※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

クレイジートレイン/約束(前編) ◆guAWf4RW62



草木も眠る丑三つ時。
水瀬名雪は、とある作業を終えた所だった。
そう、『最強の機械』を手に入れる為の作業だ。

実際にやってみるまでは、単純な試行錯誤の繰り返しで、どうにかなると思っていた。
だが『最強の機械』は、ショベルカー程容易には動いてくれなかった。
見掛けとは裏腹に、動力部は最新技術が結集されており、車輪に該当する部分も、より幅広い環境で用いれる特殊なものだった。
運転席の周りには幾つかモニターが取り付けられており、周囲の景色を眺め見れるようになっている。

それ程高度な機械を、只の女子高生である名雪が、自身の持つ知識だけで扱える筈も無い。
そこで名雪は『最強の機械』内部をくまなく探索し、操作マニュアルと思われる本を見つけ出した。
そして――

「あはっ……あはははははっ! やったよ、遂に動かせたよ! アハハハハハハハハハッッ!!」

名雪は周囲を警戒しようともせず、声を張り上げて哂う。
敵を誘き寄せてしまう可能性もあったが、そんなモノ今の名雪にとっては、何の脅威にも成り得ない。
そう――名雪は『最強の機械』を操る事に成功したのだ。
最早どのような敵が現われようとも、負ける可能性など皆無。
例え自分と同じように、パワーショベルカーを入手した敵が現われたとしても、造作も無く粉砕出来るだろう。

とは云え機械である以上、燃料が尽きてしまえばそれまでだ。
余程の強敵が現われない限りは、パワーショベルカーを中心に戦うべきかも知れない。
名雪はそう考えて、『最強の機械』をデイパックに仕舞い、代わりにパワーショベルカーを取り出した。

「さああゆちゃん、早く出てきてよ! ボロボロにしてあげる! グシャグシャにしてあげる! 
 一杯……いーっぱい、苦しめてあげるんだからあああああああああ!!!」

闇夜に響き渡る雄叫び。
運命に翻弄され、狂気に飲み込まれ、そして究極の力を手に入れた少女が、再び動き出す――――


     ◇     ◇     ◇     ◇


舞台は移り変わる。
広大な森の中、切り開かれた円形状の平野に聳え立つ、一際巨大な建造物。
ホテルの玄関で、朝倉純一とその仲間達は話し込んでいた。
純一は外に広がる暗闇を一瞥した後、不安げな表情で問い掛ける。

「なあ悠人、どうしても行くのか? せめて明るくなるまで待った方が、安全じゃないか?」
「そういう訳にも行かないさ……合流予定時刻はもう過ぎてしまってるんだ。
 千影の無事も確認したいし、衛達だって病院で待ってる」

情報交換を行った後、高嶺悠人は純一達と別行動を取り、病院に向かおうとしていた。
この殺人遊戯に於いて戦力の分断は下策であるし、暗闇の中の行軍は危険極まりない。
そう云った理由から、純一は悠人に制止を呼び掛けている。
だが病院での待ち合わせ時刻は既に過ぎており、これ以上悠長にはしていられない。
次の放送で病院が禁止エリアに指定され、合流出来なくなる危険性だってあるのだ。
それに、今の悠人には頼もしき同行者が付いている。

「大丈夫よ純一。私が一緒に行くんだから、問題無いわ」

悠人と共に行動する事になった小町つぐみが、自信に満ち溢れた笑みを浮かべる。
何故つぐみが同行するのか、理由は簡単だ。
純キュレイ種であるつぐみは、赤外線を視覚で捉える事が可能な為、暗闇での行動を得意とする。
それに加え、純一や蟹沢きぬと違い、つぐみには『武を探す』という大きな目的もある。
人を探すのなら、一箇所に留まるよりも、動き回った方が遥かに効率的。
だからこそつぐみは悠人と共に病院へ向かい、その間純一と蟹沢きぬは、ホテルで待機する事になったのだ。

そして悠人とつぐみが玄関を潜り抜け、ホテルを後にしようとした時、後ろからきぬの躊躇いがちな声が聞こえてきた。

「……ちょっと待て、クラゲ」
「何よ?」
「変なトコでくたばんなよ。オメーみてえな奴でも、死なれたら気分悪いからよ」
「当然よ、武を残して死ねる訳無いじゃない。貴女の方こそ、精々純一の足を引っ張らないよう注意する事ね」

辛辣な言葉の交換は、別れの挨拶としては相応しくないようにも聞こえる。
だがつぐみも、きぬも、内心では分かっている。
お互いの言葉には、仲間を気遣う想いがちゃんと籠められているという事を。
悠人とつぐみは、純一達に見送られながらホテルを後にした。




【D-5 ホテル/2日目 黎明】
【蟹沢きぬ@つよきす-Mighty Heart-】
【装備:拡声器】
【所持品:竜鳴館の血濡れのセーラー服@つよきす-Mighty Heart-、地図、時計、コンパス
     支給品一式x3、投げナイフ一本、ハクオロの鉄扇@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄、
     麻酔薬入り注射器×2 H173入り注射器×2、食料品沢山(刺激物多し)懐中電灯、単二乾電池(×4本)】
【状態:強い決意、両肘と両膝に擦り傷、左手指先に切り傷、数箇所ほど蜂に刺された形跡、首に麻酔の跡】
【思考・行動】
基本:ゲームに乗らない人間を助ける。ただし乗っている相手はぶっ潰す。
0:つぐみ達の帰りを待つ
1:純一についていく
2:圭一、武を探す
3:ゲームをぶっ潰す。
4:よっぴーへの怒り
5:純一への不思議な感情
【備考】
※仲間の死を乗り越えました
※アセリアに対する警戒は小さくなっています
※宣戦布告は「佐藤」ではなく「よっぴー」と叫びました。
※つぐみを完全に信用しました。つぐみを椰子(ロワ不参加)に似てると思ってます。
※鷹野の発言は所々に真実はあっても大半は嘘だと思っています。
※純一と絆が深まりました。純一への不思議な感情を持ち始めました。
※悠人と情報交換を行いました


【朝倉純一@D.C.P.S.】
【装備:釘撃ち機(16/20)、大型レンチ】
【所持品:支給品一式x4 エルルゥの傷薬@うたわれるもの オオアリクイのヌイグルミ@Kanon クロスボウ(ボルト残26/30)
      ヘルメット、ツルハシ、果物ナイフ、昆虫図鑑、スペツナズナイフの柄虹色の羽根@つよきす-Mighty Heart-】
【状態:若干の精神疲労・強い決意・血が服についている、顔がボコボコ、口の中から出血、頬に青痣、左腕と右足太ももに銃創(治療済み)】
【思考・行動】
基本行動方針:人を殺さない 、殺し合いに乗ってる人間を止め全員での脱出
0:つぐみ達の帰りを待つ
1:北川をホテルで待つ
2:つぐみと蟹沢で武を探す
3:つぐみと蟹沢を守り通す
4:圭一を探す
5:さくらとことりをちゃんと埋葬したい
6:理想を貫き通す
【備考】
※純一の参加時期は、音夢シナリオの初キス直後の時期に設定。
※つぐみとは音夢の死を通じて絆が深まりました。
※北川、梨花、風子をかなり信用しました。 悠人もそれなりに。
※蟹沢と絆が深まりました。
※自分自身をヘタレかと疑ってます。
※佐藤良美をマーダーとして警戒しています。 鳥も参加してる事も知りました。
※盗聴されている事に気付きました
※雛見沢症候群、鷹野と東京についての話を、梨花から聞きました。
※鷹野を操る黒幕がいると推測しています
※自分達が別々の世界から連れて来られた事に気付きました
※純一達の車はホテルの付近に止めてあり、キーは刺さっていません。燃料は軽油で、現在は約三分の二程消費した状態です。
※山頂に首輪・脱出に関する重要な建物が存在する事を確認。参加者に暗示がかけられている事は半信半疑。
※山頂へは行くとしてももう少し戦力が整ってから向かうつもり。
※悠人と情報交換を行いました







そして、数十分後。

「つぐみ、前方の様子はどうだ?」
「大丈夫。少なくとも私の見える範囲内で、誰かが隠れてる様子は無いわ」

戦力的に劣る純一達の事を考えて、車をホテルに置いてきた為、二人は徒歩で林の中を進んでいた。
周囲に居場所を悟られぬよう、照明器具は一切用いずに、悠人は暗視ゴーグルを装備し、つぐみは己が赤外線視力を頼りとしている。
この方法だとどうしても移動速度は遅くなってしまうが、慎重を期すに越した事は無いだろう。
悠人と同じように暗視ゴーグルを装備した殺戮者が、突然奇襲を仕掛けてくる可能性だってあるのだ。

「…………」

悠人は複雑な表情で、つぐみの背中を眺め見る。
頭の中に引っ掛かっているのは、佐藤良美が逃げ際に放った言葉。

――『武さんはね、殺し合いに乗ったよ!』

自分がつぐみと共に行動した時間は、未だそれ程長くない。
それでもつぐみが、倉成武に対して非常に強い愛情を抱いているのは分かる。
良美の言葉が事実だったとしたら、そして武の説得に失敗したとしたら、つぐみはどのような行動を取るのだろうか。
諦めずに、何度でも説得を試みようとするだろうか。
それとも――
悠人がそこまで考えた所で、前方を進んでいたつぐみがピタリと立ち止まった。

「――ねえ、何が音がしない?」
「……え?」

云われて耳を澄ましてみると、確かに何かの音がしているようだった。
音は遠くから聞こえて来ているが、段々とこちらの方へと近付いてくる。

「悠人、此処は一旦――」
「ああっ!」

悠人とつぐみは頷き合い、瞬く間に茂みの中へと身を隠した。
音は益々近付いてきており、最早騒音と云える程の音量になっている。
そのまま待っていると、やがて林道の向こう側から、音源と思われるモノがやって来た。

(な……あんな物まで支給されてるのか!?)

悠人は驚愕の声を上げたい気分だった。
現われたのは、一般的にはパワーショベルカーと呼ばれている代物だったのだ。
無骨なフォルムや圧倒的な大きさもさる事ながら、その走行速度も馬鹿にならない。
少なくとも、常人の全力疾走に比べればずっと速い。
いかな悠人とて、正面からやり合えば苦戦は免れないだろう。
だが幸いショベルカーの運転手は悠人達に気付いていないようで、真っ直ぐに林道を突き進んでいる。

(……あの方向は)

パワーショベルカーが走り去ろうとしている方角、それは北だった。
自分の記憶に間違いが無ければ、北には学校や住宅街がある筈。
そしてそれらは、衛が病院に向かう道中で、立ち寄る予定の場所だ。
とは云え、普通に考えれば問題など無いだろう。
病院への集合予定時刻は既に過ぎている。
衛はもう、病院に到着していると判断するのが妥当。
だが悠人の脳裏には、とある不安がこびり付いて離れなかった。

(もし……衛も、俺と同じだったとしたら――)

自分と同じように、移動が大幅に遅れていたら?
何かのトラブルに巻き込まれて、相方とはぐれてしまっていたら?
そして――衛が一人で、あのショベルカーと遭遇してしまったら?

……結末は考えるまでもないだろう。
普通の少女である衛が、あんなモノから逃げ切れる筈も無い。
そう判断した悠人は、ショベルカーの姿が消えるや否や、鞄からランタンを取り出した。

「……悪い、病院にはつぐみ一人で行ってくれ」
「え?」
「ちょっと気になる事があるんだ――俺はあのショベルカーを追い掛ける」

悠人がそう伝えると、途端につぐみは呆れ気味の表情となった。
わざわざ危険に飛び込もうと云うのだから、その反応も当然の事だろう。

「貴方、何考えてるの? まさか生身で、あんなモノとやり合うつもり?」
「ああ、必要ならな」
「……そう、分かったわ」

つぐみはそれ以上、何も云わなかった。
その場で悠人と別れて、目的地である病院に向かって突き進む。
つぐみにとって悠人は、あくまで出会って間も無い人間。
朝倉純一や蟹沢きぬのように、仲間として認めた訳では無い。
無謀な行動を諌めたり、一緒になって戦う義理など、有りはしないのだ。
武が対主催者同盟の一員となって、病院に滞在している可能性もあるし、ホテルでは純一達が自分の帰りを待っているだろう。
ならば今は悠人の愚かな行動に関与するよりも、逸早く病院に向かうべきだった。




【E-5 下部/2日目 黎明】
【小町つぐみ@Ever17 -the out of infinity-】
【装備:鉈@ひぐらしのなく頃に祭、スタングレネード×6、ミニウージー(6/25)】
【所持品:支給品一式x3、ベレッタ M93R(18/21)、天使の人形@Kanon、バール、工具一式、暗号文が書いてあるメモ、
      バナナ(台湾産)(3房)、倉成武のPDA@Ever17-the out of infinity-、倉田佐祐理の死体の写真】
【状態:健康、肉体的疲労小】
【思考・行動】
基本:武と合流して元の世界に戻る方法を見つける。 ゲームを終わらせる。
0:まずは病院に向かう
1:病院に到着後、協力者を連れてホテルに戻る
2:武を探す、武を信じる
3:ゲームに進んで乗らないが、自分達と武を襲う者は容赦しない
4:圭一を探す(見つければ梨花達の事を教える)
5:四姉妹の話が真実か確かめる
【備考】
赤外線視力のためある程度夜目が効きます。紫外線に弱いため日中はさらに身体能力が低下。
参加時期はEver17グランドフィナーレ後。
※純一 とは音夢の死を通じて絆が深まりました。
※音夢とネリネの知り合いに関する情報を知っています。
※北川、梨花をある程度信用しました。
※投票サイトの順位は信憑性に欠けると判断しました。
※きぬを完全に信用しました。
※鷹野の発言は所々に真実はあっても大半は嘘だと思っています。
※倉田佐祐理の死体の写真は額の銃痕が髪の毛で隠れた綺麗な姿。撮影時間(一日目夕方)も一緒に写っています。
※悠人と情報交換を行いました



     ◇     ◇     ◇     ◇


再び場所は移り変わり、地図上で云えばE-4とE-5の境目に位置する平原。
傷の手当てと短い睡眠を終えた佐藤良美は、小屋を出発して北へと向かっていた。

「まさか、この島でこんなモノを使う事になるなんてね……」

良美はデイパックを開き、中に入れてあった目覚まし時計を複雑な表情で眺め見た。
商店街で入手した目覚まし時計があったからこそ、自身の睡眠時間をコントロール出来た。
もっと長時間眠ろうかとも考えたが、単独行動の自分がそんな事をすれば、睡眠中の所を襲われかねないのだ。
眠ったのは一時間程度、それでも以前に比べれば、体調は大幅に回復している。
手の傷は未だ激しく痛むものの、両腕を用いれば銃撃は可能な筈。
当分の間、行動に支障が出たりはしないだろう。
そうして良美が歩き続けていると、前方にある茂みの辺りから物音が聞こえてきた。
姿こそ見えぬものの、誰かがこちらに向かって歩いて来ているのは確実。

「……………っ」

瞬間、良美は選択を強いられた。
無力な少女を演じるべきか、若しくは正体を露にして交戦すべきか、である。
出来れば上手く騙して利用したい所だが、もう自分の悪評は相当に広まっている筈。
此処は素直に交戦すべきか――そう考え、S&W M627PCカスタムを構えようとしたのだが。

「……待つんだ。私は……殺し合いに、乗っていない……」

茂みの中から現われた少女――千影が、制止の声を投げ掛けてきた。
だが当然、その言葉を素直に信じ込む程良美は莫迦でない。
相手の右手には、しっかりと銃――恐らくはショットガンの類――が握り締められている。
相手は良美の正体に気付きながらも、敢えて何も知らぬ風を装い、隙を突こうとしているかも知れないのだ。

「ふうん……。じゃあまずは、その銃を放してくれないかな?
 私だって殺し合いに乗っていないけど、そんなの持たれてたら怖いよ」
「それは……無理だね。これは最低限の……護身道具さ……」

そして千影もまた、相手をアッサリと信用したりはしない。
この殺人遊戯に於いて、安易に他人を信じる事は即命取りとなる。
無闇矢鱈に交戦する気など無いが、必要最低限の警戒は維持しておかねばならないだろう。
死んでいった姉妹達やトウカの為にも、下らぬミスで命を落とす訳にはいかないのだ。

「……そう。困ったねえ、それじゃ貴女を信じてあげられないよ」
「…………」

二人の間に漂う緊張感が、少しずつ高まって行く。
二人は未だ銃口を向け合っていないものの、何時でも回避動作に移れるよう、腰を低く落した態勢になっている。

「でも、一応聞いておくよ。貴女の名前は?」
「……私の名前は……千影」
「――――っ」

良美の眉がピクリと持ち上げられる。
告げられた名前には聞き覚えがあった。
千影――自分の記憶に間違いが無ければ、少し前まで高嶺悠人と共に行動していた少女。
悠人が自分の正体を知らなかった以上、千影も同様である可能性が非常に高い。

「貴女が千影さん……か。うん、悠人君から話は聞いてるよ。
 ――私は佐藤良美。ごめんね、疑っちゃって」
「……いや……構わない。それよりも良美くん、君は……悠人くんと会ったのかい?」
「うん、そうだよ」

念の為に自身の名前を告げてみたが、千影の表情に翳りは見られない。
寧ろ悠人と出会ったという言葉の方に、興味を惹かれているようだった。
自分の悪評は伝わっていないと判断して、ほぼ間違いない筈。
ならば此処は攻撃を仕掛けるよりも、懐柔を試みるのが最善手だろう。
良美は表情を緩めると、デイパックにS&W M627PCカスタムを仕舞い込んだ。
千影もそれを見て、ショットガンをデイパックに戻そうとして――

「「――――――――ッ!!」」

後方で鳴り響く爆音。
二人が同時に振り返ると、巨大なショベルカーが一直線に突っ込んで来ていた。
良美も千影も数々の修羅場を経験しているが、流石にこの事態には驚愕を隠し切れなかった。

「アハハ、千影ちゃんに佐藤さんだ! アハハハハハハハハハハハッ!!」

ショベルカーの運転手――水瀬名雪の哄笑が拡声器で増幅されて、周囲一帯に響き渡る。
哂う名雪の肉体は、正視に耐えぬ程にボロボロだ。
右眼球は破裂し、頭蓋骨には皹が刻み込まれ、右肩にも大量の出血が見られる。
だがどれだけ自らの肉体が傷付こうとも、今の名雪は止まったりしない。
けろぴーさえ動かせれば、狩猟を続ける事は可能なのだ。
名雪が駆るショベルカーは、点在する木々を薙ぎ倒しながら疾駆してゆく。

しかし千影と良美は、名雪と面識がある。
ならば二人は、説得を試みようとするのだろうか。

「なゆ……き……くん……」

千影はぐっと息を呑んでから、擦れた声を絞り出した。
ショベルカーから聞こえてきた声は、間違い無く水瀬名雪のもの。
そして今もショベルカーは、千影達の方へと突っ込んで来ている。
言動からして、明らかに千影や良美の姿を視認しているにも関わらず、だ。
つまり――

「そうか……君は殺し合いに乗ったんだね」

ショットガンの銃口を持ち上げて、叫ぶ。

「やっぱり君が、衛くんを殺したんだね……っ!!」

瞬間、千影はショットガンのトリガーを引き絞った。
憎しみに身を任せ、何度も何度も。
そしてそれとほぼ同時に、良美もまた銃を構えた。

「いけないなあ、名雪ちゃん。折角千影さんとお話してたのに、邪魔しないでよ」

見境無く襲い掛かってくる狂人など、只の邪魔者でしかない。
良美の構えたS&W M627PCカスタムが、続けざまに火花を吹く。
千影と良美の放った銃弾の群れは、ショベルカーの胴体部へと吸い込まれていった。
相手が生身の人間ならば、完膚無きまでに葬り去れるであろう集中放火。
だがショベルカーの前には、その程度の攻撃など無意味。

「――そんな攻撃、けろぴーに効くもんかあ!」

カンカンッ、と甲高い金属音が連続して鳴り響く。
ショベルカーを覆う鋼鉄の装甲は、造作も無く弾丸を弾き返した。
そのまま名雪は機体を前進させ、哀れな獲物達を踏み潰そうとする。
ショベルカーと千影達の距離は、もうごく僅かだ。

「行け、けろぴー! 二人纏めて潰しちゃええええええ!!」
「くっ…………」
「この――」

迫り来る危険から身を躱すべく、良美は左方向へ、千影は右方向へと飛び退いた。
周囲に点在した木々のお陰で、ショベルカーの勢いが若干削がれたのもあり、どうにか回避が間に合った。
千影と良美の間にある空間を、鋼鉄の車体が通過してゆく。
必然的に千影と良美は、ショベルカーの背後を取る形となった。

「良美くん……此処は一つ……共同戦線を張らないかい?」
「私もそれが良いと思うな。でも、どうやってあんなのを倒すつもり?」
「正面からじゃ分が悪い……左右から、挟み撃ちの形で……窓ガラスを狙おう」

千影は未だ良美を完全に信用してなどいないし、良美も千影の利用価値を測っている最中だ。
それでもこの場に於ける最優先事項は、問答無用で攻撃してくる名雪への対処に他ならない。
直ぐ様二人は走り出し、ショベルカーを挟み込むような位置取りとなった。
ショベルカーがスピードを緩め、Uターンするその瞬間を狙って、銃の照準を窓ガラスに合わせる。

「名雪くん……残念だけど――」
「――死ぬのは貴女一人だけだよ!」

良美と千影は同時にトリガーを引き絞って、各々に銃撃を行った。
未だ方向転換を終えていない名雪に、迫り来る銃弾の群れを回避する術は無い。
そして窓ガラスの耐久力は、鋼鉄で覆われた胴体部に比べ大きく劣っている筈。
そこを狙っての一斉射撃。
千影と良美が取り得る戦術の中で、最も効率が良いであろう攻撃方法。
だが名雪を守る防弾ガラスは、永遠神剣による連撃すらも防ぎ切る代物だ。
放たれた銃弾は全て、防弾性の窓ガラスに虚しく弾き返されるだけだった。

「それで終わり? 下らない……下らない下らない下らないっ! 私のけろぴーには、何をやっても勝てる訳ないんだよ!!」

『けろぴー』を駆る名雪にとっては、銃撃など警戒に値しない。
名雪は一方的な狩猟を行うべく、狙いを千影一人に絞って、ショベルカーを全速力で走らせた。
千影の眼前にまで詰め寄ってから、鋼鉄の牙――所謂シャベルを、勢い良く振り下ろす。

「くぅ――――」

千影は横に転がり込んで、迫るショベルから何とか身を躱した。
それまで千影が居た辺りの地面が、ショベルによって大きく削り取られる。
速度こそ大した事が無いものの、凄まじいまでの破壊力を伴った一撃。
直撃してしまえば――否、掠っただけでも致命傷になりかねない。

「あはっ、よく避けたね――でも次は絶対外さないよ。
 じっくりと追い詰めて、カトンボのように踏み潰してあげるんだから!!」
「……名雪くん」

何とか難を逃れた千影は、近距離でガラス越しに名雪の顔を眺め見た。
血塗れで笑顔を浮かべる名雪の姿は、言葉では言い表せぬ程に禍々しい。
片方しかない瞳は狂気の色に染まり切っており、口元は歪に吊り上げられている。
それで、名雪は殺し合いに乗ったと云うよりも寧ろ、狂気に飲み込まれただけなのだと分かった。

「でも……私がやるべき事は、変わらない……」

原因がどうであれ、名雪が善良な人間達にとって有害であると云う事実は、そして衛の仇であると云う事実は変わらない。
ならば千影にとって名雪は、何としてでも打倒しなければならない怨敵だ。
千影はショットガンに予備弾を装填しながら、ショベルカーの側面へと回り込む。
続けて走る足は止めぬまま、再度銃撃を試みた。
だが結果は同じ。
ショットガンから放たれた散弾の群れは、堅固な防弾ガラスによって一つ残らず阻まれた。
只でさえ残り少ない千影の体力だけが、徐々に削り取られてゆく。

そんな中、良美は目立たぬ位置へと身を隠してから、冷静に戦況を分析していた。

「……これはちょっと、不味いね」

先程の斉射が通じなかった以上、並大抵の攻撃では名雪を倒せないだろう。
相手は小回りが効かぬのだから、耐え凌ぐだけなら十分に可能だが、それも長くは保たない。
戦いが長引けば、いずれこちらの疲労が限界に達して、無様に殺されてしまうだけだ。
銃撃戦に固執せず、ショベルカーの車体に飛び乗ってしまえば勝機はあるが、それは相当のリスクを伴う筈。
そういった予測を踏まえると、自然に一つの選択肢が浮かび上がってくる。

(勿体無いけど……此処は引いた方が良いかな?)

幸い、名雪の攻撃は千影一人に集中している。
今なら、大した苦労も無く逃げ果せられるだろう。
だが一方で、このまま千影を見捨てるのは惜しい気もする。
時間が経過すればする程情報は拡散していくのだから、今後は益々状況が悪化していくに決まっている。
多くの人間に警戒されている自分が、手駒を入手する好機は、今回が最後かも知れないのだ。
どうするべきか、良美は迅速に思考を巡らせる。
だが良美が結論を下すよりも早く、決定的な転機が到来した。



174:おとといは兎を見たの きのうは鹿、今日はあなた 投下順に読む 175:クレイジートレイン/約束(中編)
174:おとといは兎を見たの きのうは鹿、今日はあなた 時系列順に読む 175:クレイジートレイン/約束(中編)
173:地獄の島、向日葵の少女(後編) 朝倉純一 175:クレイジートレイン/約束(中編)
173:地獄の島、向日葵の少女(後編) 蟹沢きぬ 175:クレイジートレイン/約束(中編)
173:地獄の島、向日葵の少女(後編) 小町つぐみ 175:クレイジートレイン/約束(中編)
173:地獄の島、向日葵の少女(後編) 高嶺悠人 175:クレイジートレイン/約束(中編)
173:地獄の島、向日葵の少女(後編) 佐藤良美 175:クレイジートレイン/約束(中編)
174:おとといは兎を見たの きのうは鹿、今日はあなた 千影 175:クレイジートレイン/約束(中編)
174:おとといは兎を見たの きのうは鹿、今日はあなた 水瀬名雪 175:クレイジートレイン/約束(中編)







| 新しいページ | 編集 | 差分 | 編集履歴 | ページ名変更 | アップロード | 検索 | ページ一覧 | タグ | RSS | ご利用ガイド | 管理者に問合せ |
@wiki - 無料レンタルウィキサービス | プライバシーポリシー