ハレグゥエロパロスレSS保管庫@ Wiki 070901_2

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小麦色の白雪姫_2(二:207-214)
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 アシオたちのいる場所はすぐに解った。
 広い砂浜に大きく陣取ったマット、その中央にずらりと並ぶ四台のビーチベッドにはそれぞれ
個別にパラソルと小さなテーブルが備え付けられ、まるで元々そう言う設備が用意されていたのかと
思う程に豪奢なものだった。アレだけ派手ならこの海岸のどこにいても一発で辿り着けるだろう。
 車に積んでいた大荷物を思い出す。その大部分がアレのための機材だったのであろう事は疑う
余地も無い。

「うは、よくやるなぁ……アレ見てよ母さん」
「ん……うん」
 思わず大きな声を出してしまう。だけど母さんから返ってきたのはそっけない空返事だった。
その表情もどこか浮かない。まだ何か気にしているんだろうか。
「母さん、どうしたの?」
「え? ああ、んー……良く解んないんだけど、この海、なんか変なのよねえ」
「変? ……って、何が?」
「だから、それが解んないのよ。違和感って言うか……なーんか私の知ってる海じゃないって言うか」
 うんうんと唸りながら、母さんの首がどんどん捻じれていく。オレもそれにつられて首を傾ける。
……確かに、前に来た海とはどこか違うような……。

「……静かだな」
 親子二人して首を捻っていると、オレの隣に寄り添っていたグゥがぽつりと呟いた。
 静か? ……静か……。静か………………
「あーーーーーーーー!!!!」
 オレと母さんが同時に声を上げる。そうだ。静か過ぎるんだ、この海は。
 前に来たときは確か、それはもう人がわんさと居て、母さんが走り回る隙間はおろか、
ぼーっと突っ立ったままベルの怪談話を聞く余裕すらもありはしなかった。
 しかし今はどうだろう。周囲をどれだけ見渡しても、人の姿は全く無い。ただ砂浜と大海原が
どこまでも続いているだけだ。
 違和感の理由はコレだったか。しかし理由は解ったがまた新たな疑問に首を捻らねばならない。
「まさか……!」
 母さんが何かに気付いたように目を見開く。そして言うが早いか、早足でアシオたちの元に
駆けて行った。オレも慌てて後に続く。

「ベル! アシオ! アンタたちなんかしたでしょ!!」
 のしのしと砂を踏みしめながら、母さんが怒鳴り声を響かせる。その声に二人は明らかに
動揺を露にし、小さく悲鳴を上げた。おばあちゃんとロバートは母さんの突然の大声に
ぽかんと驚いた表情で固まっているだけだ。
「なんで私たち以外誰もいないのよ? 言ったでしょ? 私、そーゆー成金趣味嫌いだって!!」
「いいいいえあの別に邪魔者を排じょ……じゃなくてその、ええ、あの……アシオ!! あんたが
説明なさい!!」
「ぅええええ!? な、なんで俺が……俺は止めたのに先輩が強引に……」
「お黙り!!! 私に逆らったらどうなるか、解って言ってんの……?」
「…………はぁ……」
 目の前で繰り広げられる、段々と連なる上下関係の流れに社会の厳しさを垣間見る。
いつかオレもああやって社会に揉まれるのだろうか。正直、自信ないなあ。
「ハレもバイトで十分味わっているだろう?」
「いやー、あそこまでの絶対服従な環境は無いよ?」
「何をおっしゃる。それは家で十分味わってるだろう」
「……うん。オレ、自信沸いて来たよ。なんでかすっごい哀しいけどね……」
 そうだ自信持て、と肩を叩く少女の慰めの言葉にオレは何と応えればいいのだろう。
"虐げられ慣れている"等という不名誉なスキルを自覚せざるを得ないオレの目頭から湧き上がる
心の汗はきっと海の水よりもしょっぱいに違いない。


「ベルでもアシオでもいいから、この状況を説明なさい」
「うううぅぅぅ……そ、それはその……別に俺らがなんかやったワケやのうてですね……」
「じゃあどーゆーワケよっ」
「……はあ。しゃーない。誰にも言わんとって下さいよ……」

 ───そう、それはちょうど去年の今頃の話ですわ……。

 そん時も今日ぐらい暑い、それはもう暑い日ぃやったそうです。この砂浜も連日大賑わいで
子供も大人もわいわい騒いどりました。
 せやけどそんな時、砂浜で双眼鏡もって遊んでる子が海の向こうになんか見つけてこう言うた
んです。「ママ、向こうに何か黒いのがいっぱい浮かんでる」って。母親が子供に借りた
双眼鏡で海を見たら確かになんか黒いのがぼつぼつと浮かんで見える。最初はただのゴミか魚やろ
思てたけど、なんか違う。それがどんどんこっちに流れてきて、黒い塊が大きくなっていく。
 そのうち、海で泳いでる人らもそれに気付いて、騒ぎ始めました。中には悲鳴を上げるもんまで
現れだす始末。みんな、その黒いのが何か解って驚いたんですわ。なんせ、砂浜に打ち上げられる
くらいまで流れてきたそれは……

 真っ黒な、棺おけやったんやから。

 それも1つや2つどころやない。それこそ100や200っちゅう大量の棺おけが次々と
流れてきて砂浜を埋め尽くしていく。それはえらい光景やったそうですわ。

 あとで調べてみると、それははるか遠くの島の、海辺の切り立った崖の上に作られた墓地から
流れてきたもんやった。遡る事十年以上も前のこと。その島じゃ記録的なハリケーンが島を
襲ったそうです。強烈な風雨に晒されたその墓地の被害も尋常やなく、一部が崖崩れを起こして
墓石やら何やら、全部海に落っこちてもうた。
 そんな中、棺おけだけが中の空気のおかげでぷかぷか浮いて、それが波に乗って海を漂う事
十数年。ついに、この砂浜に辿り着いたっちゅう話です。

 ……それからですわ。この海岸に、一つの噂が立つようになったのは。

 流れ着いた棺おけは政府が協力して無事に元の島に返されたんやけど、まだ全ては戻っていないとか。
そりゃあ、十年以上も旅してきた棺おけたちや。途中で脱落したもんもおるやろう。崩れた崖の下敷きに
なったままの棺おけもあるやろう。
 ……せやけどな。この海岸にも何個かまだ、沈んでるそうですわ。
 あと少しでこの砂浜まで辿り着けたのに、生まれ故郷に戻れたのに。もう少しの所で沈んでもうた
棺おけたち。それらの声が……夜な夜な聞こえるそうです。

 ───『家に帰りたい。帰りたい。探して。私たちを探して』───……、と。

「それ以来、この海岸には人が寄り付かんようになったんですわ……」
「…………きぃぃいいぃいいぃぃいいいやぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!」
 お前、言い訳するにももうちょっとなんかマシなストーリーがあんだろ、コラ。
 オレもう絶対この海に入れなくなっちゃったじゃんかよ。せっかく昂ぶったテンションも
奈落の底まで落ち込んだわ。

「そう、そんな事が……」
「哀しい話、ですね。俺も自分の亡骸は、やっぱり日本の地に還して欲しいと思いますから……」
「ごめんねアシオ、ベル。疑ったりなんかして……」
 そんで信じるなよ、アンタらも。どんだけ純粋やねん。
「ア、アシオ……なんでそれを早く言わなかったの! お嬢様をこんな危険な場所にお連れするなんてー!!」
「ちょ、ちょっと先ぱ………ほほ、ほんまに絞まって…………ああ、見える、棺おけが見えるでぇ……」
 ベルがアシオの首根っこを捕まえ残像が見える程の速度で振り回す。ああ、アシオの顔が
青紫色に染まっていく。でも止めてやらないでおこう。
 ってかベル、アンタもかい……。オレか、オレがおかしいのか。オレ一人が捻くれてるのか?
「安心しろ……」
「……グゥ」
 そっと肩に手を添え、グゥが優しげな声で諭すように語り掛ける。
「おかしいのは、お前だけじゃないぞ……」
 ……ありがとう。でもそれ、フォローになってないよね……?


「奥様、お嬢様。申し訳ありませんが、本日は遊泳禁止、とさせて頂きますわ」
「ええー!! なによそれぇっ」
「ゲホッ……せ、先輩……なにもそこまで……」
「お黙りなさいッ! アシオはお嬢様たちが心配ではないの!?」
「…………はぁ……」
 母さんはがっくりと肩を落として溜息を吐いた。心底残念そうだ。だけど一番ショックなのは
アシオだろう。おろおろとベルや母さんを見比べ、申し訳なさそうに頭をかいている。
 なんだか大変な事になってきたな。オレはまあ、今日はとてもじゃないが泳ぐ気には
なれないし、別に良いけど……。

「お願いします、お嬢様。お嬢様の身に何かあればこのベルは……ッ」
「ベル……」
「……まあ良いじゃない。今日はのんびり、寛ぎましょうよ」
「ぶー……解ったわよぅ」
 こんな時のベルは強い。母さんも、自分の事を想ってくれての行動だと理解しているから
無下には出来ないのだろう。おばあちゃんの言葉に頬を膨らませながらも、その声からは
いつもの強気は感じられない。
「ま、いいわ。たまには、砂浜で日光浴しながらビールをグッ! ってのもね」
「それ、いつもと変わんないよ母さん……」
「あー、それもそうねぇ……でも他にやる事となると……日焼けとか私には無縁だしなあー」
 あごに指を当て小さく唸る。しばしそうして何事か考える素振りを見せた後、ぱっと
顔を明るくさせ、荷物をまさぐりはじめた。
 やがて、目当ての物を発見したのだろう、くるんとこちらに顔を向けるとニヤリと笑い、
「ねえ、たまにはみんな、小麦色に焼いてみない?」
 ……と無邪気な声で言った。
 その手には黒い小さな瓶。先端部分をつまみ、ふりふりと見せ付けるように揺らしている。

「な、なんですかソレ?」
「決まってるでしょ。サンオイルよ、サ、ン、オ、イ、ル!」
 何か新しい玩具を発見した子供のような目で、ベル、ロバート、アシオを順々に見比べる。
海での楽しみが減った分、ああなったら余計に手がつけられない。ご愁傷様、と早めに
言っておこう。
「お、俺はその、水着持ってきてないんで……いや、残念やな~」
「俺も! 俺もです! 着替えも何も持ってきてませんからッ!」
 アシオとロバートが我先にと声を上げて後ずさる。必死だ。
 母さんは「そっかー」と残念そうに呟くと、三人の中で水着を着ているただ一人の
人物に目を向けた。
「じゃあベル、せっかく水着きてるんだし、どう? どう?」
「いえあの、わ、私が焼いて帰ったら他の使用人に申し訳が立ちませんから……」
「いーじゃない、塗ってあげるからさー」
「……お嬢様が……私に……直々に……?」
 胸の前で手を握り締め、ベルは今にも泣き出しそうな表情でふるふると震える。
難を逃れたアシオとロバートはほっと胸を撫で下ろしながらも、2、3歩ベルの傍から
後ずさった。オレもそれを見てベルから少し離れる。

「ふっ不束者ですが宜しくお願い致しますぅぅッッ!!」
 天を貫く咆哮。それと同時に、ドバシャアと一直線に噴出す大量の鼻血。
予想通りの展開だ。避難しておいて正解だった。
 ベルは恍惚の表情を浮かべそのままの勢いでマットの上にどさんと倒れんだ。
鼻血はだくだくと流れたままだ。海に流れ込んで海岸線が赤く染まらない事を
祈ろう。それを誰かに見られたらそれこそ都市伝説化してしまいそうだ。


「ほら、アンタもッ」
「へ?」
 突然こちらに向けられた母さんの声と同時に、何かが一直線に飛んできた。
反射的になんとかそれを受け取る。
「……これ……」
 それは先ほど母さんが手に持っていた瓶と同じ物だった。
「うふふ。グゥちゃんに、ね!」
「え…………えええええええッッ」
 腰に手を当てパチンとウインクまでかます母さんのその無邪気な笑みの前で、グゥが
とてつもなく邪悪な笑みを浮かべた。
「不束者ですが……宜しく」
 胸の前で指を組みくねくねと腰を揺らしながら、三日月のように軋んだ口をぱっくりと開ける。
その目は先ほどの母さん以上に、完全に自分専用の玩具を愛でる目つきだった。
「いっ、いやいやいや! なんでグゥまで!? ってかなんでオレが!?」
 この流れに乗ってはマズい。マズ過ぎる。何が何でも回避しなくては。
「なに照れてんのよー」
「ええんやないか? 子供は海に来たら焼かんとな~」
「そうですね。せっかく海に来たんですし」
「そうそう。減るもんやなし」
「……お前が言うなっ」
 グゥはともかく、アシオやロバートまでニヤニヤと物見遊山な笑みを浮かべ母さんの
味方に付いてしまった。
 ……こいつら、母さんの魔手から逃れたと思ったらさっそくか。

「照れてるとかじゃなくて……そう、グゥに日焼けは似合わないと思うんだよね~オレ」
「あら、どうして?」
「やってみんと解らんでぇ?」
「いいじゃないですか、たまには」
「腹くくれや。往生際の悪い男は嫌われるぞ」
 なんとか必死で逃げる口実を考えるがハンパな口上ではすぐに押し返されてしまう。
 こいつら、結託したらマジで手に負えん。この中で最も強力な発言権を持っている
おばあちゃんに目で助けを訴える。が、返ってきたのはにこやかな微笑みだけだった。
アメを抱いたままビーチベッドにゆったりと座り、完全に観客気分だ。
 ……オレの味方は、誰もいないのか。

「ほら、グゥって白くて綺麗だし、焼いたら勿体無いじゃんか!?」
「あら、綺麗ですってグゥちゃん」
「……そう面と向かって言われると、照れるな」
「そこだけ取んな!! 肌だよ、皮膚の話!」
「ふぅん、そんなにグゥちゃんのお肌ばっか見てるんだ、いつも」
「……ふむ。最近、性的な視線を感じるとは思っていたのだが……このエロガッパめ」
「ちっ、違うっての!! グゥってほっといても目立つって言うか、いつも目に付くし……」
「なるほどねぇ、いっつも無意識に目に入っちゃうわけね、グゥちゃんのコト」
「……グゥも随分と慕われたものだな。よかろう、多少のストーキングは許してやるとしよう」
「うがあぁぁっ!! 違ううううう!!」
「そんなラブラブなグゥちゃんの日焼け姿なんて、新鮮味あって良いと思うわよ~?」
 うううう……いかん、喋れば喋るほど泥沼にハマっていく。逆に悪女二人はアクセル全開だ。
何とか話題を修正せねば……。

「……新鮮って、茶色く焦げたとこで印象なんぞ変わんないだろー?」
「あら、解ってないわねー。色白な子が日焼けしたら、水着の跡がクッキリ残ってね。それはもう
生唾もんのセクシーさなのよぅ~?」
「…………ぅ……」
「あ、反応した」
「してませんーッッ」
 ……水着跡、か。地元が地元だけに実際に見た事は無いけど、雑誌とかテレビでは何度か見た事がある。
確かにあれは何というか、いろんな意味でクルものがあったような。……それを、グゥが……。
って、ダメだダメだ!! 流されるな、オレッ!!

「ちょっと待ってよ、その水着跡、出来たとしてもオレには見れないじゃんか」
「どうして?」
「グゥのその格好、よく見てよ……」
 びしっと指差した先、グゥの身体をその水着が包んでいる部分は非常に少なく狭い。
パレオを取ってしまえば、残るは際どい部分のみだ。そんなトコだけ白く残っても、
どうやって見れってんだ。
「……ふぅーん」
 グゥの身体をまじまじと見詰め、こちらに向き直った母さんの顔はこれ以上無いほどに
ニヤつき、込み上げてくる笑いをもはや抑えきれないと言わんばかりだった。
「ハレ、グゥちゃんの水着跡見たいけど見れないんだって。どうする?」
「……どうしても見たいと言うなら、グゥもそう邪険にするわけにはいかんな」
「だぁかぁらぁああそうじゃなくてえええええええええ!!!」
 あああああもう、どないせっちゅうんじゃ……。大概にしろよこんちくしょうめらが。
このままでは埒が明かない。否定だ。とにかくヤツラの言う事は全部否定せねば。

「うふふ、今日のグゥちゃんもハレには眼福ものって感じ?」
「何が眼福なもん…………ッ」
 母さんが後ろからグゥの腕を掴み、見せびらかすように持ち上げる。グゥも特に抵抗せず、
こちらをじっと見詰めたままぶらぶらとぶらさがっていた。
 腕を真上に持ち上げられているせいで、腋の下から胸のラインがくっきりと浮かぶ。
思わずコクンと喉が鳴りそうになるのを必死で抑え、慌ててそっぽを向いた。
「あら、照れちゃって。結構大胆だもんね、これ」
「んな事ないよっ! 別にそんなの、なんとも思わないっての!!」
「へぇーっ、ほほぉーっ。だって、グゥちゃん」
「……うむ。実際、ハレに見せてもぼけっとしていたからな。つまらなかったのだろう」
「あらあら、贅沢なヤツねー」
「そんなワケあるかっ! 見惚れてただけだよ!!」

「…………」
「…………」
「……え……あっ、違……ッッ!!」
 時既に遅し。言ってしまった後に盛大な自爆に気が付いた。
 皆がオレを注視したまま一言も漏らさずにぽかんと大きく口を開けて呆然としている。
母さんやアシオ、ロバートは勿論、なぜか、グゥまで。

「な、なかなか言いますね、ハレ様……」
「男らしいやないか。流石やで、坊ちゃん」
「見惚れちゃったんだって。よかったね、グゥちゃん」
「…………」
 ……何でもいい、とにかくオレのボキャブラリの全てを総動員して今の己の言葉を完膚なきまでに
否定するんだ。思考を限界までフル回転させて早急に脳内で言葉を紡ぎ上げて行く。
 ……しかし次の瞬間、それらの言葉は口から出る事無く完全に真っ白になってしまう。
 グゥの小さな笑顔。ただ何も言わず、母さんの言葉にこくんと頷くグゥの、本当に嬉しそうな
微笑みを前に、オレの口からは偽りの否定の言葉なんて吐き出せるはずがなかった。


「まあ、冗談はこれくらいにして。一応ソレ、渡しとくから。あんたらの好きになさいな」
 と、母さんはオレの手に握られたサンオイルを指で弾いた。ついでに、小さく折りたたまれた
ビーチマットも押し付けられる。
「私らはここで寛いでるから、あんたたちは遊んで来ていいわよ。せっかく貸し切りなんだしね」
 そう言って母さんはベルの隣に腰を下ろし、自分の持っていたサンオイルの蓋を開けた。
 ベルは先ほどからうつ伏せに突っ伏したまま微動だにしていない。出血多量でヤバイ事になって
いるのでは、とも思ったがあのベルに限ってそんな心配は無用か。

 母さんから解放されたグゥは、どこかまだ呆けた様子だったが迷わずオレの傍に寄り添い
オレの手をきゅ、と握った。
「グゥ……オレ……」
「解ってる。今は、何も言うな」
 気恥ずかしそうに、柔らかな微笑みを向け小さく首を振る。
 先ほどまでオレの中で渦巻いていたはずのいろんな感情がすぅ、と霧散していく。
もう何を言い訳する気も起きない。グゥの笑顔を見たら、もう、そんな事はどうでも
良くなってしまった。
 オレからもグゥに微笑みかける。グゥは少し驚いたような顔をするとすぐにオレから
目を逸らし、ますます恥ずかしそうに俯く。そして目だけをちらりとこちらに向け、
ためらいがちに口を開いた。

「……心配するな。通報だけは勘弁してやろう」
「何の話ですかねえええええええええええええええええええ!?」
 ああ、もう、何が真実で何が虚構なのか。考えるだけ丸ごと無駄だってか。
今度こそ本当の意味で、どうでも良くなった。
 ある種、自暴自棄にも似た諦観の念がオレの心を満たしていく。
これが……悟りってヤツかもしれん。もう、どうにでもなれ。


<<4>>

「若いって良いわね……」
 頬に手を沿え、おばあちゃんが小さく溜息を付いた。
「それじゃ、アシオとロバートは私が塗ってあげましょうか」
「ええ? お、奥様がっ!?」
 被害を免れたと思っていた所にまさかそう来るとは思っていなかったのだろう。
アシオとロバートの二人が予想外の不意打ちに同時に声を上げた。ざまーみろ。

「い、いや、俺は結構ですわ……ロバート、してもらいや」
「いえいえ、俺もそーゆーのはちょっと……」
「遠慮しないで、ほら脱いで脱いで」
 朗らかな笑顔を浮かべたまま、おばあちゃんがロバートの上着を捲り上げる。
なんか、デジャヴを感じると言うか、やっぱ母さんの血筋だなこの人っちゅうか。
「いやっ、その、ですから俺、水着持って来てないんで……」
「いいじゃない、そんなの。男の子なんだから」
「そ、そんな、いけません……てっ」
「……母様? それは遠慮じゃなくて、嫌がってるだけじゃないかしら?」
 後ろから抱きすくめられ、逃げる術を失ったロバートのズボンにまで手がかかろうとした時、
母さんがベルの脚にオイルを塗りながら、溜息混じりに声を出した。
「あら、そんな事ないわよねえ。それともオバサンに触られるのは、嫌?」
「え? や、べ、別にそーゆーワケでは……」
「そうよねえ。ちょっと恥ずかしがってるだけよね」
「ふっ。ま、確かに恥ずかしいでしょうけどねぇ……」
「……どう言う意味かしら、ウェダ?」
「別に深い意味は御座いませんでしてよ、母様?」
 双方あくまで穏やかに、あくまでにこやかな笑顔を絶やさずに。喧々としたいがみ合いとは別の、
寒気のする空気が周囲に立ち込めはじめた。
 その只中に居るロバートは既に凍り付いてしまったかのようにびくともしない。
アシオもその少し後ろで直立不動のまま動かない。

「母様、若い男に触りたいだけなんじゃないの?」
「まさか。別に見てるだけで良かったのよ。でも誰もいないなんて思ってなかったから
ちょっと残念なだけ。せめて、それくらいしなきゃつまらないでしょう?」
「……母様? もしかして母様がついてきた理由って……男漁り?」
「そんな人聞きの悪い。ちょっとした目の保養です」
「あのねえ、父様に悪いと思わないの?」
「あら、ウェダったらいつの間に父親をそんなに慕うようになったのかしら?」
「そ、そーゆー問題じゃ……っ」
「天国のお父様も喜んでらっしゃるわね、きっと」
「は、話を逸らさないでよっ!」
 あーあ。また何か始まったよ……。
 ってか、なんだかオレの中のおばあちゃんのイメージがどんどん変わってくっつーか
崩れてくっつーか。
「言ったろう。女の心の内はかくも不可解なものなのだよ」
「ああ、今ならなんとなく解る気がするような、解りたくないような……」
 ロバートを挟んで言い争う二人とそれを遠巻きに見守るアシオ。母さんの隣で恍惚に浸る
ベル。しばらくこの状況は収まりそうに無い。

「いこうぜ、グゥ」
「……ん」
 グゥの手を引き、喧騒から離れる。砂浜を真っ直ぐ横切り、母さんやおばあちゃんの声が
完全に届かなくなる頃にはその姿は豆粒ほどになっていた。どれだけでかい声でわめき
散らしているのやら。他に誰も居なくてよかったよ、ホント。

 あまり遠くに行き過ぎても不味い。これだけ距離を開ければ十分だろう。ビーチマットを
取り出し、砂の上に広げる。
 強烈な太陽光線を浴びた砂浜はギラギラとその光を反射させ、もはや第二の熱源と化していた。
ビーチサンダルの上からでもその熱気は十分に感じられるのだ。ここに直接座るってことは、
熱された鉄板の上に座るのと同じようなものだ。
 このマットはファミリー用なのだろう、完全に開くと少し大きすぎる。2、3度折り畳み、
オレとグゥ、二人が寝そべられるくらいの大きさにし、ようやく腰を下ろす。グゥもオレが
手を引くと、導かれるままにオレの隣にすとんとへたり込んだ。

「はぁ……。母さんも十分アレだと思ってたけど、おばあちゃんも何て言うか、強烈だなあ……」
「ふむ。女は周囲の注目を浴びて磨かれるものだからな。ああやってアピールしているのだろう」
 水平線の彼方を見詰めたまま、グゥの瞳がきらりと光る。
「アピール? ……って、何のだよ?」
「『私、まだまだ食べごろよ』……とな」
「あのさ? 一応あの人、孫までいる三児の人妻なんですけどね?」
「そうとはいえど、まだ老齢とも言えまい。一人の女としての自信を失いたくないのであろう」
「……なんか急に生々しいなオイ。不安になるような事言うなよ」
「まあ、女とはそう言う生き物なのだよ」
 口に手を当て、うふふ、と微笑いながら朗々と女を語るこの少女が一体これまでの人生で
どんな経験を積んで来たのかは知らんが、その確信的な声にはやけに説得力を感じてしまう。
 女は周囲の注目を浴びて磨かれる……ねぇ。

「……グゥも?」
「む?」
「グゥも、そんな事思ったりするの?」
 グゥも自分の体の線を見せる服や露出の多い服を着て注目されたい、なんて思う事があるの
だろうか。そんなグゥはちょっと、かなり想像し難いのだけど。
 グゥはオレの言葉に、何故か意外そうに目を見開くと一瞬、じっとりと目を細め、
「さあな」
 そう呟いてぷい、とそっぽを向いてしまった。
 それきり、オレもグゥもしばし口を紡いで海を眺める。

 まだ日は高く、さんさんと降り注ぐ太陽の光の下にオレたち以外の人影は無く。
 耳に聞こえるは、ただ寄せては返す波の音のみ。

 ふと、右肩に重みを感じる。同時にさらりと、首筋を流れる桜色の髪が陽の光を反射して
キラキラとそれ自体が輝いているかのように見えた。
 オレの身体にぴたりと寄り添うその肌は本当に真っ白で、浜風に揺れる髪が形作る影との
境界だけがうっすらと桃色に透き通っている。……酷く、扇情的だった。

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