小さなてのひら/第2ボタンの誓い(前編)  ◆UcWYhusQhw


ボクが目を開けたときには凄い風景が待ち受けていた。
空を見上げれば一面のピンク。青い空なんか見えなかった。
それは桜。本当に沢山の桜。
桜が舞散る中にボクはいた。

あ、あり? でもなんかおかしいぞ?
たしかボクは殺し合いの中にいたはず。
なのにボクは呑気にベンチなんかに座っている?
訳解んないぜ。

「おーい! 蟹沢!」
混乱するボクに呼びかけながら走ってくる人がいる。
それはあの島で出会った大切な人。掛け替えのない人。絶対失いたくない人。
その顔を見るだけで笑いたくなる、本当に。
走ってくる少年は朝倉純一、大好きな人だった。
「悪い、待たせたようだな」
純一は息を整えながらそう言った。
両手には何故かクレープ。
男が両手で持ってるこの状態はとてもシュールな風景だった。
「ほら、これ」
純一はその一つのクレープをボクに渡してきた。
ボクは素直にそれを受け取りそれに口をつける。

あ、美味いぞ、これ。

「ほら、前言った通り美味いだろ?」
ボクは食い続けると純一は笑顔でそう言った。
うん、確かに美味い。
なんか久々に甘いもの食った気がするぜ。

じゃなくて!
「お、おい純一! 殺し合いは! 何でこんなとこにいるんだ!?」
「蟹沢? 大丈夫か? 殺し合いは終わったんだ。脱出できたんだよ。皆で」
純一はきょとんとしてさらに不思議そうにそう言いのけた。

あ、あり? そうだっけ?
思い出そうにもなんか記憶がおぼろげで思い出せない。
確かに出来た気もするし出来ない気もする。
思い出せねー。

「それで蟹沢に前にはなした俺の出身地、初音島に蟹沢が来たがったからきたんじゃないか」
そ、そうなのか?
確かにここは純一からあの島で聞いた初音島に違いないと思う。クレープの話も聞いたと思う。
まだあやふやだが脱出できたに違いない。
だって純一がそう言ってるんだ。
信じない理由なんてない。

そうか、脱出できたんだ。純一と一緒に。
信じられねー。でも凄い嬉しい。
だって純一が傍に居る、それだけ。これからもずっと。
でもそれが堪らなく嬉しい。

「よし、大丈夫なようだな、なら行こう」
「何処へ行くんだよあ?」
「前に話しただろ? 俺のとっておきの場所さ」
そう純一は言って歩き出す。
僕もそれに続く。

そこに行く間ボクは純一と色々話していた。
なんか色々喋ったんだけどよく憶えてない。
でも幸せだった。
それは間違いなかった。
こんな時間がいつまでも続けばいい、考えたのはそれだけ。

そして辿り着いた先には凄いものが立っていた
「うおーーーーーーー!!!」
「どうだ、すごいだろ?」
立っていたのはまさしく巨木というのにピッタリな桜の樹。
とても綺麗だった。
話には聞いてたけどこんなに凄いとは。
ボクの街にはこんなものはない。
またボクの視界には鮮やかピンクの花びらしか見れなかった。

「気に入ったか?」
「おう! こんなに凄いなんて聞いてねーぞ」
「そうか。蟹沢もこっちに来いよ」
純一はその木にもたれかかりボクを呼ぶ。
ボクは純一に駆け寄ったその瞬間
「お、おい? 純一?」
ボクを抱きしめた。
しばらくそのままだった。
びっくりしたけどとても温かい。
ホントに幸せだった

「蟹沢。本当にありがとうな。お前が居たから、俺はここに居る。凄いうれしい」
「ボクもだ。これからもずっと傍にいていいよな? 死ぬまでさ」
「ああ、勿論」
ボクらは見つめあいキスをした。

ああ本当に幸せ。

これからもずっと。ずーーっと。

傍に居られる。
大好きな純一と。

ずーーーーーーーっと。

そして異変に気付く。
なんか抱きしめた純一が軽い。

目を開けてみるそこには

純一は上半身しかなかった。
そして冷たく動かない。

え? なにこれ?
なんだよ?
ずっと一緒だといっただろ。
嘘だ。
嫌だ。

ナンダロウコレ? オカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイオカシイ! 
アリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイアリエナイ! 
コンナノミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイコンナノミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイ!

ゼッタイミトメナイ!

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

その瞬間ボクの意識はなくなった。




 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・






「ここまで逃げれば……大丈夫だろ」
私は朝倉と別れた後、必死に走っていた。ハクオロと朝倉の思いを無駄にしない為に必死で。
蟹沢を背負って山を登るのは非常に苦痛でしかない。
それでも止まる事は許されない。
まるでそれが私の義務のように。
しかしもう体力の限界が近づいてた。
朝倉から別れた地点から随分離れたし休憩を取ることにしようか。

「よいしょっと……蟹沢、ぐっすり寝てるね……」
私は蟹沢を樹によっかからせた。
蟹沢の顔には涙の跡が付いている。
蟹沢は最後まで拒み続けていた、朝倉と別れるのを。
私には知らない二人だけのことが会ったのだろう。
それだけに蟹沢は離れらなかった、たとえ自分が死んだとしても。

朝倉は優しすぎた、最後まで。
全く私も落ちたもんだ、朝倉と別れる時に少しでもなくなんてさ。
それも時雨、ハクオロ、朝倉の甘さに感化されたせいかもしれない。
でもその人達は皆、逝っちまった。

私は何もできないのか、いや、できるはずさ。
私はやらなきゃいけない、一ノ瀬を殺すという事を。
利用され、殺された時雨の為にも絶対に。
だから、私は生きる。

その時、前方の茂みから物音が聞こえてきた。
まさかもう追いつかれちまったのかい、あの女に。
私は銃を向けるも半場諦めていた。
悔しいが今の状態じゃ敵わない。

だがそれはあの女じゃなかった。
茶髪をした長髪の少女。
「私は殺し合いに乗ってないわ! 私の名は白鐘沙羅! 人を探している!」

本当かね?
簡単に信用できない。だから
「それなら今、手に持ってる銃を離しな。そして両手を上げな」
白鐘は迷っている様子だが、やがて言う通りにした。
だから私も銃をおろし名を告げた。
「悪かったよ、私の名は大空寺あゆ」

白鐘はそれを聞くとこっちに近づいてきて
「なら、あゆ。聞きたい事があるの。朝倉純一、蟹沢きぬって知ってる?」

おいおい、まじかよ。
こいつ朝倉探していたのか。仲間なのかね。
兎も角、仲間なら伝えないといけない。
朝倉の最後の生き様をさ。
「蟹沢ならそこで寝てる。朝倉は……死んだよ」
「……そうなの、ごめん」
「……かまわないさ、朝倉とはどうして?」
「それは……」

白鐘は今まで自分にあったことを教えてくれた。
それは私にとっても驚きだったさ。
まさか佐藤が死ぬなんて。私が殺したかったのに。
でもまあ、あいつらしい惨めな最後で本当によかったよ。
殺せなかったのは本当に残念だが。

殺したのが同じ名を持つ月宮あゆというのも驚いた。
本当に何があったというんだい?
あいつは死んでおかしくなかった体だったというのに今は動いて元気に人を殺してますだって?
言っててこっちが頭がおかしくなりそうだ。
本当に訳がわかんないさね。

「……それで土永さんから聞いてその人達を探してたのよ」
「そうかい……朝倉はさ……」
そして私は朝倉の最後をについて話した。
あったばっかの人間に話すべきではないのかもしれない。
でもつたえたかった。
あいつが最後まで笑ってた事を、優しかったかを。

「これで……終わりさ。それで蟹沢は……っておい何さ!?」
そして伝え終わり、蟹沢の方向を向くと信じらない光景が広っていた。

それは蟹沢が電動釘打ち機を自分の頭に向け今、まさに自殺しそうだった。
その目は虚ろでひどく曇っていた。そう、生気がまるで感じられりゃしなかった。
まるで壊れた人形のように。

いつの間に目を覚ましたのか?
今はそんなことよりも蟹沢だ。
多分蟹沢をそこまで突き動かしたものは解っていた。
しかしまさかここまで行くとは思っていなかったさ。
「おい! 蟹沢! 何やってんのさ! ふざけた事なんかやめな!」
「ふざけてなんかないやい……もういいんだよ……ボクなんて」
蟹沢は絶望した声で言った。
それこそ、もう何も求めてないように。

まだよく私は状況を把握していなかった。白鐘にいたっては唖然としてる。
ただひとつだけ解っていた。

これが非常に不味い事って事だけさ。



 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



ボクは飛び上がるかのように起きた。
あ、あれ? 純一がいない。
そしてここは初音島なんかじゃない殺し合いをしていた島だった。

ああ、何だ……夢だったのかよ。
最後は最悪だったけどあんなに楽しかったのに。
純一といれたのに。
殺し合いは終わってなどいないんだ。

って事はおい! 純一は何処にいったんだよ!
ボクはあの時急激な眠気に襲われて、それで倒れた。
純一はその時悲しく笑っていた。
確か半分になっていて。

ああそうか、純一はもう……

違う! まだ大丈夫だ。
まだ話せる! 時間があるんだ。
純一は何処だよ!

好きになった人なのに、どうして今いないんだよ。
いやだ!
認めたくなんかない! 認めたくないんだよ!
おねがいだからいてくれよぉ……
苦しませないでよぉ……
辛いんだよぉ……
じゅんいちぃ……

そして探す為顔をあげるとあゆと見知らぬ少女が話していた。
少し話が聞こえてくる。

「……それで佐藤良美は月宮あゆに殺された……」

ああ、よっぴー死んでしまったのかよ。
遂にボクの人の知り合い皆死んじまった……
なんでだよ……よっぴー。
お前殺し合いになんか乗るから死ぬんだよ……
それでも悲しい……なんでだよ。
なんでだよ、どうしてボクにこんな悲しい事ばっか教えるんだよ。
この世界はよー……

そして僕の耳に一番聞きたくない事が聞こえてきた。
「朝倉は真っ二つにされ……死んださ……蟹沢は眠らさせて連れてきた……」
それは純一の事。

ああ……嫌だ。
認めたくなんかないのに。
ききたくなんてないのに。
別れたくなんかなかったのに。
でもそれがボクに重くのしかかって来る。

純一が死んだ。その事が

どうして
どうしてだよ!
せめて最期まで話したかったのにぃ……
好きだって伝えたかったのに
どうしてそれさえも赦してくれないのですか?

ドウシテ……
ボクカラ……ゼンブウバッテイクンデスカ
タイセツナモノヲ

「あ……はは……」

もういいや……
なんでもよくなくった。
ボクはやっぱり疫病神だ。

乙女さんも、姫も、よっぴーも。
フカヒレも、スバルも、土見も、レオも。
そして純一も。
みんな、みーんな、ボクに関わって死んでった、大切な人達が。

ナラ、イナイホウガイインジャーネノ?
ソノホウガラクダゼ。

そんな声が聞こえてくる。
悪魔のような声が。

でもその方がいいかもしれない。
生きて何になるんだ?
もう誰もいないんだ……
傍に居たい人もいないんだ。

ソウダゼ!
イキタッテツライダケ

そうだ。
生きて、生きて、生きて、生きて。
待ち受ける先がこんな苦しい世界なんだ。
誰もいない世界なんだ。

なら、コワレテシマエ、こんな世界。

コワレシマエヨ、ボク。

目に映るのはただの空虚。
おぼろげな物。
僕はデイバックを見つけそこからあるものを取り出した。
そのとき手にもっっていた何かを落としたが気にしない。
取り出したのは電動釘打ち機。
純一が使っていたもの。
これで頭を打ち抜けば簡単にコワレル。


そう、とても簡単に。

ジャア、イコウゼ
ノゾムセカイニイケル

そうだ、こんな世界なんていらない。
きっとコワレレバ、さっきの楽しい世界にいけるんだ。
なんて楽しいんだろう。
そこには純一もいる、レオもいる、みーんないる。
それはボクが望むものだから。

そして頭に持っていった。
アトハトリガーヲヒクダケ。

「おい! 蟹沢! 何やってんのさ! ふざけた事なんかやめな!」

邪魔な声が聞こえる。
ふざけた事?
ふざけてなんかない。
純一や皆に会えるのに?
ナンデワカッテナインダロウ?

「ふざけてなんかないやい……もういいんだよ……ボクなんて」

ボクはそう返していよいよひこうとした。

純一が見える、迎えに着たんだ。
やっと会えるんだ。

あれ?
ドウシテカナシンデダヨ?
イツモノヨウニワラッテヨ。
ヤットアエルノニ……ジュンイチラシクナイ
ナニイッテルンダキコエナイ

ホラ、モウアエ……!?

「ふざけんじゃないのさ! この糞チビ虫がああああああ!!」

全て吹きとばす痛み。
一気に頭が覚醒する。
殴られた?
なにがおきたんだよ?

目の前に仁王立ちするあゆ。
体ふるわせ異様におこっている。

どうして逝かせてくれない?
辛いのに……
何も変わりはしないのに。

でもボクはこれから何か起こると予感していた。





 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・





ちっ、私としたことがしくじった。
考えればすぐにわかった事なのにさ。
そう、純一が蟹沢を失えば不味いって事はイコール蟹沢も純一を失えば不味いってことだろう。
何故直ぐに理解しなかったのか? いやここまでひどいとは思わなかった。

でも別にほっといていいじゃないかとも思ってきた。
だってそこまで義理はないしさ。
辛いなら無理に生きる必要はないと思うし。

うん、別にいっか。
ほっとこうさね。
…………。


『生きろ……そう、伝えてくれ』
『ああ。生きろ。お前は生きてる。私も生きている。生きている事になんか罪はない』
『ほ……ら、もう……じか……ん……が……な……いよ……早く……逃げ……てッ!』


ああ! もう! ほっとける訳ないさ!
こんな時にあいつらの事思いだすなんて。
朝倉は私になんて遺した? 蟹沢に生きろって伝えろといった。
それを無視する事ができるか? いや、できないさ。

そして私に沸き起こる感情が一つあった。
とても単純な感情。一ノ瀬に持ってるのと似たような感情。
そう、それは怒り。

朝倉、ハクオロ、時雨はどうして死んでった? 最後にあいつらは何思った。
単純な事。私達を守ったから。
私達に生きて欲しいから。
だからあいつらは生きろといった。

なのにこのチビはなにやってるんだ?
散々守られてそして死ぬって。
もう朝倉もいないから自分もいいと思ったのか?

ふざけるんじゃないさ!
そう、守って死んでった奴の思いをむげするじゃないさ!
このチビがやろうとしてる事は単なる逃避。
そして死んでった奴への冒涜。
最悪だ。

ああ、もうムカつくさね。
もう、いい。感情に任せてしまえ。
そう決意した瞬間体が動いた。そして

「ふざけんじゃないのさ! この糞チビ虫がああああああ!!」

ぶん殴ってやった。チビが吹っ飛ぶ。
チビが信じられない風に私を見た。
疑問、悲しみ、怒りを篭めた目で私を見る。
まだ目は濁っていた。

そんな顔を見たら更なる怒りが襲ってきた。
もう、いいさ。
後は感情に任せるだけでいい。
理屈じゃないのさ。

「チビ虫! あんた何やってんだい! 自分が何してるか理解しているのかい?」
「五月蝿いなー……だから……死ぬんだ……もう……こんな世界……いらない……死んだら……純一にも会える……皆にも会えるんだよ」

このチビ……何、甘えた事を。
死んだら朝倉達に会えるって?
……ふざけるな!
「そうだよ! お前が邪魔しなきゃ純一と最期まで入れたんだよ! もしかしたら助かったかもしれないんだよ……なのにテメーは!」
チビが私が黙ってる事をいい事に騒ぐ。
……黙れ。
確かにわたしが眠らせなきゃ朝倉といれただろう。
だがこのチビに朝倉の死に様を否定する権利なんか絶対にない!
「黙りな……お前に朝倉の死を否定する権利なんかない……それにあんた死んだら朝倉に会えると思ってるのかい?」
「そうだよ! 死ねばあえるんだよ」
「違うさ……そんな甘い訳ないだろ」
そして私はこのチビに活を入れる。
死に幻想を抱くこのふざけた奴に。
死んでった者を否定するこの馬鹿げた奴に。

「ふん……チビ、よく聞きな……死ってのはそんな甘い物じゃないのさ! 死はねえ……もっと残酷さ。死んだらそこまで。そのあとの世界なんてありはしないのさ、ただの蛋白質になるだけ」
「違……」
「違わないさ! そんなの餓鬼だってわかる! 朝倉、最期に何て言ったかわかるか!」
「……何だよ」
私はチビに近づき胸倉を掴み大声で
「お前に生きろって! そういったんだよ! 他にも言いたい事はあっただろうに、それでもお前に生きて欲しかったから! 誰よりもお前のことを思ってさ!」
「え……」
チビの目が驚きに変わる。信じられないという風に
私は言葉を続け
「お前が死んで朝倉が喜ぶと思うか!? そんな訳ないだろ! それは私よりお前が判ってるはずさね!」
「う……あ……」
チビの目に涙が溜まって来た。
よしこれでいい。
壊れた人形に心が戻ってきた。
「ハクオロもそうだ! 私達は守られてそして生きてるんだよ! そんな奴らの思いを否定するんじゃないよ!」

そして告げる。
ありったけの声で。

「だから、お前は生きなきゃ駄目なんだよ! 生きろよ! 蟹沢! 朝倉の事誰よりもわかってんなら! 誰よりも好きならさあ!」
「ひ……ぐ……うあ……うあああああ!!」

蟹沢の泣き声が響く。それも大きな声で。
いいさ。
もう壊れちゃない、血の通った人に戻った。
自殺なんかしないだろ。
だって今の蟹沢は泣いてる。子供の様に。
死を悲しんで。

ああ、何て私らしくない。
怒りに任せ、あまつさえ生きろというなんて。
信じられない。

でも、ま、たまにはいいか。
朝倉の言葉を裏切るわけにはいかないしさ。
全くめんどくさい事押し付けねえ、本当に。
まあこれで多分大丈夫だろ。

「蟹沢……もう大丈夫だろ……生きていけるだろ」
「もう自殺なんかしない……でも、怖いんだよお! 生きてくのが、辛いんだ、苦しいんだ、この世界でさあ!」

その答えは私にも想定外だった
まだ、駄目なのかい、あれでも。
いや私は自殺を止め、蟹沢を正気を戻す事ができた。

でもその正気に戻った蟹沢に襲ってくるのは恐怖。
そうこの朝倉も友もすべて失った世界で生きていくことへの。

「もう……誰も残っていないんだよお……僕はこの世界で生きていける勇気も自信もない!」

後は必要なのは生きていく勇気。

でも私に蟹沢を勇気付ける言葉なんか見つからない。
はげますことなんか、私にはできない。
私はただ感情をぶつけただけ。
飾る言葉なんか思いつかない。

もう……無理なのかい、蟹沢はもう無理なのか。
私にはもう無理なのか。

諦めようとした時、さっきまで隣に居た白鐘が蟹沢に近づいていった。

いったい何しようというんだい?






 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・






私は最初全く体が動かなかった。金縛りにあったように。
いきなりきぬって子が自殺をしようとしていたのだ。
多分純一という人間の死をきっかけに。

私は土永さんしか聞いた事しか解らなかったけどきっともっと深い仲だったのだろう。
恋人とかそんな感じなんだ。

いまはあゆが励ましてるけど私は何もできないの? また。
いや、何かしなきゃいけないんだ。

「もう自殺なんかしない……でも、怖いんだよお! 生きてくのが、辛いんだ、苦しいんだ、この世界でさあ!」
「もう……誰も残っていないんだよお……ボクはこの世界で生きていける勇気も自信もない!」

きぬの声が聞こえる。
どうやらあゆは自殺は止めることはできたらしい。
でもきぬはまだ生きる勇気、自信がないみたいだ。
地べたに座り泣き叫んでいる。
あゆは目を伏せ悔しがってる。
あゆはもう辛いみたい。

じゃああの子を勇気付けるのは誰?

私がやるしかないじゃない!

それは同情とかそんなもんじゃない。
ただ本心から。
あの子を生きて欲しい、ただそれだけ。

まだ話した事ないのに?
聞いてくれるかも分からないのに?

でも、瑛理子なら、圭一なら、双樹なら、恋太郎なら!
きっとあの子を励ますだろう
当たり前のように。

なら私がやらない理由がない訳がないじゃない!

「お、おい? 白鐘?」
だから私はきぬに近づいていった。

さあ、やろう。私にできる事。


「きぬっていってたよね? 私は沙羅、白鐘沙羅よ」
「沙羅が……ボクになんのようだよ?」
きぬが怪訝そうに私を見る。
当然だ、私は初対面なんだから。
でもここでしり込みできない。
「ねえ……一人で生きることは怖いの?」
「怖いんだよ! 純一も誰もいないんだ!」

きぬは怯えていった。
確かに怖いだろう。
私だってそうだった。
でもね
「それでも生きていかなくちゃ駄目なのよ。どんなに辛い世界でも、苦しい世界でもね」
「五月蝿い! 何がわかるんだよ!」
きぬが手をばたばたさせ怒りながら言った。

私は何も判りはしない、きぬの悲しみなんて。
でもこれだけは多分一緒。
「私は貴方じゃないからわかんないわ……でも私達はその大切な人から、仲間から生きて欲しいと思われてんだよ」
「……っ!?」

そして私は告げる。
もっとも伝えたい事を。

「私達は生きなきゃいけない。この残酷の世界で怖くても辛くても苦しくてもね。でも決して一人じゃないのよ。そう一人じゃ。
 だって私達は死んでった人達の思いを背負って生きてるから。だから一人じゃない。たとえ辛くなっても大丈夫だよ。
 励ましてくれるから。いつも傍にいて、大切な人達が。
 だからその分、私達は生きて生きて生き抜いていくんだよ! この世界で! だから生きようよ!」

そう言い切った。
ねえ、聞いてるでしょ、瑛理子、圭一、双樹、恋太郎。
だから私は生きていくね。この世界で。
辛くても大丈夫。
貴方達が傍にいると思うから。
だから見ててよ。
私、頑張るから。


きぬはその私の言葉を聞きおどろき、そして何か見つけ見たい。なんか小さいものを。
そして震えてる。

さあ最後の一押し。
私はきぬも手を差し出し
「生きよう! そして帰ろう! 私達は独りじゃないのよ!」

私はあゆの方も向き
「あゆもよ」
「はあ? 私もか?」
「当たり前じゃない」
2人でやらなきゃ意味ないじゃない。
2人できぬを迎えなきゃ。

あゆは観念したように近づき
「解ったよ……ったく」
手を差し出し
「ほら、このチビ! お前も生きるんだよ! それがあいつらの望みだろう!」
そういった。

後はきぬが手を掴むだけ。
お願い、掴んで。
生きて!


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197:かけらむすび 時系列順に読む 198:小さなてのひら/第2ボタンの誓い(後編)
195:覚醒、決意、そして……アサクラジュンイチ(後編) 大空寺あゆ 198:小さなてのひら/第2ボタンの誓い(後編)
195:覚醒、決意、そして……アサクラジュンイチ(後編) 蟹沢きぬ 198:小さなてのひら/第2ボタンの誓い(後編)
194:銀の意志、金の翼 白鐘沙羅 198:小さなてのひら/第2ボタンの誓い(後編)
190:CARNIVAL 鷹野三四 198:小さなてのひら/第2ボタンの誓い(後編)







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