武人として/鮮血の結末 (前編) ◆guAWf4RW62
オボロは辺りの様子を窺いながら、慎重に森の中を歩いていた。
普通に進むのに比べて大幅に行軍速度が遅くなるが、それは必要経費だ。
千影の言っていた『銃』という道具は、弓矢を遥かに凌駕する恐るべき武器であるらしい。
実際に体験した訳では無いが、此処は出来る限り警戒しておくべきだろう。
普通に進むのに比べて大幅に行軍速度が遅くなるが、それは必要経費だ。
千影の言っていた『銃』という道具は、弓矢を遥かに凌駕する恐るべき武器であるらしい。
実際に体験した訳では無いが、此処は出来る限り警戒しておくべきだろう。
どの方角から攻撃されるか分からない以上、極力物陰に身を隠し続けるのが重要だ。
聳え立つ木の影から、そっと頭を出す。
周囲の安全を確認した後、次の木の陰へと一目散に走り移る。
そしてまた近辺の状況を確認してから、次の木に移るという動作を繰り返す。
卓越した身のこなし、常人を大きく上回る身体能力。
疾風の如き速度で走り回るオボロを、正確に撃ち抜ける射手などこの世には存在しない。
だがオボロは一つ、大きな勘違いをしていた。
木を盾にしながら移動する――それは確かに、矢相手なら十分有効な行動だろう。
そう、あくまで矢が相手ならば。
事は、オボロが木の陰を飛び出した直後に起こった。
聳え立つ木の影から、そっと頭を出す。
周囲の安全を確認した後、次の木の陰へと一目散に走り移る。
そしてまた近辺の状況を確認してから、次の木に移るという動作を繰り返す。
卓越した身のこなし、常人を大きく上回る身体能力。
疾風の如き速度で走り回るオボロを、正確に撃ち抜ける射手などこの世には存在しない。
だがオボロは一つ、大きな勘違いをしていた。
木を盾にしながら移動する――それは確かに、矢相手なら十分有効な行動だろう。
そう、あくまで矢が相手ならば。
事は、オボロが木の陰を飛び出した直後に起こった。
「…………っ!?」
鳴り響く銃声、轟く爆発音。
全身に伝わる凄まじい振動。
肌に叩きつけられる、飛散した木の破片。
オボロが震源に目を向けると、太さ1メートルはあろうかという木の幹が、無惨にも叩き折られていた。
支えを失った大木が力無く揺らぎ、重力に従って倒れてくる。
圧倒的な質量を伴ったソレが直撃すれば、いかなオボロとて無事では済まぬだろう。
全身に伝わる凄まじい振動。
肌に叩きつけられる、飛散した木の破片。
オボロが震源に目を向けると、太さ1メートルはあろうかという木の幹が、無惨にも叩き折られていた。
支えを失った大木が力無く揺らぎ、重力に従って倒れてくる。
圧倒的な質量を伴ったソレが直撃すれば、いかなオボロとて無事では済まぬだろう。
「――くぅぅッ……!」
オボロは即座に数歩の助走を経て、大きく地面を蹴り飛ばした。
制限を受けてはいるものの、トゥスクル国随一と言えるその跳躍力は凄まじい。
僅か数秒足らずの内に危険地帯から離脱し、身体の降下が始まった時にはもう、現状を把握すべく思考を巡らせていた。
制限を受けてはいるものの、トゥスクル国随一と言えるその跳躍力は凄まじい。
僅か数秒足らずの内に危険地帯から離脱し、身体の降下が始まった時にはもう、現状を把握すべく思考を巡らせていた。
銃声が鳴り響いた後に、近くにあった木が破壊されたのだから、自分が狙撃されたのだという事は分かる。
元々銃声がした方向に向かっていたのだから、これは十分に予測し得た事態だ。
だが、この恐ろしい破壊力だけは完全に想定外だ。
一撃で大木を破壊する程の遠隔攻撃など、少なくとも自分の常識では有り得ない。
これでは木を盾にしての移動など、敵に照準を合わせる猶予を与えてしまうだけだ。
迫り来る爆撃は易々と盾を貫通し、只の一撃で致命傷となるに違いないのだ。
元々銃声がした方向に向かっていたのだから、これは十分に予測し得た事態だ。
だが、この恐ろしい破壊力だけは完全に想定外だ。
一撃で大木を破壊する程の遠隔攻撃など、少なくとも自分の常識では有り得ない。
これでは木を盾にしての移動など、敵に照準を合わせる猶予を与えてしまうだけだ。
迫り来る爆撃は易々と盾を貫通し、只の一撃で致命傷となるに違いないのだ。
「ク――――」
盾が意味を成さぬのなら、最早自力で全て回避し切るしかない。
オボロは血相を変えて、左右に、或いは上下に、縦横無尽に跳ね回る。
そこで再び銃声が鳴り響いて、すぐ近くにあった茂みが跡形も無く粉砕された。
そしてその銃声のお陰で、オボロは視認する事が出来た――右方約150メートル程の所に居る、狙撃手の姿を。
特徴的な青い長髪、そして自分と同じような長い耳を携えた少女が、地面に寝転んだ体勢で筒状の物体を構えていた。
恐らくは、あの少女が狙撃してきているのだろう。
オボロは血相を変えて、左右に、或いは上下に、縦横無尽に跳ね回る。
そこで再び銃声が鳴り響いて、すぐ近くにあった茂みが跡形も無く粉砕された。
そしてその銃声のお陰で、オボロは視認する事が出来た――右方約150メートル程の所に居る、狙撃手の姿を。
特徴的な青い長髪、そして自分と同じような長い耳を携えた少女が、地面に寝転んだ体勢で筒状の物体を構えていた。
恐らくは、あの少女が狙撃してきているのだろう。
クロスボウで反撃したい所だが、この距離から標的を捉えるのは難しい。
ならばと、オボロは距離を詰めるべく疾走し始めたが、そこで少女の構えた筒が火を噴く。
その一秒後には前方の小木が、呆気無く爆散していた。
直撃どころか掠ってすらいないというのに、その衝撃が自分の所にまで伝わってくる。
鼓膜を痛め付ける轟音が、オボロに一つの確信を齎す――――掠っただけで、間違いなく死ぬと。
このような状況で交戦を続けようとするのは、ただの自殺行為に過ぎぬだろう。
自分はまだ、四葉を殺した償いすら成し遂げれてはいない。
此処で血気に逸って死ぬ訳にはいかないのだ。
ならばと、オボロは距離を詰めるべく疾走し始めたが、そこで少女の構えた筒が火を噴く。
その一秒後には前方の小木が、呆気無く爆散していた。
直撃どころか掠ってすらいないというのに、その衝撃が自分の所にまで伝わってくる。
鼓膜を痛め付ける轟音が、オボロに一つの確信を齎す――――掠っただけで、間違いなく死ぬと。
このような状況で交戦を続けようとするのは、ただの自殺行為に過ぎぬだろう。
自分はまだ、四葉を殺した償いすら成し遂げれてはいない。
此処で血気に逸って死ぬ訳にはいかないのだ。
(……一旦引くしかないな)
くるりと踵を返す。
オボロは素早く決断を下し、狙撃手から距離を取るような方角に疾駆し始めた。
当然背後を狙われぬよう、不規則にフェイントを交えながらだ。
オボロは素早く決断を下し、狙撃手から距離を取るような方角に疾駆し始めた。
当然背後を狙われぬよう、不規則にフェイントを交えながらだ。
「……逃がしてしまいましたね」
冷静な狙撃手――ネリネは、遠ざかるオボロの背中を見送りながらそう呟いた。
銃を用いての遠距離狙撃は、予想以上に難易度が高かった。
確かに永遠神剣の身体能力強化を利用すれば、発砲の反動をある程度押さえ込む事は出来る。
動き回る獲物の一挙一動を、逃さず視認する事は出来る。
戦車をも破壊し得る九十七式自動砲ならば、敵が木の陰に隠れていようとも、その守りごと貫ける筈だった。
だが自分程度の射撃技術では、狙った箇所を正確に撃ち抜くのは困難だったのだ。
その所為で千載一遇の好機を逃してしまった。
銃を用いての遠距離狙撃は、予想以上に難易度が高かった。
確かに永遠神剣の身体能力強化を利用すれば、発砲の反動をある程度押さえ込む事は出来る。
動き回る獲物の一挙一動を、逃さず視認する事は出来る。
戦車をも破壊し得る九十七式自動砲ならば、敵が木の陰に隠れていようとも、その守りごと貫ける筈だった。
だが自分程度の射撃技術では、狙った箇所を正確に撃ち抜くのは困難だったのだ。
その所為で千載一遇の好機を逃してしまった。
とにかく、何時までも此処で休んではいられない。
ある程度の時間休息したお陰で、多少は体力・魔力共に回復した。
これからは移り変わる状況に対応して、的確な行動を取らねばならないだろう。
自分がこれまで見てきた限り、神社に向かった者は合計四人。
先程の男とその仲間が三人。
そしてもう一人は――
ある程度の時間休息したお陰で、多少は体力・魔力共に回復した。
これからは移り変わる状況に対応して、的確な行動を取らねばならないだろう。
自分がこれまで見てきた限り、神社に向かった者は合計四人。
先程の男とその仲間が三人。
そしてもう一人は――
◇ ◇ ◇ ◇
舞台は神社の入り口付近に変わる。
突如鳴り響いた、鼓膜を奮わせる大きな銃声。
それは当然、トウカや千影の耳にも届いていた。
異変の正体を確かめるべく、千影が本殿から飛び出してくる。
突如鳴り響いた、鼓膜を奮わせる大きな銃声。
それは当然、トウカや千影の耳にも届いていた。
異変の正体を確かめるべく、千影が本殿から飛び出してくる。
「――トウカくん、今のは……?」
「某にも分かりませぬ。オボロが去った方向から聞こえ――――!?」
「某にも分かりませぬ。オボロが去った方向から聞こえ――――!?」
トウカはオボロが向かった方角を指差そうとして、大きく目を剥いた。
振り向いた先――左斜め前方より、巨大なナニかを構えた少女が、ゆっくりと歩いてきていた。
トウカには直感で分かった。
少女が持っているのは、恐らく銃、それも相当強力な部類に属するものだ。
振り向いた先――左斜め前方より、巨大なナニかを構えた少女が、ゆっくりと歩いてきていた。
トウカには直感で分かった。
少女が持っているのは、恐らく銃、それも相当強力な部類に属するものだ。
「私は楓、芙蓉楓です。少々お尋ねしたい事があるんですが、宜しいでしょうか?」
突如現れた芙蓉楓が、重機関銃――ブラウニングM2“キャリバー.50”を保持しつつ、語り掛けてくる。
不快な音響を奏でる、酷く昏い声。
こちらを眺め見る、何処までも深い闇を湛えた瞳。
全身の様々な部位に付着した、紅い鮮血。
楓の身長とほぼ同じ大きさを誇る、最強の凶器。
あれだけの質量を持ち上げ続けるのは辛いだろうに、楓は決して銃を手放さない。
少女から伝わってくる尋常でない雰囲気が、巨大な重火器の存在が、トウカの警鐘をけたたましく打ち鳴らす。
不快な音響を奏でる、酷く昏い声。
こちらを眺め見る、何処までも深い闇を湛えた瞳。
全身の様々な部位に付着した、紅い鮮血。
楓の身長とほぼ同じ大きさを誇る、最強の凶器。
あれだけの質量を持ち上げ続けるのは辛いだろうに、楓は決して銃を手放さない。
少女から伝わってくる尋常でない雰囲気が、巨大な重火器の存在が、トウカの警鐘をけたたましく打ち鳴らす。
(ク…………不味いな……)
全身の表面に鳥肌が立ち、手足を痺れさせる程の悪寒が湧き上がってくる。
トウカがちらりと横を眺め見ると、千影の顔にも焦りの色が浮かんでいた。
楓の構えたブラウニングM2“キャリバー.50”の銃口は、しっかりと自分達の方に向けられている。
自分一人ならまだ対応のしようもあるが、千影を連れて回避行動に移るのは難しい。
それにまだ楓が敵と決まっていない以上、此処は極力穏便に事を進めるべきだろう。
トウカは否応無く、楓との会話を行う羽目になった。
トウカがちらりと横を眺め見ると、千影の顔にも焦りの色が浮かんでいた。
楓の構えたブラウニングM2“キャリバー.50”の銃口は、しっかりと自分達の方に向けられている。
自分一人ならまだ対応のしようもあるが、千影を連れて回避行動に移るのは難しい。
それにまだ楓が敵と決まっていない以上、此処は極力穏便に事を進めるべきだろう。
トウカは否応無く、楓との会話を行う羽目になった。
「……某の名はトウカ、エヴェンクルガの武士なり。お主の用件を伺おう」
「では聞かせて頂きます。稟くんが此処に来ている筈なんですけど……見かけませんでしたか?」
「すまぬが心当たりが無い。某達が此処に来てから出会ったのは、お主が始めてだ」
「そうですか……」
「では聞かせて頂きます。稟くんが此処に来ている筈なんですけど……見かけませんでしたか?」
「すまぬが心当たりが無い。某達が此処に来てから出会ったのは、お主が始めてだ」
「そうですか……」
質問に対し嘘偽りの無い答えを返すと、楓の表情が落胆のソレへと変わった。
恐らくは探し人を見つけられなくて、落胆しているのだろう。
トウカは油断無く剣を構えたまま、冷静に思考を巡らせる。
……この殺し合いで人を探す場合には、二つのパターンが考えられる。
一つは、大切な人間を守る為に探し回っているというケース。
これなら全く問題は無い。
自分だってハクオロやアルルゥを護衛しようと、必死になって動き回っていたのだ。
止めるどころか寧ろ、暖かく見守ってやろうではないか。
だがもう一つは、特定の人物を殺す為に探し回っているというケース。
この場合は、易々と見過ごす訳にいかない。
幾ら相手が強力な武器を携えているとは言え、危険人物を放置など出来る筈が無い。
自分は正義を信念に戦う者。
誇り高きエヴェンクルガ族なのだから。
恐らくは探し人を見つけられなくて、落胆しているのだろう。
トウカは油断無く剣を構えたまま、冷静に思考を巡らせる。
……この殺し合いで人を探す場合には、二つのパターンが考えられる。
一つは、大切な人間を守る為に探し回っているというケース。
これなら全く問題は無い。
自分だってハクオロやアルルゥを護衛しようと、必死になって動き回っていたのだ。
止めるどころか寧ろ、暖かく見守ってやろうではないか。
だがもう一つは、特定の人物を殺す為に探し回っているというケース。
この場合は、易々と見過ごす訳にいかない。
幾ら相手が強力な武器を携えているとは言え、危険人物を放置など出来る筈が無い。
自分は正義を信念に戦う者。
誇り高きエヴェンクルガ族なのだから。
「楓殿といったか。お主は稟殿とやらと出会って、どうするつもりなのだ?」
「――決まっています、稟くんをお守りするんです。たとえこの身を犠牲にしてでも、絶対に最後まで守り通して差し上げるんです」
「――決まっています、稟くんをお守りするんです。たとえこの身を犠牲にしてでも、絶対に最後まで守り通して差し上げるんです」
紡がれた返答には、一切の曇りも迷いも無い。
知略に長けているとは到底言えぬトウカですら、楓の言葉が本心であると確信出来た。
仲間を守る為に探し回るという行動原理は、トウカとなんら変わりない。
半ば正気を失っているように見えたが――もしや、楓の志は自分と同じではないのか? 仲間として、共に歩んでいけるのではないか?
そんな希望が、トウカの心に湧き上がる。
だがそこで一人の男が出現した事によって、状況は一変する。
知略に長けているとは到底言えぬトウカですら、楓の言葉が本心であると確信出来た。
仲間を守る為に探し回るという行動原理は、トウカとなんら変わりない。
半ば正気を失っているように見えたが――もしや、楓の志は自分と同じではないのか? 仲間として、共に歩んでいけるのではないか?
そんな希望が、トウカの心に湧き上がる。
だがそこで一人の男が出現した事によって、状況は一変する。
「トウカ! 千影! これは一体……」
「――――オボロくん……」
「――――オボロくん……」
逸早く気付いた千影が声を上げる。
現れたのは、ネリネの銃撃から逃げ延びたオボロだった。
そしてオボロの視点に立ってみれば、今の状態はトウカ達が追い詰められているようにしか見えない。
仲間が襲われているとなれば、やるべき行動など一つしか有り得ない。
現れたのは、ネリネの銃撃から逃げ延びたオボロだった。
そしてオボロの視点に立ってみれば、今の状態はトウカ達が追い詰められているようにしか見えない。
仲間が襲われているとなれば、やるべき行動など一つしか有り得ない。
「貴様、俺の仲間に何をやっている!!」
「オボロ、待――――」
「オボロ、待――――」
トウカが制止の声を投げ掛けるが、それは余りにも遅い。
オボロは何の躊躇も無く、素早い動作で楓目掛けてボウガンを撃ち放った。
楓はすっと横に動いて矢を躱したが、それはオボロの狙い通りだった。
オボロは何の躊躇も無く、素早い動作で楓目掛けてボウガンを撃ち放った。
楓はすっと横に動いて矢を躱したが、それはオボロの狙い通りだった。
ボウガンは矢の再装填に時間が掛かり過ぎて、連続攻撃には不向きだ。
事実岡崎朋也との戦いでは、それが原因で逃げられてしまった。
少数戦に於いてボウガンが力を発揮するのは、最初の一発だけなのだ。
ボウガンのみで敵を仕留めるのは困難――ならば、連携の一環として組み込めば良いだけの事。
そう考えれば、最初の一発だけで十分。
敵を回避に回らせる事さえ出来れば、距離を詰める時間的猶予が生まれる。
事実岡崎朋也との戦いでは、それが原因で逃げられてしまった。
少数戦に於いてボウガンが力を発揮するのは、最初の一発だけなのだ。
ボウガンのみで敵を仕留めるのは困難――ならば、連携の一環として組み込めば良いだけの事。
そう考えれば、最初の一発だけで十分。
敵を回避に回らせる事さえ出来れば、距離を詰める時間的猶予が生まれる。
「――――フッ!!」
疾風と化したオボロが、あっという間に楓の眼前まで走り寄る。
高重量の機関銃を装備している楓は、オボロのスピードにまるで対応出来ていない。
オボロは果物ナイフを振り下ろし、楓のブラウニングM2“キャリバー.50”を叩き落してた。
間髪置かずにブラウニングM2“キャリバー.50”を蹴り飛ばし、それと同時に楓の喉元へ白刃を突きつける。
高重量の機関銃を装備している楓は、オボロのスピードにまるで対応出来ていない。
オボロは果物ナイフを振り下ろし、楓のブラウニングM2“キャリバー.50”を叩き落してた。
間髪置かずにブラウニングM2“キャリバー.50”を蹴り飛ばし、それと同時に楓の喉元へ白刃を突きつける。
「…………っ!」
「フン、ここまでだ曲者が。俺の仲間には指一本触れさせん」
「フン、ここまでだ曲者が。俺の仲間には指一本触れさせん」
その所業、正しく電光石火の如し。
オボロはその実力を余す所無く発揮し、一瞬で強敵を制圧してみせたのだ。
そしてこれは楓からすれば、孤立無援にして絶体絶命の危機。
此処で交渉を誤まれば、確実に殺されてしまうだろう。
だというのに――楓は凄惨に哂った。
オボロはその実力を余す所無く発揮し、一瞬で強敵を制圧してみせたのだ。
そしてこれは楓からすれば、孤立無援にして絶体絶命の危機。
此処で交渉を誤まれば、確実に殺されてしまうだろう。
だというのに――楓は凄惨に哂った。
「フフ……貴方はこれまでもそうやって、人を襲い続けてきたんですか?
何もしていない人を、無慈悲に殺してきたんですか?」
何もしていない人を、無慈悲に殺してきたんですか?」
告げられた一言。
それは『稟以外の男は全て絶対悪』と断ずる楓の思い込みが生んだ、つまらぬ疑念に過ぎぬ。
だがその言葉は、どんな攻撃よりも的確にオボロの心を射抜いていた。
オボロがよろよろと後退しながら、掠れた声を絞り出す。
それは『稟以外の男は全て絶対悪』と断ずる楓の思い込みが生んだ、つまらぬ疑念に過ぎぬ。
だがその言葉は、どんな攻撃よりも的確にオボロの心を射抜いていた。
オボロがよろよろと後退しながら、掠れた声を絞り出す。
「き、貴様何を言っている……?」
「だってそうでしょう。私はまだ何もしていないのに、一方的に襲い掛かってきたんですから。
トウカさん達に聞けば分かります。私はただ、質問をしていただけだと」
「だってそうでしょう。私はまだ何もしていないのに、一方的に襲い掛かってきたんですから。
トウカさん達に聞けば分かります。私はただ、質問をしていただけだと」
言われてオボロが視線を移すと、トウカがこくりと頷いた。
続けて楓が薄ら笑いを浮かべながら、話を続ける。
続けて楓が薄ら笑いを浮かべながら、話を続ける。
「ほら、ね。私は悪くないんです。なのにいきなり攻撃してくるなんて、おかしいです。怪しいです。
あ……分かりました。貴方が稟くんを襲った人なんだ、そうでしょ?」
あ……分かりました。貴方が稟くんを襲った人なんだ、そうでしょ?」
何時の間にか楓の左手には、大鉈がしっかりと握り締められていた。
心なしか、瞳孔も大きく開いているような気がする。
追求を続けてゆく楓は、傍目から見ればとても愉しげだった。
その変貌に少々気圧されながらも、トウカはオボロを弁護しようとする。
心なしか、瞳孔も大きく開いているような気がする。
追求を続けてゆく楓は、傍目から見ればとても愉しげだった。
その変貌に少々気圧されながらも、トウカはオボロを弁護しようとする。
「確かに楓殿の言うとおり、某達は危害を加えられてなどいない。だがオボロが殺し合いに乗っているというのは、楓殿の思い違いであろう。
オボロは清廉潔白なる武人。聖上の為に、国の為に、戦い続けてきた男。そんな男が悪の道に手を染めるなど、有り得ぬ事だ。
そうであろう、オボロ?」
「…………オボロくん。……君は、殺し合いに乗っていないんだよね? 信頼して……良いんだよね?」
オボロは清廉潔白なる武人。聖上の為に、国の為に、戦い続けてきた男。そんな男が悪の道に手を染めるなど、有り得ぬ事だ。
そうであろう、オボロ?」
「…………オボロくん。……君は、殺し合いに乗っていないんだよね? 信頼して……良いんだよね?」
全員の視線を一心に受けながら、オボロは苦悩する。
此処で『殺し合いに乗っていない』とさえ言えば、全ては平穏無事に終わるだろう。
だがこちらを吟味するように眺め見る、千影の視線。
自分の所為で大切な存在を失ってしまった、少女の目。
世界に満ちた全ての悲しみを、漏らさず閉じ込めてしまったかのような瞳。
その瞳で見つめられると、胸が張り裂けそうなくらい痛む。
抑え切れぬ感情の奔流が、良心の呵責が、次々と押し寄せてくる。
理性では嘘をつくべきだと分かっているのに――気付いた時にはもう、言葉が溢れ出していた。
此処で『殺し合いに乗っていない』とさえ言えば、全ては平穏無事に終わるだろう。
だがこちらを吟味するように眺め見る、千影の視線。
自分の所為で大切な存在を失ってしまった、少女の目。
世界に満ちた全ての悲しみを、漏らさず閉じ込めてしまったかのような瞳。
その瞳で見つめられると、胸が張り裂けそうなくらい痛む。
抑え切れぬ感情の奔流が、良心の呵責が、次々と押し寄せてくる。
理性では嘘をつくべきだと分かっているのに――気付いた時にはもう、言葉が溢れ出していた。
「……トウカ、千影、すまない」
「!? お主何を――――」
「俺はお前達が思ってるような男じゃないんだ! 俺は罪の無い者を――四葉を殺してしまったんだ!」
「「え…………」」
「!? お主何を――――」
「俺はお前達が思ってるような男じゃないんだ! 俺は罪の無い者を――四葉を殺してしまったんだ!」
「「え…………」」
驚きの声は、トウカと千影のものだ。
衝撃的な告白に暫しの間、場が静寂に包まれる。
やがて千影が、確認するように言った。
とても、冷たい声で。
衝撃的な告白に暫しの間、場が静寂に包まれる。
やがて千影が、確認するように言った。
とても、冷たい声で。
「オボロくん……それは本当かい?」
「ああ。兄者を守る為……少し前まで俺は殺し合いに乗っていたんだ」
「……それなら、私は君を許さないよ……必ず殺す……」
「ああ。兄者を守る為……少し前まで俺は殺し合いに乗っていたんだ」
「……それなら、私は君を許さないよ……必ず殺す……」
言い終えると、千影は鞄から短剣――永遠神剣第三位『時詠』を取り出した。
精一杯の憎しみを籠めて、オボロを思い切り睨み付ける。
やはりこの男は、確信犯の殺人鬼だったのだ。
あの時トウカを止めたのは、自分を欺く為だったのだろう。
この卑怯者によって、四葉は殺されてしまった。
自分にとっても兄にとっても大切な、可愛い妹は死んでしまったのだ。
オボロが何故正体を明かしたのかは分からないが、絶対に許せない。
止め処も無く滲み出る殺意のままに、千影は時詠を深く構える。
精一杯の憎しみを籠めて、オボロを思い切り睨み付ける。
やはりこの男は、確信犯の殺人鬼だったのだ。
あの時トウカを止めたのは、自分を欺く為だったのだろう。
この卑怯者によって、四葉は殺されてしまった。
自分にとっても兄にとっても大切な、可愛い妹は死んでしまったのだ。
オボロが何故正体を明かしたのかは分からないが、絶対に許せない。
止め処も無く滲み出る殺意のままに、千影は時詠を深く構える。
「――――待たれよっ!」
「……トウカくん、止めても無駄だよ。私は……オボロくんを殺す」
「……トウカくん、止めても無駄だよ。私は……オボロくんを殺す」
トウカはオボロと知り合いであったらしいから、止めようとするのは理解出来る。
それでも千影は、絶対にオボロを殺すつもりだった。
この島に兄は居ない――ならば自分が、報復を成し遂げなければならない。
だがトウカが発した言葉は、千影にとって予想外のものだった。
それでも千影は、絶対にオボロを殺すつもりだった。
この島に兄は居ない――ならば自分が、報復を成し遂げなければならない。
だがトウカが発した言葉は、千影にとって予想外のものだった。
「……許さなくて結構、妹君を奪われた千影殿の苦しみは計り知れぬものでしょう。
ですがオボロの不始末は、仲間である某にも責任がある。ならば千影殿が手を汚す事など無い。
某がこの剣で以って、けじめをつけさせて頂く」
ですがオボロの不始末は、仲間である某にも責任がある。ならば千影殿が手を汚す事など無い。
某がこの剣で以って、けじめをつけさせて頂く」
トウカはそう言って、ずいとオボロの前に踊り出た。
トウカの冷酷な双眸が、かつて仲間であった者の姿を眺め見る。
オボロは泣いているような、苦しんでいるような、そんな表情をしていた。
トウカの冷酷な双眸が、かつて仲間であった者の姿を眺め見る。
オボロは泣いているような、苦しんでいるような、そんな表情をしていた。
「オボロ……お主は武人として、決してやってはならぬ事をやってしまった。罪無き人の命を奪うなど、たとえ聖上の為であろうとも許されぬ。
何か申し開きする事はあるか?」
「……無い。千影が俺を殺すと云うのなら、その決断に従おう」
「そうか。ならば――此処でお主を斬るっ!」
何か申し開きする事はあるか?」
「……無い。千影が俺を殺すと云うのなら、その決断に従おう」
「そうか。ならば――此処でお主を斬るっ!」
正義を貫き通す為ならば、エヴェンクルガ族は何処までも冷徹になれる。
一切の容赦も躊躇も無く、トウカの剣が、オボロに向けて振り下ろされる。
奔る剣戟、飛び散る鮮血。
左肩から胸にかけて大きく斬られたオボロは、糸が切れた人形のように倒れ伏せた。
一切の容赦も躊躇も無く、トウカの剣が、オボロに向けて振り下ろされる。
奔る剣戟、飛び散る鮮血。
左肩から胸にかけて大きく斬られたオボロは、糸が切れた人形のように倒れ伏せた。
(聖上……。某は……某はっ…………!)
トウカの心を、形容しがたい激情が襲う。
手に伝わる肉を裂く感触、崩れ落ちる仲間の姿――今まで体験したどんな出来事よりも、心が痛かった。
オボロが死んだ事を知ってしまえば、ハクオロもユズハも酷く悲しむだろう。
何より自分自身だって、戦友の死は悲しい。
それでもトウカはどうにか感情を抑え込んで、千影の方へと首を向けた。
手に伝わる肉を裂く感触、崩れ落ちる仲間の姿――今まで体験したどんな出来事よりも、心が痛かった。
オボロが死んだ事を知ってしまえば、ハクオロもユズハも酷く悲しむだろう。
何より自分自身だって、戦友の死は悲しい。
それでもトウカはどうにか感情を抑え込んで、千影の方へと首を向けた。
「千影殿……オボロの罪は清算しました。ですから何卒、怒りをお鎮め願いたい」
「…………うん、そうだね」
「…………うん、そうだね」
答える千影の表情は、酷く沈み込んでいる。
復讐を成し遂げた達成感など、微塵も見て取れなかった。
それも当然だろう――オボロが死んだところで、四葉は生き返ったりしないのだから。
残ったのは空しさと、深い悲しみだけだった。
トウカ達が悲しみに打ちひしがれていたその時、それまで黙りこくっていた楓が口を開く。
復讐を成し遂げた達成感など、微塵も見て取れなかった。
それも当然だろう――オボロが死んだところで、四葉は生き返ったりしないのだから。
残ったのは空しさと、深い悲しみだけだった。
トウカ達が悲しみに打ちひしがれていたその時、それまで黙りこくっていた楓が口を開く。
「これでまた一人、稟くんに害を成す人間が減りましたね。
ですが――この時間になっても稟くんが現れないという事は、私は春原さんに騙されたみたいですね」
「春原……確かあの時の……。楓殿、その話を詳しく聞かせてくれぬか?」
ですが――この時間になっても稟くんが現れないという事は、私は春原さんに騙されたみたいですね」
「春原……確かあの時の……。楓殿、その話を詳しく聞かせてくれぬか?」
トウカが訊ねると、楓は事の顛末を語り始めた。
楓は春原陽平と名乗る人物の情報を信じて、土見稟と合流すべくこの神社を訪れた。
しかし未だ、稟が神社に現れる気配は無い。
楓が春原陽平と別れてから、もう半日近く経過しているのにだ。
トウカは春原と呼ばれていた男に、騙されそうになった経験がある。
同じようにして、楓も騙されたと考えるのが妥当だった。
トウカが苛立たしげに奥歯を噛み締める。
楓は春原陽平と名乗る人物の情報を信じて、土見稟と合流すべくこの神社を訪れた。
しかし未だ、稟が神社に現れる気配は無い。
楓が春原陽平と別れてから、もう半日近く経過しているのにだ。
トウカは春原と呼ばれていた男に、騙されそうになった経験がある。
同じようにして、楓も騙されたと考えるのが妥当だった。
トウカが苛立たしげに奥歯を噛み締める。
「春原……人を謀る悪漢め。何時の日か懲らしめねばならんな」
春原という男は殺し合いにこそ乗っていなかったものの、適当な出任せを言う姿勢は戴けない。
次に出会う事があれば、きっちりとお灸を据えておくべきだろう。
まあ犯した罪は比較的軽いし、命を奪う必要は無いが。
それがトウカの結論だったのだが、そこで楓が口を挟んでくる。
次に出会う事があれば、きっちりとお灸を据えておくべきだろう。
まあ犯した罪は比較的軽いし、命を奪う必要は無いが。
それがトウカの結論だったのだが、そこで楓が口を挟んでくる。
「懲らしめる? 何甘い事を言ってるんですか」
「……む?」
「稟くんを襲ったのは男です。私を騙したのも男です。ですから――」
「……む?」
「稟くんを襲ったのは男です。私を騙したのも男です。ですから――」
訳も分からず、楓の言葉に耳を傾けるトウカ。
千影もトウカに倣って、黙って話の続きを待とうとする。
だが次の瞬間二人の耳に飛び込んできたのは、おぞましいとも言える程の独白だった。
千影もトウカに倣って、黙って話の続きを待とうとする。
だが次の瞬間二人の耳に飛び込んできたのは、おぞましいとも言える程の独白だった。
「稟くん以外の男なんてこの島には必要無いんです、消え去るべきなんです。
稟くん以外の男なんて生きたゴミなんです、稟くんを傷付けるだけのゴミなんです」
稟くん以外の男なんて生きたゴミなんです、稟くんを傷付けるだけのゴミなんです」
まるで歌うかのように、愉しげに放たれる言葉の数々。
少女の淀んだ瞳が、爛々と妖しく輝いている。
少女の淀んだ瞳が、爛々と妖しく輝いている。
「だから私がゴミを全部片付けて、稟くんが傷付かない世界にするんです。私がずっとずっと稟くんをお守りして差し上げるんです。
十年後も、百年後も、未来永劫傍でお世話し続けるんです」
十年後も、百年後も、未来永劫傍でお世話し続けるんです」
伝わってくる感情は三つ。
異常なまでの愛情と、過ぎた自己陶酔、そして――――稟以外の男に対する、圧倒的な殺意。
異常なまでの愛情と、過ぎた自己陶酔、そして――――稟以外の男に対する、圧倒的な殺意。
「私がこの島を浄化するんです、稟くんの為に浄化するんです。
浄化するんです、浄化するんです、浄化するんです、浄化するんです浄化するんです浄化するんです……」
浄化するんです、浄化するんです、浄化するんです、浄化するんです浄化するんです浄化するんです……」
矢継ぎ早に紡がれる異常な理論に、トウカも千影も口を挟めなかった。
オボロの乱入で有耶無耶となっていたが、最早疑いようも無い。
この少女、芙蓉楓は――完全に、『異常者』だ。
話し合って分かり合えるような相手では無い。
そしてトウカ達が硬直していたその時に、突如パチパチと拍手する音が聞こえてきた。
オボロの乱入で有耶無耶となっていたが、最早疑いようも無い。
この少女、芙蓉楓は――完全に、『異常者』だ。
話し合って分かり合えるような相手では無い。
そしてトウカ達が硬直していたその時に、突如パチパチと拍手する音が聞こえてきた。
「――――流石楓さん、素晴らしいお考えです」
とても満足げな声が神社に響く。
それはとても甘美な、しかし粘りつくように重い音響だと感じられた。
トウカ達の視線が、右方にある林の辺りへと引き寄せられる。
そこには、青い長髪の少女――ネリネが屹立していた。
それはとても甘美な、しかし粘りつくように重い音響だと感じられた。
トウカ達の視線が、右方にある林の辺りへと引き寄せられる。
そこには、青い長髪の少女――ネリネが屹立していた。
「な――――これは…………」
ネリネの姿を認識した千影は、背筋が寒くなる感覚を禁じ得なかった。
多少なりとも魔術を齧っている自分だからこそ、何とか理解出来る。
こうやって向かい合っているだけでも感じ取れる程の、凄まじい魔力。
人間では決して持ち得ない、桁外れの魔力。
実際には制限があるのだから、十分に対抗可能なのだが――千影からすればネリネは、桁違いの怪物のように感じられた。
そんな千影の狼狽を意に介す事無く、ネリネは楓に語り掛ける。
多少なりとも魔術を齧っている自分だからこそ、何とか理解出来る。
こうやって向かい合っているだけでも感じ取れる程の、凄まじい魔力。
人間では決して持ち得ない、桁外れの魔力。
実際には制限があるのだから、十分に対抗可能なのだが――千影からすればネリネは、桁違いの怪物のように感じられた。
そんな千影の狼狽を意に介す事無く、ネリネは楓に語り掛ける。
「ですが楓さん。男だけが稟さまを傷付けるというのは、楽観が過ぎますよ?」
「……リンちゃん、それはどういう事ですか?」
「考えてもみてください。女性の方だって、稟さまに危害を加えるかも知れないじゃないですか。
お優しい稟さまの事ですから、ひ弱な女性を保護しようとして、寝首を掻かれてしまう可能性もある――違いますか?」
「……リンちゃん、それはどういう事ですか?」
「考えてもみてください。女性の方だって、稟さまに危害を加えるかも知れないじゃないですか。
お優しい稟さまの事ですから、ひ弱な女性を保護しようとして、寝首を掻かれてしまう可能性もある――違いますか?」
言われて楓は僅かの間考え込んだ。
だがほんの数秒足らずで、すぐに結論が弾き出された。
楓は何の迷いも無く、首を縦に振る事で肯定の意を示す。
だがほんの数秒足らずで、すぐに結論が弾き出された。
楓は何の迷いも無く、首を縦に振る事で肯定の意を示す。
「そう……ですね、私が間違ってました。リンちゃんの言う通り、女性の方も殺しちゃわないといけませんね」
「ええ、では手始めにこのお二方から片付けましょう。稟さまを傷付ける存在など、二酸化炭素を撒き散らすだけの公害。
悪の権化です! 不必要です!」
「ええ、では手始めにこのお二方から片付けましょう。稟さまを傷付ける存在など、二酸化炭素を撒き散らすだけの公害。
悪の権化です! 不必要です!」
ネリネが永遠神剣第七位“献身”を、楓がベレッタM93Rを取り出す。
二人の目に宿った明確な殺意が、最早説得など不可能であると報せていた。
千影はドクンドクンと踊り狂う心臓を必死に沈め、時詠を構え直した。
トウカの身体能力は並外れているものの、この二人を同時に相手する事は難しいだろう。
自分も戦うしかない。
焦る千影の横で、トウカの鋭い視線がネリネを射抜く。
二人の目に宿った明確な殺意が、最早説得など不可能であると報せていた。
千影はドクンドクンと踊り狂う心臓を必死に沈め、時詠を構え直した。
トウカの身体能力は並外れているものの、この二人を同時に相手する事は難しいだろう。
自分も戦うしかない。
焦る千影の横で、トウカの鋭い視線がネリネを射抜く。
「やるしかないようだな…………お主、名は何という」
「――私はネリネと申します。貴女は?」
「某はエヴェンクルガのトウカ、正義を貫く武士だ。……参るッ!」
「――私はネリネと申します。貴女は?」
「某はエヴェンクルガのトウカ、正義を貫く武士だ。……参るッ!」
叫び終えるとほぼ同時、トウカの足元が爆ぜる。
刃こぼれした西洋剣を左脇の辺りに構え、一人の武士が疾走する。
極限まで鍛え抜かれた脚力に裏付けされた、高速の突貫。
だが制限されているソレは、対応不可能な域にまで達してはいない。
刃こぼれした西洋剣を左脇の辺りに構え、一人の武士が疾走する。
極限まで鍛え抜かれた脚力に裏付けされた、高速の突貫。
だが制限されているソレは、対応不可能な域にまで達してはいない。
「……抵抗するおつもりですか? やっぱり女性の方だからって、油断してはいけませんね。
危険です、野蛮です。一人残らず駆除しなければいけません」
危険です、野蛮です。一人残らず駆除しなければいけません」
迎え撃つは、絶対の殺意を湛えた少女。
楓の握り締めたベレッタM93Rから、破壊を齎す弾丸が放たれる。
トウカは戦場で培った直感に身を任せ、上体を大きく横に傾けた。
直後、頬を掠める突風、直接触れずとも伝わってくる衝撃。
楓の握り締めたベレッタM93Rから、破壊を齎す弾丸が放たれる。
トウカは戦場で培った直感に身を任せ、上体を大きく横に傾けた。
直後、頬を掠める突風、直接触れずとも伝わってくる衝撃。
(これが銃という武器かっ……!)
予想以上の威力に、トウカは思わず唇を噛む。
矢を遥かに凌駕した武器だと聞いてはいたが、まさかここまでとは。
これでは弾丸を切り払うのは勿論として、見てから避けるのすらも不可能だろう。
銃口の向きから射線を予測して、予め身を躱すように動き続けるしかない。
矢を遥かに凌駕した武器だと聞いてはいたが、まさかここまでとは。
これでは弾丸を切り払うのは勿論として、見てから避けるのすらも不可能だろう。
銃口の向きから射線を予測して、予め身を躱すように動き続けるしかない。
「ほらほら、どんどん行きますよ?」
「――――――――っ」
「――――――――っ」
距離さえ詰めてしまえば、敵が引き金を絞る前に切り伏せられるが、そうは問屋が卸さない。
第二、第三の銃弾が連続して撃ち放たれる。
迫り来る衝撃力の塊は、弓矢などとは比べ物にならぬ程の威力だろう。
たった一度の回避ミスが、そのまま致命傷に直結する。
まずはもう少し守りに専念して、感覚を慣らさねばならない。
トウカは楓を中心として円状に疾走し、一定距離を保ち続けようとする。
だがそこで横に忍び寄る、青い殺人者。
トウカの不意を突く形で、ネリネが槍を突き出してきた。
第二、第三の銃弾が連続して撃ち放たれる。
迫り来る衝撃力の塊は、弓矢などとは比べ物にならぬ程の威力だろう。
たった一度の回避ミスが、そのまま致命傷に直結する。
まずはもう少し守りに専念して、感覚を慣らさねばならない。
トウカは楓を中心として円状に疾走し、一定距離を保ち続けようとする。
だがそこで横に忍び寄る、青い殺人者。
トウカの不意を突く形で、ネリネが槍を突き出してきた。
「――ヤアアアアアッ!」
「…………!」
「…………!」
トウカに迫り来る槍の刃先は、大した速度では無い。
ネリネは魔力を温存する為に、身体能力の強化を行ってはいないのだ。
ネリネは魔力を温存する為に、身体能力の強化を行ってはいないのだ。
だが――それでも不意を突かれたトウカには、防御方法が存在しない。
槍を払いのけても、若しくは強引に飛び退いたとしても、結末は同じ。
生じた隙を、楓が放つ銃弾により捉えられてしまうだろう。
しかし槍の刃先はトウカに届く前に、短剣によって受け止められていた。
自身の窮地を救ってくれた者の姿に、トウカは少なからず驚嘆の念を覚える。
槍を払いのけても、若しくは強引に飛び退いたとしても、結末は同じ。
生じた隙を、楓が放つ銃弾により捉えられてしまうだろう。
しかし槍の刃先はトウカに届く前に、短剣によって受け止められていた。
自身の窮地を救ってくれた者の姿に、トウカは少なからず驚嘆の念を覚える。
「――――千影殿!?」
「……此処は私が、引き受けるよ。その間に……トウカくんは、……楓くんを倒してくれ」
「し、しかし――――」
「……此処は私が、引き受けるよ。その間に……トウカくんは、……楓くんを倒してくれ」
「し、しかし――――」
守るべき対象を前線に立たせるなど、武人として避けなければならない行い。
トウカは千影に退避を促そうとするが、すぐにこちらを狙う狙撃手の存在に思い至り、断念する。
話し合っている暇など無い。
今は一刻も早く、楓を仕留めるのが肝要だ――そう判断したトウカは、千影に背を向けて走り出した。
トウカは再び銃撃の嵐へと身を投じ、ある時は身を屈め、ある時は跳躍する事によって、荒れ狂う銃弾を躱してゆく。
トウカは千影に退避を促そうとするが、すぐにこちらを狙う狙撃手の存在に思い至り、断念する。
話し合っている暇など無い。
今は一刻も早く、楓を仕留めるのが肝要だ――そう判断したトウカは、千影に背を向けて走り出した。
トウカは再び銃撃の嵐へと身を投じ、ある時は身を屈め、ある時は跳躍する事によって、荒れ狂う銃弾を躱してゆく。
そんな中、千影はネリネと対峙する。
ネリネの手に握られた大きな槍からは、強大な魔力の波動が感じられる。
恐らくは自分の持っている時詠と同じく、永遠神剣の類であろう。
そんな千影の確信を裏付けるかのように、ネリネが語り掛けてくる。
ネリネの手に握られた大きな槍からは、強大な魔力の波動が感じられる。
恐らくは自分の持っている時詠と同じく、永遠神剣の類であろう。
そんな千影の確信を裏付けるかのように、ネリネが語り掛けてくる。
「何か感じませんか?」
「え……?」
「私は感じます。この槍が……献身が……もっと魔力を欲しがっているのが。
貴女の永遠神剣もきっと、同じなのではないですか?」
「…………」
「え……?」
「私は感じます。この槍が……献身が……もっと魔力を欲しがっているのが。
貴女の永遠神剣もきっと、同じなのではないですか?」
「…………」
千影は答えないが、内心ではネリネの言葉を半分程肯定していた。
自分が『時の流れを加速』させた時、確かに魔力を多少消耗した。
その事から推察するに、永遠神剣は魔力を超常的な力へと変えている筈だ。
自分が『時の流れを加速』させた時、確かに魔力を多少消耗した。
その事から推察するに、永遠神剣は魔力を超常的な力へと変えている筈だ。
しかし自分が時詠の力を使用した際、もう一つ大きな変化があった。
あの時自分は、強い疲労と凄まじいまでの虚脱感に襲われたのだ。
ネリネの槍がどれ程の奇跡を起こせるかは分からぬが、時詠の力には遠く及ばないだろう。
より強い奇跡を起こす為には、より大きな代償が必要なのは自明の理。
恐らくこの時詠に限っては、魔力だけで無く、所持者の生命力そのものを吸い取るのでは無いか。
極力時詠の特殊能力には頼らず戦った方が良いだろう。
あの時自分は、強い疲労と凄まじいまでの虚脱感に襲われたのだ。
ネリネの槍がどれ程の奇跡を起こせるかは分からぬが、時詠の力には遠く及ばないだろう。
より強い奇跡を起こす為には、より大きな代償が必要なのは自明の理。
恐らくこの時詠に限っては、魔力だけで無く、所持者の生命力そのものを吸い取るのでは無いか。
極力時詠の特殊能力には頼らず戦った方が良いだろう。
千影は地面を勢い良く蹴り、生まれた推進力と肉体の力だけで斬りかかろうとする。
だがすかさず献身が横一文字に振るわれて、千影は後退を強要される。
そして続けざまに、ネリネが槍を振り下ろしてくる。
だがすかさず献身が横一文字に振るわれて、千影は後退を強要される。
そして続けざまに、ネリネが槍を振り下ろしてくる。
「…………くうっ」
髪を舞い上げる旋風。
千影は済んでの所で横に方向転換し、槍の刃先から逃れていた。
だが勿論その程度で終わる筈が無い。
千影は済んでの所で横に方向転換し、槍の刃先から逃れていた。
だが勿論その程度で終わる筈が無い。
「は――――あ、く…………」
矢継ぎ早に献身の刃が奔り、千影は必死の思いで耐え凌ぐ。
幾ら後ろに下がろうとも、休憩は許されない。
右方向より襲い来る白刃を、懸命に時詠で受け流す。
生まれた僅かな時間を利用して後方に退こうとするが、すぐに距離を縮められる。
敵が一撃毎に踏み込んでくる所為で、延々と回避を強要される。
千影は永遠神剣による身体能力強化を行っていないが、対するネリネも魔力を温存している。
幾ら後ろに下がろうとも、休憩は許されない。
右方向より襲い来る白刃を、懸命に時詠で受け流す。
生まれた僅かな時間を利用して後方に退こうとするが、すぐに距離を縮められる。
敵が一撃毎に踏み込んでくる所為で、延々と回避を強要される。
千影は永遠神剣による身体能力強化を行っていないが、対するネリネも魔力を温存している。
だがそれでも千影の不利は明白だった。
自分の得物は短剣、そしてネリネの得物は槍――故に反撃する余裕など無い。
剣で槍を制するには、相手の三倍の技量が必要だというが、千影は運動を得意としていない。
必然的に、戦いの天秤はネリネへと傾く。
そして、決して忘れてはいけない。
もう一人の敵は、遠隔攻撃が可能だという事を。
自分の得物は短剣、そしてネリネの得物は槍――故に反撃する余裕など無い。
剣で槍を制するには、相手の三倍の技量が必要だというが、千影は運動を得意としていない。
必然的に、戦いの天秤はネリネへと傾く。
そして、決して忘れてはいけない。
もう一人の敵は、遠隔攻撃が可能だという事を。
「――――――――!?」
突如千影の脳内に、胸を撃ち抜かれる自身の姿が浮かんだ。
所謂未来視というものだ。
斜め後方から楓に狙われているのが、手に取るように分かる。
前方からは今もネリネが、獲物を仕留めるべく迫ってきている。
自力でこの状況を逃れるのは不可能――もう、時詠の力を使うしかない。
所謂未来視というものだ。
斜め後方から楓に狙われているのが、手に取るように分かる。
前方からは今もネリネが、獲物を仕留めるべく迫ってきている。
自力でこの状況を逃れるのは不可能――もう、時詠の力を使うしかない。
千影は精神を集中させ、タイムアクセラレイト――自身の時間を加速させる技――を発動させた。
途端に全身を凄まじい疲労感が襲ったが、それでも身体の動きは速まった。
今の状態ならば、銃弾も槍撃も大した脅威では無い。
千影はコンマ数秒で4-5メートル後退し、絶望的だった状況をあっさりと覆す。
本当に一瞬の出来事だったが、その動きは生物の限界すらも超越していた。
連射された銃弾も、ネリネの振るった槍も、等しく空を裂くに留まった。
途端に全身を凄まじい疲労感が襲ったが、それでも身体の動きは速まった。
今の状態ならば、銃弾も槍撃も大した脅威では無い。
千影はコンマ数秒で4-5メートル後退し、絶望的だった状況をあっさりと覆す。
本当に一瞬の出来事だったが、その動きは生物の限界すらも超越していた。
連射された銃弾も、ネリネの振るった槍も、等しく空を裂くに留まった。
「そんな――――!?」
銃撃を躱された楓は、計らずして驚きの声を洩らしてしまった。
トウカの追撃を振り切って放った、最高の奇襲だったのに、恐ろしいまでの動きで回避された。
有り得ない現実を目の当たりにし、楓の思考が一瞬停止する。
そしてその狼狽は、先程から楓の隙を窺っていたトウカにとって、最高の好機。
神社の境内に、一陣の旋風が吹き荒れる。
トウカの追撃を振り切って放った、最高の奇襲だったのに、恐ろしいまでの動きで回避された。
有り得ない現実を目の当たりにし、楓の思考が一瞬停止する。
そしてその狼狽は、先程から楓の隙を窺っていたトウカにとって、最高の好機。
神社の境内に、一陣の旋風が吹き荒れる。
「芙蓉楓――――その首貰い受ける!」
「…………っ!?」
「…………っ!?」
疾風と化したトウカは、前進を続けながらスペツナズナイフの柄を投擲する。
投げられた柄は勢い良く宙を突き進み、楓の左手に命中した。
そのままトウカは、痛みに硬直する楓の懐へと潜り込んだ。
トウカの十八番にして、数多くある剣技の中でも最速の攻撃――居合い抜きが、満を持して放たれる。
常人では抗いようの無い剣戟が、寸分違える事無くベレッタM93Rの銃身を捉えた。
大きく響き渡る金属音。
投げられた柄は勢い良く宙を突き進み、楓の左手に命中した。
そのままトウカは、痛みに硬直する楓の懐へと潜り込んだ。
トウカの十八番にして、数多くある剣技の中でも最速の攻撃――居合い抜きが、満を持して放たれる。
常人では抗いようの無い剣戟が、寸分違える事無くベレッタM93Rの銃身を捉えた。
大きく響き渡る金属音。
「あぐっ…………」
楓の手元から、ベレッタM93Rが弾き飛ばされる。
空手となった楓の首に、トウカの振るう白刃が迫る。
先の居合い抜きには遠く及ばぬものの、十分な鋭さを伴った斬撃。
それは間違いなく勝負を決する一撃となる筈だった――千影の悲鳴さえ聞こえてこなければ。
空手となった楓の首に、トウカの振るう白刃が迫る。
先の居合い抜きには遠く及ばぬものの、十分な鋭さを伴った斬撃。
それは間違いなく勝負を決する一撃となる筈だった――千影の悲鳴さえ聞こえてこなければ。
「……くっ、ああああああ!」
「――――千影殿!?」
「――――千影殿!?」
トウカが視線を移した先で展開されていたのは、絶望的な光景だった。
千影の左肩が、ネリネの握り締めた献身によって深く穿たれていた。
鮮血が花裂くように舞い散る中、千影の首元に白刃が突きつけられる。
そのままネリネは、トウカに向けて底意地の悪い笑みを浮かべた。
千影の左肩が、ネリネの握り締めた献身によって深く穿たれていた。
鮮血が花裂くように舞い散る中、千影の首元に白刃が突きつけられる。
そのままネリネは、トウカに向けて底意地の悪い笑みを浮かべた。
「惜しかったですねトウカさん。後数秒遅れていれば、私達の負けでした」
ネリネの言葉通り、本当にたった数秒の差だった。
トウカが楓を追い詰めている間、ネリネもまた千影に対し猛攻を仕掛けていたのだ。
そして激しい疲弊を抱えていた分、千影が敗れる方が僅かに早かった。
トウカが楓を追い詰めている間、ネリネもまた千影に対し猛攻を仕掛けていたのだ。
そして激しい疲弊を抱えていた分、千影が敗れる方が僅かに早かった。
「……貴女には剣を捨てる義務があります。まあ千影さんの命が惜しくないというのなら、話は別ですが」
「おのれ……卑怯な!」
「おのれ……卑怯な!」
トウカは心底苛立たしげに舌打ちをするが、どうしようもない。
武器を捨てればどうなるか、末路を想像するのは余りにも容易いが、それでも投降するしか無いのだ。
誇り高きエヴェンクルガ族である自分が、人質を見捨てるなど有り得ぬ話だった。
トウカは手にした西洋剣を、ゆっくりと地面に放り投げる。
次の瞬間、トウカの即頭部に奔る衝撃。
武器を捨てればどうなるか、末路を想像するのは余りにも容易いが、それでも投降するしか無いのだ。
誇り高きエヴェンクルガ族である自分が、人質を見捨てるなど有り得ぬ話だった。
トウカは手にした西洋剣を、ゆっくりと地面に放り投げる。
次の瞬間、トウカの即頭部に奔る衝撃。
「がっ…………!」
「――――先程はよくもやってくれましたね」
「――――先程はよくもやってくれましたね」
楓は拾い上げたベレッタM93Rの銃身で、思い切りトウカを殴り付けていた。
予期し得ぬ攻撃に、トウカがもんどり打って転倒する。
楓はつかつかと足を進めて、倒れたままのトウカの腹部を踏みつけた。
――足を振り上げ、降ろす。
――足を振り上げ、降ろす。
同じ動作を何度も何度も、感触を確かめるかのように繰り返す。
その最中拳銃に新しいマガジンを詰めもしたが、責める足だけは決して止めない。
予期し得ぬ攻撃に、トウカがもんどり打って転倒する。
楓はつかつかと足を進めて、倒れたままのトウカの腹部を踏みつけた。
――足を振り上げ、降ろす。
――足を振り上げ、降ろす。
同じ動作を何度も何度も、感触を確かめるかのように繰り返す。
その最中拳銃に新しいマガジンを詰めもしたが、責める足だけは決して止めない。
「うっ……がっ……はっ…………」
「アハハハハハハハ! あんたなんか、死んじゃえば良いんだああああっ!!」
「く……楓くん、止めてくれ……」
「アハハハハハハハ! あんたなんか、死んじゃえば良いんだああああっ!!」
「く……楓くん、止めてくれ……」
ベレッタM93Rの引き金を絞れば一瞬で終わるというのに、楓は敢えて拷問の続行を選択する。
土見稟を傷付ける可能性がある者――即ち『土見ラバーズ』以外の人間は、極力苦しめて殺したいからだ。
腹部を踏みつけるのに飽きたのか、次は狙う箇所を変える。
サッカーボールを蹴る要領で、トウカの腕を、足を、休む事無く蹴り続ける。
その度に、トウカの喉から掠れた声が絞り出される。
妄信に取り憑かれた狂人が繰り広げる、終わりの見えぬ責め苦。
千影が制止を懇願するが、楓の狂笑は止まらない。
人質を取られている限りトウカは戦えぬし、首元に刃を突きつけられている千影も動けない。
誰も楓を止められないであろう状況。
土見稟を傷付ける可能性がある者――即ち『土見ラバーズ』以外の人間は、極力苦しめて殺したいからだ。
腹部を踏みつけるのに飽きたのか、次は狙う箇所を変える。
サッカーボールを蹴る要領で、トウカの腕を、足を、休む事無く蹴り続ける。
その度に、トウカの喉から掠れた声が絞り出される。
妄信に取り憑かれた狂人が繰り広げる、終わりの見えぬ責め苦。
千影が制止を懇願するが、楓の狂笑は止まらない。
人質を取られている限りトウカは戦えぬし、首元に刃を突きつけられている千影も動けない。
誰も楓を止められないであろう状況。
――だがそこで突然、猛獣の如き咆哮が響き渡った。
104:来客の多い百貨店 | 投下順に読む | 105:武人として/鮮血の結末 (後編) |
104:来客の多い百貨店 | 時系列順に読む | 105:武人として/鮮血の結末 (後編) |
093:恋獄少女 | 芙蓉楓 | 105:武人として/鮮血の結末 (後編) |
102:知る者、知らざる者 | オボロ | 105:武人として/鮮血の結末 (後編) |
102:知る者、知らざる者 | トウカ | 105:武人として/鮮血の結末 (後編) |
102:知る者、知らざる者 | 千影 | 105:武人として/鮮血の結末 (後編) |
096:彼女は眠らぬ山猫の様に、深く静かに休息す | ネリネ | 105:武人として/鮮血の結末 (後編) |
090:無垢なる刃 | 川澄舞 | 105:武人として/鮮血の結末 (後編) |