誓いはここに残すから―――俺は、ここにいる ◆0Ni2nXIjdw


「タイム――――アクセラレイトォオオオッ!!!!」
「オーラフォトン、レイッ!!!」

拡散する死の波動。
マナをオーラフォトンに変換し、弾丸のようにして敵を撃ち貫く攻撃。
一撃でも直撃すれば、たとえキュレイキャリアの武であろうとも無事ではすまない。

「ぬっ……ぉぉおおおおっ!!!」

武はその攻撃を全て避け、敵の懐に入り込まなければならない。
自分の時間だけを加速するタイムアクセラレイト。
超高速攻撃でも、桑古木の防御力には通じない。……否、通じないはずだった。

懐に入れるはずがない。
その瞬間、オーラフォトンレイの零距離攻撃で蒸発するのが関の山。
狙いはアヴ・カムゥすら葬った一撃を弾いた『誓い』そのもの。
決して効いていないはずがない。それを信じて、武は何度でも打ち据えていく。

「らぁぁああああああっ!!!」

ガガガガガガガガガガガガッ!!

合計にして一秒間で三十撃。
全てを一点に集中すれば強大な敵でも打ち破れることを、学校での対ショベルカーで知った。
勝てる、必ず打ち砕ける。
諦めるな、何度でも意志をぶつけろ、と……自分に言い聞かせて。

「はぁあああああっ!!!」

桑古木はその様子を見て、決断する。
次の一撃に全てを賭けることを。
絶対に避けられないほどの一撃……何故なら、狙いは武を通して鈴凛にも被害が及ぶように。

「オーラフォトン、ビィィイムッ!!!」

全力を込めた一撃が発射された。
武もそれを避けようとして、背後の鈴凛に気づく。
避けられない。ここで回避すれば鈴凛が犠牲になる……だから、避けなかった。
武は『時詠』を強く握る。

「おおおぉぉおおおおおおおおおおっ!!!」

極太の光の奔流に自らを投げ出した。
それは自殺行為に他ならないが、武からすれば最上の策。決して死ぬつもりなどない。
武も、鈴凛も……両方が生き残るためには、この一撃を凌駕しなければならないのだから。

武は突撃する。
光の奔流を全て弾き返し、その上で『誓い』を破壊しなければならない。
接触したとき、自分の存在そのものが消し飛びそうなほどの衝撃を受けた。

だけど、絶対に消えてはやらない。
応援する声が聞こえるような気がして、周囲を見渡した。

(おいおい・・・)

周りには仲間がいた。死んでしまったはずの仲間の姿を幻視した。
圭一がいた、貴子がいた、千影がいた、智代がいた。咲耶や美凪、他の仲間たちもいた。
そして生涯の伴侶と決めたつぐみも、武の隣で勇ましい表情を見せて自分を送り出していた。

(はっ、これが走馬灯って奴か……?)

それでもいい、と思う。
力が入った。
もう、マナは残り少ない。それは相手も同じだろう。
次の一撃が最後だ。それで長かった戦いに決着がつく。

剣を振り上げる。
眼下に桑古木がいた。瞳が重なり合い、そして裂帛の気合と共に振り下ろした。

「武ぃぃいいいいいっ!!!」
「桑古木ぃぃいいいいいっ!!!」

初めて、武は少年の本名を呼ぶ。
繰り出されるのはやはり、力任せの必殺技。この一撃に全てをこめる。
獣たちの咆哮が響く。
轟音と共に光の弾丸が消え失せた。無防備な剣に最強の一刀を全力で叩き込む。


「クリティカルワンッ!!!」


壮絶な金属音と剣の悲鳴が木霊した。
桑古木が吹っ飛ばされる。
それでもまだ、戦う。武も手は緩めない。そのまま走り、倒れた青年の上に乗る。
武は『時詠』を振り上げ、桑古木は『誓い』を突き出した。

そうして、三秒。
両者は決着がついたことを実感した。



     ◇     ◇     ◇     ◇


「……ぐっ……」
「あっ……っ……」

喉から絞り出たのは、お互い情けないほど呆気ない声。
呆然と互いが互いを見下ろし、あるいは見上げていた。二人の手には凶器が握られたまま。

「…………っ……」
「ぐっ……はっ、ふっ……」

桑古木は仰向けに倒れ伏し、武はその上に乗ってマウントポジションをとっていた。
お互いの得物は敵の心臓を狙っていた。
武は上から断罪を下すように『時詠』を振り上げた体勢、桑古木は下から心臓を一突きに。

桑古木の『誓い』は武の胸まで伸びていた。
心臓に刺さる直前でその歩みは止まっていた。
否、真っ直ぐに武の心臓を貫くはずだった。少なくとも桑古木は敵の排除に全力を尽くした。

「………………」
「…………はっ」

乾いた息が武の頬に当たる。
桑古木の『誓い』は破壊されていた。刀身の部分がほとんど折れてしまって、柄しか残っていない。
赤黒い邪悪そうな刀の部分は……木っ端微塵に砕け散っていた。

「……単純に、武器の差が出たか」

決して桑古木が武に劣っていたわけではない。
これはアセリアとの戦いのとき、『誓い』の意志を『求め』に奪われた代償だ。
奪われた力は、ただでさえ第三位と第五位で負けていた段位をさらに引き伸ばしていた。
桑古木の持っていた今の『誓い』は第六位か第七位ほどの力しか残っていなかったのだ。

「結局……どこまで行っても、武には勝てないんだな、俺は」
「……少年」

簡単な話だ。
支給品の差……二人の優劣を決めたのは、たったそれだけのことだった。
決して桑古木が17年間も培ってきた意志の力が、武の意志の力に劣っていたわけではない。

逆に言えば。
運命すらも覆せる意志の力……桑古木の17年もの実力と実績と経験と覚悟。
武はそれと互角に渡り合った。
たったそれだけのお話だった。本当にたったそれだけの、しかし互いに死力を尽くした物語の結末だったのだ。

「……どうした、武」
「―――――――」
「まだ……全部が終わっているわけじゃないぞ」

武の『時詠』は振り上げられたまま、止まっている。
瞳に揺らぎはない。手も震えているわけではない。
だけど、悲しそうな目が語っていた。本当にこれ以外の方法がなかったのか、と。

「………………くどいぞ、武」

その優しさが嬉しかった。
あの殺し合いの後、桑古木は変わってしまった。
甘さも優しさというものも、全部失ってしまった。それほどの地獄の中で……武はまだ、武のままだった。
それも当然だ、と桑古木は内心で笑った。
そうでなければ……自分はあそこまで崇拝したりしない。憧れたりはしない。彼はずっと理想の自分だったんだから。

「今はこのとおりだけどな……すぐに、傷はふさがる」

桑古木の身体には無数の切り傷があった。
武のタイムアクセラレイトを全力で防ぎ、それでも間に合わなくて叩き込まれた斬撃だ。
その傷がある限り、桑古木は武を振り払えない。
つまり、キュレイの力で動けるようになった暁には……まだ、戦う意志があることを雄弁に語っていた。

「俺は何人も殺したし、それにココにも罪を押し付けたんだ。
 ココのため、と言って人を……自分さえも殺してきた。でもな……それって結局、しちゃいけない言い訳だったんだ」

大好きな人を言い訳の道具にすること。
桑古木は仲間である優以外には決して、ココを名指しして戦う理由を口にはしなかった。
だって言いたくなかったから。
お前のために罪を犯したんだぞ、って言いたくはなかったから。そのはずなのに、そんな想いすら……最近は忘れてしまっていた。

「そんな俺が生きていいはずがない、だろ?」
「それでも生きてほしい、と思う俺は……間違っているのか?」

当たり前だ、と桑古木は笑った。
一秒後には訪れるだろう死を前にして笑えるほど、心の中は穏やかだった。

「俺は何度でも立ち上がる。俺はこの殺し合いの仕組みを知っているだけ、引っくり返すのは無理だ、と思ってる」
「でも、俺たちはこうして引っくり返しに来たぜ。無理なんてことはないんだよ」
「どんなに言われようと、俺は確実な方法を取る。主催者に抗うよりも、侵入している参加者を消すほうが確実だ」

頑ななまでの言葉で、改めて武は気づく。
もう戻れないところまで来ているのだ。少なくとも桑古木は終わらせてくれることを願っている。
悪夢を覚ませてくれ、と……身勝手に、楽にしてくれと言っているのだ。

「……いつもの俺なら、ぶん殴って激怒するところだ」
「ありがとう」
「礼なんて言うんじゃねえっ……絶対、それは間違ってるだろうがよぉっ!!」

間違ってるのに正すことができない。
いつでも自分はそうだった。護りたいやつ、救いたいやつはいつでも指の隙間から毀れ落ちていく。
そうして無様に自分だけが生き残るのだ。
どんなに最善を尽くしてでも、それは最高ではなく最善であるが故に……最高の結末は迎えられない。

「ねえ、武。これで『僕』の悪夢は終わるのかな……?」
「……終わらねえよ、終わるわけねえだろうが! だから……だからさぁ」

涙は流してやらない。
ただ、感情が涙に変換しないように心を押し留めていく。
少年、桑古木涼権。
主人公になれる力があったのに、最後まで武の偽者として主人公にはならなかった男。

「全力で謝ってこい。たとえ赦されなくても、たとえ憎まれようとっ……絶対だぞ、約束だぞっ……!?」
「なら、最初は武からだね……ごめん、武。一番苦しい役目を負わせちゃうね……」
「そう思うなら……諦めるなよっ、馬鹿野郎っ……」
「……その言葉、優にも聞かせてやってあげてよ……それにしても、長かったなぁ……」

少年は初めて逢ったときと同じ、透明な笑みを浮かべて。

「武……ココのこと、子供たちのこと、頼むよ」

無言で武は首を縦に振る。
また、ひとつ願いを武は背負った。その肩が益々重くなっていく。今まで桑古木が背負っていた荷物を、受け取る。

この願いを受け取る、とはとても崇高なもののように感じた。
自分では叶えられなかった願い、誰かに自分のやりたかったことを明け渡すという覚悟。
きっと、渡すほうも渡されるほうも辛いんだ。
だけど、それを受け取るのは生き残った者の義務だ。この地獄の島で、武もたくさん受け取った。

そして、今もまた託された。
だからこの手は少年の願いのために……智代のときには出来なかった、最期の一撃を。
親友の道を奪ったのは他ならぬ自分なのだから……この命は、武が持って行かなければならない。

「それじゃ……さよならだ、少年」

振り下ろされた大剣の一刀。
狙いは今度こそ逸らされることなく、桑古木の身体に刃を突き立てた。



     ◇     ◇     ◇     ◇



「…………終わった、んだ」
「ああ……決着は、ついた」

もっと、最高の結末があったはずだった。
でも彼らは莫迦だった。こんな形でしか決着をつけられない不器用で頑固な奴らだった。
だけど、決して責めないでやってほしい、と鈴凛は思った。
彼らの絆も、彼らの生き様も、何度も背負ってきた想いも罪も、きっと真意を理解できるのは彼らだけなんだから。

「大丈夫か……?」
「少なくとも、そっちよりは無事なつもりだよ……倉成」
「はっ、お互いボロボロなもんだ」

休息の時間はなかった。
まだ、仲間たちは戦ってる。そして、武たちの戦いまでが終わったわけじゃない。
レムリア遺跡の因縁は幕を閉じた。残りは真実を求めにいかなければならない。

「……行くんだ?」
「ああ。ここまで来たら……最後まで。少年の言う真実ってやつを見てくる」
「私は……」
「来ないほうがいい。鈴凛は全てが終わったとき……脱出する道を模索してくれると助かる。何しろ、皆が疲れてるだろうしな」

そう言うと武は無理をして笑みを作る。
ふらふら、と足元も覚束ない状態で……だけど、戦うと告げた。鈴凛の主でもある神……ディーと。
鈴凛は戦えない。戦力としても弱いし、逆らえば問答無用で犬死するのが落ちなのだから。

「……私は、行っても大丈夫だよ? ほら、どうせ今更元の世界には帰れないし」
「…………」
「多分、罪悪感に押し潰されてダメになると思うから……だから、少し無理してもさ……痛あっ!」

無言で、武は鈴凛の頭を叩いた。
涙目で睨み付ける鈴凛と、仏頂面の武の瞳が重なり……そして、鈴凛が気まずそうに目をそらした。

「わ、分かってる……分かってるよ、命を粗末にするなって言うんでしょ? そんなの富竹さんにも言われたから、知ってるってば」
「鈴凛、どうせなら提案があるんだが」
「……何さ?」

不貞腐れる鈴凛の反応。
武は溜息をひとつ付きながら、これだけは真っ直ぐな瞳で問いかけた。

「お前、全部が終わったらうちに来るか?」

はた、と鈴凛の動きが止まった。
思考が停止している、というか呆然としているというか。

「それって、どういう意味?」
「んー……養子になるか、って話になるのか? この場合」
「……歳、いくつだっけ?」
「不本意ながら37歳、二児の父親だが……何か?」

あー、と鈴凛は頭を抱えて思い出す。
詳しくは知らないが、プロフィールには確かそんなことが書いてあったような気がする。
まあ、そのときは有り得ないの一言で切り捨てたのだが。

「事情を知る奴が傍にいたほうが、楽だと思うぞ」
「……すぐには決められないよ。多分、断りそう……」
「なら、それでもいいや。こっちからは選択肢を残すだけってことで」

そう言って笑う武を見て、鈴凛は気づく。
護ろうとするのは、何も身体だけではないと武は考えていることを。
心までも護り、そうして日常に帰してやってようやく……彼が咲耶とした一方的な約束を果たすことになる、と。
それはあくまで偽善だが……その生き方が、武そのものだと気づいた。

「ま、考えとくよ」
「ああ。そうしてくれ、そうしてくれ」

お互いに笑い合う。
身体の節々が痛いけど、それを誤魔化すためにも笑う。
そんな未来も悪くない、と思った。
初めて示された希望の道に、鈴凛は心が少しだけ軽くなるのを感じた。

そして。


「危ないっ!!」


そんな、和やかな空気は一瞬で幻想となった。

鈴凛が武に飛びついてくる。
まるで突き飛ばそうとしているかのような動きが、スローモーションで流れていく。

「死……ねぇぇええええええっ!!!!」

武はようやく、事態を把握した。
鈴凛の向こう側に男が立っている。血塗れで、気持ち悪い笑みを浮かべている。正気を失っているようだ。
そいつが、こちらに向かって銃を構えている。

(間に合って……!)

鈴凛の願いは十分に届く。
男は手が震えている。照準を定めるには時間がかかるだろう。
でも、武を突き飛ばした後で自分を守れる保証はなかった。
そんなことは考えなかった。だって、鈴凛が今まで頑張ってきたのは……自分の命を護る為じゃないのだから。

だというのに。
武は鈴凛に突き飛ばされない。腕を取られて身動きができなくなる。
このままでは武は為す術なく、撃ち殺される。だというのに、そのまま鈴凛は抱きすくめられる。

「ちょっ……」

驚いて顔を上げ、武の顔を見た。
瞳に映ったのは笑顔だった。それも父親が娘に向けるような、そんな懐の大きい笑顔。
武にも事態は分かっていた。
もう一秒にも満たない時間で撃たれる。狙いは正確に、自分の頭は破壊されるだろう。

さっきまでの戦いで、銃弾から鈴凛を庇いつつ避けることはできない。
だから、全てが織り込み済みだった。

「悪いな、鈴凛」

もう、目の前で仲間が死ぬのはたくさんだった。
たった一人でも救いたかった。
貴子も智代も千影も、目の前で死んでいった……そして、いつも後悔し続けた。
悔しかったのだ。
常人よりもはるかに強いつもりだった。最善の行動をしてきて、それでも奪われることが我慢ならなかった。

ただ、それだけのこと。

「ちょいと、さっき言ったことは無理かも知れん」

銃声は一発、それが武の耳にクールに届いた。
人を用意に破壊する鉄の凶器。
狙いが外れることはなかった。それは喰らい尽くすように。
鈴凛の耳には聞こえなかった。聞きたくなんてなかったに違いない。だから、本能が遮断した。


脳を撃ち抜く音を。


     ◇     ◇     ◇     ◇



(………………)

まだ、俺の命は尽きていなかった。
心臓を破壊されても即死にさせてくれない、だなんて改めて化け物だと再確認する。
いや、武が甘すぎただけか。
剣は心臓を直撃させてはいない。若干、一撃が逸れてしまっている。これでは破壊された、とは言いがたいものだ。

だが、もはやこれまでだろう。いくらキュレイでも不完全な俺に心臓は再生できない。
17年……随分、長い間駆け抜けてきたものだ。本当に、今更でないと振り返られないほど長く感じた。
仲間を助けたかった。ただ、それだけだった。
一度でいいからヒーローになってみたかった。物語の主人公みたいに、武のようになりたかった。
本当に、それだけだったはずなんだけどなぁ……

(ああ……でも……)

やっと、悪い夢は終わったんだ。ここが俺の終着点。
全ては武に託してきた。俺は全力を尽くして、十二分の力を出し尽くして、負けた。

(十分に満足……かな)

それにしても、武も人が悪い。
即死じゃないもんだから、さっきから身体全体がバラバラになっているみたいな激痛が走る。
わざとじゃないにせよ、一撃で終わらせるのが武士の情けというものだろう。まあ……罰だと受け入れよう。

そうして、瞳を瞑れば終わりを迎えられる。
だというのに、それで終わりのはずなのに……消えかけた瞳がとある光景を捉えた。

(おい……)

視界の端に誰かがいる。
俺を監視していた男、鳳8。部下の一人が、血走った目で銃という名の凶器を構えている。
奴は生きているのが不思議なくらいの重傷だった。
顔は爛れ、片目が潰れているらしい。血が噴出している。どうやら粉塵爆発の衝撃波にやられたようだ。

今の奴には憎悪しかない。
狙いはその向こう側。
俺の願いを託した親友の命を奪うために。

(待てよ……)

許さない。それだけは絶対に許さない。
救われない話はもう終わりだ。
ここで、俺たちで終わるべきなんだ。
もうこれ以上の無常はたくさんだ。それは全て、俺に向けられなければならないんだ。

(ふざけるな……)

身体は全身が痛むが、問題ない。『痛み』があるのなら、まだ動く証拠だ。
両手は動かない……そんなはずがない。甘えるな、動け、動くはずだ。ここでこそ動くべきなのだ。
武器はない……いや、ある。まだ手の届くところにベレッタが……17年前の相棒がある。
心臓をやられている身で身体が動くなんて有り得ない――――その程度の常識、今ここで覆して見せろ。

武を殺されるなんて許さない。
俺の一番大切な願いは、誰よりも崇拝する親友に明け渡した。
それをお前なんかに……俺の17年間を横取りされて、たまるものか。

(くそっ……くそ、くそ、くそっ……!!)

動け。
地獄に落ちていい、永劫苦しんでいい。だから動け。
頼む、動いてくれ……ここまで来て、誰も護れないなんて嫌だ。
一度だけでいい。
ほんの少し、あの男よりも早く引き金を引けるだけの力をくれ。

本当にこれが最期なんだ。
神にでも、悪魔にでもない……ただ、17年間、走り続けた俺の身体に、意志に頼み込む。
たった一度だけでいいから。
俺に仲間を護らせてくれ。17年、願い続けたことを叶えさせてくれ……!

(ヒーローにならなくていいっ……俺を、最高の親友の仲間として、戦わせてくれっ……!!)

動けっ……頼むっ!
動け動け動け動け動け動け動け動けっ!!!
動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け、動けぇえっ!!!!



ダァンッ!!!

     ◇     ◇     ◇     ◇





「………………?」

銃声はひとつ、衝撃はなかった。
大脳を破壊されれば痛みを知覚する前に死ぬ、という話を聞いたことがある。
だが、腕に抱いた鈴凛の感触は消えていない。
生きてる。
俺はまだ、ここにいる。

「………………あっ……」

背後を見る。
脳髄を破壊された男が横たわっていた。
そいつはさっきまで銃を向けていた男に相違ない。殺すはずだった男が殺されている。
その向こう側にそいつはいた。
死体一秒前みたいな奴が、銃を握って……引き金をひいた状態のままで、枯れ木のようになっていた。

「しょう……ねん……」

少年は何も言わない。もう、何も言えないほどの重傷だった。
ごぼ、と口から大量の血液が零れ落ちている。
全身を自身の血で真っ赤に染め上げながら、あいつは笑っていた。不敵に……笑っていた。

ゴウン……!

地響きがひとつ。
俺は瞬時に思い出していた。この不吉な音、それは17年前に聞いた破滅の足音だ。
浸水する可能性は十分にあった。
まさか、と冷や汗が流れる。さっきの粉塵爆発の影響に違いない。

「浸水、か……?」
「……大丈夫。ここの隔壁は想定よりも頑丈だから……ここを隔離すれば、浸水事故は起きない」

鈴凛は語る。
浸水する以上、蜥蜴の尻尾を切る必要がある、と。
レムリア遺跡というひとつの決戦の舞台を切り離すことで、この海洋テーマパークを守る。
それが、ただひとつの問題に対する解答だった。

選択肢はない。
三つの選択肢があったと仮定しても、その全てに同じことが書かれているようなものだ。

「………………」
「行こうよ、倉成……ここで立ち止まること、部隊長が望むなんて思えないよ」
「…………ああ」

そうだな、と相槌で返すしかなかった。
レムリア遺跡の入り口まで走ると、鈴凛が隔壁とシェルターの操作を開始する。
下がってくるシェルター。
俺のいる生の世界と、少年のいる死の世界を明確な区別で分けるように降りていく。

少年はずっと、俺を見ていた。
何かを口にするほどの力もない癖に。
生気の欠片すら感じられないほど青白くなった表情でも、ずっと不敵に笑ったまま。


お前が護れ、と告げていた。



     ◇     ◇     ◇     ◇



「この、莫迦ぁああああっ!!!」
「ぐあっ!! ちょ、少し待て! 悪いのは自覚してるから、そこ、そこは傷口、アッー!」

お叱りを受けながら、治療を受ける。
救急箱に包帯はないので、救護室までいって色々と取り揃えてきた。
もう、山狗をはじめとした面子はいない。
どうやら一人残らず出撃しているらしい。ほとんどの包帯がなくなっているところから、利用はしていたようだが。

「人に勝手に夢を与えておきながら、白紙に戻せ!? その格好付けを矯正してやる!」
「もう少し優しくしてくれよ! 本当に痛いんだからな!」
「分かってるよ、分かってるっての、この莫迦っ!! だけどこれで十分、はいっ!」

そんなこんなで、ドタバタ。
やがて治療を終えると、互いの顔つきも変わる。

「……んじゃ、俺は行くぞ。そっちの取り分はそれで十分だな?」
「オーケー。こっちには切り札があるしね」

鈴凛にはこれまで通りにコルトM1917を装備してもらうことにした。
司令塔である桑古木が倒れたとしても、山狗たちは独自に行動するだろう。自衛は必要だ。
それともうひとつ。
脱出のときに迅速な連絡が必要なので、トランシーバーを預けておいた。

「全部が終わったら、それで連絡を取り合おう。通信機は傍受されかねないし」
「了解。……それにしても、そんな状態で大丈夫なの?」
「当然。仲間が戦っているんだから……俺一人、休むわけにはいかねえよ」

目的地は真実の扉。
ドイツ語で『空』を意味するあの場所に、何が待っているのだろうか。
恐らく、あの男が待っているのだろう。
この殺し合いの主催者にして黒幕、天使の羽を生やした神様とやらが。

「さぁて、とっとと終わらせてくるとするか」
「……うん。気をつけて」
「おう。そっちも保留しておいた件、考えておいてくれよ。ま、お互い無事で終わることが大前提だけどな」
「あは、そうだね」

互いに、口元を歪めて笑いあう。
これから、あの強大な神と戦うというのに武には恐怖という感情がない。
どんな敵が相手だろうと、勝たなければならないから。
それだけの意思を受け取ってきたのだから。

武は後ろを振り返らなかった。
隔壁で遮断された決戦の舞台……そこに取り残された親友の顔を、一度だけ心に刻む。

(少年)

そうして一言。
倉成武は強い決意を胸に宿し、鈴凛と別れて走り出した。


(その願い、絶対に叶えてみせる)



【LeMU 地下二階『ツヴァイト・シュトック』救護室/三日目 黎明】

【倉成武@Ever17 -the out of infinity-】
【装備:永遠神剣第三位"時詠"@永遠 のアセリア-この大地の果てで-、IMI デザートイーグル 4/10+1】
【所持品1:IMI デザートイーグル の予備マガジン4本 デザートイーグルの予備弾(.357マグナム弾)148発、
      九十七式自動砲 弾数0/7 九十七式自動砲の予備弾(20ミリ弾)71発、 智代のヘアバンド@CLANNAD、装備品を記したメモ】
【所持品2:支給品一式x24、C120入りのアンプル×5と注射器@ひぐらしのなく頃に、 バール、工具一式、バナナ(台湾産)(3房)】
【所持品4:謎ジャム(半分消費)@Kanon、『参加者の術、魔法一覧』、十徳工具@うたわれるもの】
【所持品5:銃火器予備弾セット各100発(現在の内訳は別表参照)、 バナナ(フィリピン産)(5房)】
【所持品6:包丁、救護室の治療用具、エリーの人形@つよきす -Mighty Heart-、スクール水着@ひぐらしのなく頃に 祭】
【状態:肉体的疲労大、左肩裂傷(処置済み)、全身打撲、上半身カンフー服着用、首輪解除済み】
【思考・行動】
基本方針:仲間と力を合わせ、ゲームを終わらせる
0:少年……
1:『HIMMEL』へと向かい、全てに決着をつける
2:仲間たちと鈴凛を心配
3:優を説得する
4:自分で自分が許せるようになるまで、誰にも許されようとは思わない


【備考】
※制限が解かれたことにより雛見沢症候群は完治しました。
※永遠神剣第三位"時詠"は、黒く染まった『求め』の形状になっています。
※海の家のトロッコについて、知りました。
※ipodに隠されたメッセージについて、知りました。
※瑞穂達から電波塔での一連の出来事を聞きました。
※武器の配分をしました。

※以下、予備弾セットとしてまとめて保管状態
麻酔銃(IMI ジェリコ941型)の注射器97本(注射器の中身の一部は麻酔。他は後続の書き手さん任せ)
FN ブローニング M1910の予備弾(.380ACP弾)100発
FN P90の予備マガジン(5.7ミリx28弾50発)3本→注、瑞穂の所持品との合計数。
ブラウニング M2“キャリバー.50” の予備弾(12.7mm×99弾50発)


【鈴凛@Sister Princess】
【装備:コルトM1917(残り2/6発)、鈴凛のゴーグル@Sister Princess】
【所持品:トランシーバー、コルトM1917の予備弾(.45ACP弾)74発、スタンガン】
【状態:肉体的疲労大、右肩銃創(処置済み)、腹に痣、契約中】
【思考・行動】
1:参加者が脱出できるように、なんらかの手段を講じる
2:武たちの安否を心配
3:メカ鈴凛と合流したい



     ◇     ◇     ◇     ◇


(はっ……はは、ははは……っ……)

隔壁の降りた死の世界で、俺は愉快に口元を歪め続けていた。
ここにはいない親友に語りかけるように、未来へと走っていく姿に羨望を覚えながら……自慢するように。

どうだよ、武。
やったぞ。
やればできるじゃないか、俺も。
心が軽くなった。
今の一瞬だけは……その行動が正しいと信じて行動できた。

シュー、シュー……水の音。

武を見送った。ココのことを任せた、と言えたと思う。
あいつらなら、俺たちが無理だと絶望したことをやれると思う。
だって、この殺し合いの仕組みを破壊してきた奴らで……武は、俺の親友なんだから。

時間の感覚がない。あれからどれくらいの時間がたっただろう。
まだ十秒かも知れないし、もう一日以上経ってしまったかも知れない。
崩壊は緩やかに、でも確実にやってくる。

(まったく……心臓ですら完璧に破壊しないと、死ねないのか……キュレイってのは、本当に反則だよな)

ただ、死ねない。
制限が解除されたキュレイは、感染者を生かそうと努力を続けている。
それでも心臓が治る気配はない。ただ、生きているだけだった。

その間も苦痛は続く。それこそ、永劫に続いている。
呼吸も満足にできない。頭もろくに回らない。
意識も薄れていく。きっと、脳に酸素が行かなくなったのだろう……いや、酸素量が少ないのか。


ゴゴ、ゴゴゴゴゴゴ。


終わりが近づいてくる。
きっと圧倒的な暴力となって、俺という存在を飲み込んでいくに違いない。
あれから、どれぐらい経っただろう。
もう、全ては終わった後だろうか。武たちは無事に帰れただろうか。俺にはもう、考えることもできない。

それでも、心にはひとつの想いが宿っている。
仲間を護りたかった。好きな人を護りたかった。


ゴゴゴ、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!


その想いだけを胸に秘め、迫り来る津波に身を委ねる。
俺はやり遂げることが出来なかったけど、心は親友に託した。
だから、悔いはない。本当に何一つない。

(終わりか。本当に……疲れたなぁ)

まぶたを閉じると、意識は浮遊する感覚があった。
だが、意志は確固としてここにあった。
粉々になろうとも、バラバラになろうとも。たとえ死んだとしても。

それはただの意地かも知れないが……その意地を意志として通してきたんだから。
意志は願いに姿を変えて、武に渡してきた。
だからずっと、俺は……『僕』は武の心の中にいる。そう……ここにいる。



――― こ こ に 、い  る ―――



【桑古木涼権@Ever17 -the out of infinity-、死亡】


211:その意志、刃に変えて 投下順に読む 211:終幕(前編)
211:その意志、刃に変えて 時系列順に読む 211:終幕(前編)
211:その意志、刃に変えて 倉成武 212:解放者――ウィツァルネミテア――(前編)
211:その意志、刃に変えて 鈴凛 213:※後日投下予定※?
211:その意志、刃に変えて 桑古木涼権








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