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 ****満田人間ハレ.2(一:>179-187)
 <<3>> 
 
 (フー…スッキリした…) 
 ジャー、と勢い良く水の流れる音が密室に響く。 
 ハレは腹中の不安要素を取り除き、実に晴れ晴れとした表情でバシャバシャと手を洗っていた。 
 しかし洗面所の鏡に写る、満田のジャムでべったりと汚れた自分の口元を見るとすぐさまその表情に影が差す。 
 グゥに一杯食わされるなんて、今に始まったことではない。その悔しさも、すでに治まっている。 
 しかしその勝敗を分けた一瞬、自分の顔に迫ってきたグゥの顔が、その後自分の唇を襲った感触が、ハレを悩ませていた。 
 「ッタク、グゥノヤツ~!」 
 照れ隠しか、自分の心に湧き上がる妙な感情を吹き飛ばすように、一人大きな声を出す。 
 「ッテ、ナンダコノコエ!?」 
 その自分の声に驚き、また大きく声を上げるハレ。 
 ヘリウムガスを吸ったときのような、やたらと甲高い声が耳に響く。それはとても自分の口から出たものとは思えなかった。 
 (賞味期限切れの満田を口の中で破裂させたから…?…まさかね…) 
 とにかく、自分の身に何か変なことが起きているのは明らかだ。 
 ハレは口元のジャムを手早くふき取ると、早足に保健室に駆け込むのだった。 
 
 「ホケンイ!!」 
 「おわ!?…なんだハレか…どしたその声?」 
 行儀悪く机に足をかけ、椅子にもたれ本を読んでいた保険医クライヴは、突然勢い良く開いた扉の音とそこから入ってきた 
 少年の声に驚き思わず椅子ごと倒れそうになった。 
 「ホケンイ~、ナンカコエガオカシインダヨ~」 
 「んー?変声期だろどーせ…」 
 ハレはそんなこともお構い無しに必死にクライヴに自分の症状を訴える。 
 が、クライヴはいつものようにのらりくらりと適当なことを口にする。 
 「ンナトツゼンナルカヨ!!サッキマデフツウダッタッテノ!!」 
 「いやぁ、子供子供と思っててもある日突然大人になるもんなんだよねぇ」 
 「オ、ナンダヨキュウニ…。トッテツケタヨーニ、ヒトノオヤッポイハツゲンスンナー」 
 「ま、とりあえず見てやるよ。ここ座って口開けな」 
 いつものように冗談めかした会話を交わしながらも、クライヴはちゃんと患者用の椅子に迎えてくれた。 
 ハレも素直にそれを受け、椅子に座ると口を大きく開ける。 
 「なんだこりゃ…」 
 「ンェ?ハニハナッヘウ?」 
 「大口開けたまましゃべんなっ!じっとしてろ」 
 ハレの口内を見た瞬間、クライヴは呆れたような声を出す。 
 その声にハレは不安になるが、クライヴに制されピタリと身体を硬直させた。 
 「んー?なんだ、これ?血…じゃないよな」 
 「アー、ソレタブン、マンダノジャムダヨ」 
 クライヴがハレの口内をガラスの棒のようなものでこそぐ。 
 棒が抜き取られると、その先端に何か赤いものが付着しているのが見えた。 
 言うまでも無く、満田のジャムであろう。 
 「満田ぁ?どんな食い方したんだよお前、喉の奥までへばりついてんぞ?」 
 「イ、イヤ~…ドンナクイカタッテイワレテモ…」 
 しかしそれを聞いたクライヴは益々呆れたような声を上げる。 
 さすがに想像もつかないだろな、とハレも言葉に詰まるが、一応言ったほうが良いのだろうか…… 
 「賞味期限切れの満田を口の中で破裂させん限りこんなことにゃならんぞ…」 
 「エェー!?ナニソノピンポイントナジョウキョウ!?グル!?ドッキリ!?」 
 …と、ハレが口を開く前に、そのものズバリを言い当てられてしまった。 
 誰の仕掛けだ、この罠は。 
 
 「…あはははは!それは僕も見たかったねぇ~」 
 「ッサイ!トニカクナントカシテクレヨ!」 
 先ほどの経緯を説明すると、クライヴはハレの予想通りの態度を見せてくれた。 
 あまりにも予想通りすぎて怒る気もしない。とにかく、今はこのヤブ医者だけが頼りなのだ。 
 「んーまぁ、満田の中にたまったガスを吸ったせいだろねぇ」 
 「…スグ、モドルヨネ?」 
 「肺の中に溜まったガスが無くなったら戻ると思うけど?でもこのへんの生物の生態はよくわかんないからなー」 
 クライヴはわざと脅すように、具体的なことは言わずニヤニヤと結論をはぐらかす。 
 自分を不安がらせて愉しんでいるのは丸解りだったが、その様子から逆に深刻な状況で無いのであろうことも伺えた。 
 クライヴの態度に少し腹は立ったが、とりあえずホッと胸を撫で下ろす。 
 「ま、数分で元に戻るんじゃない?…その満田を丸飲みしてたら厄介だったけど、ね」 
 「エ…?」 
 満田を…丸飲み? 
 ゾクリと、ハレの背中に冷たいものが走る。 
 やっぱりグルだろ?ドッキリだろ? 
 …そう、いつもの調子で突っ込みたかったが、クライヴのその今までに見たことの無い鋭い眼差しに、その言葉を口から 
 吐き出せず、ただ自分に言い聞かせるように心の中で唱えることしか出来なかった。 
 
 
 「──いやでもさ…あの満田、丸飲みせずに破裂してよかったよなー」 
 「あははは、さっきのグプタの話だね」 
 「満田に身体、乗っ取られるっちゅーやつやなー。ありえへんありえへん」 
 「わっかんねーぞ?あんなでっかいの丸飲みしたやつなんて聞いたことないしな」 
 「なになに?何の話ー?」 
 「いやあ、満田を丸飲みしたら体内で満田が根を張って、身体を乗っ取られる…っちゅーな」 
 「そうそう、とくに賞味期限切れの満田を飲み込んだらヤベーらしいぜ?」 
 「はぁ?…何それ、グプタ信じてんの、そんな話?」 
 「なっ…!し、信じてなんていねーけどよ!? 
   で、でも誰も試したやついねーんだからマジかもしんねーじゃん!」 
 「馬鹿馬鹿しい……」 
 「あーそーかよ!じゃあ飲み込んでみろよ!大丈夫なんだろー!?」 
 「あんな大きいの丸飲みしたらそれだけで身体壊すわよ。自分でやればいーでしょー」 
 「なんで俺がンなことしなきゃならねーんだよ!」 
 「私だって嫌よ…馬鹿じゃないの?」 
 「馬鹿馬鹿言うなぁ!ったくこれだから女はロマンがねーよなー」 
 「ロマンってゆーかオカルトじゃない…子供っぽいんだから…」 
 「っせーな!おめーは勉強でもしてろよ、この優等生……っと、な、何だよ…グゥ?」 
 「……それで?」 
 「え?」 
 「それで、どうなるんだ。乗っ取られた人間は」 
 「あ…ああ。なんだグゥ、この話に興味あんのか? 
   さすがお前は解ってるねー。同じ女でもどっかの誰かとはえらい違いだぜ」 
 「いいから……早く」 
 「お、おう。っと、どこまで話したっけな… 
   そうそう、満田を丸飲みした人間は、徐々に徐々に満田にその身体を乗っ取られていくんだよ。 
   飲み込んだ時点ではまだ本人にも解らない。だがちょっとずつ、ちょっとずつその様子が変化していくんだ………」 
 
 『───その変化は、注意してりゃあ誰にだってわかる。まず最初に変わるのは声だ。 
   とうてい人間とは思えねー奇妙な声に変わるんだ』 
 
 「…お前、マジで丸ごと飲み込んだのかよ…珍しいやっちゃな」 
 「グゥノセイダヨ~。ソレヨリ、ノミコンダラドーナルンダヨッ!」 
 「別にたいしたこっちゃねーよ。腹ん中で破裂するとかもないから安心しな。 
   ただ…その声が治るのに相当かかることになるぞ。腹ン中からガスが上ってくんだよ。 
   朝飯んときに飲み込んだんだったら、そろそろ消化される頃だよね。 
   肺の中のガスはもうとっくに無くなってると思うけど、まだ声が変だろ?」 
 「ソンナァ…ドレクライデ、ナオルノ?」 
 「そーだな…ま、1週間後には戻ってるんじゃねーか?」 
 「イッ…………!!チョ、ホケンイ!!ナントカナンナイノ、ソレ!?」 
 「まぁまぁ、落ち着けって。ようするに、さっさと腹ン中カラッポにしちまえばいーわけだよねぇ」 
 「エ?ソンナコトデキルノ?」 
 なんだか、面倒なことになってきた。たしかにそれほど深刻な状況では無いのだが、こんな変な声のまま1週間も過ごさねば 
 ならないと考えると早くも気が滅入ってくる。 
 とりあえず、何らかの手立てはあるようだが、この保険医が素直にそれを処方してくれるだろうか? 
 「んー…でも身体の中ってデリケートだしな、あんまし手荒なことしたくないんだよねぇ」 
 ニヤニヤといやらしく口端を歪めながら、「わかってんだろ?」と言わんばかりにもったいつけた態度を取るクライヴ。 
 「…ワカッタヨ、キョウイチニチ、カアサントイチャツイテモナニモイワナイヨ」 
 やはり、か。ハレはハァ、と大きくため息を吐くと、諦めたように「報酬」を提示する。 
 「もう一声!」 
 「キャッカ!」 
 「ちぇっ…ケチだねぇ。ま、いーや。かわいい息子のためにとっておきの薬出してやるよ」 
 医者に、と言うか父親に薬をもらうのに何故こんな交換条件を付けねばならんのか、甚だ不本意ではあったがしょうがない。 
 とにかく、このダメ親父兼ヤブ医者を懐柔することには成功したようだ。 
 …いささか信じがたいしあんまり信じたくもないが、この保険医は医者としてはかなり有能らしい。都会じゃちょっとした 
 有名人と聞いたことがある。ここにも、市販されていないような珍しい薬とかが置いてあるのだろうか。 
 「ほれ、これ飲んどけ」 
 「チョットマッテ、ソレ…」 
 「ん?なんだ、怖いのかぁ?」 
 「コワイモナニモ…ソレタダノ、イチョウヤクジャンカ!」 
 そう、それはどこの家庭にも置いてあるような、よく見るパッケージの薬だった。 
 濃い茶色のビンに、緑のふた。どこにでもある胃腸薬の入れ物だ。 
 いくら子供相手とはいえ、馬鹿にしている。 
 キッとクライヴを睨みつけるが、クライヴはまったく平然としていた。 
 「いやいや、中身は違うんだって。 
   特別な薬を特別な容器に入れとくなんて馬鹿のすることだね。 
   わざわざ「盗ってくれ」って宣伝してるみたいなもんだよ」 
 「ホントカヨ~、ナンカウタガワシイナー…」 
 「いらねーんだったら僕は別にいいんだよ? 
   これ結構高いんだから、無理にでも処方しようとは思ってないんだけどねぇ」 
 「…ワカッタヨ、ホラ」 
 「そうそう、子供は素直が一番だね」 
 なんだか納得いかないが、確かにそう言われればそれらしく聞こえる。 
 うまく騙された気がしないでもないが他に頼るあても無い。ハレは渋々と手を出し、その薬を1粒受け取るのだった。 
 
 『───でもそれだけじゃ判別は難しい。なんせ、満田に乗っ取られたやつは口数が極端に減るらしいんだ。 
   喋るのにエネルギーを使うのは無駄だからだろうな』 
 
 「コレデ、スグニモトニモドルノ?」 
 「さすがにンなすぐにゃ治んねーぞぉ。ま、1日ちょいってとこだね」 
 「1ニチか…マァ、ソレクライナライイカ」 
 「ああ、恥ずかしーなら今日1日、口閉じとけよ」 
 「ン…ソウシトクヨ」 
 しょうがない、1日くらいなら我慢出来ないでもない。 
 今日は1日、口を閉じて過ごそう。 
 
 『───次に、何もメシを食べなくなる。もともと植物だからな、水だけを大量に飲むんだ』 
 
 「それに1日くらいなら飯も我慢できんだろ?」 
 「…メシッテ…ナンノハナシダヨ?」 
 「ん?いや…この薬、効き目は本物だけどちょっと強力すぎてね。薬がジュージュー胃の中身溶かしてるとこに 
   別の刺激が入ったら、胃が大変なことになっちゃうワケ」 
 「ナッチャウワケ…ジャナイヨ!! 
   ナ…ナンデソレサキニイワナインダヨ!ッテカンナクスリ、カンジャニショホウスンナヨ!!」 
 「お前のためにわざわざくれてやったんだろ?そんな言いかたされるとは心外だねぇ… 
   1週間、そんな声のままのほうがよかったのかい?」 
 「ウ……」 
 「ま、たった1日だ。我慢しなよ。水は飲んでも大丈夫だからさ、ガブガブ飲んで中のガス追い出しな」 
 何て怪しい薬を飲ませてくれたのか。しかし後悔先に立たず、すでに飲んでしまった後に何を言ってもはじまらない。 
 …今日は水だけか…せめて先に何か食べておくべきだった。ハレはとほほ、とガックリ肩を落とす。 
 「ま、皆には言っとくからさ。お前はさっさと帰んなよ。明日は学校休みだし、今日はどーせこの時限で終わりだろ?」 
 そうだ、授業中に飛び出して来てしまったのをすっかり忘れていた。 
 …まぁどうせ自習だったし、何も問題は無いのだが。クライヴが連絡を回してくれるならそのまま帰っても大丈夫だろう。 
 今日はご飯も食べられないし喋れもしない。ゆっくりゲームするなりゴロゴロ寝るなりして過ごそう。 
 
 『───んでもって日中は日向ぼっこして太陽の光を浴び、夜はすぐに寝る。光合成のつもりなんだろーな。 
   …ほら、お前らの周りにそんなやつ、いねーか?』 
 『おらへんおらへん…』 
 
 「アリガト、ホケンイ。ソレジャソロソロイクヨ」 
 「おう。…いいか、声が治るまでは、絶対何も食うなよ。 
   その薬が効いてる間はただでさえデリケートな胃の粘膜がもっと脆くなってんだ。 
   その時に強い刺激与えたら……細胞が壊死して胃がボロボロになんぞ…」 
 保健室の扉に手をかけた瞬間、またクライヴは実に嫌なことを言ってくる。 
 最後にゾォッと背筋が凍りつくような釘を刺され、ハレはそそくさと保健室から退出するのだった。 
 (…しょうがない、今日はさっさと帰るか。…でもあの保険医がそんなすぐに家に連絡するとは思えないしなー。 
   母さん、まだ家にいるだろうし、いろいろ聞かれたら厄介だな。ちょっとそのへんの木陰で昼寝でもしてから帰ろうかな) 
 
 
 「…どれくらいの時間でそうなるんだ?」 
 「お、興味津々だなー、グゥ。 
   そうだな、だいたい満田を飲み込んでから24時間…まる1日程度で完全に乗っ取られるらしいぜ。 
   例えば朝、食ったやつがいたとしたら、そろそろその兆候が現れる頃だろうな」 
 「…………っ!」 
 「…!な…んだぁ、いきなり…。飛び出してったぞ?」 
 「トイレちゃうか?」 
 「いや…俺の話に恐れをなして逃げちまったに違いねえ」 
 「馬鹿ね…グゥがそんな話、信じるわけないでしょ」 
 「馬鹿馬鹿言うなっつーの!!」 
 「それにしてもハレ、遅いなぁ…」 
 「……グゥ…」 
 
 「ハレ…どうした、教室に戻らないのか?」 
 (グゥ…?) 
 保健室から出たハレは、そのまま学校を出ようと階段下りている最中であった。 
 そこに頭上から少女の声が響く。見上げると、グゥが階段の手すりから身を乗り出しこちらを見下ろしていた。 
 ハレはグゥを確認すると、すぐに顔を逸らす。特に深い意味は無い。ただ、下から見上げる状態ではいろいろとまずいものが 
 見えてしまっていると言うだけの話だ。 
 どうせ、あとで保険医が知らせてくれるだろうし、今、声を出すといろいろと面倒なことになりそうな気がする。 
 …しかし何も言わずに去るのも心苦しい。別れの挨拶だけでも、軽く言っておくか。 
 「…バイバイ」 
 「……ッッ」 
 …やっぱり、我ながら何度聞いても変な声。グゥも珍しくビックリしているようだ。変に突っ込まれないうちに去るべし。 
 結局、ハレはグゥには一瞥もくれずと…いうか顔を上に向けられぬまま、足早に階段を下りていくのだった。 
 
 「…グゥ」 
 「………マリィ?どうしてここに…」 
 「ごめんなさい、グゥ、さっきからおかしかったから…。 
   ハレの様子も、なんだかおかしかったね。まだ怒ってるの、かな」 
 「…どうすれば、元に戻るんだろう」 
 「大丈夫よ、そんなに心配しなくても、すぐにいつものハレに戻るわっ」 
 「いや…このままでは、ハレは明日にはハレでなくなってしまう……」 
 「…?何の話??」 
 「さっきのグプタの話、聞いてただろ。満田に乗っ取られておかしくなるって…」 
 「え?でもハレは別に飲み込んだわけじゃ……うふふ、そっか… 
   そうね、このままじゃハレは満田人間になってしまうのね」 
 「どっ…どうしよう…グゥの、グゥのせいで……っ」 
 「うーん…そうそう、あたしも聞いたことあるわ。満田に取り付かれた人間の、治し方」 
 「ほ、本当か?どうするんだ!?」 
 「うふふ、ハレといつもよりいっぱい、いっぱいお話しして、いっぱい遊ぶのっ!」 
 「え…?そ、そんなことで、いいのか?」 
 「そんなこと、なんて言っちゃダメよ?大事なことなんだからね」 
 「そ、そうか……わかった、いっぱい喋ったり、遊んだりするんだな」 
 「うんうん。それでね…自分の素直な気持ちを、いっぱいハレに伝えるの」 
 「素直な…気持ち?」 
 「そ!グゥの、素直な気持ち!」 
 「……それは…どうすればいいんだろう…」 
 「そうね…やっぱり、まずは手料理よっ!」 
 「手料理?」 
 「グゥの愛情たっぷりの手・料・理!あたしも手伝うから!」 
 「手料理か…うん。やってみる」 
 「その意気よ、グゥ!善は急げよ、さっそく、あたしの部屋で何か作りましょ!」 
 「あ、ああ」 
 「そうだ!ウェダの得意なエビグラタンなんてどうかな? 
   あたしはウェダとグゥの分作るから、グゥはハレのために作ってあげてっ」 
 「…ありがとう、マリィ」 
 
 
 <<4>> 
 
 …ここはどこだろう…?真っ暗で何も見えない。あまりにも暗すぎて、自分の姿すら目に映らない。 
 おーい、と、大声で誰かを呼ぶ。が、その声もすぐに闇に飲まれ消えていく。 
 …いや、違う。最初から、何も聞こえないんだ。自分の声すら聞こえない。声が…出てないんだ。 
 どれだけ声を張り上げようとも、その喉からは何の音も出てこない。 
 ゾ、と、背筋に冷たいものが走る。今まで当たり前のように出来ていたことが突然出来なくなる恐怖。 
 目は見えているのか?この闇は、ただオレだけが感じているものではないのか。 
 耳は聞こえているのか?本当は、周りにはいっぱい人がいてザワザワと騒いでいるのかもしれない。 
 そう思うといてもたってもいられず、ハレはこの闇から逃げるように走り出した。 
 ただがむしゃらに、無我夢中に闇を蹴る。蹴る。 
 しかしどれだけ走っても、己を覆う闇から逃れることは出来ない。地を蹴る足音も聞こえない。 
 本当にその場から動いているのか、それすらも不確かだった。 
 ついにハレは、走る気力も失いその場にくずおれへたりこんだ。 
 ハァ、ハァと大きく肩で息をし、汗が滝のように流れる。足の筋肉が痙攣し、もう満足に走ることすら出来ない。 
 
 フ、と。何かの気配がした。それはとても馴染みのある存在感。 
 前を見上げると、そこには一人の少女が、ぽつんと闇の中に浮かんでいた。 
 少女は後ろを向いていたが、一目で誰かわかる。 
 (…グゥ!!) 
 ハレは大声で叫ぶ。だがやはり、その口からは何も漏れてこない。 
 グゥにもその声が届かないのか、てく、てくと足を動かし、ハレから遠ざかっていく。 
 (グゥ!待てよ!!おい、グゥったら!!) 
 ハレは走った。叫んだ。たとえその声が届かなかろうとも、叫ばずにはいられない。 
 たとえその足がちぎれようとも、走らずにはいられない。 
 この闇の中で、ただ一つの現実。その姿がもっと見たい。その声が聞きたい。 
 ここでグゥにこのまま去られては、本当に自分と言う存在がここに確かにあるのかすら解らなくなってしまう。 
 しかし足が前に進んでくれない。まるで鉛の枷をはめられたかのように、足が重い。 
 (グゥ!グゥ!!グゥーーーー!!) 
 それでもハレは進むしかない。 
 ただゆっくりと歩いているだけのグゥにすら追いつけないような速度でも、進まないワケにはいかない。 
 その姿を見失わないように、一歩一歩前に進む。いつかグゥにその声が届くと信じて、力の限り大声を張り上げる。 
 
 (グゥ…!) 
 その想いが届いたのか。グゥはその歩みを止め、くるり、と頭だけをこちらに向けた。 
 (グゥ!オレだよ!!ハレだよ!なんか、言ってくれよ!) 
 なおもハレはグゥに少しでも近づこうと足を動かす。自分の耳にはやはり届いてはいなかったが、声を張り上げる。 
 ついに、ハレがグゥに触れられるほどに近づいたその時、グゥははじめてその口を開いた。 
 
 「……バイバイ」 
 (───ッ!?) 
 
 その声は、確かに、耳に届いた。 
 ただ自分に告げたグゥの言葉が、自分を見やる寂しげなその表情が、自分の存在の全てを否定した。 
 口が、動かない。もう何を言う気力も残されていない。その足も、身体も、ピクリとも動かすことが出来ない。 
 グゥは、そんなオレを哀れむように目を細めると、ついとまた前に向き直り、歩き出した。 
 ハレはその背中を、ただ呆然と見送ることしか出来なかった。 
 グゥが闇に消える。闇に同化する。…いや、闇に同化してしまったのは、自分の方か。 
 もう何も見えない。何も、聞こえない──── 
 
 (………はっ!?) 
 突然、フラッシュを焚いたような光とともに、視界が開けた。 
 うっそうと茂るジャングルの木々が見える。 
 その枝葉の切れ目から、自分を優しく包む木漏れ日も、その向こうにある空も見える。 
 耳にはざわざわと風に揺れる葉の音や、ピヨピヨと囀るこのジャングル特有の小鳥の鳴き声も聞こえる。 
 (…なんて、夢…) 
 そうだ、オレはあの後学校を出てすぐ、適当に涼しそうな場所を探して寝転んでたんだ。 
 いつの間にか眠ってしまっていたのか。 
 それにしても…ただ1日喋れないってだけで、いくらなんでもナーバスになりすぎだ。 
 この程度のこと、ここ3年で起こった数々の事件に比べたら苦難とさえ言えない。 
 人質にされたり漂流したり遭難したり未来のために戦ったり幽体離脱したことさえあるってのに… 
 ってか、なんだこの無駄に濃密な3年間。 
 しかし、夢の中にまでグゥが出てくるなんて。寝る前に最後に逢ったのがグゥだからだろうか。 
 …そう言えば、グゥに「バイバイ」なんて別れの挨拶をするなんて、はじめてのことだ。 
 帰る場所が同じなのだから当然なのだが、普段あまりにも傍にいすぎて、この手の挨拶を交わすこと自体がほとんど無い。 
 いつか、グゥと普通に別れの挨拶をする時が来るのだろうか。そんなことを考えると、先ほどの夢のせいもあるのか、 
 胸の奥からとても嫌な感情が湧き上がって来る。ハレはぶんぶんとそれを振り払うように顔を振った。 
 
 あの妙な夢のことも気にはなるが、今は現実に向き合わねば。ハレはよっと、身体を起こす。 
 …が、身体が動かない。何だ、まだ夢の続きなのか? 
 でも目は見える。耳も聞こえる。身体も…右半分は動く?そうだ、左側だけがやけに重─── 
 
 「オワッ!」 
 思わず、声を上げてしまった。 
 ちらりと左側を向くと、すぐ眼前に大きく広がる少女の顔。 
 その少女が自分の身体にもたれかかり、体重を預けていたのだ。 
 「ん…起きたのか」 
 その声に反応し、少女も眠っていたのか、とろんと呆けた顔を少し起こしこちらを見やる。 
 …間違いなく、さっきの夢はコイツのせいだ…。夢なんかのことで変に悩んでしまった自分が情けない。 
 (ったく、グゥはオレの夢ン中までちょっかいかけるんだからなー) 
 さっさとどけよ、と、目配せをしたいが、あまりにもその顔の距離が近く、いろいろと今日のことを思い出してしまい 
 少女の方をまっすぐ向くことが出来ない。 
 「なんか今、変な声がしなかったか?」 
 「……ッッ」 
 そんなハレの気も知らず、グゥはずい、と益々にその顔を近づけてくる。 
 その質問もまた答え辛いものだ。ってか、保険医から聞いて知ってるくせにワザとそんなことを聞いて来ているに違いない。 
 ハレはグゥからあからさまに顔を背け、グゥが迫るたびに同じだけずりずりと後ろに後ずさる。 
 「…どうした?ハレ、もしかしてさっきの声、ハレなのか?」 
 「……」 
 知ってるくせに!その手になど乗るものか。 
 ハレは無言のまま、その目も合わせずグゥを強引に押し退けると、すぐに立ち上がり歩き出す。 
 グゥもそれを受け、ハレの後ろから歩みを合わせる。 
 結局、グゥからもそれ以上何も追求して来ることは無かった。 
 
 てくてくと二人で歩く帰り道。いつの間にか、日もすっかり陰りジャングルは夕日に赤く染められていた。 
 どれだけぐっすり寝ていたのだろう。それにグゥはいつ頃から傍にいたのやら。 
 まぁ学校の帰りに偶然発見して一緒に眠りこけていたんだろう。 
 「あの……ハレ?」 
 そんなことを考えていると、いつもの学校の帰り道のように少し後ろからついてくるだけだったグゥが珍しく横に並んで来た。 
 「きょ、今日な。マリィの部屋に行ったんだ。新しく作った服とかいろいろ着せられてな、大変だったぞ。 
   ハレの分もあるらしいから、今度はハレも着せてもらうといい」 
 …へぇ、と何故か関心してしまう。 
 こんな感じでグゥから話しかけて来ることは珍しい。それに友達のことを話題に出すこともやはり珍しいことだった。 
 よっぽど楽しかったのだろう、その表情は、普段あまり見たことの無い穏やかなものに見えた。 
 こう見えてもグゥもやはり女の子なのだ。普段はオレとずっと一緒にいて、家でゲームやったりゴロゴロしてるだけだったけど 
 そんな不健康な遊びに付き合うよりも、マリィのような同年代の少女と遊ぶ方がずっと自然なことだ。 
 ちょっぴり妙な嫉妬心も感じたりしないでもないけど、グゥが積極的に友達と遊んでくれるのは嬉しい事だった。 
 …やっぱりそのうち、これまで交わしたことのないような「挨拶」を交わすようになっていくのだろうか。 
 「それで、それで一緒に昼飯を…作って、だな…」 
 なんだか、妙に言葉に詰まっているようだ。普段あんまりこんな話をしないから、言葉がうまく出てこないのだろうか。 
 それとも、グゥに限って考えづらいが、友達の話をするのに照れてるとか?…まさかね。 
 それにしても、マリィの家で昼飯までご馳走になるとは。オレも一緒に遊びたかったなあ。 
 …それもこれも、自分の声をこんなにしたグゥが…いや、グゥの戦略を読み通せなかった自分の不甲斐なさが恨めしい。 
 この声が変になってしまったのが満田のガスのせいなら、結局満田を噛み切っていても同じことだったのだ。 
 そう、グゥがあんなこと、しなくても…。 
 つい、あの時の光景を、その唇の感触を思い出してしまい顔が紅潮してしまう。 
 (やっぱり、あれ、グゥの……) 
 その感触は、グゥの無機質な顔のつくりからは想像もつかないくらい柔らかく、温かなものだった。 
 思わず、隣を並んで歩くグゥの唇を凝視してしまいまた顔の温度が上がる。 
 慌ててその唇から視線をはずし、思わず少しグゥから離れてしまう。 
 
 そうしてフ、と遠目からグゥを見ると、なぜ今まで気づかなかったのだろうか、その全身がやたらと汚れていることに気づいた。 
 その服はもちろん、髪や肌にもところどころ砂がつき汚れたような跡がある。 
 グゥにしては珍しい。帰ったら母に「よく遊んだわね、お風呂沸いてるからさっさと入りなさい」とでも言われんばかりの 
 遊び盛りなやんちゃ坊主のような汚し方だ。 
 マリィの部屋に寄った後、皆で遊んでたのかもしれない。もしかしたらその途中でオレを発見して、すぐ傍で 
 遊んでいたのかも。そしてオレは結局目が覚めず、皆も家に帰りグゥだけが残った…。 
 さ、寂しい!なんだそれっ…なんか一人置いてかれたような気分!! 
 って、自分の想像で勝手に落ち込んでもしょうがないだろ、オレ! 
 …なんて、口を開けなくてもその体質からは逃れられないのか、つい突っ込みを入れてしまった。 
 なんだかそんな自分が馬鹿馬鹿しくなり、ハァ、と小さくため息を吐く 
 
 (ン…?この匂い…) 
 …その時、ほわ、と風に乗って何かの匂いが漂ってきた。 
 それはよく知っている、何度も嗅いだ事のあるものだった。 
 すえたような酸っぱいような…まあ、いわゆる汗の匂いというやつだ。 
 こんな常夏のジャングルじゃ嗅ぎ慣れた匂いだったが、その発生源はやはり珍しいと言うべきか。 
 そりゃ、これだけ泥んこになるまで遊んだら、汗の一つもかくというものだろう。 
 それにその匂いにはあまり嫌な気もしない。…別に女の子の汗の匂いだから、とか言う理由では無く。断じて。 
 いやしかしこの汗の匂い、どことなく甘いような、なんだか良い匂いに思えて…って、オレは変態か!! 
 「……?」 
 気づけば、グゥがこちらをジィっと見ていた。 
 (あ…しまった…) 
 つい、クンクンと鼻を鳴らしてしまっていた。ホントに変態みたいだ…オレ…。 
 グゥもその様子に気づいたのだろう、おもむろに自分の腕をスンスンと匂い出した。 
 更に胸の布を広げ鼻に押し当てたりしている。もしかして、臭いから距離を置いたと思われたかもしれない。 
 さすがにこれは弁解しなくてはならないだろうか。声を出しちゃいけないとか言ってる場合ではない。 
 
 「…くさい?」 
 しかしハレがそう意を決し、その口を開こうとした瞬間、それを遮るようにグゥの口が先に開いた。 
 (プッ!!) 
 その言葉に思わず、腹にためた空気を一息に吐き出してしまいそうになる。 
 しかしここで笑ってはあんまりにも失礼というものだろう。今は笑いが収まるまで、必死にこらえるしかない。 
 ハレはその顔を見られないようにそっぽを向き、ただ黙りこくることしか出来なかった。 
 「ッ………ごめん……」 
 (…?) 
 突然何を謝るのか。別に汗をかくくらい、普通のことなのに。 
 しかしその自分の匂いを嗅がれたくないのか、今度はグゥの方から、すっと距離をあけた。 
 別にそれほど臭かったわけではないのだが、まぁ、グゥも女の子ということか。 
 たまには気遣ってやるか、とハレも特に何も言わず、家路に着くまでの間、ただその距離を保ち続けるのだった。 
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