ハレグゥエロパロスレSS保管庫@ Wiki

070317

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
Jungle'sValentine(二:>11-18)
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 放課後も過ぎ、静まり返った教室に小さく、カラリと扉のスライドする音が響く。
 窓から差し込む四角い夕焼けが、一つだけ照らし出していた長細い影をその空間にもう一つ、増やした。

 正直、本当に来てくれるかどうかは賭けだった。それもどちらかと言えば、負ける確立の方を高く見積もっていたと思う。
ただその不安感は、彼女のオレに対する予測好感度の問題ではなく、彼女の掴み所の無い性格によるところが主な要因なのだが。 とにかく、彼女はこうして来てくれた。オレの心がトクトクと鼓動を早め、これから起こる…いや、起こすべき事に対する
準備をはじめる。

 彼女は教室内にオレの姿を確認すると、後ろ手に静かに扉を閉め、真っ直ぐにこちらに向かいピタリと目の前で止まった。
 そしてオレの目を一直線に捉え、いつものようにその瞳から何かを訴えてくる。恐らく、話って何?、と言いたいのだろう。
その感情の読み取り辛い、ポーカーフェイスな表情も相変わらずだ。まるでオレ一人がこの状況に心を乱しているかのようで、
少し悔しい。
 だけど、オレだってずっとお前の傍にいたんだ。その表情からは、不自然なくらいに無感情に徹し過ぎているのがオレには
ハッキリと読み取れた。それは他のヤツから見たら、よっぽど注意していないと解らないくらいの変化だったかもしれないけど、
それを見逃すようじゃここにこうして居る資格なんて無いってものだ。

 彼女は急かすようにもう一度、今度は先ほどよりもずっと力を込めた瞳で…それでも、やはり他人が見ればそこに変化など
到底見出せないのだろうが……真っ直ぐにオレに無言の言葉を投げ掛ける。恐らく、…だから、何?、と言いたいのだろう。
 やはり、その態度はいつもよりどこか不自然で、必死で自分の感情を押し殺しているように見えた。
「えっ、あ、うんっえっとその……」
 …まぁ通りすがりのガキンチョが見ても解るくらいあからさまに動揺してしまっているオレに比べたらそんな変化など無いに
等しいのかもしれないが…。

 オレと彼女を足して二で割ったくらいが丁度いい普通人の反応なのだろうな…なんて、無意味な分析をしてもしょうがない。
こんな下らない事をこんな時に考える余裕をもっと別の所に発揮すべきなのだが、この無駄な能力を他人とのコミュニケーションに
利用できるならオレだって苦労はしないのだ。
 ことさら愛だの恋だのといったポジティブな感情表現は苦手中の苦手だってのに、それを表立って、それも口から言葉を
ひねり出すなんて器用な芸当がそうそう簡単に出来てたまるもんか。むしろ出来るヤツの方がおかしいとオレは思う。
 しかし、コトこの状況にあってはそんな言い訳も通用すまい。彼女はその自分の感情表現の希薄さと同じように、人の感情にも
鈍感と言っていいくらい無頓着なのだ。オレのこの気持ちを伝えるには、直球ド真ん中で勝負するしかない。…苦手だなんて、
言ってはいられないんだ。
 オレは心の中で頬を数度叩き、小さく深呼吸をすると腹にぐっと気合いを込めて、彼女を真っ直ぐに見据える。
そして今言わなければならない事、伝えなければならない事を言葉に乗せ、喉から力いっぱい声を絞り出す。


「ラーヤ! オレ、お前の事すッ……!」

 …絞り出すんだって!ほら、早く!!
 しかし、どれだけ腹筋に力を入れても、喉を絞ってもオレの口からは一滴の声すら漏れてくれない。まるで金縛りにあって
しまったかのように全身が硬直し、指一本動かせる気がしなかった。
 目を大きく見開き、「ス」の発音の形に口を固定したまま、まるでヒョットコみたいに口を尖らせているオレの顔は今、
かなり面白いことになっているに違いない。それはオレの正面に立つ少女の態度からもハッキリと伝わってくる。あの無表情な
ラーヤが、口を一文字に硬く結びスカートの裾を強く握り締め、肩をふるふると震わせている。あまつさえその目にはじんわりと
涙まで浮かんでいるではないか。よっぽどオレのこの顔がツボだったのだろうか。誰か鏡を持ってきてはくれまいか。
……出来れば、撮影はご遠慮願いたい。

 これからオレが言おうとしていた事が解っているのだろう。ラーヤはその言葉を今も真摯に聞こうと、笑いを堪えてオレの
面白顔を真っ直ぐに見詰めてくれている。なんだか、ガマン大会の様相を呈して来た。だがこのままどちらかが参るのを待って
いても何の解決にもなりはしない。オレはもう一度「ス」から言い直そうと、思い切り大きく息を吸い込んだ。

「ッすヌッグピュふ!!」

 …むせた。思いっきり、むせた。

 ヒョットコ状態の顔を維持したまま、肺の奥から勢いよく声帯を通して吐き出された細く鋭い息は、
口笛交じりにひょうきんな音を教室中に響かせた。
 続いて響く、プフッと、空気の破裂するような音。
 彼女の感情のダムも、オレの放った怪音を切欠にとうとう決壊してしまったようだ。まぁ、しょうがない。
オレがオレの目の前に立ってその様を見ていても、きっと大爆笑しただろうさ。しかし超ツッコミ専門のオレが
彼女にそれだけの笑いを提供できた事を誇る余裕も、告白もろくに出来ない自分の情けなさを恥じる余裕も、
今のオレには無かった。次はオレの笑いのツボが、すぐ目の前に飛び込んで来たからだ。

 そしてさらに続く、オレの口からも漏れる破裂音。ついでに一人で大笑い。
 すまん、ラーヤ。これも多分、お前がオレの立場なら100%笑ってる。
 よっぽどガマンしたのだろう、固く閉じられた口のせいで勢いよく肺から飛び出した空気が行き場を失い、その少女の
目と口の間に開いている2つの小さな穴からものすごい勢いで水鉄砲が噴出した、なんて、いくらなんでもそれは反則だろう。
笑うなと言うほうが無理だ。そうだ、オレだって笑いたくて笑ってるんじゃない。むしろ止めてくれ。このままじゃ、笑い死ぬ。


「………ごめんなさい」
 ひとしきり笑い声が響いた後の教室には、すすり無く少女と床に頭をこすりつける少年だけが残された。…本当に申し訳ない。
 ラーヤはひっく、ひっくと嗚咽を漏らしながら、ポケットティッシュを次々と涙と鼻水の塊として消費して行く。
オレのズボンのポケットに携帯していたものも既に彼女の手の内だ。

 まだ嗚咽は収まらぬものの顔中の水分は出し切ってしまったのか、ラーヤはハンカチを顔から離し、すっくと立ち上がると
早足に教室のドアに向かって歩き出した。
 ちなみに手持ちのティッシュは既に全て使い尽くし、床に散らばるがままになっている。勿論それは後で何とかするが、
今はラーヤを呼び止める方が先決だ。

「ちょっ、ちょっと待ってよ、ごめん! ごめんって!」
 一瞬、赤く腫れた目でこちらを睨んで来たその瞳には満々と怒りの色が灯り、オレにはハッキリと言葉としてその感情が
伝わってきた。……ただ一言、帰る、と。
 オレは必死でラーヤをなだめようとしたが彼女の憤りは収まる気配を見せず、むしろいよいよ出口に向かう足が早くなっていく。

「本当に悪いと思ってるよ、あんなに真剣に聞いてもらったのに、笑っちゃって本当にゴメン!!」
 陳謝の言葉は何故こんなにもスラスラと言えるのか、自分で自分が腹立たしいが、今はそのスキルを最大限利用しない手は無い。
オレは誠心誠意、思いつく限りの言葉で謝罪し彼女を慰めた。

 それでもラーヤは止まらず、最後にほんの少しだけこちらを向きまた無言のままオレに蔑みの感情をぶつけると
教室のドアをガラリと強く開けた。もうほんの1、2秒もすれば、この教室から彼女はの姿はなくなるだろう。
 そう思った瞬間、オレの身体は脳が命じるよりも早く、行動に移していた。

「…………」
 瞬間、この空間は沈黙に支配された。
 ただこの期に及んでやけに冷静な自分の心臓の音と、腕から伝わるラーヤの鼓動だけが頭の中に大きく響く。
 ラーヤは、教室の扉に手をかけたままの態勢で凍りついたように固まっている。オレも、そんなラーヤを後ろから腕ごと
抱きしめた状態で同じように固まってしまっていた。
 すぐに離そうと思った。でも、出来なかった。ラーヤがさせてくれなかった。オレの腕をそっと、本当にそっと掴む手の感触が
オレの全てを静止させた。それは勢いに任せて振り切ってしまわなかった自分の腕を褒めてやりたいくらいの、か細い拘束。

 くらりと、眩暈がした。ラーヤの身体は着衣の上からでも十分に解るくらい柔らかく、温かい。オレよりも頭半分程
小さい少女の後頭部が、オレの鼻先に埋まり甘いシャンプーの匂いが体中に流れ込んで行き、危うく理性が溶かされそうになる。
 って、そんなこと考えてる場合じゃないだろ。これじゃ、直球勝負と言っても男の欲望ド真ん中だ。

「ラーヤ…?」
 顔をラーヤの肩に回し、小さく呼びかける。耳にかかる息がくすぐったかったのか、ラーヤはピクンと身体を振るわせたが
それ以上の反応は示さなかった。そしてその瞳を見る事が出来ないオレには、彼女が今どのような感情でいるのかが解らなかった。
 今頃になって、オレの心臓はドクドクとその鼓動を急速に早め出す。しかし体温は急激に低下し、肌も喉もカラカラに干乾び、
昼飯まで込み上げてきそうな圧迫感がオレの身体に重く圧し掛かる。……この沈黙は、きっとどんな拷問よりも耐え難い。

「ラーヤ?」
 もう一度、呼びかける。だが、やはりラーヤはその態度にも、もちろん言葉にも何の感情も示してくれない。ただオレの腕の
中に抱かれ、その身を預けているだけだ。

 ……そうだ、抵抗もせず、オレの胸に背中を寄せてくれている。それって、十分に態度に示してくれているってことじゃ無いのか。
オレは、馬鹿だ。ラーヤは、きっとオレの言葉を待っていたんだ。
 オレの身体に体温が蘇ってくる。心臓はまだ高く鳴り響いていたが、今はその鼓動がオレに勇気を与えてくれる。
喉の渇きは勿論、吐き気なんてものもとっくに収まっていた。
 …言うんだ。ハッキリとその口で、オレの気持ちをラーヤに伝えるんだ。
「ラーヤ、オレ、お前の、こと……ッ」
 一言一言、言葉を重ねる。しかし言葉を重ねる度に、核心に近づく度にオレの身体から力が、勇気が抜けていく。

 …そして、言葉はそれ以上、続かなかった。オレってヤツは、本当に情けない。情けないけど、これ以上どうしろってんだ。
オレは搾り出せるだけ自分の中の勇気を搾り出したぞ。もう一滴も残ってなんかいやしない。オレの中には「告白」なんて
文字はもともとありはしなかったんだ。
 身体に、力が入らない。全ての力を使い果たしてしまった。ラーヤを抱きしめる腕の力も、もうオレには残されていなかった。

 しかし、ラーヤはオレを離してくれない。先ほどまでは軽く触れているだったその手は、今はオレの手をきゅ、と硬く握り、まるで怯えるようにその小さな身体をもっと小さく丸めていた。オレがいなければそのまま倒れてしまいそうなほどに強く
オレにその身をもたれ掛け、その肩は少しだけ震えているように見えた。
 ラーヤも、耐えているんだ。オレ以上に感情表現が苦手なこの少女が今、必死でオレの思いを受け止めようと
してくれているんだ。
 ラーヤの鼓動がその背中から、そしてオレの腕から伝わって来る。それはオレ自身の鼓動なんかよりもずっと、
オレに勇気を与えてくれるものだった。オレは今度こそ迷いを捨て去り、大きく息を吸い腹に力を込め……。

「好きだ…!!」

 …ひと息に、やっとそれだけを口から吐き出せた。たったそれだけで、肺の中の空気はカラッポになってしまった。
 自分の喉から出た言葉としては、あまりに現実感の薄いその三文字。まるでその声はどこか遠くから聞こえたような気がした。

 再び、今度こそ本当の沈黙が訪れる。校庭で遊ぶ子供の笑い声も、木々のざわめきも、自分の心臓の音すら聞こえない。
耳が痛くなるほどの、静寂。

 どれだけの時間、その沈黙に耐えたのだろう。ようやくラーヤの身体が、ピクリと小さく動いた。
 きっと世間的には2秒や3秒程度だったのだろうが、この空間だけは恐らく、いや間違いなくその数千倍の時を旅したに
違いない。とにかく、ようやくだ。
 しかしその後のラーヤの行動に、オレはまた戸惑ってしまう。ラーヤは腕に力を込めると、おもむろにオレから離れようと
身をよじり出したのだ。
 サァッと、血液が急速に頭から降りて行くのが解る。オレは慌ててラーヤを拘束している腕を離した。

「ご、ごめんっ……」
 まったく、謝罪の言葉だけは本当にスムーズに口から出てくる。何に対しての謝罪なのかなんて、自分でも解っちゃいないってのに。
「え?ちょ、なっ……!?」
 そんなオレの狼狽をよそに、ラーヤはくるんと振り返るとオレの胸にとす、と寄り掛かって来た。
 何が何だか、いよいよオレの頭の中がパニックになりかけた時、ラーヤの瞳が久しぶりに、真っ直ぐにオレに語り掛けて来た。
実際には数分程度だったのだろうが、もう随分と長く見ていなかった気がする。
 それでもその瞳は、オレにその感情をしっかりと伝えてくれた。

「私も、大好きだよ」

 ──ハッキリと。これまでに無いくらいハッキリと、その無言の声はオレの耳に届いた。

 そう言ったきり、彼女はオレの胸に顔を押し付け、背中に回した腕にきゅ、と強く力を込める。まるで、オレにその感情を
これ以上読み取らせたく無いかのようだった。
「ありがとう……」
 当のオレは、まだ混乱していた。自分で言っといてなんだが、何のお礼だ、ソレは。
 しかしそれも彼女にとってはツボだったのか、胸に顔をうずめたままラーヤはプフ、とまた空気交じりの笑い声を上げた。
頼むから、鼻水だけは付けるなよ。


 気付くと、ラーヤはオレを抱き締めたまま顔を上げ、真っ直ぐにこちらを見詰めていた。さっきのオレの台詞がよっぽど
効いたのか、目には涙を浮かべている。オレは彼女の代わりに、その目に指を這わせ涙を拭い取ってやった。
 とたんに見開かれるラーヤの瞳。何故かその褐色の肌を耳まで赤く染め、またぼふ、とオレの胸に顔を押し付けて来る。
…何なんだ、一体。さすがに今の感情の動きは、オレにも読み取れなかったぞ。

 まぁ、解らないことは考えても仕方が無い。オレもラーヤの背中を抱き、目の前に差し出された丸い頭頂部に顔を押し付け
スゥ、とその甘い香りを吸い込む。先ほどよりも密着度が高いせいか、その香りも何故かずっと甘く感じられた。
…そして今度は眩暈は感じなかったが、逆にしゃっきりと目覚めてしまったある部分の存在が結局はオレの理性を溶かしていく。
 もっと強く抱き締めたい。しかし肩を抱くこの姿勢ではこれ以上強く抱き締められない。なんというもどかしさか。
ラーヤはオレをしっかり抱き締める体勢になってるってのに。なんだかズルイぞ。しかし体勢を逆にしたら「高い高い」してる
みたいな状態になることは必至。結局、男がガマンするしかないってのか。

 フと、またいつの間にか、ラーヤがこっちを見詰めていることに気付いた。その目はまた潤々と雫を湛え、頬も心なしか
先ほどよりも強く朱色に染まっているように見えた。
 なんだ、また拭いて欲しいのか、と目線で返してみる。が、その瞳から伝わる感情はそんな暢気なモノではなかった。

「それは…まだ、だめだよ」

 そう、彼女の瞳はハッキリとオレに伝えていた。
 …何がダメなのか、なんて考えるより先に、オレは自分の身体の状態に気付くべきだった。そう、オレはさっきまで、
ラーヤの身体を強く抱き締めんとその身をなんとか密着させようとしていた。もちろん、下半身も。
 そりゃあもう、グリグリと彼女に押し付けていたのだ。…無意識だった。誓って、無意識だった。
「ごっごめ……」
 やはりオレには愛だの恋だのよりそっち系の言葉の方が似合っているのか、またも即座に出てくる、謝罪の言葉。
しかしその言葉は、ラーヤの手によりピタリと、止められてしまう。

 いやこの場合、手、と言うのは正しくないか。正確には、ラーヤの唇により、だ。

「っム……?」
 突然の事に、思わず目を見開いてしまう。ラーヤもその目を薄く開け、そこにオレの瞳だけを映していた。
触れ合う唇からも、その瞳からも、ラーヤの感情が体中に流れ込んでくる。それは、もうオレなんかが口に出したら瞬時に
羞恥で燃え尽きてしまいそうで、心の中で唱える事すら恥ずかしいような、愛の言葉だった。

 トン。と言う音が聞こえた。ラーヤが、踵を床に下ろした音だったようだ。…いつの間にか、唇も離れていた。
オレはその瞳に魅入られたかのように、彼女が離れた後もそのままの体勢を崩せないでいた。
 そんなオレの気を知ってか知らずか、ラーヤはオレの両手を軽く握ると、困ったような、怒ったような顔で、オレに言葉を
投げ掛ける。今は、これでガマンして。そう、その瞳は言っていた。

 …ガマンできない

 試しに、オレも瞳で語ってみる。

 …ダメ

 返ってきた。何だコレは。オレらはエスパーか。今、人類の進化の道標が見えた気がしたぞ。
 よし、もう一度やってみよう。

 ラーヤもちゃんと言葉でオレに好きって言ってよ

 …やだ

 やはり、即座に返事が返ってきた。
 これはこれで凄いが、やっぱりラーヤの声も聞きたいと思うのが人情ってもんだろう。

 じゃあオレももう何も言わない

 …やだ

 さっきよりもちょっとだけ強めの「やだ」が返って来た。ううむ、会話が成立していてもこいつの感情は読み取り辛い。
 しかもなんだか、頭が痛くなってきたぞ。これは危険だ。副作用とかがありそうな気がする。やっぱりラーヤ専用の
コンタクト手段なのだろうか。
「でもさ、オレもあんまりラーヤの喜ぶ事、口に出して言えないと思うよ。そーゆーの苦手だし……」
 今度はちゃんと、声に出した。しかしこれって、心の中でも恥ずかしい事が言えなくなってしまったのではないか?
まぁ心の中でくらいなら良いか。オレにとっても、想うだけで伝わると言うのは良いことなのかもしれないな。

 そしてラーヤは相変わらず、オレの言葉に瞳で返答をして来る。大丈夫。私は多分、もっと苦手。とのことだ。
ついでに、恥ずかしい台詞は口でちゃんと言ってくれなきゃヤダ、と付け加えられてしまった。どこまで読まれているのか
ちょっと怖い。…とりあえず、何が大丈夫なのかは解らないが、結局オレがこれからもこの苦手な科目に立ち向かうしか
無いってことだけは解った。あと「多分」じゃなく、「絶対」だとオレは思うぞ。
 ……でもきっと、その想いをそのまま口に出したりなんかしたら、オレなんてそれだけで蒸発してしまうくらい凄い言葉が
飛び出すんだろうから、やっぱりラーヤは何も言わなくても良いかも知れない。
 何も言わなくても、十分にその想いは届いてるからさ。…大好きだよ、ラーヤ。

「わわっ、ラ、ラーヤ?」
 じっと瞳を見詰め、そんなことを考えているとラーヤは弾かれたようにオレを抱き締めてきた。
足をピンと伸ばし、頬と頬を摺り寄せるように密着させ、思いっきり肩を抱いてくる。
 ……もしかして、全部聞こえてましたか。

「好きっ」
 うん、オレも大好きだよ。オレも心の中じゃ、これくらいは言えるんだけどな。
 ……あれ?オレ今、ラーヤの目、見てない…ってか、見えないよな?
「え? 今………んムッ」
 そんなオレの疑問の声は、またその唇によって塞がれてしまう。そのまま、疑問そのものが頭からかき消されてしまった。
互いの目を見詰め合う、いろんな意味で、濃厚なキス。その時のラーヤの感情の流れは、オレにはちょっと刺激的過ぎた。
しかしそのままでも悔しいので、オレも瞳で語り掛けてやろう。

 ラーヤの可愛い声、もっと聞きたい

 …ばか

 やっぱり、返事が返ってきた。
 そしてどうやらこの間だけは、ラーヤの熱烈な感情表現は中断してしまうようだ。これは大発見。攻守逆転のチャンスでは
無いか。オレも、心の中でだけでもいっぱい語り掛けてみようかな。

 …口で言って

 提案は即座に否決されてしまった。
 どうやらオレに残された道は一つしか無いらしい。場合によっては発声練習の一つもせにゃならん事態になってしまいそうだ。

 …今は、こっちに集中して

 少し怒ったような感情を含ませ、ラーヤの瞳はオレに強くその意思をぶつけて来た。はいはい、集中しますよ。

 そしてまたはじまる、ラーヤの独壇場。…そのうちオレの理性が飛んで獣になったら、ラーヤのコレのせいだからな、絶対。
ともあれ、精神面ではラーヤに勝てる気はしない。結局、オレは口で彼女を骨抜きにする手段を考えるしかないってコトか。
まぁ、とりあえずそれは後で考えるとして、今はこの至福の時を堪能するのが正解なんだろう。

 オレはラーヤの背中に回した腕にゆっくりと力を込め、静かにラーヤの愛の言葉に耳を傾ける。

 窓から差し込む四角い夕焼けが照らし出していた、二つの影。
 それは今、まるでそうなる事が自然であったかのように一つに重なり、いつまでも、いつまでも離れる事は無かった。


 ─ RAYA True end ─

 ………
 ……
 …

 バックにゾロゾロと流れていくスタッフロールには全て「Guu」の文字が刻まれている。
演出、効果、音楽、監督、……そして最後の脚本だけが「You」。もはや見飽きた光景だが、何度見てもむかつく。
妙に感動的なBGMに乗せて流れる、恥ずかしい単語を並べた歌詞のテーマソングもいいかげん聞き飽きた。
その上、歌っているのがグゥの無愛想な声と来たらその憎々しさも100倍増だ。

 ……まだ、頭がボーっとしている。身体にも、唇にも、心にもまだあの温かい感触が残っている。
 小さな開放感と、大きな喪失感が同時に胸に渦巻く。…ダメだ。忘れろ。忘れるんだ。全部、嘘なんだから。
オレはつい今しがたまで心を満たしていた感情を捨て去るように、頬を強く叩いた。
 とにかく、これで、全員クリアしたはずだ。やっとこの世界から解放される……。

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