉しそうな微笑みを見せた。

「私もたぶんそろそろだから……そしたら家のこともやるわ」

「そろそろって、ひょっとして……」

「残念ながらまだハッキリしてないけど、時間の問題よ。あんなにこくまろな子種をたくさん授かってて孕まないほうがおかしいじゃない……♥ きっと梅梅の子のように元気な子供が宿る、そう考えると楽しみで仕方ないわ」

 そう言うと、呆気に捕らわれている妹を残し、「いつでもぱん太郎様の元に来なさいな♥」と、まちはごっちらのに乗って屋敷のある方角へと飛び立っていった。

 あやねは姉の姿を追ってつっかけで玄関先に出て、山吹に彩られる富嶽を眺め上げた。

 子作り──ぱん太郎が村に定着するようになってからまだ三ヶ月ほどだったが、村でこの新たな男と“励んで”いないのは、あやねが知る限りでも親世代を含めてもうわずかしか残っていなかった。そのわずかな人数も耳に入っていないだけかもしれない。皆、ぱん太郎と「関係」を持って次々と孕み、孕むだけでなく彼に夢中になってさえいるのだ。あやねの母であるちづる、海龍様を鎮守するやしろですらそうだった。ちづるは以前からよく友人達と連れ立って温泉へ憩いに行くが、どこからか流れてきた話によれば、最近では月見亭へ向かうその一行の中にぱん太郎が混じっているということだ。昔は一泊もすれば帰って来ていたものが、今では日数が延びてきている理由はそれかと、あやねは嘆息したものだ。別に何日延びようが困ることはないが……。月見亭で男女水入らずにどれだけ羽を伸ばしているのか、少なくとも慾望の限りを尽くした饗宴が繰り広げられているのは間違いなさそうであった。帰ってきた時のちづるは決まってやけに機嫌が良く物腰も軽やかで溌剌としていた。

 ぱん太郎はそれに限らず他の女たちともよく月見亭を利用しているようで、誰しもが一度は彼との小旅行を経験しているらしい。

 まちと同じくちづるとやしろも身籠ったきざしはまだ来ていないようであったが、やはり時間の問題だろうことは容易に想像できた。

 姉も、母も、曾祖母も、そして村のほぼすべての女も。

 たった一人の男と肉体関係を結び、皆が皆その男の種をたっぷりと注がれて、その男の子供を産もうとしている。

 一人だけ除外していた友人の姿があやねの脳裏に浮かび、(もしかしてあの子まで──)と想像して、犯すべからざる禁忌に触れたような薄ら寒さを覚えて激しく首を振った。

 あやねの知らない所で密かに、その青リボンの少女が他の娘と同じく、ぱん太郎と裸同士になって情熱的に肌を重ね合い、逞しい男根でからだの奥の奥まで責め溶かされながら甘美な喘ぎ声を上げ、あの長々と続く膣内射精の洗礼を受けている──

 一緒に暮らす男子を差し置いて──

(まさか…………)

 絶対にありえないとブンブンと何度も首を横に振った。

(そんなこと行人様が許すはずないわ。それにあの子は子作りが理解できないぐらいのねんねなんだし……さすがに飛躍しすぎよね)

と考え直す。それよりも自分のことだ。

「私は…………私こそが行人様の花嫁になって、幸せな家庭を築いて……子供も行人様と……作るんだからね…………」

 青袴の巫女少女は姉の姿が消えた空を仰ぎながら誰に言うともなしに喋って踵を返し、家の中に戻ろうとしたが、二三歩してわずかに振り向き、

「…………女に…………なれ、る……………………」

 俯き気味に口篭るようにそう呟いた。

 

 

 

第16話に続く)

 

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最終更新:2023年10月31日 13:11