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求め、誓い、空虚、因果(後編) ◆TFNAWZdzjA


「っ……!!」


アセリアは驚愕した。目の前の青年に目を見開いた。
本当に酷い状態だ。左腕は不自然に折り曲がり、もう動くことはないだろう。己の血と殺してきた者の返り血に染まった彼は修羅にすら見える。
だが、瑞穂にはそうは見えなかった。数時間前に戦った往人は、紛うことない羅刹の者だったはずだ。

それが今はどうだ。血だらけで戦うその姿には恐怖するし、困惑する。それは変わらないのに……どうしてその姿が尊いなどと思ったのだろう。


「立ち上がるのなら……また、倒すだけっ……!!」
「……来いっ!」


再び戦いが始まった。往人は銃を構え、アセリアは鉄パイプを振るっている。
二見瑛理子は自分にできることを模索する。銃に慣れていない者がトカレフで援護するなんて自殺行為だと理解している。
ならば、自分ができることなどひとつしかない。それまで往人には持ちこたえてもらわなければ。

「私の名前は瑛理子、二見瑛理子よ。瑞穂、でよかったかしら?」
「……はい。瑛理子さん、貴女は」

若干、警戒している様子の瑞穂に向かって、瑛理子は自分の唯一の武装である銃を放り投げた。

「は……?」
「抵抗する気なんてないわよ。殺し合いに乗っていないもの同士で殺しあうなんて、馬鹿馬鹿しいでしょ?」


両手を軽く挙げながら、瑛理子は薄く笑う。
その言葉は展開次第ではこれから戦おうとしていた瑞穂を嗜めたのか、それとも未だ憎しみに囚われているアセリアへ向けたものか。
強い、意志のある瞳を瑞穂は覗き込む。瑛理子はポニーテールを風に流しながら。


「だから協力して。こんな馬鹿げた茶番劇は終わらせるわよ」


不敵な表情で、そんな言葉を口にした。



     ◇     ◇     ◇     ◇



(こいつが……この男が……!)


アルルゥだけじゃない。
エスペリアもアルルゥの姉も殺していた。それだけの悲しみを振り撒いていた。
もう一切の躊躇もしない。辞世の句とやらを残す暇すら与えない。アルルゥたちが味わった痛みを少しでも味わわせてやる。


(くっ……体が思うように、動かない……)


またもや疲労は溜まる一方だ。
クニサキユキトが構えた銃。軌道も見えるし、十分に避けられる。間違いなく、以前に戦ったときよりも弱い。
それでも仕留め切れないのはこの疲労という名の蛇のせいか。ミズホの言うとおり、体力の回復はしておくべきだったのかもしれない。
だけど、目の前には明確な敵がいる。退く理由はない。一撃で、一撃で決めてやる。
でも、武器が重い。一振りが遅いからクニサキユキトも避け続けられる。こんなとき、『存在』があればこの程度の敵―――!



     ◇     ◇     ◇     ◇




(俺はもう、立ち止まらない)


右手に構えた相棒、コルトM1917の引き金を引く。
多くの人間がこうすることで死んでいった。エルルゥ、佐祐理、エスペリア、アルルゥ、そして―――観鈴。
彼女たちにどう償えばいいのだろう。そんな疑問と罪悪感が常に胸を軋ませた。
きっと俺を恨むだろう。天国というところがあるのなら、きっと俺は地獄行きだ。死んで詫びることすえ出来ないだろう。


今、ようやく思い知った。俺はどうして人殺しを肯定したのかを。
俺は観鈴のため、という大義名分の下に罪を重ねた。つまり譲れない物、護りたい者、俺なんか蚊帳の外におけるような大切なもののために。
だから殺してきた少女たちの再三の説得にも応じなかった。そうして人殺しを続け、そんな無様な人形劇をあいつは止めてくれた。
罪を償うために、観鈴の最期の願いを果たすために……そう心に言い聞かせてきたはずだ。
だけど、心の何処かで俺はきっと終わっていたのだ。どうしようもない無力感と押し潰されそうな罪の意識。それが俺から生きる気力を失わせていた。



『立ち上がりなさい、国崎往人っ!!! こんなところで死んでっ……勝手に自分の罪を清算しようとするなんて許せないっ!!』



それを、あいつが吹き飛ばしてくれた。
まるで脳天に鉛弾を受けたかのような衝撃。俺のあり方、その存在全てを叱咤する叫び。
今更ながらようやく、自分は莫迦だったのだ、と思い知った。


さっきまでの俺、倒れて全てを諦めていた国崎往人に問おう。
観鈴の最期の求めは、お前にとってその程度だったのか? 命を捨ててまで目を覚まさせてくれたあいつの言葉はそれだけしか響かなかったのか?

エルルゥ、アルルゥと家族同然だったハクオロは逢って一日も経っていない観鈴の言葉を受け入れた。
本当は殺してやりたいほど憎んでいるのに。
エスペリアと戦友だった高嶺悠人は、そんなハクオロの決意を無駄にしないために鉄拳だけで俺を許した。
それだけで済ませたくはないだろうに。
佐祐理の知り合いにはまだ逢っていない。謝罪しなければならない。こんなにやることがあるのなら、心を空虚にしている暇なんてないはずだ。


「イャァァァアアアッ!!!!」
「うぉぉおおおおおっ!!!」


観鈴、お前には謝らないといけない。また約束を破ろうとした。もうそんなことはしない。
二見、お前には感謝をしてもしたりない。俺は見捨てられても文句は言えなかった。それなのに助けてくれて、大切なことを思い出させてくれた。
俺は死ねない。ゲームの参加者を一人でも多く助けるまでは死なない。
罪は償う。多くの人たち、困っている人たちを助ける。主催者を打倒する、どんな甘言も受け入れない。
そうして全てが終わった後、俺はお前の母親に謝りに行く。もしそれでもまだ生きていたなら……今度は困っている人を助けるための旅を始めるよ。


「ぐあっ……ぁ、まだだぁぁああああっ!!!」
「っ……しつこい……イャァァアアッ!!!!」


だからどんなにボロボロになろうとも、俺は生き残る。もちろん優勝という形ではなくて、仲間と脱出という形で。
見ていてくれよ、観鈴。最期の願いだけは必ず聞き届ける。
だからここで命を謙譲してやるわけにはいかない。
俺はアセリアから距離をとるためにコルトM1917を構え、引き金に指の力を入れて発砲。警戒したアセリアは再三に渡る距離を――――


「っ……ヤァァァアアアッ!!!」
「莫迦なっ……!?」


取らなかった。距離を一気に詰められ、2mもの巨大な鉄パイプが宙を舞う。
莫迦な、唯一の武器を放り出すなんて。そんな驚愕、その隙をアセリアが見逃すわけがない。
コルトM1917を構える。このままでは殺されるという判断で、アセリアの胴体部分に狙いをつけようとして……止めてしまった。
以前の俺のように率先して殺して回る奴ならともかく、こいつは正しき怒りを胸に俺の命を奪おうとしている。その一瞬の停滞が勝敗を分けた。


アセリアの腕が銃を掴んでいた俺の右手を掴み、そのまま捻りあげられる。
からん、と敗北を告げる音。銃を取りこぼし、そのまま俺は地面に倒される。アセリアも俺も共に武器はない。
だが、現実は残酷で俺の予測は間違いだらけで、そしてどうにも上手くいかない。せっかくの誓いがこうして崩されようとしている。

アセリアの服に仕込まれていたのは、短い鉄串。以前酷使したことで折れた鉄串よりも短い……ただのナイフよりも使えない支給品。
それが今はどんな凶器よりも危険なモノに見える。
どんなに脆弱な武器だろうが、アセリアの膂力で首に突き刺されてはどうしようもない。
そして往人にはそれを防ぐ手段はなかった。押し倒されたまま、唯一動く右腕を封じられ……そのままトドメの一撃を享受する。


両腕が使えないが―――――まだ両足が残っているだろう!


咄嗟の判断で右足をアセリアの腰にぶつける。僅かに体勢が揺れ、鉄串は僅かに右に逸れて頬を削ぐ。
次は頭だ。右腕に込められた力が緩むの同時に振り払い、アセリアの青い瞳めがけて頭突きを食らわせた。
低い悲鳴、脳震盪を起こした刹那のタイミングでアセリアのわき腹に拳を叩きつけた。空気を吐くような呼吸と共にぐらりとアセリアが横に吹き飛ぶ。


「悪あがき……っ!!」
「届けっ……!!!」


馬乗り状態になっていたアセリアを退かし、地面に落ちた愛銃コルトM1917に手を伸ばす。
それを許すアセリアではなかった。弾き飛ばされた反動で後退し、そのまま一度は放棄した鉄パイプを拾うと、それで銃に手をやる俺を牽制した。
動けなかった。銃はもう間に合わない、だったらあの鉄パイプを回避する方法を模索しなければ―――――



そこでようやく、この戦いは終わりを告げた。



時間切れ、タイムリミットだ。俺が最後まで信じた、アセリアに唯一勝てる最期の賭け。
アセリアの鉄パイプは髪の長い女子高生―――瑞穂と言ったか―――が構えた斧によって受け止められ。
そしてアセリアの背後には、トカレフをアセリアの後頭部に突きつけた二見の姿があった。



     ◇     ◇     ◇     ◇



「ミズホ……? どうして……?」
「アセリアさん……私の誓いは殺し合いを、こんな悲しい出来事を終わらせること、です……」
「だからっ……今こうしてクニサキユキトをっ……ユートやハクオロが臆病風に吹かれて、こいつを殺さないならっ……!」


唯一の味方にさえ邪魔をされて、アセリアは親に食って掛かる子供のように喚いた。
その言葉、数々の尊い決意。私情を捨てて願いを取った彼らを侮辱するような言葉に、とうとう彼女は切れた。


「まずは貴女からね」


バチン。
右の頬を何の脈絡もなく殴られた。


「次に……往人、貴方」
「ぐふあっ!!?」


文句を言おうとアセリアは瑛理子に振り向くが、そこでは敵対している往人が同じように殴られていた。
若干、威力が自分よりも高い。パーじゃなくてグーだった。味方じゃないのか、などと様々な疑問に思考が硬直した。
その隙を狙ったのか、はたまた偶然か。瑛理子はもう一度アセリアのほうへと歩み寄って。


「そして、もう一度、貴女よ」
「っ……つっ!」


右の頬を叩いたのなら左の頬も叩いておかなくては。
そう言わんばかりにもう一撃、平手打ちを左頬に食らって、さらに混乱するアセリアに追い討ちをかけた
瑛理子はアセリアの青い瞳を真っ直ぐに見据えながら、言葉を選んでゆっくりと語りかけた。


「……ねえ貴女、アセリアって言ったかしら。貴女はどんな気持ちで私が往人と一緒にいると思う……?
 貴女、言ってたわよね? 仲間をこいつに殺されたって。私もよ。私は数時間前、ここで出逢った仲間で、大切な友達だった人を往人に殺された。
 第三回放送、聴いたでしょ?神尾観鈴……いつも笑顔で、明るくて……私たちのチームの太陽のような存在だった……」



息が詰まる思いだった。
瑛理子の言葉には残酷な現実と事実だけを真摯に伝えようとする感情。
どれほど観鈴という人物を大切に思っていたのか、それが痛いほどに伝わってきてアセリアは一歩、後退していた。



「ねえ、貴女はどう……?往人に殺された人は、大切な人だった?」

「エスペリアは……私の戦友だった。スピリットだから、戦って死ぬことも当たり前だったけど……それでも殺した奴が、憎い。
 アルルゥは私に、戦い以外のことを教えてくれた……空虚だった私に、感情を教えてくれた。
 殺されていいはずがなかった。
 まだ子供で、私たちスピリットとは違って人間で、これからの未来があったのに……クニサキユキトはそれを奪ったっ……」



それはきっと宝物だった。
カルラに諭されて戦い以外のモノの存在を示唆されてから、探していたそれをアルルゥは教えてくれた。
あの蜂蜜の味は格別だった。エスペリアが甲斐甲斐しく作ってくれたシチューと同じ、暖かい何かがそこにあったのだ。
なんと言う皮肉か。あれほど関心を見せなかった日常が、こんなにも大切な宝物になろうとは。


「話は変わるけれど。神尾観鈴はね、国崎往人が命を捨ててでも護りたい人だった。この意味がわかるかしら?」


この言葉には驚くしかなかった。
アセリアは往人が殺し合いをする理由を知らなかった。知る必要がないと思っていた。敵なら、倒すだけなのだから。
命を捨ててでも護りたかった、つまり観鈴を優勝させようとした……なのに、その彼女を往人が殺す理由といえば。

「土壇場で自分の命が、惜しくなったのか……」
「違う……」

往人がそればかりは違う、と否定する。
確かに馬鹿馬鹿しい愚かな選択だったが、それでもそれを冒涜されることは殺してきた少女たちにも失礼だと思った。
何より、その答えだけは勘違いさせるわけにはいかなかった。それだけは絶対に違うと否定しなければならなかった。

「違わない、きっとそうだ……優勝させたいなら、何でそのミスズを殺す……こいつは結局自分が一番可愛くてっ……!」
「「違うっ!!!」」


今度はもっと強い否定。それが二人分、一喝するようにアセリアに言葉の波をぶつけた。
それだけは言わせてはならない。
どんな汚名を引き受けても、どんな罪状を被ろうとも、それだけは真っ向から否定しなければならないことだ、と思った。
往人と瑛理子、二人分の拒絶にアセリアの体が小さく震えた。





「観鈴はね……自分の命を懸けて、往人を改心させたのっ……私の仲間を庇って銃の前に飛び出して、そのまま」
「……!」


それはアルルゥの死に際とまったく同じ。今度はアセリアだけでなく瑞穂までが震えた。
瑛理子は畳み掛けるように、切々と言葉に感情を乗せないように。語りかけるように、問いかけるように言霊を紡いでいく。


「そのとき、自分を撃った相手を見ながら、観鈴は何て言ったと思う? 往人に対する恨み言を言ったんだと思う?
 違うわ……『これからも笑ってください……ずっとずっと幸せに……笑顔で……生きてください』……そう言ってた。

 自分を撃った恨み言もなく、ただ往人に殺し合いをやめさせるために。最期の間際で指きりをして、もう人殺しなんてしないって。
 この願いを、死んでしまう直前で残した求めを……アセリア、貴女に否定する権利があるとでもいうの?

 いいえ。貴女に往人を殺す理由があったとしても、観鈴の最期の願いを殺す権限なんて存在しない。
 あったとしても、そんなことは私が許さない。往人には罪を償ってもらう、何人もの人を殺した罪悪感でボロボロになっても、生きていてもらうわ」


それが観鈴の亡き骸の前で、葬るときに誓った瑛理子の決意。
往人を生かしきる。死んでも、殺されても恨み言ひとつ漏らさないで『笑ってください』と言った観鈴の願いを生かしきる。
それを殺す存在なんて赦さない。それが観鈴のために、親友のために何ひとつできなかった瑛理子が決めたこと。


「だがっ……クニサキユキトは、アルルゥとエスペリアの仇っ……許すことなんてできない!」
「私だって許さない。簡単に許してなんかやらない。貴女も私と同じように、彼を永遠に許さなければいいわ」


吐き捨てるように言い放って、瑛理子は往人のほうへと視線を向けた。
手を差し伸べて立ち上がらせながら、瑛理子は短く言葉を投げかける。これだけで十分だろうという信用のもとに。



「往人。今、ぶたれたことに関して文句はある?」
「いや……ない。助かった」


あの言葉がなければ、瑛理子の助けがなければ、今頃間違えたまま殺されていた。
これでは観鈴にも、殺してきた少女たちにも怒られてしまうだろう。
中途半端な覚悟。そんなもので他人を救おうなどという呆れ果てた偽善。瑛理子は弱音を吐いた心を律してくれたのだ。


「じゃあ、殴られた理由はわかる?」
「ああ。俺はまた、逃げようとしていた……分かっている、今のは俺が何もかも悪い」


まったく莫迦な話だった、と独白する。結局のところ折れた心のまま戦っていたのだから。
それを強引にでも戻してくれた瑛理子に感謝しながら、今度こそ国崎往人としてこの言葉を宣誓する。
正真正銘、それが国崎往人の誓い。


「生きて、生きて、生きて。笑って幸せに生きる。観鈴との約束を護り続ける。今度こそ、絶対だ」


その瞳を覗き込み、何の不純物もない決意に満ちた表情に瑛理子は満足そうに頷いた。


「待て……幸せに生きるなんて、それも私は許したくない……
 アルルゥの幸せを奪っておいて、未来を奪っておいて、お前が幸せに生きるなんて私は認めたくない!」



だが、その誓いをアセリアは認めない。それを認めてはならない、と感情が氾濫するように訴えている。
だって幸せに生きる権利なら、皆が持っていた。
アルルゥもその姉も、自分やエスペリアと違って無限の可能性と未来があった。幸せに生きていいはずだった。
それを奪った往人が幸せに生きるなんて、アセリアは感情的に赦したくなかった。それがこの場において、間違っていると直感しながら。


「アセリアさん。どうして、貴女だけが二度も平手打ちを受けたか、分かるかしら?」
「…………?」


だが、それを窘めたのは他でもない、仲間の瑞穂の言葉。
予想外の方向から来た反論と、不可解な行動に対する問いかけにアセリアは首を傾げるしかなかった。



「アセリアさんは、話を聴かなかったでしょう? ハクオロさんの話も悠人さんの制止も、憎しみに押し潰されていて聴こうとしなかった」
「ん……」
「今なら私も冷静に考えられるわ。ねえ、アセリアさん……私たちはアルルゥちゃんが殺されて、悔しい。それは当然ね?」

もちろん、と言わんばかりに首肯する。
今更、確認する必要もない。そもそも悔しくなければここまで往人を目の仇にはしない。
瑞穂もそれを分かっているからこそ、感情を前提にした説得を展開する。


「この島で初めて出逢った私たちでさえ、これなの。娘のように思っていたアルルゥちゃんを殺されて、ハクオロさんはどんな気持ちだったかしら?」
「それは……」


アセリアには分からない。否、以前なら分からなかった。
それはきっとエスペリアを殺されたときの気持ち……もしくはそれよりも遥かに上を行くほどの憎悪だったはず。
空虚な心にたくさん蓄積した善悪の感情が、濁流のように唸ってアセリアの心を散り散りにしていく。


「観鈴を誤射で殺してしまって、往人はそのことに絶望して自殺しようとした。それをハクオロが止めたわ。
 ハクオロはね、アルルゥって娘だけじゃなくて……家族同然だったエルルゥも殺されてるの。
 当然、恨みなんていう言葉じゃ言い表せないほどに憎いわよね。
 それでも、その憎悪すべてを飲み込んで、彼は決断した。観鈴の最期の願いを取るって……この経験、アセリアにはないのかしら?」

「っ―――!」


ある。
戦いだけしかない、という考えをすべて放棄して、アルルゥの最期の言葉を受け入れた自分がいた。
それと同じように、ハクオロは仲間の最期の願いを受け取って、その憎しみを飲み込んだのだとしたら。


「悠人さんは思いっきり殴り飛ばしたわ。それこそ、睨むだけで人を殺せそうなほどな怒りの表情だった。
 それでチャラ。たとえ往人を殺してもエスペリアは生き返らないって。
 ハクオロが自分の本心を押し殺しているのだから、自分が好き勝手することはできないんだって」

「あ……」


そして悠人はその心を汲み、この抑えがたい怒りを飲み込んで国崎往人を許したのだと言うのなら。
つまり、誰の言葉も受け入れようとしなかった自分だけが愚かだっただけの話。
ただ、持て余した感情を何かを恨むことで発散させようとしていた。考えようとはしなかった。それが楽だったからだ。
目の前でアルルゥを殺した国崎往人という、明確な悪を前にして。昔の戦いだけの心に身を委ねようとしていた。それが間違いだと気づかずに。


「貴女はどうするの、アセリアさん。それでも往人を殺そうとする?
 何の意味もない殺し合いをまた、するというなら……今度は私も戦うわよ? もちろん、殺し合いを止めるために動く瑞穂も同じ」

「アセリアさん……もう一度、アルルゥちゃんの言葉を思い出してほしいの。
 彼女が最期に何を望んだのか……私のせいで、その願いを叶えて上げられなかった茜さんのことも。約束を護るという尊さを」



アセっちが戦うのは嫌――――どういうわけか心を惹かれた森の娘の最期の遺言。
泥水を啜ってでも生き延びてやる、と。そう誓ったのに約束を護れなかった茜を見て、酷くアセリアは悲しんだ。
無念だっただろう。茜を殺したあの鳴海という男と同じようなことを、自分はしているのだとしたら。
愚かだったのは自分で、約束を破ろうとして、悠人やハクオロに酷い言葉を投げつけて。そうして一人で無心に踊っているだけだったのか。


「皆……ずるい」


からん、と乾いた音と共に鉄パイプがアセリアの腕から離れ、自然法則に従って地面に転がる。



「アルルゥとアカネのこと、引き合いに出されたら……っ……私は、何もっ……できなくなる」


約束を破ったときの苦痛。その痛みを、悲しみを、アセリアはこの島の一日で理解した。
だからこの中で誰よりも瑞穂には分かっている。彼らの気持ちがきっと汲み取れるはずだ、と。
それを諭さなければならないと、そんな使命感が瑞穂にあった。
かつて、茜が自分の目を覚ましてくれたときのように。罪深い鏑木瑞穂を許してくれたアセリアを、今度は自分が諭してあげるのだ、と。

「ユートに謝らないと……私は、心無い言葉で、ユートを傷つけた……ハクオロにもだ……」
「そう、そうね。その気持ちがあれば、いいの」

憎しみに囚われてしまうのはアセリアらしくない。
この少女の本質は純朴で無垢なのだから。感情を手に入れ始めた彼女は、歩き始めた子供にも通じるのだから。
これが仲間だ。一人が道を間違えそうになったら、他の皆でその道を修正してやればいい。
瑞穂はアルルゥと茜に救われ、アセリアに赦された。同じようにアセリアが間違えたなら、今度は自分が助けてやらないと。

「クニサキユキト」

ふらり、と無手のままアセリアは往人に近づいていく。
そしてそのまま、地面を蹴って勢いを増し、右手の拳を握って往人の顔を殴りつけた。

「ぐあっ……!!」
「ユートと同じように、私もこれだけにしておく。けれど、許したわけじゃないから」

その一撃は悠人の鉄拳と同じぐらいの重みがあった。
赦されたわけじゃない。だけど、赦されないほうがいい。罪を全員が許してしまったら……きっとその人はダメになってしまうのだから。

だから何人かはその罪を永遠に憶えておこう。瑛理子が、アセリアが、瑞穂が……往人の過ちを常に示し続けるのなら。


「っ……ああ、分かってる……俺は一生、これを抱えていく」


きっともう、往人は間違えない。
これがこの戦いの終結。誰一人の死者を出すこともなく、それぞれに得るモノがあった。

憎悪と悔恨による因果によって生じた争い。この戦いに勝敗はない。
だが、強いてあげるのなら。
誰一人死なずに大切なことを見出せた四人全員が勝者で、対主催が潰しあうという好機で誰一人亡き者に出来なかった主催者が敗者なのだろう。



     ◇     ◇     ◇     ◇



「これからどうするのかしら?」


全てが終わり、瑛理子は往人の手当てをしている瑞穂に問いかける。
アセリアはやはり往人に対して微妙な感情を抱いているのか、ソッポを向いたままだ。まるで拗ねた子供のようだ、と苦笑する。
こうして目論見どおり、対主催の仲間を集めることに成功した。これは大きな前進なのだ、と思う。


「……ユートが何処に行ったか、分かるか?」
「ええ、一緒に来れば逢わせてあげられるわよ」

『悠人さんなら……神社から中央部を経由して、第四回放送のときに病院で集合することになってるわ』


地図で指差し、メモを見せながら、悠人の進路を説明していく。
彼女らがハクオロから大体の話を聞いていたため、説明は楽だった。病院が目的地であることも瑞穂は知っていた。
アセリアは少し思いつめたかのような表情のまま、瑛理子たちに懺悔するように独白する。

「私は、ユートとハクオロに謝らないといけない……」
「なら、悠人さんを追う? ちょっと今から追うのは難しいと思うわよ?」
「そうですね……それに」


往人の手当てを終えた瑞穂が、その傷口に目をやりながら考えを口にする。


「国崎さんはそろそろ限界かも知れません。このまま瑛理子さんたちと別れたとして、正真正銘にゲームに乗った人間の相手はできないでしょう」
「悔しいが……ここで意地を張って二見を危険に晒すわけにはいかない。一緒に……来てほしい」
「ん……」


不満そうなアセリアだったが、反論の言葉は思いつかないようだ。
往人と一緒にはあまりいたくないし、悠人たちを追いたい気持ちもあるのだろう。だが、さっきまで酷いことをした手前、強く出られない。


「大丈夫よ、アセリア。次の放送までには二人に逢えるわ。二人とも、強いもの」


ハクオロは一緒に行動していたからこそ、分かる。きっと、仲間を集めて病院まで来てくれるだろう。
悠人などは殺し合いに乗った参加者を撃退しているほどの猛者、恐らく仲間の中で一番の戦闘力を誇る人物だ。
次の第四回放送までに病院に行けば、必ず逢える。そしてそこで首輪を解除してこそ、反撃の狼煙が上がるのだ。

「……ん、わかった」
「決まりね。なら行くわよ、まずは図書館に」
「図書館、ですか?」
「ちょっと興味があるの……往人、動ける?」


座り込んでいた往人に手を差し伸べるが、往人は何か考え込んでいる様子。
不審に思って、もう一度瑛理子は呼びかけた。


「……往人?」
「それだ」
「え……?」
「何か違和感があるな、と思ったが……二見、お前いつの間に俺のことを呼び捨てで呼ぶようになったんだ?」


あ、と瑛理子は今更気づいたかのように声を上げる。
別に深い意味はなくて、ただフルネームで毎回呼ぶのもどうかと思って……などと、脈絡のない言い訳が頭の中で反芻するが。


「べ、別にどうでもいいでしょ! ほら、さっさと立ちなさい、往人!」
「痛っ……わ、わかったから腕を引っ張るなっ……!」


やっと戻ってきた穏やかな話に、誰かの口元が自然と綻んだ。
目的地は図書館、そして港。
いつの間にか月が昇っていた。真っ黒な闇夜の中に、きらきらと星が輝いている。
夜の闇がこの島で、その中を懸命に輝く星たちは自分たちかも知れない。夜空を見上げた誰かがそんな言葉を口にする。

主催者の打倒を目的として、四人の挑戦者は歩き出した。






【F-2 街道(マップ中央)/1日目 夜】

【女子三人+最高】
1:このまま南下し、図書館・港を経由して病院へ


【国崎往人@AIR】
【装備:コルトM1917(残り6/6発)】
【所持品:支給品一式×2、コルトM1917の予備弾32、たいやき(3/3)@KANNON、大石のノート】
【状態:強い決意、深い罪悪感、肉体的疲労極大、精神的疲労中、右腕と左膝を打撲、
     右手の甲に水脹れ、左腕上腕部粉砕骨折、左肩軽傷、脇腹に亀裂骨折一本、全身の至る所に打撲】
【思考・行動】基本:観鈴との約束を守る、人殺しには絶対乗らない
0:図書館・港を経由して病院へ
1:もう人殺しには絶対乗らない
2:瑛理子たちを護る
3:困ってる人を助ける
4:あゆ、美凪を探す
5:エスペリアの仲間に謝る。
6:倉田佐祐理の仲間に謝る
7:最終的には仲間と共に脱出し、観鈴の母親に謝りに行く


【備考】
※大石のノートを途中までしか読んでいません。
 先には大石なりの更なる考察が書かれています
※エスペリアのデイパック(ランダム支給品x2)はD-3雑木林に放置。


【二見瑛理子@キミキス】
【装備:トカレフTT33 7/8+1】
【所持品:支給品一式、ブロッコリー&カリフラワー@ひぐらしのなく頃に祭、空鍋&おたまセット@SHUFFLE! ON THE STAGE
     エスペリアの首輪、映画館にあったメモ、家庭用工具セット】
【状態:強い決意、左足首捻挫(処置済み)】
【思考・行動】
基本:殺し合いに乗らず、首輪解除とタカノの情報を集める。
1:図書館・港を経由して病院へ
2:瑞穂、アセリアの参入を歓迎
3:陽平のように錯乱している者や、足手まといになりそうな者とは出来れば行動したくない
4:陽平には出来れば二度と出会いたくない。

【備考】
※往人を信頼していますが、罪は赦してません。
※パソコンで挙がっていた人物は、この殺し合いで有益な力を持っているのでは? と考えています。
※首輪が爆発しなかった理由について、
1:監視体制は完全ではない
2:筆談も監視されている(方法は不明)
のどちらかだと思っています。

※電話についても盗聴されている可能性を考えています。
※家庭用工具セットについて
観鈴が衛から受け取った日用品の一つです。
ドライバー、ニッパー、ペンチ、ピンセットなどの基本的な工具の詰め合わせである。
なお全体的に小型なので武器には向いていないと思われます。



【アセリア@永遠のアセリア】
【装備:鉄パイプ(頑丈だがかなり重い、長さ二メートル程、太さは手で握れるくらい)】
【所持品:支給品一式 鉄串(短)x1、ひぐらし@ひぐらしのなく頃に、フカヒレのコンドーム(12/12)@つよきす-Mighty Heart-】
【状態:怒りは沈静化、肉体的疲労中、右耳損失(応急手当済み)、頬に掠り傷、ガラスの破片による裂傷(応急手当済み)】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
0:図書館まで移動
1:仲間を守る
2:無闇に人を殺さない(但し、殺し合いに乗った襲撃者は殺す)
3:強者と戦う
4:永遠神剣を探す
5:もっと使い勝手の良い武器を手に入れる
6:悠人とハクオロに謝りたい
7:川澄舞を強く警戒
8:国崎往人に対する微妙な感情



【宮小路瑞穂@乙女はお姉さまに恋してる】
【装備:ベレッタM92F(9mmパラベラム弾15/15+)】
【所持品:支給品一式×3、フカヒレのギャルゲー@つよきす-Mighty Heart-、
 多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)、斧、レザーソー、投げナイフ3本、
 フック付きワイヤーロープ(5メートル型、10メートル型各1本)、国崎最高ボタン、茜手製の廃坑内部の地図(全体の2~3割ほど完成)、予備マガジンx3、バーベナ学園の制服@SHUFFLE! ON THE STAGE 】
【状態:悲しみ、決意】
【思考・行動】
0:瑛理子たちと共に図書館へ
1:エルダー・シスターとして、悲しみの連鎖を終わらせる(殺し合いを止める)
2:アセリアと瑛理子を守る
3:国崎往人に対する微妙な感情
4:川澄舞を警戒

【備考】
※陽平には男であることを隠し続けることにしました。
※蟹沢きぬにも男性であることは話していません。
※参加者全員に性別のことは隠し続けることにしました。

※フカヒレのギャルゲー@つよきす について
プラスチックケースと中のディスクでセットです。
ケースの外側に鮫菅新一と名前が油性ペンで記してあります。
ディスクの内容は不明です。


【備考】
※往人に対して罪を赦すつもりはないが、殺意は霧散。
※悠人、ハクオロ、衛、千影、瑛理子を信頼。
※現在、バーベナ学園の制服を着用。以前の血塗れの制服はE-2地点に放置。


148:求め、誓い、空虚、因果(前編) 投下順に読む 149:桃源の夢
148:求め、誓い、空虚、因果(前編) 時系列順に読む 149:桃源の夢
148:求め、誓い、空虚、因果(前編) 国崎往人 162:邂逅(前編)
148:求め、誓い、空虚、因果(前編) 二見瑛理子 162:邂逅(前編)
148:求め、誓い、空虚、因果(前編) 宮小路瑞穂 162:邂逅(前編)
148:求め、誓い、空虚、因果(前編) アセリア 162:邂逅(前編)






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