月光のセレナーデ ◆TFNAWZdzjA


「……ふう」

図書館の窓から月を見上げるのは、宮小路瑞穂。
倉成武と佐藤良美の両名がこの図書館に現れる、という情報を新しい仲間から得たから、なのだが。
見張りの間、他の各人は休憩や調べものに時間を費やしているだろう。

瑞穂は星に囲まれた夜空を見上げる。
たった一日が何ヶ月にも感じた。一年で培った大切なものを一日で失った傷は、未だ瑞穂の中で燻っている。

(貴子さん……)

死んでしまった大切な人。
絶対に命を懸けてでも護ってあげなければいけない、生涯愛すると誓った女性。
どんな最期を遂げたのだろうか、そんなことを考えると胸が苦しくなって仕方がなかった。
そして今まで考えようとしなかった疑問を、今になって自分自身にぶつけてみた。

即ち、貴子を殺したのは誰か、ということ。
どうして行動を共にしていた武は生きているのか、ということ。
そして人を信じられなくなる病気になって、殺し合いに乗ってしまっているという事実。

(これらは、ひとつの可能性を考えれば簡単に集束してしまいますね……)

H173に感染した武が、疑心暗鬼のままに貴子を殺害した。
一番信じたくない可能性。一番あってほしくない可能性。だけど、そう考えれば全ての辻褄があってしまう。

もしも、貴子を殺したのが武だったら。
いや、百歩譲ってそれが違うにしても、貴子を護ってくれなかった武を自分は許すことができるだろうか。
圭一たちは助けたいと言っているが、それを別にしても許せるのか。
ハクオロや悠人が往人を許したように、自分が武を許すことができるのだろうか。そんな、聖人のようなことを言えるのか?

(すごいですね、ハクオロさんや悠人さんは)

改めて実感する。許すという行為が、ここまで大変だとは知らなかった。
それなりに人の上に立つ地位についていたが、そんなこととは別の話。そう、例えれば人としての強さということだろう。

(私は……いや、僕は弱い人間だね……)

学園ではたくさんの人に支えてもらった。
一人一人、懐かしいあの尊敬や敬愛のこもった笑みを思い浮かべていく。

(まりや、紫苑さん、奏ちゃん、由香里ちゃん、一子ちゃん、緋紗子先生……それに、貴子さん)

皆の思い出が瑞穂に力を分けてくれる。
彼女たちには本当に良くしてもらった、そう瑞穂は心中で独白する。あの一年間は最高の宝物だった。
そして、この島に連れてこられて、世界で一番大事な人を失った。
だけど、それを多くの同じ境遇の人が救ってくれた。一人一人、感謝の言葉と共に名前を挙げていく。

(茜さん、アルルゥちゃん……それに、アセリアさん)

身を挺して護ってくれたアルルゥ。
殺し合いに乗ろうとした自分を、命をかけて叱咤してくれた茜。
そして、今日まで一緒に戦い、悲しみも喜びも分かち合ったアセリア。
もし、誰も助けてくれなかったら……弱い自分は、この手で殺した鳴海孝之と同じ道を辿っていたに違いない。

ただ、たったひとつの叶うとも分からない望みのために殺し尽くす。
悲しい結末を、一瞬だけでも願ってしまった。断言する、自分はあまりにも脆弱なのだ、と叱咤する。
そんな自分だから迷う、憤る、憎しむ。
だが、この身はエルダーシスター、宮小路瑞穂。数多くの屍を踏み越えて、殺し合いを止めることを決めた者。

(茜さん……この地図が形見になってしまいましたね)

茜手製の廃坑内部の地図を取り出す。
役に立つかは分からない。もしかしたら廃坑内部に何か、脱出の鍵になるものがあるかもしれない。
一目見て、またデイパックに仕舞う。
今の瑞穂は見張り番だ。あまり、他のところに目を配ってはいけない。
相手は話を聞く限り、どちらも鳴海孝之を上回ると思って良い。それほどまでの危険人物、見逃しては大変だ。

「さあ、もう少し頑張るとしますか」

背伸びをひとつ。
交代の時間まで、見張りの任務をきちんと遂行しよう。




     ◇     ◇     ◇     ◇


「う~ん……」

前原圭一は椅子を並べて作ったベッドに横になりながら、唸っていた。
さっきまで見張りを担当し、そして瑞穂と交代したのだ。これから少しは仮眠を取ろうとしている、その直前。
釈然としない疑問が圭一の中で渦巻いていた。
悩みの種、その原因は国崎往人が持っていた大石蔵人の口述筆記ノートに書かれていた内容だ。

(俺が、すでに死んでいる……? 何が言いたいんだよ、大石さん……)

しかも自分だけでなく、梨花と詩音、そしてこの殺し合いの主催者たる鷹野までが死んでいるというのだ。
まさか知り合いにゾンビ扱い……それも死んでしまった人に言われる経験なんて、当然のごとく初めてだ。
少し頭を痛めながら、それでも何となくの仮説を考えていた。

(この殺し合いは、色々な世界から連れてこられた人たちによるもの、なんだよな)

それなら、辻褄は合う。
要するにこの島に連れてこられた大石は、圭一が元々いた世界の大石ではないということだ。

(大石さんの世界では……俺や詩音や梨花ちゃん、それに鷹野さんが死んでいるってことか)

もはや遺書になってしまった大石の手紙を掴む。
眠気はあったが、どうにもモヤモヤして気分が悪い。ふと、この島から来た最初期の仲間……遠野美凪の顔を思い浮かべた。
どうしているだろうか、危険な目にあっていないだろうか、そんな詮のないことを考えてしまい、首を振る。

「そういえば、まだ途中までだったっけ」

寝転がったまま、それにもう一度目を通した。そういえばゾンビ扱いでの衝撃と往人の件で最後まで読んでいない。
確か往人の話では手紙の後半まで見ようとはしなかったらしい。
ちょうどいい機会だと思って、手紙の二枚目に手をかける。その一番上に何やら目立つ言葉が書かれていた。

(ん……? 魔法の指輪について?)

何やら二枚目には興味深い記述がタイトルに用いられている。
圭一が知る限り、大石という人間は魔法やら祟りなんてものは信じないタイプ。
若干興味が引かれたので、眠る前に二枚目に目を通す。中には魔法の指輪とやらについての考察がされていた。


『不思議なものというのは、私が持っていた指輪のことなんです。
 何が不思議か、っていうのは見ていただかないと表現が難しいですが……この指輪、中で風が逆巻いているんですよ。
 私どもの常識にはない物質でしたねぇ。是非とも、持って帰りたいところなんですが、私としてはどうにもねえ……
 先ほども言いましたが、胡散臭いんですよ、まるで『魔法』を思わせる類のものは。あまり露骨に頼りたくはないんです。
 ああ、いや、もちろん信じないとかじゃなくてですね。死人が生き返っている摩訶不思議が起きていますから。
 ただ、私はそれを利用するのは躊躇っているというわけなんです。ですから今もデイパックの中に放り込んだままなんですがね。

 この魔法の指輪、名前を『フムカミの指輪』と言いましてね。
 どうやら説明書によれば風の魔法を使える、神秘の魔術品らしいですねぇ。おっと、笑わないでくださいよ。
 信じないでしょうねぇ。もしかしたら、私の手紙も全て眉唾物として処分されているかもしれない。それなら私は、自分の口で伝えて回るだけですが』


それはもう、永遠にできなくなってしまった。
ただ放送で呼ばれたことも前半部分で書かれていたのだから、覚悟はしていたのかもしれない。
圭一は少しだけ悔恨の表情を浮かべながら、続きへと目を通していく。

『どうして、こんな指輪の話をしたかとお思いですか?
 んっふっふ、その理由は二つですね。ひとつはある可能性に賭けることにしたからです。
 一つ目、私に支給されている以上、貴方にも不思議なものを支給されてはいませんか? 
 もしも支給されているのなら、少しはこの手紙にも真実味が増すんじゃないですか? 魔法が存在している以上、死者蘇生もありだと。
 ああ、今少し鼻で笑いませんでしたか? わかりますよ、刑事ですから。ついでにまたそれか、とも。

 二つ目、この手紙は客観的に見れば酷い誇大妄想話ですからね。普通に書いただけじゃ、無視されるでしょう。
 私が逆の立場なら、一笑に付しているでしょうしねえ。構いませんよ、口で伝えていくつもりで、この手紙は考えをまとめるために綴ったものですし。
 そうですねえ、この手紙を見て魔法の指輪が欲しいと思った方には、差し上げても構いませんよ?
 その代わり、私の話を信じていただきたいところですねえ。私としても誰か賛同者が欲しいのですよ。
 要するに前半部分の手紙は私の主張及び考察。そして後半部分にはそれを信じていただくための、取引といったところでしょうか。

 んっふっふ、もしも何らかの形でこの指輪を手に入れた方、気をつけてくださいよ?
 無理やり奪われる可能性も考えて、この『フムカミの指輪』の説明書は燃やしてしまったんですよ。ちょっとしたリスク管理ですね。
 ですから『フムカミの指輪』の説明についてはここに記載しておきますね。
 実は一度、その指輪を試しに使ってみたのですがね。カマイタチが起こりましてね、すごいことになったんですよ。
 もし拾っても、誤って自分やお仲間に向けて撃たないように。しかも制限回数があるようで、私が一度使ったから後、二回……というところですか。
 威力については後述しておきます。どうか、参考しておいてください』


フムカミの指輪の威力。
簡易的なカマイタチは、人を殺傷する能力こそ薄いものの、普通に考えれば危険な代物。
体全体に切り傷を負わせ、風圧で相手の隙を作る……どうやら、威嚇用の支給品だったらしい。
圭一も信じるかどうか、以前なら迷っていたのだが。
アセリアが神剣を使うところも見たし、どうせなら魔法が使えるなんてロマンのあることは信じてみたい。

『私はね、こんな馬鹿げた殺し合いに嫌悪している。
 巻き込まれたことにじゃない、こんなふざけたことを笑って開催すること自体に激しい嫌悪感を抱いているんですよ。
 貴方はどうですか?
 刑事ってのは嫌な職業でしてね。どんなに良い人でも、信用できなくなる職業なんですよ。暗い闇の部分を見せてもらってますから。
 貴方も気をつけてください。人間、追い詰められれば何をしてもおかしくありません。

 私はこの島の謎を解き明かすつもりです。
 ですがもしも、私が放送で名前を呼ばれたときは……私に代わって、この島の謎と鷹野三四たちの謎を解き明かして欲しい。
 それが、私の望みです。
 それでは、貴方もどうかお気をつけて。無事にこの島から帰れるよう、私もひとつ願わせていただきます。んっふっふ』


手紙はそこで終わっていた。
まさか本人も圭一の目に触れるとは思わなかっただろう。
圭一はその因果を感じながら、そっとかつて世話になった人の冥福を祈った。

(大石さん、どうか安らかに)

黙祷し、そのまま眠りにつく。
その中で少し考えることがあった。大石が語る『フムカミの指輪』とやらについて。
確かに人目見て不思議な指輪だとは思っただろう。だが、魔法の存在を知らないものにとっては無用の長物かも知れない。
もしくはデイパックの中に沈んだままになっているかも知れない。

大石が亡くなった今、その指輪は誰の手の中にあるのだろうか。
説明書を燃やしたらしいから、その価値を見出してはいないのかも知れない。だが、かなり強力な武装と言える。
もしも殺し合いを肯定した相手が握っていた場合、それは取り返しのつかないことになるのかも知れない、と。

(あ~……それ以上、考えるのは後にするか)

どうやら、とても疲れていたらしい。意識は数秒で途切れ、圭一は夢の世界へと旅立っていく。
その一時のユメの中。
振り切ったはずの情景、部活メンバーとの楽しい日常を夢想した。



     ◇     ◇     ◇     ◇




「ああ~、もう……」

沙羅は図書館の本をいくつか調べていた。
この殺し合いの鉄則や注意、今更言われるまでのないことから、殺し合い推奨と正しい殺戮の仕方まで。
中々に悪趣味だったので、適当に目を通したあとで本棚に戻した。よくもまあ、ここまで外道なことが思いつけるものだ。
弱者を利用した強者の殺し方、銃を持った相手の騙し方、人質を利用した手ごま作戦……これが平気で出来る人間は本当に外道だ。
まあ、そんな外道な知り合いに心当たりがある沙羅としては、天然で思いつける彼女に畏怖すら覚えるのだが。

とにかく、疲れた頭でこんなものを読まされた身としてはため息をつくしかない。
何か役立つヒントを探してきたのだが、マーダー相手にしか意味がないものばかり。頭が痛くなってきた。
そんな折、視界の端に青い髪が入って、沙羅は何気なしに振り向いた。

「アセリアさん、何してるの?」
「ん……」

そこには永遠神剣『冥加』をじっと見ながら、考え込むアセリアの姿があった。
なにやら悩んでいるようなのだが、沙羅には最初、それがわからない。やがて『冥加』を渋っていた態度を思い出す。
神剣魔法がどうのこうの、という話。魔力のある人間でも使える、とのことだが……この場にはアセリアしか該当しない。

「神剣魔法ってのが、使えなくて落ち込んでるとか?」

何しろ、戦いに身を置いていた彼女の世界で使える神剣魔法。よほど戦いの役に立つのだろう。
魔法否定派ではいたが、あれだけのものを見せられては信じざるを得ない。
むしろ、少しばかり好奇心が沸くのが正直な感想だ。凄まじい剣技に、魔法……ファンタジーが目の前にあるのだから。
アセリアは沙羅の言葉を受け取ると、ふるふると首を横に振った。


「神剣魔法は使える……疲れるし、慣れないけど便利だ」
「えっ、ほんと? ちょっと使って見せてほしいな……って、ここでやったらまずいやつ、とか?」
「ん……そんなことない、何か本を貸して」

興味深げに頷き、さっきまで読んでいた外道な本をアセリアに渡す。
アセリアは『冥加』に意識を集中させると、いくつかの本を空中に放り投げた。
まずは一冊目、『殺し合いの正しいやり方、100選』を見据えてアセリアが唱える。


「んっ……アイアンメイデン!」


次の瞬間、神剣から発生した黒い影から細い針が飛び出し、本を串刺しにする。
一本、二本ではない。合計で五本以上の黒き針が本に断罪を下す。その様はまるで、串刺し刑。
続いて二冊目、『利用する相手のうまい飼い方』目掛けて、神剣魔法が発動する。


「ダークインパクトッ……!」


今度は『冥加』が黒く染まり、凄まじい衝撃波が発生する。
巻き上がる旋風、そして散っていく本。狙われた標的はもはや利用できないほどにボロボロとなってしまう。
何より、沙羅は嫌な予感がした。だんだん威力が大きくなっていく。すぐに待ちの手を打った。


「ブラッドッ……!」
「アセリアさん、もういい! そこでストーーーップっ!!!」


ぴたり、とアセリアが停止する。
不思議そうな顔でキョトンと沙羅のほうに目を向けた。幸い『殺戮白書』は無事に地面に落ちた。
次の一撃はどんなものになるのか、沙羅は背中に流れる冷や汗を我慢しながら尋ねる。

「次は、何をやろうと、したの?」
「ブラッドラスト……自分の血をマナに変換して、身体能力を上げる」
「止めてよかった。よほどの敵が来ないかぎり、それを使うのはやめたほうがいいわ」
「ん……わかった」

腕試しで自分を傷つける魔法を使わせたら、なんて謝っていいのかわからない。
アセリアは無口、無表情、無関心な印象があったが、それは間違いだ。アセリアは純真無垢なだけなのだから。
もっとも、最近は怒りや悲しみ、憎しみや疑いの目を持ったりと、人間に限りなく近い存在となってしまったが。

それにしても、強大な力だと沙羅は内心で喜んだ。
銃の扱いでは他の参加者よりも上位であるという自信があるが、それでも魔法を使える人が味方になるのは心強い。
そして逆にも考える。
この魔法を使う敵が相手だとすれば、これほど強大な相手は存在しない。
もし、そんな敵が現れたら……はたして、無事に勝利することができるのか。沙羅は言いようのしれない不安を覚えた。

「ん……疲れた」
「ああ、ごめんね。すごく疲れるって聞いてたのに、こんなことさせちゃって」
「大丈夫……」

アセリアは『冥加』を再び鞘に戻すと、それをじっと見つめながら思案に暮れる。
神剣魔法が使えることは教えてもらったのだが、それならアセリアは何を悩んでいるのだろうか。
ふと沸いた疑問、別に害のあることじゃないのはわかっていたので、もう一度質問をしてみた。

「ねえ、アセリアさん。さっきから何を悩んでるの?」
「ん……ん……」

なにやら、反応が悪い。
アセリアは別の世界……まったく違う御伽噺の世界から来た、ということで沙羅は少し遠慮気味に接していた。
だが、今のアセリアはまるでどこにでもいる女の子のようなイメージ。ふと、親近感が沸いてしまう。
アセリアは少しだけ悩み、『冥加』を腕の中に抱えて考え込む。その様子はぬいぐるみに顔をうずめる少女に似た。

「ねえ、何を悩んでるの?」
「ん……んっ……――――に、―――――うかと、思って……」
「えっ?」

すごくか細い声だった。
もともとアセリアの声は小さいのだが、その言葉はそれに輪をかけて小さかった。
沙羅は口元に耳を近づけると、本当に小さい声が届いた。


「ユート……に、なんて言って謝ろうかと、思って……」


沙羅が『えっ?』と聞き間違えたかのように返事を返すと、アセリアはますます小さくなってしまう。
考える。『ユート』とは瑛理子たちが言っていた高嶺悠人のことだろう。
瑛理子たちが出発して、圭一が見張りについている間に瑞穂に話してもらった。ハクオロと悠人の二人と喧嘩別れしてしまったこと。
いや、一方的に勘違いして酷い言葉を投げかけてしまった、だったか。
とにかく、瑛理子たちと一緒に最後まで行きたいと主張していた理由が、それだった。

「酷いこと、言ったから……ユート、きっと怒ってる。ハクオロも……だから」
「一生懸命、なんて謝ろうか悩んでいたってこと?」
「………………(こくり)」

その様子があまりにも可愛いというか、意外な一面というか。
沙羅はついつい、クスクスと笑ってしまう。
アセリアはそんな沙羅にも気づかず、一人でぼそぼそと言葉を零してしまっていた。

「どうしよう……どうすればユートに許してもらえるか……? わからない……」
「ふうん……ずいぶん、高嶺さんに固執するのね? 好きな人なの?」
「ん……?」
「だって、謝る相手はハクオロも一緒だけど……アセリアさん、高嶺さんに特に謝りたがってるから」

アセリアは不思議そうな顔をしている。
少し考え込み、やがて首をかしげる。ふるふると首を振ったかと思えば、また『冥加』に顔を埋めてしまう。
そんな様子が可愛い、と思えてしまう。疲れ果てていた沙羅の心を癒してくれる小動物のようだった。

「好き……? うん、ユートのこと好き。ミズホのこともサラのことも、好き……ユキトは嫌い」
「違うって、そんな好きじゃなくてね……あ~、よし。私がレクチャーしてあげよう」
「ん……?」

こうして一刻、沙羅とアセリアは絆を深め合うのだった。
美しい月は隠れ始め、薄暗い雰囲気の中で行われる秘め事。
月光の下、建物内での小夜曲(セレナーデ)だ。

やがてアセリアが見張りの番になった頃、瑞穂はアセリアの顔を見て首を捻ることとなる。

「……? アセリアさん、何だか顔が赤いような……?」
「ん……」
「さあ、気のせいよ、きっと♪」




     ◇     ◇     ◇     ◇




「皆さん、少し集まってもらえますか?」

瑞穂から号令がかかったのは、放送が始まる30分前だった。
圭一、アセリアは何事かと思って席に着く。沙羅は瑞穂の隣りでパソコンをいじっていた。
この中のリーダーはその指揮のうまさから瑞穂が就任していた。圭一はパソコンの前に立っている瑞穂へと話しかける。

「瑞穂さん、何かあったのか?」
「ええ、少し興味深いものを沙羅さんがパソコンで見つけました。これを見てください」

パソコンを覗き込むと、そこにはこんな名目の元、遊びのような言葉が踊っていた。


『少年少女殺し合い、優勝者は誰だ!?』

事前投票、上位10名
【川澄舞】【国崎住人】【佐藤良美】【杉並】
【園崎詩音】【高嶺悠人】【ハクオロ】【芙蓉楓】【古手梨花】【宮小路瑞穂】


最終中間投票、上位10名
【北川潤】【川澄舞】【佐藤良美】【国崎住人】
【高嶺悠人】【ネリネ】【宮小路瑞穂】【前原圭一】【坂上智代】【小町つぐみ】


「あれ、俺の名前がある?」
「ん……ユートとミズホもある」
「国崎の名前もあるわ。私が最初に図書館に来たときはなかったんだけど、ここに来てこんなのを見つけたの」

そう言うと沙羅は、細い指でひとつのファイルを指差した。
クリックしながらドラッグすることによって現れる、白い点。そこをクリックすると、短い文章が画面に飛び出してきた。


【第三視点からの報告】

本来、僕は違う名前なんだけど、今回はこの名前……『ブリック・ヴィンケル』の名前を借りるよ。
まず、僕は敵じゃないことを初めに伝えさせてもらうよ。信じてもらえるかはわからないけどね。
少しでも君たちの助けになりたい。鷹野さんのことだから、すぐに気づくと思うけどね。
その前にこの情報を転送する。これは最終中間発表のさらに後、第四回放送直前の上位10名の名前だ。

【水瀬名雪】【川澄舞】【佐藤良美】【倉成武】
【高嶺悠人】【北川潤】【宮小路瑞穂】【アセリア】【坂上智代】【小町つぐみ】

僕は鷹野さんに警戒されている。残念だが、これを送信できただけでも奇跡なんだ。
鷹野さんの目を盗み、パソコンに秘密裏にこの情報を送信した。
だが、おそらくは一時間と持たないだろう。すぐに削除される。何故なら、今回のランキングは非公式なものだからね。
鷹野さんにしてみれば身内からの裏切りを許しはしない。きっと僕の身ももう危ないだろう。

すまないが、できるのはここまでだ。僕は表立って動けるような状況にいない。
この情報を信じられないかも知れない。それも僕は分かっている。だけど、だから何もしないということは出来なかったんだ。
どうか、一人でも多く島から脱出してほしい。これは僕の率直な感想だ。こんな、馬鹿げた殺し合いなんかに負けないでほしい。

じゃあ、頑張って。
第三視点は影から傍観するしかない無意味な存在だけど。
それでも、君たちの事を応援しているから。

「これについて、意見を聞きたいの。皆はどう思う?」

瑞穂の問いかけに一人一人が考え込む。
これは信じるに値する情報か。もしや対主催同士で殺し合わせようとする主催者の罠か。
まずは一番手、沙羅が渋い顔をしながら考えを述べる。

「私は信用に値しないと思う。優勝者……つまり、殺し合いに乗ったということでしょ?
 だったら瑞穂さんやアセリアたちの名前が挙がるはずがない。私は否定的ね、この情報に対しては」

当然だろう。仲間を殺人鬼扱いしたようなものなのだから。
確かに川澄舞、佐藤良美、倉成武の三人の名前があるのはわかる。正真正銘、殺し合いに乗った人間なのだから。
だが、アセリアや瑞穂は当然違う。まだ出逢って数時間の圭一や沙羅にも、それがわかる。

「ん……ユートは殺し合いになんて乗ってない。これは嘘」

同じように同意するアセリア。悠人を人殺し扱いされて、怒っているようだ。ついでに自分はどうでもいいらしい。
だが、一人だけ無言のままな少年がいた。
仲間を信じる、ということについては一家言あると言われる男、前原圭一である。

「……いや、あながち嘘とは言えないかも知れないな」
「ケーイチ……どういうこと?」

ぎろり、と睨み付けるアセリア。大迫力だった。
圭一は少し慌てて否定する。何も全肯定すると言っているわけではないのだから。


「優勝者は誰だ……つまり、この戦いを勝ち残れる実力者のことを言っているんだろ?
 なら、善悪は関係ないんじゃないかな。
 殺し合いに乗った側に佐藤さんや武さんの名前が挙がっているように、俺たちで高嶺さんや瑞穂さんが挙げられていてもおかしくない。

 高嶺さんやアセリアは言うに及ばず。瑞穂さんも相当強いってのは聞いたしな。
 つまりは人気のある実力者ランキングってやつだ。人気投票みたいなもんだな。
 そう考えるとやりようもある。大体、向こうだって信じてくれるかどうかは分からない、みたいな感じじゃないか」


一息、続いて圭一は語る。

「まあ、確かに俺も全部が全部本当だなんて言うつもりはない。
 何故ならこんな降って沸いたような情報を鵜呑みにして、もしも罠なら俺たちは主催者に踊らされるってことになるからな。
 ついでに、俺の名前が再び消え失せたことに関しても文句はある。……まあ、それはいいけどな。悪い、話の腰を折った。

 とはいえ、このランキングも馬鹿にはならん。
 何しろちゃんと実力が高くて殺し合いに乗った奴らの名前も、きちんと列挙されているんだからな。
 主催者の陰謀だと仮定しよう。佐藤さんは人を騙しながら殺していく人だ。つまり、殺し合いに乗っているなんて知らないほうが都合がいい。
 主催者側が応援するのは絶対に殺し合い肯定者だ。なのに、佐藤さんが不利になるような情報をわざわざ送るか?
 俺たちは佐藤さんが人殺しに乗っていると知っているから、普通なんだ。こいつは何も知らない善良な参加者にまで、警戒心を与えちまう。
 ご丁寧にキチンと俺たちが警戒している三人の名前がきっちり入っている。これは俺たちにとって有力な情報だと思うんだ。

 ここに名前が乗っている奴を信じるな、とは絶対に言わねえ。
 だけど、警戒に値すると俺は思う。信憑性は決して低くないからだ。以上、ここまでで質問があるか?」


口先の魔術師、前原圭一。
その奥義を垣間見て、全員が呆然と圭一の話に耳を傾けてしまっていた。

「えーと……まあ、私も同意見ですね」
「うーん……言われてみれば、そんな気もしないでもないかも」
「ん……要するに、決して信じられないと断言はできない、ってことか?」
「有体に言えば」

核心はアセリアの口から飛び出していた。
さあ、何をまず信じるべきか。どれくらい信じていいのか分からない、この状況下で。

「あっ……皆さん、時間です!」
「えっ、あっ……」
「ん……」


悪魔の放送の時間となった。


【F-3 図書館/1日目 真夜中】

【女子三人+K】
1:図書館で武と良美を待ち受ける。
2:その間に情報を集める。
※救急車(鍵付き)のガソリンはレギュラーです。現在の燃料は僅かです。


【前原圭一@ひぐらしのなく頃に祭】
【状態:精神安定、右拳軽傷、体全体に軽度の打撲と無数の切り傷、左肩刺し傷(左腕を動かすと、大きな痛みを伴う)】
【装備:悟史のバット@ひぐらしのなく頃に】
【所持品:支給品一式×2、折れた柳也の刀@AIR(柄と刃の部分に別れてます)、キックボード(折り畳み式)、大石のノート、情報を纏めた紙×2】
【思考・行動】
基本方針:仲間を集めてロワからの脱出、殺し合いには乗らない、人を信じる
0:そういえばあの指輪、誰が持っているんだろ……?
1:沙羅と瑞穂を守る、出来ればアセリアも守りたいけど無理かも。
2:知り合いとの合流、または合流手段の模索
3:あゆについては態度保留、但し大石を殺したことを許す気は今のところない。
4:良美を警戒
5:ハクオロに対しては一応警戒。
6:いつか祭具殿の中へ入りたい
7:ランキングについて思考中

【備考】
※大石のノートは一応、最後まで読みました。ただ、ノートの何処かに別の考察を書いている可能性はあります
※国崎往人、二見瑛理子、綾小路瑞穂、アセリアを信頼
※春原陽平、小町つぐみの情報を得ました


【白鐘沙羅@フタコイ オルタナティブ 恋と少女とマシンガン】
【装備: ワルサー P99 (8/16)】
【所持品:支給品一式 フロッピーディスク二枚(中身は下記) ワルサー P99 の予備マガジン8 カンパン30個入り(10/10) 500mlペットボトル4本、情報を纏めた紙×2】
【状態:軽度の疲労・強い決意・若干の血の汚れ】
【思考・行動】
基本行動方針:一人でも多くの人間が助かるように行動する
0:ふふ……なんて純粋なのかしら♪
1:瑛理子達と再会後、フロッピーディスクをもう一度調べる
2:H173の治療法を探す
3:首輪を解除できそうな人にフロッピーを渡す
4:情報端末を探す。
5:混乱している人やパニックの人を見つけ次第保護。
6:最終的にはタカノを倒し、殺し合いを止める。 タカノ、というかこのFDを作った奴は絶対に泣かす
7:ランキングについて思考中


【備考】
※FDの中身は様々な情報です。ただし、真偽は定かではありません。
※紙に書かれた事以外にも情報があるかもしれません。
※“最後に.txt .exe ”を実行するとその付近のPC全てが爆発します。
※↑に首輪の技術が使われている可能性があります。ただしこれは沙羅の推測です。
※図書館のパソコンにある動画ファイルは不定期配信されます。現在、『開催!!.avi』と『第三視点からの報告』が存在します。


【アセリア@永遠のアセリア】
【装備:永遠神剣第六位冥加@永遠のアセリア -この大地の果てで- 】
【所持品:支給品一式 鉄串(短)x1、鉄パイプ、国崎最高ボタン、ひぐらし@ひぐらしのなく頃に、フカヒレのコンドーム(12/12)@つよきす-Mighty Heart-、情報を纏めた紙×2】
【状態:嬉しい、肉体的疲労中、右耳損失(応急手当済み)、頬に掠り傷、ガラスの破片による裂傷(応急手当済み)】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
0:好き……好き……ん……?
1:仲間を守る
2:無闇に人を殺さない(但し、殺し合いに乗った襲撃者は殺す)
3:強者と戦う
4:存在を探す
5:冥加が使い辛い
6:悠人とハクオロに謝りたい
7:川澄舞を強く警戒
8:国崎往人に対する微妙な感情
9:ランキングについて思考中


【備考】
※冥加の使用には、普段の数倍の負担がかかります。
※神剣魔法は以上の技が使用可能です。
アイアンメイデン  補助魔法。影からの奇襲によって、相手の手足を串刺す。
ダークインパクト  攻撃魔法。闇の力を借りた衝撃波で攻撃する。
ブラッドラスト    補助魔法。血をマナに変換し、身体能力を増強する。


【宮小路瑞穂@乙女はお姉さまに恋してる】
【装備:ベレッタM92F(9mmパラベラム弾15/15+)】
【所持品:支給品一式×3、フカヒレのギャルゲー@つよきす-Mighty Heart-、
 多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)、斧、レザーソー、投げナイフ3本、
 フック付きワイヤーロープ(5メートル型、10メートル型各1本)、茜手製の廃坑内部の地図(全体の2~3割ほど完成)、予備マガジンx3、情報を纏めた紙×2 】
【状態:決意】
【思考・行動】
0:……アセリアさん、まだ顔が赤いですよ?
1:エルダー・シスターとして、悲しみの連鎖を終わらせる(殺し合いを止める)
2:アセリアと瑛理子を守る
3:国崎往人に対する微妙な感情
4:川澄舞を警戒
5:ランキングについて思考中

【備考】
※往人に対して罪を赦すつもりはないが、殺意は霧散。
※参加者全員に性別のことは隠し続けることにしました。
※現在、バーベナ学園の制服を着用。以前の血塗れの制服はE-2地点に放置。
※フカヒレのギャルゲー@つよきす について
プラスチックケースと中のディスクでセットです。
ケースの外側に鮫菅新一と名前が油性ペンで記してあります。
ディスクの内容は不明です。
一応、ブリックヴィンケルは富竹を考えていますが、変えても構いません。


165:もう二度と 迷わないと 誓えるこの想い 投下順に読む 167:風の辿り着く場所(前編)
165:もう二度と 迷わないと 誓えるこの想い 時系列順に読む 167:風の辿り着く場所(前編)
162:邂逅(後編) 前原圭一 170:決着は、初めて出会った場所で――(前編)
162:邂逅(後編) 白鐘沙羅 170:決着は、初めて出会った場所で――(前編)
162:邂逅(後編) 宮小路瑞穂 170:決着は、初めて出会った場所で――(前編)
162:邂逅(後編) アセリア 170:決着は、初めて出会った場所で――(前編)







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