悪意の夢は終わって始まる(前編) ◆VtbIiCrJOs


「残りの弾丸は……弾倉の中も含めて37発。まだ十分戦える量だけど……」
 S&W M627PCカスタムに弾を込めながら良美は呟く。
 その言葉には焦りと苛立ちの感情が含まれていた。

 襲撃者はいきなり自分に向けて発砲してきた。
 つまり話し合いなど無用の証、ただただ目の前の標的を殺すだけの殺人機械。
 今まで良美は一見無害で無力な女を演じては出会った人間を利用し欺いてきた。
 だが、目の前の相手にその戦法は通用しない。
 明確な殺意を持った人間に良美の話術はなんの効果ももたらさない。
「まいったなあ……」
 良美は木陰から牽制のため、銃を放つ。
 撃つ度に失った左手の小指の傷がひどく痛み、思うように照準を合わせられない。
 炎上した森は鎮火模様にあるものの、まだいたるところで燃え盛っている。
 イチかバチか炎の中に飛び込んで逃げるという手も考えたがそれはできない。
 炎の中で無事にいられる保障も無いし、何より炎の明かりでこちらの姿が丸見えになってしまう。
 リスクが高いわりには得られる見返りが少ない賭けだ。
 無論良美はそんな分の悪い賭けに乗るほど酔狂ではない。
 だからひたすら森の暗い部分に移動しつつ銃撃を繰り返す戦法を取っていた。

(相手が拳銃だけならまだ何とかなるんだけどなあ……あんな『切り札』を持っていたら迂闊に近寄れないよ)


 ※ ※ ※ ※ ※ ※


 一度、相手の銃撃が止んだ時があった。
 弾の再装填のためか、はたまたおびき寄せるための罠か、
 銃声と発射間隔から相手の武器はおそらく拳銃、一気に距離を詰めれば――
 見た目によらず良美は運動能力が高い、霧夜エリカや鉄乙女、伊達スバルなど規格外の人間と比べると数段劣るものの、
 一般的な女子高生より優れた身体能力を持っている。
 良美は襲撃者を仕留めようと木陰から飛び出した。
 しかし――

 良美の目に写った人物、
 赤い炎に照らされ露になった襲撃者。
 漆黒の長髪と真紅の制服、黒と赤のコントラストで彩られた美しい少女。
 拳銃とは比べ物にならない長さの銃身と重量を持った重機関銃。
 ブラウニング M2 “キャリバー.50”を顔色一つ変えずに構える少女――川澄舞の姿があった。
 あれはまずい――
 良美の全身に怖気が駆け巡る、服が汚れることなんてお構い無しに身を翻し大木の陰に転がり込む。
 その刹那、さっきまで良美がいた場所を轟音と共に無数の礫が通り過ぎてゆく。
 射線上の細い木々の破片が周囲に舞い上がる。
 その光景を見て良美はぞっとする。
 もし、回避が遅れていたらどうなっていただろうか?
 間違いなく蜂の巣どころかミンチになっていただろう。
(危なかった……まさかあんな物を手で構えて撃つなんて非常識すぎるよ。ランボーじゃないんだから)
 あんな物を軽々と振り回す規格外連中とまともに正面切って戦えるわけがない。
 とは言え背中を向けて逃げるのは不可能、狙い撃ちにされるだけ。
 とにかく距離を取ってチャンスを伺うしかない、こうなったら持久戦だ。
 しびれを切らして飛び込んで来たほうが負け、徹底した待ち戦法だ。
 良美はそう判断し、今に至る――


 ※ ※ ※ ※ ※ ※


 あのタイミングで仕留められなかったなんて――
 絶好の機会を舞は逃したことに後悔する。
 あの瞬間、舞のブラウニングの存在を一瞬にして悟った判断力の高さ。
 良美を手負いの存在と高を括っていた自分自身の慢心が招いたミスだった。
 ブラウニングの残弾は30発、先ほどの銃撃で15発を失う結果になってしまった。
 速射性が高い反面、少しトリガーを引いただけで大量の弾丸を消費してしまう。
 あまり頻繁には使えない。
 幸い、サブウェポンとしてのニューナンブの弾丸はそれなりに残っている。
 しばらくはこれを使わざるをえないだろう。
 断続的に良美からの銃撃がやってくるが命中には至らない。
 良美は徹底して森の暗い場所に移動しつつそこから銃撃を繰り返す。
 近づくことも離れることもない、ひたすら一定の距離を保ちつつ移動している。
 非常にやりにくい相手だ。
 暗い場所からの銃撃なので木陰に隠れていればまず当たることはないが、こちらの攻撃も当たらない。
 舞は最悪、一度逃げることも算段には入れていた。
 だがそれは良美に絶好の機会をもたらすことになってしまう。
 それを防ぐためにはブラウニングで弾幕を張りつつ逃走しなければならない。
 逃げ出せてもブラウニングの弾丸が尽きてしまう。
 お互い決め手に欠けるまま、膠着状態が続く。

 一方、良美はあれから舞がブラウニングを撃ってこないことが気になっていた。
 あれだけ圧倒的な火力を持った武器を所持していながら一行に撃ってこない。
 撃ってくるのは拳銃ばかりだ。
(なるほど……決め手に欠けるのはお互い様というわけだね)
 おそらく相手は撃ちたくても撃てない状況に陥っている。
 弾薬が残り少ないか、弾薬が尽きてしまったか。
(弾を撃ちつくしたとは考えないほうがいいよね、あと一、二回は撃てると考えるべき)
 だが、このまま撃ち合いを続けていればS&W M627PCカスタムの弾薬も尽きてしまう。
 そうなると残された武器は近接用の武器、手斧と地獄蝶々。
 まだブラウニングという切り札を残している舞に接近戦を挑むには無謀すぎる。
(残り少ないカードでどう勝負しようか……)
 良美はまだ気がついていない。PDAの中に収められている画像が現時点で舞に切れる最高のジョーカーだということを。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※


 良美と舞が遭遇する少し前、二人が対峙する場所から数百メートル南下した地点。
 そこには高嶺悠人と白河ことりがいた。

「うう……指先がチリチリする。口の中はカラカラだ。目の奥が熱い……」
 悠人は真っ青な顔で地面に蹲っていた。
 歴戦のエトランジェも一撃の下で撃沈するレインボーパンの威力は凄まじい。
「高嶺さん、お水です」
「あ、ありがと……一体何なんだこのパンは……」
「だから兵器だと言ったのに……」
「ことりが平気と言ったから大丈夫と思って食べたんだが……」
「違いますよ~私はそのパンを兵器と言ったんですっ、へ・い・きだって」
 ことりは手の平に指で大きく漢字で『兵器』となぞり悠人に見せ付ける。
 始め悠人は何のことか解らず口をポカンと開けたままにしていたが、ことりの意図を理解したらしく「あ~っ!」と声を上げた。
「そ、そういう意味だったのか……ハ、ハハハ」
「もうっ、高嶺さんったら……あははっ」
 二人から自然と顔が緩み笑みがこぼれ落ちた。


「そこ木の根が出っ張ってるから気をつけて」
「あ、はい」
 深い森を慎重に歩く悠人とことり。
 思わぬ事故(レインボーパンで悠人臨死体験)で足止めせざるをえなかったものの、二人は気を取り直してホテルへ歩を進めていた。
 森は木の根や岩で凸凹としており、さらに斜面となっているので歩きにくいことこの上ない。
 悠人は暗視ゴーグルで足場を確認しつつことりの進路を確保していく。
「しかし……結構遠回りになってしまったな」
「仕方ないですよ。あのまままっすぐ進むのは無理そうですし……」
 本来なら山小屋からホテルへはまっすぐ東に進むのが最短距離である。
 しかし山の東側は急な斜面となっており、そのまま進めないと判断した二人は、北寄りに進路を迂回してホテルを目指すことになったのである。

 現在の場所はC-4とC-5の境界付近。
 四人の運命がまもなく交錯する。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※


 パァンと乾いた音が辺り一面に響き渡る。
 自転車のタイヤが破裂するような音。
 この島ではすっかりありふれた音となってしまった音。
「おい! 今の音!」
「ええ!」
 悠人とことりの顔色が変わる。間違いない今のは銃声――
 さらに続けて銃声が響く。
「俺達に向けて撃ってるんじゃない……だれかが襲われている!?」
「高嶺さん……」
 悠人は慎重に耳を澄ませ銃声の方角を割り出そうとする。
 その間にも断続的に銃声が鳴り響く。
 銃声が止んだ。
 静寂。
 再び銃声、今度は機関銃みたいな物を撃つ連続した発砲音。
 そしてまた単発の銃声。
「クソッ……まだこんなことをしてる大馬鹿野郎が……!
 ことりは思う。ニュースでたまに見る戦争中の国の報道。
 街中で起こる爆発音と銃声。
 テレビの向こうでしか起こりえなかった状態。それが現実で起こっている。
 もし、この島にやってきたばかりだったら自分はどうなっていただろうか?
 おそらく恐怖で腰が抜けてガタガタ震えるだけであったに違いない。

 でも、今はそんなことはない。異常な事態に感覚が麻痺しているのもあるが、何よりこの島での出会いがことりの心を強くしていた。
(私がここで自分が自分でいられるのはみんなのおかげ……!)
 だから、助けよう一人でも多くの人を。
 ことりは顔を上げ、決意を秘めた目で悠人を見据える。

「高嶺さん行こう! 助けなくちゃ!」
「言われなくともやってやるさ!」
 まだ間に合う、悲劇は止められる。
 二人は銃声の方角に向けて走り出す。


 木を焦がす臭い、まだ燻り続ける炎、焼け焦げた森。
「高嶺さんここは……」
「ああ、俺がことりと出会う前にここで襲われた」
「じゃあ……まだここにいるんじゃ……」
「いや、それはないと思う。俺を襲った奴は俺を始末したと思い込んでいる。いつまでもここにいるとは思えない」
「なら別の人が……」
「そう思ったほうが自然だな」
 再び銃声が聞こえる。
 銃撃戦の中心地はもうすぐそこだ。
「ことり、流れ弾に当たらないよう出来るだけ身を低くしろ」
「はいっ」
(どこだ……? どこにいるんだ?)
 悠人は暗視ゴーグルに映し出される映像を隅々まで見渡す。
 炎から逃れ、焼け残った部分、約二十メートル先の木の根元にそれはいた。
 木を背中にして屈み込む巫女装束の女性の姿――

「そこのあんた! 大丈夫かぁぁぁぁ!」
 考えるよりも早く声が出る。
 森の中に悠人の大声がが木霊した。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※


「さすがにこれ以上はきついよ……」
 良美の表情には焦りと疲労の表情が色濃く現れてきた。
 最初にあの女と出会ってからどれくらいの時間が経っているのだろうか?
 もう何時間もこうしているような気がする。
 いや、せいぜい三十分ぐらいしか経っていないはず。
 だがその数十分が良美の精神を激しく磨り減らす。
 お互いの発砲間隔も徐々に長くなっている。良美も舞も弾薬を節約しての結果である。
「弾はまだ持つけど精神力が……」
 精神の疲弊は肉体へも影響を及ぼす。疲労による一瞬の判断のミスが死を招く。
 イチかバチが接近戦を仕掛けようか――
 そう思った時だった。

「そこのあんた! 大丈夫かぁぁぁぁ!」
「!」

 思いもよらない第三者の声、左後方から聞こえる男の声。
 良美は思わず笑い出しそうになった。
 ようやく待ち望んでいたカードがついに現れたのだから。
「動かざること山の如しとは良く言ったものだね、不利な時は下手に動かずどっしり構えていればいずれ事態は好転する……まさに今の私、あはは」
 疾きこと風の如く。そう、今こそまさに仕掛ける時、だから叫ぶ。
 背後の男の気を引くために。
「ダメぇぇぇ! きちゃダメぇぇぇ!!! 来たらあなたまで巻き込まれる!!!」
 絹を引き裂くような良美の絶叫が森に木霊した。

 良美の絶叫が悠人の耳にはっきりと聞こえた。
 間違いない襲われているのはあの娘だ。
 だから叫ぶ、あの娘を助けるため。
「バカヤロォォ!! 何言ってやがる! これ以上殺させてたまるかッ! 今行くぞぉぉぉ!!!!」
 悠人も声を張り上げ答える。
 それが良美の演技ということも知らず。
「ことり! 短距離走は行けるか!?」
「えっ! は、はいっ何とか!」
「いいか絶対に俺から離れるな! 絶対だぞッ!」
 そして一発の銃声が森に響く、前方の少女ではなく姿無き襲撃者のもの。
 その音を皮切りに悠人とことりは一斉に駆け出した。

「うくっ……くくく……うふっ、あっははははははは」
 良美は悠人の返答を聞いて堪えていた笑いがつい漏れてしまう。
 まさに計算どおり。
 大丈夫かなんて大声で言ってくる人間だ。この作戦は間違いなく成功すると踏んでいた。
 正義感溢れる若者が何者かに銃撃されている少女を見つける。
 少女は巻き込まれるから来ないでと叫ぶ。これで来ないことなんてありえない。
「どうして私の周りの男の人ってこうも単純でお人よしなのかなあ……」
 後は何食わぬ顔で男に助けを求めるだけ。
 クールに、そしてテンションに流されずにか弱き少女を演じよう。

「うぉぉぉぉぉぉ!!!! 殺させるものかぁぁぁぁぁ!!!」
 悠人は全力疾走しながら銃声がした方向にむかってベレッタを乱射して弾幕を張る。
 そのすぐ後ろをことりも走ってついてくる。
 たった二十メートルほどの距離が異様に長い、何度も転びそうになりながらも二人は良美のいる木の根元に滑り込んだ。
「はぁ……はぁ……はぁ……間に、あった……。白馬の王子様の到着だぜ」
「どうして……来たの? ここに来たらあなた達まで殺されてしまうかもしれないのに……」
「バカ言うなよ、ここであんたを見捨てるなんて男の名折れだぜ」
「私達決めたんです。一人でも多くの人と一緒にこの島から出ようと」
 さらりと歯の浮くような台詞を吐く二人の男女。その言葉を聞いて苛立ちをつのらせる良美。
 ああ、この連中も前原圭一と同じ種類の人間だ。
 愚かなまでに見ず知らずの人間を信じようとする人間。
 良美にとって唾棄すべき人種。
 でも、そんな人間でも利用する価値があるのなら徹底的に利用すべし。

 良美はまず、ここからどうにかして逃げ出せないかと二人に提案した。
 悠人とことりを捨て駒にしてまであの女を始末するメリットは無い。
 それにこの甘い二人の事だ、殺さず取り押さえる方向に持っていくに違いない。
 殺す覚悟もなしに取り押さえようなんて馬鹿な行為でみすみす手に入れたカードを失うことはできない。
 良美は二人に説明した。
 相手は大きな機関銃を持っていて、それを腕で自在に振り回せるほどの怪力の持ち主であること。
 故に今の装備では接近戦を行うのはあまりに危険すぎるということ。
「なるほど……機関銃が厄介だな。だけどあいつをここでほっとくわけには……」
「駄目だよ、勇気と蛮勇は違う。下手に戦いを挑んで私達みんな死んだら何にもならないよ」
「逃げると言ってもな……機関銃で武装した相手からは厳しいぞ。逃げる所を狙われたらおしまいだぜ」
 悠人もことりも拳銃以外に有効な武器を持っていない。
 ブラウニングを持った舞には火力不足である。
「いや……あった、ここから逃げる方法が」
 悠人はデイパックから二つの筒を取り出した。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※


 舞は突然の乱入者に戸惑いの色を隠せなかった。

 長い時間に渡る銃撃戦、消費される精神力と体力、そして弾薬。
 動いたほうが負ける雰囲気、だがこのままでは埒が開かない。
 虎の子のブラウニングで、一気に強襲をかけようと身を起こした時にその声は聞こえた。
 前方の大木に隠れる良美のさらに奥から男の声が聞こえたのである。
 大丈夫かと言う声、その声にすぐさま反応して助けを求める良美。
「くっ……やらせない……!」
 舞は男の声に向かってニューナンブを放つ。
 男の絶叫とともにその方向から銃弾が数発飛んでくる。
 そして男は良美のいる木に転がり込む、いや――もう一人、男の後ろについて走る人物。シルエットからして女だろうか?
 結局良美は労せず二人の人間を仲間に引き入れたのである。

 三対一では分が悪すぎる、ましてやブラウニングの残弾も残り少ない、そろそろ潮時か……
 舞がそう思った時、近くで何かが投げ込まれる音がした。
 細長い棒状の物体二つ、舞の目が見開かれる。
「なっ……」
 二つの棒から火花が散り、辺り一面に煙がもうもうと立ち込める。
「発炎筒!?」
 すぐさま木を飛び出すと舞は良美がいた方向に向け銃を放つ。
 そして煙の向こうから黒く回転する物体が舞に向かって飛んできた。
「……!」
 すぐさまブラウニングの長い銃身でそれを弾き飛ばす。
 弾き飛ばされた物体は長さ40cmほどの手斧、当たったらとんでもないことになっていた。
 立て続けに発砲音、何発もの弾丸が舞に襲い掛かる。
 舞は木陰に転がり込み銃撃をやりすごす。
 まだ銃声は鳴り止まない。
 やがて、森に静寂が訪れた。

「逃げられた……」
 もう森には人の気配はしない。
 完全に逃げられた。
 結局収穫は向こうが投げ込んできた手斧のみ。
 ニューナンブの弾丸もかなり消費してしまった。
 だけど落ち込んでいられない、佐祐理を救うために一人でも多くの人間を殺さなければ。
 次の獲物を求めては孤狼は森を彷徨う。

 だが舞は佐祐理の死の事実を収めたPDAが良美の手に渡っていること。
 そして友人だった白河ことりがすぐ目の前にいたことを知る由もなかったのである。




【C-4 森(マップ南東)/1日目 真夜中】

【川澄舞@Kanon】
【装備:ニューナンブM60(.38スペシャル弾0/5) 学校指定制服(かなり短くなっています)】
【所持品:支給品一式 ニューナンブM60の予備弾22 バナナ(フィリピン産)(3房)、ブラウニング M2 “キャリバー.50”(ベルト給弾式、残弾30)、ハンドアックス(長さは40cmほど)】
【状態:疲労(大)、肋骨にひび、腹部に痣、肩に刺し傷(止血済。痛いが普通に動かせる)、太腿に切り傷(止血済。痛いが普通に動かせる)、後頭部にたんこぶ】
【思考・行動】
基本方針:佐祐理のためにゲームに乗る
1:武器を奪うため、参加者を襲う。
2:佐祐理を救う。
3:全ての参加者を殺す。ことりも千影も殺す。
4:相手が強い場合、多人数の場合は無理はしない。

【備考】
※舞の行き先は次の書き手さんに任せます。
※森の炎はほぼ鎮火しました。
※良美と一緒にいた女がことりとは気づいてません。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※


「大丈夫だ、もう追ってきてはいない。完全に撒いたようだな」
 悠人は作戦の成功を確認するとほっと安堵の息を漏らした。
 作戦は内容はこうである。
 悠人が持っていた発炎筒で煙幕を張り、煙に向かって良美の手斧を投げ込む。
 さらに銃も乱射して弾幕も張りとにかく逃げる。
 シンプルだがそれ故に場所を選ばない逃走方法である。
「でも良かったあ……無事に逃げられて」
 緊張の糸が解けてことりも地面にぺたりと腰を下ろす。
「あの、ありがとうございます……助けてくれて」
 良美はぺこりとお辞儀をして二人に感謝の意を表す(もちろん演技だが)
「まあ、襲われてる女の子を無視するなんて真似俺にはできないからな。っと名前まだだったな、俺は高嶺悠人、悠人と呼んでくれていいぜ」
「白河ことりです。私もことりって呼んでください」
「私……佐藤良美といいます。良美と呼んでください」
「良美か……よしみ……よっぴー?」
「ううう……よっぴーって言わないでよぅ」
「あっすまん、なんかつい呼びたくなってしまった」
「もぅ……悠人君たら……」


 良美は悠人とことりにこれまでのいきさつを話すことにした。
 二人を利用するため、二人からある程度の信頼を得るため。
 嘘に嘘を重ねて偽りの過去を語る。

 まず始めに前原圭一、岡崎朋也という少年と咲耶という少女と行動していたこと。
 だが圭一は放送で知り合いを殺されたことを知ったことで徐々に奇行に及んでいった。
 常に周囲をギラギラした目で警戒する。
 いきなり奇声を上げバットを振り回しだす。
 そしてついには暴れる圭一を落ち着かせようとした朋也をバットで殴りつけ殺害した。
「私も咲耶ちゃんもただそれを呆然と見つめるだけだった……」
 そして圭一はあろうことが良美と咲耶に動かなくなった朋也をさらに殴るように強要した。
「『仲間だったら当然だろ!』と言って……私達に――」
 話はさらに続く、正気を失った圭一は良美達が自分を殺そうとしていると妄想し始めた。
 必死になだめる良美と咲耶、だが圭一の妄想はさらに膨れ上がり……
「逃げ出そうとする咲耶ちゃんの頭を――」
「ひどい……」
 口を押さえて涙ぐむことり。
「咲耶ちゃんを何度も殴っている隙に私は無我夢中で逃げて……それで……放送で咲耶ちゃんが呼ばれて……私、咲耶ちゃんを見捨てて――」
「もういい……もういいんだ良美……」
 悠人は良美の肩をそっと抱く、これ以上彼女の心が傷つかないように。
「ゆう……とくん……うぐっ……うああああああああああ!!!」
 せき止めていた感情が一気に爆発して悠人の胸の中で泣く良美。
 しかし、その感情の吐露も溢れる涙も全て偽りの存在。
 悠人を欺くための演技である。
(ほうら……簡単に信用してくれる。圭一君といい悠人君といいほんと男って単純だよね)

「ごめんね……ちょっと取り乱しちゃった」
 良美は涙を拭いて笑顔で微笑む。
「気にするな、俺もことりもこの島でいろんなことがあった。みんな同じような傷を抱えてる。
でも、それから押しつぶされないようにしなきゃならねえ。一人で抱えるにはあまりに大きすぎるけど俺達は一人じゃない」
「一人じゃない……?」
「そうだ、俺もことりもあんたの仲間だ。こんなクソくだらねえ殺し合いなんてぶち壊す、その為の仲間を集めてるんだ。だから――」
 悠人はまっすぐ視線を良美に向ける、一片の曇りも無い純粋な目。
 それがひどく気持ちが悪い。
「君の力を貸して欲しい」
 眩暈、吐き気、動悸がする。
(ダメ……テンションに流されたらダメ、落ち着け私)
 必死に平静を装い悠人に返事をする。
「あの、私でよければ……」
 その返事に悠人とことりの顔が明るくなる。
「ああ、君を絶対に守る」


 ※ ※ ※ ※ ※ ※


「これからどこへ行くの?」
「仲間とホテルで待ち合わせしている。まずはそこへ行こうと思う」
 悠人は荷物から地図とコンパスを取り出し現在位置を確認する。
「おそらくここはD-5の北西辺りのはず……だから……ん?」
 地図を覗く悠人の目に良美の左手が目に入った。
 解けかかった包帯、黒褐色に変色した血が痛々しい。
「良美、怪我しているじゃないか」
「え、あ、すこし痛むけど大丈夫だよ」
 本当は小指が切断されてすごく痛いのだが、良美はなんでもないよと手を振る。
「包帯解けかかってますね、私直します」
 そう言ってことりは極自然に、良美の左手を手に取る。
 自らの能力のことをすっかり忘れて――

(ふぅ……私の演技も大したものだよね、島から戻ったら本格的に女優を目指してみようかなあ、あはは。
でも悠人君もことりちゃんも人を信用しすぎだよ。圭一君もそうだけど何がここまで人を信用させるんだろうねぇ……
こんな無防備でこれじゃあ殺してくださいと言ってるようなものだよ、まあ、まだ殺さないけどね。
二人にはしっかりと私の役に立ってもらってそれから死んでもらおう、うんうん)

 固まることりの手。

(そういえば……何でことりちゃんはそんな格好をしてるのかなあ……? 少し擦り切れた制服のスカート、
そして男物の上着……あ、そうか、なるほどそういうことかあ……くすくす)

 良美は動きが止まったことりを不思議に思い、ことりを見た。
「どうしたの? 何かあった?」
「あ、いえ……別にあの、良美さん小指が……」
 口ごもることり、その表情に一瞬浮かんだ怯えの色。
 良美はその時はまだことりの表情の真意を掴めないでいた。
「うん、ちょっと怪我しちゃって……ほら小指だけですんだからラッキーとおもわなきゃね」
 明るく振舞おうとする良美。だがその心の内で倉成武に対する殺意の炎が燃え盛っていた。
(女の子の身体をこんなにしちゃって……今度あったら絶対に殺すから)
「換えの包帯なら私の荷物に入ってるから、ごめんね手間かけさせちゃって」
「い、いえ……わっ私そんなこと気にしてませんから……」
 ことりはそそくさと良美のデイパックから新しい包帯を取り出し彼女の左手に巻きつける。
 震える手を必死に押さえ、包帯を巻きつける。
「ありがとう、ことりちゃん」
 良美はにっこりとことりに向けて微笑む。
 ことりにはそれがおぞましい悪魔のようだった。


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160:予期せず出会うもの 佐藤良美 168:悪意の夢は終わって始まる(後編)
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