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ワライ ◆0Ni2nXIjdw




「…………ん」

牢獄の中に少女はいた。
冷たい壁に背を預け、体を動かすことなく座っている。
瞳を閉じて、じっと待っていた。時間が過ぎるのを……沼に潜んだ竜が天に昇る時節を待つように。

(五秒前……三、二、一……うん、時間は経過したね)

この監獄に時計はない。
だから体内時計を利用しているだけに過ぎないのだが、大体の目測は立っている。
そろそろ起動するはずだ。
鈴凛が2034年の技術を追加して作り上げた、自慢の切り札……メカ鈴凛が。

「……鈴凛くん、無事かい?」
「うん、まだ大丈夫だよ、富竹さん」

自分の牢獄の隣、もうひとつの牢獄から同志の声がした。
富竹ジロウ。自分と同様に疑われ、そして私と手を組み、捕まって投獄された男。
かなりの拷問を受けているようだったが、それでも当人は意外と元気そうにしていた。

鈴凛自身も、鷹野に殺されるという秒読みがスタートしている段階なのに、まだ何も音沙汰がない。
牢獄の監視役たる山狗も最低人数を残して、出て行ってしまった。
おかげでほとんど放置されてしまっているのが現状だ。冷たい床と壁、そして不衛生な環境は鈴凛を少し辟易させた。

「ごめんね、富竹さん。私も失敗しちゃった」
「いや、十分さ。山狗たちが何だかてんてこ舞いなのも、鈴凛くんが頑張ってくれた成果だろうからね」
「はは……そうなら、いいけどさ」

ここは未来のない人間たちが閉じ込められる場所だ。
鈴凛にもはや未来はない。たとえメカ鈴凛が起動しようとも、マスターである自分は恐らく間に合わない。
こつ、こつ、こつ。
足音がする。ハイヒールのような女性ものの靴特有の高い音。

「こんばんは、鈴凛……それにジロウさん」
「…………鷹野さん」
「鷹野……」

牢獄の中、富竹ジロウは対峙していた。その隣の部屋には鈴凛もいる。
レムリア遺跡は好んで訪れるような場所ではない。
訪れるのは囚われの身である富竹や鈴凛、彼らを監視する山狗たち……そして、彼らに用のある者。

鈴凛はいよいよか、と思った。
首輪の設計法を訊きだしてから、殺される。もう終わりが近いということを知っていた。
当然の報いだと思った。
鷹野を裏切ったことに対することじゃない。大切な姉妹たちを含めて見殺しにしてきたことに対して、だ。
臓物を引きずり出されて殺される、など……自分に相応しい罰じゃないだろうか。

「……ふふふふ、そう怖がらないで、鈴凛ちゃん。今は貴女の命で愉しむ暇がないの」
「どういう、こと」
「貴女の希望が、もう少しでここに来る。それだけのことよ……嬉しいでしょう?」

鈴凛の目に光が灯る。
梨花は、そして皆はやり遂げてくれたのだ。
電波塔の破壊を、そして本拠地への突入もまもなく。だからこそ、山狗たちを戦闘態勢に入らせた。

「だからその前に、やるべきことをやりに来たの」
「……やるべき、こと?」

もう、鈴凛には視線すら向けていなかった。
鷹野は山狗の一人に富竹の牢獄の鍵を開けるように要求する。
開錠の音が静寂を破る。
鷹野はこつ、こつ、と富竹が縛られている場所まで歩いていく。

「ねえ、ジロウさん……いい加減、ハッキリさせましょう?」
「…………」
「今からでも遅くないわ。私の味方になってくれれば……何でもあげる。何だって、ね」

富竹は溜息をついた。
それは鷹野がここに来るたびに尋ねる内容だった。

「何度聞かれても、僕の答えは変わらない。もう……ハッキリしていることだよ」
「……命が惜しくないの? 山狗にも莫大なお金を上げたけど……貴方はいくらで私の味方になってくれるのかしら?」
「寂しい人だな……貴女は」
「私はね、ジロウさん……指揮官として、囚われの身である貴方に聞いてるんじゃないの」

鷹野三四として、富竹ジロウに尋ねているのだ、と。
お互いの立場も、敵と味方という現状も無視して……鷹野三四は勧告する。
ただ、戦力として考えているわけではない。富竹と鷹野の二人にしか分からない、そんな……願い。

「くどいよ、鷹野さん。僕は協力できない……もう嘘も、つきたくない」

一時的にでも協力した振りをしたことがある。
あれですら、富竹には限界だった。それだけ彼は真面目で、そして優しかった。非道に痛める良心があった。
そんな真っ直ぐな誠実さが、鷹野が富竹を気に入っている理由のひとつだった。

「そう……」

残念そうに鷹野は頭を垂れた。
そんな姿を見て富竹は思う。今からでも考え直してはもらえないだろうか、と。
彼だって鷹野三四が好きだった。だけど、彼の正義は鷹野と対立した。
だからこうして抗い、そして今また彼女の言葉を拒絶している。愛し合った彼らは、しかし互いの信念がためにこうなっている。

「なら、最後の手段しかないわね」
「えっ……?」

顔を上げる富竹は、確かに絶望を感じ取った。
鷹野は笑っていた。狂気に溺れたような、それでいて正常な笑みで笑っていた。
それは妙齢の女性らしい蟲惑的な笑みで……ぞっとするほど残酷なものだった。

「取引しましょう、ジロウさん」
「とり、ひき……?」
「そうよ。もう一人の裏切り者……鈴凛の処遇をめぐって、ね」

パチン、と鷹野が指を鳴らす。
レムリア遺跡に監視をしていた山狗が鈴凛の閉じ込めていた牢獄を開錠すると、そのまま雪崩れ込む。
一瞬、何が起きたか分からない鈴凛は大した抵抗もなく、取り押さえられた。

「うあっ……!!?」
「鈴凛くんっ!?」

隣で起きた異変に富竹が声を上げる。
だが、鷹野はそんな富竹を見下ろしながら笑っていた。これから起こる喜劇に向けて。
悪魔のような女は哂っていた。
まるで悪夢を代表する怪物のように、人の身を超えようとした人型が笑っていた。


「ねえ、ジロウさん……鈴凛は、どんな目に合わせたほうがいいと思う?」
「ぐっ……」
「ゲームを打ち壊してくれた裏切り者には、それなりの罰が必要でしょう……? でも寛大な私はジロウさんに選ばせてあげるわね」

それは死刑宣告にも似た最終選択だった。
床に数人がかりで押し倒された鈴凛は身動きひとつできず、顔を青くしながら事の成り行きを見るしか出来なかった。
罰、と聞いてまともなことは連想できない。覚悟があった鈴凛でも、不安は隠しきれない。

「痛い目にあわせるのと、恥ずかしい目にあわせるの……どちらがいいと思う?」

瞬間、呼吸が死んだ。
富竹は呆然と変わってしまった恋人を見る。
嗜虐心に彩られた瞳が爛々と輝いていた。変貌した彼女は……もはや、人には見えなかった。

「君は……鬼か? それとも悪魔なのか……?」
「鬼でも悪魔じゃないわ。私は人を超えて神になる……これは、私の祟り。そして私が下す裁きよ」

哄笑が響く。
鈴凛はただ、震えていた。だけど耐えていた。
このまま何もかも鷹野に屈するにはいかなかった。地獄に放り込まれた姉妹たちは戦った。
千影も、咲耶も、衛も、四葉も精一杯生きた。
だったら屈するわけにはいかない。卑屈には死ねない、矜持をもって……鈴凛は恐怖を無理やり噛み殺した。

「富竹さん、私なら大丈夫っ……絶対に鷹野に……むっ、むぐぅぅぅう~~~!!」

叫ぼうとした鈴凛の口が塞がれる。
口枷をかけられた鈴凛にはもはや、叫ぶことも自決することも許されない。
突然消えた声に、富竹の焦りが倍増する。


「あらあら、隊員たちが我慢できないで始めちゃったかしら。うふふふふふ……」
「鷹野、さんっ……!!」
「ジロウさん、早く決めないと。別に恥ずかしいほうがお好みなら、このまま黙っていればいいんだけど?」
「違うっ!!!」

この窮地を凌ぐ方法を考える、がどうしようもない。
富竹には鈴凛を助けることが出来ない。
すぐ隣で少女が危難にあっているというのに、助けることが出来ない。この体は、意思は、そんなことすらしてやれない。
そんな事実が富竹の中に浸透していく、と同時に絶望が襲ってくる。

そんな、彼の耳元で。

「貴方が私の味方になってくれれば……鈴凛は特別に赦してあげてもいいのよ?」

悪魔が、甘言を囁いた。

「んっ……ぅぅぅん、んんんんんん……!!」
「あらあら、隣も必死ねえ。どうするの、ジロウさん……? 早く決断しないと、間に合わないわよ?」
「………………」

富竹は思う。
確かにこんな殺し合いは肯定できない。それは富竹の信念にして絶対の真実だ。
だけど、そのために目の前の女の子も助けられない。
見捨てろ、というのか。協力者を……見殺しにしろというのか。
自分の命ならいい。だけど、他人の命までが自分の行動に握られている。それがとてつもなく、恐ろしい。

「…………」

このまま意地を張れば、鈴凛は想像を絶するほど酷い目に合わされて、殺される。
自分は牢獄に閉じ込められたまま。
いや、これを断れば無為に殺されるだけだ。そうなれば生き残った参加者のために何かをしてやることすら出来ない。
ここで鷹野の言葉を拒絶すれば。
意味もなく、価値もなく、二つの命が酷い終わりを迎える。それはなんて、意味のないことだろう。

「…………た」
「聞こえないわ」

なら、認めろ。
外道に落ちろ。そしてこの牢獄より立ち去れ。
そうしなければ、参加者たちも鈴凛も助からない。そのためなら……屑になってしまえ。

「わかった……鷹野さん、僕の負けだ……」
「……なら、私の味方になってくれる、と?」
「ああ……鈴凛くんの身柄の安全を保証してくれるのなら。僕は敗北を認める。君に絶対服従する」

それが決定的だった。
鷹野三四に屈するという誓い。
鬼は哂う。ようやく手に入れた、と……魂を手に入れた悪魔のように、クスクス、と。

「その言葉が聞きたかったの」

ガチャリ、隣で戒めの鎖を外される音がした。
富竹は若干、衰弱していた。
そんな様子を鷹野は見咎め、このまま付いてくるように言う。救護室にでも連れていくつもりなのだろう。

「鷹野さん、鈴凛くんは……」
「ええ、良いわ。貴方が味方になってくれたなら、小娘の一匹ぐらい見逃してあげる」
「んん、ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ、んっ……んんんんっ!!!」

鈴凛は暴れた。
隣から聞こえるやり取りに反発するように、彼女は抵抗した。

(違う……)

違うのだ。
自分に救われる価値なんてない。
最後まで真っ直ぐ歩んできた富竹に、自分の正義を裏切らせてまで長らえる命じゃなかった。

どの道、もう最愛の妹たちとの日常には帰らない……帰れない。
だからここで罪を贖わねばならなかったのに。
たとえ女として辛い目にあったとしても、それは自分自身の因果の末に。
富竹が自分を犠牲にしてまで救われる命じゃない。助けられていいはずがなかったのに。

(あっ……ぁぁああああああああっ!!!!)

鈴凛は連れて行かれる富竹の後姿を見て、嘆くしかなかった。
また、自分のせいだ。
最後まで真っ直ぐあろうとした人が、自分に利用される形だったにも関わらず、鈴凛を救った。

「じゃあね、鈴凛。貴女にもまだ利用価値があって嬉しいわ」

鷹野は言う。
ありがとう、自分のおかげで富竹の意志を砕けた、と。

「牢獄の鍵、開けておくわね? だけど、出てきちゃダメよ? レムリア遺跡以外で見たら撃ち殺す命令を出しておくから」
「んっ……む、ぐ、ぷはっ……鷹野っ……鷹野ぉーーーーーーっ!!!」
「動くなっ!!!」

なっ……と、鈴凛の体が硬直する。
今すぐにでも牢獄を出て、富竹を呼び止めるつもりだった。
だが、自分を制したのも富竹だった。心が凍りつくぐらい激しい言葉が体を縛り付けていた。

「鈴凛くん……生きるんだ」

それで、最後。
もう二度と逢えないだろう確信にも近い予感があった。
彼は人のために自分を捨てる覚悟があったのに、鈴凛にはそうしてやることが出来なかった。


「うっ……あ、ああっ……あああぁぁああああああっ!!!!!」


己の無力をただ噛み締めて。
どうして人のために命を投げ出すことも出来なかったのか、と自身に問い詰めた。

簡単な話だった。
結局のところ、怖かったのだ。
残酷な方法で命を奪われることも、女として酷い目にあうのも。
罰と知りつつ、心で受け入れていたつもりでも……恐ろしかった。そして富竹の救いに、その優しさに甘えてしまったのだ。

「弱い……」

冷たい床を強く叩いた。
今からでも扉を開ければ富竹を追いかけられるのに。
怖くて、苦しくて。
それが彼を見殺しにすると理解していても、鈴凛は動けなかった。

「私は、弱いっ……!!」

激しい自己嫌悪と悔恨を抱えたまま。
鈴凛はその場に蹲って、自分の弱さに咽び泣いた。



【LeMU 地下三階『ドリット・シュトック』地下牢/二日目 夜中】

【鈴凛@Sister Princess】
【装備:鈴凛のゴーグル@Sister Princess】
【所持品:無し】
【状態:健康、若干衰弱、自分に対する不甲斐ない気持ち、契約中】
【思考・行動】
1:参加者たちの突入とメカ鈴凛の反乱を待つ。
2:富竹の身を心配。
3:それまで牢獄で待機する。



     ◇     ◇     ◇     ◇



「……鷹野さん、何処に行くんだい?」
「ふっ、ふふふふふ……この先よ。せっかく本当に私たちの仲間に加わったんだから、主催者に会わないとね」
「主催者……?」

おかしな話だ、と富竹は思った。
この馬鹿げた殺し合いの首謀者は鷹野のはずだ。少なくとも富竹はそうだ、と信じ続けた。

だが、鷹野のこの口ぶりは違う。
もう一人仲間がいる、という問題ではない。まるで直属の上司を紹介するような雰囲気。
やがて辿り着くのは『HIMMEL』と書かれた白い扉。
クスクスクス、と鷹野は笑う。

「まさか……」
「そうよ。この扉……『HIMMEL(ヒンメル)』の向こう側に『名前を呼んではいけないあの人』がいる」
「鷹野さん、首謀者は君じゃなかったのか……?」
「ええ。私はただの執行者……そして、この祭りの主催者は別の人よ。……いえ、人じゃなかったわね」

意味深な台詞も耳に入らない。
富竹は鷹野さえ止められれば、この殺し合いを終結させることも可能だと思っていた。
いや、それすらも容易ではないが……それでも、そこに一縷の望みを賭けていたのだ。

「ここはパスワードで開く仕様になってるわ。
 知っているのは私と、あと数人ほど。まあ、実際に指揮を取る人たちだけの機密ってやつね。
 ジロウさんにも、また後で教えてあげるわね……ふふ、ふふふふふ」

もしや、自分の選択は早計だったのだろうか。
なにか得体の知れない不安が、自分の心に這い上がってくる感覚を富竹は感じた。
長い投獄生活だった、とまではいかない。
それでも自分には一切の情報が伝えられていなかった。だから、首謀者の正体でさえ知らなかった。
あの選択は最善だった、と思う。
だが、結局はどちらも不幸の道だったのではないだろうか。

そんな不安を他所に、鷹野は彼の耳元に囁きかける。
息の吐く音さえ聞こえる距離、逢引にも似た一方的な宣告に、富竹の肩が震えた。

「それじゃ……いってらっしゃい」

パァンッ!!

「ぐっ……あ……?」

言葉と同時に、わき腹に激痛が走った。
銃声が唸り声を上げたことを、富竹は確かに聞いて……そして、撃たれたのだ、と痛感した。
何故、撃たれたのかも分からないまま。
彼は真実へと続く白い扉の前で、鮮血を撒きながら仮死状態へと陥った。


     ◇     ◇     ◇     ◇


『うっ……ぐっ……ここは……?』

次に目が覚めたとき、僕は夢の世界にいた。
身体中が軋みをあげるのにも関わらず、僕は辺りを見渡した。
そこには何もなかった。
ただ広大で広い空間の中に、僕が……『富竹』という存在だけが存在していた。

「汝が新たに契約を望む者か」

そしてもう一人、背中に白い翼を生やした精悍な男が立っていた。
無感動な表情、そして色の灯らない瞳。
間違いない。彼が……彼こそが、この殺し合いの首謀者。僕は自然と彼を睨み付ける。

『貴方が……この殺し合いの黒幕か?』
「いかにも。我が名はディー……契約者の求めに答え、この地に降り立った者だ」
『どうして、こんなことを仕出かした……?』
「汝が知る必要はない。だが、我にとっては価値のあるものだ、とだけ答えておこう」

なんだ、この威圧感は。
背中の羽を除けば人と変わらないはずの風貌だが、自分が矮小に見えるほどの存在感を感じる。
天使、というのはこんな存在なのだろうか。
人ではない、と鷹野さんは言った。ならば目の前でディーと名乗った男は……天使か、それとも悪魔か。

「我が契約者から話を聞いている。汝は我が契約者の味方となった……間違いないか?」
『それは……間違いでは、ないけど』
「ならば、正しき契約を我と結べ。それが仮死状態である汝が生を掴む条件……ひいては、鈴凛という名の契約者を救う術だ」

厳かにディーは言う。
詳しい言葉は分からないけど、言いたい言葉はよく分かった。
今、僕は死にかけている。自分の命と鈴凛くんを救うためには契約をしろ、というらしい。

『契約……とは、何のことなんだい?』
「我に全てを捧げる、と誓え。髪の毛一本から血の一滴に至るまで。魂までも我に捧げる、と」

ディーは説明し始める。
とは言っても口では説明しない。直接、僕の頭の中に知識を叩き込む。
そんな出鱈目な説明を受けながら、頭が割れるような痛みと共に理解していく。

それは絶対服従の証。
契約内容を履行しなければ、内側から弾け飛ぶという悲惨な映像が頭に叩き込まれた。

「もはや歯車は狂ったが……我はまだ、この戦いに価値があると考えている」

故に、と。


「汝は参加者たちの壁となれ。汝が味方になると言った契約者、鷹野三四に絶対服従せよ。
 我自身は汝の固体にも興味はないが、契約者の強い願いでな。

 その上で我は鑑賞し、検分する。
 我が子らが困難を前にして、まだ我を驚かせることができるかどうかを。
 あの魔法使いの言葉が何を意味するか、という些細な謎を。空蝉が生を拒んだ、その理由を」


ディーの言葉を聴いて、僕はただ苦悩する。
その契約を結んではいけない。
結んだ瞬間、僕は助けるべき人たちに牙を向けることになる。それが明白だからこそ。

だけど、それはつまり、鈴凛くんを見捨てるということだ。
冷静に考えれば参加者たちを救うために、これは断るべきなんだろう。
それは分かっている。十分に分かっている。どちらが最善の選択か、だなんて……そんなことは分かっている。
だけど。

『誓えば、いいんだね』

契約で質に入れるのは『自分の命』だけだ。
そう考えれば、答えも出せる。
この契約を恐れるのは死ぬことが怖いから。死にたくないから、裏切らないというのなら。

「では、誓うか?」
『それで……いいのなら』

どれほどの闇があろうとも、過酷があろうとも。
このまま死ぬだけでは鷹野さんを止めることはできない。
なら、契約を結んででも生き長らえなければ。まだここで鈴凛くん共々、犬死するわけにはいかない。


「契約は交わされた」



     ◇     ◇     ◇     ◇



「ふふふふふふ……お帰りなさい」

次に僕が目覚めたとき、鷹野さんの顔が目の前にあった。
その瞳は狂気のそれでもなく、悪魔のような笑みでもなく……純粋に、その事実を喜んでいる子供のようだった。
まだ、そんな顔が出来たんだ。
鷹野さんの笑顔は僕が好きになった、あの微笑そのもので……だけど、それは一面に過ぎないと気づいた。

「ああ、ただいま。……僕は鷹野さんに絶対服従、なんだってね」
「気にしなくていいわ。私も余程でなければ命令は下さない……簡単なことでジロウさんを失いたくないものね」
「それは、どうも」

鷹野さんの膝枕から起き上がる。
撃たれた脇腹は無傷のまま、何事もなかったかのように。どうやら治療されたらしい。
彼は人ならぬ存在だった、ということは対峙してすぐに分かっていたことだ。
それでも、仮死状態に陥っていた人間をここまで完璧に蘇生させるなんて。末恐ろしいなんてものじゃない。

「まずは情報を確認する必要があるわね。……ああ、それよりも武装を整えたほうがいいかしら?」
「鷹野さん、これで鈴凛くんは許してくれるんだね?」
「あらぁ、私に絶対服従したのに他の女の心配? 妬けるわねぇ、ふふふふふふ」

そんな会話をしながら、僕たちは管制室へと向かっていく。
参加者の生き残りの情報、電波塔防衛の失敗とこちらの戦力などを話しながら。
鈴凛くんについては、簡単な話だ。

「それはあの小娘しだいねぇ……私は赦したし、牢獄の鍵も開けたけど。出てこないように言ったわ」
「……鷹野さん、それはどういう」
「大丈夫よ、ジロウさん……貴方がいてくれれば小娘一匹なんてどうでもいいの。何なら、まだ牢獄にいるか確かめてみる?」

僕は黙って首を振った。
それは最初から鷹野さんと約束している案件だ。
もしも破れば僕がどういう行動に出るか、分からない鷹野さんじゃないはずだ。
変に僕を誤解させて、もしくは騙してまで鈴凛くんを害そうとはしないだろう。そう、自分を納得させた。

もうすぐ管制室につく。
山狗の何名かが僕の姿を見て驚く。中には僕の拷問を担当した男もいた。
とりあえず苦笑いだけを返すと、慌てて敬礼して走り去っていく。そんな後姿を鷹野さんは笑っていた。

「鷹野さん……聞きたいんだ」

そんな鷹野さんを見て、僕は意を決した。
どうしてこんなことをするのか、まだ聞いていなかった。

「どうして、こんな殺し合いを望んだんだい? それとも強要されているのかい? あの、ディ―――」
「しっ! ダメよぉ、ジロウさん……あの人の名前を呼んじゃ。契約のことは他人に話したらお終いなんですもの」

割と慌てて、それでいて笑みはかろうじて崩さないように鷹野さんは言う。
誰が見ているか分からない場所で名前を言えば、何も知らない隊員に聞かれるかもしれない。
そんなことで死んでも堪らないので、僕は口を噤んだ。

「私はね。この殺し合いを遂行させることを条件に、ある願いを叶えてもらいたいの」
「願い……それは?」

聞くと、鷹野さんは笑った。
この一時間の間に色々な鷹野さんの笑顔を見てきた。
狂気に彩られた壮絶な笑みから、純粋に喜ぶ優しい微笑みまで……様々だった。

だけど。
この鷹野さんはそのどちらでもなかった。

「私と祖父をね、神にしてほしいの。永遠に名前を歴史に刻まれる存在にしてほしいの」


そんな夢を語る鷹野さんは。
ゾッとするほど高揚した笑みだった。まるで熱に浮かされる様な病的な微笑み。

様々な意味のこもった『ワライ』を僕はただ呆然と見つめていた。



【LeMU 地下三階『ドリット・シュトック』管制室/二日目 夜中】

【鷹野三四@ひぐらしのなく頃に 祭】
【装備:不明(銃)】
【所持品:不明】
【状態:健康、軽い高揚感、契約中】
【思考・行動】
1:管制室で富竹と共に侵入者を迎え撃つ。
2:この祭を完全に遂行し、その報いに自分と祖父を神の座へと押し上げる。

【富竹ジロウ@ひぐらしのなく頃に 祭】
【装備:不明】
【所持品:不明】
【状態:健康、強い決意、契約中】
【思考・行動】
1:鷹野を止め、この殺し合いを終わらせる。
2:時節が来るまでは鷹野に絶対服従。
3:鈴凛の身が心配。
4:参加者たちのことや、戦力のことなどを情報収集。

【備考】
※契約内容は『鷹野三四に絶対服従』です。

【???/二日目 夜中】

【ディー @うたわれるもの】
【状態:????】
【思考・行動】
基本思考:ゲームの終了を待つ
1:どんな形でゲームが終わるのかに興味。
2:ハクオロや魔法使いの言葉について、参加者たちの戦いを鑑賞する。

【備考】
※ディーは『HIMMEL』の扉の向こう側に待機しています。
※ディーとの契約について
 契約した人間は、内容を話す、内容に背くことは出来ない、またディーについて話すことも禁止されている。(破ると死)


208:機神胎動 投下順に読む 210We Survive(前編)
208:機神胎動 時系列順に読む 210We Survive(前編)
203:命を懸けて(後編) 鷹野三四 211終幕(前編)
190:CARNIVAL 富竹ジロウ 211終幕(前編)
200:ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(後編) 鈴凛 211戦いの鐘は二度鳴った(前編)
205:さくら、さくら。空に舞い散るのは…… ディー 212解放者――ウィツァルネミテア――(前編)






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