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the end of infinity(後編) ◆TFNAWZdzjA




「はっ……はっ……はっ……!」

つぐみは逃亡しながら腹を押さえる。
ぽたぽた、と止め処なく染み出した血液が黒服を染めていく。身体に力が入らなくなってしまう。
キュレイの力を持ってすればこの程度、とは思えない。何故なら、すでに太陽は昇っているのだから。

逃げられない、と悟った。
純キュレイ種は太陽の下には出られない。よって、逃げられる場所は限られている。

(っ……諦めないっ……)

自らを叱咤するも、背後から死神が追ってくる幻想が意識にこびり付いて離れない。
こうなれば賭けに出るしかない。つぐみは前方を少し速度を落として走るアセリアの背中に言葉を投げかける。

「ここで二手に分かれるわっ……次の道をアセリアは右、私は左!」
「んっ……!」

アセリアとも別れる。ふと、何かに不安を感じた。違和感とでもいうのだろうか、アセリアへの。
それは迷いだとつぐみは思う。千影の話では悠人と真正面にやりあえるのは、彼女ぐらいのものらしい。
何か今、言わなければならない気がして、その背中につぐみは思いの丈を投げかけた。


「アセリア!」
「ん……?」
「できれば貴女が悠人を助けてあげなさい! 必ず何か手段があるはずだからっ……それを考えなさいっ!!」

つぐみが、武を助けてやれたように。それをつぐみは願う。
間違えれば不幸な結末しか残らない。一生懸命助けようとした圭一が、武の手にかかってしまったときのように。

お互い、足は止めない。すでにアセリアは自分よりも先に行っている。
永遠神剣を持ったアセリアはハイロゥを展開できる。つぐみの言葉を受け入れ、彼女は文字通り飛んだ。
世界の違いに若干の驚愕と苦笑を交える。彼女はちゃんと言葉はちゃんと受け取ったか、それを論じている暇はない。

後ろを僅かに振り返るが、悠人の姿はない。諦めたのか、それとも標的を変えただけなのか。
マナを求めるというのなら、アセリアのほうを追ったのかもしれない。だが、助けに行くと考えることはしなかった。
刺された腹を止血しようと立ち止まる。デイパックそのものは武に渡してしまったし、持っているのはウージーと大鉈。そして僅かの医療用具。

(まったく……こんなときに再生能力が落ちているなんて)

むしろ、こんなときだからこそか、と包帯を巻きながら溜息をつく。
理想としては武たちを連れてホテルへと帰りたかったのだが、どうやら海の家の方向へと逃げてきてしまったようだ。
もっとも、最後まで追われたことを考えると純一たちと悠人を引き合わせるのは危険すぎる。

朝日が昇ってきたことを確認して、この近辺で数少ない木陰へと足を向ける。
武との決闘のときからつぐみの身体は危険だった。まだ弱い紫外線のままの朝日だから、すぐには影響がなかったのだが。
それでも長らく浴びているのがまずいらしい。つぐみは明確な体力の衰えと疲労を感じていた。


ドオォンッ!!!


だから、つぐみは気づくことが出来なかった。
自分に害意ある存在が近づいているということに。巨大な剣を扱うその姿に、自然に身体が萎縮するのを感じた。

「そう……」

その鉄塊のような大剣を、あろうことか悠人は投擲してきた。
破壊力だけを重視したその武器は切れ味など二の次になっている。数少ないつぐみが隠れていた木は、音を立てて崩れ落ちた。
つぐみの身体が紫外線に晒される。近くに逃れられるようなものなどなく、そしてそんな行為を悠人は許すつもりがない。


「これも因果応報っていうのかしらね」


あのとき、武を案じるあまりに悠人を止めようとしなかった。付いて行こうともしなかった。
間違ったことをしたつもりは微塵もない。その結果、武は正気を取り戻した。他の仲間たちの命も結果的に守れた。
だが、その代償として悠人は神剣に乗っ取られた。形こそ違えど、今の悠人は武と同じようなもの。何かに自分を振り回されている状態。

ウージーの弾薬はまだたくさん残っている。
もっとも、銃という武装ですら心強いとは思えない。一人、この状態でこの武装では勝てない、と。
答えはとうに出ているのだが。



     ◇     ◇     ◇     ◇



ツグミと別れ、私は海の家へと向かっていた。
太陽は二日目の朝を向かえたことを告げるように輝いている。遠目に見える海は幻想的に輝いていた。
私はその光景を呆気に取られながら眺めている。まるでこの現実から逃げ出したくなるような、そんな想いと共に。


「………………ユート」

今までその行為に迷いを抱くことはなかった。
私が戦うこと。それは存在意義だったはずだ。それを生きる活力として考えていた。むしろ戦うことは息をすることと同じくらい当たり前だった。
傷ついて、それ以上に傷つけた。それに何の疑問も抱くことはなかった。ただ敵を殺せばそれでいい、と思っていた。

だけど、分からない。この島では戦うことだけが全てじゃなかった。
カルラが、アルルゥが、アカネが、ミズホが、エリコが様々な立場を示した。憎しみを捨てて許す、なんてここに来た当事は考えもしなかった。
思えばそう、彼女たちよりも私に教えてくれた人がいた。確かにいたんだ、私に戦い以外の道を示そうとしてくれた人が。

「ユート……」

自由に生きろ、戦う意味を持て。
そう諭してくれた人がいた。今なら分かる、それがどれほど大切なことということが。
なのに、ユートは敵となった。私だけじゃない、ツグミやミナギたちに剣を向けた。私を殺そうともした。

敵――――それなら、倒すだけ。そう、いつも通りだ。

(ユートが……敵?)

確認するまでもない。ユートは私たちに敵意を抱いているのは明白なのだから。
だけどあの時、私は永遠神剣をタケシから受け取ることが出来なかった。私にはその選択が出来なかった。
押し倒され、マナを奪われかけた時……それでも私は、抵抗らしい抵抗ができなかった。


―――――好きなの? その悠人って人のこと。


好きか、と聞かれたら好きだ。だけどサラはそれを特別な好きだ、と教えてくれた。
私には違いが分からない。ただ、私は他の誰よりもユートを殺したくないと思ってしまった。
まだユートに謝ってない、とか。そんなことすら些細なことに感じる。
戦うためだけに存在するはずのスピリットが……戦いたくない、と感じてしまった。

「いやだ……」

これは罰なのだろうか。多くの余分な感情をスピリットの身で覚えてしまった私への。
これは罰なのだろうか。感情に身を任せて、ユートやハクオロに罵声を浴びせた私への。
だったら、誰か教えてくれ……どうしてユートがこんな目に合わなければならないんだ。私はユートをどうしたいんだ?

「ごめん……ごめん、ツグミ……」

私にはユートを助ける方法なんて思いつかない。どうすればいいのか分からない。
ユートは私を指名してくれたのに、私にはユートを助けられない。
結果的に迷惑ばかり掛けてしまった……今更、私は手にした『求め』を抱く。ユートの愛剣からユートを感じるように。


「ごめん、ユート……私は」


私は、戦えない。この手でユートを殺す覚悟なんて決まらない。
戦いたくない、というスピリットは異端でしかない。私は、何のために戦っているのだろう。そんな疑問がふと生じた。

殺してくれ、とユートは言った。
だけど、私の覚悟はまだ決まらない。ユートの愛剣を抱きしめながら、私はしばらくの間動くことが出来なかった。



【H-6 通路/2日目 朝】

【アセリア@永遠のアセリア -この大地の果てで-】
【装備:永遠神剣第四位「求め」@永遠のアセリア -この大地の果てで-】
【所持品:支給品一式 鉄串(短)x1、鉄パイプ、国崎最高ボタン、フカヒレのコンドーム(12/12)@つよきす-Mighty Heart-、情報を纏めた紙×2】
【状態:肉体的疲労大、右耳損失(応急手当済み)、頬に掠り傷、ガラスの破片による裂傷(応急手当済み)】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
0:教えてくれ……誰か……
1:悠人との戦いに迷い
2:瑞穂とことみとの合流地点(海の家)に向かう
3:無闇に人を殺さない(殺し合いに乗った襲撃者は殺すが、悠人はまだ覚悟が決まらない)
4:存在を探す
5:ハクオロの態度に違和感
6:川澄舞を強く警戒


【備考】
※永遠神剣第四位「求め」について
「求め」の本来の主は高嶺悠人、魔力持ちなら以下のスキルを使用可能、制限により持ち主を支配することは不可能。
ヘビーアタック:神剣によって上昇した能力での攻撃。
オーラフォトンバリア:マナによる強固なバリア、制限により銃弾を半減程度)



     ◇     ◇     ◇     ◇



武と千影の二人は西へと進路を取っていた。
この向こうには美凪がいるはずだし、純一という人物にも逢えるだろうから。

ほとんど千影は武に抱きかかえられている状態だったが、ようやく病院から離れたことを認識して腰を下ろす。
ひとまず小休止といったところだ。これからの詳しい方針や仲間との合流方法など、考えることはたくさんある。
暴走した悠人への対処法なども含めると枚挙に暇がない。こうして休養している間も、二人は様々なことを話し合っていた。

「……それで、身体はもういいのかい……?」
「疲れのほうはな。でも、そのH173のほうは……簡単に治りました、ってわけにはいかんらしい」
「どういうことだい……?」

うむ、と武が頷くとデイパックから注射器を取り出した。
それはもともと千影が持っていたC120のアンプルも一緒に入っている。いつの間に……と千影は思わないでもない。

「まだ、俺にはこいつが必要だ。まだ疑おうとする心がどこかにある……まだ、俺は治っていない」
「……つまり、それが切れたら元通りになってしまうってことかい……?」
「そうだ。キュレイウィルスさえ完全に機能してくれるなら、こんな特効薬の力を借りなくてもいいのにな……」

すぐにデイパックの中へと直す。
当然だ、武が『倉成武』であるための生命線のようなものなのだから。

「思えばストレスが起因になってた気もする。まあ、その場凌ぎの対抗策はあるけどな」
「……それは?」
「日常を演じること。あくまで苦し紛れなんだが、これは効果あるかも知れん。多分な、多分……きっと……もしかしたら、いけるかも」
「……どんどん、自信がなくなっていく様子だけは伝わってきたよ……」

まあ、それはいいとしても、だ。
千影にはどうしても気になることがある。いや、本当に今更な話ではあるので、口にするのもどうかと思ったのだが。

「……武くん、服は着ないのかい……?」
「ん……? ああ、そうか。悪い、ずっと上は裸のままだったな」
「……あ、ああ……」

まあ、お姫様抱っこでここまで走ってきたのだから、かなり長いこと胸板に押し付けられていたのだが。
そう考えると少し妙な気分になるので、千影は思考はシャットアウトすることにした。
とにかく、このまま裸で行動させるのは色々な意味で気が気でないので、何か着てもらおうという考えに至った。

「でも、なあ……他に何も着るもの、持ってないんだが……?」
「待ってくれ、確か」

ごそごそ、デイパックを漁る。
武は少し嫌な予感がして、後ずさりした。やがて千影が取り出してきたのは……女物の洋服。
かつてネリネが収集したものだが、それがこんなところで役に立つことになろうとは! そんな気分で千影は武にそれを押し付ける。


「……フリフリ、ですが?」
「とても高級品ばかりだよ、生地も良質……さすがに、センスがいい」
「…………コレヲ オレニ キロ ト?」
「……何故、片言……?」



何か色々なものの自尊心が崩れ去っていく予感。
このまま流れに呑まれてはならない、と武は思う。もしも女性の服装で他の参加者に出逢ってみろ、それは大変だ。
武はそれを振り払うと、千影のデイパックの中を漁った。絶対にわざとに決まっている、あんなフリフリが出てきて溜まるか、と。
ある意味、疑心暗鬼時代の名残とも言うのだろうか。その暴挙に焦りだす千影の目の前で、武は服を探した。

だが。
武が最初に掴んでデイパックから取り出したのは……薄い水色の下着だった。

「………………」
「………………」
「まあ……こんなことも、十回に九回くらいあるさ」

ゴン!

問答無用とはこのことだろうか。
口元を引き攣らせながら、出来るだけ自然な笑みで下着を掴みながら振り返る武の頭に、ゴルフクラブの一撃が入った。

「信じられないね……いきなり下着を引き当てるなんて」
「ううっ……」
「罰として、そこで目を瞑って後ろを向いていてくれ……私が決めるから……ああ、疑心暗鬼は大丈夫かい?」
「さー、いえっさー」

後ろを振り向いて頭を抱える武。千影は安堵の溜息をつく。
疑心暗鬼が大丈夫か、と言った理由は自分のデイパックの中身にある。そういえばまだ、もうひとつのほうに誰かの生首が入っているのだ。
そんなものを見た日には全て水泡に帰す。圭一の墓の近くに放置しておくのが正解だったはずだけど、と溜息をついて僅かにデイパックの中を開く。

「あれ……?」
「どうした、千影」
「いや……なんでもないよ」

結論から言うと、生首が消えていた。代わりに別の支給品が入っている。
包丁や救急箱、人形に服に刀の鞘。そして名簿らしきものや、キックボード。折れてしまった刀とかも入っている。
ふと、背中に冷たいものが流れた。そういえばあのデイパックの隣にもうひとつ、美凪のデイパックが置いてあったような気がする。

「これは……ちょっと、まずいね……」
「なんだ、何がまずいんだ?」

バキ!

いつの間にか背後に立っていた武に、容赦なく鞘で顔面を殴打してやった。
痛みに転がりまわる武を見ていると、どうにも緊張感が出ない。第一印象がシリアスだっただけに、ギャップが酷すぎる。
ああ、でも、と。
久しく忘れていた日常を思い返すには十分で、少しは気が楽になってきた。

「罰を破った武くんには……これがお似合いだね」
「――――――――」

場が凍りついた。いい具合に武の周囲から時間が止まっている。
千影も武が演出する日常に乗ることにした。それが一時的なものだとしても。
美凪のデイパックから取り出した服……と言えるかは微妙だが、それでも服装には違いない一品。


それは、スクール水着だった。


「いやだぁぁああぁぁあああっ!!!!」

ある意味、今世紀最大の絶望感に。
武は即座に土下座モードと移行。様々な意味でそれを着ることは許されなかった。



結局、様々な押し問答(武が一方的に許しを請う状態のこと)の末に。

「精神的陵辱だ」

派手なフリルの付いた地味な色のワンピース、という矛盾した洋服に身を包んだ武が誕生した。
ちなみにズボンやらも凄まじい激戦でボロボロになっていたため、上下ともに着替えることに。
ああ、こんなの着てる奴が俺の友達にいたなぁ、17年前、とか遠い目で眩しい朝日を迎えていた。図らずも感動で涙が出てくる。

「これは……っ……刺激が強すぎるね……」
「殺してくれ」

結局、ワンピースも没となった。
やがて日常も終焉を迎える。あまりふざけていられる状態ではないのだから。
無難な洋服と動きやすさを基点としたジーパンがあったので、それに着替える。言うまでもないが女性用である。

「それにしても役に立たないものが多いな。この人形は……手作りか? 金髪の女と見た」
「……そうだね……まあ、そろそろ休憩も終わりにしよう……」

両者、共に頷く。人形はデイパックの中に放り込んで。
そうして二人は立ち上がり、目的地を目指して歩き出そうとした、そのとき。

「……つ、ぐみ……?」

ふと、武は振り返った。
そこに一抹の不安と疑問を浮かべながら。それは第六感というものだったのだろう。
何故か、つぐみが呼んでいるような気がした。



     ◇     ◇     ◇     ◇



ひゅー、ひゅー、風が吹く。
それは自然の風ではなく、そして悠人の喉からでもない。すでに魔力を整えた悠人はもう苦しまない。
ならばこの風は何処から吹く?
それは地面に倒れ伏す、敗者の喉から漏れていた。ひゅー、ひゅー、虫の息。

血溜まりの中に少女は倒れていた。
どくどく、流れ出るのは生きるために必要なもの。それを見下ろす冷酷な死神は、少女から奪ったミニウージーとマガジンを回収する。
自らがズタズタに切り裂いた少女には目もくれず。ただ全生物の殺害を誓って行動する。

「………………?」

ふと、目元から涙が毀れた。それは悠人本人の心が壊れた証拠かも知れない。
ホテルでは戦い、そして仲間だったはずの少女をこの手で殺した。
永遠神剣の本能のままに行動する悠人には涙の意味が分からない。無表情に彼は次の獲物を捜し求める。

軽傷はすでに回復したが、まだ内蔵まで治療は終わっていない。
まだ足りない。まだ足りない。もっとマナを、もっとマナを。まるでそれしか知らないと言わんばかりに呟いている。
踵を返す。間もなくつぐみは絶命するだろう。もはや、立てるはずがない。それほどの致命傷を負っていた。

「かっ……ごほ、ごほ……」

ミニウージーを乱射したが、弾切れと同時に勝負は決まった。
ベレッタに込められた銃弾……マガジンに入っている16発を全弾、容赦なく撃ち込まれたのだ。
頭はかろうじて防御したが、それを差し引いてもまだ生きていられる自分は、やっぱり化け物なんだろうな、と呟いた。

日光はさんさんとつぐみを照らす。
身体中から悲鳴が上がっていた。動かなくても、持って10分。もしも動くなら……身体を動かすだけで寿命が半分になるだろう。
悠人はつぐみを見ていない。ただゆっくりと歩きながら、根元から折れた木に落ちている巨大な大剣を回収しに行っている。

(……無様、ね)

もう何度死んだか分からない。そんなつぐみは死ぬことなんて怖くなかった。
ただ、自分が死んだ後、武や子供たちが悲しむことが心残りだった。そんなことを考えられるほど、彼女の身体は絶望的だった。
キュレイは日光に遮られて効力を発揮しない。血は後から後から流れていく。だんだん、意識が遠くなってくる。

このまま眠れば、きっと楽に逝けるだろう。
思い残すことは多々あるが、武や純一ならきっと大丈夫だ、と。やはり全幅の信頼を寄せながら瞳を閉じる。
それは終焉の合図。長い長い人生の終点。ゆっくり、死を受け入れるように大きく息を吐いて。


つぐみは僅かに残った寿命までも放棄して、近くに落ちたままの大鉈を掴んでいた。


(それじゃ、ダメなのよね)


大鉈を杖にして、ゆっくりと立ち上がる。ぼたぼた、と身体から鮮血が噴出すのにも構わずに。
つぐみが顔を上げる。まだ瞳は諦めを宿していない。
当然だ、自分が愛した人はどんな絶望的な状況でも決して諦めなかったのだから。なら自分だって出来るはずだ。

(行かせない、わ……)

ここで悠人を放置してはいけない。
彼は文字通り、一人で参加者を皆殺しにする力を持っている。そんな彼を五体満足で見送るわけにはいかない。
何より、ここで終わるなんて癪だ。せっかく武に逢えたのだから。こんなところでは終われない、こんなところでは倒れない。

(敵わないにしても……腕の一本、貰っていくっ……)

脚力は全開に、地面を蹴る。まるで狩りを始めた豹のような身の動き。
とても満身創痍の動きではない。だが、それすらつぐみは当然だと思う。むしろそうでなければならない。
今まで人の一生を滅茶苦茶にしてくれたキュレイの力。せめてこれくらいの役には立ってもらわないと、割に合わないというものだから。

「はっ……ぁぁあああああああああっ!!!!」
「……!」

叫び声に悠人が遅れて気づく。背後に振り返りながらデイパックに収めた武装を取り出そうとしていた。
さすがに反応が早い。今の悠人なら気配にさえ気づければ数秒足らずで戦闘準備を終わらせるのだろう。
だが、遅い。その動きを持ってしてもつぐみの疾走のほうが早い。

決着は本当に一瞬だった。
悠人の首を狙って振り下ろされる最後の一撃。彼の片手は無手で、もう片方はデイパックの中。
回避行動を取る暇さえない。それは完全に意表をつき、つぐみは残った全ての力をその一撃に集約した。


「タイム――――アクセラレイト」


ただ、デイパックの中で掴んでいた『時詠』さえなければ。



     ◇     ◇     ◇     ◇



「……………………」

呆然と、武は立ち尽くした。全身の力が理由もなく抜けるような気がした。
ホテルへ向かう途中だったが、千影は武と生首を引き合わせて疑心暗鬼を刺激することを恐れて、進路を変えようとしていたときのこと。
何故かはわからないが、無くしてはいけない大切な物を無くしてしまったような、そんな喪失感を憶えた。

「……武くん?」
「あ、ああ、すまない。今いく」

我に返って、武は千影の下へと走る。
気のせいだろう、と武は思うことにした。頭の中に浮かぶつぐみのイメージを振り払いながら。

「……だから、まずは悠人くんをどうにかするしかない。アセリアくんと合流しよう……」
「でも、アセリアもあいつには敵わなかったぞ?」
「……いや、それは永遠神剣さえあれば何とかなるはず……今のアセリアくんなら、きっと互角のはず……」

もっとも、それはアセリアと悠人が互角の力量であるならば、ということ前提なのだが。
それにアセリア自身が武から『求め』を受け取ろうとした。『求め』を回収しても戦おうとしなかったことから、扱えなかった可能性もある。
だが、正直なところ今の悠人に真正面から戦って勝てる存在はいないと思う。同じく人外のアセリア以外には。

「それにハクオロくんとの誤解を解かなくてはいけない……彼女たちとの確執を何とかするには私が必要だからね……」
「そうだな、それもある」
「……朝倉純一という人物とも合流したいな……」
「やること多いな。まあ、とにかく……出来ることから始めていこうか」

千影は背伸びをしながらそう語る千影に不思議なものを覚える。
さっきまでは殺人鬼だったのに、まだ疑心暗鬼は完全に直ってもいないのに、どういうわけか頼りがいがあると感じてしまう。
自分の違和感が可笑しくて、思わず口元を歪めてしまうのだった。

「……唐突だが、千影」
「……なんだい?」
「本当に脈絡ないんだが……あの手製の人形、何故だかとある誰かへの腹いせに燃やしたくなった。貸してくれ」

もちろん、断られる。ついでに半目で睨み付けられる。
そんな日常を進んで演じながら、武は心の奥にある違和感の正体を掴めなかった。
結局、違和感の正体は分からないまま……それが今後どう転がるのか、それは誰にも分からない。


【G-6 マップ中央/2日目 朝】

【倉成武@Ever17 -the out of infinity-】
【装備:悟史のバット@ひぐらしのなく頃に祭、スタングレネード×2、貴子のリボン(右手首に巻きつけてる)】
【所持品1:支給品一式x3、天使の人形@Kanon、バール、工具一式、暗号文が書いてあるメモ、バナナ(台湾産)(3房)】
【所持品2:C120入りのアンプル×7と注射器@ひぐらしのなく頃に、折れた柳也の刀@AIR(柄と刃の部分に別れてます)、キックボード(折り畳み式)、大石のノート、情報を纏めた紙×2】
【状態:L5緩和、頭蓋骨に皹(内出血の恐れあり)、脇腹と肩に銃傷、女性ものの服着用】
【思考・行動】
基本方針:つぐみと合流し、ゲームを終わらせる
0:突然訪れた喪失感に対する不安
1:咲耶との約束の履行のためにも、千影を守る
2:つぐみや美凪、アセリアを心配
3:自分で自分が許せるようになるまで、誰にも許されようとは思わない
4:L5対策として、必要に応じて日常を演じる
5:ちゃんとした服がほしい
6:高嶺悠人が暴走した事に対する危機感


【備考】
※C120の投与とつぐみの説得により、L5は緩和されました。今はキュレイウィルスとC120で完全に押さえ込んでいる状態です。
定期的にアンプルを注射する必要があり、また強いストレスを感じると再び発祥する恐れがあります。キュレイの制限が解けるまでこの危険は付き纏います
※前原圭一、遠野美凪の知り合いの情報を得ました。
※救急車(鍵付き)のガソリンはレギュラーです。現在の燃料はごく僅かです。何時燃料切れを起こしても、可笑しくありません。
※キュレイにより僅かながらですが傷の治療が行われています。



【千影@Sister Princess】
【装備:トウカのロングコート、ベネリM3(4/7)、12ゲージショットシェル96発、ゴルフクラブ】
【所持品1:支給品一式×11、九十七式自動砲の予備弾95発、S&W M37 エアーウェイト弾数0/5、コンバットナイフ、タロットカード@Sister Princess、
 出刃包丁@ひぐらしのなく頃に 祭 イングラムの予備マガジン(9ミリパラベラム弾32発)×7 9ミリパラベラム弾68発】
【所持品2:トカレフTT33の予備マガジン10 洋服・アクセサリー・染髪剤いずれも複数、食料品・飲み物多数】
【所持品3:謎ジャム(半分消費)@Kanon、『参加者の術、魔法一覧』、デザートイーグルの予備弾92発】
【所持品4:銃火器予備弾セット各100発(クロスボウの予備ボルト80、キャリバーの残弾は50)、 バナナ(フィリピン産)(5房)、各種医薬品】
【所持品5:包丁、救急箱、エリーの人形@つよきす -Mighty Heart-、スクール水着@ひぐらしのなく頃に 祭、顔写真付き名簿(圭一と美凪の写真は切り抜かれています)情報を纏めた紙×1、永遠神剣第六

位冥加の鞘@永遠のアセリア -この大地の果てで-】
【状態:洋服の上から、トウカのロングコートを羽織っている。右肩軽傷、両手首に重度の擦り傷、左肩重傷(治療済み)、魔力残量微量、悲しみ】
【思考・行動】
基本行動方針:罪無き人々を救い、殺し合いに乗った者は倒す。
1:武と共に行動し、ゲームを終わらせる
2:アセリアと合流して、悠人への対処法を考える
3:また会う事があれば智代を倒す
4:永遠神剣に興味
5:北川潤、月宮あゆ、朝倉純一の捜索
6:舞を何とかしたい
7:つぐみ、美凪、アセリアを心配
8:高嶺悠人が暴走した事に対する危機感


【備考】
※四葉とオボロの事は悠人には話してません
※千影は原作義妹エンド後から参戦
※ハクオロを強く信頼。 つぐみ、美凪、武も信用しています
※不明になっていた人形と服はエリーの人形とスクール水着でした
※これからの目的地は『ホテル』『海の家』が候補としてあがっていますが、他の場所でも構いません


     ◇     ◇     ◇     ◇


ひゅー、ひゅー、今度こそ悠人の口から空気が漏れる。
油断したことに対する反省もなければ、出し抜かれたことに対する憤りもない。ただ人形のように悠人は歩き続ける。
やられた、と。使う予定ではなかったタイムアクセラレイトの行使により、彼の身体は再び不安定な状態に戻らされた。

「………………」

残りの魔力は自身の存在を固定することと、傷の治療に当てる。
早急にマナ補給が必要だ。そのためには、あの青い妖精を貪り尽くさなければならない。あれはまさに極上だった。
触れているだけでマナが流れ込んでくるほどの魔力量。アセリアを殺せば、きっとマナ不足に悩まされることはないはずだから。

日本刀は血に濡れている。
これは先ほど殺した少女の血。『時詠』の力を使い、その刀で切り刻んだ。容赦なく、躊躇なく命を奪ってきた。
即死だっただろう。涙すらもう流れない。悠人の心は奥深くへと封じられた。諦観と絶望の波を漂って。

悠人は進軍する。目的地は特に決まっていない、ただアセリアを捜し求めて。
本能と僅かに残った理性、その二つがアセリアを求めている。

マナを寄越せ―――――永遠神剣の本能がそう命じる。
殺してくれ―――――最後に残った理性が、ただ唯一の願いを心中で呟いた。



【G-6 マップ左上/2日目 朝】

【高嶺悠人@永遠のアセリア -この大地の果てで-】
【装備:永遠神剣第三位"時詠"@永遠 のアセリア-この大地の果てで-、スタングレネード×2】
【所持品1:支給品一式×5、バニラアイス@Kanon(残り6/10)、暗視ゴーグル、FN-P90の予備弾、電話帳】
【所持品2:カルラの剣@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄、竹刀、トウカの刀@うたわれるもの、ベレッタM92F(9mmパラベラム弾15/15+1)、懐中電灯】
【所持品3:単二乾電池(×2本)バナナ(台湾産)(1房)、投げナイフ2本、ミニウージー(25/25)】
【所持品4:手術用メス、パワーショベルカー(運転席のガラスは全て防弾仕様)】
【所持品5:破邪の巫女さんセット(弓矢のみ10/10本)@D.C.P.S.、乙女と大石のメモ、乙女のデイパック、麻酔薬、硫酸の入ったガラス管x8、包帯、医療薬】
【状態:疲労大、魔力消費極大、左肩と脇腹と右太股に銃創、肋骨数本骨折、数本に皹、内臓にダメージ、暴走】
【思考・行動】
1:全ての生物を殺して、マナを奪い尽くす
2:アセリアを優先的に狙い、マナを搾取する


【備考】
※バニラアイスは小型の冷凍庫に入っています。
※悠人の身体は、永遠神剣の本能に支配されています
※悠人本人の意識は僅かに残っていますが、身体には一切干渉できません
※パワーショベルカーの窓ガラスは、一部破損しています
※暴走悠人の身体能力は、時詠にマナを注ぎ込めば注ぎ込む程強化されます。
 つまり、マナが切れ掛けている今の状態では、カルラの大剣を振り回したりするのは、まず不可能です。
※魔力持ちの相手を殺せば、マナを回復させる事が出来ます(回復量は、相手の魔力量に比例)
※暴走悠人は時間経過と共にマナ回復しますが、神剣を持っている限り回復したマナは吸われていきます。
※悠人とアセリアは身体をマナで構成しているため、マナ回復できれば傷の治癒も可能です。



     ◇     ◇     ◇     ◇





(ああ……負けたんだ……)

ぼんやりと、私は思い出す。私が繰り出した大鉈は悠人の首には届かなかった。
瞬きをしたつもりもなかった。捉えた、と思った瞬間に悠人の身体は視覚から消え失せてしまった。
それを疑問に思う暇もなく、この身体はズタズタに切り裂かれた。
血溜まりはさらに広がっている。もはや何をしようと助からない。とはいえ、こんな致命傷でも即死しない私は、重ね重ね化け物だ。

だけど、そのキュレイもさすがに打ち止めらしい。
日の光、紫外線が私の身体を炙っている。吸血鬼もこんな気分なんだろうか、と意味のないことを漠然と考えてしまった。
もう、指一本まともに動かない。17年前はあんなに遠かった死がひどく身近に感じる。

(まったく……皮肉なものよね……)

死のうとして、生き抜いて。生きようとした途端にこうして死ぬ。
これが運命だとしたらあまりにも馬鹿馬鹿しい。そんなひどい話が現実にはいくらでも転がっている。
ああ、あの子たちは大丈夫だろうか。私がいなくても強く生きていけるだろうか。

いや、きっと大丈夫。私がいなくてもあの子たちは強く生きた。
きっと悲しんでくれるだろう。だけど、大丈夫。武がいるんだから。私の代わりに必ず、この悪夢を終わらせてくれる。
このまま追憶と走馬灯に身を任せていよう。それが私に許された最後の望みなんだから。


「……あ、れ……?」


目を閉じようとしたけど、私の視界の端に何かが移った。
大鉈はすでにバラバラに破壊されている。あれを無意識に盾にしたのだけど、容赦なく私ごと破壊されてしまっているらしい。
違う、私の気を引いたのは……黒い四角の物体。それはそう、確かに見たことのあるもの。

「あ……」

武のPDAだ。デイパックの中ではなく、私の服の中に入れていたもの。
それが悠人の攻撃による衝撃で吹っ飛んでしまっているらしい。本当にすぐ近くにある。普通に手を伸ばせば届く場所に。
だけど、ダメなのだ。もう指一本だって動かせない。それに意識を費やしていたら、最後に許された走馬灯すら放棄してしまう。
見れば当の昔に壊れてしまっている。それは何の意味もない。さっさと目を瞑って、ほんの少しの安らぎを手に入れたほうがいい。

「……でも、そうね……悪くないかも」

私は笑っていたと思う。よほど私は毒されていたらしい。
最後に自然に与えられる安らぎよりも、自分自身で掴み取る幸せのほうを握りたい。たとえそれが、無駄だとしても。意味がなくても。
もぞもぞ、と指を動かした。その間にもじりじりと太陽の光が私の命を削っていく。血が抜けて私の体力は奪われていく。
それでも、私は私自身の力をもらって戦っていた。

「っ……っ……っ……!」

もうまともに身体も動かせないのに。
もぞもぞ、と全身全霊を振り絞って、持てる力を使い切って、ようやく腕が動く程度。指一本だって全力だ。
届くはずがない。指が精一杯だなんて届くはずがない。理論的なかつての私か諦めろ、と囁くのにも関わらず。

痛い、悲しい、苦しい、辛い。
やがて私の目が用を成さなくなってくる。視界が暗転し始め、私は涙が出てきそうになった。もう枯れ果てたと思った雫が頬を伝う。
待って、待ってほしい。せめて、それに手が届くまで消えないでほしい。

(届けっ……届けぇ……!)

持てる全ての力を振り絞って、たかが機械ひとつに腕を伸ばすなんて愚かだろう。
そうしている間にも寿命は刻一刻と消えていくのに。暴力的な力に身を任せた私は決して諦めようとしない。
必死に願いながら手を伸ばす。真っ直ぐに、私は最後まで決して諦めない。武や純一のように、一途にそれに手を伸ばす。


そしてようやく、心が其処に至ったような気分になって。
その手が、ちょっと血塗れになってしまっているその手が、武のPDAに触れる感触。続いて、それを掴み取った満足感を手に入れた。



「ああ……」

たったそれだけの行為で、寿命は半分に減ってしまったけど。
その代わり心はきっと満たされた。手の感触が嬉しかった。
目が見えなくなった。もう真っ暗な闇と、そしてじりじりと照らす白しか分からない。だけど、胸に抱いた希望は決して離さなかった。

じりじり、と。しつこいぐらいに私の焼くのは紫外線。
無遠慮な日光は私にとって地獄の業火のようなもの。それでも、自分の手で掴み取った幸せは温かだった。

「……あは」

最後の力で僅かに首を上げる。
これが本当に最期の最後、皮肉めいた笑みを浮かべて太陽を見据える。
武なら、純一ならきっとやり遂げてくれるだろう。そんな願いを込めながら。


「本当……憎らしいほど、素敵な朝日……ね」


無限は今、終焉を迎えた。
静かに私は瞳を閉じる。幸せを胸に抱き、勝ち取った希望の温もりを感じながら。

カナカナカナカナ……

静寂の中にひぐらしの鳴き声が届いた。
永遠はここに、終末を迎えたことを認めるように。あるいはそれを憤るように。もしかしたら、それを悲しむかのように。


【小町つぐみ@Ever17 -the out of infinity- 死亡】



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