ハレグゥエロパロスレSS保管庫@ Wiki 070901_3

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ハレ×グゥ

ハレ×マリィ

ハレ×グゥ×マリィ

ハレ×ウェダ

ハレ×ワジ

ハレ×アルヴァ

グゥ×ウェダ

アルヴァ×グゥ

ポクテ×グゥ+α

クライヴ×ウェダ

ロバート×ウェダ

グプタ×ラヴェンナ

グプタ×ワジ

レジィ×マリィ

クライヴ×ワジ

ダマ×クライヴ

ハレとサニィ

その他

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小麦色の白雪姫_3(二:215-223)
 ……って、何だこの雰囲気は。
 ついさっきまでの騒々しさとのあまりのギャップに、頭がついてこれず身体も口も動かない。
 まあ、別にオレはこのままでも……いやいやいかんいかん。何考えてんだオレは。
このままではまた妙な空気に引きずり込まれてしまいそうな気がする。ここは何でもいいから
口に出すべきか。

「グゥ」
「ハレ」

 ───瞬間、お互いの口からお互いの名前が同時に飛び出す。
 至近距離で顔を向き合わせ、目線がぶつかった。
「……ぁ……」
「…………」
 次の言が出ない。それはグゥも同じようだった。咄嗟に視線をはずす、なんてラブコメの
ようなリアクションも取れず、ただグゥと見詰め合ったまま時間だけが流れていく。

 不意に強く、きゅっと手を握られる。それが合図のようにグゥは、静かに目を瞑った。
少しだけあごを持ち上げ、真っ直ぐこちらに向けられた唇がほんの小さく開く。
 しっとりと濡れた下唇の表面が、陽の光に照らされ艶かしく潤み、まるでオレを
誘っているかのように見えた。

 …………いやいやいやいやちょっと待て。さっきからなんだこの状況は。
 心臓がドクドクと早鐘のように高鳴り出す。額から流れ出る汗の中に、蒸し暑い気温に
よるものではない冷たいものが入り混じる。
 いつもの悪い冗談だろう。すぐに目を開けてまた皮肉げに笑うに決まってる。オレとしても
それが望ましい展開だ。グゥだってここでオレが本気で迫ってくるなんて思っちゃいないだろう。
……そう、オレには何も出来ないと高を括ってるんだ。

 オレの気も、知らないで。

 それならそれで良いじゃないか。どうせオレの期待通りの展開にはならないんだ。
全部、冗談で済まされるだけ。それなら、いっそ……。

 コクンと唾を飲み込み、小さく深呼吸をし覚悟を決める。
 グゥの肩を掴み、ゆっくり顔を近づけていく。薄く閉じた視界の先に、グゥ以外の
ものがフェードアウトしていく。そうして唇同士が触れ合おうとした瞬間……

 ……また、視界から遠のいていくグゥの顔。───ダメだ。やっぱり、そう簡単に
冗談だった、なんて割り切れるような行為じゃあ無い。朝の挨拶とは違うんだ。
たとえ、グゥの中ではお遊びの一つだとしても。
 だいたい、あのグゥがこんなに解りやすい展開で何か仕掛けていないはずが無い。
十中八九、いや、十中十。100%、罠だ。
 オレはグゥに感づかれないように肩に手を乗せたままそろりと後ずさり、ゆっくり
片手を退けると人差し指、中指と親指の先をくっつけ、グゥの口元に近づける。
 上手くいけば、グゥの罠の裏をかける。最悪、そのままグゥに飲まれてしまう
かもしれないが、頭から飲まれるよりは幾分マシだ。

 恐る恐る、静かに指先をグゥの口元につける。
 グゥは一瞬、ビクンと身体を震わせたが、特に避ける事も指にかぶりつく事も無く、
静かにオレの指を受け入れていた。
 僅かに開いた唇の細かい震えや表面の湿気が、指先からつぶさに伝わってくる。
思わず、本当にキスをしているような感覚に陥りそうになった。

 不意に、指先に強い圧迫感を覚えた。瞬間、グゥの手がすっと前に伸び空を切る。
そこは、オレがまだそこに居たならばちょうど腰辺りだったであろう位置。
 しかしオレは今、そこよりも人一人分くらい後ろに離れている。よっぽど体重をかけて
いたんだろう、グゥはそのまま前のめりに倒れ、マットに両手をついた。

 慌てて顔を上げたグゥは目も口も呆然と開き、何が起ったのか全く理解していないようだった。
 当のオレも、多分グゥとは違う理由で、今の状況が理解出来ていなかった。

 今、グゥは何をしようとしたのか。
 グゥはオレの指を相手に、何をしているつもりだったのか。
 ……グゥは、オレに何を望んでいたのか。

 最もシンプルで明快な答えはすでに、最初から頭の中にある。だけどそれを素直に認めるわけには
いかない。認めてしまったら、オレはグゥの行為を最悪の形で裏切った事をも認める事になる。

 ───想像してドクンと心臓が跳ねた。急激に加速する心音と、頭痛がする程に熱くなっていく
頭に反して、首から下の体温は背筋にツララを差し込まれたかのように低下していく。冷や汗すら
かかない程に肌は乾燥し、喉の奥もカラカラに干乾びていた。

 グゥはいまだ、マットに手をつけたまま動かない。伏せた顔からは表情を読み取る事も
出来ない。グゥの沈黙が、何にも勝る恐ろしげな声となって脳内に反響する。
「グゥ……」
 何を言えばいいのか解らない。だけど口を開かずにはいられなかった。その方が、ただグゥの
反応を待つよりもずっと気が楽に思えた。
 このままでは、自分の中で作り出した最悪の妄想に押し潰されてしまいそうだ。しかし、その口から
吐き出された言葉が本当に、本当にその「最悪」のものだったとしたら、オレはその時こそ本当に
心臓の動きの一つも止めてしまうのでは無いか。

「ハレ……」
「────ッ」
 小さく。波の音にすらかき消されそうな程に小さな声で、グゥがオレの名を呼んだ。
 ドクンと心臓が跳ねる。呼吸をする度に心臓ごと吐き出してしまいそうだった。
 ゆっくりと頭を持ち上げるグゥの目線から逃げないように、必死で身体中に力を入れる。
ここで逃げたら、もう二度と取り戻せない何かを失ってしまう気がした。


「よくぞ見破った」
「…………へ?」
 ……しかし、パッと上げたグゥの顔は腹立たしい程にいつも通りで。
 オレの葛藤など全くの徒労だとでも言わんばかりに、これまたいつも通りの平坦な声で
そう言葉を吐いた。
「聊か、シチュエーションがベタすぎたか?」
 ふむ、と呻りながら、指であごをこする。
 急激に、頭に溜まった血が下りていく。凍えていた身体にも体温が戻り、胸の中に蟠った
重く暗いものがすぅ、と解消されていく開放感が身を包む。
 首の上に振り下ろされたギロチンが、紙一重で止まったような感覚。オレは長い間呼吸を
するのも忘れていた気がして、思い切り肺の中の空気を吐き出した。
「なんだよ、やっぱ冗談だったのかよ?」
「当たり前だ。……少しでも期待したか?」
「すっ、するわけねーだろそんなのッ」
「……だろうな。まったく、こ、こんな所ばかり……知恵を、つけおって……」
「…………おい、グゥ?」

「こっ、今度は……もっと、お色気、ほう…方面で………攻め……ッッ」
 その口からは、相変わらず冗談めいた言葉ばかり出ているのに、その声は息切れしているように
ぷつぷつと途切れ、嗚咽すら入り混じっているように聞こえた。普段の不機嫌そうな表情を一層に
しかめ、瞳からは大粒の涙が零れる。
「お、おい、なんだよ、それ」
「…………な、んだ?」
 戸惑うオレの様子に、グゥは「何かあったのか」と言わんばかりにきょとんとした顔を返す。
しかし、頬を伝う雫がマットにパタパタと落ちた時、はたと自分の顔に手を添え目を見開いた。
「……なんだ、これは」
 掌に付いた液体をしげしげと眺め、呟く。自分が涙を流している事に、自分自身が
一番驚いているようだった。
「こ、れは……これは違うッ!」
 ぐいぐいと腕を目に擦り付けるが、何度拭っても涙は関を切ったように溢れ出る。
「違う、違うんだ……」
 何かに怯えるようにグゥはオレから後ずさる。そのまま勢い立ち上がり、オレに背を向けた時
ようやくオレは自分のしでかした事の罪深さに気が付いた。

 ───あの時、指先に感じたグゥの震えも、グゥの熱も、確かに本物だったのだ。
 身体に戻った体温はあっさりと正常値を超え、いつの間にか全身を茹るような暑さで包んでいた。
頭は沸騰し、冷たい汗が止め処なく流れ出る。
 オレの首はまだ、断首台に拘束されたままだ。放っておいたら、再度勢いを付けたギロチンが、
今度こそオレの首を撥ね飛ばさんと落下してくるだろう。もう、選択を誤るわけにはいかない。

「グゥ! ごめん、オレ、そんなつもりじゃなかったんだ」
 グゥの背後に立つ。走って逃げられなかっただけ幸いとも思えたが、今後どうなるかは
解らない。肩にそっと手を乗せ、気持ちが伝わるように真っ直ぐに言葉を紡ぐ。
「少なくとも、グゥの思ってるような事じゃない。多分……絶対、違うから」
 肩が小さく震えているのが解る。嗚咽は収まってきていたが、涙は止まらないのか
目を指で擦り続けていた。
「……お願いだからこっちを向いてよ、グゥ」
「………ふふふ」
 不意に、グゥの肩が大きく揺れた。くすくすと笑う声と共にグゥは肩越しにこちらを見やり、
ニヤリと口端を歪める。
「今度は騙されたな、ハレ」
 得意そうに含み笑いを続けながら、皮肉げに声を上げる。
「……流石に、それは無理あるよグゥ」
「無理でも、いい。冗談、って事に、……して、っく……くれ」
 しかし、それは先ほどのようにオレの心を晴らしてくれるような物では無かった。

 そんなに目の下を真っ赤にして、
 そんなに顔を、耳まで上気させて、
 まだ涙も細く頬を伝っているのに。
 精一杯平静を装って、無かった事にしようとしてる。してくれようとしてる。
無理に作ったグゥの笑顔に、胸がちくりと痛む。
 でも、今なら、それで本当に済ませる事が出来るんじゃないか。それを、グゥも
望んでいるんじゃないのか。……一瞬過ぎったそんな弱気に、心の中で頬を叩く。

「……グゥ!」
 グゥの前に回り、肩を強く掴む。
 正面から見たグゥの顔は、肩越しに見た時よりもずっと痛々しかった。胸に手を当て
縮こまるように肩を竦め、ひぐっと嗚咽に喉が鳴る度に身体を揺らす。あのグゥのこんなに
弱々しい姿を見るのは、はじめてだった。
 もう一度、ごめん、と謝罪の言葉が口をついて出そうになるが、寸前でぐっと飲み込む。
ここで謝っても何にもならない。そんな言葉より、もっと言わなくちゃいけない事がある。

「グゥ。これは、冗談じゃないから」
「え……?」
 オレは返事を待たず、グゥを強く引き込みその口に唇を寄せた。

 ───瞬間……バチンと、何かが破裂したような音が耳元で炸裂した。同時に、両頬が
じんじんとした痛みと強烈な圧迫感に襲われる。

 グゥは、はぁはぁと肩で息をしながら思い切り身を引いていた。
 オレの手が肩を掴んでいるためそれ以上離れられないのだろう、その腕はオレとの距離を
固定するようにオレの顔に真っ直ぐ伸びている。いまだ頬をぎゅうぎゅうと挟み込んで
いるものはグゥの掌だったようだ。
「何、考え、てる」
 オレの頬をぐにぐにと捻りながら、荒げた息に合わせるように言葉を吐く。
「見ての、とおりらろ~ッ」
 ひしゃげた頬からひょっとこのように唇を伸ばし、無理やり顔を近づけるがグゥも腕に
力を込め、オレの頬を挟み潰さん勢いで押さえ付けて来る。
「こ、こんな時にふざけるな……このエロガッパッ」
「ジョーダンじゃないって、いったろッ」
 互いに必死の形相で距離をせめぎ合う。それでもオレの力が幾分勝っているのか、
じわじわと少しずつ空間が縮まっていく。
「ちょ、っと待てぇぇ~~~~っ!」
「今さら、待てるかぁぁ~~~~ッ!」
 肩を掴まれているためグゥは身をよじることも出来ない。首から上だけでもなんとか
逃げようと限界まで後ろに引き、顔を背ける。そうしなければ唇が付きそうなほどに
オレの顔はグゥに接近していた。

「ハレ……本当に、ほ、本気なのか……」
「さっきから、そう言ってるだろッ」
「本当に……本当に……もう、冗談で済ませたら、怒るぞ……」
「……そりゃこっちの台詞だッ! オレだって、あん時、グゥが本気って解ってたら……」
「────ッ」
 言い終わる前に、ふ、とグゥの手が緩んだ。力いっぱい引き寄せていた勢いそのままに、
オレの唇はグゥにぴたりと吸着する。ただし、グゥが顔を背けていたため、ほっぺたに。
「ぅあ……ッ」
 グゥのぽってりとした頬の柔らかさが、唇を通して伝わってくる。オレは構わず頬に吸い付き、
ちゅ、ちゅと音を立てぷるぷると張りのある弾力を味わいながら頬の上を這い回った。涙の跡を
消すように舌でなぞり、赤くはれた目の下や瞼にもキスを落とす。その度にグゥは口をぱくぱくと
金魚のように開け、小さく吐息混じりのくぐもった声を漏らした。

 最初はグゥも肩を竦め全身に力を込めていたが、今やその身はくったりと弛緩し、ふるふると
小刻みに震えオレにされるがままになっている。
 最後にちゅっと強く音を立て、唇を離す。グゥは、ハー、ハーと長く細い息を吐き、のぼせた
ような顔でぼう、と虚空に目を彷徨わせていた。オレが手の力を緩めると、そのままぱたりと
オレの肩に持たれかかる。首筋に熱い息がかかり、ゾクリと背中を生暖かいものが走り抜けた。

 ……ここまできたら、もう言い訳は出来ない。するつもりもない。
 グゥの肌、体温、匂い、息遣い。この手が、唇が、全身がグゥを感じれば感じるほど、
益々グゥに対する想いは強くなる。身体の芯には熱がしっかりと灯り、はち切れんばかりに
張り詰めている。
 この熱をグゥにぶつけたい。発散したい。その身体を今すぐ抱き締めたくなる衝動をぐっと
抑え込み、いまだオレに持たれかかっているグゥを抱き起こした。

「……ず……いぶん、好き勝手、してくれたな……」
 乱れた息は幾分か回復し、その表情にも余裕の色が見える。だが身体にはまだ力が入らない
ようで、オレに支えられていなければ倒れてしまいそうだった。もう少し、休ませてあげた方が
良いだろうか。それでなくとも、グゥの心は今非常に不安定なのだ。このまま勢い任せに突き
進んでも、弱みにつけ込むようで気が引ける。
「どうした。何か言う事が、あるんじゃないのか?」
「……グゥ」
 グゥはそんなオレの気持ちを見抜いていたのだろう。やっぱり、グゥはオレなんかよりも
ずっと強い。その強さに甘える自分の弱さも、認めなくちゃいけないんだ。弱いオレは、
ただ自分に出来る事をやるだけだ。難しい事を考えるな。素直に、真っ直ぐに自分の気持ちを
伝えるだけでいい。
 喉の奥に溜まる唾をごくんと飲み込み深く息を吸う。

「オレ、本当に本気だからなグゥのことッ!」
 真っ直ぐにグゥを見詰め、一息に、肺の中の空気を全て吐き出す勢いで言い切った。
 しかし、その言葉が聞こえていたのかいないのか、オレの渾身の告白にもグゥは
その目に何も映さぬまま呆然としたままだった。
 まさか、本当に聞こえていなかったのだろうか。もう一度さっきの台詞を言う羽目に
遭うのでは……。

 しかしその時、パチンと、グゥの両手がオレの頬を鳴らす。ただ、先ほど受けたものよりも
ずっと柔らかく、オレの頬に手を添えるついでのように。
「……いいか。もう反故は効かんぞ。冗談だったら死を覚悟しろよ」
 グゥの目が、生気を取り戻していく。
 眉を顰め、口を一文字に結び、潤んだ瞳で真っ直ぐにオレを見る。その表情はまた、
今にも泣き出してしまいそうなものに見えた。
「お前なあ、自分の行動をちょっとは省みろっての。グゥが普段から嘘、大げさ、紛らわしい
言動繰り返してるから、こーなったよーなもんだぞ? 自業自得!!」
「……解ってる。反省した。でも、背中を押したのはハレなんだぞ?」
 オレの言葉に、グゥは一瞬しょんぼりと俯いてしまうがすぐにぱっと顔を上げ、
拗ねるような声でそう言った。
「グゥだって、いつもならあんな真似はしない。でも、ハレが……」
「オレが、何だよ?」
 グゥはまた俯き、きょろきょろと落ち着き無く目を泳がせる。言いかけた事を最後まで
口に出すかどうか、迷っているようだ。
 しばしそうして俯いていたが、やがて決心が付いたのか、勢いよく顔を上げると、
「ハレが、グゥの事、綺麗だとか見惚れた、とか言うから……ッ」
 そう、一直線にオレに言葉をぶつけた。

「…………は?」
 その言葉に、オレは呆けた声を返してしまう。たったそれだけの事で、グゥの内情にいかなる
変化をもたらせたと言うのか。
「心の持ち様の話だ。……本当に、嬉しかったんだ。ドキドキした。心臓が爆ぜて口から飛び散るかと思った」
「……ありがとう。オレにとってもあれは素直な気持ちだったし、そんなに喜んでくれてたなんて
オレも嬉しいよ。でももうちょっとこう、乙女らしい表現は無かったのかな……」
「とにかく、あのハレの言葉で、グゥは勢いに乗ろうと思った。今なら、自分の心に素直に行動が出来ると」
「……いつも、これ以上無いくらい素直だと思いますけど」
「それとは別だ。解ってるくせに意地の悪いやつだ」
「いや、絶好の反撃のチャンスは今を逃したらもう無さそうだからね」
「まったく。ハレは乙女心と言うやつをもっと勉強した方が良い」
 そう言ってグゥは、飽きれたようにくすりと微笑った。
 ようやく、グゥに本当の笑顔が戻った。オレもつられて笑顔になる。

「───ホントはな。半分くらいは冗談のつもりだったんだ。叶わぬなら、それでいいと思って
いた。……だが思いのほか、グゥは期待してしまっていたらしい。あの醜態は、それでだ」
 あの時の自分の姿を思い返しているのだろう。気恥ずかしそうに目を瞑る。
 グゥの言葉が、真っ直ぐにオレの心に伝わる。その葉に衣を着せない言動は時として、
いやおおよそ毒舌へと成り果てる場合がほとんどだが、こうして自分の心を打ち明けて
くれている時の明け透けな物言いは、オレの心に本当に素直に響く。

「状況に流されやすいハレなら、まず食いついて来ると思っていたしな……」
「わあ、ご明察。こーゆー時くらい計算を織り交ぜないでくれると思い出がより輝かしいものに
なったと思うんだけどなあ?」
「……そう言うな。グゥは自分の意思のみを信じて行動する勇気を持って無いんだ。……臆病なんだ、これでも」
「グゥ……」
「グゥにしては頑張った方なのだぞ。計算なぞ、たった6割強程度だったからな」
「それでも過半数!?」
 グゥの開けっ広げな口様は、本当にオレの心に素直に響き渡ってくれる。普段は何割が計算ですかね。
聞くのも怖いから、聞かないけど。

「……さて。グゥもここまで打ち明けたのだ。ハレにも素直になってもらおうか」
「へ? い、いや、オレはさっきから十分素直に気持ちを伝えてると思うけど?」
 グゥの目がきらりと光る。もう、完全にいつもの調子が戻ったようだ。
嬉しい反面、その久々に感じる強烈なオーラに少し気圧されしてしまう。
「もっとハッキリ言え」
 ぐっとオレに詰め寄り、痛いくらいに手を握って来る。
「ハッキリ言ってるじゃんか。オレ、グゥのこと、本当に大事に……」
「違う。もっと適切な言葉があるだろ。それじゃないと、聞かない。絶対、聞かない」
 グゥの声が、段々そのトーンを上げる。いつもよりもずっと気を張った……いや、張り過ぎた声。
何かに耐えているかのようにじっとオレを見据え、オレの手を握るその手は少し震えていた。

 ───適切な言葉。具体的に、直接的に。最も率直にオレの気持ちをグゥに伝える、シンプルな
言葉。それを口に出す権利を、与えられたのか。それだけでオレの胸は張り裂けそうな程に高まる。
よし、と腹に気合を込め、オレは大きく口を開いた。

「……っす、……好……」
 ……しかし、何故か以前にも増してカラカラに乾いた喉がそれを阻止する。
たった二文字の言葉が、喉の奥につっかえて出てこない。
 別に、難しい事じゃないはずなのに、たった二文字のシンプルな言葉なのに。
そのシンプルさ故に、その単語が意味するものは、重い。
 そんな言葉、これまでどんな意味にせよ、グゥに対して使った事など一度も無いのだ。
何度か頭の中で予行演習じみた事を想像した事はある。オレの設定したプラン通りの
流れなら、いくらでも口に出来よう。だけどこんな急展開、想定もしていない。
 頭の中をぐるぐると思考が渦を巻き、くらりと眩暈がした。

「───あれ?」
 本当に目の前がぐるぐると回っている。グゥの顔が下方に消え、真っ青な空の中を白い帯が
高速で走り抜けていく。
 最後に青い背景の上から白い砂浜が現れた瞬間ドサンと、背中に衝撃が走る。……はずだった。
地面に付く寸前で、オレの背中は何故か宙に浮いていた。
「ハレ、どうした? 大丈夫か?」
 のけぞった頭を持ち上げ、声のする方を見る。グゥがオレの両手を握り締め、心配そうな
顔で見下ろしていた。グゥがオレの手を握ってくれていたおかげで、間一髪助かったらしい。
 太陽がグゥの身体に遮られ、その輪郭を白く浮き立たせる。……綺麗だな。素直にそう思った。
それを伝えようと勝手に口が動く。でも、その前に感謝の言葉が先か。ぼやけた頭の中を今
言うべき適切な言葉が巡り、

「好きだよ、グゥ」
 けろりと、当たり前のようにそんな言葉が口から零れ出た。
 ……なんだ、やっぱり簡単じゃないか。問題は、その言葉の意味する感情が
どんな時にこの少女に対して強く湧き上がるか、って事か。

「……なんだそれは」
 ぐいと手を引っ張られ、オレはまたグゥの前に戻される。
 グゥは眉間に深くしわを刻み、明らかに不機嫌な様子でオレを睨み付けていた。
 ちゃんとしっかり目の前で、ハッキリと口に出してやったのに何故そんな顔を
されねばならないんだ。
「そんな、思わず口に出た、みたいな言い方で納得できるか」
「しょうがないだろ。思わず出たのは、本気でそう思ったからだよ……」
「そ……ッ!」
 グゥはオレの言葉に一瞬目を見開き、すぐにぷいと顔を背ける。
「……それは、解ってる……」
 そしてブツブツと小声でそう漏らした。
 グゥの顔が、みるみる上気し赤らんでいく。オレの顔も、先ほどから赤くなったり青くなったり
忙しくてあまり自覚は無いのだが、きっとグゥと同じようなものだろう。さっきから、随分と
恥ずかしい言動や行動を連発してしまっている気がする。

「とにかくっ。グゥに言えと言われたから出た言葉じゃないんだろ、さっきのは」
「なんだよそれ、無理やり言わしたいっての?」
「そーだ。無理やり言わせる事に意味があるんだ」
 うう、グゥの主張は良く解らん。しかしグゥにとっては大切な事らしく、その目は
真剣そのものだ。
 ……まあ、今さらいくらでも言ってやる事は吝かではないが。改めて面を向かって
言うのはやはり照れくさい。……だが言わないとグゥも収まりが付きそうにない。
ここはオレが折れるしかないのか。
「ほら早く。出来るだけ大声でな」
「……あーもう! 好きだよ、好きだっ! もう、グゥッ!!」
 オレは海に向かい半ばヤケクソ気味に、水平線の彼方へ届けとばかりに大声で叫んだ。

「どーだ、これでいー────ンむッ!?」
 そうしてくるんとグゥに向き直った瞬間、グゥは飛び掛るような勢いでオレに抱き着き、
その唇をオレの口に押し当てた。
 水がいっぱいに張り詰めた、薄い皮膜。それが第一印象だった。頬のそれとは全く違う種類の
柔らかさ。オレの唇の形に合わせるようにくにゅくにゅと流動し、細かく揺れる。その表面は
常に水分が染み出しているのか過剰な程に潤い、しっとりと吸い付いて来る。
 これまで味わった事のない、未知の感触だった。

「……もう一度っ」
 ぷはぁ、と唇を離し、キラキラと輝く瞳にオレを映す。
「……次はグゥだろ。オレはグゥの気持ち、聞いてないぞ」
「む……」
 オレの言葉にグゥは一瞬たじろいだが、すぐに薄く微笑うとまた強引にオレの唇を奪う。
 唇を重ねたまま、グゥの口がもごもごと動く。そしてその動きに合わせるように口内に
二度、熱い吐息が流れ込んで来た。いつもグゥの傍で感じていた甘い匂いがもっと、ずっと
強烈に口内を通り鼻腔の奥へ流れ込んでいく。
 グゥの匂い。石鹸のものでも、洗剤のものでも無い。グゥそのものの匂いがオレの中を
満たしていく。

「っぷぁ……聞こえたか」
「……ずりぃ……」
 こんな時でもグゥは挑戦的な表情と態度を崩さない。やっと、グゥらしいグゥが見れた。
思わずくすりと笑みを漏らしてしまう。
「……なんだ?」
「なんでもないっ」
 今度はこちらからグゥを抱き寄せ、唇を押し付けてやる。
 グゥはむぅ、と不機嫌そうに小さく唸ると下唇を甘く噛んで来た。お返しに、上唇に吸い付く。
そのまま唇の裏に舌を伸ばし、粘膜部分をなぞるとグゥはピクンと震え、その身体がぎゅっと
固くなるのが解った。

 ……やりすぎただろうか。舌をそっとグゥから離す。が、その舌を追いかけるように何か生暖かく
ぬめった感触がぴたりとくっついてきた。それが舌の輪郭に沿ってつつ、と滑らかに移動する。
くすぐったいような心地いいような感覚が、ゾワゾワと背中の奥を走り抜けていく。
 思わず唇を離すと、口の先からうっすらと細い糸が伸びているのが解った。その糸がUの字を
描きながら真っ直ぐに、グゥの口元、小さくちろりと出した舌の先へと伸びている。

「……いいぞ」
 グゥはオレの肩に手を回し、気恥ずかしそうにこくんと頷き、舌を出したまま静かに目を瞑った。
 ゴクッと、喉が鳴った。だけど、いくら飲み込んでも次々と口内に唾液が溜まる。もう一度
コクンと喉に水分を通し、オレからも舌を出してグゥに顔を寄せた。
 ほんの少し、先端同士が触れただけで、身体が飛び跳ねた気がした。地震でも起きたかのように、
自分の軸がぶれたような感覚。
 思わず、はぁぁ、と息が漏れる。今、オレはグゥに物凄い事をしている……それは昨日までは、
いや、ついさっきまでは想像も出来なかったくらいに大胆で、いやらしい事。ある種の背徳感と、
その行為を許されたと言う高揚感が交互に襲い、それがなんとも言えず快感だった。
 腰が引けそうになるのを我慢し、しっかりとグゥを抱きグゥの舌の上に自らの舌を這わせる。
舌を少しずつ動かすと、グゥはその度に喉の奥から、んんッ、とくぐもった声を出し、小刻みに
震える。目は固く閉じられ、首に巻かれた腕にも力が入る。
 そのまま舌の上を真っ直ぐ移動し、根元へと通じる入り口に舌で割って侵入する。グゥは
一瞬、身体を強張らせたがすぐに力を抜き、少しだけ口を開きオレの舌を招き入れた。

 生暖かいゼリーのようなものがオレの舌に絡みつく。それは決まった形が無いかのように
柔らかく、ぬるぬると滑り、甘い味がした。
 グゥはオレの首にしがみつき、ただ夢中で唇を押し付けて来る。オレも背中に手を回し、
唇も、身体もより強く密着するように強く抱き締めた。
「ん……く、ちゅ、っぷぁ……はム、ん、ふ……」
 口内粘膜に舌を這わせ、表面を覆う唾液を掬い取る。くちゅくちゅと音を立て互いの唾液を
かき混ぜるように舌を絡め合い、溢れ出る粘液を口内で交換する。口端に立てた泡から垂れる
唾も舐め取り、口内に戻す。もう、自分の舌が何に触れているのか解らないくらいにその中は
とろとろに蕩け、自分の舌もその中に混ざり合ってしまうのでは無いかと思った。
 息を継ぐため一旦唇を離してもすぐにどちらとも言わず唇を奪い、口内に舌を差し入れ、
そうして何度も貪るようにキスを重ねる。
 頬や首筋、耳にも啄ばむようにキスの雨を降らせ、顔中にお互いの唇や舌が触れていない
場所が無くなった頃、ようやく唇が離れた。

 そのまましばらく、オレもグゥも大き乱した息が収まるまで、互いの身体にもたれ
肩に頬を寄せ、支え合うように抱き締め合っていた。

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