ハレグゥエロパロスレSS保管庫@ Wiki 070726

◇◆◇案内◇◆◇

◇◆◇作品◇◆◇
ハレ×グゥ

ハレ×マリィ

ハレ×グゥ×マリィ

ハレ×ウェダ

ハレ×ワジ

ハレ×アルヴァ

グゥ×ウェダ

アルヴァ×グゥ

ポクテ×グゥ+α

クライヴ×ウェダ

ロバート×ウェダ

グプタ×ラヴェンナ

グプタ×ワジ

レジィ×マリィ

クライヴ×ワジ

ダマ×クライヴ

ハレとサニィ

その他

連載中







更新履歴

取得中です。


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

時かけ(二:169-176)
<<1>>

「いや~、結構面白かったな~!」
 2時間近くも凝視していたテレビから目を外し、ううん、と大きく伸びをする。
そのままバタンと後ろに倒れ込み、身体の緊張を解すようにゆっくり息を吐いた。
 テレビを見ている間は意識していなかったけど、背もたれもなくただの床に長時間同じ姿勢で
座っているとやはり疲れる。ソファか、せめて座椅子くらいは欲しい所だ。
 ただその疲れも、いつものようにTVゲームで遊んだ後ほどではないが。

「やっぱDVD買っちゃおっかなー、『時かけ』!」
 そう、今日は知る人ぞ知る名作『時をぶっかける少女』の放送日だったのだ。
 それも金曜の夜九時という時間帯。早朝でも深夜でも無く、休日前のこの日、
この時間に、一家団欒を彩る晴れの舞台でこの映画が上映されたという事実に
オレは深い感慨を覚えずにはいられない。

「地上波でこの手のアニメ映画やるなんて、想像もしてなかったな~。まあこの枠ってアニメ映画
やる事多いけどさ? スタジオジヴリやらノレパン三世やら一般人にも認知度が高いものばっかで、
ぶっちゃけマイナーな部類に入る『時かけ』なんてのを放送する事なんてホント凄い事なんだぜー?」
「…………へぇ」
「他によくやるアニメ映画って言ったら『パチモン』に『クレしん(クレイジーしんちゃん)』だろ?
あと『名探偵ブナン』あたりかなぁ。どれも”まさに子供向け”って感じのもんばっかでさ。やっぱ
この時間帯に『時かけ』を地上波放送ってのはもう、快挙と言わざるを得ないね!」
「…………ふぅん」
「やっぱりこの監督は凄いよ。オレは『イカモンアドベンチャー』の頃から注目してたんだよね。
この人の作品は、シナリオや演出もそうだけど、まず作画に味があるんだよなぁ。影を付けず
動きを重視した作画なのに静止画でも十分に映える昔のジャパニメーションじゃ裏技的な───」
「はぁ~~~~~~~~~~~~~……」
 一人興奮するオレの声を、大きな溜息が遮る。オレの横で同じようにテレビを見ていた
少女からのものだ。
「……何? グゥ、なんか言いたい事あるなら言って」
 寝転んだまま頭だけ少女……グゥの方を向く。
 テレビを見ていた体勢のまま、ぺたんと床にお尻をつけて座る少女は目だけをチラリとこちらに
向け、もう一度小さく溜息混じりに口を開いた。

「オタク……」
「……素直なご意見、ありがと。でもこれがオレの素直な感想なんだしいいだろー?」
「その感想の内容がオタクくさい。もっと子供らしい感想は無いのか?」
 グゥは真っ直ぐに伸ばしていた足をあぐらをかく姿勢に直し、テレビを背にするように
身体の向きを変えこちらを向く。オレも身体を横に向け、肘を立てて頭を起こす。
「子供らしいって……例えばどんなだよ」
「む……」
 オレの言葉に、グゥはふむ、と小さく唸るとしばしそっぽを向き、考える素振りを見せる。

「例えば……『オレも時間を遡って過去の過ちを修正したい』……とか」
「……途中までは解るけどその願望はとても子供らしいとは思えませんよ?」
「ハレらしい願いを選んだつもりだが」
「そりゃあご配慮ありがとうございますねっ」
 いつものグゥの皮肉げな微笑から目を逸らすようにごろんと床に背を倒し、そう吐き捨てる。
 確かに、やり直したい過去はいくらでもある。主に横に座ってる少女関連の出来事で。
しかしあまりにも多すぎて10回や20回のタイムリープじゃ到底修正は効かんだろうよ。

「ってかさ。そもそもオレ、既に何度か過去に戻った経験あるからね?」
「うむ。未来にも1度あったな」
「あの未来はおいといて……。過去に行ってもロクな結果になった試しが無い気がするんですけど?」
 子供の頃の母さんに余計な事を言ったせいで母さんの性格が著しく変貌してしまったり、
オレが思い付きで口走った名前が弟に付けられてしまったり、ひょっとしたら母さんに
逢えていたかもしれないおじいちゃんを迷わせたあげく謎の写真が残ってしまったり……。
むしろ”過去に戻った事”を修正したいくらいだぞ。

「そんなことはないぞ。ウェダは明るくなり弟の実質の名付け親になり生の祖父にも逢えたではないか」
「うわぁ、なんかすっごく前向きな解釈……。本気でそう思い込めたら幸せになれるかな、オレも」
「なんだ、結果に不満なのか?」
「原因がどれもオレが過去に戻った事に起因するのがイヤなんだよ……」
「複雑よのう……」
 いかにも「心中お察ししますよ」と言わんばかりにえらく他人事な発言をかますこの少女も明らかに
原因の一端を担っている……と言うかむしろ原因そのもののはずなのだが突っ込んだ所でどうしようも
無いのであえて放置しておく。

 それよりも問題視すべきは、過去だの未来だのの時間渡航をあっさり受け入れてしまっている自分だ。
コイツと一緒にいると何が正常で何が異常なのかたまに失念しそうになる。
 だいたい、何でグゥはそんな事が出来るんだ? 今更すぎて疑問に思うことすらはばかれるが、
気にならんと言えば嘘になる。

「……なぁ、もしかしてグゥも…………」
「む?」
「……いや、何でもない」
 ……未来人なんじゃ? なんて、冗談混じりにでもなぜか最後まで口に出す事が出来なかった。
未来人じゃなく宇宙人や異世界人、超能力者でもオレは何ら疑いはしないってのに。
 よしんば「私は神だ」、なんて言われても受け入れる覚悟はある。……悪魔だ、と言われた方が
より真実味は深まるが。むしろ納得。
「……ふふ」
 そんな事を考えていると、グゥは一瞬、何かを考えるように天井を見上げ、すぐにこちらに
向き直るとそのままオレの横にパタンと倒れこんだ。
 二人とも寝転がった体勢で、数十センチの距離で目線がぶつかり、咄嗟に目を逸らす。

「……ついに気付かれてしまったか…………」
「へ?」
 よく解らない言葉に、思わず頓狂な声を返してしまう。グゥを見ると、そこには
かすかに浮かぶ微笑みとオレの顔を覗き込むように向けられた瞳。
 その表情からは言葉の真意を読み取ることは出来ない。そして真っ直ぐに向けられた
その視線から、オレは目を逸らす事も出来なかった。

「ハレ…………よく聞いてくれ…………」
「………………ッ」
 どれほどの間見詰め合ったか、ようやくグゥの口がゆっくりと、重々しく開いた。
 こくりと、自分の喉が鳴る音がやけに大きく耳に響く。

「……実は、グゥは遠い未来からやってきた未来人だったんですよ……」

「そ、そんな……!」
 その衝撃の告白に、オレは驚きを隠す事が出来なかった。まさか、本当に未来人だったなんて。
しかしこれで、これまでのグゥの人知を超越した行動の殆どに説明が付く。
 そう、全ては未来の科学の力によるものだったのだ。時間渡航も、ちんちくりんステッキも、
人を操作するコントローラーも、グゥの腹の中も……。
 しかし、それだけでは解消されない疑問もまだ残されている。

「そ、それじゃあ、ともよさんや誠一さんは?」
 そう、グゥと出会った時から、既にグゥの腹の中にいたあの二人。まさかあの二人も
未来から来たと言うのだろうか。もしかしたら、グゥのお目付け役か何かなのかもしれない。
「ふむ……あの二人も、未来人なのだ。グゥのお目付け役でな」
「や、やっぱり……!」
 予想通りの答えにも関わらず、オレは動揺を抑えきれない。一体何の目的でグゥたちは
この現代のジャングルにやって来たと言うのだろう。やはりあの映画のように、未来には
無い何かを求めて来たのだろうか。

「グゥたちは、未来には無いある物を求めてこの時代に来たのだよ」
「そ、それは一体!?」
「ふむ………」
 オレの投げかける問いに対して、常に淀みなく動いていたグゥの口がここで停滞する。
まさか、目的までオレの予想通りだったなんて。でもあの映画のように、ここには
美術館なんて無い。あの映画の登場人物とは違うものを求めているのだろう。
 この村で珍しい物と言えば、ポクテや満田……あとは長老の胸毛くらいだろうか。

「グゥたちの欲している物……。それはポクテや満田、そして長老の胸毛なのだ」
「ま、まさか!!」
 まるでグゥの思考が流れ込んで来ているかの如く、オレの予感が次々と的中する。
もしかすると、未来人であるグゥと長い間一緒に暮らしていたせいでオレにも何か
特殊な能力が備わったのかもしれない。

「ハレ……。実はお前にも、グゥと長年共に過ごしたせいで特殊な能力が備わっているのだ」
「なんて事だ……。やっぱり、オレはさっきからグゥの心を読んでいたんだね!」
「……ハレも気付いていたか……」
「そうか、そうだったのか……。じゃあ、今グゥが何を考えているか当ててみてもいいかな?」
「うむ。やってみるがよい」

「……『このネタ、どこでオチつけよう』」
「………………」
 オレの言葉にグゥは何も答えず、ただその口元に浮かぶ爽やかな微笑みが、
彼女の肯定の意思を十全に表していた。


<<2>>

「……って、投げっぱなしなネタを自信満々に振るなっての! 乗ったオレもオレだけどさ~」
「いやいや、未来からハレの堕落した人生を修正しに来た便利なロボと言う設定がまだ残っていたのだが」
「ああ、確かにグゥって猫っぽいしねー。って、もうイイってのっ! もー絶対突っ込まないっ」
「…………むぅ」
 ってか、オレらどこの若手芸人だっての。なんでこんな夜更けに二人っきりで漫才じみた事
せにゃならんねん。

「ったく、せっかくいい映画見たのに余韻が台無しだよ……」
 まあ、グゥとじゃ元々そんなに濃い話は出来ないし、余韻を共に味わおう、なんて展開になるはずも
無いのは解りきっていたけれども。
 ああ、ここにあの銀行強盗さんがいたら最高の余韻を楽しめたかもしれないのになあ。……いや、
あの人はゲームは詳しいけどアニメはあまり知らないかもしれないな。しかも今じゃそのゲームも
あんまりやってないかもしれないし。うう、オレはやっぱり孤独な性なのか……。

 よろりと上半身を起こし、あくびを一つ。気持ちが落ち込んでいるせいか身体も妙にだるい。
時計を見れば、あと数分も経てば日付が変わろうかという時刻。ベッドの上には既に母さんとアメが
並んでぐっすりと熟睡中。母さんに関しては、”酔い潰れている”と言った方が正確だろうけど。
 しかしこれは好機。母さんもアメもご就寝、そしてオレは明日は休日……と来れば、多少の眠気は
我慢せねばなるまい。
 オレはさっそくテレビの下からゲーム機を取り出し、電源を入れた。勿論、アメが起きないように
音量をうんと下げるのも忘れずに。

「はぁ……アニメの次はゲームか。ハレはホントにオタクよの」
 背後から侮蔑の意思を満々と込めた声が突き刺さるが、気にしない、気にしない。
オレはテレビ画面に神経を集中させる。
 このゲームをやるのは久しぶりだ。母さんに何度もリセット攻撃を食らってすっかりやる気を
無くし、ハードごと封印していたRPGゲーム。今日こそはクリアしてやるぞ。
「ハレはゲーム以外する事が無いのか」
 ……無視、無視。
「……まったく、いつからこんなゲーオタに育ってしまったのやら……」
 無視! 無視!

 ────いつから?
 そういや、オレっていつからこんなにゲームにハマるようになったんだろう。
 確かに、小さい頃からずっと家でゲームしてた記憶はある。……やっぱオタクなのかな、オレ。
でも昔はここまでゲームに執着してなかったと思う。むしろ、あの頃の記憶を思い出すとなぜか
暗い気持ちになるような。……何かあったのかな、昔のオレ。

「……なあ、ハレ」
 ごろんと床に身体を倒したまま、グゥは言葉を続ける。
 オレは変わらず無視を決め込んでいたが、しかし先ほどまでとは違う、酷く落ち込んだグゥの
声色に思わずコントローラーを操作する指を止めていた。
「グゥが本当に未来から来たとしたら……」
「なんだよ、またその話? 絶対乗らないから───」
「グゥが、いずれ未来に帰らねばならないとしたら、どうする?」
「───は?」
「もし、グゥがハレの前からいなくなったとしたら……ハレはどうする?」
「な、何の、話だよ……?」
 思考がプツプツと途切れる。グゥの言葉にどう対処すれば良いのか、瞬時に判断する事が出来ない。
 頭の中で何度も反芻し、その言葉の意図を飲み込もうとするが、グゥはお構いなしに言葉を続けた。

「ハレは家ではいつも一人でゲームをしているし、グゥがいなくても問題ないだろう」
「…………」
「どーせアニメの話も、グゥとじゃつまらんだろうしな」
「…………」
 言葉を重ねるごとに、グゥの声はだんだんと不機嫌になっていく。それに合わせるように、
オレの思考回路もだんだんと回復し、グゥの言葉の意味を理解し始めていた。

 ……なんだ、ようは拗ねているのか。いつも平常心なグゥにしては珍しい。ってかお前、
また人の心読んだろ? 心の中で思った事で拗ねられてもコチラとしては困るんだが?
 肩越しにじろりとグゥの方を見ると、グゥはぷい、とそっぽを向いた。その態度、
”Yes”と受け取っていーんだな。

「ったく。ンなこといちいち気にするんなら心読むなよ、グゥ」
 身体ごとグゥの方に向き直り、睨みつける。
「……だって、ホントの事だろ」
 グゥはうつ伏せで足をぶらぶらとぱたつかせながら腕を枕に顔を伏せる。
表情は見えないが、その声からはいつもの意気は感じられなかった。

「グゥは遊び相手にも話し相手にもならない。それは事実だろ」
「お前なあ、本気で言ってるなら怒るぞ」
「……もういい。一人でゲームでも何でも楽しんでろ」
 そう言うとグゥはごろんと背中を向けて黙り込んだ。
「……なんなんだよ、もう」
 オレもテレビ画面に向き直り、コントローラーを握る。
 でも、ようやく静かになったのは良いけれど、オレの中でゲームに対する意欲はとっくに
失われていた。
「……一人じゃゲームやってても、楽しくないっての……」
 …………?
 あれ? 今、オレ、何て言った?

 自分の口から出た言葉に、首を捻る。
 確かにオレはいつも一人でゲームをしているけど、一人でやってる、なんてあんまり意識した事は無かった。
 ……昔と違って。

 そうだ、昔はずっと、ずっと一人で、一人ぼっちでゲームをしていた気がする。
 一人は怖い。一人は寂しい。昔はそうだった。小さい頃、一人でゲームをしている時、ずっとそう思ってた。

(……そうか)
 小さい頃、家でゲームをする時、オレは一人だったんだ。本当に、一人ぼっち。
グゥも、勿論アメも居ない。母さんは狩りで出かけていて……あの頃はそれでも、オレが朝
目覚める時には帰ってきてくれていたけれど、夜はずっと一人ぼっちだったんだ。
 まっくらなジャングル。何かの獣の遠吠え。風に揺れる木々の唸り声。全部が怖くて、怖くて。
オレは家中の電気を点けっぱなしにして、ただ母さんが無事に帰ってくるのを祈ってた。寂しさを
紛らわせるために。不安を、恐怖を忘れるために一人でずっとテレビ画面を睨んでた。

 それも成長するにつれ無くなってはいったけど、当時の漠然とした不安感はずっと心に残っていたんだ。
 ───グゥがうちに来た、あの日までは。
 あの日からオレは、母さんが留守の時も、一人でゲームをやっている時も何も怖く無くなった。
最初のうちは、別の問題が次々に発生したせいでそれ所じゃなかった、ってのもあるだろうけど。
でもやっぱりそれ以上に、オレの心にどっしりとした安心感が生まれたおかげだと思う。

 グゥが、いつも傍にいてくれたから。

 一緒にゲームはしないけど、ディープなオタクトークも出来ないけど、グゥはいつもオレの傍にいて。
炊事や掃除、洗濯も、一人ぼっちでするよりずっと楽しかった。オレ以外の誰かの存在感が、本当に
心強かった。
 オレが安心してゲームにのめり込むようになったのは、きっとグゥのおかげなんだろうな。
あと、料理の腕がやたらと向上してしまったのも。
 本人に自覚は無いだろうけど、グゥはずっとオレの心の支えになってくれていたんだ。
そのグゥのせいで被った甚大な心的被害を考慮に入れても、余りあるくらいに。きっと。……多分。

 それにしてもこんな事、今まで考えた事も無かった。グゥが来てからこっち、いろんな事が
立て続けに起りすぎて考えるきっかけを失っていたのかもしれない。
 そう、思い返してみれば、グゥが来て以来、オレと母さんのたった二人で住んでいたこの家に
いろんな人が来るようになったんだ。保険医にベルやアシオ、ロバート。あとジャガーも。
最初はみんな、”招かれざる客”って感じだったけどさ。
 母さんのお家騒動やらなんやら、ゴタゴタしているうちに母さんが妊娠しちゃって、保険医と
母さんが結婚して。
 ……そして、アメが産まれて。
 気付けば家族が倍以上に増えちゃってた。

 まるでグゥが、この小さな家に大きな入り口を開けてくれたみたいだ。

 こんな事、グゥにはとても言えないけど……グゥが傍にいない生活なんてもう、オレには考えられない。
 グゥはオレにとって大切な家族で、友達なんだから。

 ……でもオレは、そんな友達を放って、一人でゲームばっかしてたんだよな。
今日だって、グゥとのお喋りを蹴ってまで一人でコントローラーを持って。
なんて馬鹿なんだろう、オレは。グゥが怒るのも、当然だよ。グゥはきっと、
オレから誘ってもらえるのを待っていたんだ。意地っ張りなもんだから、自分からは
そんな事、絶対に切り出せないだろうから。

「……なぁ、グゥ? たまにはさ、一緒にゲームやろっか」
 今更かもしれないけど、それでも手遅れって事は無い。
 オレは出来るだけ自然に、それでもテレ臭くて声が少し上ずっちゃったけど、素直な気持ちで
そうグゥに声をかけた。

「…………グゥ?」
 だけどグゥは、後ろを向いて寝そべった姿勢のまま、何の反応も見せてはくれなかった。
 寝ている様子は無い。寝息は聞こえないし、明らかに身体が強張っているのが傍から見ても
よく解る。

(……手遅れなんて事、無いよな)
 そう、必死に自分に言い聞かせ、グゥの傍に寄り再度声をかける。
「ごめん、グゥ。オレ、グゥの事、全然考えてなかった」
 出来るだけ優しく、気持ちが伝わるように、一言ずつ言葉を重ねる。
「一人ぼっちの寂しさ、知ってるはずだったのにさ。グゥを一人にさせてたんだよな、オレ」
 すぐ傍に遊び相手がいるってのに、オレはいつも一人の世界に入り込んで、全然かまって
やれなかった。その事に、これまで何の疑問も感じていなかったなんて、自分で自分が憎らしい。

「…………ない」
「……え?」
「そんな事、無い」
 オレの想いが通じたか。ようやくグゥは小さな、消え入りそうなくらいに小さな声でそう、
ぽつりと呟いた。

「グゥも……ハレが傍にいるだけで…………」
「え? ごめんグゥ、今何て……」
「……ッ」
 しかし聞き取れたのは最初の一言のみ。その声のトーンは急速に縮小して行き、言葉の途中で
”消え入りそう”どころか完全に消えてしまった。

「あ、ちょっ、グゥ?」
 聞きなおす間も無く、グゥは突然立ち上がり、一直線にベッドに向かい母さんの隣に
ダイブするような勢いで倒れこんだ。最後まで、オレから顔を背けたまま。
 まさか、オレはそこまでグゥを不機嫌にさせてしまっていたのだろうか。でも、さっきの
グゥの言葉からはそんな印象は受けなかった。
 とにかく、このままじゃ現状は悪化する一方だ。ここで話を打ち切るワケにはいかない。

「いきなり何だよ、グゥ?」
 オレもベッドに上り、グゥの隣に座る。グゥはうつ伏せで、枕に顔を埋めるように押し付けて
ピクリとも動こうとしなかった。
 一体グゥは何を考えているのか。よく解らないが、こうなれば多少強引にでも面と向かって
話をしなけりゃ前に進まない。
「おいグゥ!」
「……ッ」
 オレはグゥの肩を掴み、ぐいと持ち上げ無理やり引き起こした。
「一体なに────……」
 ……しかし、グゥの表情を真正面に捉えた瞬間、オレの頭は真っ白になってしまった。

 グゥの目には薄らと涙が浮かんでいた。その顔は真っ赤に上気し、オレと目線が合った瞬間
さらに、ボッと音がしそうなくらいに燃え上がる。
 すぐにグゥは顔を逸らしたが、それ以上の抵抗の意思はもう無いようだ。肩に乗せられた
手を払いのけるような事もせず、ただ恥ずかしそうに俯いていた。

「……なあグゥ、一体どうしたんだよ」
「…………」
 なんとか目を合わせようとグゥの顔を覗き込むが、グゥはきょろきょろと顔を動かして
一向にこちらを向いてくれない。仕方がないので、とりあえずそのまま話を聞いてもらう事にする。
「グゥさ。さっき、何言おうとしたんだ?」
「……ッッ」
 まず最初に聞いておきたい疑問をぶつけてみる。が、その瞬間、グゥは身体をビクンと震わせ
既に真っ赤な顔をいよいよ沸騰しそうなほどに紅潮させていく。
 随分と動揺しているようだ。多分、オレもグゥと同じくらい動揺していると思う。なんせ、
こんなグゥを見たのははじめてだから。
 あのグゥがここまで感情を露にするなんて。一体なにが原因なのか、自分の言動にも行動にも、
その理由はとんと見つからない。

 ……ただ、一つの推測を除いて。
 しかし、それを訊ねる事はオレにとっても恐ろしい。ある意味、タブー中のタブー。オレの推測が
正しければ、オレへのダメージも計り知れない諸刃の剣。
 だけど今のところ、それ以外の推論が立たないのも事実。うう……聞くべきなのか。
 オレは心を落ち着かせるべく大きく息を吸い込み、よし、と覚悟を決めゆっくりと口を開いた。

「もしかして……ずっとオレの心、読んでた?」
「…………ッッッ」
 出来ればオレとしても、それだけは当たって欲しくない予想だった。絶対にグゥの耳に入れては
いけない言葉の数々が脳裏を駆け巡り、くらりと目眩がする。
 頼む、嘘でもいい。グゥはただ否定の意思を示してくれればそれでいい。祈るような気持ちで
グゥの反応を待つ。

 グゥはしばらく凍りついたように固まっていたが、ほんの一瞬、ちらりとこちらを見たかと
思うとすぐに俯き、また微動だにしなくなった。
 その顔はいまだぽっぽと上気しており、何故かわずかに微笑んでいるように見えた。恥ずかしい
と言うより、照れている、といった感じだ。
 もう、何と言うか、それだけで、オレは卒倒してしまいそうになった。
 グゥの仕草、表情、その全てが、オレの質問に対しての答えをハッキリと示していた。

 曰く、”Yes”、と。

 今のオレの顔は、グゥに負けないくらい真っ赤に違いない。
 全身の血が顔中に集まっていくような感覚。キンキンと耳鳴りがし、視界すらぼやけて来る。
このまま気を失い、全てを夢の中の出来事として記憶の彼方に葬り去れたらどれほど楽か。

 全身の力が急激に抜け、ふらふらとゆらめくオレの身体にふいに、トン、と何かが押し付けれた。
 その衝撃に、はたと我に返る。と、グゥがいつの間にかオレの身体を支えるように胸元に
しがみついていた。そのまま、何の反応も示せないうちにぐいと引っ張られ、オレはベッドに
横倒しに押し倒されてしまう。
 一体何が起こっているのか、茹った頭でなんとか思考を回転させる。……が、現状を把握した
瞬間、オレの頭は更に沸騰してしまった。
 腰にしっかりとしがみつき、きゅ、と力の込もったグゥの腕。胸元に強く押し付けられた顔。
グゥの肩に置いていたオレの手は背中に回り、その身体を包み込むような状態になっている。

 少しあごを引けば、すぐ目の前に桜色の髪の毛。甘い爽やかな匂いがふわりと鼻先をくすぐる。
熱のこもった息が薄いシャツを通して胸元に当たり、その部分だけジンジンと熱くなっていく。
 グゥの匂い。グゥの熱。腰を包む柔らかな圧迫感。グゥから与えられる情報はどれをとっても
致命的で、オレはグゥを引き離す事はおろか、指先一本動かす事さえ出来ない。

 ───心地良い。
 今この状態を、そう思ってしまっている自分がいる。それがオレにとって、何よりも問題だった。

>>進む