It’s a painfull life ◆A6ULKxWVEc


「もう…ともりんったら、何も本気で蹴らなくても良いじゃない」
「う、うるさい!ああでもしなければ今頃私の貞操は…」
「いいじゃない、減るもんじゃなし」
「へ、減るぞ!初めては大切な人に…って何言わせるんだ!」
「あ、ともりん初めてなんだ~。大丈夫、私に任せてくれればめくるめく快楽の世界へ連れてって、あ・げ・る♪」
「や、やめろ!手をわきわきさせながら近づいてくるな!」

そんな心温まる?会話は鷹野の放送によって中断された。

『それじゃあ、また。 次の放送で会えることを祈っているわ』

放送が終わった後も二人の間に会話は戻らない。
藤林杏、対馬レオ───それぞれの知人の命が永遠に失われたのだから。
智代は唇に血を滲ませ、もし自らの未熟を呪い俯く。
エリカは淡々と死者の名前に線を引き、放送の内容を書き写していく。
その線は対馬レオの上をなぞる時も揺るがなかった。

そして数分後エリカは放送の内容を全て書き終えた。
「ここでグズグズしても仕方ないわ。ともりん、そろそろ行くわよ」
それでも智代は顔を上げない。
「何を…言ってるんだ?」
ともすれば聞き逃しそうになるほどの声でつぶやく。
「なんで…お前はそんな平然としてるんだ?11人も死んだんだぞ?私の友人の杏やお前の知り合いの対馬レオって人も死んだんだぞ!」
次第に感情が高ぶってきたのか声が大きくなり始める。
「ええ、そうね」
エリカは表情を崩さずに返す。
「私たちがのんきに遊んでる間にあいつらは死んだんだぞ!なのになんでそんな…」
智代は遂にはエリカに掴みかかり詰問する。
「うるさい!」
それまで無表情に徹していたエリカの表情が歪む。
「分かってる!分かってるわよそんなこと!」
「分かってない!」
エリカの言葉をさえぎり智代は叫ぶ。
「私が…!私が温泉に行こうなんて言い出さなかったら!お前と遊んでいなかったら!」

バシイッ

尚も続けようとした智代の頬をエリカが打った。
普段の智代なら、高校生の女子に打たれたところで倒れ臥すような無様は晒さなかっただろう。
だが今の智代は精神的に弱っていた、そして何よりも───霧夜エリカの平手打ちは、重かった。
それは日々のたゆまぬ努力で付いた重みであり、自身が背負ったフカヒレの、対馬レオの、顔も知らぬ10人の死者を背負った重みだった。
「分かってるわよ!私がうまく立ち回れていたら最初にフカヒレ君は死なずにすんだのかもしれない!」
倒れ臥した智代の上に馬乗りになり搾り出すような声で告げる。
「この島に連れて来られてからの立ち回り次第では誰か助けれたのかもしれない、でも私達は誰にも会えず、誰も救えなかった。それは事実」
少しの間を置いて、大きな声で宣誓する。
「だから私は糧にする!フカヒレ君も対馬君も藤林さんも、全員の死を成長する糧にして!乗り越えて!最後にはあのふざけた連中に思い知らせてやるわ!霧夜エリカを敵に回す事の恐ろしさをね!」


     ◇     ◇     ◇


「―――――!――――――――――――!」
エリカのビンタの所為で智代の耳は麻痺していた。
倒れた自分の上にのり何か言っているのはわかる。
智代はエリカの歪んだ顔を見て彼女もまた友の死を悼んでいたことを知った。
『なんで…お前はそんな平然としてるんだ?』
自分の頭の悪さに吐き気がする。なんて酷いことを言ってしまったのだろう。
「─―――――――――――!」
エリカはまだ何か言っているがまだうまく聞き取れない。
言葉を返さない私に業を煮やしたのか彼女が掴みかかってくる。
私としても謝りたかったが生憎と彼女の言葉がわからない。
だからせめて彼女に何をされても受け入れよう。
そう思い目を閉じる。

予想していた衝撃は来ず、ただ滴のみが智代の体を濡らした。


     ◇     ◇     ◇


彼―――――相沢祐一は焦燥していた
放送で倉田佐祐理の名前が呼ばれたことに。
放送で対馬レオの名前が呼ばれたことに。
立ち止まって泣き叫びたかった。
自分の無力さに怒りの雄たけびを挙げたかった。
だが、止まれない。
対馬レオが遺した遺品を無駄にしないために。
確実に近くに居るであろう霧夜エリカを止めるために。
メモを取ることも忘れ、自分の無力さへの怒りを、大切な先輩を失った悲しみを、この瞬間にも誰かが殺されているかもしれない恐れを、全てを走る力に変えて殺人鬼を探すために駆ける。


素人が森の中を全力疾走すれば転ぶのは必然である。
彼は木の根につまずき、地面に顔をに打ちつけ、一瞬意識が遠のく。
だが止まらない。

「―――――!――――――――――――!」

目的も無く、ただがむしゃらに走る彼の耳に話し声が届く。
声は遠く、内容は分からない。
だが会話の内容が切迫しているのは分かる。

「─―――――――――――!」

もう誰も失わないために。
今にも失われんとする命を救うために、彼は全ての脚力を注ぎ込む。

「だから私は糧にする!」

走る

「フカヒレ君も対馬君も藤林さんも」

奔る

「全員の死を成長する糧にして!」

疾る

「乗り越えて!最後にはあのふざけた連中に思い知らせてやるわ!」

辿り付いた先で彼が見たのは

「霧夜エリカを敵に回す事の恐ろしさをね!」

銀髪の少女の上にのり、今にも掴みかからんとする金髪の少女─霧夜エリカの姿だった。


     ◇     ◇     ◇


もし、智代がもう少し強ければエリカが智代を押し倒し、馬乗りになることは無かったのだろう。
もし、エリカがもう少し弱ければ智代はエリカの事を誤解することは無かったのだろう。
もし、祐一がもう少し冷静であったなら、エリカが智代を殺そうとしていると誤解することは無かったのだろう

もしも土永さんの仕掛けたボイスレコーダーを祐一が見つけなかったら。
もしも祐一が智代とエリカの会話をもっとうまく聞き取れていたら。
もしも放送で祐一・智代・エリカの知人の名が呼ばれなかったら。

結果はもう少し違った物になったのかもしれない。

だが現実は非情で───相沢祐一は、霧夜エリカの事を殺人鬼と認識した。

走り寄ってくる祐一の姿に、智代は目を閉じていたが故に、エリカは背を向けていたが故に気づかない。
走り寄ってくる祐一の足音は、智代は耳がうまく聞こえなかったから、エリカは激昂していたので聞き逃した。

故に───祐一の刃がエリカの背に突き刺さることを止める者は居なかった。


     ◇     ◇     ◇


体にのしかかって来る霧夜エリカだった物の重みに違和感を感じた智代が見たのは、死体からナイフを引き抜く祐一の姿だった。

「危ない所だったな」

そう言いつつ作られた祐一のぎこちない笑みは、智代には殺人鬼のそれにしか見えなかった。
こちらに向かって伸ばしてくる手は自分を押さえつけようとする悪魔の手にしか見えなかったし、語り掛けて来る言葉は狂人のそれにしか思えなかった。
さらには確実に失われていくエリカの体温が、智代から思考力を奪っていく。
結果として、倒れている智代に手を差し伸べようとした、唯それだけの、純粋なる善意の手が智代に触れる直前。
彼女の恐怖は頂点に達し、咄嗟に彼女に支給されていた銃の引き金を引いた。
智代の恐怖を殺人鬼に襲われていた余韻だとしか認識していなかった祐一に、その弾丸を避ける術は無かった。
傍らにある祐一とエリカの死体、智代に向けて飛び散った血と肉片、手に残る銃の反動と硝煙の香り。
それら全てが現実として智代に重く伸し掛かった。



【B-6 朝】

【坂上智代@CLANNAD】
【装備:FNブローニングM1910 5+1発(.380ACP)】
【所持品:支給品一式、ランダムアイテム不明】
【状態:茫然自失】
【思考・行動】
??????

※智代は体に血を浴びています。程度は後続の書き手に任せます。

※デイパック+支給品一式×2、トランシーバー(二台)・多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)・十徳工具@うたわれるもの・スタンガンがB-6に放置されています。

【霧夜エリカ@つよきす 死亡】
【相沢祐一@Kanon 死亡】


073:陽のあたる場所(後編) 投下順に読む 075:信じる者、信じない者(前編)
073:陽のあたる場所(後編) 時系列順に読む 075:信じる者、信じない者(前編)
045:温泉に集いし者たち(後編) 坂上智代 088:復讐鬼とブリーフと
045:温泉に集いし者たち(後編) 霧夜エリカ
064:信じる声-貫く声-偽る声 相沢祐一







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