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****メイドインヘヴン(二:90-97) 「ほら、早く来て。母さん、最近全然シてないからすっごく溜まってるのよぉ……」  ベッドにうつ伏せに寝そべり、甘ったるい猫なで声でオレを誘う。自らの腕を枕にし、足をパタパタと 仔犬のしっぽのように振るその子供っぽい無邪気な仕草とは裏腹に、オレを真っ直ぐに見詰めるその潤んだ瞳や 艶やかな声は、実の息子であるオレから見ても十分に大人の女性としての魅力に溢れていた。オレはその瞳に、 その声に惹かれるように彼女の傍らに腰を下ろす。 「うふふ……ホントに久しぶりね……。私はもう準備できてるから、早くしましょ……」  母さんはそう言うとオレのふとももにくすぐるように指を這わせた。  じわりと、熱気が伝わってくる。湯上りのまだ乾き切っていない、ほんのりと上気した素肌がぴたりと密着し、 むっと湿り気を帯びた空気が周囲を包み込んだ。 「……でもさ、こんなこと子供にさせるなんて……やっぱりおかしいよ……」 「だって……ハレすっごく上手なんだもん。アレを知っちゃったらもう……もう一人じゃ満足出来ないの」  言いながら、待ちきれないとばかりに自らの小さな穴に指を挿し入れ、ほじくるように動かす。 既に十分に濡れているのだろう、そこは指の動きに合わせちゅくちゅくと空気交じりの液体音を立てる。  先ほどの言葉の通りよほどご無沙汰だったらしく、それだけで母さんはその顔をだらしなく弛緩させ、 ハァァ、と熱っぽい息を吐いた。 「ンン、もう駄目ぇ……ハレ、お願い、して……」  自分でそこを弄りいよいよ我慢が出来なくなったのか、オレの下半身に強く頭を押し付け、哀願するように 切なげな声を出す。  オレはコクリと小さく喉を鳴らし、彼女の敏感な部分へとゆっくり、しかし力強く真っ直ぐに突き入れた。 「ふ、ン……あ、ひぁッ、くぅぅん……ッ」  途端に、母さんはヒクンと小さく震え、蕩けた嬌声を上げた。オレは構わずにどんどんと奥へ侵入して行く。 「……あっ、そ、そこっ……もっと、強……くぅぅ……ッ」  先端を壁に押し付け、カリカリと擦るように何度も出し入れすると、母さんはシーツをギュっと握り締め、 何かに耐えるように身体を強張らせる。しかしその表情はとろんと弛緩し、恍惚に浸っているように見えた。 「あんまり強くしたらあとでヒリヒリするからダーメ」 「でもそこすっごく痒いのよぉっ! あ、そ、そこも! そこも気持ちいーッ」  棒の先端に付いた垢を、横に広げたティッシュに落とす。本当に長い間掃除していなかったようで、既に かなりの量の垢がティッシュの上に散らばっている。この分だと反対側も相当な事になっていそうだ。 「ったくもう、何で息子が母親に耳掃除したらにゃならんねん……普通逆じゃないの?」 「よそはよそ!うちはうち!」 「それを口に出しちゃあもうオバサンだよ、母さん……」  耳かきなんて本来、母親が息子にしてあげる行為だろうに、このぐうたら人間は「怖いからやだ」と これ以上ないくらいシンプルかつ情けない理由により断固拒否の姿勢を守っている。  オレがもっと小さかった頃はしてくれていた記憶があるのだが、いつの間にかパタリと母の耳掃除の記憶が 途絶えているのだ。母に問いただしても、何故か瞬時に青い顔になり口を閉ざしてしまう。その原因を探ろうと 記憶を辿ると何故か耳の奥がキリキリと痛む。思い出してもあまり良い予感がしないので、いつしかオレも 考えるのを止めた。  ジャングルはすっかり夜の帳が落ち、窓から見える家々の灯りもまばらになってきていた。我が家もとっくに 夕飯を済ませ、後は風呂に入って寝るだけだ。……と思っていたのだが、お風呂から上がってきた母さんから突然の 耳かき要請を受け、今に至るってワケだ。最初はオレも渋っていたのだが、母さんの駄々っ子には敵うはずも無い。 「……ところで、さっきから何見てんのさ、グゥ?」  そんなオレと母さんの様子を、ベッドの前にしゃがみあごに手を乗せじぃ、と観察するように眺めていたグゥに 声をかける。何か物珍しいものでも見るような興味深げな瞳でこちらを見詰めていた彼女はオレの言葉にスッと 眼を細め、小さく溜息を吐くと静かに口を開いた。 「……ありきたりなオチだな」 「いきなり何の話ですかね?」  そしてオレの声が聞こえなかったのかあえて無視したのか……恐らくは後者だろうが……突然ワケの解らない事を 口走る。まあ、きっと理解し難いと言うかしたくもないような部分から発せられた言動なのだろうから追求はせんが。 「いっそマジネタでもよかったと思うぜ?」 「流石に実母とソレはダメだろ……」 「なんだ、ちゃんと解ってんじゃん?」 「勝手に心読むの禁止!!」 「ああああああああもう、途中で放置するなあああ!!」  唐突に、軽く失念してしまっていたひざの上の母が暴れだした。  母さんはハァハァと息を荒げ、涙を湛えた瞳でこちらを睨み付けて来る。しかし焦らされるのも快感なのか、 その瞳はどこか媚びる様な、甘えた色を含んでいるように見え 「勝手に話をそっち方向に持ってくのも禁止ー!!」 「ちゃは☆」  ダメだ、こいつがいると話が捻じ曲がる。勝手にオレの心象世界に侵入した挙句に捏造まで図るとは……。 思えば冒頭からしてなんだかおかしかった気がするぞ。何が悲しゅうてオレがこの飲んだくれに大人の女性の 魅力を感じにゃならんねん。 「だから、放置するなって……み、耳が……かゆ、うま……」  意地でも自分で耳をほじるのは嫌だったのだろう、母さんはいつの間にか青い顔でふるふると小刻みに痙攣し 軽く泡まで噴いていた。痒みも極まれば拷問に成り得ると聞いた事がある。発狂する前に救ってやるべく オレは速やかに耳掃除を再開した。 「はい、こっち終わり」  そんなこんなで、片側の耳はすっかり綺麗になった。オレは最後に耳かきの尻についている綿を 耳に入れ、ワサワサと回す。 「うわひゃっ! そ、それは良いって言って、ひょわうぉえあっ!」  コレをすると母さんはくすぐったいのか、いつも謎言語を発する。毎度毎度「それはやめろ」と 言われるのだが、反応が面白いので絶対やめてやらない。せめてものささやかな反抗の証なのだ。  綿での掃除も終わり、耳かきを抜き取ると一拍置いてくるんとこちら側に顔を向け反対の耳を晒す。 やはりこちら側もかなり垢が溜まっている。こんなの見たら、なおさらこの女に大人の魅力を 感じる事など永劫なかろうな、と強く確信を深めるぞ、オレは。 「母さんさ、ちょっとは自分で掃除しなよ~」 「やーよ、近くにこんなテクニシャンがいるのに、自分でしたら勿体無いわ」  自分の耳かきの腕など自分で確かめようも無いのだが、母さんはいたくお気に入りのようだ。 自分で自分の耳をほじっても特に何も感じやしないのだが。下手でもいいからたまにはオレも 人にされたいものだ。  もう片方の耳の垢も綺麗に取り除き終わる頃には、母さんはオレのひざの上でぐっすりと寝こけてしまっていた。 このまま起こさずにそっとしておこう……なんて優しさは今のオレには微塵も無いぞ。オレは躊躇無く耳かきの綿を 耳に突っ込み念入りにほじくってやる。  途端に母さんは「ほにゃあ」と頓狂な声を上げ大きく目を見開き、「あぇやほょわ」やら「うにゅるにゅにゃ」などと 難解極まりない言語を発して悶え続ける。うむ、母さんの耳の中と共にオレの心もスッキリ晴れ晴れだ。  しかしあまりやりすぎると後が怖い。適当な所で綿地獄から開放してやり、これでおしまい、と母さんの頭から ひざを抜きベッドから降りる。母さんはそのままの体勢でゴロゴロとベッドの上を転がり仰向けでのびのびと身体を広げ、 まるで憑き物が落ちたようなスッキリとした顔で、くはぁと大きく息を吐いた。早速お休みモードに入ったようだ。 お礼にあなたの耳もかいてあげる、なんて事は微塵も期待させぬその潔さにいっそ清々しささえ覚えるわ。  オレもさっさと風呂に入って寝るか、とバスルームに向き直った時、何やら訝しげな表情で固まっている グゥの姿が目に入った。その手に持った耳かき棒をじっと見詰め、何か考えているようだ。  グゥがあんな顔をしている時は、たいていろくな事を考えちゃいない。オレはそそくさとバスルームに 引っ込もうと早足にグゥの脇を通り過ぎる。 「……ハレ」  ……が、グゥに背を見せた瞬間、ガッシリと肩を捕まれてしまった。嫌な予感がする。物凄く嫌な予感がするぞ。 オレは小さく溜息を吐き、顔だけをグゥに向け、「何?」とだけ答えた。 「いつも見ていたのだが……これでハレはウェダに何をしているのだ?」  そんなオレの気を知ってか知らずか、グゥは妙に神妙な声で尋ねて来る。オレが母さんの耳を掃除している所は グゥも何度も見ているはずだが、何をしているのかは解っていなかったらしい。  そう言えば、グゥが耳掃除をしているところなんて見た事がない。こいつは普段どうやって耳を洗っているのやら。 「あれ~? グゥちゃん耳かき知らないのぉ~? あの気持ちよさを知らないなんてもったいな~い」  ベッドの上から酔っ払ったような声が届く。まだ眠ってはいなかったようだ。よく見たら母さんの周りには いつの間にかビールの缶が数本転がっていた。酔っ払ったような、じゃなく普通に酔っ払いだ。 「ふむ……どう使うんだ?」 「どうって……普通にそれで耳をほじるだけだけど」 「ダメよぉ、初心者は自分でやっちゃ下手すりゃ大惨事よ~。ハレにやってもらいなさいな~」  自分で耳をほじる真似をするオレをよそに、母さんは無責任にオレの耳かき推薦状を発行した。 確かに、耳かきの使い方も知らない人間に一人で耳をほじらせるのは見ているこっちの心が休まらない状況ではあるが 相手は誰でもない、あのグゥだ。下手すりゃ耳の中も四次元に繋がってるかもしれん。変に耳をいじくって 吸い込まれでもしたらそれこそ大惨事だぞ。オレが。 「ハレのテクでグゥちゃんもメイドインヘヴンよ~」  いいからアンタは早く寝れ。これ以上話をややこしくしないで頂きたい。 「ハレ……」  しかし、時既に遅し、か。グゥは何かを期待する眼差しでオレと自らの手に持った耳かきを見比べ、 「別に……ハレが嫌ならいいのだぞ……」  不安げにオレの目を覗き込むと、小さく、そう呟いた。 「い、嫌なんてそんな事ないよ! 耳掃除くらいいくらでもやってあげるから……」  その表情とその声は、反則だ。オレは半ば反射的に、そう答えてしまった。 「そうか、ならば早速やってもらおう」  そしてオレからの了承の言質を取るやいなや、グゥはパッと普段の仏頂面に顔を戻しベッドに寝そべった。 毎度釣られるオレもオレだが、何の躊躇も無くそれを利用するこの少女にも誰か何らかの天罰を与えてやってはくれまいか。 ついでにベッドの上で「アンタそんな風だと将来苦労するわよ」などとのたまっている酔っ払いの口も封じて頂きたい。 今だけで良いから。ってか、言われなくても既に苦労してますよね、オレ。  オレは小さく溜息を吐き、諦観の念でベッドの淵に腰を下ろす。グゥはオレの横でごろんと寝転がったままだ。 「ほら、してやるからさっさとこっち来なよ」  催促するようにぽんぽんとふとももを叩く。耳掃除をするならここに頭を乗っけてもらわないとやりようがない。 グゥはオレの言葉に何故かびっくりしたように目を開け、小さく「うん」とだけ呟くとおずおずと遠慮がちに オレのふとももに頭を乗せた。まずは右側からか。グゥはオレに背を向ける状態で横たわっている。  しっとりと湿った髪の感触がふとももに伝わる。グゥも、先ほど母さんと一緒にお風呂に入ったばかりだ。 母さんの時に感じたような身体の熱気は感じなかったが、それでもまだ冷め切ってはいないのだろう。グゥの 色白な顔は少し上気し、赤みを帯びていた。  湿り気を帯び束になった髪が耳を完全に覆っている。母さんもそうだけど、耳が隠れてて気持ち悪く無いのかな。 オレはグゥの頬にまで流れている髪をそっと手で梳き、耳の後ろへ回した。 「──ぶげらッ!?」  瞬間、右頬に何か丸い物がめりこんだ。 「何をする」  そりゃこっちの台詞だ。  そのままベッドに倒れこんでしまいそうな目眩に耐えながら、グゥを見ると頭の位置はそのままに、肩越しに 不快感を満面に湛えた鋭いジト目をこちらに向けていた。  どうやら先ほどの衝撃は……どんな角度で飛んできたのかは解らなかったが……グゥのパンチだったようだ。 一体何処に殴られる理由があるってんだコラ。 「髪くらい自分で上げる……勝手に触るな」  それだけ言って、グゥは自分で改めて髪を耳の後ろに整え、プイ、とまた目線をオレの反対方向に戻した。 後ろからクスクスと母さんの笑い声が聞こえる。何だ、何なんだ。今の状況を把握してないのはオレだけか。 そしてグゥがオレを殴ったのは正当な行為ってことになってしまったのだろうか。勘弁してくれ。 「……それじゃ、お耳をお掃除させて頂きますよ。宜しいですね?」  早くも出鼻を挫かれ意気消沈気味だが、引き受けてしまった以上はやり遂げねばなるまい。さっさと掃除して 解放させてもらおう。  耳に触れる前に、今度はちゃんと断りを入れておく。グゥはこちらを一瞥もせず、頭を小さく縦に振った。 「苦しゅうない」とでも言わんばかりだ。まあコイツの尊大な態度は今に始まった事じゃないんだが。  とりあえず了承は得られたようなので、失礼してお耳を拝見させて頂く。耳の淵をつい、と引っ張り、 内部に蛍光灯の光を通すとそこはオレの不吉な想像のような異次元では無く、至って平和と言うか一般的な 人としての在り様が照らし出されていた。いわば普通の耳だったって事だ。  しかし形は至極フツーの耳なのだろうが、その内部の、何と言うか清潔ぶりはある意味人間離れしていると 言わざるを得ない。ぶっちゃけ、耳垢も汚れも何一つ存在しない。母さんとはえらい違いだ。 「何か言ったー?」  うっかり口に出してしまっていたのか、母さんの殺気を帯びた声が返って来た。いえいえ、何でもないっすよ。 「どうした、耳掃除とやらをするんじゃないのか」  今度はひざの上から訝しげな声が飛んできた。そんな事を言われても、これ以上オレは何をすればいいのやら。 足跡一つ無い砂浜と言うか、黒光りする高級車のボディと言うか、もはや触れる事さえ躊躇われる程の精練さだ。 まるで人形のようにつるっと整えられた耳内に対して、オレの右手の細い棒切れは全くの無力。一体何をどうすれば ここまで綺麗になるんだか。石鹸をつけたブラシを入れてゴシゴシ磨いてる、なんて言われても信じてしまいそうだ。  下手に触れても逆に汚してしまうだけでは無いのか。オレとしては耳掃除免許皆伝でも差し上げてまたその耳を 髪の毛の奥に引っ込めさせて頂きたいのだが、グゥはいまだ目だけをこちらに向け、少し不機嫌そうに睨んでいる。 とにかく形だけでも耳掃除をしてやらないと納得してはくれなさそうだ。  とりあえず、その中に耳かきをゆっくりと挿し入れ適当にしわをなぞってみる。 「ひゃぁっ? ちょ、ちょっと待て!」  途端に、グゥは弾けるように頭を持ち上げこちらに向き直った。 「痛ッ!!」 「グ、グゥ!!」  ───背筋が凍った。  グゥが動いた瞬間、オレは即座に耳かきを引っこ抜いたが、グゥは耳を押さえオレから頭を引いたのだ。 「だっ大丈ブギャンッ!!」  慌ててグゥに寄った瞬間、ボディに思いっきりグゥの拳がめり込んだ。しかし一瞬見えたグゥの顔に、腹の痛みなんて 消し飛んでしまった。グゥの頬には、一筋の雫が流れていた。 「ちょっと、耳、見せてンプル!?」  更に近づくオレのこめかみに突き刺さる衝撃。だがやはりそんな痛みにかまけている余裕は無い。オレはそのまま グゥの両手を掴み、ベッドに押し倒した。 「な、なんだ、ハレも大胆───」 「いいから黙ってろ!!」  ジタバタと抵抗するグゥを抑え付け、怒鳴る。  グゥは小さく、ヒッと喉を引きつらせ身体を強張らせた。 「耳、見せてみろ」 「え……?」 「耳だよ、耳!」  返事も待たず、オレはグゥの頭をひざに乗せ髪をかき上げる。怒鳴り声が効いたのか、グゥにはもう抵抗する 意思は見られない。オレに素直に従ってくれているみたいだ。  恐る恐る、耳の中を覗く。特に外傷は見受けられないが、念のためティッシュをこよりにして耳の奥まで挿し入れ 壁に這わせる。グゥはくすぐったそうに身を硬くしていたが、先ほどのように起き上がる事はなかった。  そうしてしばらく耳の中をまさぐり、引き抜いたが血の跡は見られなかった。耳内をよく見てみると、 少し赤みがかっている箇所を見つける。恐らく、オレが耳かきを引っこ抜いた時にひっかいてしまったのだろう。 痛がっていたのはここだったのか。オレは大きく溜息を吐き、ホッと胸を撫で下ろした。 「いいかグゥ? 耳掃除してる時は絶対動いちゃダメだからな!」 「…………」  今回は大事に至らなかったが、ここは一つちゃんと灸を据えておかねば、と少し強めに嗜める。が、グゥはまるで 聞く耳を持たない様子で、普段の仏頂面に更に十倍ほど負の念を堆積させた不満面でブツブツと何事か呟いている。 「グゥ? 聞いてんのか?」 「………痛かった」  ひざの上でそっぽを向くグゥに顔を近づけ、もう一度念を押すがやはりオレの言葉は無視し、 グゥは一言、ぽつりと漏らした。 「何だって?」 「……痛かった!!」  聞き返すと次は強い語調で大きく返って来た。顔は相変わらずそっぽを向いたままだ。  どうやらさっきの事ですこぶる機嫌を損ねてしまったらしい。全く、困ったお姫様だ。勝手に動いたのはそっちなのに、 オレだって二発も殴られたってのに。だけど、いまだ潤々と涙を湛えているグゥの瞳を見ていたら、何故か全面的に こっちが悪い気がして来る。ホントに自分の将来が不安になってきた。 「ごめんごめん。オレがちゃんと言わなかったのが悪い」  もう一度大きく溜息を吐き、素直に謝罪した。確かに、耳かき初体験のグゥにはその危険性は解らないかもしれない。 こちらとしては思い出すだけで背筋が凍る。ついでに自分の耳まで痛くなってくる。  グゥはチラリとこちらを見やり、また目線を前に戻すとくい、と頭を動かし耳をこちらに向けた。そして少しだけ、 ふとももにかかる頭の重さが増す。「よかろう、続けるがよい」と言ったところだろうか。  ともあれ、少しは機嫌を治してくれたようだ。オレは気を取り直して、再度耳掃除に取り掛かった。 「だけどさ、ホントにあんまり動いちゃダメだよ、グゥ。もしかしたら大怪我してたかもしんないんだからね」  優しく諭しながら、耳かきを入れる。グゥは身体を少し丸め、緊張しているようだが耳内の壁をまさぐっても 大人しくしてくれている。もうあんな事は無いだろう。 「あ……ン、ふぁ……」  もともと汚れも何も無いのだ。強く掻く必要は無い。オレは優しく、しわとしわの間の溝に棒の先を這わせ、 ゆっくりと滑らせる。 「ひゃっ……や、はぁ……ン、くぅ……」  それにしても、本当に綺麗だ。そう言えば、普段は髪に隠れてるグゥの耳をこんなにちゃんと見たのなんて、 初めてかもしれないな。  そこは色白なグゥの肌の中でも特に白く見える。頬なんかと比べても、その差は歴然だ。と言うか、むしろ グゥの頬の方が何故か異様に赤く見える。まだ湯上りの熱が残っているのだろうか。なんだか、最初よりも赤みが 増しているような気がするぞ。 「ん、ふ……く、あぁ、は……ぁん……」  ってか、さっきからなんですかその声は。おおかた母さんの真似かなんかだろうけど。  そう言えば、あれだけ騒いだのに母さんの声が一言も聞こえなかったな。ちらりと後ろを向くと、母さんはそれはもう ぐっすりと安らかな寝顔でお眠りあそばされていやがった。ビールの空き缶が先ほど見た時より倍程に増加している。 これはもう、近くで爆撃があっても起きやしないな。まあ野次馬が消えてくれたのは助かる。 「ンッ、ンン……ひ、やぁ………」  このグゥの妙な遊びも第三者がいなけりゃ不発ってもんだ。しかしグゥは向こう側を向いているため、その事に 気づいていないのだろう。一生懸命ヘンな声を上げていらっしゃる。 「はわっ、そこっ……そこ、もっと……ッ」  そんなトコまで真似せんでも……。とりあえず、ご要望に応えてそこをカリカリと擦ってやると、 グゥはくはぁぁ、と細く長く息を吐き出した。そのまま身体が一回りしぼんでしまったかのようだ。 いつの間にか身体の緊張もすっかりほぐれ、オレに完全に体重を預けていた。心地よい圧迫感が ふとももにかかる。 「んーん、んん、ふぅぅん……はぁん……」  なんだか、声がどんどん怪しげな色を含み始めている気がする。ってか、いくら演技でも、その、グゥに そんな声を出し続けられると流石にオレも気が気じゃなくなってくる。というか、股間の紳士はとっくに 戦闘態勢に入っておられる。おふざけはそろそろ止めにしてもらいたい。 「なあ、グゥ?」 「………はぁ……ん……」  一旦耳かきを抜き、声をかける。グゥは聞こえているのかいないのか、ぼぉ、と呆けた顔で妙に甘ったるい 呼吸を繰り返していた。 「グゥさん? おーい」 「っふわ? お、え、な、なんだ?」  ペチペチと頬を叩く。すると我に返ったかのようにビクンと身体を引きつらせ、目だけをこちらに向けた。 言いつけ通り、身体を出来るだけ動かさないようにしているようだ。 「あ、その、もう終わりか……?」  耳に何も入っていない事に気づいたのだろう。グゥは手で耳元を確認すると、小さく口を開く。 「綿は………?」  あくまで母さんにやってあげた通りの事をして欲しいのだろう。オレは耳かきを反転させると、綿の方を グゥの耳にそっと差し入れた。 「はにゃっ、うやっ、ひゃわりゅあ……にゅあおっっ」  ……だから、そんな所まで真似んでもええがな。  数度、耳の中で綿を捻り抜き取ると、しばらくグゥはぐったりとしていたがまた手で耳元を確認し、 よろよろと身体を起こした。なんだか全身の力が弛緩してしまっているみたいだ。 「これで、終わりか……」  ふらふらと身体を揺らしながら、妙に残念そうにそう言う。まあどうせ取る汚れも無いし終わってもいいのだが、 この際だ、反対側も確かめてみよう。 「左耳がまだ残ってるよ」  オレは向かい合うようにシーツの上にぺたっと座るグゥをそのまま横に倒し、再度オレのふとももの上に頭を 乗せる。グゥはいまだ身体に力が入らない様子で、何の抵抗も無くオレに身体を預けてきた。まるで寝ぼけている ようだ。耳かきに催眠作用があるのは母さんで実証済みだが、グゥも眠たくなってきたのかもしれない。  グゥはとろんとした顔でふとももに顔をすりよせて来る。うう、股間の膨らみがバレないように祈ろう。 フと、その股間のあたりから、小さく……テクニシャン……などと聞こえた気がしたが、気にしない事にする。 「ほら、髪」  同じ過ちは二度繰り返さない。オレは耳にかかる髪には触れず、グゥにかき上げてもらうよう促す。 しかしグゥは一瞬、ちらりとこちらを向くとすぐに目をそらした。何の合図ですか、それは。  とりあえず、オレの言葉は聞こえている。そしてグゥは自分で耳を晒す気は無いようだ。その行為、 宣戦布告と認識する。 「いいんだな、怒るなよ」  オレは小さく呟くと、そっと髪を耳の後ろに流した。グゥを見るが、前を見詰めたまま特に反応は無い。 さっきはあれ程嫌がったのに、何を考えているのやら。釈然としないがグゥのする事を一々深く考えても しょうがない。オレは耳かきを再開する事にした。  耳の淵を少し引っ張り中を覗く。案の定、そこは清掃業者が去った後の部屋のように汚れ一つ無い ピカピカの空間が広がっていた。  こちら側も適当にまさぐってお開きとしよう。右耳のリプレイのように適当に耳内を緩く掻く。 「………………」  グゥは先ほどとは打って変わって、呻き声一つ上げなかった。表情は相変わらずとろんと蕩けていたが、 その瞳はじぃ、と真っ直ぐ、何かを凝視するように開いていた。なんだか、やり辛いな。 まあ、母さんの真似が飽きたのか、眠気が勝ったのだろう。どうせならその目も瞑って頂けると落ち着くのだが。  結局そのまま数分間、耳を掻いている間、グゥの態度は慎ましやか極まりなかった。時折、気持ちいい所に 当たったのか、ン、ン、と小さくくぐもった声を上げる程度で、そのまま平穏無事に耳かきを終える事が出来た。 最後に綿を挿し入れた時だけは、やはり「うにゅにゅるあ」やら「ほぁあにゃ」やら謎の言葉を操りながら ピクピクと悶えていたが。 「終わったよ」 「………………」  綿を抜き取り、ぽんぽん、と頭を叩くがまるで反応が無い。先ほどよりも浮ついた、熱にうなされたような 顔をしている。そう言えば顔がやけに熱い。赤みがかっているというより、真っ赤だ。耳をいじっている時は 気づかなかったが、耳の表面まで赤く染まっていた。  オレは少し心配になり、グゥの頭をひざから抜こうと身体を起こす。しかしグゥはそれを阻止するように オレの腰に手を回し、しがみついてきた。 「グ、グゥ? どうしたのさ?」  声をかけるが、返事は無い。一体どうしたと言うんだろうか。  ってか、それよりもグゥの顔の位置がヤバイ。オレのいまだ膨張したままの股間に顔をうずめる形になっている。 むしろ意識してそうしているように、グゥはぐりぐりと頭を押し付けて来ていた。  ハァ、ハァとやけに荒っぽい息が、ズボンの布を通して直に伝わる。時折、スン、スンと鼻を鳴らす音が聞こえる。 グゥは鼻で吸って口で吐くタイプか、なんてワケの解らん分析をしてる場合じゃない。とにかく離れてもらわないと。 何の遊びかは知らないが、ズボンの中が大変な事になっている事を気付かれたら生涯グゥにからかわれ続けかねない。 しかしオレが身をよじればよじるほど、グゥは腰に回した手の力を一層強めて行く。とうとうオレはベッドにばたんと 押し倒されてしまった。 「ハレ……」  仰向けに押し倒されたオレの身体をよじ登るように、グゥは身体をすり寄せ吐息混じりの声を上げる。 「ああ、ハレェ……」  うわ言のようにオレの名前を呼びながら、グゥはオレのお腹のあたりに頬を這わせ、こちらを見上げた。 そうして目が合った瞬間、グゥは一瞬身体を硬直させ、すぐに目を大きく見開きオレから飛び退いた。 「み、耳かきは終わったんだ、な!」 「いや、ってか、何だよいまンボフッ!?」  さっきの不審な行動を問い質そうとした瞬間、頬に重いパンチが突き刺さる。何なんだこの傍若無人なお姫様は。 「さっさと風呂に入れ。グゥは寝る」  言うが早いか、グゥは母さんの横にバタリと倒れ込み動かなくなった。これ以上の詮索は命に関わりそうだ。  腑に落ちない、と言えば確かにそうだが、オレとしても先ほどのグゥはどうにかして忘れてしまった方が良さそうだ。 このままじゃ心も股間も穏やかではいられない。  それにしても、我が家の女どもは皆どうしてこう一様にワガママなのやら。オレは家政婦でも耳かきマシーンでも無いぞ。 なんて今更文句を言っても始まらない。オレもとっとと風呂に入って寝てしまおう。  バスルームに向かう途中、ベッドの方から……メイドインヘヴン……などと聞こえてきた気がしたが、やはり気にしないで おく事にする。  バスルームにて、オレは身体を洗うついでに耳の中を念入りに湿らせておいた、連続で二人も耳の中をいじっていたら、 なんだか自分の耳も痒くなってきたのだ。  その後、ゆっくりと湯船に浸かり、長時間人の頭の下敷きにされたふとももを労わってやった。  温かいお湯に身を任せていたら、股間の紳士も落ち着いてくれたようだ。オレは心も身体もサッパリとさせ、 清々しい気持ちで風呂を出た。  リビングに戻ると、母さんの横で寝ていたはずのグゥがちょこんとベッドの淵に鎮座していた。 その手には何故か例の細い棒を握り締め、ソワソワと落ち着かない様子でこちらを見ている。 「グゥ……さん?」  火照った身体に冷たい汗が流れる。  オレは脳をフル回転させ、これから起こるであろう緊急事態を回避する方法を全力で探る。 「早く来い」  グゥは真っ直ぐに、それだけを言った。  ……いくら考えても、回避方法などどこにも見当たりはしなかった。
****メイドインヘヴン(二:90-97) 「ほら、早く来て。母さん、最近全然シてないからすっごく溜まってるのよぉ……」  ベッドにうつ伏せに寝そべり、甘ったるい猫なで声でオレを誘う。自らの腕を枕にし、足をパタパタと 仔犬のしっぽのように振るその子供っぽい無邪気な仕草とは裏腹に、オレを真っ直ぐに見詰めるその潤んだ瞳や 艶やかな声は、実の息子であるオレから見ても十分に大人の女性としての魅力に溢れていた。オレはその瞳に、 その声に惹かれるように彼女の傍らに腰を下ろす。 「うふふ……ホントに久しぶりね……。私はもう準備できてるから、早くしましょ……」  母さんはそう言うとオレのふとももにくすぐるように指を這わせた。  じわりと、熱気が伝わってくる。湯上りのまだ乾き切っていない、ほんのりと上気した素肌がぴたりと密着し、 むっと湿り気を帯びた空気が周囲を包み込んだ。 「……でもさ、こんなこと子供にさせるなんて……やっぱりおかしいよ……」 「だって……ハレすっごく上手なんだもん。アレを知っちゃったらもう……もう一人じゃ満足出来ないの」  言いながら、待ちきれないとばかりに自らの小さな穴に指を挿し入れ、ほじくるように動かす。 既に十分に濡れているのだろう、そこは指の動きに合わせちゅくちゅくと空気交じりの液体音を立てる。  先ほどの言葉の通りよほどご無沙汰だったらしく、それだけで母さんはその顔をだらしなく弛緩させ、 ハァァ、と熱っぽい息を吐いた。 「ンン、もう駄目ぇ……ハレ、お願い、して……」  自分でそこを弄りいよいよ我慢が出来なくなったのか、オレの下半身に強く頭を押し付け、哀願するように 切なげな声を出す。  オレはコクリと小さく喉を鳴らし、彼女の敏感な部分へとゆっくり、しかし力強く真っ直ぐに突き入れた。 「ふ、ン……あ、ひぁッ、くぅぅん……ッ」  途端に、母さんはヒクンと小さく震え、蕩けた嬌声を上げた。オレは構わずにどんどんと奥へ侵入して行く。 「……あっ、そ、そこっ……もっと、強……くぅぅ……ッ」  先端を壁に押し付け、カリカリと擦るように何度も出し入れすると、母さんはシーツをギュっと握り締め、 何かに耐えるように身体を強張らせる。しかしその表情はとろんと弛緩し、恍惚に浸っているように見えた。 「あんまり強くしたらあとでヒリヒリするからダーメ」 「でもそこすっごく痒いのよぉっ! あ、そ、そこも! そこも気持ちいーッ」  棒の先端に付いた垢を、横に広げたティッシュに落とす。本当に長い間掃除していなかったようで、既に かなりの量の垢がティッシュの上に散らばっている。この分だと反対側も相当な事になっていそうだ。 「ったくもう、何で息子が母親に耳掃除したらにゃならんねん……普通逆じゃないの?」 「よそはよそ!うちはうち!」 「それを口に出しちゃあもうオバサンだよ、母さん……」  耳かきなんて本来、母親が息子にしてあげる行為だろうに、このぐうたら人間は「怖いからやだ」と これ以上ないくらいシンプルかつ情けない理由により断固拒否の姿勢を守っている。  オレがもっと小さかった頃はしてくれていた記憶があるのだが、いつの間にかパタリと母の耳掃除の記憶が 途絶えているのだ。母に問いただしても、何故か瞬時に青い顔になり口を閉ざしてしまう。その原因を探ろうと 記憶を辿ると何故か耳の奥がキリキリと痛む。思い出してもあまり良い予感がしないので、いつしかオレも 考えるのを止めた。  ジャングルはすっかり夜の帳が落ち、窓から見える家々の灯りもまばらになってきていた。我が家もとっくに 夕飯を済ませ、後は風呂に入って寝るだけだ。……と思っていたのだが、お風呂から上がってきた母さんから突然の 耳かき要請を受け、今に至るってワケだ。最初はオレも渋っていたのだが、母さんの駄々っ子には敵うはずも無い。 「……ところで、さっきから何見てんのさ、グゥ?」  そんなオレと母さんの様子を、ベッドの前にしゃがみあごに手を乗せじぃ、と観察するように眺めていたグゥに 声をかける。何か物珍しいものでも見るような興味深げな瞳でこちらを見詰めていた彼女はオレの言葉にスッと 眼を細め、小さく溜息を吐くと静かに口を開いた。 「……ありきたりなオチだな」 「いきなり何の話ですかね?」  そしてオレの声が聞こえなかったのかあえて無視したのか……恐らくは後者だろうが……突然ワケの解らない事を 口走る。まあ、きっと理解し難いと言うかしたくもないような部分から発せられた言動なのだろうから追求はせんが。 「いっそマジネタでもよかったと思うぜ?」 「流石に実母とソレはダメだろ……」 「なんだ、ちゃんと解ってんじゃん?」 「勝手に心読むの禁止!!」 「ああああああああもう、途中で放置するなあああ!!」  唐突に、軽く失念してしまっていたひざの上の母が暴れだした。  母さんはハァハァと息を荒げ、涙を湛えた瞳でこちらを睨み付けて来る。しかし焦らされるのも快感なのか、 その瞳はどこか媚びる様な、甘えた色を含んでいるように見え 「勝手に話をそっち方向に持ってくのも禁止ー!!」 「ちゃは☆」  ダメだ、こいつがいると話が捻じ曲がる。勝手にオレの心象世界に侵入した挙句に捏造まで図るとは……。 思えば冒頭からしてなんだかおかしかった気がするぞ。何が悲しゅうてオレがこの飲んだくれに大人の女性の 魅力を感じにゃならんねん。 「だから、放置するなって……み、耳が……かゆ、うま……」  意地でも自分で耳をほじるのは嫌だったのだろう、母さんはいつの間にか青い顔でふるふると小刻みに痙攣し 軽く泡まで噴いていた。痒みも極まれば拷問に成り得ると聞いた事がある。発狂する前に救ってやるべく オレは速やかに耳掃除を再開した。 「はい、こっち終わり」  そんなこんなで、片側の耳はすっかり綺麗になった。オレは最後に耳かきの尻についている綿を 耳に入れ、ワサワサと回す。 「うわひゃっ! そ、それは良いって言って、ひょわうぉえあっ!」  コレをすると母さんはくすぐったいのか、いつも謎言語を発する。毎度毎度「それはやめろ」と 言われるのだが、反応が面白いので絶対やめてやらない。せめてものささやかな反抗の証なのだ。  綿での掃除も終わり、耳かきを抜き取ると一拍置いてくるんとこちら側に顔を向け反対の耳を晒す。 やはりこちら側もかなり垢が溜まっている。こんなの見たら、なおさらこの女に大人の魅力を 感じる事など永劫なかろうな、と強く確信を深めるぞ、オレは。 「母さんさ、ちょっとは自分で掃除しなよ~」 「やーよ、近くにこんなテクニシャンがいるのに、自分でしたら勿体無いわ」  自分の耳かきの腕など自分で確かめようも無いのだが、母さんはいたくお気に入りのようだ。 自分で自分の耳をほじっても特に何も感じやしないのだが。下手でもいいからたまにはオレも 人にされたいものだ。  もう片方の耳の垢も綺麗に取り除き終わる頃には、母さんはオレのひざの上でぐっすりと寝こけてしまっていた。 このまま起こさずにそっとしておこう……なんて優しさは今のオレには微塵も無いぞ。オレは躊躇無く耳かきの綿を 耳に突っ込み念入りにほじくってやる。  途端に母さんは「ほにゃあ」と頓狂な声を上げ大きく目を見開き、「あぇやほょわ」やら「うにゅるにゅにゃ」などと 難解極まりない言語を発して悶え続ける。うむ、母さんの耳の中と共にオレの心もスッキリ晴れ晴れだ。  しかしあまりやりすぎると後が怖い。適当な所で綿地獄から開放してやり、これでおしまい、と母さんの頭から ひざを抜きベッドから降りる。母さんはそのままの体勢でゴロゴロとベッドの上を転がり仰向けでのびのびと身体を広げ、 まるで憑き物が落ちたようなスッキリとした顔で、くはぁと大きく息を吐いた。早速お休みモードに入ったようだ。 お礼にあなたの耳もかいてあげる、なんて事は微塵も期待させぬその潔さにいっそ清々しささえ覚えるわ。  オレもさっさと風呂に入って寝るか、とバスルームに向き直った時、何やら訝しげな表情で固まっている グゥの姿が目に入った。その手に持った耳かき棒をじっと見詰め、何か考えているようだ。  グゥがあんな顔をしている時は、たいていろくな事を考えちゃいない。オレはそそくさとバスルームに 引っ込もうと早足にグゥの脇を通り過ぎる。 「……ハレ」  ……が、グゥに背を見せた瞬間、ガッシリと肩を捕まれてしまった。嫌な予感がする。物凄く嫌な予感がするぞ。 オレは小さく溜息を吐き、顔だけをグゥに向け、「何?」とだけ答えた。 「いつも見ていたのだが……これでハレはウェダに何をしているのだ?」  そんなオレの気を知ってか知らずか、グゥは妙に神妙な声で尋ねて来る。オレが母さんの耳を掃除している所は グゥも何度も見ているはずだが、何をしているのかは解っていなかったらしい。  そう言えば、グゥが耳掃除をしているところなんて見た事がない。こいつは普段どうやって耳を洗っているのやら。 「あれ~? グゥちゃん耳かき知らないのぉ~? あの気持ちよさを知らないなんてもったいな~い」  ベッドの上から酔っ払ったような声が届く。まだ眠ってはいなかったようだ。よく見たら母さんの周りには いつの間にかビールの缶が数本転がっていた。酔っ払ったような、じゃなく普通に酔っ払いだ。 「ふむ……どう使うんだ?」 「どうって……普通にそれで耳をほじるだけだけど」 「ダメよぉ、初心者は自分でやっちゃ下手すりゃ大惨事よ~。ハレにやってもらいなさいな~」  自分で耳をほじる真似をするオレをよそに、母さんは無責任にオレの耳かき推薦状を発行した。 確かに、耳かきの使い方も知らない人間に一人で耳をほじらせるのは見ているこっちの心が休まらない状況ではあるが 相手は誰でもない、あのグゥだ。下手すりゃ耳の中も四次元に繋がってるかもしれん。変に耳をいじくって 吸い込まれでもしたらそれこそ大惨事だぞ。オレが。 「ハレのテクでグゥちゃんもメイドインヘヴンよ~」  いいからアンタは早く寝れ。これ以上話をややこしくしないで頂きたい。 「ハレ……」  しかし、時既に遅し、か。グゥは何かを期待する眼差しでオレと自らの手に持った耳かきを見比べ、 「別に……ハレが嫌ならいいのだぞ……」  不安げにオレの目を覗き込むと、小さく、そう呟いた。 「い、嫌なんてそんな事ないよ! 耳掃除くらいいくらでもやってあげるから……」  その表情とその声は、反則だ。オレは半ば反射的に、そう答えてしまった。 「そうか、ならば早速やってもらおう」  そしてオレからの了承の言質を取るやいなや、グゥはパッと普段の仏頂面に顔を戻しベッドに寝そべった。 毎度釣られるオレもオレだが、何の躊躇も無くそれを利用するこの少女にも誰か何らかの天罰を与えてやってはくれまいか。 ついでにベッドの上で「アンタそんな風だと将来苦労するわよ」などとのたまっている酔っ払いの口も封じて頂きたい。 今だけで良いから。ってか、言われなくても既に苦労してますよね、オレ。  オレは小さく溜息を吐き、諦観の念でベッドの淵に腰を下ろす。グゥはオレの横でごろんと寝転がったままだ。 「ほら、してやるからさっさとこっち来なよ」  催促するようにぽんぽんとふとももを叩く。耳掃除をするならここに頭を乗っけてもらわないとやりようがない。 グゥはオレの言葉に何故かびっくりしたように目を開け、小さく「うん」とだけ呟くとおずおずと遠慮がちに オレのふとももに頭を乗せた。まずは右側からか。グゥはオレに背を向ける状態で横たわっている。  しっとりと湿った髪の感触がふとももに伝わる。グゥも、先ほど母さんと一緒にお風呂に入ったばかりだ。 母さんの時に感じたような身体の熱気は感じなかったが、それでもまだ冷め切ってはいないのだろう。グゥの 色白な顔は少し上気し、赤みを帯びていた。  湿り気を帯び束になった髪が耳を完全に覆っている。母さんもそうだけど、耳が隠れてて気持ち悪く無いのかな。 オレはグゥの頬にまで流れている髪をそっと手で梳き、耳の後ろへ回した。 「──ぶげらッ!?」  瞬間、右頬に何か丸い物がめりこんだ。 「何をする」  そりゃこっちの台詞だ。  そのままベッドに倒れこんでしまいそうな目眩に耐えながら、グゥを見ると頭の位置はそのままに、肩越しに 不快感を満面に湛えた鋭いジト目をこちらに向けていた。  どうやら先ほどの衝撃は……どんな角度で飛んできたのかは解らなかったが……グゥのパンチだったようだ。 一体何処に殴られる理由があるってんだコラ。 「髪くらい自分で上げる……勝手に触るな」  それだけ言って、グゥは自分で改めて髪を耳の後ろに整え、プイ、とまた目線をオレの反対方向に戻した。 後ろからクスクスと母さんの笑い声が聞こえる。何だ、何なんだ。今の状況を把握してないのはオレだけか。 そしてグゥがオレを殴ったのは正当な行為ってことになってしまったのだろうか。勘弁してくれ。 「……それじゃ、お耳をお掃除させて頂きますよ。宜しいですね?」  早くも出鼻を挫かれ意気消沈気味だが、引き受けてしまった以上はやり遂げねばなるまい。さっさと掃除して 解放させてもらおう。  耳に触れる前に、今度はちゃんと断りを入れておく。グゥはこちらを一瞥もせず、頭を小さく縦に振った。 「苦しゅうない」とでも言わんばかりだ。まあコイツの尊大な態度は今に始まった事じゃないんだが。  とりあえず了承は得られたようなので、失礼してお耳を拝見させて頂く。耳の淵をつい、と引っ張り、 内部に蛍光灯の光を通すとそこはオレの不吉な想像のような異次元では無く、至って平和と言うか一般的な 人としての在り様が照らし出されていた。いわば普通の耳だったって事だ。  しかし形は至極フツーの耳なのだろうが、その内部の、何と言うか清潔ぶりはある意味人間離れしていると 言わざるを得ない。ぶっちゃけ、耳垢も汚れも何一つ存在しない。母さんとはえらい違いだ。 「何か言ったー?」  うっかり口に出してしまっていたのか、母さんの殺気を帯びた声が返って来た。いえいえ、何でもないっすよ。 「どうした、耳掃除とやらをするんじゃないのか」  今度はひざの上から訝しげな声が飛んできた。そんな事を言われても、これ以上オレは何をすればいいのやら。 足跡一つ無い砂浜と言うか、黒光りする高級車のボディと言うか、もはや触れる事さえ躊躇われる程の精練さだ。 まるで人形のようにつるっと整えられた耳内に対して、オレの右手の細い棒切れは全くの無力。一体何をどうすれば ここまで綺麗になるんだか。石鹸をつけたブラシを入れてゴシゴシ磨いてる、なんて言われても信じてしまいそうだ。  下手に触れても逆に汚してしまうだけでは無いのか。オレとしては耳掃除免許皆伝でも差し上げてまたその耳を 髪の毛の奥に引っ込めさせて頂きたいのだが、グゥはいまだ目だけをこちらに向け、少し不機嫌そうに睨んでいる。 とにかく形だけでも耳掃除をしてやらないと納得してはくれなさそうだ。  とりあえず、その中に耳かきをゆっくりと挿し入れ適当にしわをなぞってみる。 「ひゃぁっ? ちょ、ちょっと待て!」  途端に、グゥは弾けるように頭を持ち上げこちらに向き直った。 「痛ッ!!」 「グ、グゥ!!」  ───背筋が凍った。  グゥが動いた瞬間、オレは即座に耳かきを引っこ抜いたが、グゥは耳を押さえオレから頭を引いたのだ。 「だっ大丈ブギャンッ!!」  慌ててグゥに寄った瞬間、ボディに思いっきりグゥの拳がめり込んだ。しかし一瞬見えたグゥの顔に、腹の痛みなんて 消し飛んでしまった。グゥの頬には、一筋の雫が流れていた。 「ちょっと、耳、見せてンプル!?」  更に近づくオレのこめかみに突き刺さる衝撃。だがやはりそんな痛みにかまけている余裕は無い。オレはそのまま グゥの両手を掴み、ベッドに押し倒した。 「な、なんだ、ハレも大胆───」 「いいから黙ってろ!!」  ジタバタと抵抗するグゥを抑え付け、怒鳴る。  グゥは小さく、ヒッと喉を引きつらせ身体を強張らせた。 「耳、見せてみろ」 「え……?」 「耳だよ、耳!」  返事も待たず、オレはグゥの頭をひざに乗せ髪をかき上げる。怒鳴り声が効いたのか、グゥにはもう抵抗する 意思は見られない。オレに素直に従ってくれているみたいだ。  恐る恐る、耳の中を覗く。特に外傷は見受けられないが、念のためティッシュをこよりにして耳の奥まで挿し入れ 壁に這わせる。グゥはくすぐったそうに身を硬くしていたが、先ほどのように起き上がる事はなかった。  そうしてしばらく耳の中をまさぐり、引き抜いたが血の跡は見られなかった。耳内をよく見てみると、 少し赤みがかっている箇所を見つける。恐らく、オレが耳かきを引っこ抜いた時にひっかいてしまったのだろう。 痛がっていたのはここだったのか。オレは大きく溜息を吐き、ホッと胸を撫で下ろした。 「いいかグゥ? 耳掃除してる時は絶対動いちゃダメだからな!」 「…………」  今回は大事に至らなかったが、ここは一つちゃんと灸を据えておかねば、と少し強めに嗜める。が、グゥはまるで 聞く耳を持たない様子で、普段の仏頂面に更に十倍ほど負の念を堆積させた不満面でブツブツと何事か呟いている。 「グゥ? 聞いてんのか?」 「………痛かった」  ひざの上でそっぽを向くグゥに顔を近づけ、もう一度念を押すがやはりオレの言葉は無視し、 グゥは一言、ぽつりと漏らした。 「何だって?」 「……痛かった!!」  聞き返すと次は強い語調で大きく返って来た。顔は相変わらずそっぽを向いたままだ。  どうやらさっきの事ですこぶる機嫌を損ねてしまったらしい。全く、困ったお姫様だ。勝手に動いたのはそっちなのに、 オレだって二発も殴られたってのに。だけど、いまだ潤々と涙を湛えているグゥの瞳を見ていたら、何故か全面的に こっちが悪い気がして来る。ホントに自分の将来が不安になってきた。 「ごめんごめん。オレがちゃんと言わなかったのが悪い」  もう一度大きく溜息を吐き、素直に謝罪した。確かに、耳かき初体験のグゥにはその危険性は解らないかもしれない。 こちらとしては思い出すだけで背筋が凍る。ついでに自分の耳まで痛くなってくる。  グゥはチラリとこちらを見やり、また目線を前に戻すとくい、と頭を動かし耳をこちらに向けた。そして少しだけ、 ふとももにかかる頭の重さが増す。「よかろう、続けるがよい」と言ったところだろうか。  ともあれ、少しは機嫌を治してくれたようだ。オレは気を取り直して、再度耳掃除に取り掛かった。 「だけどさ、ホントにあんまり動いちゃダメだよ、グゥ。もしかしたら大怪我してたかもしんないんだからね」  優しく諭しながら、耳かきを入れる。グゥは身体を少し丸め、緊張しているようだが耳内の壁をまさぐっても 大人しくしてくれている。もうあんな事は無いだろう。 「あ……ン、ふぁ……」  もともと汚れも何も無いのだ。強く掻く必要は無い。オレは優しく、しわとしわの間の溝に棒の先を這わせ、 ゆっくりと滑らせる。 「ひゃっ……や、はぁ……ン、くぅ……」  それにしても、本当に綺麗だ。そう言えば、普段は髪に隠れてるグゥの耳をこんなにちゃんと見たのなんて、 初めてかもしれないな。  そこは色白なグゥの肌の中でも特に白く見える。頬なんかと比べても、その差は歴然だ。と言うか、むしろ グゥの頬の方が何故か異様に赤く見える。まだ湯上りの熱が残っているのだろうか。なんだか、最初よりも赤みが 増しているような気がするぞ。 「ん、ふ……く、あぁ、は……ぁん……」  ってか、さっきからなんですかその声は。おおかた母さんの真似かなんかだろうけど。  そう言えば、あれだけ騒いだのに母さんの声が一言も聞こえなかったな。ちらりと後ろを向くと、母さんはそれはもう ぐっすりと安らかな寝顔でお眠りあそばされていやがった。ビールの空き缶が先ほど見た時より倍程に増加している。 これはもう、近くで爆撃があっても起きやしないな。まあ野次馬が消えてくれたのは助かる。 「ンッ、ンン……ひ、やぁ………」  このグゥの妙な遊びも第三者がいなけりゃ不発ってもんだ。しかしグゥは向こう側を向いているため、その事に 気づいていないのだろう。一生懸命ヘンな声を上げていらっしゃる。 「はわっ、そこっ……そこ、もっと……ッ」  そんなトコまで真似せんでも……。とりあえず、ご要望に応えてそこをカリカリと擦ってやると、 グゥはくはぁぁ、と細く長く息を吐き出した。そのまま身体が一回りしぼんでしまったかのようだ。 いつの間にか身体の緊張もすっかりほぐれ、オレに完全に体重を預けていた。心地よい圧迫感が ふとももにかかる。 「んーん、んん、ふぅぅん……はぁん……」  なんだか、声がどんどん怪しげな色を含み始めている気がする。ってか、いくら演技でも、その、グゥに そんな声を出し続けられると流石にオレも気が気じゃなくなってくる。というか、股間の紳士はとっくに 戦闘態勢に入っておられる。おふざけはそろそろ止めにしてもらいたい。 「なあ、グゥ?」 「………はぁ……ん……」  一旦耳かきを抜き、声をかける。グゥは聞こえているのかいないのか、ぼぉ、と呆けた顔で妙に甘ったるい 呼吸を繰り返していた。 「グゥさん? おーい」 「っふわ? お、え、な、なんだ?」  ペチペチと頬を叩く。すると我に返ったかのようにビクンと身体を引きつらせ、目だけをこちらに向けた。 言いつけ通り、身体を出来るだけ動かさないようにしているようだ。 「あ、その、もう終わりか……?」  耳に何も入っていない事に気づいたのだろう。グゥは手で耳元を確認すると、小さく口を開く。 「綿は………?」  あくまで母さんにやってあげた通りの事をして欲しいのだろう。オレは耳かきを反転させると、綿の方を グゥの耳にそっと差し入れた。 「はにゃっ、うやっ、ひゃわりゅあ……にゅあおっっ」  ……だから、そんな所まで真似んでもええがな。  数度、耳の中で綿を捻り抜き取ると、しばらくグゥはぐったりとしていたがまた手で耳元を確認し、 よろよろと身体を起こした。なんだか全身の力が弛緩してしまっているみたいだ。 「これで、終わりか……」  ふらふらと身体を揺らしながら、妙に残念そうにそう言う。まあどうせ取る汚れも無いし終わってもいいのだが、 この際だ、反対側も確かめてみよう。 「左耳がまだ残ってるよ」  オレは向かい合うようにシーツの上にぺたっと座るグゥをそのまま横に倒し、再度オレのふとももの上に頭を 乗せる。グゥはいまだ身体に力が入らない様子で、何の抵抗も無くオレに身体を預けてきた。まるで寝ぼけている ようだ。耳かきに催眠作用があるのは母さんで実証済みだが、グゥも眠たくなってきたのかもしれない。  グゥはとろんとした顔でふとももに顔をすりよせて来る。うう、股間の膨らみがバレないように祈ろう。 フと、その股間のあたりから、小さく……テクニシャン……などと聞こえた気がしたが、気にしない事にする。 「ほら、髪」  同じ過ちは二度繰り返さない。オレは耳にかかる髪には触れず、グゥにかき上げてもらうよう促す。 しかしグゥは一瞬、ちらりとこちらを向くとすぐに目をそらした。何の合図ですか、それは。  とりあえず、オレの言葉は聞こえている。そしてグゥは自分で耳を晒す気は無いようだ。その行為、 宣戦布告と認識する。 「いいんだな、怒るなよ」  オレは小さく呟くと、そっと髪を耳の後ろに流した。グゥを見るが、前を見詰めたまま特に反応は無い。 さっきはあれ程嫌がったのに、何を考えているのやら。釈然としないがグゥのする事を一々深く考えても しょうがない。オレは耳かきを再開する事にした。  耳の淵を少し引っ張り中を覗く。案の定、そこは清掃業者が去った後の部屋のように汚れ一つ無い ピカピカの空間が広がっていた。  こちら側も適当にまさぐってお開きとしよう。右耳のリプレイのように適当に耳内を緩く掻く。 「………………」  グゥは先ほどとは打って変わって、呻き声一つ上げなかった。表情は相変わらずとろんと蕩けていたが、 その瞳はじぃ、と真っ直ぐ、何かを凝視するように開いていた。なんだか、やり辛いな。 まあ、母さんの真似が飽きたのか、眠気が勝ったのだろう。どうせならその目も瞑って頂けると落ち着くのだが。  結局そのまま数分間、耳を掻いている間、グゥの態度は慎ましやか極まりなかった。時折、気持ちいい所に 当たったのか、ン、ン、と小さくくぐもった声を上げる程度で、そのまま平穏無事に耳かきを終える事が出来た。 最後に綿を挿し入れた時だけは、やはり「うにゅにゅるあ」やら「ほぁあにゃ」やら謎の言葉を操りながら ピクピクと悶えていたが。 「終わったよ」 「………………」  綿を抜き取り、ぽんぽん、と頭を叩くがまるで反応が無い。先ほどよりも浮ついた、熱にうなされたような 顔をしている。そう言えば顔がやけに熱い。赤みがかっているというより、真っ赤だ。耳をいじっている時は 気づかなかったが、耳の表面まで赤く染まっていた。  オレは少し心配になり、グゥの頭をひざから抜こうと身体を起こす。しかしグゥはそれを阻止するように オレの腰に手を回し、しがみついてきた。 「グ、グゥ? どうしたのさ?」  声をかけるが、返事は無い。一体どうしたと言うんだろうか。  ってか、それよりもグゥの顔の位置がヤバイ。オレのいまだ膨張したままの股間に顔をうずめる形になっている。 むしろ意識してそうしているように、グゥはぐりぐりと頭を押し付けて来ていた。  ハァ、ハァとやけに荒っぽい息が、ズボンの布を通して直に伝わる。時折、スン、スンと鼻を鳴らす音が聞こえる。 グゥは鼻で吸って口で吐くタイプか、なんてワケの解らん分析をしてる場合じゃない。とにかく離れてもらわないと。 何の遊びかは知らないが、ズボンの中が大変な事になっている事を気付かれたら生涯グゥにからかわれ続けかねない。 しかしオレが身をよじればよじるほど、グゥは腰に回した手の力を一層強めて行く。とうとうオレはベッドにばたんと 押し倒されてしまった。 「ハレ……」  仰向けに押し倒されたオレの身体をよじ登るように、グゥは身体をすり寄せ吐息混じりの声を上げる。 「ああ、ハレェ……」  うわ言のようにオレの名前を呼びながら、グゥはオレのお腹のあたりに頬を這わせ、こちらを見上げた。 そうして目が合った瞬間、グゥは一瞬身体を硬直させ、すぐに目を大きく見開きオレから飛び退いた。 「み、耳かきは終わったんだ、な!」 「いや、ってか、何だよいまンボフッ!?」  さっきの不審な行動を問い質そうとした瞬間、頬に重いパンチが突き刺さる。何なんだこの傍若無人なお姫様は。 「さっさと風呂に入れ。グゥは寝る」  言うが早いか、グゥは母さんの横にバタリと倒れ込み動かなくなった。これ以上の詮索は命に関わりそうだ。  腑に落ちない、と言えば確かにそうだが、オレとしても先ほどのグゥはどうにかして忘れてしまった方が良さそうだ。 このままじゃ心も股間も穏やかではいられない。  それにしても、我が家の女どもは皆どうしてこう一様にワガママなのやら。オレは家政婦でも耳かきマシーンでも無いぞ。 なんて今更文句を言っても始まらない。オレもとっとと風呂に入って寝てしまおう。  バスルームに向かう途中、ベッドの方から……メイドインヘヴン……などと聞こえてきた気がしたが、やはり気にしないで おく事にする。  バスルームにて、オレは身体を洗うついでに耳の中を念入りに湿らせておいた、連続で二人も耳の中をいじっていたら、 なんだか自分の耳も痒くなってきたのだ。  その後、ゆっくりと湯船に浸かり、長時間人の頭の下敷きにされたふとももを労わってやった。  温かいお湯に身を任せていたら、股間の紳士も落ち着いてくれたようだ。オレは心も身体もサッパリとさせ、 清々しい気持ちで風呂を出た。  リビングに戻ると、母さんの横で寝ていたはずのグゥがちょこんとベッドの淵に鎮座していた。 その手には何故か例の細い棒を握り締め、ソワソワと落ち着かない様子でこちらを見ている。 「グゥ……さん?」  火照った身体に冷たい汗が流れる。  オレは脳をフル回転させ、これから起こるであろう緊急事態を回避する方法を全力で探る。 「早く来い」  グゥは真っ直ぐに、それだけを言った。  ……いくら考えても、回避方法などどこにも見当たりはしなかった。 ****[[>>進む>070414_2]]

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