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救心少女夢想(後編) ◆TFNAWZdzjA


次の策、などと銘打ったが、実のところは苦し紛れの作戦だった。
懐中電灯と発炎筒で相手を撹乱し、どれかに敵の姿が映ればその後ろに接近する、そんな作戦。
それでもどうしようもなかった場合は、暗闇を利用してこの場から逃亡を図る。
確実な手を使わないと、私のように戦い慣れをしていない人間など一瞬で殺されてしまうだろう。


殺し合いは止めたい。
だけど、死ぬわけにはいかない。何度も言い聞かせているが、まだ死んではいけないんだ。
赤坂さんの願いどおり、舞を助けなきゃいけないんだ。救ってあげてくれ、と言われたのだから、それまでは。


「っ……!!」


足音が、大きくなった。
今までゆっくりと獲物の様子を伺う肉食動物が、物音を立てながら疾走する理由。
それは獲物を狩ると決めた、その一瞬に他ならない……!


(気づかれた……そんな!)


敵はいつの間にか背後に。
銃を構えながら振り向こうとする――――けど、間に合わない。なんて絶望的なまでの絶対さ。
この暗闇の中、視界は数メートルしか見えない状況下。私が彼の存在に気づいた頃には、もう勝敗は決していた。


銃は撃鉄をおろされることなく、男の手によって叩かれる。
そのまま地面に押し倒され、両の手は男の左手によって拘束された。その腕力は私が両手に力を込めても、振り払えるものじゃなかった。
あの時と同じだ。
知らない男に抵抗する術もなかったあの時と。ただ恐怖に怯え、泣き喚いていたあの時と。


「……動くな」
「っ……」


首筋には刀が押し付けられている。
その絶対の殺気を持ってして、私の思考は白く染まっていく。何も考えられない。
男はゴーグルをかけていた。それが暗視ゴーグルだと気づいたときには、無念で目を閉じるしかなかった。

あの作戦は相手も暗闇で視界が悪いのが、絶対条件。
装備の差が互角だ、と。そう思い込んでしまった時点で、私の敗北は決まっていたようなものだったのか。

これから私がどうなるのか、わからない。
ただひとつ、分かっていることがあるとすれば。
これはあのときの焼き増しで、また私は絶体絶命の危機に陥ってしまったということだけだった。



     ◇     ◇     ◇     ◇



(これは……)


最初にこの少女を押さえ込んだあと、俺はまるで鈍器で頭を殴られたような衝撃に襲われた。
思わず息を呑んでしまう。少女の服―――恐らくはどこかの学園の制服だろう―――は、縦に真っ二つに裂けていた。
胸元からは下着が露出し、そんな彼女を無理やり押し倒している俺は、パッと見た感じ、確実に性犯罪者っぽい何かになっている。


(ひどいな……)


どんな目にあったのか、想像に難くない。
その証拠に少女の瞳は明らかに恐怖に彩られている。これから殺されるかも、という類とはまた別の、悲しい感情。
抵抗はしているが、それすらも希薄だ。腕力ではこちらが上なのだ、と悟りきっている。


彼女を保護するべきだ――――良心的な自分が語る。
保護するべき人間を一人でも多く保護するのが、自分の基本方針のひとつなのだから。
彼女は殺したほうがいい――――容赦しない自分が説得する。
殺し合いに乗った人間は割り切って容赦しない。それが自分の基本方針のひとつだったはずなのだから。


――――さて、彼女はどちらに該当するのだろう?


「……名前は?」
「………………」
「俺は高嶺悠人、殺し合いには乗っていない。君の名前を教えてくれ」


息を呑む音が聞こえた。どうやら、少し吃驚した様子だった。
だが、警戒している。そしてそれは俺も同じだ。どんな意図だろうと、相手は殺し合いに乗った疑いのある少女なのだから。


「白河……ことり。私も殺し合いには乗ってません」
「何だと!?」


思わず怒鳴ってしまって、ことりがキュッと目を瞑る。
その名前は千影から聞いたとおりの名前。つまり、俺たちが保護する予定の少女の名前だ。
もしかしたら俺は、とんでもない勘違いをしているんじゃないだろうか。
だけど、確認はとっておきたい。もしかしたら名を騙っているだけかも知れないし、殺し合いに乗っている可能性もなくなったわけじゃない。


「……あ~、怒鳴ってごめん。じゃあことり、確認だけど……千影って名前に聞き覚えは?」
「千影さんを知っているんですか!?」
「……やっぱりか。はぁ……」


その反応で、俺は自らの失態に頭を抱えた。
こんなこと、千影に知られたらどんな文句を言われるだろうか。まさか保護対象人物を襲ってしまうとは。
そっと両手を離してことりを解放すると、俺は自分の額に一撃、拳骨をくれたのだった。



     ◇     ◇     ◇     ◇



再び山小屋へと私は戻ってきた。
今度はもう一人、千影さんの仲間と自称する高嶺悠人さんという人と共に。
信用できるかどうか、分からない。あのとき押し倒されたときに心を読めば良かったかも知れないけど、恐怖でそんなことができなかった。
もし、もう一度あの見知らぬ男に蹂躙されるような光景が出てきたら、気が触れてしまうかも知れなかったから。


(だけど、私を解放する理由なんてないし……千影さんのことも知ってたし、大丈夫かも)


そんな想いとは裏腹に、高嶺さんは私の姿を一瞥した後、頬を掻きながら視線をそらした。
今更ながら気づいたが、私はすごい格好をしているんだった。気づいて、顔が真っ赤に紅潮していくのが分かった。


「その……ことり、その格好は、目に毒かも」
「あ、あはっ……色々、ありまして」


苦笑するしかない。高嶺さんも私も、ようやくそんなことに気づいた。
本当に色々あったんだ。赤坂さんの服を探しているうちに、色々あって……今は私が服を探すなんて、ユニークなことだ。
まったく……本当に……面白い……こと……だ。


「す、すごい格好ですよね……ほ、ほんとに……色々、あったんです」


笑おうとして、笑えない。
色々な気持ちがごちゃ混ぜになってしまって、どうしようもない感情に心が縛り付けられてしまって。


「あ……」


そんな私がよほど哀れに見えたのか、それは分からない。
高嶺さんは突然立ち上がると、私に何かを渡してきた。
私の前に差し出されたのは、高嶺さんがさっきまで着ていた上着だった。
所々焼けてしまっている。私がキョトンと差し出されたそれを見ていると、高嶺さんは複雑そうな顔をしたまま言った。


「かなり汚れてボロボロだけど、使ってくれ。俺のサイズならことりの体、全部包めるはずだから」


半分、押し付けるような形で私に上着を羽織らせる。
これを着ていれば、もう下着の露出なんて気にしなくていい。少なくとも、新しい服を手に入れるまでのものにはなってくれる。
高嶺さんの瞳を見上げると、申し訳なさそうな顔で私に語りかけてくれた。


「その……何があったかは聞かない。だけど、情報は欲しい。できる限りのことでいいから教えてくれ。
 ああ、だけど、なんていうか……ごめん、俺には気の利いた言葉が出てこない。だけど、無理はしなくていいからさ」


その言葉だけで、十分だった。
赤坂さんといい、高嶺さんといい、どうしてこんなに優しいんだろう。
私は高嶺さんを人殺しと勘違いして襲おうとしたのに、こんなにも精一杯の優しさが無性に嬉しかった。


「えっと……そうだ。お腹すいてないか? 確か俺の支給品の中に……あった、バニラアイス」
「あ……」
「甘いものは好きかな?」


こくり、と頷いた。デイパックから飛び出てくる小型冷蔵庫のシュールな光景に少し驚いていたりする。
それから、二人でバニラアイスを食べながら少しずつ情報交換をしていくことになった。



     ◇     ◇     ◇     ◇



まず、驚いたのが首輪に盗聴器がついている件。
さっきの放送のとき、どうやら知らずに挑発していたらしい。少し冷や汗を流しながら、筆談を行うことにした。
アイスクリームは甘くて、頭が少しキーンとして、懐かしかった。少しだけ涙が出た。


まずは私の話から。
神社で千影さんと再会の約束をしたこと。智代という参加者が殺し合いに乗った参加者を殺し尽くすと言っていたこと。
そして赤坂さんとの出逢いと別れ。
私が他の参加者に強姦されかけ、舞によって救われて。でも舞に殺されかけ、赤坂さんによって助けてもらったこと。


高嶺さんはそんな私に大変だったな、と慰めながらバニラアイスのお代わりを差し出した。
多分、言葉が見つからないんだと思う。私は無理やりにでも明るい笑みを見せながら、舞の時のように返礼としてバナナを差し出した。

それと心が読めることも告白した。
まず信じられるかどうかが不安だったけど、高嶺さんは有り得ない話じゃないと信じてくれた。


「ま、俺の知り合いのことを考えると……一概に有り得ない、なんて言えないかな」
「どんなお知り合いが?」
「水の妖精だったり、雷ビリビリの女友達だったり、ロリペド生臭坊主だったり、マナを寄こせとうるさい剣だったり……あ、涙出てきた」
「え、えっと……大変だったんですね」


次は高嶺さんの話から。
どうやら参加者たちで対主催者連合を結成しているらしい。参加者は高嶺さんを含めた8名だ。
高嶺さん、千影さんに加えてハクオロ、二見瑛理子、国崎往人、衛、宮小路瑞穂、アセリア。皆、主催者に対抗するために行動している。
瑞穂さんとアセリアさんとは喧嘩別れのような形になってしまったけど、困っている人のために動いているのだから問題はない。


そしてゲームに乗った参加者の情報。
高嶺さんを火攻めにした参加者の身体的。そしてネリネという参加者のことや、アセリアさんが舞と交戦したことも。
また、高嶺さんはこんなことを尋ねてきた。


「エルルゥ、倉田佐祐理、エスペリア、アルルゥ、神尾観鈴。彼女らの名前に心当たりはあるかな?」
「え……?」


それは、既に放送で死んでしまったとされる参加者たちの名前。もっとも、佐祐理さんは生きているらしいけど。
とにかく、その質問に私は答えることにした。


「あの、佐祐理さんのことなら……私の友達の、一番の親友だったそうです……」
「そう、か……」


少し天を仰ぐようなため息。
それを不審に思い、その意図を問いかけようとした矢先、私は高嶺さんの言葉に耳を疑った。


「落ち着いて聞いてほしい。この五人は既に死んでいるわけだけど……殺した犯人が、俺たちの仲間になっている」
「えっ……!?」
「複雑な感情はあるだろうけど、どうか今は恨みを忘れて欲しい。一人でも多くの仲間が必要なんだ。裏切らないのは俺が保障する」


それは、一体、どういうことなのだろうか。
意味は二つある。対主催者連合の人間が、人殺しを肯定していたというのだろうか。そんな莫迦な話があるのだろうか。
それに、殺したって……佐祐理さんは生きているはずなのに。一体、何がどうなっているというのか……


「あ、あの……さ、佐祐理さんは生きてるって……鷹野三四が、そう言われて……私の友達が、舞が……」
「舞って……アセリアと戦った女子高生のことか!ということは……ことり、詳しく教えてくれ!」
「え、えっと……佐祐理さんは生きてるって主催者が教えて、助けて欲しければ全ての参加者を殺せと言われたって……」
「っ……なんて、こったっ……!!」


悔しそうに高嶺さんが床に拳を叩きつける。
これはつまり、どういうことか。まさか、舞は騙されているだけなのか。主催者によって口車に乗せられているだけなのか。
そんな……そんな酷いこと、有り得ない。舞がどんな決意のもとでその選択を選んだのかも、分からないのに……!


「ほ、本当に佐祐理さんは死んだんですか? な、何かの間違いだとかっ……」
「いや、俺たちで確かに公園に埋葬した。間違いなく、佐祐理は死んでいるんだ。だから、これは―――!」
「舞は、ただ騙されているだけ……?」

最悪のシナリオだった。
舞はその口車に乗せられ、今も命を懸けて人殺しをしている。だというのに、本当はもうそれも無駄なんて。
説得しないと、舞を。そんなことをやる意味なんてないことを伝えないと。


「ことり、俺と一緒に来てくれ。このことを、他の仲間にも伝えないといけない」


手を差し伸べられる。
この手を掴めば、私はまた誰かに護ってもらえる。少なくとも一人よりは安全な状態になれる。


「…………です」
「ことり……?」


だからこそ、容易にはその手を掴むことができなかった。


「ダメ、なんです……高嶺さん、私……一緒には行けませんっ……」


どうして、と問う高嶺さんの怪訝そうな顔。
すごく申し訳ない気持ちになる。本当ならあまり言いたくない自嘲の言葉が、次から次へと口から飛び出していった。



「高嶺さん、私と一緒にいたら、ダメなんです……それだと、きっと後悔する。
 このまま高嶺さんと行動を共にしたら、高嶺さんもいなくなってしまうんじゃないかって……そう思うんです。
 私が足手まといだから、高嶺さんや赤坂さんのような優しい人たちが死んでいく……私だけ、のうのうと生きているっ……


 私はまるで――――疫病神みたいな存在じゃないですか。


 頑張る、頑張ろうと何度も決めるんですけど……それでも怖くって。
 さっきだって高嶺さんを誤解してしまうし、それに私はひどい人間なんです。足手まといになると分かってても、逢いたい人がいるんです。
 諦めたはずなのに、その人に逢いたくて高嶺さんを利用しようとするかも知れない……それに、それに……」



ダメだ、さっきから言動が支離滅裂になってしまっている。
感情がうまく制御できない。こんなこと、高嶺さんに話してもしょうがないのに。また、自己嫌悪の感情が支配する。

なんて非道、なんて無様。
朝倉くんに逢いたい。恋をしていた、好きだった人に逢いたい。
そんなどうしようもない、今は考えるべきではない感情が氾濫して。私は本当にどうしようもなくなってしまって。


「だから、私は……!」
「ことり、まずはその考えから改めてもらうぞ」
「え……?」


高嶺さんはそんな言葉と共に、手を差し出した。
握手しろ、というのか。そんな疑問が一瞬の後に崩壊する。これはつまり、こういうことなのだ。


『俺の心の中を覗いてみろ』


私の特異能力を全て承知した上で、自分の伝えたいことは全てこの中にあると言っている。
どんな光景が広がっているのか、それは分からない。
だけど、断れる雰囲気ではなかった。何より、そうしなければいけない、と高嶺さんの瞳が語っていた。


「……いいんですか?」
「俺を信用してもらうためにも、と言いたいところだけど。もしかしたら逆効果になるかもしれない」


それでもいいなら、と。
そんな高嶺さんの覚悟に後押しされるような形で、私は高嶺さんの心を読み取らせてもらった。

     ◇     ◇     ◇     ◇



「うっ……うう……」


私はさっきまで吐いていた言葉に後悔していた。
高嶺さんの心を読み取る際に、少しずつ高嶺さんは自分の過去について話してくれた。

両親を失い、引き取り先でも両親を失ったこと。
ただ唯一の肉親である妹や親友も含めた人間と共に、異世界へと飛ばされてしまったこと。
妹を人質に取られ、殺し合いを強要されたこと。

目つきの悪い青年が高嶺さんに言葉を投げかける。


―――――疫病神、と。
―――――お前のせいで周りの人間が不幸になるんだ、と。



「あ……あああ……」


悲劇のヒロインを気取っていたつもりはなかった。
だけど所詮は、命ある者の甘えだった。目の前で気まずそうにしている高嶺さんは、もっと酷い現実の中を生きてきたんだ。
疫病神と蔑まれて、大切な肉親のために何人もの人らしき存在を殺してきた。
私なんかよりもずっと悲痛な人生。同じぐらいの年なのに、彼はそんな生活に身を置くしかなかったのだ。


「わ、たし……なんて、ことを……」
「ことり、君は疫病神なんかじゃない。そして足手まといでもない」


静かに語る高嶺さんの声が、妙に荘厳に聞こえてしまう。
反論は一切、許されなかった。私ごときが口を挟めるような雰囲気ではなかった。


「衛って子がいたんだ。この島に来て、ずっと俺のパートナーとして一緒にいた女の子だ」


知っている、それも高嶺さんの心から流れてきた。
まるで大切な妹と同じような存在。決して武器をとって戦おうとはしなかったけど、それでも問題はないと高嶺さんは口にしていた。
きっと、私と赤坂さんの関係とよく似ている。その子は本当に前向きで、強い人だった。


「衛もことりと同じように、自分を責めていた。護れなかった、足手まといだった、迷惑ばかりかけていたんだって。
 だから、俺はあの時と同じように説得するぞ。それが正しいことだって信じてるから。


 ことりが責められることなんて、何もない。
 少なくとも赤坂って人は、ことりに救われていた。足手まといなんて思わなかった。だから命を懸けられた。
 ことりが、ことりだったから赤坂さんは護ろうとしたんだ。

 衛も泣いていた。夢の中で死んだ二人の知り合いに逢ったんだって。
 俺には残念ながら経験はないけど……きっと、思えばそれが形になるかも知れないな。ことりにもそんな経験、ないか?」


あった。赤坂さんは逢いにきてくれた。
衛って女の子と私は境遇まで良く似ていた。ただひとつ、私は弱くてその子は強かった。


「忘れろとは言わない、悔やんでもいい。
 でも、自分を責めるな。誰かのためなんて強迫観念に押されて行動しようとしないでほしい。
 救ってもらった命は、二人分尊い価値があるんだ。そこで自分を責めることは……赤坂って人が選んだ道を侮辱することなんだ。

 きっと、ことりにはもう分かっている。
 それでも自分が許せないから、そんな風に自分を傷つけようとするんだ。だけど、それを赤坂さんが望むとは思えない」


言葉が出なかった、反論する気概すらなかった。自然に涙が頬を伝っていた。
高嶺さんは『俺にはこんなことを言う資格なんてないかも知れないけど』なんて気持ちのまま、私の心を救おうとしてくれていた。


「優しい人だったんだろ、赤坂さんは」
「っ……っ……は、い」
「逢いたい人はまだ生きてるんだろ? いいじゃないか、それで。利用するんじゃなくて協力するんだ。それでいいじゃないか」
「うっく……はいっ……」
「ことりは足手まといなんかじゃない。誰かの心の助けになれるんだ。今度は、その逢いたい人の助けになればいいじゃないか」


私の浅はかで愚かな願いを、高嶺さんは全肯定してくれた。
足手まといなんかじゃない。自分を責めるな。朝倉くんの助けになってあげられるんだ、と。
今の私が心の底から欲しい言葉を、ひとつひとつ語ってくれる。
絶対的な赦し。罪と思い込んだものへの救罪。なんて、優しい言葉なんだろう。ただ、涙するしかなかった。


「っ……逢いたい、朝倉くんに逢いたいよぉ……」
「ああ、そうだ。それでいい。朝倉って奴を捜すためにも、千影と合流しよう。ことり、それでいいな?」
「……はい、はいっ……!」


涙は後から、後から零れてくる。
不幸だった? そんなはずがない。私は不幸なんかじゃ、絶対にない。
赤坂さんと出逢い、護ってもらった。高嶺さんに優しく諭され、赦してもらった。こんな私が不幸なはずがない。


朝倉くん、逢いたいよ。
私はこんなにも幸せ。朝倉くんはどうかな、私のように頼りになる人と一緒にいるかな。
きっと、また逢える。朝倉くんも音夢さんを失って悲しいはず。さすがに、その後釜に入ろうなんてことは思わない。
でも朝倉くんが私と同じように苦しんでいるのなら、今度は私が支えになってあげないと。とは言っても、朝倉くんは強いから大丈夫かな。


「さあ、まずは千影に逢いに行こう。目的地はホテル、行こう」
「はい!」


私たちは荷物を取りまとめ、しばらくお世話になった山小屋を後にすることを決めた。
その途中、高嶺さんに護身用としてハリセンを差し出された。
何でも振ると雷が出せる優れものらしい。半信半疑だったが、断る理由はない。相手が絶対に死なない強力な装備だそうだ。
試し撃ちをしたかったが、あまり力が残ってないらしく。もって後3発らしい。大事なところで使うように、と言われてしまった。


「それにしてもことり、結構荷物が多いな……」
「はい……神社で死体を見つけて、悪いと知りつつデイパックを回収してきました」
「まあ、しょうがないよな。ハリセンの代わりに幾つか、俺のデイパックに入れてもいいかな」
「ええ、どうぞ」


改めて支給品を物色する。
本当に色々と入っている。そういえば懐中電灯は回収したけど、あの誰かのリボンだけは壊れたランタンと一緒にあのままだ。
私の持っている銃を高嶺さんは貸してくれ、と言われて渡す。弾数を確認して、顔をしかめていた。


「ことり、2発しか入ってないぞ……これで誰かと戦おうなんて論外だ。替えの弾を貸してくれ」
「は、はい」


高嶺さんは銃を扱いは慣れてないらしく、四苦八苦しながらも銃に弾を装てんしてくれる。
他にも色々な支給品をしらみつぶしに捜し、いくつかは高嶺さんが持ち歩くことになった。


「これは……重いな。でもアセリアなら扱えるかも知れない。これを貰おうかな、後は懐中電灯と発炎筒を」
「そういえば高嶺さん、これがなんだか分かりますか? 鉄塔の近くで拾ったんですけど……」
「虹色の羽? いや、心当たりはないけど……珍しい色の鳥でも、この島にはいるのかもしれない」


荷物の整理が終わる。
ナイフの柄だけとか、昆虫図鑑とか、虹色の羽とか必要ないものは捨てようかと思ったが、せっかくなのでデイパックの中に詰めることにした。
デイパックの中に、武器を入れたデイパックと不必要なものを入れたデイパックを入れた、という形だ。


その後は簡単に軽食を取って、その後でホテルへと向かうことが決まった。
私は朝倉くんを捜し、舞を説得する。佐祐理さんはもういないんだって、それを伝えなくちゃいけないから。
何度も心の中で、くどいほどに呟いた言葉。それをもう一度、反芻する。それが私に勇気をくれるのだから。


赤坂さん――――私、頑張ります。


遠い遠い空の向こう側、星空が輝く向こうの世界。

あの優しい笑顔で見えた気がした。




追記。


「そうだ、ことり。これも貰っていいかな、ちょっと珍しくって。七色のパンだなんて」
「えっ……え、え、ああああ……た、高嶺さん、それは……兵器ですよ!」
「うん? 平気……? まあ、いいや。とにかくいただきます」
「あ、あわ、あああ……」


ぱくり、私が止めるのも聞かず、あのバイオ兵器を高嶺さんは口にしてしまった。
ドキドキしながら、私はその様子をじっと観察する。怖いもの見たさというものかもしれない。


「うーん……外はゴワゴワ、中はネバネバ。不思議な食感の上に重なるジャムの交響曲が……んごぱっ」
「た、高嶺さん!」


あ、なんか既視感(デジュヴ)。


「しっかりしてくださいっ、まさか毒でも……?」


食べた私が言うのもなんだが、有り得ない話と言えないところが恐ろしい。
高嶺さんは奇声を上げたあと、少し俯いたまま静止している。恐る恐る尋ねる私に、彼はこんな言葉を口にした。


「……いや、何の問題もない」


ああ、それは良かった。どうやら致死量に至るほど、酷いものじゃなかったみたいだ。
冷静に考えれば当然なんだけど、私もあれをほんの一口食べただけで、ダウンしてしまったから何とも言えない。
とにかく、さすがに百戦錬磨の高嶺さん相手には、さほど効力を発揮することはできなかったのか。
さすが高嶺さん。私は一口でもダメだったのに、残る半分を全部食べても平気だなんて!ある意味、痺れるし、憧れた。


「あの川を渡ればいいんだろう?」


それはきっと三途の川だ。
そんなことを漠然と思い浮かべた瞬間、洒落にならない事態であることに気が付いた。
私は必死になって高嶺さんの背中を摩りながら呼びかけるが、ぶつぶつと高嶺さんは不穏の言葉を続けていくだけだ。


「だめえっ、その川を渡っちゃダメーーーっ!!!」
「やあ、エスペリア。そっちは賑やかだな。他の参加者の夢に潜り込むだって? 俺も混ぜてくれよ」
「混ざっちゃダメですっ、赤坂さんの二の舞です!!!」


なんてことだろう。まさか一撃で致命傷なんて。凄まじい切れ味だ。
明後日の方向を向きながら悠人さんは独白している。
というか、そのエスペリアという名前は既に亡くなった犠牲者の名前だ。これは本格的に笑っていられない。
こうなれば心臓を何度も叩いて何とかするしかない。ただ、無心に高嶺さんに戻ってきてもらうため、私は慌てて心臓マッサージを展開した。


「うん、渡し賃? 六万円だって? 莫迦なことを、三途の川の渡し賃は六文と相場が決まって……はっ!!?」


よかった、蘇生成功。
こうして命がまたひとつ、救われたのでした。




【C-5 森(マップ東)/1日目 夜中】

【高嶺悠人@永遠のアセリア -この大地の果てで-】
【装備:トウカの刀@うたわれるもの、ベレッタM92F(9mmパラベラム弾13/15+1)】
【所持品1:支給品一式×3、バニラアイス@Kanon(残り6/10)、予備マガジン×4、暗視ゴーグル、FN-P90の予備弾、電話帳】
【所持品2:カルラの剣@うたわれるもの 散りゆくものへの子守唄、懐中電灯、発炎筒(×2本)、単二乾電池(×2本)バナナ(台湾産)(1房)】
【状態:疲労小程度、手足に軽い火傷(行動に支障なし)、左太腿に軽度の負傷(処置済み・歩行には支障なし)、「時詠」に対する恐怖、土と灰と煤で全身に汚れ】
【思考・行動】
基本方針1:千影とことりを守る
基本方針2:なんとしてもファンタズマゴリアに帰還する
0:ことりと共に時間までに東へ移動し、ホテルに向かい千影と合流する。その後病院へ
0:臨死体験なんてチャチなもんじゃ、断じてなかった……頭がどうかなると思った
1:北上した襲撃者を警戒
2:国崎往人に対するやり切れない感情
3:衛、千影を含む出来る限り多くの人を保護
4:ゲームに乗った人間と遭遇したときは、衛や弱い立場の人間を守るためにも全力で戦う。割り切って容赦しない
5:ネリネをマーダーとして警戒
6:地下にタカノ達主催者の本拠地があるのではないかと推測。しかし、そうだとしても首輪をどうにかしないと……

【備考】
※バニラアイスは小型の冷凍庫に入っています。
※衛と本音をぶつけあったことで絆が強くなり、心のわだかまりが解けました。
※アセリアに『時詠』の事を話していません。
※千影が意図的に西へと移動したことに気付いていません。方向音痴だったと判断。
※ことりが心を読む力があることを知りました。



【C-5 森(マップ東)/1日目 夜中】



【白河ことり@D.C.P.S.】
【装備:今日子のハリセン@永遠のアセリア 風見学園本校制服(縦に真っ二つに破けブラジャー露出) その上から悠人の上着を羽織る(所々焼け焦げている)】
【所持品1:支給品一式x4 バナナ(台湾産)(3房)、発炎筒(×2本)、懐中電灯、単二乾電池(×4本)】
【所持品2:竹刀、ベレッタ M93R(21/21)、鉈@ひぐらしのなく頃に祭、クロスボウ(ボルト残26/30)、ヘルメット、ツルハシ、果物ナイフ】
【所持品3:虹色の羽根@つよきす-Mighty Heart-、ベレッタ M93Rの残弾1、 昆虫図鑑、.357マグナム弾(40発)、スペツナズナイフの柄 】
【状態:疲労(小)、精神的疲労、レイプ未遂のショック(やや薄れ始めている)、軽い頭痛】
【思考・行動】
基本方針:ゲームには乗らない。最終的な目標は島からの脱出。
0:た、高嶺さん……だから、それはよくないって言ったのに……
1:悠人と共にホテルに行き、千影と合流。
2:朝倉純一、千影の探索。
3:仲間になってくれる人を見つける。
4:朝倉君たちと、舞と、舞の友達を探す。
5:千影の姉妹を探す。
6:舞の説得。
7:服が欲しい。

※虹色の羽根
喋るオウム、土永さんの羽根。
この島内に唯一存在する動物、その証拠。

【備考】
※テレパス能力消失後からの参加ですが、主催側の初音島の桜の効果により一時的な能力復活状態にあります。
 ただし、ことりの心を読む力は制限により相手に触らないと読み取れないようになっています。
※ことりは、能力が復活していることに気づきました。
※第三回放送の時に神社に居るようにする(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化) つもりですが、 状況によってはどうなるか分かりません。
※坂上智代から、ボイスレコーダーを発端とした一連の事件について、聞きました。
※音夢ルートからの参加
※悠人を強く信頼、衛にも興味。
※エルルゥのリボンはC-5地点に放置。すぐそばに壊れたランタンがあります。



154:憎しみの果てに 投下順に読む 156:破滅の詩。
154:憎しみの果てに 時系列順に読む 156:破滅の詩。
154:救心少女夢想(前編) 白河ことり 168:悪夢の夢は終わって始まる(前編)
154:救心少女夢想(前編) 高嶺悠人 168:悪夢の夢は終わって始まる(前編)






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