許せる嘘か? 許されざる嘘か? ◆Qz0e4gvs0s
(稟くん。稟くん。稟くん。稟くん――)
焦点が定まらないまま、楓は知らず知らず住宅街を南下していた。
手には先ほど荷物の中から取り出したベレッタM93R。
先ほどの摩央のように、何の躊躇いもなく撃つ人もいるのだ。
自分は稟に会う前に死ねない。優しい稟に会うため死ねない。
だから武器を持つ。その綺麗な手は武器を持つためにある。
(稟くん。逢いたいです。稟くん。どこにいますか?)
手に持った武器は使ったことがない。使えばどうなるか分からない。
でも、使わないと稟に会えない。稟に会いたいのだ。
その時、背後から爆発音が鳴り響いた。
「ひぃッ」
思わずしゃがみ込む楓。どうやらあちらで何かあったらしい。
やがて爆発音のした方向から、何者かが走ってくるのに気付いた。
(稟くんかもしれない!)
先ほどまでの恐怖や混乱を忘れ、楓は走ってくる人影に近づいていった。
手には先ほど荷物の中から取り出したベレッタM93R。
先ほどの摩央のように、何の躊躇いもなく撃つ人もいるのだ。
自分は稟に会う前に死ねない。優しい稟に会うため死ねない。
だから武器を持つ。その綺麗な手は武器を持つためにある。
(稟くん。逢いたいです。稟くん。どこにいますか?)
手に持った武器は使ったことがない。使えばどうなるか分からない。
でも、使わないと稟に会えない。稟に会いたいのだ。
その時、背後から爆発音が鳴り響いた。
「ひぃッ」
思わずしゃがみ込む楓。どうやらあちらで何かあったらしい。
やがて爆発音のした方向から、何者かが走ってくるのに気付いた。
(稟くんかもしれない!)
先ほどまでの恐怖や混乱を忘れ、楓は走ってくる人影に近づいていった。
◇ ◇ ◇ ◇
あのやっかいな男(オボロ)からなんとか逃げ延びた朋也は、南に向かって走っていた。
しかし、脇腹が痛むためか思うように走れず、やがて小さな民家にたどり着くと、壁に背を預け座り込んだ。
「はぁはぁ、はぁ……ってぇ」
痺れる様な脇腹の痛みに堪え、朋也は胸のうちに燃える憎悪を必死で押さえ込んでいた。
「ふざけんなよ、くそっ、くそっ」
怒りの矛先は先程の男でもあるし、あのタカノとか言う女性でもあるし、この世界でもある。
彼はどちらかといえば不良と呼ばれる側にいたが、このような傷を負ったのは初めてだ。
だから、傷が浅いか深いかは判断できず、おまけに治療も出来ないため苛立ちは相当だった。
そんな折、少しずつ誰かが何かを呼ぶ声が聞こえていた。誰かが近づいてくる。確実に朋也を目指して。
「稟くん!」
そして叫び声とともに、一人の少女が現れた――銃を構えて。
しかし、脇腹が痛むためか思うように走れず、やがて小さな民家にたどり着くと、壁に背を預け座り込んだ。
「はぁはぁ、はぁ……ってぇ」
痺れる様な脇腹の痛みに堪え、朋也は胸のうちに燃える憎悪を必死で押さえ込んでいた。
「ふざけんなよ、くそっ、くそっ」
怒りの矛先は先程の男でもあるし、あのタカノとか言う女性でもあるし、この世界でもある。
彼はどちらかといえば不良と呼ばれる側にいたが、このような傷を負ったのは初めてだ。
だから、傷が浅いか深いかは判断できず、おまけに治療も出来ないため苛立ちは相当だった。
そんな折、少しずつ誰かが何かを呼ぶ声が聞こえていた。誰かが近づいてくる。確実に朋也を目指して。
「稟くん!」
そして叫び声とともに、一人の少女が現れた――銃を構えて。
◇ ◇ ◇ ◇
稟の名前を連呼しながら、楓は住宅街を走っていた。
その際、血の跡のようなものが点々と続くのを楓は見逃さなかった。
その血痕を辿っていくと、民家に腰を下ろす青年を発見することができた。
暗くてよくは分からないが、もしかしたら稟なのかも知れない。
「稟くん!」
「くぅ…だ、誰だ!」
その第一声で解った。その青年は楓の望む相手ではない。楓は一瞬で興味を失った。
「誰だ……っつ」
脇腹を押さえながら、青年は楓の顔を見上げた。
「私は芙蓉楓と申します。稟くんを知りませんか?」
口調こそ丁寧だが、楓の言葉はどことなく機械的に聞こえる。
「稟くん?」
青年は、ゆっくりと立ち上がると銃口を自分から外さないことに悪態を付いた。
「その前に、うっ、銃を降ろしてくれ?」
脇腹を押さえながら、青年は顎で銃口を外せと促す。
「あ、ごめんなさい。動揺していたもので」
謝罪の気持ちがまったくない。形だけの謝罪だった。稟以外に謝る必要がない。
そもそも、いつ銃を構えたのかも分からない。悪いのは構えさせた相手だ。
「あのさ。喋りたくても銃がこっち向いてたら喋れないんだよ」
「ああ。すみませんでした」
銃口を下に向けつつ「稟くんと違って臆病」と呟くように付け足した。
「ではもう一度聞きます。稟くんを知りませんか?」
口調も何も変わらない。楓の声は、先程質問した時と何一つ変わっていなかった。
その際、血の跡のようなものが点々と続くのを楓は見逃さなかった。
その血痕を辿っていくと、民家に腰を下ろす青年を発見することができた。
暗くてよくは分からないが、もしかしたら稟なのかも知れない。
「稟くん!」
「くぅ…だ、誰だ!」
その第一声で解った。その青年は楓の望む相手ではない。楓は一瞬で興味を失った。
「誰だ……っつ」
脇腹を押さえながら、青年は楓の顔を見上げた。
「私は芙蓉楓と申します。稟くんを知りませんか?」
口調こそ丁寧だが、楓の言葉はどことなく機械的に聞こえる。
「稟くん?」
青年は、ゆっくりと立ち上がると銃口を自分から外さないことに悪態を付いた。
「その前に、うっ、銃を降ろしてくれ?」
脇腹を押さえながら、青年は顎で銃口を外せと促す。
「あ、ごめんなさい。動揺していたもので」
謝罪の気持ちがまったくない。形だけの謝罪だった。稟以外に謝る必要がない。
そもそも、いつ銃を構えたのかも分からない。悪いのは構えさせた相手だ。
「あのさ。喋りたくても銃がこっち向いてたら喋れないんだよ」
「ああ。すみませんでした」
銃口を下に向けつつ「稟くんと違って臆病」と呟くように付け足した。
「ではもう一度聞きます。稟くんを知りませんか?」
口調も何も変わらない。楓の声は、先程質問した時と何一つ変わっていなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
いつ相手が撃つか分からないが、いざという時のために立ち上がっておく。
「稟くん?」
立ち上がってみたものの、脇腹の痛みでしっかり立つ事は出来なかった。
壁に体重を預けたまま、朋也は楓と名乗る少女と銃口に視線を定めた。
「その前に、うっ、銃を降ろしてくれ?」
楓の銃口は、朋也の胸に向けられていた。お互い3mぐらいしか離れていない。
相手が目を瞑って適当に撃たない限り、ほぼ確実に当たる距離。
(落ち着け朋也。下手に動いてズドンじゃ洒落にならない!)
楓が銃口を下げるまで、朋也は頭を働かせ打開案を練っていた。
「あ、ごめんなさい。動揺していたもので」
しっかりと事務的な返答。相変わらず銃口はこちらを向いたままだ。
(なにが動揺してるだ! 動揺してるならそういった素振りくらい見せろよな)
楓の一挙一動に注意しながら、朋也はもう一度問いかけた。
「あのさ。喋りたくても銃がこっち向いてたら喋れないんだよ」
「ああ。すみませんでした」
今度こそ、楓は銃口を下に向けた。その間際、朋也は楓の呟きを聞き逃さなかった。
(ああそうさ臆病だよ。銃口を向けられて平気な奴がいてたまるか!)
心の中で舌打ちするが、思っていることを口に出すほど愚かではない。
「ではもう一度聞きます。稟くんを知りませんか?」
その言葉から、先程と同じ事務的で無駄な会話を許さない圧力を感じた。
(稟くん。こいつも人探しか……なら、上手くやり込めれば状況が変わるはず)
「あ、ああ。稟な。会ったよ」
「どこですか!」
今度は違う。感情を露にした問いかけが返ってきた。
「さ、さっきの爆音を聞いたか?」
即答せず、朋也は答えるのを先延ばした。
「聞きましたよ! それがなんなんですか!?」
「実は、さっきの爆発は俺と稟を襲った男が仕掛けてきたんだ」
「えっ!」
楓は明らかに動揺した。顔面が蒼白になるのがよく判る。
(よし。ここからだ……)
「そ、それで、稟くんはどこにいったんですか!」
「稟と俺は、その男から逃げるため、北と南に分かれて逃げてきたんだ」
「じゃ、じゃあ、稟くんは北に行ったんですね!」
「ああ。地図を出してみてくれ」
稟の情報が得られるからなのか、楓は疑うことなく地図を差し出した。
「俺は病院、稟は図書館に一時退避して、ほとぼりが冷めたら……神社に集まろうって事なんだ」
「図書館ですか。分かりました、ありがとうございます!」
本当に感謝の気持ちが篭っているのが良く分かった。急いで地図をしまうと、楓は踵を返し走り出した。
「あ、待ってくれ!」
「なんですか?」
「その……稟のやつ、アンタを相当心配してたよ」
「り、稟くんが私をですか!?」
「ああ。だから、早く行ってやれ」
「分かりました。貴方も……そう言えば、お名前聞いていませんでしたね」
「お……春原だ。春原陽平」
「春原さん。ありがとうございました!」
深々と頭を下げると、今度こそ楓は図書館を目指して走り去っていった。
「稟くん?」
立ち上がってみたものの、脇腹の痛みでしっかり立つ事は出来なかった。
壁に体重を預けたまま、朋也は楓と名乗る少女と銃口に視線を定めた。
「その前に、うっ、銃を降ろしてくれ?」
楓の銃口は、朋也の胸に向けられていた。お互い3mぐらいしか離れていない。
相手が目を瞑って適当に撃たない限り、ほぼ確実に当たる距離。
(落ち着け朋也。下手に動いてズドンじゃ洒落にならない!)
楓が銃口を下げるまで、朋也は頭を働かせ打開案を練っていた。
「あ、ごめんなさい。動揺していたもので」
しっかりと事務的な返答。相変わらず銃口はこちらを向いたままだ。
(なにが動揺してるだ! 動揺してるならそういった素振りくらい見せろよな)
楓の一挙一動に注意しながら、朋也はもう一度問いかけた。
「あのさ。喋りたくても銃がこっち向いてたら喋れないんだよ」
「ああ。すみませんでした」
今度こそ、楓は銃口を下に向けた。その間際、朋也は楓の呟きを聞き逃さなかった。
(ああそうさ臆病だよ。銃口を向けられて平気な奴がいてたまるか!)
心の中で舌打ちするが、思っていることを口に出すほど愚かではない。
「ではもう一度聞きます。稟くんを知りませんか?」
その言葉から、先程と同じ事務的で無駄な会話を許さない圧力を感じた。
(稟くん。こいつも人探しか……なら、上手くやり込めれば状況が変わるはず)
「あ、ああ。稟な。会ったよ」
「どこですか!」
今度は違う。感情を露にした問いかけが返ってきた。
「さ、さっきの爆音を聞いたか?」
即答せず、朋也は答えるのを先延ばした。
「聞きましたよ! それがなんなんですか!?」
「実は、さっきの爆発は俺と稟を襲った男が仕掛けてきたんだ」
「えっ!」
楓は明らかに動揺した。顔面が蒼白になるのがよく判る。
(よし。ここからだ……)
「そ、それで、稟くんはどこにいったんですか!」
「稟と俺は、その男から逃げるため、北と南に分かれて逃げてきたんだ」
「じゃ、じゃあ、稟くんは北に行ったんですね!」
「ああ。地図を出してみてくれ」
稟の情報が得られるからなのか、楓は疑うことなく地図を差し出した。
「俺は病院、稟は図書館に一時退避して、ほとぼりが冷めたら……神社に集まろうって事なんだ」
「図書館ですか。分かりました、ありがとうございます!」
本当に感謝の気持ちが篭っているのが良く分かった。急いで地図をしまうと、楓は踵を返し走り出した。
「あ、待ってくれ!」
「なんですか?」
「その……稟のやつ、アンタを相当心配してたよ」
「り、稟くんが私をですか!?」
「ああ。だから、早く行ってやれ」
「分かりました。貴方も……そう言えば、お名前聞いていませんでしたね」
「お……春原だ。春原陽平」
「春原さん。ありがとうございました!」
深々と頭を下げると、今度こそ楓は図書館を目指して走り去っていった。
「やれやれ。行ったか」
背中から流れる冷や汗を感じながら、朋也は深くため息をついた。
「稟なんて知らねーよ。だいたい俺、ここまでで会ったのはあの男だけだし」
折り畳みのキックボードと地図を取り出す。脇腹はまだ痛いからうまく動けるかは分からない。
痛いのは脇腹だけなのか。それとも、最後についた『二つの嘘』なのか。
「適当に言ったけど、病院なら手当てできるかもしれないな」
当面の目的は決まった。とりあえず治療だ。
「あーくそ。やっぱりいてぇ」
キックボードに乗り地面を蹴りつつ、朋也は南の病院へと移動を開始した。
「そういや、いつもの癖で春原の名前を名乗っちまったが……いっか」
この嘘が、吉と出るか凶と出るかはまだ分からない。
背中から流れる冷や汗を感じながら、朋也は深くため息をついた。
「稟なんて知らねーよ。だいたい俺、ここまでで会ったのはあの男だけだし」
折り畳みのキックボードと地図を取り出す。脇腹はまだ痛いからうまく動けるかは分からない。
痛いのは脇腹だけなのか。それとも、最後についた『二つの嘘』なのか。
「適当に言ったけど、病院なら手当てできるかもしれないな」
当面の目的は決まった。とりあえず治療だ。
「あーくそ。やっぱりいてぇ」
キックボードに乗り地面を蹴りつつ、朋也は南の病院へと移動を開始した。
「そういや、いつもの癖で春原の名前を名乗っちまったが……いっか」
この嘘が、吉と出るか凶と出るかはまだ分からない。
◇ ◇ ◇ ◇
朋也は告げていなかった。男が死んだ事もどんな男なのかも。
楓はひたすら走った。凛に会うために。こんな時まで自分を心配してくれる稟に会うために。
(稟くん。稟くん。稟くんっ。稟くんっッ。稟くん! 稟くん!!)
逢える喜びを抑えようともせず、楓は図書館を目指して走り出した。
楓はひたすら走った。凛に会うために。こんな時まで自分を心配してくれる稟に会うために。
(稟くん。稟くん。稟くんっ。稟くんっッ。稟くん! 稟くん!!)
逢える喜びを抑えようともせず、楓は図書館を目指して走り出した。
【F-4 住宅街南部/1日目 深夜】
【岡崎朋也@CLANNAD】
【装備:キックボード(折り畳み式)】
【所持品:手榴弾(残4発)・支給品一式】
【状態:脇腹軽症(痛み継続)・やや興奮】
【思考・行動】
1:何が何でも生き延びる。
2:悪意があると感じれば、容赦なく攻撃。
3:少しは知人の安否が気になる。
4:オボロが探していたハクオロのことを警戒。
5:とりあえず病院へ
【備考】
オボロは死んだ、もしくは瀕死だと勘違いしています。
【装備:キックボード(折り畳み式)】
【所持品:手榴弾(残4発)・支給品一式】
【状態:脇腹軽症(痛み継続)・やや興奮】
【思考・行動】
1:何が何でも生き延びる。
2:悪意があると感じれば、容赦なく攻撃。
3:少しは知人の安否が気になる。
4:オボロが探していたハクオロのことを警戒。
5:とりあえず病院へ
【備考】
オボロは死んだ、もしくは瀕死だと勘違いしています。
【芙蓉楓@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【装備:ベレッタ M93R(21/20+1)】
【所持品:支給品一式 ブラウニング M2 “キャリバー.50”(ベルト給弾式、残弾200) ベレッタ M93Rの残弾40】
【状態:とにかく稟を探す】
【思考・行動】
基本方針:稟の捜索
1:何が何でも、最優先で稟を探す(図書館へ)
2:できればネリネや亜沙とも合流したい
3:凛を襲った男を……
【装備:ベレッタ M93R(21/20+1)】
【所持品:支給品一式 ブラウニング M2 “キャリバー.50”(ベルト給弾式、残弾200) ベレッタ M93Rの残弾40】
【状態:とにかく稟を探す】
【思考・行動】
基本方針:稟の捜索
1:何が何でも、最優先で稟を探す(図書館へ)
2:できればネリネや亜沙とも合流したい
3:凛を襲った男を……
【備考】
稟以外の人間に対する興味が希薄になっている
朝倉純一の知人の情報を入手している。
水澤摩央を危険人物と判断
岡崎朋也を春原陽平と思い込む(興味がないため顔は忘れた)
朋也と(実際にはいないが)稟を襲った男(誰かは不明)を強く警戒。
稟以外の人間に対する興味が希薄になっている
朝倉純一の知人の情報を入手している。
水澤摩央を危険人物と判断
岡崎朋也を春原陽平と思い込む(興味がないため顔は忘れた)
朋也と(実際にはいないが)稟を襲った男(誰かは不明)を強く警戒。
051:そして走り始めた影 | 投下順に読む | 053:おいてきたもの |
051:そして走り始めた影 | 時系列順に読む | 030:廃止鉄道の夜 |
029:覚悟のススメ | 岡崎朋也 | 058:せーらーふくをぬがさないで |
023:今、この場で生まれた私達の目的の違い | 芙蓉楓 | 063:オンリーワン |