陽のあたる場所


予定された時間に流れた放送は、ハクオロと観鈴の心に衝撃を与えていた。
観鈴は、大勢の人間が死んでしまった事を嘆く。
一方のハクオロは、第一に探したかった女の名前と、頼りになる部下の名前に崩れかかる。
(エルルゥ……カルラ)
傷つき倒れていたハクオロを助けてくれた薬師のエルルゥ。家族として自分を支えてくれた彼女。
時に怒られたりもしたが、家族だからこそ叱ってくれたのは、痛いほど解かる。
その眩しい笑顔と、強い瞳に二度と視線を交わす事は出来ない……
大切な部下の一人で、奔放な言動と行動で何度も困らせてくれたカルラ。
彼女と契約しても、そのやりとりは変わらなかったが、彼女は常にハクオロを助けてくれた。
その強く美しい微笑と、高潔な瞳に二度と視線を交える事は出来ない……
出来れば、ハクオロは全てを投げ出したかった。何度迎えても身内の死は辛い。
だが、彼はその後ろ向きな迷いを振り払う。
(私が全てを投げ出したら、アルルゥや観鈴はどうなる)
まだこの地で踏み止まらなければならない。まだやるべき事はたくさんある。
「ハクオロさん……」
倒れそうになったハクオロを傍で支えながら、不安そうな目でハクオロを見上げる。
すぐそばまで来ているかもしれない死が、観鈴に恐怖を植え付けていた。
だが、その恐怖に必死で耐えながらも、ハクオロを一生懸命ささえ続けた。
(こんなに震えている観鈴にまで心配されるとは)
ハクオロは静かに心を落ち着かせ、観鈴の頭を撫でた。
「あ」
「大丈夫だ。ありがとう」
「ぁ、うん。よかった」
その言葉を聴いた途端、観鈴は目に涙を浮かべ座り込む。
そんな観鈴を、今度はハクオロが支え抱きかかえる。二度目のお姫様抱っこだ。

(私は観鈴と共に生き残る。そして、この主催者に償わせてみせる……それまでしばしのお別れだ)
脳裏に浮かぶ二人の影に別れを告げ、ハクオロは大地を踏みしめる。
「わ」
「あの建物で少し休もう。もしかしたら、誰か居るかもしれんしな」
二人は、映画館の入り口へと向かっていった。
入り口までの数分間、思考を切り替えたハクオロはある点について考えていた。
(カルラ程の戦士でも死んでしまう。まさか彼女よりさらに強い者がいるのか?)
それと同時に、もう一つの可能性を懸念していた。
(観鈴やあの学校に居た男女のような銃があればあるいは容易いか)
少なくとも、ハクオロ達のいた国ではあんな武器は見たことが無い。
その油断が、カルラの死を招いたのかもしれない。
(考えても解からないが、ともかく銃には十分警戒しなければ)
ようやく建物の扉が見えてきたところで、ハクオロは人の気配を感じ足を止めた。
「? ハクオロさん?」
「そこに居るのは誰だ!」
その呼びかけから暫くして、映画館の扉がゆっくりと開いてゆく。
「驚かせて申し訳ありません。私エスペリアと申します」
建物から出てきたのは、また見たことの無い服を着た女性だった。


     ◇     ◇     ◇


時間は少し遡る。
エスペリアは映画館に到着すると、その扉を開け中へと進んだ。
防音機能を備えた壁と絨毯が、彼女の足音を消し去る。
正面ロビーはそれなりに広く、傍には上の階に続く階段を発見した。
「ここは、どのような施設なのでしょうか」
映画の存在を知らないエスペリアにとって、映画館の存在は理解出来なかった。
気になるのは、壁に掛けられた大きな絵と、さらに奥がある事を示す扉の二点。
大きな絵が何を意味したものかは分からない。なので、まずは扉に手を掛けることにした。
通常より厚い扉を開けると、そこには綺麗に並べられた椅子と、一部色の違う壁があるだけだった。
細かい部分は違うが、似たような施設がファンンタズゴリアにあったことを思い出す。
「ここは、会議室の様な場所なのでしょうか?」
それならば、この椅子の多さにも納得がいくし、隣のロビーとこの部屋を隔てる厚い扉も頷ける。
室内を探索するが、他の通路に出る扉以外、特に気になるようなものは発見できなかった。
(あ)
着た道を戻るため向きを変えたエスペリアの目に、とある一室が映る。
この部屋を見渡せそうな窓に、見たことの無い黒い物体が置いてあるのが分かる。
とりあえず、次はあの部屋を調べようと、この部屋に入った扉の場所まで戻った。
ゆっくりと扉を開けロビーに出たエスペリアは、外から誰かが近付く気配を感じた。
数は分からないが、着実にこの場所を目指している。
(人間と戦う事は出来ません。ですが)
万が一襲い掛かってくるような事があれば身を守る。それを心に決めていた。
扉越しで待機していると、外から呼びかけるような声が聞こえる。
しばしの沈黙。敵か味方かは判断できないが、ここにいる事は知られているらしい。
相手は先程の呼びかけ以降、こちらが動くまで沈黙を守り続けている。
やがて意を決したエスペリアは、扉に手を掛け外へと足を踏み出す。
そこにいたのは仮面の男と、その男に抱きかかえられた少女の二人だった。
男も少女も、武器を構えている様子は無い。そこにきて、ようやくエスペリアは言葉を発した。
「驚かせて申し訳ありません。私エスペリアと申します」
二人の状態は、無意識のうちにエスペリアの警戒を緩める事となった。
なぜなら、抱きかかえていたのでは武器を握れないのだから。
外で待っていた男女を招き入れ、エスペリアは改めて挨拶した。
「先程も申し上げましたが、私の名前はエスペリアと申します」
「あ、か、神尾観鈴です」
「ハクオロだ。怒鳴ったりしてすまなかった……君一人か?」
「はい。この建物に来てから、ずっと一人でいました」
「そうだったか」
「それと、すぐに姿を見せず申し訳ありませんでした」
「いや、君の判断は正しい。相手が分からない内は仕方ないさ」
「そう言って頂けると、助かります」
頭を下げると、ハクオロは笑って済ませた。
お互いに情報交換していたが、途中からハクオロは困ったような顔をし始めていた。
「ところで、ここはどういった場所なんだ?」
「それが……私にもハッキリとした答えは申し上げられないんです」
「と言う事は、エスペリアもこの世界の住人ではないんだな」
「はい。私のいた世界はファンンタズゴリアと言われ、そこではラキオスと言う国に所属していました」
「私はトゥスクルと言う国の皇を任されていた。どうにも説明が付かないな……」
「あ、あの!」
情報交換中、二人のやり取りを黙って聞いていた観鈴が口を開く。
「二人とも、映画館が何なのか分からないんですよね?」
その質問に、二人は同時に頷く。観鈴は知る限りの知識を語る事にした。
「えっと、この奥の部屋に椅子がたくさんあるんです。そこで映画を観るんです」
「確かに、椅子が並んでいましたね」
「ふむ」
「で、部屋の一番奥がスクリーン……じゃなくて、えっと、なんだったかな」
頭を叩いて必死で思い出す。だが、上手い言葉が出てこない。
「と、ともかく、そのスクリーンって場所に記録した風景とかを映せるんです」
「ほお」
「何やら不思議な技術ですね」
(そっか、そう言うのって私達の世界では機械でやってるから不思議じゃないんだ)
最後の「記録した風景が写せる」に反応したハクオロは、興味深そうに観鈴の話に耳を傾けていた。
彼のいた世界では、そのような便利なものはなかったからだ。
一方のエスペリアも、その夢のような技術に素直に驚いていた。
「それは、私達にも使えるものなのでしょうか?」
「あ……えっと、難しいかもしれないです。ただ、機械に詳しい人がいれば、その人が教えてくれるかも……」
「そうか。まぁ、聞く限りでは今の私達ではどうにもならんのだな」
「はい。ごめんなさい」
元気に語っていた観鈴の口調が段々と沈んでいく。
「いや、助かったよ観鈴」
「ええ。勉強になりましたよ」
「は、はい!」
そのうわべだけでない、真心のこもった礼を受けて、観鈴の顔は笑顔に戻った。
それに安心したハクオロは、居住まいを正してエスペリアに向き直った。
「私達は少し休憩したら新市街へ向かうつもりだ。良ければエスペリアも一緒にどうだ」
「そうですね……」
言葉を交わしたところ、数時間前に出会った大石と違い、この二人ならば十分に信頼できる。
最初はハクオロの仮面のせいで不審なイメージもあったが、逆に中身はしっかりとしていた。
それに、観鈴の中にある澄んだ瞳はエスペリアを強く惹いていた。
「はい。こちらこそ喜んで」
「にはは。ぶい」
「ああ。ぶい」
二人のやりとりに、エスペリアは思わず吹き出してしまった。それを慌てて咳払いで誤魔化す。
「それでは、出発前に少し周囲を見てきます。その間、お二人は休憩を取っていて下さい」
そう言って、彼女は扉の向こうへと消えていった。


     ◇     ◇     ◇


佐祐理を殺した往人は、放送が終わって安堵していた。
探していた観鈴の名前は呼ばれない。それだけが、彼を安心させていた。
(待ってろ観鈴……)
禁止エリアにチェックを入れた往人は、島の中心へと足を進めていた。
地図と自分の方向感覚が正しければ、現在地は北の方になる。
より多くの人間を殺すつもりだが、先程の銃声を聞いて近付いてくるものはいない。
もしかしたら、逆に銃声を警戒して遠くに避難した可能性もあるのだ。
とりあえず目立つ建物を経由しつつ、新市街へ向かうルートをとる事にした。
やがて、路面がアスファルトから土に変わり始めた頃、一つの建物が姿を現した。
「映画館か」
自分の人形劇と違い、その迫力は大したものなのだろう。
それでも、人形劇が劣るとは一度も思った事は無かった。
(いつか、観鈴を連れて映画館に行きたかったな)
そんな未練を振り払う。自分がするべき事は、そんな娯楽とは程遠い位置にあるのだ。
これから続けていくのは人殺しと言う、自分を主演にしたつまらない人形劇。
早足で建物に近付くと、そこにはエプロンを着用した女性がこちらを見据えて立っていた。
(何時から気付いてた)
映画館を発見した時にはいなかった。おそらく、往人が未練に惑わされていた時だろう。
お互い慎重に距離を詰めていく。その手にはコルトM1917を握り締めて。
「国崎往人だ。聞きたいことがある」
「エスペリアと申します。お聞きしましょう」
往人は舌打ちをした。未練を振り払うときに発した殺気はエスペリアを警戒させていた。
今までと違い、雑談をする雰囲気などどこにもない。だから、単刀直入に聞いた。
「神尾観鈴と言う少女を探している」
「……存じています。と言ったら」
その言葉を聞いた途端、往人はエスペリアの額に向けコルトM1917を構えた。
「どこで会った。いや、今どこに居る」
「……武器を向ける方に、喋ると思いますか?」
「言わないなら吐かせるだけだ」
冷たい声と共に照準をあわせ、コルトM1917から弾丸が飛び出す。
その高速で襲い掛かる塊をエスペリアはギリギリで回避する。
数秒後、エスペリアの白く美しい頬から焼けた様な臭いと、鮮やかな血が流れ落ちる。
至近距離で避けられた事に動揺するも、往人は続けてもう一発の弾丸を放つ。
だがそれより先に、エスペリアの持つ木刀が往人の腕を撃ち払う。
「ぉぐッ」
「させません!」
運が悪い事に銃は握った手から滑り落ち地面に投げ出された。
急いで拾おうとするものの、先に気付いたエスペリアに銃を蹴飛ばされる。
銃を手放した動揺と、痺れるような一撃は往人に隙を生んでいた。
「はぁぁ!」
「くっ」
その隙を狙い、エスペリアは木刀を突き出してきた。地に転がり、間一髪でその一撃を避ける。
突きを避けられたエスペリアの腹部に隙間が生まれる。急いで体勢を整える。
だがそれよりも早く、起き上がった往人が勢いを利用して、鋭い廻し蹴りをエスペリアに放った。
突然の蹴りが腹部に直撃するも、崩れ落ちる前に足目掛けて木刀を振り下ろす。
腹部のダメージで力は入らなかったが、振り下ろした場所は脛だったのが幸いした。
痺れるような痛みにしゃがみ込む往人。その頭上に、エスペリアは木刀を当てた。
「私の勝ちです」
「くっ」


     ◇     ◇     ◇


崩れ落ち、顔を地面に向ける往人を見つめながら、エスペリアは悟られないように安堵する。
映画館を出て行く前のハクオロの助言がなかったら最初の一発で自分は死んでいた。
観鈴に見せてもらったそれは、地面に転がるよう銃と形がほとんど似ていた。
最初はよく理解できなかった銃の説明も、身をもって体験すれば十分に理解できる。
(こんな恐ろしい武器があるなんて)
さらに恐ろしいのは、この銃を突きつけた男は観鈴を知らないかと聞いてたのだ。
警戒して建物で休んでいると伝えなかったが、どうやら正解だったようだ。
「今度はこちらからお聞きします。なぜ神尾観鈴を探しているのですか?」
「護るためだ」
「ならば、どうして私に銃を撃ったのですか?」
「簡単な事だ」
戦う直前と同じ、冷たくて悲しいような声で往人は呟く。
「観鈴を生かして返すため、他の全員を殺す。それだけだ」
「……それは、観鈴さんが望んでいる事ですか?」
「違う。俺が勝手にやっているだけだ。アイツにこんな風に汚れた事はさせられない」
「貴方が誰かを殺して、観鈴さんは喜ぶと思いますか? 観鈴さんは――」
「分かっている!!」
「!」
初めて聞く、往人の心の叫びだった。
怒りを込めつつも、辛そうな表情でエスペリアを睨みつける。
「きっとアイツは望まない。こんな事を望んじゃいない……けどな、憎まれ罵られる方がいいのさ」
「え?」
「観鈴が……死ぬくらいならな」
エスペリアの目には、往人の顔が泣いているように見えた。
彼の悲痛な思いは、エスペリアにも伝わっていた。
「それでも、私は観鈴さんが『どこに向かったか』教えられません」
「どうしてもか」
「はい。ただ、貴方を殺す事もしません」
「なんだと?」
「貴方を殺せば、観鈴さんが悲しむから。だから、考え直すまでどこかに閉じ込めてさせて頂きます」
溢れ出る慈愛の表情で、エスペリアは往人に諭した。
木刀を構えているものの、すでに彼女の心は戦闘態勢を解除していた。
「……分かった」
観念した顔で、往人は笑みを浮かべる。言いたい事が伝わり、エスペリアも胸を撫で下ろす。
「なら」
そして、ほんの一瞬だけ気を許したエスペリア目掛けて飛び出す何か。
「悪いが死んでもらう」
次の瞬間、エスペリアの喉から鮮血が乱れ飛び散っていく。出血場所は、貫通して空洞が出来た喉。
往人の手には、柄だけ残ったスペツナズナイフが握られている。
理解を得られたと思い込み、今だ燻っていた殺意に気付いたときには、全てが遅かった。
「かはっ」
「苦しいだろう。せめてもの情けだ」
地面に落ちていたコルトM1917をエスペリアの額に押し当てる。
「俺は見ての通り『良い人』じゃないんだ。じゃあ――」
「エスペリア!!」
コルトM1917がエスペリアの額を抉るのと、映画館から出てきた仮面の男の叫びは同時だった。
「まだいたのか……ッぅ」
痺れる腕と足が往人をよろめかせる。戦いのダメージがかなり残っている証拠だ。
(さすがに連戦は辛い。ひとまず逃げるか)
エスペリアの傍に投げ出された木刀を取り上げて、急ぎデイパックにしまう。
そして、迫ってくる仮面の男を注意しつつ、往人は懸命に足を動かしその場から立ち去っていった。

     ◇     ◇     ◇


扉の向こうから、銃声が聞こえたの事にハクオロだけが気付いた。
映画館をあらかた調べ、ロビーに戻っていたハクオロは、傍にいる観鈴にそっと語りかけた。
「観鈴、ここで待っていてくれ」
「は、ハクオロさんは?」
「私は外を見てくる……エスペリアが心配だ」
そう言うと、ハクオロは勢いよく扉を開け外に出る。
そこには、紅い小さな池の中で倒れるエスペリアと、こちらに気付いて逃げる男の姿があった。
「エスペリア!!」
男のほうも気になるが、まずはエスペリアのもとへと駆け寄った。
「しっかりしろエスペリア!」
必死に呼びかけるが、彼女の瞳は光を失いつつあった。
「喉が……なんて事だ」
薬師であるエルルゥならば良い知恵もあったかもしれないが、ハクオロにはそんな知識は無い。
やがて、その綺麗な瞳が鈍い色になるまで時間は掛からなかった。
エスペリアの亡骸を抱きかかえるハクオロの背後に誰かが立つ。
「エスペリア……さん?」
「観鈴! どうして――」
「ハクオロさんの叫び声が気になって。それで」
「そうか。エスペリアは……もう」
「うっ、ぐす、うぅ」
大粒の涙が、観鈴の瞳から紅く染まった池に滴り落ちる。
だが、どれだけ泣いても紅く染まった色は薄まる事は無かった。
ハクオロは静かにエスペリアを抱き上げ、立ち上がる。
「一度映画館まで戻ろう」
泣きながらも、観鈴は力一杯頷いた。泣いても泣いても涙が枯れる事は無い。
ようやく出会えた新しい仲間との別れは、あまりにも早すぎた。
それに、観鈴にとってはエスペリアの死が、この島で初めて直面する『死』だったのだ。
観鈴の心は徐々に、だが確実に押し潰されていく。
無言のまま映画館まで戻る。観鈴が扉に手を掛けたところで、遠くから銃声が鳴り響いた。
「あの方向は」
銃声の聞こえてきた方角は、先程の男が逃げた方向と一致する。
瞬時に考えをまとめると、ハクオロは強い口調で観鈴に問いかけた。
「少しの間、一人でいられるか?」
「え?」
「あの方向、エスペリアを撃った男が逃げた方向と一緒だ。
  もしかしたらまた誰かが危険な目にあっているかもしれない。だから、助けに行きたい」
その真剣な口調に、泣き続けていた観鈴は驚く。
(そうだ。これ以上悲しい思いをしたくない)
決心した観鈴は、デイパックからMk.22を取り出しハクオロに差し出す。
「これは……」
「それで、困っているが助かるなら」
泣いていた時とは違い、小さな決意が秘められているのは言葉で解かった。
観鈴の手から、しっかりとMk.22を受け取る。
「ハクオロさん!」
「ん?」
「絶対! 絶対に帰って来て下さい!」
「ああ! 約束する!」
そう宣言すると、ハクオロは銃声のもとへと駆け出した。
そんな彼の背中を観鈴は手を振って送り出す。
それは、今の観鈴に出来る精一杯の空元気だった。


     ◇     ◇     ◇


博物館から東に歩いていた二見瑛理子は、ある程度歩いたところで足を止めた。
そして、念のため博物館から調達した道具で簡単な罠を仕掛けると、雑木林にもたれ掛かり地図にチェックを入れ始める。
先刻に流れた定時放送は腹立たしかったが、決して聞き逃しなどはしない。
怒りはあるが、そんなものに身を任せては破滅するだけなのだ。
それに、放送内容は妙な点が多く含まれていた。
(あの言い回し……私達をどこかで見ている可能性が高い)
一番最初に鷹野が発した言葉の中に「ちゃんと見えている」と言う内容が確かにあった。
また言葉の端々に、他の生存者の動向を諌める内容も気になる。
(この首輪に監視カメラ? いえ、それでは首輪をはめられた本人が記録できない)
となると、不特定の場所に監視カメラや監視衛星といったもので記録している可能性の方が高い。
ならば、監視カメラや衛星の届かない……例えば地下や監視カメラの死角などはどうだろう。
瑛理子は首にはめられた首輪に指を滑らせる。金属のようだが、判断するのはまだ早い。
(せめて鏡があればいいけど、触感だけでは構造の把握は出来ない)
だが、今までの考察が当たっているならば、確実な事が一つある。
(盗聴……されている)
こんな空から丸見えな位置ならともかく、密室や地下での詳細を知るのはかなり難しい。
そこで考えられるのが、首輪に盗聴器が埋め込まれている事だ。
映像が無くても、音声が拾えれば何をしているかが分かるし、不穏な行動をする者を見つけやすい。
(もし私の考えている通りならば、この首輪で主催者を欺ける)
そこまで考えて、瑛理子は咄嗟に身を隠した。そして、進行方向を覗き見る。
視線の端に、進行方向から誰かが走ってくるのが確認できたからだ。姿からしておそらく男だろう……数は一人。
(どうみても友好的には見えないわね)
走るその手には拳銃が握られ、黒い無地のシャツは返り血が付着していた。
その目は警戒しているだけか、それともただ単に緊張しているだけなのか、どちらにせよ目の奥が鋭く光っているのは事実。
あんな状態の人間に接触するほど、瑛理子は愚かではなかった。
段々とお互いの距離が縮まる中、トカレフTT33を握り締めた瑛理子はやり過ごすため息を潜める。
穏やかなだった空気が、一瞬にして豹変する。心なしか、風も強くなってきた。
そして、そのまま男が過ぎ去っていくのを堪えていた。男と瑛理子を隔てるのは、立ち並ぶ樹木のうちの一本。
瑛理子の緊張は、最大限に達していた。呼吸が苦しくなり、心臓の高鳴りが押さえられない。
どんな些細な音をたててもいけない。ただひたすらに息を殺し続けた。
そして、男は瑛理子に気付かぬままその場を去っていった。
背を向けているからどこまで去ったのかは判断できない。だが、足音が聞こえなくなったのは確かだ。
緊張を解す様に、落ち着いて深呼吸を繰り返す。
「そこにいたか」
突然の声に、瑛理子心臓は潰れそうなくらいの衝撃を受ける。
振り返ると、銃口を向けた男がこちらを冷たい目で見据えていた。慌てて銃口を男に向ける。
二人とも並んで立っているのに、どう言う訳か男が巨大な姿に見えた。
「どうして私に……」
息を殺して、物音一つ立てずにやり過ごしたはずだ。自分に落ち度はない。
「俺も最初は気付かなかった。けど」
二人の間を突風が通り抜ける。
「目にゴミが入ってな。一度後ろを振り返ったんだが……その長い髪が致命的だったな」
その言葉に、瑛理子は偶然と外的要因を考慮できなかった事を後悔した。
「で、これからどうなるのかしら」
あくまで冷静に、そして毅然とした態度で男を睨み返す。もちろん銃口は男に向けたままだ。
「聞きたい事があるだけだ」
「それにしては、ずいぶん殺気立ってるじゃない。それに」
瑛理子は返り血を浴びた黒いシャツに目線を落とす。
「それはどういう状態でそうなったのかしら」
「……これは、傷ついた仲間を抱きかかえて――」
「嘘ね」
男の言い分を切り捨てる。瑛理子には、その血がどうなって男に飛び散ったか理解していた。
あれは抱きかかえて付いた血ではない、誰かを殺害して浴びた血なのだと。
「頭の回転がいいのは考えものだな」
男の発する言葉は、どれも息苦しくなるものばかりだ。
「聞きたい事もあったが、下手に騒がれると厄介だ。その前に死んでもらう」
「悪いけど、素直に殺される訳にはいかないのよ」
銃口を互いの額に合わせて、暫く睨みあう。先に口を開いたのは男だった。
「質問に答えたら見逃す……と言ったら?」
男の言葉を、瑛理子は脳内で何度も繰り返す。
(どう考えても、見逃す保障は無い)
こちらが先にトリガーを引く技術があれば良かったのだが、残念ながらそんな実力はない。
だが、このまま分の悪い戦いを始めても厳しい事に変わりはない。
(仕掛けた罠は一度きり)
幸いな事に、足元に這ってある幾つかの茶色のロープは感付かれていない。
「考えさせてくれる?」
ゆっくりと、男から距離を外す。それに気付いた男は、追い詰めるように瑛理子に近寄る。
「悪いが、逃げるつもりなら容赦なく撃たせてもらうぞ」
そしてまた一歩、二人の立ち位置がズレていく。
(まだ、あと少し)
徐々に男が自分の立っていた位置に接近する。銃口を構えた男からは気付いた様子はない。
(いまだ!)
男が瑛理子のいた位置に立った瞬間、しゃがみ込んで足元に這わせたロープを両手で引く。
すると、周囲に這っていた何本ものロープが複雑に絡み合い、男の足を絡めとる。
「なっ」
瑛理子が逃げるのだと勘違いしていた男は、勢いよく転倒してしまう。
その隙に、瑛理子は雑木林の中へと逃げ去っていった。
「待て!」
地に伏していながらも、男は冷静に銃を発砲してきた。
「あッ」
命中はしなかったものの、発砲音に気を取られ地面に隠れた根に足を取られてしまう。
すぐに立ち上がろうとしたが、転んだ拍子に足を捻ったらしく上手く立ち上がれない。
そんな事をしている間に、男はロープを解きこちらへと向かってきていた。
瑛理子は、なんとか立ち上がると必死に走り出す。


     ◇     ◇     ◇


女の罠にはめられたと気付いたが、怒りを覚えたりはしない。
相手がその気ならば、往人は相手を殺すだけだ。
今だ痺れる足に加え、転倒して痛めた膝が厄介だが、我慢できない痛みではない。
空となった薬莢を地面に捨て、弾を一発ずつ装填する。
女はまだ視界に小さく残っている。この距離ならばすぐに追い詰められる。
だが、無意識に罠を警戒してか全力で走る事は出来ない。
気持ちを落ち着かせ、あせらず距離を詰めていくことにした。
数分後、逃げる速度が急激に落ちた女を射程圏内に入れるため、往人は銃を構えて近付いた。
「鬼ごっこは終わりだ。死んでもらう」
警戒に警戒を重ねつつ、女との距離を再び詰める。肩で息をする女は、もう逃げようとはしなかった。
そして女も覚悟を決めたのか、荒い息を吐きつつ往人を睨みつけ銃を構えた。
(この距離ならば外さない)
目測して10m程だったが、往人には命中させる自信がある。
女の射撃の腕は知らないが、大丈夫だと自分の勘が告げていた。
「じゃあな」
そして、雑木林に乾いた音が響き渡る。
だが、火を噴いたのは往人のコルトM1917でも、女の銃でもなかった。
焼けるような痛みが手の甲に走るのを感じた往人は、慌てて周囲を確認する。
そして、雑木林の向こう側……遊歩道から銃を構える仮面の男を確認した。
あの仮面の男は、エスペリアを殺した時に外に出てきた男だ。
「そこまでだ」
仮面の男は銃をこちらに向けつつ、女を庇うように移動し往人と正面から対峙する。
「エスペリアを殺したのはお前だな」
銃を構えたまま、仮面の男は静かに問いかける。
往人も素人ながら銃の扱いが上手かったが、この男も相当だった。
質問に答えない事を解答とみなしたのか、仮面の男は言葉を続けた。
「なぜ殺した」
怒りの篭った声が、往人の耳にしっかりと届く。
(そんな事を聞いてなんになる)
もはや、自分のすることが誰にも受け入れられないであろう事は理解していた。
だから、その胸に秘めた決意は語らないし、誰の訴えにも耳を貸さない。
「どうしても殺し合いを続けると言うならば」
沈黙したままの往人に向け、仮面の男は断言する。
「私はお前を――殺す」


     ◇     ◇     ◇


ハクオロは、目の前の男を注意深く警戒していた。
すでに乗っている人間なのだとしたら、何を仕掛けてくるか解からない。
だから、場合によっては相手を殺す事も決意していた。
死ぬわけにはいかない。なぜなら、観鈴と約束したのだから。
「探している奴がいる。そいつのために全員殺す」
黙っていた男が返してきた言葉は、予想以上の答えだった。
「お前は、その誰かのために人を殺すのか」
「ああ」
「それは、その誰かが望んでいる事なのか」
「いや、アイツは……はこんな事……はは」
自分自身に言い聞かせたのか、詳しい名前は聞き取れなかった。
ハクオロは男の奥底に眠る人間性に賭けてみる事にした。
「私達も人を探している。そして、この島から脱出するつもりだ」
ハクオロの言葉に、男と後ろの少女が驚きの声を挙げる。
「まだ仲間は私ともう一人だけだが、必ず生きて帰る」
「そんな事……」
「無理ではない。可能性はいくらでもある。だから、お前も殺し合いはやめろ。誰かを探すのは私も手伝う」
男はただ黙って、ハクオロを値踏みするように視線を動かす。
やがて、観念したように銃口を下げる。
「銃はしまう。探し人を教えるから、デイパックを開けて良いか?」
「……ああ」
男の態度に警戒しながらも安堵する。殺さないならそれに越した事はない。
約束通り銃をしまい、黙々とデイパックから名簿を探る男に、ハクオロは思わず声をかける。
「良ければ、私の名簿を――」
「喰らえッ!」
デイパックから取り出した木の塊をハクオロ目掛けて投げつける。
ヒトデの先端がハクオロの顔面に直撃し、その隙に男はこの場から急ぎ足で離脱していく。
「悪いが、そんな確証も無い事を信じるつもりはない!」
そう言い残して、男は去っていった。
残ったのは、地面に落ちた木彫りの塊とハクオロと少女だけだった。
「逃したか……」
憂いを残してしまうのは心配だったが、追いかけるより先にする事があった。
「大丈夫か」
後ろの少女に向き直り、警戒する少女に名前を名乗る。
「私の名前はハクオロ。良ければ名前を聞かせてくれないか」
「二見瑛理子よ。助けてくれた事、感謝しているわ」
まだ警戒は残っているが、敵意がある訳ではない。
少女の方も、こちらに敵意がないのは理解しているようではある。
(仮面は気になるけど、あんな危険を犯してまで私を助けたのは興味深いわね)
少女の注意が自分の仮面にあるのに気付いて、微笑みかける。
「この仮面は外れなくてな。気にしないでくれ」
「ええ。分かったわ」
「これから私は仲間のところに戻る。良ければ一緒に来ないか?」
「私は……痛ッ」
瑛理子は足を押さえてしゃがみ込む。無意識に、ハクオロは瑛理子の足に手をやった。
「ふむ……捻っていたのか。君が良ければ背負うのだが」
「平気よ。気にしないで」
だが、言葉とは裏腹にふらついており、目を離せば転んでしまいそうな危うさだった。
声をかけるよりも先に、瑛理子を背負うハクオロ。
「ちょっと」
「放って置くのも気が引けてな。悪いが一緒に来てもらうぞ」
文句を言われる前に、早口で捲し立てる。
「感謝するわ」
背中でそう呟く瑛理子の声は、どこか恥ずかしげだった。


     ◇     ◇     ◇


映画館に戻ったハクオロと瑛理子が扉を開けると、ロビーには観鈴が待ち構えていた。
「お帰りなさいハクオロさん!」
「ただいま観鈴」
ちゃんと戻ってきた事に安堵した表情を浮かべる観鈴。
そして、今度は背中にいる瑛理子に声をかける。
「あの、私は神尾観鈴って言います」
「二見瑛理子よ」
無愛想な瑛理子に怖がる観鈴だったが、それよりも伝えたい事があったため不安を飲み込んだ。
「それよりハクオロさん。これ!」
そう言って観鈴が差し出したのは、全員にはめられているはずの首輪。
それがなぜか、観鈴の手の中に存在している。一番に驚いたのは瑛理子だった。
「貸して!」
ハクオロの背中から降りて、観鈴から首輪を受け取る。そして、様々な角度から検証する。
だが突然周囲に視線を配り、小さく舌打ちをすると溜め息混じりに言葉を発した。
「とりあえず、どこか休める部屋に行きましょう」
それを見た観鈴は、映画館の地下にあった医務室へと、二人を案内した。


医務室に入った瑛理子は、足を引きずりながら部屋中を動き回る。
そして壁や床を叩いたり、棚を念入りに調べたりなど始めた。
その間、観鈴はハクオロに首輪を手に入れた詳細を説明していた。
観鈴の話では、死んだエスペリアの亡骸が霧となって消えて、首輪だけが残されたと言う。
詳しい事情は分からないが、観鈴の言葉が事実ならこの首輪はエスペリアのものでもある。
一方の瑛理子は、会話に混じらずに足の応急処置が終わり次第同じ様な事を続けていた。
「あの、瑛理子さん?」
「ちょっと待ってて」
観鈴の呼びかけも流し、瑛理子がそんな意味不明な行動を続けて数分後、ようやく瑛理子は椅子に座った。
そして、唖然としていたハクオロと観鈴を近くの席に座らせ、デイパックからにメモを取り出した。
訳が分からない観鈴だったが、ハクオロは何かに気付いたように自分もメモ用紙を取り出した。
「ところで、二人は他の誰かと出会わなかった?」
『重要な話は筆談で。おそらく盗聴されている』
突然メモ紙に書かれた内容に、観鈴は「えっ」と驚きの声をあげてしまう。
それをフォローするため、ハクオロは会話を引き継いだ。
「ああ、私達は一人と会話して、二人を目撃した」
『それは確かなのか?』
棒読みではなく、感情の起伏をつけ、会話を続けているというの状態を疑わせない。
(へぇ、おかしな仮面着けてるけど、この状況下で頭の回転が早いのは確かだわ)
瑛理子と同じようにメモに筆を走らせながら言葉を紡ぐ。それに瑛理子は頷いた。
「私は五人を目撃したけど、二人はそのうちの一人に殺されてしまったわ」
『この首輪に盗聴器とセンサー……つまり、私達の居場所を特定する機能があるの』
エスペリアの残した首輪を指差しつつ、瑛理子は言葉を続けた。
「生きてる人間もいたけど、一緒にいると面倒だから逃げてきたのよ」
『定時放送でのタカノの言葉覚えてる? 監視と盗聴を前提にしないと成り立たないのよ』
その内容に、ハクオロは記憶を呼び覚ます。言われてみると確かにおかしい。
あの言い方はまるで、近くで見ている様な喋り方だった。
(戦場には慣れていないようだが、この状況下でこれだけ知恵が働くとは……凄いものだ)
「そうか。ともかく、私達は仲間を探している」
『と言う事は、この部屋も監視されているのか?』
だが、瑛理子は首を横に振った。
「そうね。私も仲間を探しているのよ」
『調べてみたけど、それらしい機械も装置も見当たらなかったわ。監視にも限界があるみたいね』
「あ、あの! 良かったら一緒に来てもらえませんか!?」
『この首輪って、他にどんな機能があるんですか?』
会話についていこうと、観鈴も必死で言葉を綴る。
その文字を見た途端、瑛理子は何かを思いついたのか、夢中で首輪を調べ始めた。
「……そうね、せっかく頼りになりそうな人を見つけたんだし。よろしく頼むわね」
会話を続けながらも、瑛理子は慎重に首輪の周囲を指でなぞり、小さな隙間に目を光らせたりした。
(そうだ。首輪の機能はおそらくまだ他にある……よく気が付いたわね)
そして首輪をテーブルに置くと、メモに調べた結果を述べた。
「さて、じゃあまず今後の行き先を決めないといけないわね」
『駄目ね。詳しく調べるには機材が足りないのよ。おそらく、工場ならあるいは』
地図で最北西に位置する工場を指差す。だが、男が逃げたのもこの方向だ。
それに、首輪の調査と同時にアルルゥの探索もしなければならない。
だが、足を挫いた瑛理子を単独行動させるのも相当危険である。
暫く思案した後、ハクオロは意を決して結論を述べた。
「さっきの男と遭遇するのもまずいからな。北のプールとやらを経由して新市街を目指すのはどうだろう?」
「わ、私も大丈夫です!」
アルルゥの捜索が十分出来ないかもしれないが、もしかしたら北にいる可能性もあるのだ。
観鈴とて、往人を探したい気持ちはあるが、ハクオロに付いていくと決めた以上、一緒にいたい。
その可能性に賭けて、ハクオロと観鈴は瑛理子と同行する事を決意した。
「そうね。それなら時間差であの男と会わないで新市街にも入れるわ」
納得した表情で、瑛理子は出発の準備を整える。足は挫いたが、歩けないわけではない。
そんな彼女を、観鈴が隣に立って支える。ハクオロも、出発の準備をし始めた。
だがそんな空気を乱すように、腹の虫が三匹同時に声を揃えて鳴いた。
なんとなく、気まずい空気になってしまうなか、思い出したように観鈴はデイパックを開いた。
「これ……おはぎなんですが食べますか?」
三人の視線が、デイパックから飛び出てきたおはぎに注目する。
「頂くわ。こういった状況で糖分はありがたいし」
「じゃ、私お茶を用意しますね!」
「うむ、腹が減っては戦ができ……げほっげほ!」
先につまみ食いをしたハクオロが、一口でおはぎ飲み込んだ途端、苦悶の表情を浮かべ倒れる。
そして、喉を必死に押さえながら、床で痙攣し始めた。
「ハ、ハクオロさん!?」
「まさか毒!? ん、これって」
おはぎに付いていた紙切れを、二見瑛理子は取り上げて目を通す。

注意書き:激辛タバスコ入りのおはぎが一つあります。注意してね。

「と、言う事みたい。つまみ食いなんかするからよ」
「に、にはは」
「まぁ、命に別状は無いみたいね」
「た、頼む……み、水をく、くれない……か」
悶絶するハクオロを他所に、二人は久し振りに気持ち良く笑う事が出来た。
最初は怖いと思っていた瑛理子も、笑えば普通の女の子だった。
その事実が、観鈴の心を安心させていた。
(私頑張るから……一緒に帰ろうね。往人さん)


     ◇     ◇     ◇


思わぬ追撃を受けた往人は、ゆっくりと新市街を目指していた。
もしエスペリアの言う事が真実だったのなら、観鈴はこちらにいる可能性が高い。
東から足を進めてきたが、それらしき影とは遭遇しなかった。
だが、映画館にいたエスペリアは出会ったと言い切ったのだ。
ならばおそらく、観鈴と出会ったのは西側の可能性が高い。
痺れる腕を押さえ、ひたすらに前を見て歩く。
まだ殺せる。どれだけ非難されても殺せる。全てはたった一人の少女のために。
恨まれようが、罵られようが、絶縁されようが、死んでしまう事に比べたらなんでもない。
(待ってろ観鈴。必ずお前を帰してやるからな)
次の標的と観鈴を探し、往人はただただ歩き続けていく。
朝陽で出来た彼の影は、ゆらゆらと揺れ彷徨っていた。



【D-3 映画館地下一階医務室/1日目 朝】

【ハクオロ@うたわれるもの】
【装備:Mk.22(7/8)、オボロの刀(×2)@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式(他ランダムアイテム不明)】
【状態:精神疲労・肉体もやや疲労、喉がヒリヒリする】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
0:ふ、二人とも……水を、頼む
1:観鈴と瑛理子と工場へ向かう(北部を経由して)
2:アルルゥをなんとしてでも見つけ出して保護する
3:仲間や同志と合流しタカノたちを倒す
4:観鈴と瑛理子を守る。
【備考】
※校舎の屋上から周辺の地形を把握済み
※中庭にいた青年(双葉恋太郎)と翠髪の少女(時雨亜沙)が観鈴を狙ってやってきたマーダーかもしれないと思っています。
※放送は学校内にのみ響きました。
※銃についてすこし知りました。
※大石をまだ警戒しています
※目つきの悪い男(国崎往人)をマーダーとして警戒。
※観鈴からMk.22を受け取りました
※首輪の盗聴と、監視カメラが存在する可能性を知りました。

【神尾観鈴@AIR】
【装備:なし】
【所持品:支給品一式、予備マガジン(40/40)】
【状態:健康、元気一杯】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない
1:ハクオロと瑛理子と行動する。
2:往人と合流したい
【備考】
※校舎内の施設を把握済み
※大石に苦手意識
※ハクオロにMk.22を預けました
※首輪の盗聴と、監視カメラが存在する可能性を知りました。

【二見瑛理子@キミキス】
【装備:トカレフTT33 8/8+1】
【所持品:支給品一式 ブロッコリー&カリフラワー@ひぐらしのなく頃に祭 空鍋&おたまセット@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【状態:左足首捻挫】
【思考・行動】
基本:殺し合いに乗らず、首輪解除とタカノの情報を集める。
1:ハクオロと観鈴と共に工場に向かう。
2:仮に仲間を作り、行動を共にする場合、しっかりした状況判断が出来る者、冷静な行動が出来る者などと行動したい。
3:(2の追記)ただし、鳴海孝之のように錯乱している者や、足手まといになりそうな者とは出来れば行動したくない。
4:鳴海孝之には出来れば二度と出会いたくない。
【備考】
※首輪の盗聴と、監視カメラが存在する可能性を考えています。


【D-3 雑木林(D-3西部)/1日目 朝】

【国崎往人@AIR】
【装備:コルトM1917(残り6/6発)】
【所持品:支給品一式×2、コルトM1917の予備弾49、木刀、たいやき(3/3)@KANNON】
【状態:精神的疲労・肉体疲労大。右腕と左膝を打撲・右手の甲に水脹れ】
【思考・行動】
1:観鈴を探して護る
2:観鈴以外全員殺して最後に自害
3:朝倉音夢・仮面の男(ハクオロ)・長髪の少女(二見瑛理子)を危険人物と認識
4:相手が無害そうなら観鈴の情報を得てから殺す

※木彫りのヒトデ@CLANNADは、雑木林(C-3とD-3の中間辺り)に放置されています。

【エスペリア@永遠のアセリア 死亡】






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