ファイナル・ミッション/奪う者、奪われる者(前編) ◆guAWf4RW62
島の東岸沿いの商店街、その一角にある古ぼけた花火屋。
其処で二見瑛理子は、家庭用工具セットを用いて作業に没頭していた。
瑛理子の横では、白鐘沙羅と月宮あゆが作業を見守っている。
其処で二見瑛理子は、家庭用工具セットを用いて作業に没頭していた。
瑛理子の横では、白鐘沙羅と月宮あゆが作業を見守っている。
「……ふう、これで完成ね」
瑛理子は大きく息を吐いた後、額に浮き出ていた汗を拭い取った。
前方の机には、筒状の小さな物体が置いてある。
そこで沙羅が、確認するように筆談で問い掛けてきた。
前方の机には、筒状の小さな物体が置いてある。
そこで沙羅が、確認するように筆談で問い掛けてきた。
『本当に? もう作り終えちゃったの?』
『ええ。実際に作った事は無いけど、理論上は問題無い筈よ』
『凄いわね……。でもそろそろ、どういうつもりか説明して欲しいな』
『ええ。実際に作った事は無いけど、理論上は問題無い筈よ』
『凄いわね……。でもそろそろ、どういうつもりか説明して欲しいな』
瑛理子が作り上げた物体は信管――つまり、爆弾を起爆する際に用いられる物だ。
IQ190の天才的頭脳を持つ瑛理子からすれば、信管を作るなど造作も無い事。
そして、この殺人遊戯の最中に無意味な行動をする程、瑛理子は愚かでない。
わざわざ信管を作ったのには、大きな理由がある。
IQ190の天才的頭脳を持つ瑛理子からすれば、信管を作るなど造作も無い事。
そして、この殺人遊戯の最中に無意味な行動をする程、瑛理子は愚かでない。
わざわざ信管を作ったのには、大きな理由がある。
『沙羅が持っていた”バトル・ロワイアル”って本。
あれを読んだお陰で、爆弾を作るってアイデアが浮かんだの』
あれを読んだお陰で、爆弾を作るってアイデアが浮かんだの』
元は図書館に置いてあった『バトル・ロワイアル』という書籍。
そこには、今回と似たようなケースの殺人遊戯に関する物語が綴られていた。
その中に、参加者の一人が爆弾を作成して、主催者の本拠地へ攻撃を仕掛けようとする場面があった。
そこで瑛理子は、自分も爆弾を作って、対主催者用の切り札にしようと考えたのだ。
そこには、今回と似たようなケースの殺人遊戯に関する物語が綴られていた。
その中に、参加者の一人が爆弾を作成して、主催者の本拠地へ攻撃を仕掛けようとする場面があった。
そこで瑛理子は、自分も爆弾を作って、対主催者用の切り札にしようと考えたのだ。
『でも、何も今やる事はないんじゃないの?』
『準備は出来る内にしておくべきよ。材料のある場所が禁止エリアになったら、困るでしょ?』
『そうだとしても、まずは病院に行くべきだと思う。今頃圭一は、病院で必死に戦ってるんだよ?
美凪は武さんに捕まっちゃってるんだよ?』
『準備は出来る内にしておくべきよ。材料のある場所が禁止エリアになったら、困るでしょ?』
『そうだとしても、まずは病院に行くべきだと思う。今頃圭一は、病院で必死に戦ってるんだよ?
美凪は武さんに捕まっちゃってるんだよ?』
主張する沙羅の顔は、明らかに不満げなものだった。
それも至極当然の事だろう。
沙羅にとって前原圭一と遠野美凪は、この島で最も長い間行動を共にした仲間なのだから。
瑛理子は僅かに表情を曇らせたが、直ぐに文字を書き綴る。
それも至極当然の事だろう。
沙羅にとって前原圭一と遠野美凪は、この島で最も長い間行動を共にした仲間なのだから。
瑛理子は僅かに表情を曇らせたが、直ぐに文字を書き綴る。
『仕方無いでしょ。真っ直ぐ病院に向かっても、とても勝負が終わるまでには間に合わない。
だったら向こうは圭一に任せて、私達は私達で、今出来る事をすべきだと思うけど?』
『それはそうかも知れないけど……』
『瑞穂達が向かってる筈だから、きっと大丈夫よ。それに沙羅、貴女は圭一の仲間なんでしょ?
なら、彼を信じてあげなさい』
『…………そうね。ゴメン、少し焦ってた』
だったら向こうは圭一に任せて、私達は私達で、今出来る事をすべきだと思うけど?』
『それはそうかも知れないけど……』
『瑞穂達が向かってる筈だから、きっと大丈夫よ。それに沙羅、貴女は圭一の仲間なんでしょ?
なら、彼を信じてあげなさい』
『…………そうね。ゴメン、少し焦ってた』
論理的に諭されて、沙羅はようやく首を縦に振った。
不安は残るものの、今は瑛理子が云う通り圭一を信じるしかないのだ。
首を回して、祈るような視線を病院の方角へと送る。
そこで今まで静観していたあゆが、鞄から筆記用具を取り出した。
不安は残るものの、今は瑛理子が云う通り圭一を信じるしかないのだ。
首を回して、祈るような視線を病院の方角へと送る。
そこで今まで静観していたあゆが、鞄から筆記用具を取り出した。
『ねえねえ瑛理子さん。その信管っていうのがあれば、爆弾を作れるの?』
『これだけじゃ無理ね。信管はあくまで起爆装置――爆弾を作るには、爆薬も準備しないといけないわ』
『爆薬?』
『そうよ。爆薬の材料、つまり肥料とガソリンが必要ね』
『これだけじゃ無理ね。信管はあくまで起爆装置――爆弾を作るには、爆薬も準備しないといけないわ』
『爆薬?』
『そうよ。爆薬の材料、つまり肥料とガソリンが必要ね』
瑛理子はそう書いてから、机の上に地図を広げた。
地図上の一点を指差してから、続ける。
地図上の一点を指差してから、続ける。
『D-7エリアにある段々畑……此処なら確実に肥料はあるし、農耕用の機械からガソリンが手に入る可能性も高い。
だから病院より先に、まずは此処に寄って行きましょう』
だから病院より先に、まずは此処に寄って行きましょう』
病院に到着してから畑を目指すのでは、二度手間になってしまう。
だからこその提案。
沙羅もあゆも特に異議は無かった為、一行は段々畑へと向かう事になった。
だからこその提案。
沙羅もあゆも特に異議は無かった為、一行は段々畑へと向かう事になった。
◇ ◇ ◇ ◇
瑛理子達が商店街を出発してから、約一時間。
遠く離れた段々畑に行くまでも無く、必要な材料は見付かった。
E-5エリア下部の廃線近くに、農業協同組合の施設があったのだ。
三階建ての建物は少々古ぼけているものの、最上階の大きな倉庫には様々な物資が置いてあった。
遠く離れた段々畑に行くまでも無く、必要な材料は見付かった。
E-5エリア下部の廃線近くに、農業協同組合の施設があったのだ。
三階建ての建物は少々古ぼけているものの、最上階の大きな倉庫には様々な物資が置いてあった。
『瑛理子さん、このくらいで良い?』
『ええ、十分ね。これだけあったら、強力な爆弾が作れる筈よ』
『ええ、十分ね。これだけあったら、強力な爆弾が作れる筈よ』
倉庫の一角にて、瑛理子と沙羅は筆談で各々の意思を伝え合っていた。
沙羅の周囲には、ガソリンを詰め込んだ缶と、相当な量の肥料が置いてある。
その他にも、ライターやロープ等、状況次第で使い道がありそうな品も手に入った。
予想以上の収穫だと云えるだろう。
沙羅の周囲には、ガソリンを詰め込んだ缶と、相当な量の肥料が置いてある。
その他にも、ライターやロープ等、状況次第で使い道がありそうな品も手に入った。
予想以上の収穫だと云えるだろう。
『これからどうするの? 早速爆弾を組み立てる?』
『材料さえ揃えば組み立てるのは何時でも出来る。続きは病院に到着してからにしましょう』
『材料さえ揃えば組み立てるのは何時でも出来る。続きは病院に到着してからにしましょう』
瑛理子はそう書くと、集めた材料を鞄に詰め込んだ。
直ぐに沙羅とあゆも、同じように手早く荷物を纏めてゆく。
そうして準備が整うと、一行は倉庫を後にした。
直ぐに沙羅とあゆも、同じように手早く荷物を纏めてゆく。
そうして準備が整うと、一行は倉庫を後にした。
「此処からは私が先に行く。瑛理子さん達は後から続いて」
「ええ、分かったわ」
「ええ、分かったわ」
来訪した時に周囲の安全は確認済みだが、慎重を期すに越した事は無い。
最も修羅場慣れしている沙羅を先頭に据えて、下へと繋がる階段を降ってゆく。
照明等は点いていないものの、窓から漏れ出る日光のお陰で、視界は十分な状態だった。
特に異変が起きたりもせず、沙羅達は無事一階まで辿り着いた。
しかし本当に危険なのは、これから先だ。
建物を出る瞬間。
その時こそが、待ち伏せ等の襲撃を一番受けやすい筈だった。
最も修羅場慣れしている沙羅を先頭に据えて、下へと繋がる階段を降ってゆく。
照明等は点いていないものの、窓から漏れ出る日光のお陰で、視界は十分な状態だった。
特に異変が起きたりもせず、沙羅達は無事一階まで辿り着いた。
しかし本当に危険なのは、これから先だ。
建物を出る瞬間。
その時こそが、待ち伏せ等の襲撃を一番受けやすい筈だった。
「それじゃ外に出るよ。絶対に油断しないでね」
沙羅はワルサーP99を右手で握り締めたまま、空いてる左手で入り口の扉を開け放つ。
すると外から、眩い朝日の光が射し込んで来た。
農協施設の外は駐車場となっており、農耕用のトラクターやコンバインなどが停められている。
注意深く周囲の様子を探ってみたが、何者かが潜んでいるような気配は無い。
それで沙羅は、このまま進んでも大丈夫だと判断して、駐車場に足を踏み入れようとし――
すると外から、眩い朝日の光が射し込んで来た。
農協施設の外は駐車場となっており、農耕用のトラクターやコンバインなどが停められている。
注意深く周囲の様子を探ってみたが、何者かが潜んでいるような気配は無い。
それで沙羅は、このまま進んでも大丈夫だと判断して、駐車場に足を踏み入れようとし――
『……定時放送の時刻だ。まずはこの時刻まで生き延びた諸君を賛辞しよう』
そこで、最悪の結末を報せる鐘が打ち鳴らされた。
禁止エリアに関する話の後、死亡者が一人ずつ発表されてゆく。
禁止エリアに関する話の後、死亡者が一人ずつ発表されてゆく。
『……衛』
その名前が告げられた途端、瑛理子の頬が大きく強張った。
瑛理子は衛と親しくなかったが、それでも仲間の名前が呼ばれるのは、精神的に応えるものがある。
それに衛が死んだという事は、彼女と行動を共にしていたハクオロもまた、窮地に陥っている可能性が高い筈だった。
瑛理子は衛と親しくなかったが、それでも仲間の名前が呼ばれるのは、精神的に応えるものがある。
それに衛が死んだという事は、彼女と行動を共にしていたハクオロもまた、窮地に陥っている可能性が高い筈だった。
『白河ことり……水瀬名雪』
今度は沙羅の顔が歪んだ。
激しい憎しみと佐藤良美の扇動により狂ってしまった少女、水瀬名雪。
彼女もまた、二度と動かぬ躯と化した。
数少ない知人であった名雪の死は、沙羅を少なからず動揺させる。
だが次の瞬間、その動揺は倍以上に膨れ上がる。
激しい憎しみと佐藤良美の扇動により狂ってしまった少女、水瀬名雪。
彼女もまた、二度と動かぬ躯と化した。
数少ない知人であった名雪の死は、沙羅を少なからず動揺させる。
だが次の瞬間、その動揺は倍以上に膨れ上がる。
『――――前原圭一』
「え…………」
「え…………」
ポロリと、沙羅の手元からワルサーP99が零れ落ちた。
放送は未だ続いているが、そんなモノは全く頭に入らなかった。
放送は未だ続いているが、そんなモノは全く頭に入らなかった。
「けい、いち……………」
探偵助手を務めている沙羅の目から見ても、前原圭一は強い男だった。
強敵にも正面から挑み掛かる勇気、追い詰められた時の底力。
そして何より、殺人鬼と化してしまった倉成武をも信じ続けた強い意志。
その圭一が、死んだ。
強敵にも正面から挑み掛かる勇気、追い詰められた時の底力。
そして何より、殺人鬼と化してしまった倉成武をも信じ続けた強い意志。
その圭一が、死んだ。
――じゃあ、行ってくるぜ。皆、後は頼んだ!!
沙羅は圭一の姿を思い起こし、ズキリと胸が痛むのを感じていた。
何故圭一が死んだのか、理由は余りにも明確。
圭一は武との決闘に敗北し、そして殺されてしまったのだろう。
結局彼の信じる心は、武を改心させるに至らなかったのだ。
何故圭一が死んだのか、理由は余りにも明確。
圭一は武との決闘に敗北し、そして殺されてしまったのだろう。
結局彼の信じる心は、武を改心させるに至らなかったのだ。
それは、当然と云えば当然の結果。
いかな圭一でも、強力な身体能力を誇る武に勝つのは困難だ。
瑞穂達が援軍に向かったものの、美凪という人質が居る以上、下手に加勢は出来ないだろう。
それに武を狂わせた元凶であるH173の治療法も、未だ見付かっていない。
どう考えても、絶望的な状況だったのだ。
ならば、圭一の行動は間違いだったのか?
武を救おうとしたのは、只の自殺行為だったのか?
そんな疑問が沸き上がったが、沙羅はすぐに首を横へ振った。
いかな圭一でも、強力な身体能力を誇る武に勝つのは困難だ。
瑞穂達が援軍に向かったものの、美凪という人質が居る以上、下手に加勢は出来ないだろう。
それに武を狂わせた元凶であるH173の治療法も、未だ見付かっていない。
どう考えても、絶望的な状況だったのだ。
ならば、圭一の行動は間違いだったのか?
武を救おうとしたのは、只の自殺行為だったのか?
そんな疑問が沸き上がったが、沙羅はすぐに首を横へ振った。
(間違いなんかじゃない……私は、圭一の行動が正しかったって信じてる)
そうだ――結果こそ伴わなかったものの、圭一の生き様は尊く美しいものだ。
愚直に人を信じ続けた圭一は、誰よりも立派だった。
それだけは、絶対の自信を以って確信出来る。
沙羅がそこまで考えた時、横からか細い声が聞こえてきた。
愚直に人を信じ続けた圭一は、誰よりも立派だった。
それだけは、絶対の自信を以って確信出来る。
沙羅がそこまで考えた時、横からか細い声が聞こえてきた。
「うぐぅ……名雪さん…………」
「――あゆ?」
「――あゆ?」
沙羅が視線を移すと、落ち込んだ表情をしているあゆが視界に入った。
あゆは一度息を吸い込んでから、ゆっくりと言葉を絞り出した。
あゆは一度息を吸い込んでから、ゆっくりと言葉を絞り出した。
「大石さんと乙女さんが死んだ時、ボク……すっごい怖くて……。名雪さんにも、酷い事しちゃったんだ……。
一生懸命謝ったけど……許して貰えなくて……それでもまた謝りたかったのに……」
「…………」
一生懸命謝ったけど……許して貰えなくて……それでもまた謝りたかったのに……」
「…………」
独白するあゆ。
大きな瞳に涙を溜め込みながら、続ける。
大きな瞳に涙を溜め込みながら、続ける。
「……もう駄目なのかな? 名雪さんを傷付けて、往人さんを殺しちゃったボクは、死んで罪を償うしかないのかな?」
悲痛な響きを伴った問い掛け。
語るあゆの肩は、ぶるぶると小刻みに揺れている。
沙羅は少し考えてから、自身の気持ちをそのまま言葉へと変えた。
語るあゆの肩は、ぶるぶると小刻みに揺れている。
沙羅は少し考えてから、自身の気持ちをそのまま言葉へと変えた。
「それは違うんじゃないかな……、あゆは生きて償うべきよ」
「――――え?」
「死んだらそこで終わりでしょ? 誰も救えないでしょ? 死ぬだなんて、只逃げてるだけだよ。
決して許されなくても、どんなに辛くても、歯を食い縛って一生懸命生き続ける。そして、一人でも多くの人を助ける。
それが、罪を償うって事なんだと思う」
「――――え?」
「死んだらそこで終わりでしょ? 誰も救えないでしょ? 死ぬだなんて、只逃げてるだけだよ。
決して許されなくても、どんなに辛くても、歯を食い縛って一生懸命生き続ける。そして、一人でも多くの人を助ける。
それが、罪を償うって事なんだと思う」
沙羅は本心からそう考えていた。
名雪を救えなかったのは、少なからず自分にも責任がある。
それでも自分は、罪の意識に押し潰されて歩みを止める気など毛頭無い。
例えどのような結末が待っていようとも、最期の瞬間まで全力で生き続ける。
少なくとも圭一や双葉恋太郎が自分と同じ立場なら、そうする筈だった。
名雪を救えなかったのは、少なからず自分にも責任がある。
それでも自分は、罪の意識に押し潰されて歩みを止める気など毛頭無い。
例えどのような結末が待っていようとも、最期の瞬間まで全力で生き続ける。
少なくとも圭一や双葉恋太郎が自分と同じ立場なら、そうする筈だった。
「そうよ。どれだけ罪の意識に苛まれても、往人は決して意思を曲げなかったわ。
だから――」
だから――」
それまで静観していた瑛理子が、静かにあゆへと歩み寄る。
あゆの両肩に手を乗せてから、告げる。
あゆの両肩に手を乗せてから、告げる。
「貴女も前を向いて生きなさい。往人の死を無駄にするなんて、私が絶対に許さない」
「…………」
「…………」
瑛理子は至近距離で、じっとあゆを見詰める。
その瞳には、言葉で表せぬの程の想いが籠められている。
やがてあゆがコクリと頷いた事で、このやりとりは終わりを迎えた。
その瞳には、言葉で表せぬの程の想いが籠められている。
やがてあゆがコクリと頷いた事で、このやりとりは終わりを迎えた。
放送のショックから立ち直った瑛理子達は、病院に向かうべく再び移動し始めようとする。
だがその時、駐車場の向こう側、停車してある農耕用車両の隙間を縫って、誰かが歩いてくるのが見えた。
だがその時、駐車場の向こう側、停車してある農耕用車両の隙間を縫って、誰かが歩いてくるのが見えた。
「……瑛理子さん達は下がってて!」
沙羅は即座にワルサーP99を拾い上げ、瑛理子とあゆを後退させた。
近くの車両の陰に身を隠しながら、人影に向かって銃を構える。
そこで、前方の人影が叫んだ。
近くの車両の陰に身を隠しながら、人影に向かって銃を構える。
そこで、前方の人影が叫んだ。
「待て、私は戦うつもりなど無い!」
声の主は、白を基調としたセーラー服に身を包んだ、長い黒髪の美少女だった。
体型は細めで、身長は見た感じ160cm程度といった所だろうか。
少女の手に武器は握られていない。
安易に信用する訳にはいかないが、少なくとも直ぐに襲い掛かって来るという事は無いだろう。
そう判断した沙羅は銃口を下ろして、少女に歩み寄ろうとしたが、そこで後ろから肩を捕まれた。
体型は細めで、身長は見た感じ160cm程度といった所だろうか。
少女の手に武器は握られていない。
安易に信用する訳にはいかないが、少なくとも直ぐに襲い掛かって来るという事は無いだろう。
そう判断した沙羅は銃口を下ろして、少女に歩み寄ろうとしたが、そこで後ろから肩を捕まれた。
「……瑛理子さん?」
「待ちなさい。ちょっと引っ掛かる事があるわ」
「待ちなさい。ちょっと引っ掛かる事があるわ」
瑛理子はそう云うと、トカレフTT33片手に駐車場の中を歩いていった。
トカレフTT33の銃口は、しっかりと黒髪の少女に向けられている。
それで沙羅もあゆも、慌てて瑛理子の後を追った。
トカレフTT33の銃口は、しっかりと黒髪の少女に向けられている。
それで沙羅もあゆも、慌てて瑛理子の後を追った。
「……私は本当に、殺し合うつもりなんてないぞ。見ての通り、武器だって持っていない」
黒髪の少女がそう主張するものの、瑛理子の警戒が解かれる事は無い。
寧ろ益々、その猜疑心を深めていっているようであった。
瑛理子は10メートル程の距離まで歩み寄ってから、冷たい声で問いを投げ掛ける。
寧ろ益々、その猜疑心を深めていっているようであった。
瑛理子は10メートル程の距離まで歩み寄ってから、冷たい声で問いを投げ掛ける。
「――答えなさい。貴女の名前は?」
問い掛ける瑛理子の眼光は鋭く、有無を云わせぬ迫力だった。
もし返答がなければ、即座にトリガーを引くのではないか、と思える程に。
少女もそれを察したのか、直ぐに答えを口にした。
もし返答がなければ、即座にトリガーを引くのではないか、と思える程に。
少女もそれを察したのか、直ぐに答えを口にした。
「……わ、私は蟹沢きぬだ。普段は竜鳴館と云う高校に通っている」
瑛理子は黙したまま、少女の言葉を聞いていた。
だがやがて、トカレフTT33を握り締めている右手に左手も添え、本格的な射撃体勢となった。
驚愕に顔を歪める少女の様子など意にも介さず、告げる。
だがやがて、トカレフTT33を握り締めている右手に左手も添え、本格的な射撃体勢となった。
驚愕に顔を歪める少女の様子など意にも介さず、告げる。
「沙羅……これで確定よ。そこの女が何者かは分からないけど、少なくとも信用出来るような人物じゃない。
だって、偽名を使っているもの」
「えっ……、どういう事?」
「美凪が顔写真付き名簿を持っていたのは、覚えてるわよね?
私はその全部に目を通したけど、今目の前に居る女は蟹沢きぬじゃない。
それ所か名簿の何処を見たって、こんな女は載っていなかった」
「――――ッ!」
だって、偽名を使っているもの」
「えっ……、どういう事?」
「美凪が顔写真付き名簿を持っていたのは、覚えてるわよね?
私はその全部に目を通したけど、今目の前に居る女は蟹沢きぬじゃない。
それ所か名簿の何処を見たって、こんな女は載っていなかった」
「――――ッ!」
前方の少女は、偽名を使う正体不明の存在。
事態を正確に把握した沙羅は、すぐさまワルサーP99を構えた。
事態を正確に把握した沙羅は、すぐさまワルサーP99を構えた。
「ク――――」
二人から銃口を向けられた少女――坂上智代が、苛立たしげに奥歯を噛み締めた。
紫和泉子の宇宙服で変装し、未だ存命中である蟹沢きぬの名を騙る。
その後幾ばくかの会話を交わし、敵の警戒が解けてから奇襲を仕掛ける。
作戦としては、間違っていない筈だった。
しかし写真付き名簿が出回っていたのが、そして二見瑛理子の異常な記憶力が、智代にとって最大の誤算。
結果として、交渉不可能なくらい警戒されてしまう羽目になった。
紫和泉子の宇宙服で変装し、未だ存命中である蟹沢きぬの名を騙る。
その後幾ばくかの会話を交わし、敵の警戒が解けてから奇襲を仕掛ける。
作戦としては、間違っていない筈だった。
しかし写真付き名簿が出回っていたのが、そして二見瑛理子の異常な記憶力が、智代にとって最大の誤算。
結果として、交渉不可能なくらい警戒されてしまう羽目になった。
(クソッ、どうすればいい? どうすれば――)
智代は焦る心を鎮めながら、必死に思考を巡らせる。
そもそも自分は、人を欺くのが得意で無い。
今更嘘で取り繕うとした所で、簡単に見抜かれてしまうだろう。
ならば直接戦闘により道を切り拓くしかないが、それには今の服装が問題だ。
極めて動き辛いこの宇宙服を脱ぎ捨てない限り、激しい運動を行うのは難しかった。
そもそも自分は、人を欺くのが得意で無い。
今更嘘で取り繕うとした所で、簡単に見抜かれてしまうだろう。
ならば直接戦闘により道を切り拓くしかないが、それには今の服装が問題だ。
極めて動き辛いこの宇宙服を脱ぎ捨てない限り、激しい運動を行うのは難しかった。
「まずはデイパックを捨てて貰いましょうか。それから手を上に上げて――――ッ!?」
智代の狼狽を見て取った瑛理子が、油断無く構えたまま投降を促そうとする。
だがそこで、突如沙羅が瑛理子の腕を引いた。
次の瞬間甲高い銃声が鳴り響き、近くにあった農耕用車両の窓が粉々に割れた。
だがそこで、突如沙羅が瑛理子の腕を引いた。
次の瞬間甲高い銃声が鳴り響き、近くにあった農耕用車両の窓が粉々に割れた。
「そこの人、こっちに来て!」
「――――っ!?」
「――――っ!?」
智代が声のした方へ振り返ると、巫女服を纏った少女――佐藤良美の姿が目に入った。
良美は軽トラックの陰に半身を隠した状態で、智代に向けて手招きをしている。
平時ならば訝しむべき誘い。
だが絶体絶命の窮地に陥っていた智代には、良美の誘いに乗るしか道が無かった。
直ぐ様大地を蹴って、良美と共に軽トラックの陰へ滑り込む。
続けて智代は、戦闘の妨げにしかならぬ宇宙服を脱ぎ捨てた。
良美は軽トラックの陰に半身を隠した状態で、智代に向けて手招きをしている。
平時ならば訝しむべき誘い。
だが絶体絶命の窮地に陥っていた智代には、良美の誘いに乗るしか道が無かった。
直ぐ様大地を蹴って、良美と共に軽トラックの陰へ滑り込む。
続けて智代は、戦闘の妨げにしかならぬ宇宙服を脱ぎ捨てた。
「…………っ!?」
その様子を見ていた良美の顔が、大きく驚愕に歪んだ。
眼前の少女が突然熊に変身し、更に熊から銀髪の少女へと変貌していったのだから、驚くのも仕方無い事だろう。
しかしそれで良美は、一つの確信を得た。
わざわざ手間の掛かる変装をするなど、騙まし討ちを狙っていたとしか思えない。
沙羅達に銃を向けられている時点で、殺し合いに乗っている可能性は高いと思ったが、それが確信に変わった。
そして相手が殺し合いに乗っているのなら、やるべき事は一つだ。
眼前の少女が突然熊に変身し、更に熊から銀髪の少女へと変貌していったのだから、驚くのも仕方無い事だろう。
しかしそれで良美は、一つの確信を得た。
わざわざ手間の掛かる変装をするなど、騙まし討ちを狙っていたとしか思えない。
沙羅達に銃を向けられている時点で、殺し合いに乗っている可能性は高いと思ったが、それが確信に変わった。
そして相手が殺し合いに乗っているのなら、やるべき事は一つだ。
「ねえ貴女――殺し合いに乗ってるよね?」
「……ああ、その通りだ。しかしそれが分かっているのなら、何故助けたりした?」
「……ああ、その通りだ。しかしそれが分かっているのなら、何故助けたりした?」
当然の疑問が投げ掛けられる。
それは良美も予測していたので、直ぐに言葉を返した。
それは良美も予測していたので、直ぐに言葉を返した。
「私も殺し合いに乗ってるんだ。でもこっちは一人なのに、偽善者達は何時も徒党を組んでる。
集団相手に一人じゃ不利なのは、貴女だって分かるでしょ? だからね、一時的に手を組まない?」
「何…………?」
「ずっととは云わないよ。信頼なんて下らない物も求めない。
あくまで少しの間手を貸してくれれば、それで良い」
集団相手に一人じゃ不利なのは、貴女だって分かるでしょ? だからね、一時的に手を組まない?」
「何…………?」
「ずっととは云わないよ。信頼なんて下らない物も求めない。
あくまで少しの間手を貸してくれれば、それで良い」
云われて、智代は暫しの間考え込んだ。
良美の言い分にも一理ある。
ホテルでの戦いの際も、敵が純一だけならば仕留められた筈。
しかし敵が複数居た所為で、逆に手痛い反撃を被ってしまったのだ。
複数の敵に一人で挑むのが、どれ程不利かは身に染みて分かっている。
だが――――
良美の言い分にも一理ある。
ホテルでの戦いの際も、敵が純一だけならば仕留められた筈。
しかし敵が複数居た所為で、逆に手痛い反撃を被ってしまったのだ。
複数の敵に一人で挑むのが、どれ程不利かは身に染みて分かっている。
だが――――
「…………」
良美の申し出に答えを返さぬまま、智代は軽トラックの陰から顔を出した。
すると農耕用トラクターの後方に、沙羅達が潜んでいるのを見て取れた。
恐らくは、遮蔽物で身を守ろうとしているのだろう。
だがそのような守り、圧倒的な火力の前には無意味。
智代はすかさず鞄から九十七式自動砲を取り出し、トラクターに向けて砲撃を敢行する。
けたたましい爆音と共に、トラクターの一部が砕け散った。
すると農耕用トラクターの後方に、沙羅達が潜んでいるのを見て取れた。
恐らくは、遮蔽物で身を守ろうとしているのだろう。
だがそのような守り、圧倒的な火力の前には無意味。
智代はすかさず鞄から九十七式自動砲を取り出し、トラクターに向けて砲撃を敢行する。
けたたましい爆音と共に、トラクターの一部が砕け散った。
「あぐっ………!」
「え、瑛理子さん!」
「え、瑛理子さん!」
瑛理子が悲痛な呻き声を洩らす。
咄嗟の判断であゆを庇った瑛理子は、左上腕部にトラクターの破片の直撃を受けてしまっていた。
だが激痛が収まるのを待っている暇などない。
もう一度爆音が鳴り響き、今度はトラクターの後輪が弾け飛んだ。
このまま隠れていても、いずれトラクターごと倒されてしまうのは明白だった。
咄嗟の判断であゆを庇った瑛理子は、左上腕部にトラクターの破片の直撃を受けてしまっていた。
だが激痛が収まるのを待っている暇などない。
もう一度爆音が鳴り響き、今度はトラクターの後輪が弾け飛んだ。
このまま隠れていても、いずれトラクターごと倒されてしまうのは明白だった。
「それなら……こっちから行くしかないじゃない!」
沙羅はそう叫ぶと、トラクターの陰から飛び出した。
軽トラックの陰から顔を出していた智代に向けて、ワルサーP99の照準を合わせる。
続けて流麗な動きで前に走りながら、何度も何度もトリガーを引き絞った。
智代が即座に隠れた為、銃弾が命中する事は無かったが、砲撃を食い止めるのには成功した。
沙羅はそのまま一気に畳み込むべく、軽トラックの荷台部に飛び乗ろうとする。
だがその刹那、横から聞こえてきた足音に反応し、跳躍を中断して地面に転がり込んだ。
それまで沙羅が居た空間を、一発の銃弾が切り裂いてゆく。
軽トラックの陰から顔を出していた智代に向けて、ワルサーP99の照準を合わせる。
続けて流麗な動きで前に走りながら、何度も何度もトリガーを引き絞った。
智代が即座に隠れた為、銃弾が命中する事は無かったが、砲撃を食い止めるのには成功した。
沙羅はそのまま一気に畳み込むべく、軽トラックの荷台部に飛び乗ろうとする。
だがその刹那、横から聞こえてきた足音に反応し、跳躍を中断して地面に転がり込んだ。
それまで沙羅が居た空間を、一発の銃弾が切り裂いてゆく。
「……沙羅ちゃん、貴女だけでも生きててくれて嬉しいよ」
「良美……!」
「良美……!」
銃撃の主は佐藤良美だった。
良美は歪な笑みを浮かべて、ゆっくりと語り始めた。
良美は歪な笑みを浮かべて、ゆっくりと語り始めた。
「私、圭一君を殺してあげるつもりだったんだ。生きてるのを後悔したくなるくらい、グチャグチャにしてね。
でもさっきの放送で、圭一君の名前が呼ばれちゃった。嬉しかったけど……凄い悲しかった。
当然だよね、もう圭一君を苦しめてあげられないんだもん」
「…………」
「だから沙羅ちゃんが、圭一君の代わりに相手してよ……くすくす」
でもさっきの放送で、圭一君の名前が呼ばれちゃった。嬉しかったけど……凄い悲しかった。
当然だよね、もう圭一君を苦しめてあげられないんだもん」
「…………」
「だから沙羅ちゃんが、圭一君の代わりに相手してよ……くすくす」
云い終わるや否や、良美のS&W M36が火を吹いた。
沙羅は何とか態勢を立て直し、迫る銃弾から身を躱した。
沙羅は何とか態勢を立て直し、迫る銃弾から身を躱した。
「どうして……どうしてそんな風に、笑いながら人を殺せるのよっ!」
「そんなの、楽しいからに決まってるじゃない。奇麗事しか吐かない連中を黙らせるのは、何物にも勝る快感だよ」
「アンタ、本当に最低ね!」
「そんなの、楽しいからに決まってるじゃない。奇麗事しか吐かない連中を黙らせるのは、何物にも勝る快感だよ」
「アンタ、本当に最低ね!」
今度は沙羅が、ワルサーP99の引き金を絞る。
銃弾は良美に命中せず、後方の軽トラックに突き刺さった。
沙羅は続けざまに銃撃を行おうとしたが、カチッという音と共にワルサーP99が弾切れを訴えた。
銃弾は良美に命中せず、後方の軽トラックに突き刺さった。
沙羅は続けざまに銃撃を行おうとしたが、カチッという音と共にワルサーP99が弾切れを訴えた。
「人を信じ続けた圭一君は死んだ。沙羅ちゃんも、そろそろ分かったんじゃない?
他人を信じるのが、どれだけ愚かな行為かという事を!」
他人を信じるのが、どれだけ愚かな行為かという事を!」
ここぞと云わんばかりに良美が踏み込んで、立て続けにS&W M36を放った。
近場で一方的に放たれる連射は、並の者ならば決して躱し切れぬ死の雨だ。
だが沙羅とて、探偵の助手を務めし少女。
任務の最中に、幾人もの敵に銃で狙われた事もある。
素人が放つ凶弾如きに屈したりはしない。
近場で一方的に放たれる連射は、並の者ならば決して躱し切れぬ死の雨だ。
だが沙羅とて、探偵の助手を務めし少女。
任務の最中に、幾人もの敵に銃で狙われた事もある。
素人が放つ凶弾如きに屈したりはしない。
「悪いけど全っ然、分からないわね! 私は圭一のやってきた事が間違いなんかじゃないって、信じてるもん!!」
沙羅は銃口の向きを正確に見て取って、ギリギリのタイミングで銃弾を躱してゆく。
やがて良美の銃も弾切れを起こし、二人は即座に銃弾の装填作業へと移行した。
銃弾の装填速度ならば、銃を使い慣れている沙羅の方が圧倒的に速い。
予備弾倉を詰め終えた沙羅は、すかさず攻撃を再開しようとする。
しかしそこで背中に衝撃が奔って、沙羅は前のめりに転倒した。
やがて良美の銃も弾切れを起こし、二人は即座に銃弾の装填作業へと移行した。
銃弾の装填速度ならば、銃を使い慣れている沙羅の方が圧倒的に速い。
予備弾倉を詰め終えた沙羅は、すかさず攻撃を再開しようとする。
しかしそこで背中に衝撃が奔って、沙羅は前のめりに転倒した。
「…………くあっ!?」
「フン、敵が一人だけだと思うなよ」
「フン、敵が一人だけだと思うなよ」
得物を持ち替えた智代が、飛び蹴りによって沙羅を吹き飛ばしていた。
智代は間髪置かずに永遠神剣第七位"献身"を振り上げて、倒れている沙羅に突き刺そうとする。
智代は間髪置かずに永遠神剣第七位"献身"を振り上げて、倒れている沙羅に突き刺そうとする。
「く、っ――――」
沙羅は横転する事によって、迫る白刃からかろうじて逃れた。
だが智代の猛攻は、この程度で終わらない。
沙羅が立ち上がったのとほぼ同時、恐るべき速度で智代の蹴撃が繰り出された。
僅か一秒で放たれた蹴撃の数、実に五発――!
だが智代の猛攻は、この程度で終わらない。
沙羅が立ち上がったのとほぼ同時、恐るべき速度で智代の蹴撃が繰り出された。
僅か一秒で放たれた蹴撃の数、実に五発――!
「つううっ…………!」
避け切れないと判断した沙羅は、両腕で防御しようとしたが、衝撃までは防ぎ切れなかった。
上体を大きく後方に流され、隙だらけの姿を晒してしまう。
その隙は智代にとって、最大の好機に他ならない。
上体を大きく後方に流され、隙だらけの姿を晒してしまう。
その隙は智代にとって、最大の好機に他ならない。
「――貰ったあっ!!」
智代は流れるような動きで、献身による刺突を放った。
鍛え抜かれた足技程では無いが、それでも十分な速度を伴った一撃が沙羅に迫る。
今の沙羅の態勢では、回避も防御も不可能だ。
ならば最早、勝負は決したのか?
白鐘沙羅は、此処で前原圭一の後を追う事になるのか?
鍛え抜かれた足技程では無いが、それでも十分な速度を伴った一撃が沙羅に迫る。
今の沙羅の態勢では、回避も防御も不可能だ。
ならば最早、勝負は決したのか?
白鐘沙羅は、此処で前原圭一の後を追う事になるのか?
――否。
未だ打開策は残されている。
未だ打開策は残されている。
「……負けるもんかあああぁぁぁっ!!」
沙羅はワルサーP99の銃口を持ち上げて、思い切りトリガーを引き絞った。
智代の身体を狙った訳では無い。
それでは良くても相打ちにしかならない。
狙いは敵の得物――即ち、永遠神剣第七位"献身"。
智代の身体を狙った訳では無い。
それでは良くても相打ちにしかならない。
狙いは敵の得物――即ち、永遠神剣第七位"献身"。
「ぐっ……!?」
銃弾の直撃を受け、智代の手元から献身が弾き飛ばされた。
全快の状態ならいざ知らず、右肩を負傷している智代では、着弾の衝撃に耐え切れなかったのだ。
得物を失った智代は、一旦距離を離すべく後方へと飛び退いた。
全快の状態ならいざ知らず、右肩を負傷している智代では、着弾の衝撃に耐え切れなかったのだ。
得物を失った智代は、一旦距離を離すべく後方へと飛び退いた。
「……なかなかやるな。まさか今のを防がれるとは思わなかったぞ」
口から漏れ出た言葉は、本心からのものだった。
あの不利な態勢から正確に献身を打ち抜いた射撃技術は、驚嘆に値する。
智代はデイパックからIMI デザートイーグルを取り出しながら、続ける。
あの不利な態勢から正確に献身を打ち抜いた射撃技術は、驚嘆に値する。
智代はデイパックからIMI デザートイーグルを取り出しながら、続ける。
「私は坂上智代、見ての通り殺し合いに乗っている。お前、名前は?」
「……白鐘沙羅、双葉探偵事務所の美人助手よ」
「……白鐘沙羅、双葉探偵事務所の美人助手よ」
そう答えた瞬間、沙羅はズキリと胸が痛むのを感じた。
沙羅にとって唯一心の休まる場所であった、双葉探偵事務。
だが既に、恋太郎も白鐘双樹も死んでいる。
幸せだったあの日々は、もう絶対に帰って来ないのだ。
それでも今は、感傷に浸っていられるような状況で無い。
沙羅にとって唯一心の休まる場所であった、双葉探偵事務。
だが既に、恋太郎も白鐘双樹も死んでいる。
幸せだったあの日々は、もう絶対に帰って来ないのだ。
それでも今は、感傷に浸っていられるような状況で無い。
智代が先程見せた連撃は、明らかに異常。
並の人間では、視認すら困難ではないかと思える程だった。
智代は、桁外れの運動神経と身体能力を併せ持っている。
戦闘状態になってしまえば、もう会話する余裕など無い。
故に沙羅は、今のうちに疑問を投げ掛ける。
並の人間では、視認すら困難ではないかと思える程だった。
智代は、桁外れの運動神経と身体能力を併せ持っている。
戦闘状態になってしまえば、もう会話する余裕など無い。
故に沙羅は、今のうちに疑問を投げ掛ける。
「智代――アンタは良美と違って、笑いながら人を殺せるような人間には見えない……勘だけどね。
なのにどうして、殺し合いに乗ってしまったの?」
「知りたいか……ならば教えてやろう。私はハクオロを――自身の身しか省みぬ外道を討つ為に戦っている。
非道極まりないあの男の所為で、私の友人は死んでしまったんだ」
「え――――」
なのにどうして、殺し合いに乗ってしまったの?」
「知りたいか……ならば教えてやろう。私はハクオロを――自身の身しか省みぬ外道を討つ為に戦っている。
非道極まりないあの男の所為で、私の友人は死んでしまったんだ」
「え――――」
沙羅の目が大きく見開かれた。
圭一の話によれば、ハクオロは大石を騙した可能性が非常に高いらしい。
だが実際にハクオロと行動していた瑛理子は、彼の無実を主張していた。
圭一が嘘を吐く事は有り得ないが、この場合に限っては、瑛理子の話の方が信憑性に優れている。
だからこそ沙羅自身も、ハクオロを疑ってはいなかった。
圭一の話によれば、ハクオロは大石を騙した可能性が非常に高いらしい。
だが実際にハクオロと行動していた瑛理子は、彼の無実を主張していた。
圭一が嘘を吐く事は有り得ないが、この場合に限っては、瑛理子の話の方が信憑性に優れている。
だからこそ沙羅自身も、ハクオロを疑ってはいなかった。
だと云うのに、眼前の少女はハクオロを外道扱いしている。
智代の瞳は、燃え盛るような憎しみの色に覆い尽くされている。
嘘を吐いているとは、とても思えない。
まさか圭一の云っていた通り、ハクオロは殺し合いに乗っているのか――そんな疑念が、脳裏に浮かび上がる。
そこで沙羅の思考を妨げるように、後方で銃声が鳴り響いた。
銃声は、瑛理子達が隠れているトラクターの辺りから聞こえてきた。
智代の瞳は、燃え盛るような憎しみの色に覆い尽くされている。
嘘を吐いているとは、とても思えない。
まさか圭一の云っていた通り、ハクオロは殺し合いに乗っているのか――そんな疑念が、脳裏に浮かび上がる。
そこで沙羅の思考を妨げるように、後方で銃声が鳴り響いた。
銃声は、瑛理子達が隠れているトラクターの辺りから聞こえてきた。
「不味い――――!」
智代に気を取られる余り、良美への警戒を完全に忘れていた。
瑛理子は怪我をしている上に、あゆは足手纏いにしかならない筈。
ならば自分が、助けに行かなければならない。
だが目の前の強敵が――坂上智代の存在が、それを許さない。
瑛理子は怪我をしている上に、あゆは足手纏いにしかならない筈。
ならば自分が、助けに行かなければならない。
だが目の前の強敵が――坂上智代の存在が、それを許さない。
「余計な事を気に掛けている場合か? 集中しなければ、その瞬間に死ぬぞ」
「…………っ」
「…………っ」
沙羅は唇を強く噛む。
告げられた言葉は、紛れも無い事実。
銃火器の扱いならば沙羅に分があるものの、身体能力では智代が大きく上回っている。
二人の実力はほぼ互角。
故に、最低でも智代が弾切れを起こすまでは、全力で戦うしかない。
下手な行動を取れば、瞬く間に殺されてしまうだろう。
沙羅は焦る気持ちを懸命に抑え込んで、智代との戦いに意識を集中させた。
告げられた言葉は、紛れも無い事実。
銃火器の扱いならば沙羅に分があるものの、身体能力では智代が大きく上回っている。
二人の実力はほぼ互角。
故に、最低でも智代が弾切れを起こすまでは、全力で戦うしかない。
下手な行動を取れば、瞬く間に殺されてしまうだろう。
沙羅は焦る気持ちを懸命に抑え込んで、智代との戦いに意識を集中させた。
182:第五回定時放送 | 投下順に読む | 183:ファイナル・ミッション/奪う者、奪われる者(後編) |
182:第五回定時放送 | 時系列順に読む | 183:ファイナル・ミッション/奪う者、奪われる者(後編) |
175:クレイジートレイン/約束(後編) | 佐藤良美 | 183:ファイナル・ミッション/奪う者、奪われる者(後編) |
179:戦う理由/其々の道(後編) | 坂上智代 | 183:ファイナル・ミッション/奪う者、奪われる者(後編) |
176:そして、闇はなお深く | 白鐘沙羅 | 183:ファイナル・ミッション/奪う者、奪われる者(後編) |
176:そして、闇はなお深く | 二見瑛理子 | 183:ファイナル・ミッション/奪う者、奪われる者(後編) |
176:そして、闇はなお深く | 月宮あゆ | 183:ファイナル・ミッション/奪う者、奪われる者(後編) |