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兄と妹 ◆guAWf4RW62


水澤摩央は民家の一室で、ぐったりと床に倒れ伏す少年――朝倉純一を眺め下ろしていた。
と言っても、純一は死んでいる訳では無い。麻酔薬の効果で眠っているだけだ。
純一を昏睡させ楓を取り逃した後、摩央は遠くから響いてきた爆発音を聞き取り、慌てて民家の中へと移動したのだった。

一度は人を殺す覚悟を決めた摩央だったが、寝ている人間を問答無用で殺すのは少々気が引ける。
そもそもこのゲームで生き延びる方法は、人を殺す事だけに限られはしないのだ。
勿論自分はゲームから脱出出来るなどとは思っていないし、最終的には優勝を勝ち取るつもりだ。
しかし――だからと言って、序盤から積極的に戦闘へと身を投じる必要は欠片も無い。
それよりも寧ろ、人数が減ってくるまでは善良な人間の皮を被り、集団に身を紛らせて保身に走るべきだ。
どれだけ多く人を殺した所で、自分が死んでしまっては何の意味も無いのだから。
そして善意の参加者を装うには、自分が襲撃してしまった人間へのリカバーが必須となるだろう。
芙蓉楓は既に走り去ってしまったし、話し合う事は不可能だ。
となると、残された手段は一つ。純一を懐柔し、摩央の無実を証明して貰うのだ。
楓がいくら摩央の悪評を吹聴して回った所で、被害者である筈の純一自らが弁護を行ってくれれば問題無い。
だからこそ摩央は純一を敢えて殺さず、説得を試みようとしていたのだった。
「さて、始めるとしますか」
ぼそりと呟くと、摩央は手にしたバケツを持ち上げて、その中身を勢い良く純一の顔へとぶっ掛けた。
「――ぶはっ!?」
直後、顔面に大量の水を浴びせられた純一が、奇声を発しながら上半身を起こす。
「おい音夢、いくら何でもこんな起こし方する事無いだろ!? かったり……?」
純一は顔をぶんぶんと横に振って、水を跳ね飛ばし――目の前にいる摩央と目が合った。
「おはよう朝倉君。お目覚めは如何かしら?」
「――へ?」
状況がまるで把握出来ていない、といった様子の純一に対し、摩央が臆面も無く語り掛ける。
「さっきは悪かったわね。その……私も怖かったのよ」
「……………?」

純一としては、まずは状況の把握が最優先だった。何故このような場所にいるか、まるで分からない。
まずここは自分の部屋では無いし、目の前にいる女性も音夢ではない。
混乱する心を落ち着かせ、冷静に冷静に思考を纏めてゆく。
(えーと……確かいきなり殺し合いをしろって言われて、それから楓と出会って……)
そうだ、自分は楓と出会った後、今目の前にいる水澤摩央を見つけ、そして――
自分が何をされたか思い出した瞬間、純一は傍らに置いてあったデイパックを拾い上げていた。
「クッ――!」
「キャッ!?」
そのまま力任せにデイパックを振り回し、摩央に向かって殴り掛かる。
摩央は咄嗟の反応で真横に飛び退き、鞄の中に隠し持った鉄扇に手を添えながら、大声を上げる。
「ちょっと待ちなさいよ! 私は話し合おうと……」
「うっせえ、もう騙されねえぞ!」
純一は摩央の言葉を途中で遮ると、そのまま踵を返して部屋を飛び出した。
右手に見える玄関に駆け寄り鍵を開け、一目散に外へと躍り出る。
そのまま勢いを緩めずに、ただひたすら夜の住宅街を走り抜けてゆく。
(クソッ、こんな所で死んで堪るかよ!)
あの女は友好を装い自分達に接近してきて、突如裏切り銃を放ったのだ。
何故撃たれた筈の自分が生きてるかは分からないが、今はそれよりも逃げ延びるのが重要だ。
――話し合い?
冗談も大概にしろ。どうせまた何か良からぬ事を考えているに決まってる。
折角拾ったこの命をむざむざと差し出すつもりなど毛頭無い。
このゲームに乗った人間……しかも、騙まし討ちを行おうとしている人間は確実に存在する。
自分が思っていた以上に、この島は危険地帯と化しているのだ。
ならばこんな所で死ぬ訳にはいかない。仲間を――特に、音夢を絶対守ってやらなければならない。
妹は身体が弱いから一番心配だというのもある。だがそれ以上に、今の自分には音夢を守ってやりたい理由が存在する。

数日前、自分は音夢と初めて口付けを交わした。
それはぎこちなく、子供っぽいキスだったが、信じられないくらい暖かいものだった。
幸せだった。音夢の好意にはとうの昔から気付いていたが、ようやく自分も同じ気持ちを持てたのだ。
長い年月を経て二人の気持ちは、一つになった。ずっと一緒に過ごせると思っていた。
それなのに突然、こんな残酷な殺し合いの舞台へと放り込まれたのだ。
(そうだ……俺達はまだ始まったばかりじゃないか。こんな所で終われるかよ!)
だから純一は駆けた。何としてでも生き延び、妹を、そして他の仲間も守る為に走り続けた。



――純一が走り去った後の室内。
「あーもうっ……ホント、最悪!」
摩央は己の失敗を悔いていた。まさか話し合いをする暇すら与えられないとは思わなかった。
優男に見えたあの純一がいきなり攻撃を仕掛けてくるとは……完全に予想外だった。
これで確実に自分の悪評は広まってしまうだろうし、集団に紛れ込むのはもう絶望的だ。
こんな事になるくらいなら、最初から躊躇わずに殺しておいた方が良かっただろう。
しかし後悔先に立たずという諺もあるように、悔やんでも仕方ない。
こうなった以上は単独行動を基本とし、人を殺し続けて優勝を掴み取るしかないだろう。
新たな武器――鉄扇は純一が寝てる間に奪い取っておいた。
麻酔銃自体には殺傷力が無いが、相手を眠らせさえすれば、後はこの鉄扇で喉を切り裂いてやればよい。
人の身体を切り裂くなどといった行為は、とても気の進むものでは無いが、もうそうも言っていられない。
自分は何としてでも生き延びて――光一の所へと帰らなければならないのだから。
少女は決意を新たにし、ゆっくりとした足取りで民家を後にした。

 *     *     *    *

懺劇の舞台となった、新市街地。無機質なコンクリートの上には、闘争の犠牲者達が横たわっている。
そんな中で勝者の座を勝ち取った朝倉音夢は、元は竜宮レナの物であるデイパックを漁っていた。
ポケットの中にある銃をいつでも取り出せるよう気構えだけは怠らず、しかし外面上は余裕を保ちながら口を開く。
「もう、早く選んでくださいね? 私に協力するか、それとも――ここで無駄死にするかを」
「協力とは……具体的に何をしろと言うんですか?」
倉田佐祐理は震える声で、しかし要点を外さずに返答した。
――ここで軽率な判断は絶対にしてはならない。
スペツナズナイフの存在に気付かれていない以上勝算はあるが、何も戦う事だけが打開策ではない。
決戦を挑むのは、相手の意図を完全に把握してからでも遅くは無いのだ。
「簡単ですよ。泥棒猫――芳乃さくらと白河ことりの退治を手伝ってくれれば良いんです」
「…………」
予想通り……やはり音夢は、芳乃さくらと白河ことりを殺すつもりだ。
しかしそれだけなら別に自分には関係無い。問題はもっと別の所にある。
「それだけですか? 他の参加者の方々を殺せ、とは言わないんですか?」
それが一番の問題だった。音夢が優勝を狙うつもりなら、川澄舞や相沢祐一も危険に晒される。
それだけは絶対に許容出来ない。たとえここで刺し違えようとも、阻止しなければいけない。
音夢は少し目を細めて、それからあくまで軽い調子で言った。
「ええ、今の所そんなつもりはありませんよ。この人達を殺したのは武器が欲しかっただけですし、これだけあればもう十分ですからね」
戦利品をたっぷりと詰めたバッグを肩に架け、満足げな笑顔を浮かべるその姿に、佐祐理は心底寒気を覚えた。
もうこれ以上この場に居たくない。相手の狙いが分かった以上、一秒でも早くこの場を離れたい。
「そうですか。なら佐祐理は――三つ目の選択肢を選びます!」
「――!?」
佐祐理は沸き上がる衝動に抗おうとはせず、すぐに踵を返して走り出した。
こんな女と一緒にいては、いつ寝首を掻かれるか分かったものではない。協力するのも、ここで戦うのも御免だった。

「……佐祐理さん、よほど死にたいらしいですね」
音夢は眉を吊り上げ、しかし口元は笑みの形に歪めたままで言葉を紡ぐ。
大量に装備が手に入った以上、音夢はもう銃弾の消費を惜しむつもりは無かった。
あっという間に遠ざかってゆく佐祐理の背中に向けて、音夢はS&W M37を放つ。
しかし所詮素人に過ぎない音夢の狙いは甘く、銃弾はあらぬ方向へと飛んでいった。
撃鉄を起こし、今度はしっかりと狙いをつけて引き金を絞る。
それでも身体の中心部を撃ちぬく事は出来なかったけれど、佐祐理の肩口を掠めたのが分かった。
佐祐理は肩を抑えて呻いていたが――足だけは決して止めなかった。
そのまま佐祐理は角を曲がり、建物の向こうへと消えていった。
音夢は後を追うか一瞬迷ったが、止めておく事にした。
身体の弱い自分が走った所で、どうせ追いつけないだろうと判断したからだ。
佐祐理の生死などどうでもいい。ここで起きた出来事を吹聴されても問題無い。
純一なら、見知らぬ他人をいくら殺しても、最終的にはきっと許してくれる。
兄にとっては他人などより、妹の事の方が何倍も大切に決まっている。
しかし――『あの女』が相手の場合は別だ。
『あの女』を殺す場面を目撃されてしまった場合、純一は決して自分を許してはくれないだろう。
音夢はもう佐祐理の追撃に固執せず、数日前の出来事へと思いを巡らせた。

卒業パーティーでミスコンが行われたあの時。
純一は自分の懸命な呼び掛けを振り切って、さくらと共に何処かへ行ってしまった。
自分はミスコンなどに興味は無い。ただ純一にもっと見て欲しかっただけなのに……兄の目は、こちらを見てなどいなかった。
今まで兄の横にいるのはずっと自分だったし、それはこれからも続く筈だったのに。
純一の心は泥棒猫、芳乃さくらが完全に盗み取っていってしまったのだ。
そんな事、許せない――許せる訳が無い。
あの女は窃盗罪を犯した。ならば相応の報いを与えてやる必要がある。
当然軽い懲罰で済ますつもりなど微塵も無い。この世で一番大事な兄の心を奪った罪は、死を以って償わせる。
自分の居場所は、自分の手で取り戻すのだ。
そして音夢にとっては、犯罪者予備軍である白河ことり。
あの女も放っておけば、兄の心を奪おうとしてしまうかも知れない。
犯罪は未然に防ぐのが肝要なのだから、今回の好機に乗じてことりも始末しておくべきだ。
目撃者は残さない。秘密裏に、迅速に、目的を成し遂げてみせる。
「そうよ……誰にも兄さんは渡さないんだからっ……!」
静まり返った市街地の中に、少女の暗い――どこまでも暗い声が、響き渡った。


【F-4 住宅街 1日目 黎明】
【水澤摩央@キミキス】
【装備:麻酔銃(IMI ジェリコ941型)】
【所持品:支給品一式 麻酔薬入り注射器×4 H173入り注射器×5、ハクオロの鉄扇@うたわれるもの】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:何としても生き延びる
1:他の参加者と出会ったら躊躇わずに殺すが、無茶はしない
【備考】
麻酔銃について。
装弾数は1で、一回一回のコッキングが必要になります。
注射器について。
麻酔の効力は約一時間程度。
H173は雛見沢症候群を引き起こす劇薬ですが、摩央はH173自体が何の薬だか分かっていません。

【F-4 住宅街 1日目 黎明】
【朝倉純一@D.C.P.S.】
【装備:無し】
【所持品:支給品一式 エルルゥの傷薬@うたわれるもの オオアリクイのヌイグルミ@Kanon】
【状態:体力消費小、焦り】
【思考・行動】
基本行動方針:人を殺さない
1.まずはもっと離れた所へ逃げる。
2.何としてでも音夢を探し出して守る
3.ことり、さくら、杉並を探す。
4.楓も可能なら探したい
5.殺し合いからの脱出方法を考える。
6.水澤摩央を強く警戒
【備考】
芙蓉楓の知人の情報を入手している。
純一の参加時期は、音夢シナリオの初キス直後の時期に設定。
純一の逃げた方向は後続の書き手さん任せ

【B-3 新市街 1日目 黎明】
【朝倉音夢@D.C】
【装備: S&W M37 エアーウェイト 弾数3/5 】
【所持品①:支給品一式(水と食料×3) IMI デザートイーグル 10/7+1 IMI デザートイーグル の予備マガジン10 トカレフTT33の予備マガジン10】
【所持品②:出刃包丁、コンバットナイフ、九十七式自動砲弾数7/7(重いので鞄の中に入れています)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:純一と共に生き延びる
1・何としてでも泥棒猫のさくらを殺す
2・犯罪者予備軍であることりも殺す
3・兄さん(朝倉純一)と合流する
4・殺すことでメリットがあれば殺すことに躊躇は無い。
【備考】
目で見てすぐ分かるくらい、制服が血で汚れてしまっています
音夢の参加時期は、さくらルートの卒業パーティー直後の時期に設定。

【B-3 新市街 1日目 黎明】
【倉田佐祐理@Kanon】
【装備:スペツナズナイフ】
【所持品:支給品一式、だんご×30】
【状態:体力消費小、右肩軽傷、精神的疲弊】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。ただし、危険人物を殺すことには躊躇しない
1.まずはもっと離れた所へ逃げる
2.舞や祐一に会いたい
3.朝倉音夢を強く警戒
【備考】
※ナイフはスカートの中に隠しています。
佐祐理の逃げた方向は後続の書き手さん任せ


036:もう戻れない優しい日々 投下順に読む 038:エリーにおまかせっ☆
036:もう戻れない優しい日々 時系列順に読む 039:利用する者される者
023:今、この場で生まれた私達の目的の違い 水澤摩央 059:二度と触れ得ぬキョウキノサクラ
023:今、この場で生まれた私達の目的の違い 朝倉純一 050:夢と決意と銃声と――
034:パートナー 朝倉音夢 039:利用する者される者
034:パートナー 倉田佐祐理 057:涙は朝焼けに染まって






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