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This is the Painkiller ◆tu4bghlMI


――初めて人を殺した。

それがほんの十二時間前のことだとは到底思えない。
俺がこの手で罪の無い命を散らしてから、もう数え切れないくらいの時間が立っているような気分だ。
この一二時間で幾つの命を奪ったのだろう、思い出す。


ゲームが始まってすぐに出会った少女、エルルゥ。
心の底から幸せになるような、気持ちの良い笑顔が印象的だった。

今も公園のベンチで永遠の眠りについているのだろうか、倉田佐祐理。
最後まで、その命燃え尽きる最期の一瞬まで俺を許そうとしていた。
そして笑ってくれた。

エスペリア。誰よりも苦しい死に方をさせてしまった事に偽善と分かっていながらも心が痛む。
真っ向からの勝負では完全に敗北していた。しかも銃と木刀という圧倒的な戦力差を物ともせずに彼女は勝った。
俺にトドメを刺さなかったのも全部観鈴のためだと言った。
胸に突き刺さる、そんな深い慈愛の心を持った少女だった。

その小さな身体で、細い腕で、それでも必死に守ろうとした。
自分の大切な人の命を守るために、その身を投げ出した……アルルゥ。
他の三人と違って、その死の瞬間を見届けた訳ではない。
それでも、彼女がもうこの世にいない事は十分に分かっている。あの悪魔、鷹野三四の定時報告で先程名前を呼ばれたのだから。


いや……俺も悪魔か。
四人。もう四人の人間の命に終止符を打った人間の台詞とは思えない。
一人や二人ではない、そして過失でも無い。
全て、俺が、自分の意志でやった事。紛れも無い真実。
でも、俺は何て身勝手なのだろう。こんなに生まれて来てから自分自身に嫌悪感を抱いた事は無かった。
なぜなら『本物』の大量殺人者に羨望の気持ちを抱いているのだから。

彼らは人を殺す時、微塵の迷いや後悔をする事も無く、その手を朱い血で染める事が出来るのだろうか。
ナイフで肉を突き破る感触。
拳銃で穿つブラックホールのように、深い空洞。
僅かな喘ぎ声を漏らすことしか出来ない、か細い喉笛を絞め殺した時の筋肉の震え。、
そのどれにも躊躇すること無く、眉一つ動かさずに遂行出来るのだろうか。

だけど。
辞書に載っている全ての殺し方を網羅したとしても、決して俺の心は折れてはならない。
他人を殺して味わう罪悪感も、恐怖も、絶望も。
全てこの背中に背負って行くと決めたのだから。

最後まで、俺はマトモなまま、最悪の殺人犯にならなければならない。
観鈴をこのゲームの終幕まで守り通し、そして生かすため。
ただでさえ、人として最低な、醜い姿をアイツに晒すことになるのだ。
出来るだけ、アイツにとっての"国崎往人"のイメージを壊したくは無かった。
そして、それよりも自分の犯した罪に押し潰されて狂ってしまうことが"逃避"にしか過ぎない事も分かっていたから。

狂ってしまう事、全てを本能に任せる事はとても簡単。
だけどそれを俺はあえてしない。いや、してはならない。
一人の女を、愛した女を生かすために他の参加者を皆殺しにすると決めた。
誰に何を言われようと、罵られようと構わない。
――最悪、アイツに説得されたとしても俺はこの意志を曲げるつもりは無い。
優勝して最後の一人になる事がこの先アイツがまともな生活に戻るための唯一の手段ならば、喜んで俺は自分の手を汚す。

そして殺した人間の人生、願いを全て背負って最期に俺は逝く。
これで、いい。




今、あの鷹野という女の二回目の定時放送が終わった。
言葉に出来ない程の恐怖が血液を凄まじい速さで回転させていた。

――神尾観鈴。

アイツの名前を聞くのがこんなに恐ろしいなんて。そんな事、今まで考えた事も無かった。
一回目の時も激しい動悸に襲われた。そして二回目も変わらず、コレだ。
もし名前が呼ばれていたとしたら、俺はどうなっていたか分からない。

見知った人間もちらほらと名前が呼ばれ出した。
俺を撃退したあの鉄乙女という女も死んだらしい。
一緒に居たはずの月宮あゆの名前は呼ばれなかった。
そして美凪の名前もまだ放送では流れていない。どうやらまだ生きていてくれたらしい。
美凪のことは……あまり考えたくは無い。
その場で知り合った相手を殺すのとは訳が違う。
エルルゥや佐祐理でさえ、アレだけの葛藤が俺の中に芽生えたのだ。
目の前に美凪がいて、そしてさぁ殺せ、と脳髄に命令された時、本当にそれが可能なのかは判断が付かない。


……駄目だな、俺は。
とりあえず言えることは出来るだけ早く観鈴を保護しなければならない、ということぐらい。
放送の度にアイツの死の可能性に怯えるのは耐えられない。
だから今は、情報を、観鈴に繋がる糸を探し出すしかないのかもしれない。
つくづくエスペリアを殺してしまった事を悔やむ気持ちが大きくなる。

「とはいえ……ぅ……随分、派手にやられたものだな」

だが、今すぐ観鈴を助けに行きたくても行けない、そんな現状がそこにはあった。

先ほどの戦いで俺の身体はもう限界寸前とも言うべき、ダメージを受けている。
どうすればコレだけ大規模な傷を負う事が出来るのか、という程の酷さだ。
全身至る所に出来た青痣や打撲の跡などは可愛いもの。
強烈なのが左腕上腕部の粉砕骨折、そして脇腹に感じる不思議な感触――おそらくここも折れている。
精神論や意志が鎮痛剤になれば良いのだが、さすがにそんな都合よくはいかない。
裂傷や疲労などならともかく、骨が折れてしまっている以上、動かないものは動かない。

これだけの事をやったのが二人掛かりとはいえ両方とも、女だった事には正直戸惑いを感じている。
確か、瑞穂とアセリアとか言ったか。
それに銃を持った俺に向けて、何の迷いもせず突っ込んで来た女もいた。
彼女も、強い。仲間を深く信頼していなければあんな行動は決して取れない。
そしてもう一人、絶対に忘れてはならない存在。仲間を庇う為に進んでその身を投げ出した少女、アルルゥ。

あのグループは本当に心の奥底で結ばれていた、そんな気がする。
もっとも仲間の少女達を置き去りにして逃げて行った無様な男を除いてだが。


あんな、人間もいるのか。それが素直な感想だった。
今まで自分が出会ったのは仮面を付けたハクオロという男以外は全てが女だった。
名簿を眺めてみても名前だけで判断するに男は全体の1/3程度しか存在していない。
故にグループを組んだ際少数の男と複数の女、という構成になるのは珍しい事ではないだろう。

もしも観鈴が女を盾にして逃げるような、下劣な男と一緒にいるとしたら――?
可能性としては無くは無い。そしてソレは最悪のパターンだ。
だが逆にハクオロのような、ある種のリーダーシップを持った人間と同行している可能性も高い。
闇雲に気持ちを動転させる利点は無い。

最優先するべきは身体を休める事。そして傷の手当だ。
完全に逝ってしまった左腕はどうしようも無い。
銃を撃つ支えくらいならば何とかなるかもしれないが、何発も撃てば必ず限界が来る。
出血がほとんど無いのは不幸中の幸いと言っていいかもしれない。
ひとまずは折れた骨の部分を安定させる必要がある。

この博物館に足を踏み入れた時に、ある程度の全体図は入り口の館内案内で確認していた。
だから俺は傷を負った身体を引きずってまで、階段を昇っているのだ。

目的地は二階の奥。
展示場からは若干離れた場所にある係員用の宿直室。
この建物の中では最も傷の手当に向いた場所。




俺は宿直室のドアを開いた。
目に入ったのは簡易ベッドが二つとガラス張りの戸棚。
そして灰色のいかにも事務的なデスク。

「なんだ……これは?」

机の上に無地のノートがぽつんと置かれていた
未使用だろうか……いや違う、表紙に男の文字で『大石蔵人』と書かれている。
大石と言えば、確か参加者の一人。しかも先程名前を呼ばれたばかりの。
注意深く、俺はそのノートに手を伸ばした。


『もしこのノートを見ている方がいましたら、今から書く事をしっかりと頭に入れて置いて頂きたい。
 ああ、もしかして、何故こんな場所にノートを残していったか気になりますか?
 書置きを残すにしても下の事務室の方が人の目に触れるんじゃないか、とか。
 まぁそれはコチラにも事情がありましてですね。
 結構な時間をこの文章、及び考察を書くのに費やすつもりなので出来れば二階の奥の方の部屋の方が安心だった訳です。
 それにこの部屋が私のスタート地点でして。縁のようなものも感じていたりもするんですよ、はい』


コレは……口述筆記か?
いや、どう見ても直筆ではあるが。わざわざこんな砕けた口調で文章を書く理由が何かあるのだろうか。
不特定の誰かに向けた手紙、という事でいいのだろうか。
続きに目を移す。


『さてまず二つ、前提として知っていて貰いたい事があります。
 まず一つ、我々の首に付けられてるこの首輪。
 おそらくコレには様々な機能が付いていると思われます。
 遠隔爆破装置とあとはまぁ盗聴器と言った所ですか。
 あとカメラは無いですね。ええ、コレばかりはしっかりと確認しました。
 わざわざ首輪に仕込んでも簡単に妨害出来ますから、付ける理由も無いでしょうが。
 少し考えにくいですが居場所を本部に送るシステムが組み込まれている可能性もあります。
 そして、もしも既に大石蔵人という名前が放送とやらで呼ばれていた場合、コレを私の遺書だと思って頂いて構いません。

 私は××県警興宮警察署に勤務する刑事です。
 ああ、もちろん殺し合いには乗っていませんよ。刑事ですから。
 実はこんな文章を残したのは、ある仮説を建てて私が行動しているからでして。
 まず先に一つ重要な事を記しておきます。
 あの鷹野三四が使った言葉を拝借して使わせていただきますが、このゲームには存在してはならない人間が数名登場しているのです。
 これを読んでいるあなた。良いですか、笑わないで下さいよ。
 「死んだ人間が生き返る」なんて事、考えられますかね?
 ふふふ、笑ったでしょう。分かりますよ、何しろ刑事ですから。
 まぁ、ですから死体も見慣れていまして。
 この目で死体を確認した人間が"四名"、このゲームに参加していることには流石に驚きましたがね。

 その名前は『前原圭一』『古手梨花』『園崎詩音』そしてあの『鷹野三四』の四名。
 ちなみに文章ですから、鷹野三四の名前を出せる訳でして。
 彼女が死人だなんて口外したら、私の頭が爆発しかねませんからね。
 もしも既に私に会っている方がコレを読んでいる場合、鷹野三四の名前だけ聞いていなかったとしても恨まないで下さいよ?
 死んだはずの人間がゲームに参加している事も気掛かりですが、一番気になるのは彼女、鷹野三四の事です。
 まず断言しておきますが、彼女に人間を瞬間移動させるような超能力はもちろん備わっていません。
 ですが、我々はこの島にそのような方法で飛ばされて来た。これは揺るぎない事実です。

 二つ仮説を立てました。
 つまり彼女の背後に誰か、糸を引いている人物が居るのではないかという事。
 もう一つがこの8x8四方に区切られた島に、何らかの秘密があるのではないかという事。
 私もESPだとかサイキックだなんて言葉は信じたくはありませんよ。
 パワースポットやらストーンヘンジみたいな歴史的な名所でさえ、胡散臭く思っているんですから。
 まぁ一度死んだはすの鷹野三四が息をしてピンピンしている以上、何か不思議な力が働いているのでしょう。
 私の荷物の中にも不思議なものが入っていましたしね……』


ノートの一枚目はそこで終わっていた。
もう少し読み進めようかとも思ったが、身体が言う事を聞かない。ひとまずデイパックに放り込む。
それより先に、休息を取るべきだと判断。
だが無防備にベッドで横になる訳にもいかない。
結局、寝台の上に腰を降ろし、壁に寄り掛かった状態で落ち着いた。

ひとまず休息の形が出来上がって、少し気持ちが安定する。
一息、腹の底から吐き出すような溜息をつく。

しかし、この記述によると、彼はスタートしてからしばらくの間この博物館に滞在していたようだ。
死亡したのが一回目の放送ではない事を考えるに、どこかココとは少し離れた場所で殺されたのかもしれない。

だが鷹野三四の後ろに他の人間がいるというこの仮説は驚くべきものだった。
なぜなら俺は『異能力』を持った人間が存在する事を、十分過ぎる程知っているからだ。
確かにあのホールのような空間から、スタート地点まで飛ばされたのは彼女の能力だと思っていた。
『法術』という概念を俺が把握している以上、他に摩訶不思議な能力を持つ人間の存在を否定するつもりも更々無いからだ。
だがこの大石のノートによると、鷹野三四は普通の人間だと言うではないか。
ならば彼女を動かしている人間が居るのもまた道理。
それではその人物とは一体?

……分からないな。大体、俺にそんな事を考える必要があるのかも疑問だ。
なぜなら、主催者が誰であろうと俺がやるべき事は変わらないから。
観鈴を生かすため、やらなければならない事はただ一つだけ。




【C-3 博物館(2F 宿直室)/1日目 日中】

【国崎往人@AIR】
【装備:コルトM1917(残り6/6発)】
【所持品:支給品一式×2、コルトM1917の予備弾40、木刀、たいやき(3/3)@KANNON、大石のノート】
【状態:精神的疲労・肉体疲労中。右腕と左膝を打撲・右手の甲に水脹れ
     左腕上腕部粉砕骨折・左肩軽傷・脇腹に亀裂骨折一本・全身の至る所に打撲】
【思考・行動】
0:しばらく休憩・手当てをする
1:観鈴を探して護る
2:観鈴以外全員殺して最後に自害、説得に応じるつもりも無い
3:仮面の男(ハクオロ)・長髪の少女(二見瑛理子)・青い瞳と水色の髪の少女(アセリア)を危険人物と認識
4:状況が許せば観鈴の情報を得てから殺す

【備考】
※大石のノートを途中までしか読んでいません。
 先には大石なりの更なる考察が書かれています。


113:第二回定時放送 投下順に読む 115:憎しみの環の中で
113:第二回定時放送 時系列順に読む 115:憎しみの環の中で
094:瞬間、心、重ねて/さよならの囁き(後編) 国崎往人 135:青空に羽ばたく鳥の詩






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