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その意志、刃に変えて ◆0Ni2nXIjdw



「鈴凛、発見。これより襲撃する」
「くっ……このおっ!!」

銃声がレムリア遺跡に木霊する。
一発、二発ではない。それこそ敵味方入り乱れて十発以上の弾丸が擦れ違う。
鳳8は若干、興奮した様子で進軍する。
それは中々捉えきれない敵に対しての憤りではなく、逃げる獲物を追う狩人のような高揚感だ。

「鳳8、まだ突撃はしないのか?」
「慌てるな、鳳5……敵はあの小娘だけじゃない。倉成武も一緒にいる可能性があるんだぞ?」

数字は残りの二人、鳳5と鳳6のほうが高い。
だが、鷹野直々に命令されている鳳8のほうが指揮権があった。何せ、鳳部隊での実質の第二席だ。
その彼が『じわじわと攻めろ』という命令を下している。

「多くの仲間がやられている以上、迂闊には手を出せんよ」

普段の慇懃無礼な態度とは打って変わった、冷酷そうな笑み。
確かに武がいれば自分たちなど、すぐに敗れてしまうことは明確だ。
だから、彼らは待機する。向こう側からは何度か銃撃戦を仕掛け、こちらも応戦はするが前には進まない。
何しろ、武さえいないと確信できれば……小娘一人、簡単に制圧できるのだから。

そして、その合図は明確に響いた。
入り口で激突を知らせる銃撃、これこそ……鳳8が待っていた開戦の合図だ。

「今だ、鈴凛を確保するぞ」

命令は始末、だが大した問題ではない。
銃の腕は大したことないし、腕力などの身体能力の差も歴然だ。
油断ではない。
これはただの余裕に過ぎない。捕らえた後、どうするか……くつくつ、と笑いがこみ上げてきた。

「……このぉおおおっ!!」

鈴凛が直線通路に飛び出し、発砲を開始した。
レムリア遺跡は迷宮アトラクション。奇襲も強襲も思いのままの、ゲリラ戦法が有利に思える。
だが、山狗は自衛隊崩れながらプロの存在だ。
人殺しは厭わないし、上官の命令なら大量虐殺だって肯定する。それが軍隊というものだから。

「はっ、自棄か、小娘がっ!」

こちらの大の男三人。
鈴凛の銃撃を壁際に避難することで避け、三倍の銃撃で逆襲する。
多勢に無勢と判断したのか、鈴凛はまた一歩後退する。
これで三度目か。袋小路に追い詰められていく姿を見て、鳳8は下卑た笑いを抑えきれなくなってきた。

「……この先は、そろそろ行き止まりだ」
「よーし……一度挑発して、向こうの弾切れを待つ。その後、間髪いれずに突撃だ」

指示に、鳳6が頷いた。
挑発として、行き止まりまで誘導しつつ……銃で牽制する。
銃声が鳴り響く中、鈴凛も応戦はしているのだが……苦し紛れなのが、明らかにわかる。

鳳5が銃声を数える。
一回目に撤退したときは五発、二回目と三回目に撤退したさっきは六発。
鈴凛の使用する銃の最大装填数の見極め。
冷静な序盤ならともかく……相手が焦り始めたそのとき、必ず全弾を撃ち尽くす。その習性を彼らは知っていた。

「……四、五……六発!」
「今だ、突撃しろ!」

その予想は限りなく正確だ。
鈴凛が武から預かったコルトM1917の最大装填数は六発。
弾丸はあっても、予備マガジンがないために……すぐにリロードはできない。

(取った……!)

確信していた。
袋小路に誘い込まれ、敵は逃げ出すことができない。
完全に王手だ、と。


「は……?」


そう、信じて慢心していた。

「おい……なんだ、そりゃあ……?」

一人が、呆然と呟いた。
歯がガチガチと音を鳴らす。瞳には絶望を宿したまま、一歩下がった。
確かに鈴凛の持っている銃、コルトM1917は弾切れだった。そういう意味では、彼らの戦法は正しかった。
だが、目の前に展開されているのは違う。

九十七式自動砲、対戦車ライフル。
袋小路の一番奥、まるで最初からその場に設置してあるかのように鎮座していた。
凶器ではなく、兵器。
鈴凛はその後ろにいる。誘き寄せられた哀れな男たちに対して、笑いかけることすらしない。

「待――――」

待て、と言いたかったのだろうか。
鈴凛は目を瞑り、そして引き金にかけた指に力を入れた。
轟音と、そして叫び声。
兵器の破壊を目的とした銃器を、鈴凛は人間に対して使用した。

ドォン!! ドォンッ!! ドォォンッ!!

男たちの悲鳴が木霊した。
鈴凛は歯を食いしばって、引き金を何度も引く。何度も……命を奪う行為を続ける。
この苦しみだ。この悲しみだ。
鈴凛たち主催者側が、参加者63名に強制させたことだ。

「うっ……ぐっ……」

涙が出た。カラカラに乾いた舌が痛い。
噛み締めた唇から血が滲む。
胃の中のものを全部吐き出しかねないほどの嘔吐感を、強引にねじ伏せていった。

「あっ……」

気づいたら、そこには何もなかった。
自分を襲おうとしていた男たちの姿だけじゃない。そこには本当に何も残っていなかった。
レムリア遺跡は迷宮を作り出していた壁が破壊され、コンクリートの破片から粉まで吹き荒れる。
これほどの純然なまでの破壊活動。
鈴凛はようやく、自分の唇から血が流れていることに気づいた。

「っ……痛っ……」

人を殺した。
無我夢中ではなく、計算して。
心に重く圧し掛かる事実は、かつて倉成武が手にかけた少女の姉妹に背負わせた罪だ。

惨劇を作り出した九十七式自動砲を、デイパックの中にしまいこむ。
まだ、終わったわけではない。武はまだ、桑古木と戦っているはずなのだから。
急がなければ、と思うところで……その影に気づいた。

「やって……くれやがったなぁ……!」

がらがら、と瓦礫の中から……鳳8が顔を出した。
その姿を見て呼吸が止まるかと思った。まさか、あれだけの惨劇を以ってしても倒れなかったのか。
そうして、鈴凛はじっと見ていて気づいた。
彼の仲間が転がっていた。生きるために必要なパーツが千切れていて……満足げに、男は死体を蹴り飛ばした。

「殺す、殺すっ……ああ、くそ。なんでクソガキにここまでっ……!」
「まさか……盾にしたの!? 仲間を!」

人殺しを肯定してしまった自分もだが、この男も外道だ。
そいつは銃をこっちに向けて、嫌らしく哂った。

(……視界が悪いから、一発で決められることはない、と思いたいなぁ……)

煙が舞っている。
鈴凛と男の距離は十メートルといったところか。

「……あれ……? 視界が、悪い……?」

ふと、その予感に鈴凛の顔色が青くなった。
破壊されたコンクリートが粉になって空中を舞う。風通しがよくなった分、視界が狭まってしまっている。
重要なのはそこじゃない。
この『粉がたくさん舞っている状況』こそが、異常の塊のようなものだった。

「っ……やばっ!?」

鉱山が爆発する話がある。あれは別に爆発物の取り扱いを間違えたわけではない。
削った岩の微細な粉末が空気中に充満しているからだ。
空気中の粉末に火が灯ると、酸素の燃焼速度が異常に上がり……その結果、空間そのものが巨大な爆弾になるのだ、と。

鈴凛は逃げた、それはもう脇目も振らずに。
男は今更逃げられると思ってるのか、と哂う。まったく……自分がこれからしようとする自殺行為に気づいていない。
引き金が引かれ、それが逃げ回る鈴凛から外れて壁に当たる。
男は二発目を撃とうとした。だが、それはできなかった。何故なら……壁に弾丸が激突したとき、火花が生まれたから。


瞬間、対戦車ライフルを越える轟音が響いた。
少女の悲鳴は、掻き消されていった。



     ◇     ◇     ◇     ◇


「っ……ちいっ!!」
「ふっ……っ……!」

両者は人間としての性能を超えて、激しく戦っていた。
武がデザートイーグルを発射しながら牽制し、桑古木もベレッタを使って応戦する。
弾丸は当たらない。
既に何度も死線を潜り抜けてきた彼らにとって、弾丸を避けることも不可能じゃない。

「くそっ……速ぇえなあ、少年っ……!」
「武こそ。……まさか、ここまで動けるとは思わなかったっ……これは認識を改める必要があるなっ!」

桑古木は正確な射撃で武の命を狙う。そこに容赦は一切ない。
頭を狙い、避ける軌道にさらに一発、誘導から必殺までを完璧にこなして必殺を狙っている。
武はその攻撃をあるときは顔を逸らして回避し、あるときは柱に隠れ、あるときは『時詠』で打ち落とす。

ここに鈴凛や仲間たちがいなくてよかった、と武は思う。
今の二人は暴力の嵐だ。武には回りに気を使う余裕がないし、跳弾や避けた弾丸で周りは蜂の巣になっている。
その大嵐の中心ですら、台風の目ではあり得ない。

「っ……そういや、まだ聴いてなかったな! 優の奴はどうした!? そもそも、なんであいつは鷹野に協力してるんだっ!?」
「……さあね、優は音信不通だっ! 目的は……優本人に逢って聞くべきだろう……『逢えたら』、なあっ!!」

両者が同時に弾切れを起こし、予備マガジンに変える。
そこはやはり場慣れしている桑古木のほうが速く、武は数秒間を無防備で過ごさなければならない。
やっぱりなぁ、と武は確信する。
この遠距離戦に勝ち目はない。銃をほとんど扱わなかった武では、桑古木を倒すことはできない。

(予備マガジンも少ないし……時間も稼げねえかっ……!)

レムリア遺跡から聞こえてくる銃声が気になる。
鈴凛が襲われていることは容易に想像がつく。出来ることなら応援に行ってやりたい。

「向こうも派手にやりあってるな。レムリア遺跡の壁は防音仕様だが、中にいる俺たちには堪らない」
「ちっ……」

だが、桑古木はそれを許さない。
むしろここで桑古木を止めなければ、無理に助けにいくよりも遥かに危険だ。
このままではジリ貧なのは間違いない。
それが目に見えているからこそ、武は銃による戦いを諦めることを決断した。

「うぉぉぉおおおおりゃああああっ!!!」
「……っ!?」

突撃、武は十メートルの距離を一秒で縮める。
桑古木は目を見開いて驚いた。まさか、このタイミングで距離を詰めてくるとは。
ベレッタを構えようとして……やめる。武の身体能力なら避けられる可能性が高い。

武の手には永遠神剣『時詠』が握られている。
ならばこちらも、同格で押し返す必要がある。掴んだのは永遠神剣『誓い』……そしてマナ結晶。

ガギィンッ!!

激しい金属音、両手が痺れる感覚が両者にあった。
武は遠距離戦を捨てて、接近戦を挑んだ。
慣れ親しんだ『時詠』ならば、剣を使い慣れていない桑古木と互角以上にやりあえる。

「くっ……」

桑古木は僅かに顔を曇らせる。
確かに接近戦において、桑古木が持っていたアドバンテージはない。
一合、二合、三合と刃を交えるが……決着がつく様子はない。

「……どうした、少年……剣は使い慣れていないのか……?」
「まあ、な……銃のほうが使い慣れているのは否定できないが……だから、どうしたっ!!」

鍔迫り合いのまま、桑古木は吼える。
懐に入れていたマナ結晶が眩く光り、次の瞬間には武は吹き飛ばされていた。

「がっ……!?」
「永遠神剣はマナを補給することによって、絶大な力を生み出す。……武に、勝ち目はない」
「ぐっ……やってみなきゃ、分からねえだろうがぁああああっ!!!」

再度、突撃する。
桑古木は『誓い』を構えて振り下ろし、武は右手に持った『時詠』で受け止める。
そっきと同じ状況で、桑古木は再び言霊を刻む。

「オース!」

もう一陣、繰り出される刃が武の胸を狙った。
受け止められる『時詠』は『誓い』を抑えるので精一杯……終わりだ、と桑古木は呟く。
武は、あろうことか笑う。
犬歯をむき出しにして、獰猛に笑う。

「らあっ!!」
「なにっ……!?」

そして、オースが弾き飛ばされた。
武の左手にはあるものが握られている。それで殴り返したのだ。
永遠神剣『冥加』の鞘……本体が破壊されても、未だ形を留める永遠神剣の一部。

この戦法はかつて、圭一と美凪が自分を破った戦法だった。
今では圭一の形見のようなもの。
驚いた隙を武は見逃さない。思いっきり『誓い』を弾くと、鞘を使って桑古木の顔面を殴りつけた。

「がはあっ!!?」

完璧に決まった。
桑古木は為す術もなく、吹っ飛ばされて柱に激突する。
武は決着の予感に、僅かにため息をついた。


直後、あらゆる音が消失した。


「がぁぁああっ!!?」

衝撃波に身体が吹っ飛んだ。
ごろごろと転がりながら、何が起こったのかと混乱する。
まるで大きな爆弾が爆発したような、それほどまでの衝撃。余波で宙に浮くくらいなのだから洒落にならない。

「な、なんだ……?」
「粉塵爆発」
「っ―――――!?」

武が反応したときには、手遅れだった。
ズゴンッ!!
壮絶な音が響く。後頭部への一撃、武はそのまま倒れ伏した。

「……どうやら、向こうも決着がついたか。あの状況なら……全員、無事とは言いがたいな」
「て、めえ……」
「終わりだ、武……武の負けだよ」

つまるところ、これが決着だった。
桑古木はまだ立っている。武は地に伏せ倒れている。
それが、全てだった。



     ◇     ◇     ◇     ◇



「おい、ふざけるなよ……」

このぐらい、と武が腕に力を入れようとする。……が、入らない。
そんな莫迦な、と愕然とする一方で桑古木は静かに状況を分析する。

かつて、舞にも食らわせた後頭部攻撃。
武に与えたのは、多少不発と言わざるを得ない。自分のダメージも大きい。
それでも、しばらくは立てない。
そういう風に構造上、できているのだから。だからもう、武に勝ち目はない。

「キュレイを殺すには、脳か心臓を完全に破壊するしかない」

ゆっくりと弾き飛ばされた『誓い』を拾いながら、桑古木は解説する。
それは親友との別離の最期の言葉。
彼の命は自分に握られている、という時点で……もう、何もかもが終わりなのだ。

「大脳に一発、痛みは感じない」
「っ……やられるかよ……負けられるかよっ……!」

全力を尽くしても敗れ、無念のまま死んでいく奴を何度も見てきた。
そういう奴らが殺してきたから、今の桑古木涼権がある。
それは親友を目の前にしても変わらない。
大切な者を護るために、鬼にでも悪魔にでもなると誓った。あの時、そう誓ったのだから。


「じゃあな」


簡潔な言葉にも容赦はない。
そうしてベレッタを構え、武の頭を破壊するために引き金を引こうとして。
そのまま、指が停止していた。

「………………」

桑古木の目が細められた。
瞳はあくまで感情をともさず、それでいてじっと目の前を見ていた。
彼の視界に武の姿はない。
武を庇うように、一人の少女が手を広げていた。

「やらせない」

鈴凛だった。
全身を打ち身しているのか、少し動いただけで身体が軋んでいる。
ゴーグルは壊れているが、武のデイパックは持ってきていた。
ただ、その中身を出す余裕はなかった。だから身体ひとつで飛び出してきた。

「どけ、鈴凛。お前はまだ間に合う。レムリア遺跡から出ない以上、まだ言い訳は立つ」

それは桑古木が見せた最後の優しさだ。
無為に死ぬ必要はない。
勝敗は決した、逆転の一手などない。この状況で大人しく牢に戻るなら、何も見なかったことにしてやる、と。

「どかないよ」

だが、それを鈴凛は突っぱねる。
桑古木にはその行動が理解できない。
庇う対象が彼女の姉妹やらなら理解できる。だが、自分の親友はむしろ逆だ。

「……どうしてだ? 言いたくはないが、武はお前の姉妹の仇でもあるんだぞ? どうして庇う?」

姉妹を助けたかった、と鈴凛は言っていたらしい。
それは自分がココを護るのと同じこと。親近感がない、とは言えない。
だが、もしもココを殺した者がいるとして……桑古木はそいつのために、命を投げ出すなど考えられなかった。

鈴凛は答える。
瞳には最期の意志……否、意地を宿して。

「殺してないよ、誰も」
「なに?」
「私の姉妹は……私たちが殺したんだよ。倉成武も、高嶺悠人も、オボロも、水瀬名雪ですら加害者じゃない」

自分にも言い聞かせるように、鈴凛は語る。
身体は震えている。やがて訪れるだろう死に恐怖しながら……その全てを飲み込んで、啖呵を切る。

「こんな殺し合いに巻き込まなければ、誰もが幸せに暮らせた。皆、幸せだった。
 それを奪ったのは誰さ? 大切な人のためって言って、その人に言い訳を押し付けたのは誰さっ!?
 考えるまでもない、私たちでしょ!?
 だから、恨むのなんて筋違い。憎むのは間違っている……だから、私は助けなければいけないっ!!」

それが鈴凛の贖罪、戦う理由。
多くを奪ってきたからこそ、こうして両手を広げなければ。
そうしないと、顔向けできない。
地獄で必死に戦ってきた、最愛の姉妹たちに対して顔向けできるはずがない。

「それが、まったくの無駄だとしてもか……?」

迷わず、頷いた。
意志だけは負けないように、強く言い聞かせた。


「殺したければ殺せばいい! こんなことしても犬死だって、助けられないって分かってるけど!
 でも、絶対にどかない……どいてなんかやらないっ!!
 もう逃げないんだから! 私の姉妹たちは戦った! だから私も決して逃げない! 屈したりなんかするもんかぁあっ!!!」


鈴凛は瞳から涙がこぼれた。
悔しい、自分に力がないことが悔しい。
命を投げ出しても届かない。どんなに頑張っても結果がついてこないことが悔しい。

「………………っ」

ふと、そんな鈴凛の姿が重なった。
かつて、17年前に殺した少女の姿と。自分が額にベレッタを撃ち込んだ、あの姿と。
気づけばベレッタを降ろしていた。
あの光景がフラッシュバックして、銃を撃つことが出来なくなっていた。

「なら……その意地を抱えたまま、消えろっ!!」

代わりに振り上げたのは『誓い』だ。
当然、今更戻れない。
殺す相手が二人に増えるだけの話。どんなことを言われようとも、もう止まらない。

鈴凛はギュッと目を閉じて痛みを待つ。
桑古木は、その手を振り下ろす。
グチャリ、肉を切る感触と音が生々しかった。ゾクリ、と背筋が凍るほどに。

「………………?」

衝撃は来ない。
鈴凛は恐る恐る目を開ける。
その向こうに、彼はいた。
動けないはずの、庇う対象がそこに立っていた。

「勝手に……話を進めるんじゃあない……」

桑古木は驚き、自分の失策に唇を噛んだ。
そうだ、武への後頭部攻撃は不完全だった。だから、時間がたてば立ち上がれるのだ。
手に持った『誓い』は武の左肩に食い込んでいる。
武の血が桑古木の頬に飛び散る。そんな凄惨な状況下で……武は語る。

「いつも、俺の知らないところで……仲間が犠牲になっていた」

右手には『時詠』……彼の唯一の武装。
一歩、踏み込むと血の噴射が一際激しくなった。

「何度も、護れないことを嘆いてきた」

右手には圭一の形見でもある『冥加』の鞘。
そして懐には智代の形見であるヘアハンド。どちらも、力を与えてくれる大切なもの。

「もう、奪わせない……」

熱に浮かされたように武は語る。
約束があったのだ。
殺した相手への偽善として、確かに彼は誓ったのだ。

『お前の姉妹は俺が護る』

誓いは果たせなかった。それどころか、姉妹に襲い掛かることすらした。
ずっと後悔していた。そして情けなく思っていた。
今度こそ、今度こそだ。
あのときに誓った約束を果たす。それが圭一の意志を受け継いだ、自分の贖罪だと信じて。


「もう、一人だって死なせてたまるかぁああああっ!!!!」


武は『時詠』を振り上げる。
桑古木は身の危険を感じて、咄嗟に『誓い』を武の肩から抜いて下がった。
そんなこと、武には問題にならない。
この振り上げた剣はそのために振り上げたわけではないのだから。

「ようやく……思い出したぜ。こいつの、本来の使い方」

左手で持っていた『それ』を放り投げる。
圭一の形見だけど、ずっと持っておきたかったけど。
こうすることで誰かの代わりに護れるのなら、きっとそれが正しいことだと信じたから。


「圭一……俺に、力を貸せぇえええっ!!!」


ガギィンッ!!
破壊音が響きわたる。
標的は……永遠神剣『冥加』の鞘。
そう、『マナの塊である永遠神剣の一部』を破壊し、そのマナを『時詠』に取り込ませる!

「喰らいやがれッ!!」

クリティカルワン。
一撃必殺。
一瞬で距離を詰めた武が魔力を込めた剣を放つ。

かつて、月宮あゆの乗っていたアヴ・カムゥすら両断した必殺の一撃。
たとえキュレイのキャリアとはいえ、直撃すれば桑古木が無事でいられる道理はない。
桑古木は呆然としながら、ゆっくりとスローモーションで訪れる死をコマ送りで幻視する。

(俺が……負ける……?)

桑古木の中で何かが切れた。
認めない。そんなことは認められない。
一度でも負けられない。負ければ終わりの人生を生き抜いてきた。

(俺は――――)

マナ結晶が煌く。
永遠神剣『誓い』が歓喜の声を上げる。
桑古木涼権は吼える。

「負けられるか……負けられるかよおっ!!!」

この声に答えるように。
マナ結晶がビキリ、と音を立てて崩壊した。
それにより、マナ残量の残り全てを吸い尽くした『誓い』が勝利を呼び込むため咆哮する。


オオオオオオォォオオオォオオォッ!!!


取り込まれた桑古木の身体。
誓いと一体化するかのような、そんな姿……武の一撃、クリティカルワンが弾かれた。
武は敵として立ち尽くす親友を見上げる。
どちらも退けない。どちらも逃げられない。どちらも……譲れない。

「鈴凛……下がってろ」
「…………勝てる、よね?」

それは確認というより、願望に近い。
アヴ・カムゥも一撃で葬ったほどの攻撃を弾かれた。
その事実を前にしても、絶対に武は退かない。後ろには……護ると約束した少女がいるのだから。

「…………は……あっ……」

武の身体は震えていた。
桑古木の身体は永遠神剣に取り込まれている。
だが、その意志は些かほどの衰えもない。
必ず勝つ、と……その意志の強さだけで武の身体が震えている。

「当たり前だ」

震えるのも当たり前だ。そうでなければならない。
だって、これは要するに。
眼前に立ち尽くす奴さえどうにかすれば、他の誰でもない……自分の手で約束を果たせるのだから。

だから、武の身体は歓喜で震えていた。
怖いはずなんてない。
ずっと願っていた、誰かが護れるときが来るのを。ずっとそれだけが望みだった。
たとえ相手が親友であろうとも、お互いの意志は此処に示したのだから。

「武」
「少年」

互いに一言、言葉を交わす。

「俺の意志を凌駕する覚悟は決まったか?」
「俺の願望を打ち砕く覚悟は決まったか?」

二人が、そろってニヤリと笑う。


「「戦えば、分かる」」


両者が、同時に地面を蹴った。
これが最後の激突、互いが互いの意志を喰らい尽くす殺し合い。
決着はおそらく、三秒間。
それで、この長かった因縁の対決に終止符を打つ。

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