ハレグゥエロパロスレSS保管庫@ Wiki 070901

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ハレ×マリィ

ハレ×グゥ×マリィ

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クライヴ×ウェダ

ロバート×ウェダ

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クライヴ×ワジ

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ハレとサニィ

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小麦色の白雪姫(二:198-206)
<<1>>

「あー、都会も夏はあっちいわね~」
 大きなお屋敷に隣接するように設けられた小さなテラス。周囲にはお屋敷以外に背の高い
建物も植物も無く、風の通りは良いが容赦なく照りつける直射日光を遮る物も無い。
 ビーチベッドにぐったりと寝そべりながら、彼女は乾いた喉から搾り出すように声を上げた。
その身には自らを太陽光線から守る物は殆ど身に着けていない。胸元と下腹部、必要最小限の
部分のみを隠し、その褐色の肌を惜しげもなく太陽の下に晒している。ここが都会の邸宅の
庭先では無く、海水浴場の砂浜といっても通じるような姿だ。ただし、その身を包む布地が
レースやら刺繍やらが派手に入った真っ黒なアンダーウェアでは無く、至って普通の健康的な、
出来ればセクシー系でもカワイー系でも無い水着であれば、の話だが。

「母さん、暑いのは解るけどさ……なんか着たら?」
「え? ちゃんと着てるじゃない」
 オレの言葉に1秒の間も空けず、母さんはブラの肩紐を引っ張りながらさらりと即答する。
母さんの中では下着"のみ"の姿でも十分着衣を纏っている状態として成立しているのだろう。
 まあ、予想はしていた答えだ。むしろ家じゃ全裸でいる事も多いこの人にしてはまだ控え目な
姿だと言っても言い過ぎじゃないくらいだ。
 今更、突っ込む気も起きないくらいとっくに見慣れた姿ではある。が、しかし…その格好に
疑問を抱く事を忘れてしまってはオレの中の何か大切なものがまた一つ壊れてしまう気がする。
「見てるこっちが恥ずかしいんだよ。母さんは恥ずかしくないの?」
「ったく、解ってないわねーこの子ったら」
 しかし母さんは心底呆れた、と言わんばかりに大げさに肩を竦め、深く溜息を吐いた。

「そんなの、気にするから恥ずかしいんでしょ。母さんはこれくらい、見られても平気だもーん」
「だから、こっちが平気じゃないんだっての」
「マザコンはコレだから……困ったもんよねー」
「マザコン言うな!」
 大きく伸ばした舌の上で空っぽのビール缶を揺すりながら、ジトっとこちらを睨みつけて来る。
 何度振っても一滴の雫も零さないその缶を無造作に放り投げると、既にビーチベッドの周囲の
床に無数に転がっている空き缶の一つに当たり乾いた音が響いた。
「それにすぐ似たようなカッコになるんだからいーじゃない。予行演習よ、予行演習」
「はぁ……?」
 またよく解らない事を。
 首を傾げるオレを尻目に、母さんは両腕を首の後ろに回し全身で太陽の光を受け止めるように
目を瞑る。
 一体急に何の話をしているのか、突っ込みたかったがどうせまた適当な事を言って煙に巻かれる
だけだろう。まぁ、オレの言葉に聞く耳なんて持っちゃくれない事は最初から解り切っていた事だ。
オレはそこらに散らばる空き缶を拾いながら、小さく溜息を吐いた。

「……しょうがあるまい」
 拾い集めた空き缶をビーチベッドに備え付けられた小さなテーブルに並べていると、足下から
聞き慣れた平坦な声。円形に地面に掛かる影に隠れ、猫のように丸まって寝ている少女が頭だけを
もたげこちらに目を向けていた。
「んだよグゥ、しょうがないって」
「ウェダはジャングルでもいつもこの格好だったのだからな。自らの肌を晒す事に対する
抵抗感が薄いのだろう」
「んー、そりゃ本人にとっちゃそうかもしんないけどさ……変なモン見せられるこっちの身にも
なって欲しいよ全く……」
 グゥの隣に腰を下ろし、ヒソヒソと母さんに聞こえないように声を出す。
「ふむ……ハレとしてもウェダの艶姿をああも見せ付けられては目のやり場に困ると?」
「うんざりしてるだけだってのッ」
 何が悲しゅうて身内の裸体なんぞを意識せにゃならんねん。それで無くとももはや見飽きたわ。
「まあそう言う事にしといてやりますかねえ」
「イミシンな言い方すんなっ」
 くっくっく、といかにも不気味な笑みを浮かべながら、グゥもむくりと身体を起こして座る。
 ノースリーブのワンピースを着ているグゥの露出した肩がぴたりとくっつき、その柔らかい
感触がTシャツの袖を通してでも伝わって来る。ずっと日陰にいたせいもあるだろうけど、
もともと体温の低いグゥの肌はひんやりとしていて傍にいるだけで心地良い。灼熱地獄の
日向とは雲泥の差だ。

 グゥにしてみれば、自分より体温の高いオレにくっつかれても暑苦しいだけかもしれないが、
特に嫌がる様子は無い。むしろオレの肩を借りるように深くもたれかかり、右半身が重なる
くらいに身体を密着させていた。
 きっと、狭いテーブルの影からはみ出ないようにしているだけなんだろう。でもオレにとっては
その素肌の汗一つかいていないかのようにすべすべな感触も、間近で見る横顔や真っ白な首筋も、
せっかく下がった体温を再び上昇させるに十分なものだった。
 母さんになら抱きつかれても、裸を見ても何とも思わないってのに。同じように一つの家で暮らして、
一つのベッドで寝て、いつも一緒にいるのに、なんでこんなに違うんだろう。
 ……ついでに言やあ、母さんみたく女らしい凹凸も無いちんちくりんボディだってのに。
 これで、グゥが母さんのように女としての恥じらいが皆無なヤツだったらどうなっていた事か。
 うちに来てすぐの頃、グゥは母さんや周囲の連中からおはチューやら痴話喧嘩やらの悪影響を
受けまくっていたのに、露出癖だけは伝染しなかった事はオレにとって何よりの僥倖と言えた。

 ずっと一つ屋根の下で生活しているのだ。そりゃあ、不可抗力でグゥのアレやソレが見えてしまう
事だってある。だけどそんな事をいちいち気にしたり、普段から意識していたらいろんな意味で身が
持たない。オレは極力グゥをそういう目で見ないように心がけていた。
 ……でもそれは結局、十分意識してしまってるって事の裏返しだ。それがグゥに知れたら最後、
オレとグゥの共同生活はその様相を一変させてしまうだろう。少なくとも、良きにつけ悪しきにつけ、
これまでと同じような接し方は出来なくなる。それがオレの理想的な関係に変化するならともかく、
「悪し」に比重が傾いてしまった場合など想像するだけで心が冷える。これだけは、絶対に悟られ
ないようにしなければならない。

「……なんだ、ぼーっとして」
「へ?」
 しばし、物思いに耽ってしまっていた。グゥの声で我に返る。……と同時に、目の前に飛び込んできた
光景にまた意識が飛びそうになった。
 ほんのすぐ目と鼻の先、至近距離にグゥの顔。いつの間にかグゥは先ほどよりも深く身体に擦り寄り、
オレの首元にしなだれかかるように頭を乗せ、オレの顔を訝しげな目で覗き込んでいた。
「あ、いやその、えっと……」
 しどろもどろに、なんとか言葉を返そうと思考を回転させるが、首元にサラサラと流れる髪や
鼻先にかかる甘い匂いが、オレの頭から正常な判断力を奪っていく。
「ぐ、グゥが母さんみたく、変な格好しない奴でよかったなって……」
 結局、ついさっき考えていた事をただ素直に口に出す。
 グゥはオレの言葉に、ふぅんと意味深な笑みを浮かべた。
「グゥのなら、目のやり場に困る?」
「はぁ?」
 言いながら、グゥはくったりと体の力を抜きオレにその身を預ける。偶然か故意か、
ぱらりと左の肩紐がずれ、肩のラインを滑り降りていく。ゆったりとした服の胸元が
きわどい位置まで捲れ、オレは咄嗟に目を逸らした。
 グゥはそんなオレの反応を舐めるように眺め、目を細めてくすくすと笑う。
 ……しまった。オレはまた何か、グゥに新しい燃料を与えてしまったのでは無いか。
それも、とびっきり燃費の良い上等な奴を。

「な、なんだよ……また変なコト企んでんじゃないだろな」
「んー? 別にぃ?」
 ジト目で睨みつけるがグゥはまるで意に介する様子も無く、そうか、そうかと小さく呟きながら
何かに納得したように一人こくこくと頷く。
 ……なんだ、この悪寒は。
 目の前の少女の晴れやかな笑顔とは裏腹に、オレの心にかかる不安はひたすら増徴の一途を
辿るのだった。


「ウェダ様、お待たせ致しました。支度が整いましたわ」
 不意に、お屋敷の方から快活な声が聞こえた。
「待ってました~ッ! さっそく出発しましょ!」
 その声に合わせ揚々と上体を起こした母さんの視線の先……屋敷とテラスを繋ぐ開け放たれた
大きなガラス戸の向こうに、ベルの姿。この暑い日にいつもと変わらず長袖のメイド服をびしっと
着こなし、平均台の上を渡っているかのように真っ直ぐこちらに向かってくるその姿には
一切の隙を感じさせない。……ただ一点、ダラダラと地面にも真っ直ぐに線を引く大量の
鼻血さえ無ければ。
「まあウェダ様ったら、またそのような格好で……はしたないですわよ」
 その嗜めの言葉も益々旺盛に噴出する鼻血さえ無ければ説得力もあるのだが。
「せやでお嬢さん、はよなんか着てくれんと目のやり場に困りますわ。なあロバート」
「え? あ、えっと、そ、そうですね……」
 ベルの後ろにはアシオとロバートが並ぶ。二人とも何故か両手いっぱいに大きなボストンバッグを
抱え、背中にも尋常じゃない量の荷物を背負っている。
 母さんを視界に入れないようにしているのだろう、それぞれきょろきょろと落ち着き無く目を
泳がせていた。
「あれが正しい反応か」
 そんなアシオたちを眺めながら、ふむふむと、また一人頷きながらグゥが何事か呟く。
突っ込みたいが今は下手に触れないほうが良い気がする。そっとしておこう。

「あんたたちはさっさと車に荷物運んどきなさい」
 後ろを振り向きもせず、ベルが無感情な声でピシャリと言い放つとアシオたちは「ははッ!」と
口を揃え、逃げるように屋敷の奥に引っ込んでいった。なんだか、先ほどから妙に慌しい空気が
流れ始めている気がする。
「いきなりみんなどうしたんだろ。支度とか車とか……どっか行くのかな」
「うむ。ハレも早く支度を整えるがよい」
 そう言ってむっくりとテーブルの下から這い出たグゥの背中には、大きなリュックサックが……
「っておまっ、いつの間にごふッ!?」
 オレも慌てて立ち上がりテーブルに強か頭をぶつけた。ガコンと重々しい音が頭の中で反響する。

「なによハレ、今からそんなはしゃいじゃってたら持たないわよ~?」
「まったく、落ち着きの無いヤツだ」
「しょうがありませんわ、ハレ様はまだまだ元気な盛りですものね」
 うららかな日差しに包まれたテラスに木霊する、三者三様の朗らかな笑い声と、頭を押さえ
蹲るオレのうめき声。誰か、ちょっとぐらいは気遣ってくれませんかね。
「それじゃ、そろそろ行きましょっか」
「ハレ、さっさと起きろ。置いていくぞ」
「だ、だから行くって、どこへだよ……?」
 よろよろと立ち上がるオレの言葉に母さんとベルはきょとんとした表情を返す。
 ベルが口元に手を当て、ヒソヒソと何事か母さんに耳打ちすると母さんは一瞬
目を大きく見開き、
「……あ~~~~~~~~~~…………ごめん忘れてた」
 などとぬかしながらにこやかな笑顔で頭をかいた。ベルの言葉は解らなかったがこれだけで
だいたいの経緯に察しがついてしまう自分がいっそ哀しいわ。

「申し訳ありません、ハレ様。やはり私がきちんと伝えておくべきでしたわ」
「あはは、もう言ったつもりになってたわ」
「……もういいからさ、結局、どこ行くのさ?」
「んふふー。それはね……」
 オレの言葉に母さんとベルとグゥ、三人が顔を見合わせくすくすと笑う。そしてくるんと
こちらに向き直ると、その顔に満面の笑みを浮かべたまま示し合わせたように口を開いた。

「海よ!」
「海ですわ」
「海だ」


<<2>>

 抜けるような青空の下、一面に広がるのは空以上に澄み渡った深い青。
 水平線からもくもくと昇る巨大な入道雲はしかし太陽を包み込むには至らず、いよいよ
高い地点から降り注ぐ陽の光は砂浜を蜃気楼すら映し出さんばかりの灼熱の砂漠へと変える。

 波の音、潮の香り、砂を蹴る感触。オレも海には何度か来ているのに、不思議と新鮮な感覚に
浸ってしまう。

 ───ベルの話によれば。
 昨日の夕方頃、日が陰りを見せ始めてもまだジリジリと地表に残る蒸し暑さに業を煮やした
母さんが、駄々っ子のように「海行きたい」と暴れ出したのが発端だそうだ。
 朝方や日中ならともかく、今から準備していては到着する頃にはまず外は真っ暗。夜の海は
危険すぎるし、そもそも楽しく無いだろう。そんなベルの説得の甲斐あってか、母さんは渋々
日程の変更を了承した、と言う事だ。
 オレはその時、グゥと部屋でゴロゴロしていたので知らなかったのだが、「ハレ様とグゥ様にも
お伝えしておきますわね」というベルにあろう事か「いーのいーの、私が言っとくから」等と
母さんが提案したのが運の尽き。結果は、まあ、この通り。
 「あえて教えなかった」「驚かせようと思った」「サプライズ」等々、イロイロとポジティブな
言い訳をかましてくれたが、この程度でいちいち怒っていたらきりが無いのでオレも気持ちを
切り替えて純粋に海を楽しむ事にした。ってか、こんなのとっくに慣れっこですよ、こちとら。

「わお! 海なんてひっさしぶりー!!」
 車から飛び出して来た母さんが子供のように大きな声を上げた。
 出発する前の格好と肌の露出面積はほぼ変わらないが、今の姿は一応、この場に相応しいものに
なっている。
 ワインレッドの落ち着いた色合い。布地を結ぶ紐は細く、肩と腰元を蝶結びに結えるタイプの
ビキニスタイル。ベルの意向か、胸を覆う布の面積は比較的広く、アンダーの切れ込みも浅い。
まあ、オレとしてもなんとか許容範囲かな。

 母さんはそのまま「うみー」とか叫びながら砂浜を駆け出していった。ホントに子供だ。
 他の女性陣はまだ、車の中でお着替え中。この海はプライベートビーチ……いわゆる
海水浴場では無く自然の海岸なので更衣室などの公共施設が無いのだ。
 オレやその他男連中は追い出されて外で待機中。……とは言え、暇してるのはオレだけで
ロバートとアシオは一足先に大荷物を抱え、砂浜でパラソルやらビーチベッドやらの設営の
真っ最中だ。……なんだか、いつも大変だな、あの二人……。
「同類相憐れむ……か」
「うっさい」
 グゥも早々と着替えが終わったようだ。いつの間に車から出たのか解らなかったが、それでも
反射的に突っ込みを入れてしまう自分が怖い。

「……どうだ?」
「…………ッ」
 腕を背中に回し、グゥが得意げに胸を張りくるんとその場で回る。
 真っ白な肌に真っ白な生地。母さんと同じビキニタイプの水着だが、紐は首の後ろと背中の
二方向に伸びそれぞれ個別に結える至極一般的なデザイン。
 平坦。まさにそうとしか言えない身体の線をふっくらと包む布地の柔らかな曲線は、大人の女性の
ふくよかな膨らみとはまた別の魅力を与えている。腰に巻かれたパレオのせいでアンダーの形状は
良く解らないが、そこから上を包む布地は胸元の二つの三角形のみ。普段見る事の出来ない透ける様に
色白なお腹がオレの目の前に恥ずかしげも無く露出され、その中心にはくっきりと小さなおへその
窪みが影を作る。まるで陶器で出来た彫刻のように艶やかで滑らかなライン。それでいて、胸元と
下腹部に食い込む水着との境界線にむっちりと浮かぶ僅かな盛り上がりが、その体が柔らかな肉に
包まれている事を十全に強調していた。
 その姿はいつものグゥの姿からは想像も出来ないくらいに刺激的と言うか挑戦的と言うか、
とにかくオレにとっては破壊力が高すぎるものだった。

「……おい、ハレ?」
「ふぇっ?」
 ……いかん、思いっきり凝視してしまっていた。
 しかしその身体から咄嗟に目を切ることが出来ない。下腹部からおへそ、胸元をじっくり
通ってようやくグゥの顔に辿り着く。
 グゥはオレの顔を不機嫌そうな目でじっとりと睨め付けていた。怪しんでる。めちゃめちゃ
怪しんでる。いくらなんでも、あからさまにたっぷり見過ぎた。ここでエロガッパ認定されたら
どんな言い訳も立たなくなるぞ。
「……平気そうだな」
 しかしグゥはそう、ぼつりと漏らすと、すたすたと母さんの方に歩いていってしまった。
 ……よく解らんが、助かったのだろうか。とりあえず今後あまり近くで鑑賞するのは
やめておこう。オレはなるべく目線を海に集中させたまま、グゥの後ろをついていった。

「あらグゥちゃん、かわいーじゃなーいっ」
 胸の前で手を握り、母さんがキャピキャピとはしゃぐ。
 ……オレもあれくらい自然かつ素直に感想を言えたらな。いろんな意味で無理だけど。
「ねえグゥちゃん、いつ以来だっけ? 海に来たのって」
「うむ。飛行機が墜落して、無人島に遭難して、イカダで漂流して以来だな」
「あったあった! 懐かしいわ~」
「………………」
 母さんとグゥが当時を懐かしむように水平線の向こうに目を送る。
 そんな和気藹々と談笑するような穏やかな思い出じゃあ無い気がしますけどね。
「その前はゴムボートで漂流してサメに襲われたっけな」
「そうそう、そんな事もあったわねーっ」
「………………」
 ああ、そうか。海って場所はいろんな意味で、主に負のベクトルに思い出深すぎてオレは
自ら記憶を遮断しちゃってたんだな。だから新鮮な気持ちにならざるを得ないんだなーオレ。
……ははは。
「いやいや、海は思い出の宝庫よのう。海サイコー」
「海サイコー!!」
「ははは……サイコー……」
 グゥがオレの両腕を持ち上げぶんぶんと振り回す。母さんも大はしゃぎだ。
 くそう、本当ならもっと強気で反論したい所だが……この件だけはグゥに頭が上がらない。
思えば、海のトラブルに関してはいつもグゥに助けて貰いっ放しなのだ。

「あまり羽目を外しすぎないで下さいましね、お嬢様。海は大変危険なんですからね」
 サクサクと、静かに砂を踏みベルも海岸に降りてきた。
 長身をぴっちりと包む深いマリンブルー。鳩尾あたりまでを覆うスポーツタイプのトップスに、
太ももの中ごろまでを包むスパッツ。胸元に一直線に入る赤いラインが、その部位の起伏の
穏やかさ……言い変えればスレンダーな体型をくっきりと浮かび上がらせている。
 てらいなく晒された腹部や肩、脚部から、そのしなやかな女性らしいラインの内側に秘められた
強靭さが素人目にもうかがえる。長い髪はお団子状に纏められ、普段のメイド姿しか知らない
人にはこの女性がベルだと一瞥で見分けられるかどうか疑わしい程に印象が違う。女って怖い。

「大丈夫だって。ベルってばホント、心配性なんだから」
 オレも海は非常にデンジャラスな場所だと思いますよ。本来ならあんたこそ心配し過ぎなくらい
心配性になってておかしくないと思いますよ。大げさでなく。

「海を舐めてはいけません。海にはいろんな恐ろしい話が御座いますのよ」

 ───そう、あれは私の友人が海水浴に行った時のこと。

 水泳が苦手だった彼女はちょうど胸くらいの深さの場所で泳ぎの練習をしている所でした。
すると突然、沖に向かって強烈な水の流れが起こりはじめたのです。
 このまま流されてはたまらない。慌てて浜に上がろうとするのですが、 その流れは
すごい勢いでまったく移動できません。
 足はちゃんと底に着いているのに、流されまいと踏ん張ると足元の砂が崩れていくのです。
必死でもがきながら、彼女は気付きました。夏場の混みあった海水浴場の中で、自分だけが
流されているのです。自分がいた場所の付近では、今その瞬間も小さな子供が無邪気に遊んで
いるのです。
 なぜ自分だけが……? そんな疑問にもちろん納得のいく回答など出ず、いつしかそんな
余裕も無くなっていきました。
 そしてついに彼女は体勢を崩してしまい、溺れながらあっという間に沖に向かって流されて
いったのです。

 ───次に気が付いた時、彼女は砂浜の上にいました。サーファーの男性が気を失った彼女を
発見してくれたおかげで、なんとか一命を取り留めることが出来たのです。

 自分の事を心配して、涙まで浮かべてくれている友人たち。安堵の息を漏らす見知らぬ人たち。
皆に弱々しくも微笑みかけながら、しかし彼女の心には感謝の気持ちよりも強くある疑念が満たされて
いました。……一体、あれは何だったのか。
 いや、きっと何かの偶然が重なって起きたただの自然現象だったのだろう。彼女はそう結論付け、
すぐに忘れようと心に決めました。

 その夜の事です。
 海の見える旅館で友人たちと温泉に浸かっていた時の事。
 しばらく海には来ないでおこう。そんな事を考えながら湯船から上がった瞬間、友人の一人が
大きな声を上げたのです。
 あなた、それ、どうしたの? 震える声でそう口にした友人の指差した先。それは自分の足首
でした。彼女は恐る恐る足下を見下ろし、ヒッと引きつるような悲鳴を上げました。
 ……そこには大きなアザが残されていました。それもただのアザでは無いのです。

 それは間違いなく、人の手の跡でした。
 自分の足首を握り締めた跡が、くっきりと残されていたのです……。

「……どうです? 海はかように恐ろしい所なので御座いますのよ」
「…………うぇぇあああああああぃぃいやああああああああああ!!!!!!」
 このアマ…恐ろしいの意味がちゃうやろ、意味が。とーとーと語ってくれてっけどそれお前
どない注意せっちゅうねん。海を舐めるとか舐めんとか関係無いにも程があるわ。
「まあ、もしかしたら私たちがあの時流されたのも……」
「ええ、きっとそうに違いありませんわ」
「いやいやいやいやねーよ!! ってかあったら嫌すぎだっつーのッ!!」
 こんな怪談話を真に受けんなよ。ただ普通に漂流した方がよっぽど心穏やかだっての。
うう、海に入るのが何か別の意味で怖くなってきた……。それで無くとも海には良い
思い出がほとんど無いってのに。


「まあウェダ、そんな事があったの?」
 不意に背後から上品な女性の声。
 胸元に赤ん坊を抱いたまま、頬に手を当て怪訝な顔で母さんに怪訝な眼差しを向けている。
ベルの話に聞き入っている間に、女性陣の最後の一人が車から降りていたようだ。
「そう言えば、私も一度、海でこんな体験をした事があるわ」

 ───そう、あれは私が仲の良いお友達と一緒に海に来た時の話よ。

「いやいやいやも~~~結構です! 海の怖さはじゅーぶん解りました!」
 どーせまたそっち系の話をするつもりだろう。せっかく海に涼みに来たというのに、
何故わざわざそんな嫌な方面から涼しくならねばならんのか。
「そーそー。それより私は母様のそのカッコの方がずっとおそろしーわ……」
「えぇ? どうして?」
 母さんに"母様"と呼ばれる女性はその思いっきり皮肉を込めた声にもまるで動じず、
暢気な顔を返した。
 言うまでもないが、この人はオレにとっては"おばあちゃん"に当たる。いや、母さんの
年齢を考えれば聊か"おばあちゃん"とは呼び辛い年齢である事は予想できる。できるのだが…
今、目の前で堂々と腰に手を当て澄ました顔でモデル立ちしているこの女性のその姿はいくら
なんでもやりすぎでは無かろうか。

 均整の取れたその褐色の体躯を覆っている純白の布地はまるであつらえたようにピッタリと
身体のラインに張り付き、母さん以上の豊満な膨らみを見せ付けるようにくっきりとその形を
浮き上がらせている。
 股間から肩までを前面、背面ともに真っ直ぐブイの字に形取らた布地の中心、深い谷間が
刻まれた胸元から真っ直ぐにへその下までは目の粗いメッシュの生地に包まれている。
 背面はと言えば、もはや布と言うよりただの紐というべき代物がお尻に食い込み、その切れ目
から肩に向けて伸びているだけだった。

「母様……何考えてんのソレ……」
「似合わないかしら? 結構気に入ってるのだけど。どうかしら、ベル?」
 言いながら、額に乗せていたゴーグル型のサングラスを目に当てる。エメラルドグリーンの
光沢がレンズの表面を波打ち、ますますその女性の元の印象とかけ離れた姿になっていく。
「え!? は、え、ええ、それはもう、とってもお似合いですわ!!」
「……いーのよ、ハッキリ言っちゃって」
「えぇ!?」
「そうよベル。ハッキリ言って頂戴」
「いえあの……そ、そそそそーですわ! アアアアシオたち、二人だけで大丈夫かしら!!
私、ちょっと様子を見て参りますわ!! それでは失礼致しますッ!!」
 ……逃げた。
 ベルでもこの親子の間には入れないか……オレも逃げたい……。

「似合ってると思うんだけどなぁ……」
「そーゆー問題じゃないって言ってんの。……トシ考えなさいよ」
「あら、女は私くらいからが最も熟れ頃なのよ? あなたよりも……ふふ。自信、あるんだけど」
「あああああもう……なんなのこの人はもう……」
 おお、母さんが翻弄されてる。さすが母さんの母さんだ。おばあちゃんにもこんな一面があったんだな。
「人の内面は一朝一夕では見えぬものよ……。特に女の心は言わば深遠なる迷宮……時に己すら迷い込む」
「さいでっか……」
 オレの肩に腕を乗せ、グゥがアンニュイな表情でタバコをふかす真似をする。
 もう、何か、良く解んないし突っ込む気も起きんけど、とりあえずおばあちゃんと母さんは
やっぱり似たもの同士って事が解ってちょっぴり微笑ましかった。


「ってゆーか、なんで母様がついてくんのよ!」
「何で、じゃないでしょう。アメちゃんを置いて遊びに行こうとするなんて……」
「あ、いや、それは母様にお任せしておけば安心安全確実だし~……ね?」
「まったくこの子は……。だから、私も着いていくことにしたんです」
「だったら無理に着いてきて下さらなくても、お屋敷でゆっくりとお過ごし頂いた方が
私としても羽を伸ばせてありがたいのですが?」
「あなたが目に届く所にいた方が、アメちゃんも安心できるでしょう?」
「う……そんな事言って、母様も遊びたいだけなんじゃないの?」
「そ、そんなわけないでしょう! な、なにを言ってるのかしらこの子は……」
 そろそろ、微笑ましいなんて言っていられる雰囲気じゃあなくなって来た気がするぞ。
どうしよう、止めるべきなんだろうか。しかしこの二人に割って入るのは勇気がいるな……。

「放っておけばいい」
「で、でも……」
「互いの不満をストレートにぶつけられる……それが親子というものだろう」
「グゥ……」
 確かに、仲直りしたての頃はこんなにお互いの事を言い合ってる姿なんて想像も出来なかったな。
あれはあれで、正しい親子の姿なのかもしれない。

「奥様、準備出来ましたで~」
「あら。それじゃ私はアメちゃんとゆっくり見学でもしようかしら」
「あ、まだ話は……んもう」
 遠くからのアシオの声に、おばあちゃんは早々に母さんとの口喧嘩を切り上げてそそくさと
行ってしまった。母さんも、未練がましい素振りは見せていたがその表情はどこか楽しそうだった。
 あんなに喧々諤々としていたのが嘘のようなさっぱりとした幕切れ。親子喧嘩って、こんなもん
なのかな。自分じゃ解らないけど、オレと母さんも傍から見ればこんな感じなのかもしれないな。
グゥの言うとおり、本当に心配する必要なんて無かったようだ。

「ほら母さん、オレらもアシオんとこ行こっ!」
 安心したせいか、自分でも驚くくらい明るい声が出た。そのままの勢いで母さんの
手をぐいと引っ張る。
 気持ちが妙に昂ぶっているみたいだ。今日はオレもめいっぱい海を満喫するぞ。

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