※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

戦いの鐘は二度鳴った(前編) ◆0Ni2nXIjdw



『レムリア遺跡で待つ』
『恐らく、全ての答えは17年前と同じ場所に……『HIMMEL』の先にある』

主催者陣営の一人と思われる男から、俺個人に伝えられた伝言。
その内容をずっと考えていた。
沙羅から伝えられた言葉と、そして瑞穂やアセリアと戦ったらしい男の特徴を脳裏に反芻する。

どうやらそいつは、俺に似ているところがあるらしい。
情報はそれだけだったが、最悪なことにそれだけで理解できる話でもあった。

俺の推測が正しければ、待っているのは最悪の展開だろう。
きっと数時間前の俺なら……疑心暗鬼の塊になっていた俺なら、確実にその時点で発狂していたに違いない。
そんな、益体もないことを考えていた俺の意識も、溶けていく。
本拠地までの移動方法は、あの島に送られたときと同じ方法……テレポートやワープの類らしい。

(まぁ……今更、驚くようなことじゃないけどな)

少なくとも成人を迎えるまでは普通の学生生活を送っていたはずなんだ。
それが何処をどう間違えたのか、エレベーターをひとつ乗り遅れたばっかりに水難事故に巻き込まれて。
我武者羅に生き抜いて、一眠りのつもりが17年の歳月を眠り続け……起きたら二児の父親だ。

そしたら次は殺し合いに巻き込まれて、大切な人や仲間を失って。
理不尽としか言えない人生だ。
神様ってやつがいたら思い切り殴ってやりたい。……というか、神様と敵対している身としては、機会ができるわけだが。

そうして、俺の意識は飛んでいく。
自分の推測が的外れであることを祈って。そのまま……意識はぶつりとテレビを切るような音と共に消えた。



     ◇     ◇     ◇     ◇



「う、うっ……ん……ここは?」

次に目を覚ましたとき、俺は見覚えのある場所で倒れていた。
まず、周りを見渡して数秒間、呆然としていた。脳が事態の把握に手間取っていたからだ。
やがて、溜息と共に俺はその光景を受け入れた。
夢でも幻でもない。これは純然たる事実だと自分に言い聞かせて、ようやくそれを心で理解した。

「LeMU……帰って、来ちまったな……」

LeMU二階、ツヴァイトシュトックの更衣室だ。
俺自身はあまり足を運んだ記憶はないが、とりあえずこの場所が何処にあるかぐらいは頭に入っている。
俺たち全員の中で、俺ほどLeMUの内部構造に詳しい仲間はいないはずだ。

まずは荷物を確認する。
デイパックはある。中身も何一つ抜けてない。沙羅の忠告を思い出しながらポケットに弾丸を入れておく。
俺はこの島に来たばかりのことを思い出しながら、武装の確認を行った。

そういえばトランシーバーがあったんだっけか。
確かもうひとつはカニが持っているはずだけど……カニが潜伏している可能性を考えると容易には使えないな。
カニの奴からの反応を待とう。あいつなら、こっちの都合も考えずに連絡してくるだろ。
まあ……忘れている、という可能性はない、と信じたいがな。

(確か……会場には銃を持った兵隊がいたんだっけ。数は分からねえが、少なく見積もるのは早計だよな……)

そうとなれば『時詠』は使わないほうがいい。
一対一ならともかく、一対多でしかも相手は銃だ。『時詠』などの接近しなければ使えない武器は危ない。
使い慣れていないにしても、射程の不利を埋められる利点を考えれば銃器に頼るべきだろう。
デザートイーグルや対戦車ライフルであろうとも、キュレイの力を使えば容易に扱えるのが強みになるはずだ。

(あとは、レムリア遺跡とHIMMELか……)

後者は後回しにするべきだ。
誰の忠告かは知らないし、できれば知りたくないが……真実を求めている余裕はない。
大方の予想通り、逸れてしまった仲間たちの捜索と敵戦力の撃破で手一杯だからだ。

それにレムリア遺跡にしたって、罠の可能性が高い。
ノコノコと出向いていくのは愚の骨頂だろう。さすがにそんなことは余力があってもお断りだ。

「しかし……最初の目的が仲間探しって、この島に来たばかりを思い――――っ!?」

刹那、慌てて俺は身を隠す。
足音が近づいてきたからだ。しかも更衣室に向かってくるらしい。
隠れられる場所を探すと、即座に飛び込んだ……そう、常套手段ともいえる、コインロッカーの中へと。

俺は息をするのも忘れて、硬直する。
現れたのは少しばかり古い服装の男が一人……どうやら、会場にいた兵隊の一人らしい。

「くああ~……ったく、冗談じゃねえよ……なんだよ、厳戒体勢って。……やってられねえ」

男は更衣室のベンチに座ると、胸元から取り出したタバコに火をつける。
口から漏れるのは上司に対する文句や、面倒そうな溜息ばかり。

(う~ん……)

あいつも主催者の一人だろうか。
つなぎみたいな服を着た男だが……うーん、どちらかというと三下の匂いがする。
何というか、三人並んで現れても雑魚A、雑魚B、雑魚Cで区切られてグループ分けされそうな、そんな感じ。

男はタバコを咥えながらロッカーの隙間に隠していたアダルト雑誌を見るばかり。
反対側のロッカーに隠れている俺には気づく様子もない。
罠の可能性も考えたが、どう控えめに見てもサボっているようにしか見えない。

というわけで。
じっとしている時間がもったいなかった。

「うおらぁあああっ!!!」
「なっ……がふあっ!?」

バァン、とロッカーを開けると同時に襲い掛かった。
さすがに『時詠』やらはまずいので、デイパックの中に入っていたゴルフクラブで頭を殴打する。
ごつり、と鈍い音がして男の悲鳴が上がる。
開始から撃破までわずか三秒。まず、一人目をこうして打っ飛ばすことに成功した。

「……ふう。後ろで勝利の音楽が聞こえるぜ」

莫迦を言っている暇はない。
ここはもう敵の本拠地だ。
こちらに増援なんていないし、敵の戦力は未知数。分が悪いにも程がある。
だが、それら全てを超えていかなければならない。今まで死んでいった仲間たちのためにも、だ。

「ぐっ……き、貴様」
「もう一丁」

意識を取り戻した男の頭に踵落とし。
壮絶な音が響き、ついでにカエルが潰れたような声を出して今度こそ撃破に成功する。
からり、と男の手から機械がこぼれた。

「……通信機、か?」

危なかった。
もしもここに俺がいることを知らされたら、袋小路に追い詰められることになる。
キュレイの力も付与させた一撃だ。多分、もう起き上がれないだろうが……とりあえず、ロッカーの中に隠しておく。

「さーて……こいつは、どうするかな」

手に持った通信機からはノイズが走っている。
とりあえずスイッチを押すと、声が聞こえてくる。鳳だの、鶯だのと鳥の名前を連呼する人たち。
数字とかもつけて連絡はしているのだろうが……よく意味が分からん。

『……こちら雲雀7、提示連絡。こちら異常なし』
『こちら鳳5、提示連絡。レムリア遺跡のほうも異常なし』

恐らく鳳とかはコードネームだろう。数字はこいつらの識別と考えるのが妥当か。
とりあえず傍受しておいて聞き取れる鳥の名前は鳳、雲雀、鶯、白鷺。数字の最高値は十三までだ。
合計すると……52人。
俺たち参加者のもともとの人数を、僅かに下回るぐらいの規模だ。

「……洒落にならんなぁ」

さっき倒した奴も大の男だ。多分、拾える声の質から全員が男なんだろう。
筋肉もついてたし、並の子供たちが大半だった参加者よりも基礎はできているに違いない。
服装が古臭いのは気になるが……それよりも、このままでは数の暴力に押されかねない。
俺やアセリアならともかく、梨花たちには辛い相手かもしれない。

ぶつ、ぶつっ……

『こちら、本部。どうした鳳9、提示連絡が来ていないぞ』

そんなとき、俺の持っている通信機が初めてはっきりとした音を出した。
通信機の向こう側からは何度も『鳳9』を呼ぶ声が続く。
もしや……俺がさっき気絶させたあの男が『鳳9』なのか? そうなると……どうするべきか。

「……こちら鳳9。異常、なし」
『本部、了解。……参加者たちがいつ、攻めてくるか分からない。気を抜くな』

少し考えて、俺は成りすますことを選んだ。
このまま『鳳9』が消えたままになるより、俺が潜り込んだほうが効率がよさそうだ。
バレないか気になったが、インカム越しには簡単に分からないらしい。

少しばかりホッとしたのも束の間。
今度はかなり慌てた声色を持って、別の男が通信機に噛み付くかのような焦燥で告げた。


『見つけた、ついに来たっ……奴らが来たぞっ!!!』


それは電撃的なスピードで告げられた。
風雲急を告げる、と言わんばかりの声に、男たちの通信が喧しくなってくる。

来た。
瑞穂か、蟹沢か、それともアセリアか。
少なくとも誰かが行動を起こした。そして……奴らはそこに向かって移動する。
俺もじっとしてはいられない。この人数は想定外、恐らくは装備においても厳しいところがあるだろう。

「……こちら、鳳9」

だから、俺は通信機からリダイアルをするように連絡する。

「LeMU二階、ツヴァイトシュトックにて『倉成武』を発見。応援を送ってくれ」

生き残った俺と7人の仲間たち。
必ず生きて帰ると誓った、地獄の島の戦友……彼らのためにも、俺はできることをしなければ。

「倉成武はエレベーターホールへ向かった。非常階段の辺りの隊員が最寄だ!」
『こちら本部。了解した……鳳7、11、12。直ちに現場へ急行せよ!』
『り、了解っ!! これよりそちらに急行する!』

生き残った男は俺一人。
こいつらの中に紛れ込み、霍乱させることができるのも俺だけだろう。
幸い、体調は万全。武装も完璧。そして受け継いできた想いは人一倍だ。

「ぶち破る……」

階段を下りていく。
ここは危険だ。今、俺がいる場所はツヴァイトシュトック……もうすぐ隊員たちが来るだろう。
エレベーターホールに誘き寄せているうちに、ドリットシュトックへと降りる。

「運命だろうが、規格外の存在だろうが……全部、ぶち破ってやるからなっ……!!」

決意を胸に秘めて。
俺はエレベーターホールへと向かった。


     ◇     ◇     ◇     ◇



「ちっ……少し、気づかれずにってのは無理か」

さすがに非常階段を放棄まではしないらしい。
エレベーターホールに二人、非常階段に一人だ。このままでは強行突破するしかない。
こんなことなら『鳳9』を全裸に剥いて、あの服装もパクってくるんだった。そうすれば潜入できたかもしれないのに。

(さぁて、通信機で普通に頼むだけじゃあ……なぁ?)

どうせここを放棄するつもりはないだろう。
どこの軍隊かは知らんが、基本は押さえているらしいな。
管制室や警備室から俺たちの行動は把握されている可能性が高いし……潜入にもやっぱり、限度があるだろう。
最悪、エレベーターホールが三人であることが罠の可能性もある。

(しょうがねえ、脅すか)

デイパックから取り出したのは、九十七式自動砲。
智代が持っていた一撃必殺の銃器だ。正直なところ、武器というより兵器と言ったほうがいいだろう。
俺は物陰に隠れたところから、通信機を取り出した。

「こちら鳳9! エレベーターホールの隊員、気をつけろっ!! 対戦車ライフルだっ!!」

一応、奴らに警告しておく。
いきなり攻撃することに良心の呵責を覚えたわけじゃない。
その方が突破が効率的なだけだ。

ズガンッ!!

一撃、九十七式自動砲が火を噴いた。
ホールの壁に着弾すると同時に爆発する。驚いた隊員が腰を抜かしてしまった。

「ひいっ!?」
「じ、銃撃っ……対戦車ライフルだってえっ!?」

慌てふためく奴らに目掛けて、連射する。
反動をキュレイの腕力向上で強引に抑え、そのまま引き金を引き続けた。
二撃、三撃、四撃、五撃、六撃――――七撃目で、玉切れする。
エレベーターホールは見るも無残な姿になっていて、白い煙がもくもくと噴出していた。

「こ、こちら鳳7っ……襲撃、襲撃を受けたっ……た、助けてくれ、殺されっ……」
「どけぇぇええええっ!!!!」

取り出したのはデザートイーグル。
銃器関係は扱いにくいのだが、それでもこの人数を『時詠』ひとつで乗り切れるとは思っていない。
この武器には智代の力が宿っている。
だから、お前ら。よく知っておけ。お前らはずっと見ていただけだったってことを、その身に刻め。

銃声がひとつ。
俺が放ったデザートイーグルの弾丸は、鳳7と名乗った男の肩を直撃した。

「ぎゃぁああああぁぁぁああっ!!!! ひっ、ひぐっ……腕が、あ、腕がぁぁぁぁっ!!!」

肩が吹っ飛び、左腕が千切れたまま転倒した男を見下ろす。
痛い、痛いと繰り返す男は……涙と鼻水で醜悪な顔つきになりながら、俺を見上げて悲鳴を上げた。

「あっ、は、ひぃあああっ!? ひ、人殺し、人殺しぃいいいっ!!! この悪魔っ、鬼っ・・!!」

ぶつり、血管が切れる音がした。

「……てめえ」
「あっ……ひゃああああああああっ!!?」

怒りで、脳が沸騰しそうだった。
人殺しも、鬼も悪魔も、言われて当然の言葉だとは思う。俺は否定できない。

だけど、お前がそれを言うか?
こんな殺し合いに放り込んで、俺たちの仲間が死んでいくのをケラケラと笑い続けたお前らが?
マジで殺してやろうか、と思った。
だけど、これ以上やっても無意味だ。たとえ皆殺しにしようが、それで仲間が帰ってくるわけじゃない。

「てめえら、どけぇえええっ!!!」

無視して非常階段を下りる。
床に伏せて九十七式自動砲の銃撃から逃れていた男二人が、後ろから発砲し始めた。
ここで被弾するわけにはいかない。
俺は目的地まで到着すると、階段を下りるなんて悠長なまでなんかせずに。

「うぉぉおおりゃぁああああーーーーーーっ!!!」

非常階段から飛び降りた。
着地と同時に、駆けた。足が悲鳴を上げるが、構わない。
足の骨は、多分無事だ。気圧差で息苦しいが、既に慣れた体だった。

広場まで走った。
途中に他の奴らがいるなら、ぶっ潰すつもりだったが……どうやら、まだ来ていないようだ。

「………………広場、か」

少しだけ、憩いの間と呼ばれた広場に遠き日を幻視した。
ここでパーティーもしたし、空は花のことを気に掛けていたっけ。
心の中で空にゴメン、と謝った。これから俺がやることは、きっと……空なら激怒するだろう、そんなことだ。

「だけど」

これで他の奴らの注意が俺に向かうなら。
どれほどか分からないにしても、試してみなければならない。我武者羅に、何度でも。



     ◇     ◇     ◇     ◇



「こちら鳳13、倉成武は非常階段を突破! ドリットシュトックに降りた模様!」
「鳳12より、本部。これより鳳13と共に追撃する。……応援を送れ!」

了解、と鳳の部隊長である桑古木の声が聞こえる。
本来なら管制室を本部にするべきなのだろうが、突然あちこちから参加者の急襲を受けてしまった。
その結果、指揮系統は混乱。他の部隊との連絡も効果がない。
桑古木は自身の指揮する隊を鳳だけに決め、残りの部隊は各自の隊長の指示に従うように伝令を下した。

カンカンカンカン、と階段を下る足音。
追撃は慎重だった。あの九十七式自動砲の脅威が脳裏を過ぎる。
下から狙われては、困るなどというものではない。

「…………だ、大丈夫か?」
「分からん……応援を、待つべきなんだろうが」

ドリットシュトックまで降りた。
互いを背中合わせにして、辺りを見渡すが倉成武の姿はない。
ホッと一息つきながらも、彼らが手に握る銃は決して下ろさない。
何しろ敵は人を殺してきた奴らで、そしてあの地獄を潜り抜けている。鳳7のいうように鬼や悪魔の類なのだから。

そんなとき、通信機が音を立てる。

『こちら鳳9! ひ、広場が……え、炎上中!』
「な、なんだとぉっ!?」

慌てて広場へと向かう。
本来、LeMU内で火災などが起これば警報が知らせてくれるのだが、今は侵入者警報が鳴りっぱなしだ。
しかしここは海底。空気などは人工的に機械で取り入れられるが、それでも酸素が燃やされては堪らない。
誰だ、そんなことを仕出かす大馬鹿者は、と急いで駆け寄ると。

広場の一部が紅蓮の炎に包まれていた。

「おっ……おい! すぐにスプリンクラーを作動させろっ!!」
「あっ、ああ!」

同僚にスプリンクラーの操作を任せると、鳳12は現場の検分に移る。
炎上しているのは広場の花畑を中心にして、約三分の一というところだ。
しかし彼にしてみれば不に落ちない。確かに草花は燃えやすいが、果たしてその程度でここまでの火災を起こせるか?

いや、まだ謎はある、と鳳12は考え込んだ。
ここに自分たちを呼び出した『鳳9』は何処に行った?
先に炎上している広場を見つけたのなら、どうしてスプリンクラーすら作動していない?

そう、それに何より。
―――――どうして鳳9は倉成武の情報ばかりを?
さっきから、鳳9の言葉に踊らされ続けていないだろうか?

「しまった……罠か!」

同時に、スプリンクラーが作動する。
そんなことすら気にかからず、すぐに鳳12は本部へと連絡する。
その後ろで、同僚だった鳳13が悲鳴を上げて倒れた音が聞こえた。

『こちら、本部』
「こちら鳳12! やられたっ、鳳9は倉成武の偽装だっ!! 俺たちは踊らされていたん―――――」

告げられた言葉はそれだけ。
直後、後頭部に壮絶な一撃が叩き込まれ、鳳12は為す術なく崩れ落ちていった。



     ◇     ◇     ◇     ◇



「……バレちまったか」

スプリンクラーを作動させた男と、本部とやらに連絡を取っていた男を見下ろしながら呟いた。
俺が手に持っていたのはゴルフクラブだ。
これでも背後から殴れば撲殺できるぐらいの武器……とはいえ、気絶させただけに留めているつもりだ。

しかし、さすがに人を殴るための代物ではないのか。
ゴルフクラブは二人を殴り飛ばした時点で、明後日の方向に曲がってしまっている。
これはもう、使えそうにないな。広場に投棄しておく。

「それにしても、派手にやりすぎたか?」

人口雨で鎮火していく広場を尻目に、俺はその場を離れた。
火の元はランタンの火とオイル。もう用のない情報をまとめた紙や暗号文の紙、誰かのノートなどの燃えやすいものを燃やした。

ただ、それだけでは足りなかった。
なのでデイパックの中に入っている洋服類全てに着火させ、一気に燃え上がらせたわけだが。
壮大な罠の割りに、掛かったのは二人だけ。これには失望せざるを得ない。

「……行くか」

とにかく、ここにいれば囲まれる。
もう潜入作戦は通じない。それでも何とか奇策を弄していかなければならない。
イメージするのはゲリラ戦。
少人数で相手を撹乱するには、この戦法しか有り得ないのだから。



     ◇     ◇     ◇     ◇



「鳳2、鳳3、鳳4は倉成武を追撃! 現在、奴は鳳9に扮装している可能性あり!」
『こちら鳳3、ドリットシュトックで倉成武を発見……追跡中。発砲の許可を』
「こちら本部、鳳1……発砲を許可する」

桑古木は警備室に待機していた。
侵入者は大体、ここで把握することができる……はずなのだが、予想外の出来事がひとつ。
本来、ここで戦闘をする予定ではなかったこともあり、全館では監視カメラなどの役割が働いていないのだ。

そもそも監視機能があるのなら、鈴凛の反乱も未然に防げた。
鷹野が盗聴器に頼ったのは、このLeMU館内に空システムが搭載されていないが故の、苦肉の策だったと言える。
これは明らかな鷹野側の油断だった。
もしも空システムを完備し、このLeMUも万全だと言うのなら……きっと、今のこの状況はなかった。

「点呼を取る。鳳、番号を!」

鳳1を名乗るのは部隊長の桑古木だ。
既に鳳だけでも4人が戦線から離脱している状態……他の部隊も、どうやら苦戦しているようだ。

「ぶ、部隊長。いかがしますか……?」
「ヒエンはインゼル・ヌルに出向いているし、優は音信不通……他の奴らも散らばってる、か」

ハウエンクアも富竹も、敵の迎撃のために散ってしまっている。
各個撃破が基本だが、それぞれがバラバラになってしまっているため、そうもいかない。

そもそも、まるで沸いて出たかのようにあちこちから参加者たちが現れたことが計算外だ。
インゼル・ヌルから現れると思っていただけに、隙を突かれた。
この様子だと本拠地である鷹野たちの司令室にも、もう参加者たちが向かっている可能性も考えられる。

(どうやら、順調らしいな……武)

腰に挿した『誓い』が悦びの声を上げていた。
永遠神剣としての本能が残っているのだろうか、それとも桑古木の心を写し取っただけなのか。

(その調子だ……こんなこと、思うのは間違ってるだろうが……頼んだぞ)

隣で慌てふためく隊員たちをよそに、気づかれない程度に桑古木は口元を歪めた。
それはまるで、戦場で自軍が思い通りに戦えないというのに喜んでいるかのように。

闘争はまだ、終わらない。



     ◇     ◇     ◇     ◇



「こちら鳳11、異常なし。レムリア遺跡に敵影なし、鈴凛にも問題なし」
『了解、引き続き監視を怠るな』

レムリア遺跡、監獄内で鈴凛はそんな言葉を聴いていた。
冷たい壁に背を預け、ずっと俯いたまま口を閉ざしている。耐えるように、堪えるように。

既に異常は感知していた。
警報機は侵入者の存在を告げ、銃撃音から爆発音が牢獄にまで響き渡る。
ほとんどの隊員が対処に追われ、このレムリア遺跡にも僅か二人の隊員が配置されているのみに過ぎない。

「………………」

鈴凛は思う。
富竹が救ってくれた命の使い道を。
姉妹を見殺しにし、仲間の心を犠牲にしてまで永らえた命をどうするべきか、と。
弱い心に問いかける。
そっと、自分の心に聴いてみた。どうするべきか、どうしなければならないのか。

(富竹さん……千影、咲耶、衛、四葉……アニキ)

理解した。
もう十分に理解した。
自分が口だけの女であって、死を恐れる子供だったということは。

四葉も衛も、死の直前まで自分らしさを貫いた。
咲耶は姉妹たちを護るために殺し、殺される覚悟すら決めた。
千影は最後まで生き残りつつも、その身を投げ出して誰かを救い、叱咤しながら逝った。
富竹は利用されていた相手すらも救い、逃れようのない破滅へと堕ちていった。

(私は……)

呆然と手のひらを見つめた。
この手で何を為せたというのだろう。まだ、この殺し合いの仕組みに風穴を開けただけ。
だけど、まだ足りないのだ。
犯してしまった罪を滅ぼすには、まだ全然足らない。
誰がなんと言おうと、まだ自分は意志を通していないことに気づいた。それに気づいてしまえば、簡単な話だったのだ。

「……ああ、なんだ、こんなつまんないことだったんだ……」

参加者の仲間を気取るにしても。
多くの人たちを見殺しにした罪を滅ぼそうと考えても。
大切な姉妹すら見捨てた罪を贖おうとするのならば。

―――――今、彼らの想いを背負って戦っている仲間たちと、同じ土俵に立たなければいけないというだけの話。

「生きる……戦うんだ」

こうしている間に、仲間は傷ついていく。
ぼんやりしている内に、最後の希望は一人、また一人と倒れていくかも知れない。

だったら。
ここで嘆いている暇など、一瞬たりともあるものか。
そんな傲慢は、そのような怠慢は今すぐ捨ててしまえ、と心の中で強く念じた。

「――――――」

開錠されている牢獄の向こうから、超えるべき障害を見据えた。
敵は二人。どちらも銃を携帯している。
軍事訓練を積んだ大人が二人、そして自分は戦闘すらまともにこなせない子供で、しかも女だ。

だが、勝算はある。
一人は背後を向きながら、インカムで本部と情報交換をしている。……こちらには無防備。
もう一人は外の様子が気になるのか、うろうろと落ち着きがない様子だ。
その隙を突いて銃を奪えば……可能性はある。十分に、戦えるはずだ。たとえ、勝算が薄いとしても。

(……勇気を)

突撃する直前、心の中で祈った。
殺された姉妹たちの姿も、まだ日常に留まっている姉妹たちの姿も、そして自分の兄の姿も。
その全てを思い浮かべて、弱い心を奮い立たせた。

(弱い私でも……仲間の助けになれるような勇気を、ください)

四葉と衛はもっと怖かったはずだ。
咲耶の決意と信念はもっと尊かったはずだ。
千影の生き様はもっと、もっともっと壮絶で厳しかったはずだ。
姉妹たちは戦った。この地獄で精一杯の生を謳歌した。だから、次は自分が戦うのだ。

戦わなければ、いけないのだ。


「うっ……うぁぁああああああああああっ!!!!」


一息と同時に冷たい床を強く蹴る。
息を呑むような音が鈴凛の耳に過ぎったが、そんなことに気を留めている暇はなかった。

「なっ……うおぉ!?」
「きっ、貴様ァッ!!」

パァンッ……パァンッ!!

銃声がひとつ。
そして数秒後にもうひとつ。
レムリア遺跡には再び静寂……いや、それ以上の寂滅が場を支配した。


211:宮小路瑞穂/鏑木瑞穂(後編) 投下順に読む 211:戦いの鐘は二度鳴った(後編)
211:宮小路瑞穂/鏑木瑞穂(後編) 時系列順に読む 211:戦いの鐘は二度鳴った(後編)
210:We Survive(後編) 倉成武 211:戦いの鐘は二度鳴った(後編)
209:ワライ 鈴凛 211:戦いの鐘は二度鳴った(後編)
207:牢獄の剣士(Ⅱ)――夢想歌――(後編) 桑古木涼権 211:戦いの鐘は二度鳴った(後編)






| 新しいページ | 編集 | 差分 | 編集履歴 | ページ名変更 | アップロード | 検索 | ページ一覧 | タグ | RSS | ご利用ガイド | 管理者に問合せ |
@wiki - 無料レンタルウィキサービス | プライバシーポリシー