ハレグゥエロパロスレSS保管庫@ Wiki 070321

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Jungle'sValentine.4(二:36-42)
<<4>>

[Dokibeki Material ~ 2nd Season~]
    『 - Hare Side - 』

 ピピピピ……ピピピピ……

 耳慣れた電子音が頭上から聞こえる。
 いつ聞いても不快なその音は毎朝毎朝、飽きもせずにオレの意識を強制的に覚醒させてくれる。
 オレはベッドのヘッドボードの上をまさぐり、まだ朦朧としている頭に痛いくらいに響くその音の発生源を手探りで探す。
コツンと指に当たる、四角く冷たい金属の手触り。その頭を指先で思い切り押し込むと、カチンと無機質な音を立ててようやく
その耳障りな騒音は止まってくれた。

 ああ、もう起きなきゃあならない時間だ。起きて顔を洗って、制服に着替えて朝飯を食べて、そして学校に行く。これだけの
作業を朝一から毎日欠かすこと無くこなしている人間ってのは、きっと物凄く真面目で勤勉なヤツに違い無い。少なくとも、
オレにその素養が無いことは間違いなかろう。
 オレは今度こそ誰にも邪魔されぬよう深く布団をかぶり、もう一度甘美なまどろみの中へと身を投じるべく寝返りを……

「ん……?」
 …寝返りを、打とうとしたが、何故か打てなかった。身体の右側に強烈な圧迫を感じる。そう言えば、右腕の感覚も
どこか希薄だ。オレは右手の所在を確認すべく指を握る。

「ンッ……ふ……」
 何かぽよんと柔らかい感触と共に、甘い声が耳に届いた。どこかで聞いたことのある声だ。オレはもう一度指をワキワキと動かす。
「やっ、ハ……ァン……ッ」
 またも聞こえる甘く艶っぽい、しかしどこか幼い声。指にも確かに感じる、柔らかくも張りのある感触。指触りもスベスベ
と言うかツヤツヤと言うか、妙に通りが良くて心地いい。オレはさすさすと指を滑らせその指触りを確かめる。

「ひゃっわあっ!!」
 瞬間、耳元から頓狂な金切り声が頭に叩き込まれた。……何なんだ、一体。
 オレはガンガンといまだ脳内に響く残響音を外側から抑えながら、重いまぶたをこじ開ける。
そこには……ワインレッドのふわふわした丸い物が眼前に広がっていた。
 ぐるんと、そのワインレッドが回転する。そこにもまた丸い、潤々と雫を湛えた二つのターコイズブルーがこちらを
真っ直ぐに捉え、まるでこの身が深海にでも沈んでしまったかのような錯覚を覚えた。
「お兄ちゃんのエッチ!!」
 そして次の瞬間、バチン、と直に頬に叩き込まれる、本日二度目の強制覚醒。目覚ましにしては苛烈にすぎるその衝撃に、
元々ぼやけていた視界がなお歪み出す。……本当に、何なんだ、一体……。

「きゃ!ちょっとやだ、今何時!?」
 ベッドが揺れ、布団の中からモゾモゾと一人の少女が現れた。えんじ色のショートボブの髪には軽い寝ぐせが付き、
その服にもうっすらとしわが刻まれている。
「やだもう、髪も制服もくしゃくしゃ……私、寝ちゃってたんだあ」
 彼女はそそくさとベッドから降り、姿見の前で身だしなみを整える。……どうやらこの少女は、オレの腕を枕にして横で
ぐっすりと寝ていたようだ。なんでそんな事になってしまっていたのかは知らないが、本人も最初はそれが目的では無かった
ようでかなり狼狽している。
「って、ほらもうお兄ちゃん!早く起きないと遅刻しちゃうよっ!!」
 かと思うと、今度は猛然とベッドに向かいオレをユサユサと揺すりはじめる。全く、せわしないヤツだ。朝からそんなに
動いたら昼まで持たんぞ。
 オレは今度こそ落ち着いて夢の世界に沈み込むべく、母の胎内の感覚を辿るように身体を丸め布団を頭から被り、ゆっくりと
安らかに意識を……

「起きなさぁ~~~いっ!」
「ごぼふっ!!」
 ……意識を、覚醒させられた……。本日、早くも三度目の、強制的な目覚めの合図は強烈なニーパット。思いっきりベッドに
ダイブしてきた少女の膝が、横を向いたオレのわき腹に深く重く突き刺さる。ゴリ、と言う謎の音がオレの体内から響いた気が
したが、誰か気のせいだと言ってくれ。ついでに、この痛みも否定してくれると助かる。

「お前なぁ~……今の角度はヤバイだろ……危うく永眠しかけたぞ……」
「お兄ちゃんが起きないのが悪いんでしょ!それにエッチなことしたし、おあいこよおあいこっ」
 オレはわき腹と怒りをおさえながらむっくりと布団から起きる。精神は確かに覚醒したが、身体にはすでに学校に
行く力なんて残されて無いぞ。体力ゲージが視認出来るなら、今のオレのそれは赤く点滅してるに違い無い。

「ほらほら、さっさと準備してっ」
「はいはい……あ、そこのズボン取って」
「あ、うん……って、キャアアアアア!!!!」
 ビシャアと、まるで鞭を皮袋に叩き付けたような音が部屋に響いた。少女の叫び声と共に飛んできた灰色の物体は、
その美しく整ったスゥイングフォームにより十全に勢いを付け、最高のインパクトでオレの顔面に叩き込まれる。
オレはその衝撃で身体ごと横転し、頭をしたたか床にこすり付けた。ズシンと、地震が起こったかのような振動が脳を揺さぶる。
「もう、着替えるなら私が出てってからにしてよね!!」
「……お前が急げつったんだろ……」
 息も絶え絶えになんとか反論をするが、床に頭を付けながらではどうにも分が悪い。しかもさっきのでいよいよオレの体力も
底を付きかけているようで、身体を起こそうにもピクリとも動かないぞ。
「私がいなくなってから急いで着替えて!ほら、制服渡したでしょっ」
 どうやら、この少女がオレに向かって投げつけて来たものはオレの制服一式だったようだ。どうでもいいけど、せめて
ズボンの方をぶつけろ。ハンガーごとはヤバイから、マジで。

「急いでよねっ!私、中学生になったばっかで遅刻なんてしたくないんだから」
 少女はくるりと後ろを振り向くと、スタスタと足早にドアへと向かう。その動きに合わせふわりと、レモンイエローの
プリーツスカートがまるでオレに見せ付けるかのように揺れる。その制服としては派手な色合いのスカートと、そこから伸びる
健康的な褐色の肌が俯瞰の角度で交互にオレの目に飛び込み、その二色の合間にチラチラと顔を覗かせるもう一色、真っ白な
生地が嫌でも視界に入ってしまう。

「あーもう、この制服、一週間も着てないのにぃ……」
 少女はドアを手にかけながら、上着のしわを伸ばすようにぐいぐいと裾を引っ張る。その度にまたふわふわとスカートが
ひらめき、その奥に潜む少女の足の付け根から腰にかけてを覆う純白の布が見え隠れする。

「なぁ……」
「ん……なぁに?」
 オレの呼びかけに、少女は顔だけを振り向かせきょとんとした表情でオレを見下ろす。自分とオレの今の状態について
何も感じる所が無いのだろう、まるで気付く様子は無い。ここは男として、年上としてオレが教えてやらねばなるまい。

「お前さ、その制服───」
「えっえっ!?に、似合ってる…かな?」
 オレの言葉を遮り、少女はそんな事を言いながら一人で勝手に頬を染めてモジモジと腰をもじり出す。
相変わらず落ち着きの無いヤツだ。人の話は最後まで聞け。
 しかし、その少女の何かを期待する眼差しを避けてまで我を通す強固な意志は今のオレには到底望めない。
とりあえずは彼女の話に合わせておくのが賢明であろう。
「ああ、似合ってるぞ」
「ホ、ホント!?」
 さすがのオレでも、そこは素直な感想だと言わせてもらおう。
 真っ白な上着に、緑の地に白のラインの入った襟と袖。それとは逆の配色の胸当ての根元には朱色の大きなリボンが結ばれ、
全体を締める役目を果たしている。
 ベスト状に前で留める構造の、やや長めの上着は腰元で左右に開かれ、逆Vの字に入ったスリットからはスカートの黄色が
顔を覗かせている。背中にもそれに合わせるように深めの切れ込みが入り、あまり良いとは言えない発育状況の少女にも
まるでそこに括れがあるかのような錯覚を見る物に覚えさせること間違いなしだ。

「……なんか今、一瞬バカにされた気がした」
「気のせいだ。素直に感嘆してるんだぞ、オレは」
「ふ~ん、なんか納得いかないけど……でも、ありがと!」
 オレの気を察したか、ジトッと訝しげな顔で睨み付けて来たのも束の間、一転してキュッピルン☆と花のような笑顔を見せる。
……なんて言ったらいくらなんでも日本語を便利且つ乱暴に扱い過ぎだろうか。しかしまあ各々そんな感じで想像を働かせて
頂けるとオレもありがたいし話が早い。
 さて、彼女のご機嫌も取った事だし、本題に入るとするか。

「でもなマリィ、もう中学生になったんなら、くまさんパンツはちょっとどうかと思うぞ」

 ───次の瞬間、本日最大級の衝撃がゴドン、と重々しい破壊音と共にオレの顔面を貫いた。何が落ちてきたのかは
解らなかったが、最後に見た光景……ヒラヒラと傘のように展開するレモンイエローの生地の中心に燦然と輝くくまさんパンツから
伸びてきた紺色の鉄槌……を考えると、恐らく、かなりの高確率でかかと落としだったのだろうと想像出来る。
「鼻血なんて出して、ホントエッチなんだから!!」
 ……いや、コレはお前のせいで出たものってことは間違いないけど、そんな色気の無いパンツによるものではないとオレは
強く言いたい。もはや声も出ないが……それだけはどうにか伝わってくれないものか。

「何よそんな顔して……もう見せてなんてあげないよ……で、でもお兄ちゃんがどうしても見たいって言うなら……」
 ……もとよりマリィには会話じたいがあまり成立しないのだ。心の声など届くはずも無いか。
 しかしオレはそれでも、なんとかこの少女に伝えたい事がある。
 とりあえず、床に埋まっているオレの不憫な後頭部を引き抜いてから妄想に浸ってくれ。
「って、もうこんな時間じゃない!早く着替えて降りてきてよっ!あんまり遅かったら置いてくからね!!」
 バタンと、強くドアを閉める音にトントンと階段を降りる音が続く。
 突然発生した局地的ハリケーンはようやく、一人で狼狽し、一人で何事かわめきながら一人慌しくこの部屋から去っていった。
……オレの一週間分の体力をアイツなら一時間で使い切るな、確実に。

 結局、オレはその頭を床に半分ほど埋めたまま、かなり珍妙な体勢で固定されたまま放置されてしまった。 
オレはゆっくりと頭を持ち上げ、いまだ痛む身体の稼動可能な箇所を探りながら優しく身体を起こした。どうやら、どこにも
後遺症は残っていないようだ。鼻血も既に止まっている。マリィのおかげでオレの身体も自然と頑丈に鍛え上げられてしまって
いるようだ。……あんまり胸を張っては言えないが、まぁ数少ない取り得が一つ増えたと思えばそう悪い気は……するな。うん。
いくら攻撃に耐えられても反撃が出来なければただのドM体質では無いか。この耐久力に見合う攻撃力も身に付けねば意味は
あるまい。まぁ、それは次の課題としておくとして、今はさっさと着替えを済ませて一階に降りよう。早くしないと、また更に
その勢いを増したハリケーンがここに舞い戻って来る気がするしな。

 オレは乱雑にパジャマを脱ぎ捨てるとマリィに投げつけられた半袖のカッターシャツとズボンに着替え、姿見の前に立つ。
別に、自分の制服姿を確認したいワケじゃあない。これから、鏡を見ながらじゃないと出来ない作業をするからだ。
 ハンガーに残る最後の一枚…一本と言う方が正しいだろうか、それは半分に折り畳んでもオレの頭から腰くらいの長さのある
細長い布切れだ。オレはそれを首に巻きつけ、鏡を凝視しながら結わえ付ける。ややぎこちない手付きではあるが、これでも
一年間以上、毎日のようにこの作業を続けて少しは慣れた方なのだ。それでも、なんとか格好の付く形に整えるまで三~四回は
結んでは解きを繰り返すのだが……。
 とりあえず、今回は三回で成功した。平均点と言った所だろう。一発で成功させる頃には卒業してるかもな、こりゃ。
 最後に、首元でキュッと締め付ける。この圧迫感が実に不快だ。なんでうちの学校は、夏服でもネクタイ着用を義務付け
られているのだろうか。学校側は「ネクタイが校章代わり」と主張している。確かに紺色地のネクタイには薄らと校章のマークが
浮かんではいるが、それで簡単に納得しては学校の言い成りだ。生徒側の迷惑も少しは考えて頂きたい。嘆願書でも集めてみるか?
案外、票が集まって改正されるかもしれんな。いや、変わりに名札なんぞを着ける羽目になる可能性を考えたらそうもいかんか……。
 まぁ、どうせ学校に着くまでの辛抱だ。マリィの目が届かなくなれば、ネクタイも緩めボタンも二つほど外して楽になれる。
 オレはもう一度姿見で己の様を確認し、ネクタイの位置をきっちり正すと次にすべき事を考える。

 次にすべき事……それは……

 A:早く一階に降りよう。
 B:もう一度ベッドに潜ろう。
 C:自由に向かって窓から飛び出そう。


 ……Cだ。Cしかない。オレは何度そう思っただろう。
 ようやく、オレの目は完全に覚めた。これもいつものことだ。十回近くはこのゲームを巡ったと思うが、この導入シーンだけは
オレの意思ではどうにもならない。まぁ他にもいろいろと意思に反している部分は多いが、何もオレの手を加えられない、
ツッコミすら許されないシーンはとにかく、最初のこの場面だけだ。
 何度も何度もグゥに改善を望んだが、ことごとく却下された。理由は「過激な導入につきハレが獣にならないための処置」
と言う事らしい。じゃあその導入部分そのものを改善すると言う方向は望めないのだろうか。…それも何度も頼んだ事だが
要望は一切聞き入れてくれなかった。
 なぁ、この時点でグゥがオレのために云々なんて考えは完全に捨て去ったはずだろ、オレ。

 とりあえず、今更そんな事を気に病んでも仕方が無い。このまま手をこまねいていたら本当にもう一度凄まじいハリケーンが
オレを襲うのは三度目のプレイで体験済みだ。オレは急いでこの部屋を飛び出し、足早に階段を降りた。
 ……ちなみに、先ほどからぷかぷかと浮かんでいる選択肢は無視だ。どれを選んでも結局行動はオレの意思一つなのだから、
完全に無意味な選択なのだ。あれはオレをCに誘導しようとする心理的嫌がらせと断じて放置を決め込む事を一度目のプレイで
心に固く決めた。


「あら、やっと降りてきたの?遅かったわねーっ」
「ったく、ホンット、グズだなーお前」
「おはよう御座います、ハレ様。朝御飯、出来ておりますわよ」
「早く食べて食べて!」
 階段を降りると、母さん、保険医、べル、マリィから四者四様の言葉が飛んできた。朝から賑やかな事だ。
「ほらほら、さっさと顔洗いなさい。ご飯もちゃんと食べんのよ? せっかくベルが作ってくれたんだからね」
「お、お嬢様……そんなお心遣いをして頂けるなんて、ベルは感激で御座いますわー!!」
「はいはい、いただきまーす」
 悦った顔で鼻血を滝のように噴出するベルを尻目に、オレはテーブルに着き朝飯をパクつく。
 この世界でもやっぱり母さんはほとんど料理をしない。ついでにどこかの富豪の令嬢で、屋敷を出る時について来たベルに
炊事、洗濯、掃除等々、家事の一切を任せている、なんて設定もほとんど現実と同じだ。
「あ、そうそう! おはよ、ハレッ」
「んも~、ご飯食べてる時にキスすんなってのっ」
「うっせーな、朝くらい静かにしろ!」
「うふふ、いつも仲良し家族でいいな~」
 こんな環境でも皆の性格はそのまんまだ。変にいじられているよりは気が楽なのも確かだが、あまりこの世界に
馴染んでしまうのも怖い。オレはこの世界に愛着が沸いてしまわない様に、ある程度心に距離を置くように勤めていた。

「ごちそうさま! 今日も朝ごはん、美味しかったよ」
 オレは手早く食事を済ませると、手で口をぐいと拭き、そそくさと席を立つ。
「ハレ様ったら……勿体のう御座いますわ」
「まー、母さんの料理は褒めてくれた事無いのにっ」

 A.母さんの料理は褒められたもんじゃないですよ。
 B.母さんが料理をする事があればそれ自体を褒めたいよオレは。
 C.オレだって母さんの料理、褒めたいよ。母さんの料理、食べたいよ……。

 また中空に選択肢が沸いてくる。これは他の人には見えていないらしい。正直、オレの視界からも消えて欲しい。
選択肢以外の行動も取れるのだが、まぁここは話を円滑に進めるために従っておこう。

→B.母さんが料理をする事があればそれ自体を褒めたいよオレは。

「あああああああああ!!! 言ったわねー!!!!」
 言うが早いか、母さんはガタンとテーブルを立ち、ドスドスと足音を立てキッチンに向かう。
「ちょっと待ってなさい! お弁当作ったげるから!!」
「あ、あの……お嬢様? 今からお作りになられても……」
「っさいわねー! 邪魔だからあっち行ってて!!」
「じゃ! じゃじゃじゃじゃ邪魔!! 私が……お嬢様の……邪魔モノ……ッ!!」
 ベルは大げさにヨロヨロとよろめきながら後ずさり壁の隅っこにうずくまってしまった。
可愛そうだが放っておこう。下手に構うとフラグが立ってしまう。
「イタッ! 熱っ!? きゃあああ! 火、火がっ!!」
 キッチンからなにやら物騒な声と音が響いて来る。母さんがフライパン片手に懸命に炎と格闘しているようだ。
まな板の上に雑然と積み上がったあの食材の中の何割が料理として無事に活用されるのだろうか。
恐らく、一割に満たないだろう。オレは心の中で近い将来無残な消し炭になるであろう食材たちに手を合わせた。
 ちなみに、Aを選ぶと鉄拳が飛んで来る。Cを選ぶと冷たい視線と含み笑いが突き刺さる。
……ろくな反応しやがらねぇところも本物そっくりですよね、ホント。

「……ってコトだからさ、マリィは先行っててよ」
「え~っ! でもでもぉ~っ」
「中学入ってすぐに遅刻なんて、ヤなんだろ?」
「う~~~~~っ…………」
 母の手作り弁当、なんて代物はマリィにとっても憧れだ。それを作る母さんを止められるはずも無い。マリィの分も
作ってもらうから、と付け加えると、それでも少し渋ってはいたがなんとか了承してくれた。
 お昼を一緒に食べる約束を取り付け、マリィは一人寂しそうに玄関を出て行った。……ごめんね、マリィ。

 よし、ここまでは順調だ。マリィを先に行かせ、一人で行動する時間が出来た。
 グゥによると、これが最後のプレイらしい。何もしなくても良い……なんて言っていたが、どういう事だろう。
それに隠しキャラの存在も気になる。オレはこのまままっすぐ学校に行って良いのかどうかも解らなかった。


「で……できたわ……」
「ああ…お嬢様、こんな姿になって……おいたわしい……」
 ───待つこと十数分、やっとお弁当が完成した。満身創痍の母さんをいつの間にか復活したベルが介抱している。
「さぁ……これを持って、あなたは早く行きなさい……私の屍を乗り越えて……強く生きるのよ……」
 あんたはどこの誰ですか。案外余裕そうでむしろ安心したよ、オレは。
 母さんに仰々しく手渡された巾着袋には四角く弁当箱の形が浮かんでいる。マリィの分も一つの弁当箱に収まっているらしく、
そのサイズはかなり大きめだ。
「中身は、何?」
「……お………」
 キッチンに置いてあった食材は全て消え去り、代わりに焦げ臭い匂いが辺りに充満している。なんとなく想像はつくが、
一応、お弁当に何が使われたのか聞いておいて損はあるまい。

「おにぎ……り………」
「おっ! お嬢様ああああ!!!」
 それが、母の最期の言葉だった。……さて、学校に向かうとするか。
「……って、ちょっと待ちなさい! あんた冷たいんじゃないのぉ!?」
 かと思ったら、あっさり復活した。やはり心配する程では無かったようだ。
 ってか、おにぎりを作るのになぜそんなにボロボロになるのか。何を焦がす必要があったのか問いたい。
どうせ全ての食材を燃えカスにしてご飯だけが残ったってトコだろう。まあ、いつかの日の丸弁当よりはマシか……。

「ウェダちゃん、僕の分は?」
「え? あ、忘れてたわ」
「そ、そんな……」
 あまりにもアッサリとした母さんの言葉に保険医はガックリと落ち込む。このへんの扱いも現実のままだな。
ちょっぴり哀れだが、まぁ何の問題もあるまい。むしろ良い気味だ。
「まぁまぁ、ハレと一緒に食べればいいでしょ。いっぱい作っといたから十分足りると思うわよ」
「え~~~? コイツとぉ~~~!?」
 言いながら、保険医はあからさまに嫌そうな顔で睨み付けて来る。こっちだって嫌だっつーの。
「あ、そーだ。どうせなら先生、学校までハレ送ってってよ」
「学校に車で行ったらなんか偉そうじゃんか。いいよ、どうせ遅刻する……じゃなくて、とにかく大丈夫だからさ」
 危ない危ない。どうせどうあがいても遅刻するんだから急いでも同じなのは確かだが、ここでそれを予言する意味は無い。
 それはともかく、保険医の車に乗ったらあのモジャモジャのルートに強制的に乗ってしまうのだ。それだけは絶対に
阻止しないといけない。
 ちなみに保険医はこの世界でも学校の保険医をしている。元は大病院に勤めていたらしく、母さんともそこで知り合ったので
いまだ「先生」と呼んでいる…なんて激しく無駄な設定も一応、あるようだ。

「僕も今日は無理だよ、学校行く前にちょっと寄るとこあるからね」
「あ……忘れてた。あの子が来るの、今日だっけ」
「相変わらずだなぁ、ウェダちゃんは……。ま、そーゆーコトだから、僕は空港に行かなきゃならないんだよねぇ」
「………え?」
 こんな会話、はじめてだ。グゥの言う隠しキャラが登場したせいだろうか。オレは注意深くその会話に耳を傾ける事にした。
「ハレ、期待しとけ?昼過ぎくれーになると思うけどな、お前のクラスにめちゃ可愛い子が転校してくんぞ」
「え、そ、それってリタの事?」
「お、なんだ耳が早いな。流石僕の息子だねぇ」
 しまった……思わず聞き返してしまった。オレがリタの事、知ってるはずがないじゃないか。オレがリタとはじめて合うのは、
学校に行く途中の曲がり角でだ。学校に向かう途中で道に迷ってうろついてる所をぶつかって、学校までオレが案内する事に
なるんだ。結局それでオレは遅刻するんだけど、その後、オレのクラスの転入生だって解って向こうから声をかけてきて、
マリィに嫉妬されて……なんて、どこかで聞いたような展開になる。リタのルートに入るための必須フラグだ。

「けどな、その子は昨日、日本に着いてんだ。オレが今から迎えに行くのはもう一人の子だよ」
 もう一人……?転校生がもう一人、オレのクラスに?そいつが隠しキャラなのは間違い無い。一体誰なんだろう?

「ちゃんとハレの隣の空き部屋、掃除しといてよね」
「わかってるって! ピッカピカにしとくから安心して連れて来てね」
「え……何の話?」
「うふふ、学校に行ってのお楽しみよっ」
 オレの気も知らず、母さんはいつもの楽天的な表情を崩さずピンと立てた人差し指をクルクルと回す。
 また、不穏な話が出てきた。オレの隣の部屋は確かに空き部屋で、半ば倉庫のような開かずの間になっている。
何か、物凄く嫌な予感がするぞ……。
 グゥは何もしなくても良い、と言っていたが、このままじゃ隠しキャラが誰なのか気になって落ち着かない。
こうなればさっさと学校に行って、その転校生を待つのが得策か。

「そ、そうなんだ! 楽しみだなー! それじゃオレもそろそろ行くよ!!」
 オレは声高らかに、意気揚々と玄関を飛び出した。
 ……でも、保険医によると転校生が来るのは昼過ぎってことらしい。今すぐ行ってもどうせ会えないか……。

 さて、どうするか。

 A:やはりすぐに学校に行って教室で転校生を待とう。
 B:お昼まで適当にぶらつくか。
 C:このさい、保険医の車に乗せてもらおう。

 ……なーんて。自分で勝手に選択肢を頭に思い浮かべてしまう。
 いよいよこの世界に毒されて来たかな、なんて思ったりもしたが、これで最後のプレイだ、ここはちょっと遊ぶか。
オレは自分の心の中の選択肢に従う事にした。

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