0275:ある中学生男子の考察





やあ。こんにちは。
いや、そろそろ「こんばんは」かな。
俺の名は乾貞治。
青春学園中等部3年11組、テニス部所属の普通の中学生だ。
何の因果か突然、最後の一人になるまで殺し合うというゲーム――――まさしく「バトル・ロワイアル」だな――――に巻き込まれている最中だ。
ただの中学生である自分がこのようなゲームに巻き込まれる確率は、開始から丸一日近く経とうとしている今でもまだ計算しきれていない。
何せ答えを出すためのデータが足りなさすぎるのだ。
香川県――――ここが本当の日本でないため、香川県(仮)としておこうか――――瀬戸大橋のすぐ側。
古びたビルの入り口に、俺は腰掛けている。
支給された時計を見ると、もう夕方を過ぎる頃だ。
元いた東京都とは違い灯りに乏しいこの場所で、俺が何をしているのかというと。

「だ、大丈夫か?乾」

ビルの中、入り口付近に待機している鵺野先生がそっと顔を覗かせる。
「大丈夫ですから、鵺野先生は中にいてください。
そうやって出てきてしまったら、近づいてくる人間がいても警戒してしまうかもしれないじゃないですか」
「だが……」
心配そうな顔で鵺野先生が言い淀む。
「やっぱり、子供にこんな危険な役をさせるのは……」
鵺野先生はさっきからこの調子で5分に1回は顔を覗かせる。
確かにこの状況下で、人と接触し仲間になってくれるように交渉するという役目は危険極まりないものだ。
だが、自分と鵺野先生と両津さんというグループの中で、この役に適してるのはどう考えても自分なのだ。
それについては再考の余地はない。
「それについては先程説明したとおりです……大丈夫です。だからもうしばらく中にいて下さい」
説得力の欠片もないな、と自分でも思う。
どういったデータと確率を持って大丈夫と言えるのか、相手を納得させられるほどの根拠は全くない。
だが鵺野先生は心配そうな顔を保ちながらも大人しくビルの中に戻ってくれた。
それを見送り、乾はまた思考に耽る。

(まずは――――人との接触。可能ならば仲間となり共に脱出を目指す。脱出を目指すにあたり、問題点がいくつかあるな)
薄暗い中、眼を凝らし、乾は手帳に自分の考えを書き綴る。

脱出についての問題点、其の一。首輪。
首輪爆発の条件は、

①禁止エリアに踏み込む
②無理に外そうとする
③24時間1人の死者も出ない

「……ん?」
何かが引っかかる。
首輪爆発の条件。
この首輪の中に爆発物が仕掛けられているのは、あの大広間で大男が殺された事から判断しても間違いないだろう。
なぜ、あの大男の首輪は爆発したのか。
あの大男は禁止エリアに留まったわけでも、無理に外そうとしたわけでもない。
当然③の条件は論外だ。
ならば――――答えは一つ。
辿り着いた推論に呼応するかのように乾のメガネがきらりと光る。
「爆発させた、ということか……」
主催者が、主催者の意思で。
それはつまり、主催者は彼らの意思でいつでもこの首輪を爆発させることが出来る可能性が高いということだ。
もしそうならば……それは『いつ』だ。
考えられる状況は、参加者達が主催者の意に背いたとき――――例えば、脱出が可能になったときなどだろう。
ならば、主催者達はどうやってその事実を把握できるのか。
「首輪、か」
盗聴器や、そういった参加者の動向を主催者に伝える手段が首輪に搭載されている可能性は高い。
そっと自分の首に嵌められている金属物を撫でるが、指先に伝わる感覚からは継ぎ目も凹凸も見つけられない。
どうやってこの小さな薄いモノの中に爆発物や盗聴器の類を組み込んでいるのだろう。
もしかして異世界の文明の産物なのだろうか。
そうだとしたら自分の持っている知識がどこまで通用するのか………
あくまでも推論に過ぎないが、とにもかくにも、これからは発言にも注意した方がいいのかもしれない。
(やっかいなことになったな……)
表面上は無表情に、乾はため息をついた。
わずかにひそめた眉はそのままに、更に乾は手を動かし続ける。
先程記した首輪爆発の条件の下に、とりあえず今わかる事実を書き連ねる。

①から、参加者達の居場所を主催者側が把握していることがわかる。
②から、首輪にある程度以上の衝撃を与えると爆発する仕掛けになっていることがわかる。
③から、参加者達の生死を主催者側が把握していることがわかる……これは、「放送」からもわかることだが。

続けてそれらについての自分が感じた疑問を更に書き付けていく。

①について。
主催者側はどうやって参加者達の居場所を把握しているのか。

考えられるのは、首輪に発信器のようなモノが組み込まれているという事。
その発信器が参加者の生死を判断し、更には居場所も判断しているのだろう。
そのような働きをする機械とはどんなモノなのだろう。
そして……参加者の居場所を把握するメリットは何か。

②について。
首輪は、どの程度の衝撃を与えると爆発するのか。
無理に外そうとすれば爆発するというのなら、ただの中学生である自分の力でも爆発させることができるということか。
つまりは……自分にも、人を殺せる手段があるということか。
人を殺す気などさらさらないが、あらゆる可能性を考え対策を練っておくのは性格なのだ。
今更どうしようもない。
思考を元に戻そう。
首輪に衝撃を与えると爆発するとされているが――――衝撃以外の要因ではどうだろうか。
手っ取り早いところで、水。
自分の知る限りでは機械というモノは水に弱い。
「……それはないな」
何度か自分の首輪をそっと触って確かめてみたが、この首輪には継ぎ目や凹凸が感じ取れない。
継ぎ目がなければ水が中に入り込む余地はない。
ならば、氷ではどうだろうか。
人の首に巻かれた首輪を凍らせることができれば、壊すことは可能だろうか。
試してみる価値はあるかもしれない。

③について。
脱出を目指すにあたり、非常なやっかいな枷だ。
首輪を外そうにも、出口を探そうにも、24時間という制限時間の中で行わなければならない。
首輪を爆発させずに外せるのであれば、それをカモフラージュに使うことも出来るが……

脳内で考え得る限りの状況と可能性を組み立て、それらを手帳に綴っていく。
少しずり下がったメガネの位置を直し、乾は思考を先へと進める。

脱出についての問題点、其の二。出口。
一言に「脱出」と言うが、『どこから』脱出するのか。
この奇妙な世界から出るための扉はあるのか。あるのならそれはどこに存在するのか。ないのならどうやってここから外に出るのか。
そして――――この世界から出ると、どこに辿り着くのか。
あの大広間なのだろうか。
それとも主催者達の目前か。
少なくとも……元いた世界にすんなりと帰れる可能性は低いだろう。
高く見積もっても、5%くらいの確率か。
もし――――脱出が現実になり、主催者達と戦うようなことになったら自分はどうするべきか。
戦闘において役に立たないだろう事は明らかだ。
ならばせめて足手まといにならないように、なんらかの対策は立てておくべきだろう。
いや。その前に戦う力を持った人物を捜し出すのが先決だ。
そしてその人物と協力体制を作らなくてはならない。
一般人の自分には、主催者達と戦うにはどの程度の戦闘力が必要なのか想像も付かない。
ヤムチャは「俺には無理だ」と言っていた。
自分と比べれば遙かに力を持つヤムチャでもそう言うのであれば、戦える人物を1人ではなく何人か探し出さなくてはならないだろう。
それも2,3人ではなく、できればもっと沢山の人を。
人海戦術というのは、使いどころさえ正確なら有効な策なはずのだ。

脱出についての問題点、其の三。越前。
人を集め、戦力が整い、脱出が可能となった時にその場に越前がいなければ、自分にとってはその状況もあまり有り難くないものになってしまう。
越前は必ず共に連れ帰らなくてはいけないのだ。
青学が全国制覇を為すためにも。
これからの青学テニス部のためにも。
一体……越前はどこにいるのだろう。
無事なのだろうか…………生きているのだろうか。
昼の放送では、越前の名は――――ついでに跡部の名も――――呼ばれなかった。
だがもうあと数十分後となった午後6時の放送で彼の名が呼ばれない保証はないのだ。
隠しきれない不安に、動き続けていた乾の手が止まる。
(やはり今すぐ越前を探しに行くべきか……?だが、むやみに動いてはすれ違いになる可能性もある。
となるとやはり東京を目指すべきか。しかし……)

――――――――――――ザッ

微かにした物音に、乾はハッと顔を上げた。
立ち上がり、周囲を見回す。
日が落ち、「薄暗い」から「暗い」へと移りつつある前方から、誰かが歩み寄ってくるのがわかる。
次第にはっきりとしてくるシルエットから、近づいてくる人物の背が低いことが視認できた。
(越前だとよかったんだが……)
どうやら違うらしい。
乾から3メートル程の距離を取って歩みを止めた少年は、しっかりとした声で乾に話しかけた。
「俺の名はダイ。あなたは?」
油断なく乾を見つめ、そう名乗る少年には見覚えがある。
確か、あの大広間でバーンという主催者の1人に飛びかかっていった少年。
これはどうやら。
「大当たり……ってことかな」
メガネを中指で持ち上げ位置を直し、乾はにこやかに――――本人はあくまで爽やかなつもりで、口を開いた。
「やあ。はじめまして、だね。ダイ君。俺の名は乾貞治。もちろんこのゲームには乗っていないよ」
「本当に?……後ろの建物にいる人たちは?」
隠れているはずの両津と鵺野の存在を察知されたことに驚きを感じつつ、乾は笑顔のまま言葉を続けた。
「ああ。その人達は俺の仲間なんだ。俺達はここから脱出するために仲間を捜していたんだが、状況が状況だからね。
少し警戒させてもらっているんだ。もちろんゲームには乗っていない。
君に会えたのは本当に幸運だったよ。もちろん君もゲームには乗っていないのだろう?」
「……どうしてそうわかる?」
「だって、君はあの大広間で主催者の1人に飛びかかっていったじゃないか。つまりはアイツらと敵対しているんだろう?」
「そうだけど……」
困惑した様子のダイに、乾は更に言葉を重ねる。
「しかも、君はあの時『皆はどうした?!』って叫んだだろう?
そのことから、君が仲間を気にかける程度には優しさを持ち合わせてると判断したんだ。
だから俺は、君がこのゲームには乗らず主催者達を倒すために動くんじゃないかと思っているんだが……俺の判断は間違っているかい?」
淡々と、それでも熱を含む乾の言葉に心を動かされたのか、ダイはようやく肩の力を抜き笑顔を見せる。
互いに歩み寄り改めて自己紹介をしたところで、事の成り行きを見守っていた両津と鵺野がビルから走り出てきた。
「乾、その子は……!」
驚きの声を上げる両津も、目前の少年を思い出したのだろう。
隣に立つぬ~べ~も警戒心を解いたようだ。
「とりあえず情報交換をしないか?君は1人なのかい?」
「……ううん。他の人達は別の場所にいる。あなた達がここに来たのが見えたから俺が様子を見に来たんだ」
少しの戸惑いの後、ダイはそう3人に告げた。
恐らく、自分達に仲間の存在を教えることを迷ったのだ。
だがダイは迷いながらも教えてくれた。
自分達を信用することにしてくれたのだろう。
「君の仲間のところに案内してくれるかい?もし、俺達が信用できないのなら案内はせずにここで話し合っても構わない。君に任せるよ」
「……信用するよ」
再び迷った後で、ダイはそう言い切った。
「実は俺達、あなた達があの橋を渡ってくるのをずっと見てたんだ。
その時はまだ敵か味方かわからなかったから様子を見ることにして……
太公望が味方を送ってくれたのかとも思ったんだけど何の連絡もなかったし。
でもしばらくしてもあなた達が動く気配がなかったから、思い切って俺がここに来たんだ……行こう。みんなのところに案内するよ」
「ああ……ありがとう。信じてくれて。両津さんも鵺野先生も異論はありませんか?」
「わしはない。多くの人と接触して仲間を増やすのがわし達の目的だからな。鵺野先生、あんたは?」
「俺もないです……それに、一緒に行けばこの子を守ってやれる。俺は二度と子供を殺させはしない……!!」
手袋に覆われた右手を強く握りしめ、ぬ~べ~はギリギリと奥歯を噛みしめた。
ダイがバーンという主催者に一目置かれていることは知っている。
だが、この子はまだ子供だ。
自分が守れなかった郷子や、元の世界で心配しているだろう広や美樹や克也達と同じ子供なのだ。
「必ず、君を守って……主催者達を殺してやる……!!」
「鵺野先生……」
かける言葉が見つからず、乾も両津も視線だけをぬ~べ~に送る。
自分の最愛の妻を、大切な生徒を殺された彼の痛みは自分の想像を絶するものなのだろう。
3人の雰囲気に何かを感じ取ったのか、ダイも困惑しながらもぬ~べ~を見守っている。
気まずい沈黙が、いい加減暗くなってしまった辺りに立ちこめる。

「行きましょう」

それでも乾はあえて口を開いた。
「こういう状況になってしまった以上、俺は俺が出来ることをするだけです。
それは両津さんも鵺野先生もダイ君も同じでしょう?ならば先へ進みましょう」
「そうだな!行こう、鵺野先生!わし達は死んでいった者達の分までやるべき事をやらなきゃいかん。
今わし達がやるべき事は一刻も早くこのゲームを壊すことだろう」
乾の言葉に、両津も力強く賛同する。
悲しみも、怒りも、戸惑いも、恐怖もある。
だが自分のやるべき事を見失ってはならない。
今自分達がやるべき事は――――マイナスの感情をプラスに変えて『ゲーム破壊』へ向けて進むことなのだ。
「両津さん……乾……」
自分と両津の言葉を、鵺野先生がどう受け止めたのかはわからない。
だが先程よりは明らかに落ち着いた様子の鵺野先生は、ダイに歩み寄るとその頭をくしゃりと撫でた。
「君に一つ言っておく。俺はもう、子供を絶対に死なせはしない。だから俺は全力で君を守るよ」
突然のぬ~べ~の宣言に戸惑った様にダイが乾へ視線を向ける。
それに笑顔で頷いて見せた乾は、再度口を開いた。


「行きましょう……もう誰も死なせないために」

その言葉を合図に、4人は歩き出す。
彼らの行く先は、彼らの求める希望かそれとも絶望か――――――――

時刻はもう間もなく午後6時を迎えようとしている。





【初日香川県瀬戸大橋@夕方】
チーム【公務員+α】
【共通思考】1、ダイについて行く
      2、仲間を増やす。
      3、三日目の朝には兵庫県へ戻る。ダメなら琵琶湖へ。

【両津勘吉@こち亀】
【状態】健康
【装備】マグナムリボルバー(残弾50)
【道具】支給品一式(一食分の水、食料を消費)
【思考】1、ダイの仲間達に合い、これからのことを話し合う
    2、伊達、玉藻と合流
    3、主催者を倒す。

【乾貞治@テニスの王子様】
【状態】健康
【装備】コルトローマンMKⅢ@CITY HUNTER(ただし照準はメチャクチャ)(残弾30)
【道具】支給品一式(ただし一食分の水、食料を消費。半日分をヤムチャに譲る)、手帳
    弾丸各種(マグナムリボルバーの分は両津に渡してある)
【思考】1、ダイの仲間達に会い、これからのことを話し合う
    2、越前、跡部と合流し、脱出を目指す。
    3、脱出、首輪について考察中

【鵺野鳴介@地獄先生ぬ~べ~】
【状態】健康
【装備】御鬼輪@地獄先生ぬ~べ~
【道具】支給品一式(水を7分の1消費)
【思考】1、ダイを守る
    2、武器を探し玉藻、伊達と合流。
    3、戦闘になった場合、相手を殺す。
    4、マーダーを全員殺す(主催者を含む)。
    ※(乾と両津の言葉により、今は落ち着いています)

【ダイ@ダイの大冒険】
【状態】健康、MP微消費
【装備】出刃包丁
【道具】トランシーバー
【思考】1、両津、乾、鵺野を公主とターちゃんのいる場所へ案内する
    2、四国を死守
    3、公主を守る
    4、ポップ、マァムを探す
※ダイの荷物一式、公主の荷物一式、ペガサスの聖衣@聖闘士星矢は公主とターちゃんのいる場所へ置いてきています。
※太公望からの伝言は、ターちゃんには伝えました。

時系列順で読む


投下順で読む


245:日が暮れて 両津勘吉 310:出発
245:日が暮れて 乾貞治 310:出発
245:日が暮れて 鵺野鳴介 310:出発
202:小さな成果と次なる努力 ダイ 310:出発

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年04月20日 09:21