マリア様の庭に集う乙女たちが、今日も、天使のような無垢な笑顔で、
背の高い門をくぐり抜けて行く。汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。
スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻らせないように、
ゆっくりと歩くのが、ここでのたしなみ。私立リリアン女学院。ここは、乙女の園。

ごきげんよう。あら、「タイが曲がっていてよ」
身だしなみはきちんとね。マリア様がみていらっしゃるわよ。
あら? どうしたの? そんなにそわそわしちゃって。
スカーフを直されたくらいで、そんなにそわそわしなくたっていいのに。
まったく…、あなたって、どうしてそう落ち着きがないのかしら。
ほら、目を閉じて。深呼吸してリラックスなさい。

深呼吸をしながら、私の声に耳を傾けるのよ。これから、あなたに魔法をかけてあげるから。
あら、そんなもの使えるわけないと思っていて? ふふ、使えるわよ。私を誰だと思っているの?
きっとうまくいくわ。あなたは魔法にかかりやすい性格だし、何よりこの私がやるんですもの。
さあ、目を閉じなさい。瞼のカーテンが、あなたを、優しい闇で包みこんでくれるわ。
あなたは目を閉じる。真っ暗。何も見えない。私の声以外は、何も聞こえない。

ええと、ここはどこだっけ? あなたは、何をしていたんだっけ?
何もわからない。思い出せない。頭の中に、霧がかかっっているみたい。

思考の焦点が合わない。頭がボーっとして、まともに物事を考えることが出来ない。
もう考えるのがめんどくさいわね。そうよ、何も考えなくていいわ。
あなたは妹なのだから、姉である私の言うことを聴いていればいいの。
何かを考える必要なんてない。私の声だけを聴いていればいい。
眠くなったら、そのまま眠ってしまってもいい。
例えそのまま眠ってしまっても、あなたはきっと、素敵な夢を見ることが出来るはずよ。
そして、心地よく目覚めることが出来ると思うわ。だから、安心して私の声に溺れなさい。

ああ、とてもけだるいわね。アンニュイな気分。それに、とっても眠い。
まるで、退屈な授業中みたい。眠くて、眠くて、仕方がない。ふわふわ、ふわふわ、夢うつつの状態。
このまま、まどろみの中へ落ちてしまいましょう。そうしましょう。
あなたは、どんどんまどろんでいく。頭の中の霧はどんどん濃くなって、もう何も考えられない。
あなたは考えることを放棄して、まどろみの中へと落ちていく。落ちていく。
ほら、睡魔が、眠りの国へと手招きしてるわ。
「おいで、おいで。とても気持ちのいい眠りの国へおいで」って言ってる。
そうね。せっかくだから、招待に預かりましょう。
体中から、力が抜けていく。無気力な状態になっているのがわかる。やる気がない。
もう何もしたくない。何もかもが、どうでもいい。私の声を聴く事以外は、もうどうでもいい。
だから、このまま無気力な感覚に身を任せて、眠りの国へ落ちてしまいましょう。
体から力が抜けていく。スーッと力が抜けていく。
骨がなくなってしまったみたい。ふにゃふにゃして力が入らない。もう動けない。

ほら、両足が「疲れたから休ませて」って言ってる。
そうね、いつも、あなたの体を支えるために頑張ってるんですものね。
いいわ。ゆっくり眠って、疲れを癒しなさい。
つま先が眠る、足首も眠る、ふくらはぎが眠る、腿も眠る。
両脚が、スーっと眠りの国へ落ちていく。おやすみ…。おやすみ…。おやすみ…。
眠ってしまった両脚を見て、両腕も「もう眠りたいよー」って言ってる。
そうよね。休ませてあげなくてはね。右手が眠る。右腕が眠る。右肩が眠る。
スーッと、眠りの国へ落ちていく。おやすみ…。おやすみ…。おやすみ…。
腰と背中も疲れているみたいね。
このままでは、くたびれて猫背になってしまうかもしれないわ。
早く休ませてあげましょう。腰が眠る。背中が眠る。
スーッと眠りの国へ落ちていく。おやすみ…。おやすみ…。おやすみ…。
お腹も胸も疲れたわよね。ゆっくりと、休ませてあげましょう。
お腹と胸が、ふんわりとした感覚に包まれて、深い眠りへと落ちていく。
お腹が眠る。胸が眠る。おやすみ…。おやすみ…。おやすみ…。
頭も疲れたわね。ほら、やる気がない。もう、何もしたくない。
どんどん眠りの国へ落ちていく。おやすみ…。おやすみ…。おやすみ…。
両脚が眠っている。眠っている。眠っている。
スゥー…、スゥー…スゥー…、スゥー…。気持ちよさそうに眠っている。
両腕が眠っている。眠っている。眠っている。
スゥー…、スゥー…スゥー…、スゥー…。幸せそうに眠っている。
全身が眠っている。眠っている。眠っている。
スゥー…、スゥー…スゥー…、スゥー…。安らかに眠っている。
血圧や心拍数も低下して、深いところへ落ちている。
もう、体に力が入らない。動けない。動かない。動きたくない。
まるで、死体役の人みたい。ほら、あなたはこんなにもリラックスしている。
だから、私の言葉が、無意識の中に、すーっと染み渡っていく。
そして、私の言葉は、睡眠薬のように作用しながら、あなたの無意識に影響を及ぼし続ける。
あなたは、私の思い通りの状態になる。そう、あなたは、私の操り人形。
あなたは、私の操るままになっていればいいの。その方が気持ちよくなれるわ。
ね? そうしましょうよ。お姉さまの言うことは素直に聴くべきだわ。
あなたは妹なのだから、私の言うことに従うべきよね。そうよね。
そのほうがいいわよね。ふふ、だんだん魔法にかかってきたようね。
言ったでしょう? あなたは魔法にかかりやすい性格だって。
私は姉なのだから、これくらいのことは出来て当然よ。

羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹
私が羊を数えるたびに、あなたの眠りは、どんどん深くなっていく。
羊が4匹、羊が5匹、羊が6匹
羊が、あなたの意識を、優しく包んでくれている。
羊が7匹、羊が8匹、羊が9匹
ふわふわ、ふかふかの羊。羊のぬくもりが、全身に伝わっているのを感じる。
羊が10匹、羊が11匹、羊が12匹
ふわふわ、ふかふか。全身が温かくて、とてもいい気持ち。
羊が13匹、羊が14匹、羊が15匹
あなたの意識は、羊の温もりに包まれながら、とても深い眠りへと落ちている。
羊が16匹、羊が17匹、羊が18匹
ぽかぽか、ぽかぽか、温かくて、いい気持ち。
羊が…あら、なんだか私も眠くなってきたみたいだわ。
悪いけど、少し眠らせてちょうだいね。おやすみ。
スゥー…、スゥー…、スゥー…、スゥー…、スゥー…、スゥー…


うーん…、うたた寝してしまったわ。えーっと、羊が……何匹だったかしら? 
どうしましょう。忘れてしまったみたい。仕方ないわ、最初から数えなおしましょう。
羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹。
ふわふわ、ふわふわ。とびっきりの浮遊感に包まれている。
羊が4匹、羊が5匹、羊が6匹。
温かい。温かい。あなたの精神は、羊の温もりに溶かされ始める。
羊が7匹、羊が8匹、羊が9匹。
精神が、スープのようにどろどろに溶けて、とても深い場所へと落ちていく。
羊が10匹、羊が11匹、羊が12匹。
ぽたっ、ぽたっ。精神が雫となって、ゆっくりゆっくり、落ちている。
羊が13匹、羊が14匹、羊が15匹。
ぽたっ、ぽたっ。精神が溶けて落ちている。落ちている。
羊が16匹、羊が17匹、羊が18匹。
落ちる。落ちる。精神がこぼれていくたびに、あなたは自分を忘れていく。
羊が19匹、羊が20匹、羊が21匹。
ぽたっ、ぽたっ。どんどん、どんどん零れていく。
羊が22匹、羊が23匹、羊が24匹。
精神が少なくなってきたから、あなたはますます私の思い通りになる。
羊が25匹、羊が26匹、羊が27匹。
ほら、あなたはもう私の言うとおりにしかならない。
羊が28匹、羊が29匹、羊が30匹。

30匹の羊の温もりが、あなたを優しく包みこんでいる。温かい。ぽかぽか、ぽかぽか。
温もりが皮膚に伝わってくる。とても夢心地。ふわふわ、ふかふか。
雲の上に浮かんでいるみたい。とても気持ちいい。
これだけの純毛があれば、暖くて、ふわふわなマフラーが、たくさん編めるでしょうね。
そうだわ、今からあなたのために、マフラーを編んであげる。
作り目をして…。1目、2目、3目、4目。
好きな人のことを考えながら編み物。とても幸せで、心休まるひと時よね。
二本の編み針が、遊ぶように、どんどん毛糸を編んでいく。編んでいく。編んでいく。
ほら、できた。ガーター編みのマフラーよ。
ウール100%だし、私の真心もこもっているから、きっと暖かいわよ。
首にかけてあげるわね。ふわふわ、ふかふか。首と肩が暖かい。
温かい。温かい。首と肩がとっても温かい。温かくて、いい気持ち。
手袋も作ってあげるわね。編み編み、編み編み。
ほら、できたわ。両手が温かい。温かい。温かい。
右手と左手が温かい。温かい。温かくて気持ちがいい。
靴下も作ってあげる。編み編み、編み編み。
ほら、できた。両足が暖かい。両足が暖かい。両足が暖かい。
右足と左足の温度が上昇している。温かい。とっても温かい。
セーターも作ってあげる。編み編み、編み編み。編み編み、編み編み。
ほら、完成よ。上半身が温かい。温かい。温かい。上半身がぬくぬくしてとっても温かい。
誰かに抱きしめられているみたい。温かい。温かくてとて心地いい。
あなたは、とてもくつろいでいる。幸せ。体がぽかぽかしてとても幸せな気分。
ふわふわ、ふかふか、ぽかぽか。気持ちいい状態のまま眠りに落ちていく。落ちていく。落ちていく。
お休みなさい。私のかわいい妹。


あら? 近くに何かがいるわ。どうやら31匹目の羊のようね。
きっと、みんなからはぐれて、迷子になっていたのでしょうね。
でもこの羊、なんだか様子が変だわ。どうしたのかしら。

わおーん!

あらあら、これは大変。31匹目の羊は、羊の皮を被った狼だったなんて。
羊たちもびっくり仰天。ほら、一斉に逃げ出していくわ。
羊が30匹、羊が25匹
次々と逃げていく羊たち。
羊が20匹、羊が15匹
ああ、とうとう残りの羊は、10匹だけになってしまったわ。
羊がいなくなると、どうなってしまうのかしら?
そう、羊が0匹になると、魔法が解けて、あなたは、心地よく目を覚ますのよ
羊が10匹、羊が9匹、羊が8匹。
残りの羊はあとわずか。
羊が7匹、羊が6匹、羊が5匹
だんだん、意識がはっきりとしてくる。
羊が4匹、羊が3匹。
そろそろ魔法が解けるわよ。
羊が2匹、羊が1匹。
準備はよくって?
羊が0匹。

ごきげんよう。あらあら、魔法は解けてしまったみたいね。
せっかくふわふわして気持ちよかったのにね。残念?
でも、次はもっと深く落ちていけるわ。ほら、もう一度魔法をかけてあげる。おやすみ。

瞼を閉じる。真っ暗。
ええと、ここは…どこだったかしら? わからないわね。
でも、さっきよりも、深く、深く落ちているのが実感できるでしょう?
あなたは、さっきよりも、深く、深く魔法にかかっているのよ。
なんだか、時間の流れが、ゆっくりに感じられる。一分間が90秒くらい。
もしかしたら、120秒かもしれないわね。
チクタクチクタクチクタク。
ほら、心の時計の針が、ゆっくり、ゆっくり時を刻んでいるのがわかる。
チク、タク、チク、タク、チク、タク。
どんどん、時間の流れがゆっくりになっている。
チク、、タク、、チク、、タク、、チク、、タク、、。
意識が、ゆっくりになっている。
チク…タク…チク…タク…チク…タク…。
何もかもが、遅く感じられる。
チク…、タク…、チク…、タク…、チク…、タク。
ゆっくり、ゆっくり……。あなたは、スローモーションに落ちていく。
チク…、、タク…、、チク…、、タク…、、チク…、、タク…、、。
ゆったりとした感覚が、全身に広がっているのがわかる。
チク……タク……チク……タク……チク……タク……
時が、止まってしまいそう。
チク………タク…………チク………。
時計の針が、止まった。時が、止まったのを感じる。とても、不思議な感覚。
目が回る。ぐるぐる、ぐるぐる。まわる。まわる。ぐるぐる回る
体が回っている。ぐるぐる、ぐるぐる。遊園地のコーヒーカップみたい。
景色が回っている。ぐるぐる、ぐるぐる。あなたは、心地よい眩暈を起こして、回りながら落ちていく。
地球が回っている。ぐるぐる、ぐるぐる、23.4度傾きながら回っている。
美しいイメージが、次から次へとわいてくる。
色とりどりの夢が、頭の中で、ぐるぐる、ぐるぐる回っている。
万華鏡みたいに形を変えて、ぐるぐる、ぐるぐる回っている
バラの雨が、降り注いでくる。一面真っ赤。花吹雪。ひらひら、ひらひら、舞い落ちてくる。
赤い花びらが、体に降り積もる。体に染み渡って、あなたを、真っ赤に染めていく。
気持ちいい。心と体に、さわやかな感覚が広がる。晴れた日の空のように、とってもさわやか。
体の中に、風が吹いているみたい。心が開放されて、とても心地いい。
私の声が、あなたの心と共鳴して、心地よく脳に響いている。
私の声が、直接脳に届いて、とても幸せな気持ち。もう他には何もいらない。
すべての細胞が幸せを感じている。
私の声に脳が揺さぶられて、体のあちこちが、すばらしい感覚に襲われている。
体が、大きくなったり、小さくなったり。世界が、広くなったり、狭くなったり。
ゆらゆら、ゆらゆら。なにもかもが揺らめいて歪んでいる。上下左右の区別がつかない。
まるで、異次元にいるみたい。あらゆる感覚が狂って、訳のわからない状態。
でも、それがとても気持ちいい。重力がなくなっていく。軽い。軽い。体が軽い。
ふわふわ、ふわふわ。意識が体から切り離されていく。空を飛んでいるみたい。
何もかもから開放されて、とっても気持ちいい。あなたはとっても自由な存在。
飛んでいる。異次元の中を自由に飛び回っている。意識がどんどん加速していく。
時速15キロ、自転車くらいの速さ。
時速30キロ、今度はミニバイク。
どんどん加速していく。
時速50キロ、60キロ。
景色が流れていく。目に映るものがどんどん後ろへと流れていく。
時速70キロ、80キロ。
高速道路。
時速90キロ、100キロ。
ジェットコースターようにビュンビュン加速している。景色がグーッと迫ってくる。
あらゆる感覚が気持ちよく迫ってくる。幻想的な世界に飲み込まれて、とても気持ちいい。

ほら、心の中だけでもいいし、声に出してもいいから、「お姉さま」と呼んでごらんなさい。
「お姉さま」
聴こえなーい。もう一度。
「お姉さま」
はい。私は、あなたのお姉さま。そして、あなたは、私のかわいい妹。
何度も何度も繰り返しなさい。「お姉さま」という言葉は、世界で一番素敵な言葉。
繰り返していると、とても幸せな気持ちになれるわ。
「お姉様、お姉様」
ああ、なんて甘美な響きなんでしょうね。もっとこの甘い響きに溺れてしまいましょう。
「お姉様、お姉様」
優しいお姉様。愛しいお姉様。大好きなお姉様。そう、私があなたのお姉さまよ。
包み込んで守るのが姉、妹は支え。あなたはただ、そばにいてくれればいいの。

そして、「お姉さま」を繰り返していると、体がだんだん熱くなってくる。
なんだか、体が熱っぽくなってくる。ほら、へその下辺りが、熱くなっているのを感じるでしょう?
体の奥が、マグマみたいにどろどろに溶けている。熱い。熱い。体が、どうしようもなく火照っている。
「お姉さま」と繰り返すたびに、体はどんどん熱くなる。
でも、あなたは、「お姉様」と呼ぶのをやめることが出来ない。
熱にうなされながらも、「お姉様」と繰り返してしまう。
お姉様、お姉様。私への想いはどんどん募っていく。あなたは私が大好き。
ほら、へその下辺りが、恥ずかしいくらいに熱くなっている。でも、お姉さまと呼ばずにはいられない。
「お姉様、お姉様」
なんだか、熱の中心が、キラキラ光っているように感じられる。
キラキラ、キラキラ。何かが、光っている。それは星。あなたの内なる宇宙で、星が輝いている。
内なる宇宙で、星が生まれている。キラキラ、キラキラ。一つ、二つ、三つ。
体の奥で、たくさんの星が生まれている。その星は、あなたの恋心。
あなたが私を想えば想うほど、体は熱くなり、星も増えていく。
大好き、大好き。あなたは私が大好き。私も、あなたが大好きよ。
ほら、心も体も、たまらない感覚に包まれている。気持ちいい。気持ちいい。
でも、私の声は睡眠薬だから、あなたは、興奮しながらも、どんどん深いところへと落ちていく。
どんなに興奮しても、私の声が、あなたを深い眠りへといざなう。

あなたは渇望する。
「お姉様の愛が欲しい」
あなたは求める。
「お姉様の愛が欲しい」
狂おしく求める。
「お姉様の愛が欲しい」「欲しい」「欲しい」
もっと求めなさい。私があなたを愛してあげる。
例え、深い闇にはぐれて迷い込んでも、私ならば、間違わずにあなたのことを見つけられるわ。
ほら、あなたの心に、私の気持ちを注ぎ込んであげる。胸に意識を集中してごらんなさい。
胸が温かい。切ない。どきどき、どきどき。あなたの心と私の心が重なる。
混ざり合っている。コーヒーとミルクのように、渦になって、ひとつになっている。
ドーナッツみたいに、ぽっかりと開いていた心の穴も、ふさがっていく。埋められていく。
心が満たされて、とても気持ちいい。私の恋心も、星となってあなたの体内で輝く。
キラキラ、キラキラ。私の思いも合わさったから、星の数は倍になっている。
ほら、へその下が熱い。さっきの倍、熱くなっている。熱い。熱い。体の芯が、とろとろに溶けている。
火傷してしまいそう。星の光も、倍になっている。眩しい。眩しい。
目を閉じているのに、とっても眩しい。

やがて、飽和して行き場をなくした星たちが、背中を通って、頭へと流れ込んでくる。
キラキラ、キラキラ。流れ星となって、へその下辺りから、頭へと上昇してくる。
眩しい。体中が光に包まれて、とても気持ちいい。
どんどん星が流れ込んでくる。一つ、二つ、三つ。たくさんの流れ星。
キラキラ、キラキラ。あなたと私の心が、流星群となって、あなたの頭に押し寄せてくる。
心が重なっているから、気持ちよさも倍になっている。気持ちいい、気持ちいい。
頭のてっぺんに、むずがゆさを感じる。背中に電流が走る。ゾクゾク、ゾクゾク。
頭の中にたまった星が、弾けてしまいそう。ほら、もう弾ける寸前。
さあ、もうすぐよ。5、4、3、2、1
弾ける。弾ける。打ち上げ花火のように、高く舞い上がって弾ける。
脳の奥がしびれて、たまらなく気持ちいい。全身にその波が広がって、体中がしびれている。
気持ちいい。気持ちいい。ああ、もうどうにかなってしまいそう。頭の中が真っ白。真っ白、真っ白。
大丈夫よ、私はここにいるわ。だから、怖がらずに、その感覚に身を任せていいのよ。
弾けた星のかけらが、スーッと体の奥に戻っていく。そして、また新しい星が生まれる。
キラキラ、キラキラ。繰り返し打ちあがる、星の花火。
ほら、また弾けるわ。5、4、3、2、1
弾ける。バチバチッ。頭の中で火花が飛び散る。
全身の毛穴が広がっる。細かい快感の粒が体の中を駆け上って、ジワーっとした感覚が広がる。
まるで炭酸飲料みたい。気持ちいい。気持ちいい。
弾けた星のかけらが、また、スーッと体の奥へと戻っていく。
気持ちいい。とっても気持ちがいい。星が、あなたをどうしようもなく気持ちよくさせる。
どうしてこんなに気持ちいいのかしら? それは、私たちがお互いを大好きだから。
大好き。大好き。あなたは私が大好き。私もあなたが大好き。だからとっても気持ちがいい。
そうよ、大好きだから気持ちいいの。気持ちいいから、あなたはもっと私が大好きになる。
ほら、今度はとびっきり大きな流れ星がくるわ。今までの星をすべて足したくらい大きな大きな星。
こんな大きな星が弾けたら、どうなってしまうのかしらね。ふふ、さあ、覚悟しなさい。
へその下が熱い。熱い、熱い、熱い。熱くてたまらない。
背中にとびきり強い電流が走る。ビリビリ、ビリビリ。
つま先から頭のてっぺんまで、体全体がビリビリ痺れて、震えがとまらない。
眩しい、眩しい。太陽みたいに眩しい。少しだけ恐怖を感じる。でももう遅い。
大きな星が、背中を通って一気に流れ込んでくる。5、4、3、2、1
爆発する。爆発する。脳の奥が痺れて気持ちいい。内なる宇宙が光で溢れる。
脳天まで快感が突き抜ける。精神が色とりどりの絵の具に染まっていく。
鮮やかな色彩の空間が広がって、もう何がなんだかわからない。
頭がおかしくなってしまいそう。気持ちいい。気持ちいい。たまらなく気持ちいい。
とびっきりの快感に包まれて、もう何も考えられない。

チクタチクタクチクタク。
あら、心の時計の針が、再び動き出したみたいよ。
チクタクチクタクチクタク。
どうやら、電池切れしていただけのようね。
でも、私の愛が充電されたから、きっと、しばらくは大丈夫だと思うわ。
チクタクチクタクチクタク。
心のエネルギーも一杯になったことだし、そろそろ魔法を解いてあげるわね。
これから10数えると、あなたは、ここでの出来事は忘れて、心地よく目を覚ますわ。
すべての暗示も解けて、正常な状態に戻れるはずよ。じゃあ、数えるわね。
10、9
忘れる。忘れる。すべて忘れてしまう。
消しゴムで消される文字のように、さっきまでの出来事が、記憶から消えていく。
8、7
でも、「タイが曲がっていてよ」という言葉を聴くと、またすぐに、魔法にかかることが出来る。
6、5
あなたは魔法にかかるたびに、魔法にかかりやすくなる。
4、3
ほら、だんだん体の感覚が元に戻ってくる。あなたはもう目覚めようとしている。
2、1
準備はいいかしら?
0

ごきげんよう。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年06月03日 00:36