血塗られし予言 ◆3Dh54So5os



「まさか、こんなことになるなんてね……」
少女――、芳乃さくらは夜空にぽっかりと浮かぶ月を見上げながら呟いた。
周囲の景色はまったく見覚えのないものだったが、さざ波が打ち寄せる浜辺を照らす月だけは初音島で見るそれと変わらない。
そんな些細なことにさえ安堵感を覚えながら、さくらはため息混じりに呟く。
「環ちゃん……あの予言はこのことを言ってたんだね……」
あれはいつのことだっただろうか? つい最近のことだったはずなのに、随分と昔の事のように思える。
さくらは今が殺し合いの真っ最中であることも忘れて、あの時のことに思いを馳せる。
話は、四日前の放課後に遡る――

◇ ◇ ◇

「さくら様、少々お時間宜しいでしょうか?」
多くの教師が部活動の顧問として出払った放課後、さくらのもとを訪ねた胡ノ宮環は開口一番、そう言った。
小テストにレ印を入れていたさくらはその言葉に手に持った赤ペンを止める。
環は、大和撫子な見た目通りの礼儀正しい少女だ。例え同い年であろうと、学園の中でも外でも“教師”であるさくらのことを名前で呼ぶことはない。
環が名前でさくらを呼ぶ場合は、教師としてのさくらにではなく、芳乃さくら個人に、もっと言えば環の親友である芳乃さくらの事を呼ぶときに限られる。
だからさくらは親友に対するそれで環に答える。
「なにかな? 環ちゃん。何だかかなり真剣な話みたいだけど……」
見上げた環の口元はきつく結ばれていて、話というのがあまりいいものでは無いことを如実に物語っていた。
環は感情を無理矢理押さえ込んでいるのか、表情を崩す事無く言う。
「ここでは、ちょっとお話できません。出来れば誰もいない場所で……そうですね。屋上辺りでお話したいのですが……」
声のトーンが少し低くなったのはさくら以外にはやはり聞かれたくないから、なのだろう。
さくらは無言で頷くと、採点途中だったプリントをデスクの引き出しに押し込み、環とともに職員室をあとにした。

「う~っ、生き返る~ぅ! ホント、あんなところで何時間もプリントとにらめっこなんて体にいいわけないよねぇ……」
何もない屋上の解放感のせいだろうか? 大きく伸びをしながら思わずそう洩らすさくらに環の頬が一瞬緩む。
ひとしきり伸びをして、身体が解れたところで、さくらは環の方に向き直った。
「それじゃあ聞かせてもらおうかな? 環ちゃんのお話。わざわざこんなところに呼び出した、って事は普通の用事じゃないんでしょ?」
さくらの言葉に環は静かに頷く。
「はい、話というのは他でもありません。昨日、私が見た悪夢の話なのです」
「悪夢……」
環の言葉にさくらは思わず息を呑む。普通の人なら悪夢の話などたわいもない話だが、環の場合は事情が違う。
極めて強い霊感と予知能力を持った巫女である環のそれは大抵が予知夢である。
つまり悪夢の話でさくらを呼び出したと言う事は、すなわちさくらに不幸が降り掛かると言う事を伝えにきたのと同義。
さくらの表情も自然と強張ったものになる。

「それで? ボクにいったいどんな災難が降り掛かるのかな? ケガ? 病気? それとも死んじゃうとか?」
わざとおどけてみせながらさくらは尋ねる。降り掛かる災難と言えば大抵この三つのどれかのはず。
だが、環は首を縦にではなく横に振った。
「いいえ、違います。身体的被害が及ぶのはさくら様に、ではありません」
「えっ……?」
その言葉にさくらの思考は一瞬の停止を余儀なくされた。あまりにも予想外の返答だったのだ。
環はそんなさくらの状態を知ってか知らずか、淡々とした口調で続ける。
「さくら様ではなく…………朝倉様が殺されます。……さくら様の目の前で……」

「なっ!?」
今度こそさくらは凍り付いた。
思考が追い付かなかった。まさかそこで純一の名前が出てくるとはさくらは夢にも思っていなかった。
朝倉純一――、さくらの中で自分に次いで……否、自分よりも大切な、さくらの恋人。
環や義妹の音夢と言った美少女たちの中で自分を選んでくれた純一。
その純一が目の前で殺される……。想像すらしたくない光景なのに、環はそれが起こると言う。
環の予知能力についてはさくらも認めている。環が冗談でこんなことを言える性格でないことも知っている。
だけど、この予言だけは、純一が殺されるなどという未来だけは信じられなかった。信じたくなかった。
「いったい何で? いつ? 何処で!? 誰に殺されるの!? 教えて! 教えてよ環ちゃん!!」
半ば悲鳴に近い声をあげながら環に詰め寄るさくら。しかし環は沈痛な面持ちのまま再び首を横に振った。
「私がはっきりと見たのは胸からおびただしい量の血を流しながら倒れた朝倉様と、泣きじゃくりながら朝倉様を抱き抱えるさくら様のお姿だけなんです。それ以外はちょっと不鮮明で……」
「そ、そんな…………」
その場に力なく崩れ落ちるさくら。そんなさくらに環は申し訳ありませんと言いつつ続ける。
「もう少し長く私が夢を見続けていれば、朝倉様に致命傷を負わせたのが誰か、分かったかも知れないのですが……」
そこで環は言葉を途切れさせる。見上げたさくらが見たのは顔を俯かせ、小刻みに身体を震わせる環の姿。
それを見てさくらははっとなった。
環だって純一に好意を抱いていた少女の一人。好いていた人が殺される光景など見せられた日には、一刻も早く夢から抜け出したいと思ったに違いない。
ここは先生として、親友として、しっかりしなくちゃいけない。さくらは自分にそういい聞かせると震える環の肩をそっと抱いた。
「ありがとう、環ちゃん、ボクに教えてくれて……」
「えっ?」
さくらの言葉に環の震えが止まる。おずおずとこちらを見上げた環にさくらは優しく微笑みかける。

「環ちゃんが教えてくれなかったら多分、ボクは為すすべもなくその悪夢を迎えてたと思うんだ。でも、今はもう違う。環ちゃんに教えてもらったんだもん。そんな不吉な未来、ボクが許さないよ! ばーん! って、吹っ飛ばしちゃうんだから!」
努めていつもの明るい口調で言ったつもりだが、果たして出来ていただろうか。
結局、この直後、環は本格的に泣きはじめてしまい、さくらは泣き止むまでずっとその華奢な肩を抱き続けていた。

 ◇ ◇ ◇

「予知夢なんかじゃなくて、単なる悪夢であって欲しかったけど……この状況じゃあ無理そうだね……」
殺人事件なんて早々起こるもんじゃないし、通り魔か異常者に気をつけておけば大丈夫だろう……。
そんな考えは突然始まった殺し合いがあっさりと打ち壊してしまった。
めったに事件など起きない初音島と違い、今の状況ではありとあらゆる可能性が考えられる。
ゲームに乗った者による襲撃もそうだし、恐怖で錯乱した誰かが銃を乱射する可能性もある。
あるいは心優しい純一の事、誰かを庇って…と言う事もありえる。
つまり、環の予知を現実のものにしかねない容疑者はこのゲームの参加者全員。
誰が純一を殺すのか分からない以上、可能性となり得るもの全てを排除する必要がある。そう、純一以外の参加者全員を……。
「お兄ちゃんは死なせない。予知通りになんてボクがさせない。例え白河さんや音夢ちゃんをこの手で殺すことになっても、ボクはお兄ちゃんを守りぬく……!」
小さな魔法使いの少女はその小さな胸に悲しき決意を秘めながら、浜辺をあとにした。
少女の決意がどんな結果を生むのか、今はまだ誰も知らない……。



【H-8 浜辺/1日目 深夜】

【芳乃さくら@D.C.P.S.】
【装備:ミニウージー(残り25/25) 私服】
【所持品:支給品一式 ミニウージーの予備マガジン×3】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:環の予知した未来(純一死亡)の阻止。
1)純一を探す。
2)純一を殺害しうる相手は容赦なく殺す。
【備考】
さくらシナリオ後からの参加です。
さくらは数日前の環の予知がこのバトルロワイヤルのことを指していると確信しています。
が、必ずしもそうとは限りませんし、環の予知が外れる可能性もあります。




014:親友 投下順に読む 016:彼女の“献身”
014:親友 時系列順に読む 016:彼女の“献身”
芳乃さくら 031:魔女







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