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**We Survive(前編) ◆/P.KoBaieg
Scene1:7人が集う~武・きぬ・瑞穂・アセリア・梨花・あゆ・沙羅~
神社外周にて。
ことみの死を最後に終結した争いの後、瑞穂たちは神社に向かい武たちとの合流を果たし、
ここまでの過程で各々が得た情報を交換していた。
「ディー……それが黒幕の名前……」
「黒幕が神とはね……非常識にも限度ってのがあるんじゃないかね……。でも、今なら信じられるさ」
「そのディーが武さんときぬさんの前に姿を見せたということは、つまり……」
「主催者側もこの殺人ゲームが破綻しつつあることを認識しているということだろう」
「そういえば、ディーの奴言っていたっけ『歯車はもう狂っている』って」
きぬの言葉はその場にいた7人全員に鷹野の目的が頓挫しつつある事を認識させ、自分達の脅威は未だゲームに
乗っている川澄舞を除けば主催者のみである事を再認識させる。
互いの身に起こった出来事の非常識さや、黒幕が本物の神であることを一笑に付す者などだれもいない……。
さて、ここで彼らが合流するまでの経緯を簡単に記す。
電波塔の破壊後、あゆの誤解を始まりとして生じた争いは一ノ瀬ことみの死により終結したのは先に書いた通りである。
それから、暫らくの休憩をとった瑞穂、アセリア、梨花、あゆ、沙羅の5人はあゆと沙羅の乗ってきた車を使い
神社へ向かった武たちとの合流を目指すこととした。
最初は行き違いになる心配もあったがそれは杞憂に終わる。
車が当初の合流予定地点である山頂を抜けて神社近くまで来たとき、丁度徒歩で鉄塔への援護に向かおうと
していた武ときぬの姿を発見しそのまま合流となったからだ。
合流した7人は、互いの再会や電波塔の破壊と「桜」を枯らせることに成功した事を喜ぶよりも先に
それぞれことみ、智代という貴重な仲間を喪った事実を悲しんだ。
その後更にことみの残したメモを元に梨花と沙羅が武ときぬの首輪をそれぞれ解除
(あゆと沙羅の首輪は鉄塔前での休憩中に解除した)し現在に到るというわけだ。
それぞれが交換した情報はここに集った7人を驚かせるに十分だった。
武ときぬは、首輪の解除が成功した事をはじめとして、羽入の存在と封印の解除方法、主催者の本拠地への
移動方法、主催者も決して一枚岩ではないことに。
一方で瑞穂たちは、参加者の一人である月宮あゆがどこで手に入れたのか鉄塔でアセリアが戦ったものと同じ
人型兵器で武たちに挑んできたこと、「桜」の正体が朝倉純一の祖母であったこと、
鈴凛から聞いていた黒幕であるディーが武ときぬの前に姿を見せたことに驚かされた。
もっとも、これらの情報を前にして一番驚いていたのはそれらの事象に遭遇してこなかったあゆと沙羅だったのだが。
「それにしても、よくコイツを撃破できたものさ。アセリアですらこのデカブツを撃破するのに苦戦を強いられたのに」
遠巻きに見ていたアセリアとハウエンクアの駆るアヴ・カムゥの戦いを思い出しながら、あゆは神社の境内で仰向けに
倒れたままのアヴ・カムゥに近付きその装甲を軽く叩く。
「ああ、月宮がうっかりこれの弱点を口にしなければ智代の協力があっても多分撃破するのは難しかった」
「これに月宮の奴が乗っていたってことは、あいつ主催者と取引でもしやがったのかね?ま、私等を騙した上に
こんな代物持ち出してそれでも負けたって事は所詮あいつも糞虫だったってことかい……で、弱点ってどこなのさ?」
「脇腹だ。そこを攻撃すればこれの動きはひどく鈍くなる。それが分かったのは偶然だけどな」
「脇腹ねぇ……」
そこで武は一旦言葉を切り、話題を変える。
「これからどうする?もう禁止エリアを気にすることなく移動できる。鷹野たちの本拠地へ行く方法も分かった。あとはもう実行に移すだけだ」
「そうね。確かに武の言うとおりよ。私も出来ることならすぐにでも羽入の封印を解きたい。でもね……」
武の発言に対して梨花は言葉を返しながら瑞穂やアセリアの方を見る。
その様子を見て武も梨花が何を言わんとしているかすぐ察した。
皆あまりにも酷く傷つき、疲弊している――
そう、ここまでの度重なる戦いでここに集った7人は肉体、精神共に疲労の限界に達しており、唯一きぬを
除けば大なり小なり体に傷を負っている。
制限の外れたキュレイによって常人より遥かに早いスピードで負傷が治癒しつつある武を例外とすれば、
全員の傷が癒えるにはそれなりの時間が必要なのは明らかであり、今すぐ主催者の本拠地へ乗り込んでもむざむざ全滅するのは明らかだった。
「そのことなんだけど」
どうしたものかと武が思った時、沙羅が口を開く。
「実はここまでの移動中に話し合って『合流したらホテルに向かう』って決めているの。あそこ休憩するにはうってつけの場所だから」
「ホテルか……。場所的には悪くないと思うが、こちらが休養している間に連中がホテルを包囲する可能性もあるんじゃないのか?」
「その可能性は低いと思うのよね」
「どういうことだ?」
武の疑問に沙羅はそのまま言葉を続ける。
「根拠は、電波塔が破壊され私達も首輪を解除したことで、鷹野たちがこっちの動きを把握する手段がなくなった上
こちらは本拠地への移動方法を知っていること。これが一つ目。
二つ目は主催も一枚岩じゃないこと。事実、首輪解除に必要な最後の状況を整えたのは主催者側の人間だったそうじゃない。
この段階で裏切り者が出たなら、鷹野がまだ『裏切り者』がいると考えるのが普通と思わない?」
「つまり、大人数で俺たちがどこいるか探すより内部の裏切り者を排除した上で本拠地の守りを固めるほうがいいということか……」
「こっちにすれば鷹野の本拠地に乗り込む以外道は残されてないわ。それなら守りを固める方が鷹野にとっても簡単だわ」
沙羅の言葉を聞いて武と梨花はうなずいてみせる。
「それに、あんなものを使ってまでして電波塔を守りきれなかったんだから、今頃連中は相当混乱しているはず。
こちらが休むぐらいの時間は稼げると思うけど違う?」
沙羅の視線の先には、もはや動かなくなったアヴ・カムゥの残骸があった。
武の話から、その操縦者が瑛理子の命を奪った月宮あゆであったことも彼女は知っている。
話によるとそのあゆの死体は武の眼前で消えてなくなってしまったそうだが、今の沙羅とってはどうでもいいことだった。
「そうだな。だけど、どうしてまたホテルなんだ?休養するならここで……」
「それについては私が説明させてもらうさ」
ホテルより神社の方が目指すべき廃坑に近いんじゃないかと言おうとした時、それは別方向からの声により遮られる。
武が振り返ると、そこには暫らく場を離れていたあゆときぬの姿があった。
二人は神社の敷地から智代の遺体を運んできたのだ。
「仲間を放って置くことはできないさ、ちゃんと埋葬してやらんとな……で、ホテル行きの件だがね。あそこは建物も広いし
休める場所も物も豊富にある。万一連中が攻めてきてもある程度は戦えるからな」
「確かにな……」
「それにさ倉成、あんたもその服なんとかした方がいいんじゃないかい?その格好で鷹野のもとへ乗り込んでもお笑いにしかならないよ」
「うっ(既に自覚していたとはいえ、改めて突っ込まれると……)」
あゆに自分の女装モードを指摘された武は思わずうめく。
同時に一緒にいた皆からも少しだけ笑みがこぼれた。
「それに……、あそこでないと出来ないこともあるからさ……」
皆が笑う中、自分達が乗ってきた車の方を見てあゆは呟く。
車の後部座席には自分の手で殺めたことみの遺体が置かれているのだ。
そもそも、ホテルに行くことを最初に言い出したのはあゆだった。
電波塔近くで休養後にことみを埋葬しようとした瑞穂たちに「どうせ埋葬するなら一ノ瀬の仲間と一緒に弔いたい」と申し出たのだ。
あゆにすれば半ば自己満足みたいなものだったが、それはすんなりと受け入れられ、結果としてことみの遺体は車で運ぶこととなったのである。
「そうか、ならば行くか。ホテルに」
「ああ、時間が惜しいからな。もう行こうかね」
「あ、それならちょっと待っちくり!」
誰もが車に乗り込もうとした時、メンバーの中で唯一無傷であるきぬが声をあげた。
「カニ?どうしたのさ??」
「いっそのことここでパーッと皆の怪我治しちまおうぜ。実は丁度いいものがあるんだ。それに、瑞穂なんてホテルまで移動するもの辛そうじゃないか」
言われてみればそうだ。
情報交換のあと、横になっている瑞穂など歩くのがやっとという状態である。
ホテルまで車で移動するとはいえ体にかかる負担は少なくないはずだ。
それが治るというのならこれほどありがたいものもない。
「もしかして、魔法でも使うのかい?」
亜沙の魔法により傷を治癒された経験のあるあゆはきぬの言い方から彼女が何をするのか大方予想はついていた。
「そのとおり。そういう事でこれの出番。頼むぞ“献身”」
そう言って自分のディパックから取り出した槍を手にするきぬ。
純一の残してくれたボタンに宿る魔力のおかげで手にする槍の名前が永遠神剣第七位“献身”であること、そしてこの槍を通じて魔法が使えることも分かる。
だからこそ、今この魔法を使うときだと思う。
(純一、おばあさん……残してくれたこの魔力、皆のために使わせてうからな)
精神を集中し“献身”とボタンを手にする。そして――
「皆の傷を癒してくれ、『ハーベスト』!!」
きぬが魔法を唱えた直後、皆のいる「場」のマナが活性化されその傷を癒し、痛みを取り除いていていく。
桜による制限がなくなった事で傷が癒えるだけではなく肉体的な疲労も取り除かれつつあった。
その効果に対する反応も皆様々だった。
「これが回復魔法の力なんだ……」
「体から痛みが引いていく……、確かにこれはありがたいな」
「予想以上ね。これは驚きだわ」
初めて回復魔法を体験する沙羅、武、梨花はその効果を前に単純に驚き――
「時雨が魔法を使ったときは驚くばかりだったけどさ、改めてこうやって見ると便利なものさ」
あゆは魔法の効果よりも魔法そのものの便利さに感心し――
「アセリアさん、ありがとう。もう私は大丈夫みたいですから」
「ん……ミズホが起き上がれるようになってよかった……」
アセリアは瑞穂が上体を起こし、それまでとはうって変わって元気そうな表情を見せたことに安心していた――
きぬの回復魔法は、全員の傷の治療と疲労の回復にかかる時間を大きく短縮することに貢献した。
そうなると残るは本拠地へ乗り込む前の最後の準備である。
誰もがそれを察していたのだろう、程なくして全員が車に(すし詰めになりながらも)乗り込みホテルへ目指し出発していた。
Scene2:探偵助手の視点~沙羅、きぬ~
あれからすぐ私たちはホテルに到着し、鷹野たちの本拠地へ乗り込む前の準備にとりかかった。
全員の役割は車の中で予め決めていたから全員が到着後すぐ動いてそれぞれ動いている。
武は地下のテナントエリアで着替えたあと、羽入という人が封印されているという廃坑の地図が写っているフィルムの現像に。
あゆと瑞穂と梨花はホテルの外でことみと智代、そしてあゆの仲間だった亜沙という人の埋葬を。
アセリアは同じく外で三人の護衛と見張りを。
そしてカニとこの私、白鐘沙羅はホテル1Fの一角――フロント事務所――で全員分の武器の配分と銃器のメンテをしているというわけ。
もっとも武器の配分はもっぱらカニがやっていて、私は銃器のメンテなんだけどね。
最初は全ての支給品を均等に分配しようかと思ったけど、時間がないからそれはやめて武器だけ出来るだけ全員へ行き渡るようにした。
一応どんなものがあるのか把握だけはしようと中身の確認だけはしているけどさ。
だけど、全員の所持品を見て改めて本当に色々なものが支給されていたのが分かった。
パワーショベルが入っているのを見つけたときはカニと二人そろってのけぞってしまったし(ディパックの外に出すことはしなかったけど)。
でも、今の私はそれよりもかなりの難題に直面していた。
(まいったな……)
そう、ここに来てわかったんだけどオートマチック銃の予備マガジンが少なすぎるのだ。
武の荷物に予備弾丸のセットがあったおかげで弾薬不足という問題からは解消されそうだったけど、それは言葉通り「弾丸」の形で入っていたのよね。
そりゃ中にはマガジンの形で入っていたものもあったけど殆どは銃弾だったし。
おかげで「弾はあってもマガジンがないから使えない」ということにもなりかねない。
とりあえず、本拠地へ突入する前に「マガジンは捨てずに回収して予備の弾丸を詰めるようにして欲しい」と皆へ伝えておこうと思う。
(それでも弾が無くなったら、敵の武器を奪うのが一番ね……。これも皆に言っておこう)
そこまで考えて、私は頭を切り替え車の中での武との会話を思い出す。
移動中、私は武の助手席に座っていたんだけど、その際に電波塔の近くで出会った主催者側の男から頼まれた伝言を武へ伝えた。
「レムリア遺跡で待つ」
「恐らく、全ての答えは17年前と同じ場所に……『HIMMEL』の先にある」
この言葉を。
その時、武の見せたひどく驚いた表情が忘れられない。
武はその後黙り込んでしまって私があの伝言がなんだったのかと聞いても「いずれ話す」と言って教えてくれなかった。
これは私の推理だけど、多分あの男は武の知り合い、それもかなり前からの。
きっと過去になんらかの因縁があるに違いないと思う。
武が黙り込んでしまったのは、きっと自分の知り合いが主催者側の人間だったからに違いない。
(だけど、あの言葉にどういう意味があったの?)
あの男の伝言にあった中で引っかかったいくつかの単語。
「レムリア遺跡」
「17年前と同じ場所」
「HIMMMEL」
これらが武とあの男にとって何か重要な意味を持つのは確か。
でも、武の過去を知らない私にはそれ以上の事はわからない。
私は、この殺し合いで知り合って今も仲間として行動している人の過去を自分から積極的に知ろうと思わなかった。
違う、そんなこと考える暇なんか無かったという方が正しい。
せいぜい圭一から鷹野の素性について聞いてみたぐらい。
でも、ここに来て私は初めて武の過去というものを知りたいと感じた。
人の過去を詮索するのが良くないのはわかっている。
だけど、生きて帰れたら武に過去のことを聞いてみたいと思う。
あんな表情をするなんて、きっとそれだけのことが過去にあったんだろうし。
まぁ、別に知ってどうするというわけじゃないけど、一度湧いた疑問はスッキリさせたいというところかな。
「沙羅、ちょっといいかな?」
そんなことを考えているとカニが私に声をかけてきた。
「あ、何かな?」
「ボクの方は皆のディパックに武器をわけたんだけどさ、ボクにも銃の使い方教えてくれないかな?」
「うん、いいけどちょっと待って」
とりあえず武のことを考えるのをやめて私はカニに銃の使い方を教えることにした。
カニは銃について初心者みたいだから……。
そう考えた私は初心者でも扱いやすい銃であるショットガン――ベネリM3――を手に取った。
ショットガンは反動にさえ気をつければ初心者でも使いやすい銃だ。
多分カニでもすぐ扱えるようになるだろうからね。
「……でね、ショットシェルはそこから装填すればいいのよ」
「おぉ、すげぇなー」
「それにしてもさ、よく生きてたものね」
本当にそう思う。
だって分かれたときは生きて会えるとは思わなかったし。
神社でカニと再会したときは生きていたことに驚くより先にあゆと一緒に喜ぶのが先だったけどね。
「うん、ボクも助からないと思ってた……でも、純一が魔法で治してくれたんだ」
「純一ってカニの仲間だった子だよね」
「アイツさ、死んだ後もボクを助けてくれて……嬉しかったな……」
「そんなことがあったんだ……」
そう言ってカニは自分が神社でどんな体験をしたのかを聞かせてくれた。
普通なら絶対に信じられないだろうけど透明の化け物とか、あの電波塔で見た巨大ロボットとアセリアの戦いぶりとかを思い出すと
カニの話もすんなり受け入れられる。
それに、あゆもこのホテルで襲撃されたときに仲間だった時雨って人に魔法で手当てしてもらったそうだし。
本当に不思議なことばかりよね。
もっとも、いきなりこんなところに連れてこられて殺し合いをやらされるというのが不思議を通り越して異常なんだけど……。
「沙羅、何考えているんだ?」
すると、私の顔を覗き込みながらカニが話しかけてきた。
「うん、ここへ連れてこられてから不思議なことばかりだなって」
「だよなー。ボクも今考えてみればここに着てからいろんな人と会って色々なことがあってさ……」
「時間にすればたかだか一日と少しだけなのにね」
そう、多分私の人生の中で一番長い一日かもしれない。
「でもさ、それももうすぐ終わるんだよな」
「カニ、せっかくここまで来たんだから生きて帰ろう!」
「当たり前だろ、沙羅。皆で生きて帰ろうぜ!」
私とカニはそうやって互いに笑ってみせた。
双樹、恋太郎、そして圭一、美凪、瑛理子……たくさんの知り合いが死んじゃったけど、私には励ましてくれる仲間がいる。
死んだ人とはあえなくても仲間の為にも絶対に生きて帰ろう。
改めて、そう強く思った。
Scene3:Requiescat in Pace(安らかに眠れ)~あゆ、瑞穂、梨花、アセリア、武~
「こんなものかね」
「ええ、これなら二人とも一緒に埋葬できるわ」
「こっちも終わりましたよ」
沙羅がカニにベネリの使い方を教えていたころ、あゆは梨花と共にホテルの敷地の一角にことみと亜沙を埋葬する為の墓穴を掘っていた。
その横では戦闘でボロボロになった服から着替え終わった瑞穂がことみ、亜沙、智代の遺体へ施した死化粧をようやく終えていた。
更に少し離れたところではアセリアが“求め”を手に周囲を警戒している。
ちなみに、今のアセリアの“求め”を持つ反対側の腕にはことみの所持品だった熊のぬいぐるみが抱かれていたりする。
ホテルに到着後、あゆはまず亜沙の遺体がある4Fを目指した。
瑞穂や梨花はてっきりことみと智代を埋葬するものと思っていたのでその行動に疑問を持ったが、それはあゆが
亜沙の遺体を抱きかかえてホテルから出てくるのを見た時解消した。
そしてこの時なぜあゆがホテル向かうことにあれほど拘ったのかを理解したのだ。
(時雨、あの時最後の別れを告げたはずだったのに私は戻ってきちまったよ……でもさ、これでホントのホントに最後の別れさ)
そんなことを思いながらもあゆは、掘り終えた墓穴にことみと亜沙の遺体を墓穴へと納めていく。
智代の遺体は彼女の遺言を武から聞かされていたので、埋葬せずことみと亜沙の埋葬場所の隣に安置することにした。
(ようやく、心残りを清算できそうさ時雨。そして一ノ瀬……)
先に亜沙の遺体を納め、次にことみの遺体を墓穴へ運びながらあゆは二人の死に顔を交互に見る。
二人とも穏やかで、まるで眠るかのような死に顔。
亜沙は二度目にホテルへ立ち寄ったときに見たときと同じ表情で。
ことみは瑞穂に抱きしめられて逝った時と同じ顔のままで。
二人とも安らかな顔のまま。
「一ノ瀬……私はようやく分かったよ……。お前が時雨と同じ人間だったって事にさ……」
ことみを撃った時の事を思い出しながらあゆは呟く。
忘れはしない、いや忘れてはいけないあの光景を脳裏に浮かべて。
「他人を思いやることができるタイプの人間だってこと。そして、仲間の為に命を張れる人間ってことを……
あの時もっと早くお前の優しさに気づいてたらさ、こんなことにならなかったって思うんだ……」
そう、二人ともそうだった。
亜沙もことみも最後の最後まで泣き言一つ口にせず、仲間のことを気遣っていた。
「お前は時雨と同じさ……二人は良く似ている……。心の底からそう思えるよ……」
だから、亜沙がことみの事を心配していたのだろう。
今はそう思える。
最後にことみの右手を握り、胸の上に組まれた亜沙の手の上に重ねてやった。
「二人とも仲良くな。私が言えた義理じゃないけどさ……」
そこまで言ってあゆは瑞穂と梨花の方に向く。
「ありがとうな。わざわざ時雨や坂上の分まで化粧をしてくれてさ」
「いいえ、お二人ともあゆさんにとっては大事な仲間だったのでしょう。それなら、なおさら放って置くことは出来ませんから」
「そうかい、済まないね。宮小路」
瑞穂の言葉にあゆは静かに笑ってみせる。
そして、再び墓穴に横たわる二人の方を見ながら呟く。
「でも、これで心残りを清算できたって気分さ」
「あゆさん……」
「私はさ、時雨の最後を看取ってやれなかったんだ。だから、できることなら弔ってやりたかった」
そう、決して忘れることの出来ない亜沙と交わした最後の会話。
命と引き換えに自分の傷を癒してくれた亜沙の優しさに対して自分は礼の一つも出来なかったとあゆは思う。
それだけならまだマシだったのかもしれない。
その後、自分の思い込みからことみと佐藤良美が手を結んで亜沙を殺したと誤解し、結果ことみを殺してしまった。
「時雨はな、途中で離れ離れになった一ノ瀬のことをずっと心配していたのさ。だからせめて同じ墓に入れてやりたいと思ってたんだ」
「その為にわざわざここで埋葬させて欲しいってあの時……」
「ああ、そういうこと。でも私は思うのさ、もっと早く一ノ瀬のこと信じてやっていればってね……」
どんなに後悔しても死者は還ってこない。
それは亜沙が死んだ時既に分かっていたこと。
だけど、自らの過ちでことみを死なせたあゆはそれでも後悔せずにはいられなかった。
だが、そこで今一度ことみが最後に残した言葉を思い出す。
『大空寺さんも……お願い。私の事はもう良いから……二度と同じ間違いを犯さないで。
私の仲間を……傷付けないで』
あの言葉はことみの遺言。
そして自分もまたその言葉に約束してみせた。
ならば自分はことみの想いに応えなければならないとあゆは決意を新たにする。
「だからさ、私も二人と同じことをするよ。時雨が私を逃がしてくれた様に、一ノ瀬が古手をかばったみたいに命を張って皆を守るさ」
「あゆさん……」
「もっとも、二人と違って私は地獄行きだろうがね……」
「それは違うわ、あゆ」
「アユ、コトミはそんなこと望んでいない」
その呟きを遮ったのは梨花とこちらに戻ってきたアセリアだった。
「ことみがあなたと沙羅を許したのは生きて帰って欲しいと思ったからよ。こんな場所で死ぬ為じゃないわ」
「私も、リカと同じだから……アユがここで死んだらきっとコトミは悲しむ。だから、そんな風に考えないで欲しい……」
「古手……それにアセリア……」
「そう思ってくれることには感謝するわ。だからって死んだら元も子も無いじゃない。だから、安易に死ぬなんてことは考えないで」
梨花の言葉はあゆの心に響いた。
あの時、ことみは梨花をかばった結果あゆに撃たれて死んだのだから当然恨み言の一つも言いたい筈だろう。アセリアもきっと同じはずだ。
だが、彼女達もまたあゆを許した。
それは、ことみが生き残り自分達が死んだとしてもきっと同じ事をしただろうと思ったからに他ならない。
「悪ぃ……返す言葉がないさ」
「それに……あゆさんも同じように言いたいことはあるでしょうし」
「孝之のことかい?それはもう言うなや宮小路。あいつの事はもう済んだことさ」
思わず苦笑してあゆは瑞穂に向かって首を横に振る。
その様子を見て、瑞穂は車で神社へ移動する前に電波塔近くで交わした会話を思い出す。
あの戦いの後、休憩中に瑞穂はあゆへ自分が彼女の知人である鳴海孝之を殺した事実を告げた。
梨花の持っていたノートパソコンの「殺害者ランキング」を一通り見たあゆが瑞穂に事実を問いただしたとき、隠すことなく真実を告げたのだ。
あれだけの事が起きた後だったから、瑞穂がその気ならば「知らぬ存ぜぬ」の一点張りでも押し通すことも出来たのだが、あえてそうはしなかった。
この時、他の者は新たな遺恨が生まれるのではないかと思いその場に緊張が走ったが、意外なことにあゆは激昂する様子も見せずただ一言「ありがとうな」と言うにとどまった。
そしてこう続けたのだ。
「少し前の私ならさ、この場で宮小路を撃ち殺したかもしれない。でもな、一ノ瀬が命を張って守った仲間を守るって約束したんだ。
一ノ瀬との約束を破る気なんてないさ。それに、本当のことをつつみ隠さず言ってくれただけで私は十分満足だよ」
そう言ったあゆの表情は憑き物が落ちたような顔だった。
更にこう続けた。
「そんなことよりも私はあいつが二人も殺していたことの方がショックだったさ。あの糞虫が、人様に迷惑かけたままくたばりやがってさ……」
そんなあゆを見て瑞穂もまた彼女を許そうと思ったのだ……。
そうやってどれだけ仲間を、その思いを尊重し大切にしたかを再確認し、四人は埋葬を再開した。
ホテルの倉庫から持ってきたシャベルを使って足元から徐々に土を被せていく。
そして、二人の腰辺りまで土が被さったところであゆが手を止め「ちょっと待ってくれないかね」と言ったあと二人の遺体へと近づき何かを
手に取ったあと、その隣に横たわる智代の遺体へ近づいて同じように何かを手に取った。
暫らくして、あゆは三人の前に来ると手を差し出した。
その手の中には亜沙の黒いリボンとことみの髪留め、そして智代のヘアバンドがあった。
「せめて、魂だけでも連れて帰ってやろう。違うかい?」
あゆの言葉に思わず三人はうなずく。
そして、瑞穂と梨花はことみの髪留めを一つずつ手に取った。
「アセリアはいいのかい?」
「ん、私にはこれがあるからかまわない」
アセリアはそう言うと熊のぬいぐるみをあゆへ差し出して見せた。
「それなら、時雨のリボンは私が貰っておくよ。このヘアバンドは倉成に渡してやるかね」
あゆは亜沙の形見というべきリボンを強く握り締める。
(最後まで見守ってくれるよな、時雨……)
そう心の中で呟きながら。
最後に盛り土の上へ同じ敷地内から摘んできた花を置いて備え、四人で黙祷をささげてようやく弔いを終えた。
「なら、ホテルに戻るとしましょうか」
「そうするか。なら私は沙羅のところにも顔を出しにいくかね……それにしてもさ、宮小路……」
「なんですか、あゆさん?」
「いやさ、着替えたのはいいとしてその格好どうにかならなかったのかね?あー……、別にそういうのが趣味ならいいんだけどさ……」
ホテルに戻る途中、あゆは瑞穂の格好を見て吹き出しそうになるのをこらえながら言う。
もっとも、彼女が吹き出しそうになるのも無理は無い。
瑞穂が身に着けているのは思いっきり場違いで、おおよそこれから主催者の本拠地に乗り込むとは思えない――
そう、今の瑞穂の格好は「チャイナ服」姿なのである。
しかもご丁寧なことに赤い星のついた中国風の帽子まで被っているという完璧さだ。
「し、仕方がないじゃないですか。武さんから受け取ったディパックに入っていた服で一番最初に目に付いたのがこれだったんですから!」
「そう怒るなや、あんたみたいな美人なら何着ても似あうんだからさ」
なぜか、赤くなって反論する瑞穂の様子をみてあゆは笑って返す。
(瑞穂……完全にあゆにからかわれているのですよ。だから最初に言ったのです。ホテルの地下でマシな服を選ぶべきだったんじゃないかって)
(ミズホの格好、変……?)
一方、二人のやりとりを見ていた梨花はジト目で、アセリアはきょとんとした表情で見ていた。
「大体、あゆさんも埋葬している間は何も言わなかったじゃないですか、それを今になって……」
「まぁ、だからそう言うなって」
吹き出すのをこらえながらも瑞穂とのやり取りの中で、まともな服が欲しいと移動中の車内で言っていたもう一人の人物をあゆは思い出す。
(そういえば、倉成もここに来るまで女装していたな。はたしてまともな服がみつけられたのかね?)
そこまで思ってホテルの正面玄関をくぐり、ロビーに入っていく四人。
「今戻ったのか。意外と早かったんだな」
その時、武の声が聞こえて思わずそっちの方を振り向いた。
「武さん、その服……」
「ああ、地下のテナントエリアで見つけたんだ。どうした?」
その格好――どう見ても、香港映画の主人公役である拳法家が来ているようなカンフー服――が目に入った瞬間。
「ぶわっははははははははっ!」
「「笑うなーーーーーーーーーーーーーーっ!!」」
我慢の堤防が決壊し、あゆは思わず爆笑してしまった。
直後にゲンコツの音が二発ほど響いたのはいうまでも無い。
「はぁ、笑いたくなるのは解かるけど、あゆってそのあとどうなるか考えてないのね……」
その様子を見ていた梨花も思わす笑いそうになる。
そこへ、武と瑞穂からゲンコツを食らった頭をなでながらあゆが近づいてくる。
「古手~、そういうお前もその格好は狙ったのかね?」
「瑞穂の真似じゃないけど、サイズが一番ぴったりだったのがこれなのよ」
「サイズって、もうすぐ本拠地に乗り込むのにそれはないんじゃないかと思うけどな……」
あゆの言うように梨花も瑞穂同様着替えたのだが、その格好はというと彼女の指摘どおり
お見事なまでに戦いに向いているとは思えない格好。
そう、チャイナ服の瑞穂とならんで梨花の姿はそれはもうご立派なまでの「猫耳メイド」だったのである。
どう考えても戦闘向きとは思えないが梨花の方は気にしている様子はなかった。
「それに、この服見かけによらず軽いし動きやすいのよ。アセリアも私の格好見て似合っているって言ってくれたわ」
「ん、リカの格好…どこかエスペリアに似ている…」
「そうかい。動きやすいならそれでもかまわんがね」
話を振られたアセリアも肯いているのを見てあゆも納得する。
その時、あゆの目に着替えるまで梨花の着ていた服が目に入った。
「それ、大事に持っているんだな」
「そうよ。風子の血が付いた服だから……ちゃんともって帰りたいのよ」
梨花は服を手にしながらデパートで潤や風子とすごした時間を思い出す。
あの時、過ごした時間は大切な思い出であり決して忘れることの出来ないもの。
そして今、二人は既になく自分だけが生き残っている。
だからどんなこともあっても、再び袖を通すことがなくてもこの服――風子の血と「生きろよ」と言った潤の心が染み付いた――だけは
絶対に持ち帰るつもりだった。
(なんだ、皆甘い奴ばかりじゃないか……)
大事そうに服を持つ梨花の言葉を聞きながらあゆは思う。
結局のところ他人に甘い奴が生き残り、乗った奴は次々とくたばっていったということか。
考えてみれば、沙羅やカニ、武だけに限らず瑞穂もアセリアも梨花も皆そうだ。
皆他人に甘く優しい奴ばかりがここに集っている。
(私も随分甘くなったと思ったけど、そいつはどうやら間違ってなかったみたいさ)
そう心の中でつぶやいた時、とても心地よかった。
Scene4:目指すもの、追うもの~~武・きぬ・瑞穂・アセリア・梨花・あゆ・沙羅・舞~
闇夜の森を一台の車がライトも点けず走り続ける。
その車内にはホテルを発った7人が乗り込んでいた。
「廃坑の北口……確かに地図には無い秘密の入口だわ。そしてここから羽入の封印を解く『ある場所』へ行ける……」
「俺だって意外だった。まさか地図には記されてない場所からそんな所へ行けるとは。その写真のことを聞かなかったら反対側の南口に行っているところだったさ」
武が運転する車の助手席で引き伸ばされた写真――写っているのは、隠し入口であり参加者の地図には記されてない廃坑の北口を記した詳細図――を手にしながらつぶやくのは梨花である。
一方で運転席の武は、地図と写真を見比べながら進路方向の指示を出す梨花の言うままにハンドルを切っている。
あの後、ロビーに集結した7人はそれぞれが沙羅ときぬの手で武器が再分配されたディパックと何が入っているのかを記したメモを手にし、ホテルを出発した。
車の方も地下駐車場にあったもっとも大きいものを選んだため、ホテル到着時とはことなり全員が余裕を持って乗り込んでいる。
ちなみに、出発にあたって沙羅ときぬは車に少しだけ準備を施しておいた。
正面の窓ガラスを外し、万一の戦闘に備えてすぐ発砲できるようにした上、サンルーフ上に九七式自動砲を据え付けた(といってもロープで固定しただけだが)のだ。
その為、助手席の梨花は沙羅から渡されていたコルトパイソン――電波塔の戦闘後にめざとく見つけた沙羅が回収しておいた――をディパックから取り出して準備しており、
後部座席ではあゆが暗視ゴーグルを装備し、九七式自動砲のグリップを握りしめていつでも撃てる準備をしていた。
(妨害がないという事は、やはり沙羅の推理したとおり主催者側も混乱しているのか?どっちにしても今sの状況は好都合だ)
ここまで、自分達が妨害をまったく受けずにいることから武はアクセルをさらに踏み込む。
エンジンの回転音が大きくなりスピードが増していく。
(見つけた……)
だが、その動きを捉えているものがいた。
既にあちこちが返り血と己の血、そして泥土や草木の汁で汚れた隻眼の少女、川澄舞。
公園での戦いの後、博物館で休養を取った彼女は博物館で武器になるものを探し、更にその後廃坑を探索するべく森に入ったところだった。
未だに疲労が完全には抜け切らない中で、地図にある廃坑の入り口を目指していたとき此方へ向かってくる車の音を聞きその姿を認めたのだ。
(どこを目指すつもり……? 少なくとも廃坑の方じゃない)
もっとも、その車へ不用意に近づくような真似をする彼女ではない。
自分がどう対処するかは車がどこに向かうのか様子を伺ってからだ。
(北……?その方向に何がある?)
こっちに気づくことなく走り去った車はライトを点けてなかった為、具体的に誰が乗っているのかまでは分からなかったが、結構な人数が乗っていることまでは分かった。
あれだけの人数が固まって移動するということはそれだけのものがあるということだろう。
どうするか?
あの車を追うのか、それともこのまま廃坑を目指すか?
遠ざかっていく車を見送りながら舞の下した結論は後者だった。
(私は、あなた達とは違う道を行く……)
隠れていた茂みから立ち上がった舞はその足で地図上に記された廃坑の入口を目指し歩き出す。
一方、舞に発見されていたことも知らず目的地たる廃坑の北口近くに到着した七人は車を降り、
注意しなければ思わず素通りしそうな位置にあった入口から内部へ進入した。
各々が手に手にランタンや懐中電灯を持ち、警戒しつつ奥へ奥へと進む。
廃坑内は途中で複数の坑道に枝分かれしてしたが、この時は隠された入口の詳細図が写されたのと同じ
フィルム内にあった坑内の道筋を記した図面があったため目的の場所へたどり着くのにそう時間はかからなかった。
「ここね……」
「思いっきりそれらしいものもあるしね。あれ……」
沙羅が指差す方向に他の全員が注目する。
そこは、岩を削って作った祭壇のようなもので、その最上段は何かを置く為の台座状になっている。
「ああ、いかにもな感じだな。あそこへ『三種の神器』を置けばいいということか」
「ですね。その『三種の神器』というがアセリアさんの持っている『国崎最高ボタン』」
「俺の持つ『天使の人形』。そして……」
「この『オオアリクイのヌイグルミ』ってことさ」
「まるで子供向けのなぞなぞね。暗号の答えがこんなに単純なものだったなんて」
「でもさ、普通気が付かないものだろ?このぬいぐるみも人形もどう見たってハズレにしか見えないじゃん」
「あるいは、それが支給品にこれらのアイテムを加えた人間の意図かもしれない。あからさまに『脱出アイテムでござい』というモノじゃ主催者が排除してしまうから」
「……とりあえず、あの祭壇へこれらを置きましょう。羽入さんの封印を解く為にも」
ことのほか早く目的地にたどり着いた一同は封印解除を前にしてそれぞれの思った事を口に出していたが、
それは『国崎最高ボタン』をじーっと見つめながら今にもそれを押しはじめそうなアセリアの様子を見た瑞穂の一言で終わることとなる。
まず武が祭壇の台座左側に『天使の人形』を置き、次にあゆが台座右側へ『オオアリクイのヌイグルミ』を置く。
そして、瑞穂に促されたアセリアが名残惜しそうに『国崎最高ボタン』を台座の真ん中へと置いた。
誰もが――特に梨花は――これで羽入の封印が解けたと考え、あるいはこれからまだ何か起こるのではないかと期待する。
だが、何も起こる気配がない……。
「もしかして三種の神器を置いた時点で封印は解けたんじゃないのか?」と誰もがそう考え、その場を離れようとしたときアセリアが祭壇の方へ近づいた。
「アセリアさん、こんなときに……」
「ん、最後にもう一度だけ」
アセリアの様子を見て瑞穂は少々あきれ気味になるもののこれで最後ならと止めようとはしない。
そんな瑞穂達を置いて祭壇の台座前に来たアセリアは、国崎最高ボタンを「ぽちっ」と押した。
|209:[[ワライ]]|投下順に読む|210:[[We Survive(後編)]]|
|209:[[ワライ]]|時系列順に読む|210:[[We Survive(後編)]]|
|206:[[守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編)]]|宮小路瑞穂|210:[[We Survive(後編)]]|
|206:[[守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編)]]|アセリア|210:[[We Survive(後編)]]|
|206:[[守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編)]]|大空寺あゆ|210:[[We Survive(後編)]]|
|206:[[守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編)]]|古手梨花|210:[[We Survive(後編)]]|
|206:[[守りたいもの/さよならの囁き(Ⅱ)(後編)]]|白鐘沙羅|210:[[We Survive(後編)]]|
|205:[[さくら、さくら。空に舞い散るのは……]]|倉成武|210:[[We Survive(後編)]]|
|205:[[さくら、さくら。空に舞い散るのは……]]|蟹沢きぬ|210:[[We Survive(後編)]]|
|207:[[牢獄の剣士(Ⅱ)――夢想歌――(後編)]]|川澄舞|210:[[We Survive(後編)]]|
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**We Survive(前編) ◆/P.KoBaieg
Scene1:7人が集う~武・きぬ・瑞穂・アセリア・梨花・あゆ・沙羅~
神社外周にて。
ことみの死を最後に終結した争いの後、瑞穂たちは神社に向かい武たちとの合流を果たし、
ここまでの過程で各々が得た情報を交換していた。
「ディー……それが黒幕の名前……」
「黒幕が神とはね……非常識にも限度ってのがあるんじゃないかね……。でも、今なら信じられるさ」
「そのディーが武さんときぬさんの前に姿を見せたということは、つまり……」
「主催者側もこの殺人ゲームが破綻しつつあることを認識しているということだろう」
「そういえば、ディーの奴言っていたっけ『歯車はもう狂っている』って」
きぬの言葉はその場にいた7人全員に鷹野の目的が頓挫しつつある事を認識させ、自分達の脅威は未だゲームに
乗っている川澄舞を除けば主催者のみである事を再認識させる。
互いの身に起こった出来事の非常識さや、黒幕が本物の神であることを一笑に付す者などだれもいない……。
さて、ここで彼らが合流するまでの経緯を簡単に記す。
電波塔の破壊後、あゆの誤解を始まりとして生じた争いは一ノ瀬ことみの死により終結したのは先に書いた通りである。
それから、暫らくの休憩をとった瑞穂、アセリア、梨花、あゆ、沙羅の5人はあゆと沙羅の乗ってきた車を使い
神社へ向かった武たちとの合流を目指すこととした。
最初は行き違いになる心配もあったがそれは杞憂に終わる。
車が当初の合流予定地点である山頂を抜けて神社近くまで来たとき、丁度徒歩で鉄塔への援護に向かおうと
していた武ときぬの姿を発見しそのまま合流となったからだ。
合流した7人は、互いの再会や電波塔の破壊と「桜」を枯らせることに成功した事を喜ぶよりも先に
それぞれことみ、智代という貴重な仲間を喪った事実を悲しんだ。
その後更にことみの残したメモを元に梨花と沙羅が武ときぬの首輪をそれぞれ解除
(あゆと沙羅の首輪は鉄塔前での休憩中に解除した)し現在に到るというわけだ。
それぞれが交換した情報はここに集った7人を驚かせるに十分だった。
武ときぬは、首輪の解除が成功した事をはじめとして、羽入の存在と封印の解除方法、主催者の本拠地への
移動方法、主催者も決して一枚岩ではないことに。
一方で瑞穂たちは、参加者の一人である月宮あゆがどこで手に入れたのか鉄塔でアセリアが戦ったものと同じ
人型兵器で武たちに挑んできたこと、「桜」の正体が朝倉純一の祖母であったこと、
鈴凛から聞いていた黒幕であるディーが武ときぬの前に姿を見せたことに驚かされた。
もっとも、これらの情報を前にして一番驚いていたのはそれらの事象に遭遇してこなかったあゆと沙羅だったのだが。
「それにしても、よくコイツを撃破できたものさ。アセリアですらこのデカブツを撃破するのに苦戦を強いられたのに」
遠巻きに見ていたアセリアとハウエンクアの駆るアヴ・カムゥの戦いを思い出しながら、あゆは神社の境内で仰向けに
倒れたままのアヴ・カムゥに近付きその装甲を軽く叩く。
「ああ、月宮がうっかりこれの弱点を口にしなければ智代の協力があっても多分撃破するのは難しかった」
「これに月宮の奴が乗っていたってことは、あいつ主催者と取引でもしやがったのかね?ま、私等を騙した上に
こんな代物持ち出してそれでも負けたって事は所詮あいつも糞虫だったってことかい……で、弱点ってどこなのさ?」
「脇腹だ。そこを攻撃すればこれの動きはひどく鈍くなる。それが分かったのは偶然だけどな」
「脇腹ねぇ……」
そこで武は一旦言葉を切り、話題を変える。
「これからどうする?もう禁止エリアを気にすることなく移動できる。鷹野たちの本拠地へ行く方法も分かった。あとはもう実行に移すだけだ」
「そうね。確かに武の言うとおりよ。私も出来ることならすぐにでも羽入の封印を解きたい。でもね……」
武の発言に対して梨花は言葉を返しながら瑞穂やアセリアの方を見る。
その様子を見て武も梨花が何を言わんとしているかすぐ察した。
皆あまりにも酷く傷つき、疲弊している――
そう、ここまでの度重なる戦いでここに集った7人は肉体、精神共に疲労の限界に達しており、唯一きぬを
除けば大なり小なり体に傷を負っている。
制限の外れたキュレイによって常人より遥かに早いスピードで負傷が治癒しつつある武を例外とすれば、
全員の傷が癒えるにはそれなりの時間が必要なのは明らかであり、今すぐ主催者の本拠地へ乗り込んでもむざむざ全滅するのは明らかだった。
「そのことなんだけど」
どうしたものかと武が思った時、沙羅が口を開く。
「実はここまでの移動中に話し合って『合流したらホテルに向かう』って決めているの。あそこ休憩するにはうってつけの場所だから」
「ホテルか……。場所的には悪くないと思うが、こちらが休養している間に連中がホテルを包囲する可能性もあるんじゃないのか?」
「その可能性は低いと思うのよね」
「どういうことだ?」
武の疑問に沙羅はそのまま言葉を続ける。
「根拠は、電波塔が破壊され私達も首輪を解除したことで、鷹野たちがこっちの動きを把握する手段がなくなった上
こちらは本拠地への移動方法を知っていること。これが一つ目。
二つ目は主催も一枚岩じゃないこと。事実、首輪解除に必要な最後の状況を整えたのは主催者側の人間だったそうじゃない。
この段階で裏切り者が出たなら、鷹野がまだ『裏切り者』がいると考えるのが普通と思わない?」
「つまり、大人数で俺たちがどこいるか探すより内部の裏切り者を排除した上で本拠地の守りを固めるほうがいいということか……」
「こっちにすれば鷹野の本拠地に乗り込む以外道は残されてないわ。それなら守りを固める方が鷹野にとっても簡単だわ」
沙羅の言葉を聞いて武と梨花はうなずいてみせる。
「それに、あんなものを使ってまでして電波塔を守りきれなかったんだから、今頃連中は相当混乱しているはず。
こちらが休むぐらいの時間は稼げると思うけど違う?」
沙羅の視線の先には、もはや動かなくなったアヴ・カムゥの残骸があった。
武の話から、その操縦者が瑛理子の命を奪った月宮あゆであったことも彼女は知っている。
話によるとそのあゆの死体は武の眼前で消えてなくなってしまったそうだが、今の沙羅とってはどうでもいいことだった。
「そうだな。だけど、どうしてまたホテルなんだ?休養するならここで……」
「それについては私が説明させてもらうさ」
ホテルより神社の方が目指すべき廃坑に近いんじゃないかと言おうとした時、それは別方向からの声により遮られる。
武が振り返ると、そこには暫らく場を離れていたあゆときぬの姿があった。
二人は神社の敷地から智代の遺体を運んできたのだ。
「仲間を放って置くことはできないさ、ちゃんと埋葬してやらんとな……で、ホテル行きの件だがね。あそこは建物も広いし
休める場所も物も豊富にある。万一連中が攻めてきてもある程度は戦えるからな」
「確かにな……」
「それにさ倉成、あんたもその服なんとかした方がいいんじゃないかい?その格好で鷹野のもとへ乗り込んでもお笑いにしかならないよ」
「うっ(既に自覚していたとはいえ、改めて突っ込まれると……)」
あゆに自分の女装モードを指摘された武は思わずうめく。
同時に一緒にいた皆からも少しだけ笑みがこぼれた。
「それに……、あそこでないと出来ないこともあるからさ……」
皆が笑う中、自分達が乗ってきた車の方を見てあゆは呟く。
車の後部座席には自分の手で殺めたことみの遺体が置かれているのだ。
そもそも、ホテルに行くことを最初に言い出したのはあゆだった。
電波塔近くで休養後にことみを埋葬しようとした瑞穂たちに「どうせ埋葬するなら一ノ瀬の仲間と一緒に弔いたい」と申し出たのだ。
あゆにすれば半ば自己満足みたいなものだったが、それはすんなりと受け入れられ、結果としてことみの遺体は車で運ぶこととなったのである。
「そうか、ならば行くか。ホテルに」
「ああ、時間が惜しいからな。もう行こうかね」
「あ、それならちょっと待っちくり!」
誰もが車に乗り込もうとした時、メンバーの中で唯一無傷であるきぬが声をあげた。
「カニ?どうしたのさ??」
「いっそのことここでパーッと皆の怪我治しちまおうぜ。実は丁度いいものがあるんだ。それに、瑞穂なんてホテルまで移動するもの辛そうじゃないか」
言われてみればそうだ。
情報交換のあと、横になっている瑞穂など歩くのがやっとという状態である。
ホテルまで車で移動するとはいえ体にかかる負担は少なくないはずだ。
それが治るというのならこれほどありがたいものもない。
「もしかして、魔法でも使うのかい?」
亜沙の魔法により傷を治癒された経験のあるあゆはきぬの言い方から彼女が何をするのか大方予想はついていた。
「そのとおり。そういう事でこれの出番。頼むぞ“献身”」
そう言って自分のディパックから取り出した槍を手にするきぬ。
純一の残してくれたボタンに宿る魔力のおかげで手にする槍の名前が永遠神剣第七位“献身”であること、そしてこの槍を通じて魔法が使えることも分かる。
だからこそ、今この魔法を使うときだと思う。
(純一、おばあさん……残してくれたこの魔力、皆のために使わせてうからな)
精神を集中し“献身”とボタンを手にする。そして――
「皆の傷を癒してくれ、『ハーベスト』!!」
きぬが魔法を唱えた直後、皆のいる「場」のマナが活性化されその傷を癒し、痛みを取り除いていていく。
桜による制限がなくなった事で傷が癒えるだけではなく肉体的な疲労も取り除かれつつあった。
その効果に対する反応も皆様々だった。
「これが回復魔法の力なんだ……」
「体から痛みが引いていく……、確かにこれはありがたいな」
「予想以上ね。これは驚きだわ」
初めて回復魔法を体験する沙羅、武、梨花はその効果を前に単純に驚き――
「時雨が魔法を使ったときは驚くばかりだったけどさ、改めてこうやって見ると便利なものさ」
あゆは魔法の効果よりも魔法そのものの便利さに感心し――
「アセリアさん、ありがとう。もう私は大丈夫みたいですから」
「ん……ミズホが起き上がれるようになってよかった……」
アセリアは瑞穂が上体を起こし、それまでとはうって変わって元気そうな表情を見せたことに安心していた――
きぬの回復魔法は、全員の傷の治療と疲労の回復にかかる時間を大きく短縮することに貢献した。
そうなると残るは本拠地へ乗り込む前の最後の準備である。
誰もがそれを察していたのだろう、程なくして全員が車に(すし詰めになりながらも)乗り込みホテルへ目指し出発していた。
Scene2:探偵助手の視点~沙羅、きぬ~
あれからすぐ私たちはホテルに到着し、鷹野たちの本拠地へ乗り込む前の準備にとりかかった。
全員の役割は車の中で予め決めていたから全員が到着後すぐ動いてそれぞれ動いている。
武は地下のテナントエリアで着替えたあと、羽入という人が封印されているという廃坑の地図が写っているフィルムの現像に。
あゆと瑞穂と梨花はホテルの外でことみと智代、そしてあゆの仲間だった亜沙という人の埋葬を。
アセリアは同じく外で三人の護衛と見張りを。
そしてカニとこの私、白鐘沙羅はホテル1Fの一角――フロント事務所――で全員分の武器の配分と銃器のメンテをしているというわけ。
もっとも武器の配分はもっぱらカニがやっていて、私は銃器のメンテなんだけどね。
最初は全ての支給品を均等に分配しようかと思ったけど、時間がないからそれはやめて武器だけ出来るだけ全員へ行き渡るようにした。
一応どんなものがあるのか把握だけはしようと中身の確認だけはしているけどさ。
だけど、全員の所持品を見て改めて本当に色々なものが支給されていたのが分かった。
パワーショベルが入っているのを見つけたときはカニと二人そろってのけぞってしまったし(ディパックの外に出すことはしなかったけど)。
でも、今の私はそれよりもかなりの難題に直面していた。
(まいったな……)
そう、ここに来てわかったんだけどオートマチック銃の予備マガジンが少なすぎるのだ。
武の荷物に予備弾丸のセットがあったおかげで弾薬不足という問題からは解消されそうだったけど、それは言葉通り「弾丸」の形で入っていたのよね。
そりゃ中にはマガジンの形で入っていたものもあったけど殆どは銃弾だったし。
おかげで「弾はあってもマガジンがないから使えない」ということにもなりかねない。
とりあえず、本拠地へ突入する前に「マガジンは捨てずに回収して予備の弾丸を詰めるようにして欲しい」と皆へ伝えておこうと思う。
(それでも弾が無くなったら、敵の武器を奪うのが一番ね……。これも皆に言っておこう)
そこまで考えて、私は頭を切り替え車の中での武との会話を思い出す。
移動中、私は武の助手席に座っていたんだけど、その際に電波塔の近くで出会った主催者側の男から頼まれた伝言を武へ伝えた。
「レムリア遺跡で待つ」
「恐らく、全ての答えは17年前と同じ場所に……『HIMMEL』の先にある」
この言葉を。
その時、武の見せたひどく驚いた表情が忘れられない。
武はその後黙り込んでしまって私があの伝言がなんだったのかと聞いても「いずれ話す」と言って教えてくれなかった。
これは私の推理だけど、多分あの男は武の知り合い、それもかなり前からの。
きっと過去になんらかの因縁があるに違いないと思う。
武が黙り込んでしまったのは、きっと自分の知り合いが主催者側の人間だったからに違いない。
(だけど、あの言葉にどういう意味があったの?)
あの男の伝言にあった中で引っかかったいくつかの単語。
「レムリア遺跡」
「17年前と同じ場所」
「HIMMEL」
これらが武とあの男にとって何か重要な意味を持つのは確か。
でも、武の過去を知らない私にはそれ以上の事はわからない。
私は、この殺し合いで知り合って今も仲間として行動している人の過去を自分から積極的に知ろうと思わなかった。
違う、そんなこと考える暇なんか無かったという方が正しい。
せいぜい圭一から鷹野の素性について聞いてみたぐらい。
でも、ここに来て私は初めて武の過去というものを知りたいと感じた。
人の過去を詮索するのが良くないのはわかっている。
だけど、生きて帰れたら武に過去のことを聞いてみたいと思う。
あんな表情をするなんて、きっとそれだけのことが過去にあったんだろうし。
まぁ、別に知ってどうするというわけじゃないけど、一度湧いた疑問はスッキリさせたいというところかな。
「沙羅、ちょっといいかな?」
そんなことを考えているとカニが私に声をかけてきた。
「あ、何かな?」
「ボクの方は皆のディパックに武器をわけたんだけどさ、ボクにも銃の使い方教えてくれないかな?」
「うん、いいけどちょっと待って」
とりあえず武のことを考えるのをやめて私はカニに銃の使い方を教えることにした。
カニは銃について初心者みたいだから……。
そう考えた私は初心者でも扱いやすい銃であるショットガン――ベネリM3――を手に取った。
ショットガンは反動にさえ気をつければ初心者でも使いやすい銃だ。
多分カニでもすぐ扱えるようになるだろうからね。
「……でね、ショットシェルはそこから装填すればいいのよ」
「おぉ、すげぇなー」
「それにしてもさ、よく生きてたものね」
本当にそう思う。
だって分かれたときは生きて会えるとは思わなかったし。
神社でカニと再会したときは生きていたことに驚くより先にあゆと一緒に喜ぶのが先だったけどね。
「うん、ボクも助からないと思ってた……でも、純一が魔法で治してくれたんだ」
「純一ってカニの仲間だった子だよね」
「アイツさ、死んだ後もボクを助けてくれて……嬉しかったな……」
「そんなことがあったんだ……」
そう言ってカニは自分が神社でどんな体験をしたのかを聞かせてくれた。
普通なら絶対に信じられないだろうけど透明の化け物とか、あの電波塔で見た巨大ロボットとアセリアの戦いぶりとかを思い出すと
カニの話もすんなり受け入れられる。
それに、あゆもこのホテルで襲撃されたときに仲間だった時雨って人に魔法で手当てしてもらったそうだし。
本当に不思議なことばかりよね。
もっとも、いきなりこんなところに連れてこられて殺し合いをやらされるというのが不思議を通り越して異常なんだけど……。
「沙羅、何考えているんだ?」
すると、私の顔を覗き込みながらカニが話しかけてきた。
「うん、ここへ連れてこられてから不思議なことばかりだなって」
「だよなー。ボクも今考えてみればここに着てからいろんな人と会って色々なことがあってさ……」
「時間にすればたかだか一日と少しだけなのにね」
そう、多分私の人生の中で一番長い一日かもしれない。
「でもさ、それももうすぐ終わるんだよな」
「カニ、せっかくここまで来たんだから生きて帰ろう!」
「当たり前だろ、沙羅。皆で生きて帰ろうぜ!」
私とカニはそうやって互いに笑ってみせた。
双樹、恋太郎、そして圭一、美凪、瑛理子……たくさんの知り合いが死んじゃったけど、私には励ましてくれる仲間がいる。
死んだ人とはあえなくても仲間の為にも絶対に生きて帰ろう。
改めて、そう強く思った。
Scene3:Requiescat in Pace(安らかに眠れ)~あゆ、瑞穂、梨花、アセリア、武~
「こんなものかね」
「ええ、これなら二人とも一緒に埋葬できるわ」
「こっちも終わりましたよ」
沙羅がカニにベネリの使い方を教えていたころ、あゆは梨花と共にホテルの敷地の一角にことみと亜沙を埋葬する為の墓穴を掘っていた。
その横では戦闘でボロボロになった服から着替え終わった瑞穂がことみ、亜沙、智代の遺体へ施した死化粧をようやく終えていた。
更に少し離れたところではアセリアが“求め”を手に周囲を警戒している。
ちなみに、今のアセリアの“求め”を持つ反対側の腕にはことみの所持品だった熊のぬいぐるみが抱かれていたりする。
ホテルに到着後、あゆはまず亜沙の遺体がある4Fを目指した。
瑞穂や梨花はてっきりことみと智代を埋葬するものと思っていたのでその行動に疑問を持ったが、それはあゆが
亜沙の遺体を抱きかかえてホテルから出てくるのを見た時解消した。
そしてこの時なぜあゆがホテル向かうことにあれほど拘ったのかを理解したのだ。
(時雨、あの時最後の別れを告げたはずだったのに私は戻ってきちまったよ……でもさ、これでホントのホントに最後の別れさ)
そんなことを思いながらもあゆは、掘り終えた墓穴にことみと亜沙の遺体を墓穴へと納めていく。
智代の遺体は彼女の遺言を武から聞かされていたので、埋葬せずことみと亜沙の埋葬場所の隣に安置することにした。
(ようやく、心残りを清算できそうさ時雨。そして一ノ瀬……)
先に亜沙の遺体を納め、次にことみの遺体を墓穴へ運びながらあゆは二人の死に顔を交互に見る。
二人とも穏やかで、まるで眠るかのような死に顔。
亜沙は二度目にホテルへ立ち寄ったときに見たときと同じ表情で。
ことみは瑞穂に抱きしめられて逝った時と同じ顔のままで。
二人とも安らかな顔のまま。
「一ノ瀬……私はようやく分かったよ……。お前が時雨と同じ人間だったって事にさ……」
ことみを撃った時の事を思い出しながらあゆは呟く。
忘れはしない、いや忘れてはいけないあの光景を脳裏に浮かべて。
「他人を思いやることができるタイプの人間だってこと。そして、仲間の為に命を張れる人間ってことを……
あの時もっと早くお前の優しさに気づいてたらさ、こんなことにならなかったって思うんだ……」
そう、二人ともそうだった。
亜沙もことみも最後の最後まで泣き言一つ口にせず、仲間のことを気遣っていた。
「お前は時雨と同じさ……二人は良く似ている……。心の底からそう思えるよ……」
だから、亜沙がことみの事を心配していたのだろう。
今はそう思える。
最後にことみの右手を握り、胸の上に組まれた亜沙の手の上に重ねてやった。
「二人とも仲良くな。私が言えた義理じゃないけどさ……」
そこまで言ってあゆは瑞穂と梨花の方に向く。
「ありがとうな。わざわざ時雨や坂上の分まで化粧をしてくれてさ」
「いいえ、お二人ともあゆさんにとっては大事な仲間だったのでしょう。それなら、なおさら放って置くことは出来ませんから」
「そうかい、済まないね。宮小路」
瑞穂の言葉にあゆは静かに笑ってみせる。
そして、再び墓穴に横たわる二人の方を見ながら呟く。
「でも、これで心残りを清算できたって気分さ」
「あゆさん……」
「私はさ、時雨の最後を看取ってやれなかったんだ。だから、できることなら弔ってやりたかった」
そう、決して忘れることの出来ない亜沙と交わした最後の会話。
命と引き換えに自分の傷を癒してくれた亜沙の優しさに対して自分は礼の一つも出来なかったとあゆは思う。
それだけならまだマシだったのかもしれない。
その後、自分の思い込みからことみと佐藤良美が手を結んで亜沙を殺したと誤解し、結果ことみを殺してしまった。
「時雨はな、途中で離れ離れになった一ノ瀬のことをずっと心配していたのさ。だからせめて同じ墓に入れてやりたいと思ってたんだ」
「その為にわざわざここで埋葬させて欲しいってあの時……」
「ああ、そういうこと。でも私は思うのさ、もっと早く一ノ瀬のこと信じてやっていればってね……」
どんなに後悔しても死者は還ってこない。
それは亜沙が死んだ時既に分かっていたこと。
だけど、自らの過ちでことみを死なせたあゆはそれでも後悔せずにはいられなかった。
だが、そこで今一度ことみが最後に残した言葉を思い出す。
『大空寺さんも……お願い。私の事はもう良いから……二度と同じ間違いを犯さないで。
私の仲間を……傷付けないで』
あの言葉はことみの遺言。
そして自分もまたその言葉に約束してみせた。
ならば自分はことみの想いに応えなければならないとあゆは決意を新たにする。
「だからさ、私も二人と同じことをするよ。時雨が私を逃がしてくれた様に、一ノ瀬が古手をかばったみたいに命を張って皆を守るさ」
「あゆさん……」
「もっとも、二人と違って私は地獄行きだろうがね……」
「それは違うわ、あゆ」
「アユ、コトミはそんなこと望んでいない」
その呟きを遮ったのは梨花とこちらに戻ってきたアセリアだった。
「ことみがあなたと沙羅を許したのは生きて帰って欲しいと思ったからよ。こんな場所で死ぬ為じゃないわ」
「私も、リカと同じだから……アユがここで死んだらきっとコトミは悲しむ。だから、そんな風に考えないで欲しい……」
「古手……それにアセリア……」
「そう思ってくれることには感謝するわ。だからって死んだら元も子も無いじゃない。だから、安易に死ぬなんてことは考えないで」
梨花の言葉はあゆの心に響いた。
あの時、ことみは梨花をかばった結果あゆに撃たれて死んだのだから当然恨み言の一つも言いたい筈だろう。アセリアもきっと同じはずだ。
だが、彼女達もまたあゆを許した。
それは、ことみが生き残り自分達が死んだとしてもきっと同じ事をしただろうと思ったからに他ならない。
「悪ぃ……返す言葉がないさ」
「それに……あゆさんも同じように言いたいことはあるでしょうし」
「孝之のことかい?それはもう言うなや宮小路。あいつの事はもう済んだことさ」
思わず苦笑してあゆは瑞穂に向かって首を横に振る。
その様子を見て、瑞穂は車で神社へ移動する前に電波塔近くで交わした会話を思い出す。
あの戦いの後、休憩中に瑞穂はあゆへ自分が彼女の知人である鳴海孝之を殺した事実を告げた。
梨花の持っていたノートパソコンの「殺害者ランキング」を一通り見たあゆが瑞穂に事実を問いただしたとき、隠すことなく真実を告げたのだ。
あれだけの事が起きた後だったから、瑞穂がその気ならば「知らぬ存ぜぬ」の一点張りでも押し通すことも出来たのだが、あえてそうはしなかった。
この時、他の者は新たな遺恨が生まれるのではないかと思いその場に緊張が走ったが、意外なことにあゆは激昂する様子も見せずただ一言「ありがとうな」と言うにとどまった。
そしてこう続けたのだ。
「少し前の私ならさ、この場で宮小路を撃ち殺したかもしれない。でもな、一ノ瀬が命を張って守った仲間を守るって約束したんだ。
一ノ瀬との約束を破る気なんてないさ。それに、本当のことをつつみ隠さず言ってくれただけで私は十分満足だよ」
そう言ったあゆの表情は憑き物が落ちたような顔だった。
更にこう続けた。
「そんなことよりも私はあいつが二人も殺していたことの方がショックだったさ。あの糞虫が、人様に迷惑かけたままくたばりやがってさ……」
そんなあゆを見て瑞穂もまた彼女を許そうと思ったのだ……。
そうやってどれだけ仲間を、その思いを尊重し大切にしたかを再確認し、四人は埋葬を再開した。
ホテルの倉庫から持ってきたシャベルを使って足元から徐々に土を被せていく。
そして、二人の腰辺りまで土が被さったところであゆが手を止め「ちょっと待ってくれないかね」と言ったあと二人の遺体へと近づき何かを
手に取ったあと、その隣に横たわる智代の遺体へ近づいて同じように何かを手に取った。
暫らくして、あゆは三人の前に来ると手を差し出した。
その手の中には亜沙の黒いリボンとことみの髪留め、そして智代のヘアバンドがあった。
「せめて、魂だけでも連れて帰ってやろう。違うかい?」
あゆの言葉に思わず三人はうなずく。
そして、瑞穂と梨花はことみの髪留めを一つずつ手に取った。
「アセリアはいいのかい?」
「ん、私にはこれがあるからかまわない」
アセリアはそう言うと熊のぬいぐるみをあゆへ差し出して見せた。
「それなら、時雨のリボンは私が貰っておくよ。このヘアバンドは倉成に渡してやるかね」
あゆは亜沙の形見というべきリボンを強く握り締める。
(最後まで見守ってくれるよな、時雨……)
そう心の中で呟きながら。
最後に盛り土の上へ同じ敷地内から摘んできた花を置いて備え、四人で黙祷をささげてようやく弔いを終えた。
「なら、ホテルに戻るとしましょうか」
「そうするか。なら私は沙羅のところにも顔を出しにいくかね……それにしてもさ、宮小路……」
「なんですか、あゆさん?」
「いやさ、着替えたのはいいとしてその格好どうにかならなかったのかね?あー……、別にそういうのが趣味ならいいんだけどさ……」
ホテルに戻る途中、あゆは瑞穂の格好を見て吹き出しそうになるのをこらえながら言う。
もっとも、彼女が吹き出しそうになるのも無理は無い。
瑞穂が身に着けているのは思いっきり場違いで、おおよそこれから主催者の本拠地に乗り込むとは思えない――
そう、今の瑞穂の格好は「チャイナ服」姿なのである。
しかもご丁寧なことに赤い星のついた中国風の帽子まで被っているという完璧さだ。
「し、仕方がないじゃないですか。武さんから受け取ったディパックに入っていた服で一番最初に目に付いたのがこれだったんですから!」
「そう怒るなや、あんたみたいな美人なら何着ても似あうんだからさ」
なぜか、赤くなって反論する瑞穂の様子をみてあゆは笑って返す。
(瑞穂……完全にあゆにからかわれているのですよ。だから最初に言ったのです。ホテルの地下でマシな服を選ぶべきだったんじゃないかって)
(ミズホの格好、変……?)
一方、二人のやりとりを見ていた梨花はジト目で、アセリアはきょとんとした表情で見ていた。
「大体、あゆさんも埋葬している間は何も言わなかったじゃないですか、それを今になって……」
「まぁ、だからそう言うなって」
吹き出すのをこらえながらも瑞穂とのやり取りの中で、まともな服が欲しいと移動中の車内で言っていたもう一人の人物をあゆは思い出す。
(そういえば、倉成もここに来るまで女装していたな。はたしてまともな服がみつけられたのかね?)
そこまで思ってホテルの正面玄関をくぐり、ロビーに入っていく四人。
「今戻ったのか。意外と早かったんだな」
その時、武の声が聞こえて思わずそっちの方を振り向いた。
「武さん、その服……」
「ああ、地下のテナントエリアで見つけたんだ。どうした?」
その格好――どう見ても、香港映画の主人公役である拳法家が来ているようなカンフー服――が目に入った瞬間。
「ぶわっははははははははっ!」
「「笑うなーーーーーーーーーーーーーーっ!!」」
我慢の堤防が決壊し、あゆは思わず爆笑してしまった。
直後にゲンコツの音が二発ほど響いたのはいうまでも無い。
「はぁ、笑いたくなるのは解かるけど、あゆってそのあとどうなるか考えてないのね……」
その様子を見ていた梨花も思わす笑いそうになる。
そこへ、武と瑞穂からゲンコツを食らった頭をなでながらあゆが近づいてくる。
「古手~、そういうお前もその格好は狙ったのかね?」
「瑞穂の真似じゃないけど、サイズが一番ぴったりだったのがこれなのよ」
「サイズって、もうすぐ本拠地に乗り込むのにそれはないんじゃないかと思うけどな……」
あゆの言うように梨花も瑞穂同様着替えたのだが、その格好はというと彼女の指摘どおり
お見事なまでに戦いに向いているとは思えない格好。
そう、チャイナ服の瑞穂とならんで梨花の姿はそれはもうご立派なまでの「猫耳メイド」だったのである。
どう考えても戦闘向きとは思えないが梨花の方は気にしている様子はなかった。
「それに、この服見かけによらず軽いし動きやすいのよ。アセリアも私の格好見て似合っているって言ってくれたわ」
「ん、リカの格好…どこかエスペリアに似ている…」
「そうかい。動きやすいならそれでもかまわんがね」
話を振られたアセリアも肯いているのを見てあゆも納得する。
その時、あゆの目に着替えるまで梨花の着ていた服が目に入った。
「それ、大事に持っているんだな」
「そうよ。風子の血が付いた服だから……ちゃんともって帰りたいのよ」
梨花は服を手にしながらデパートで潤や風子とすごした時間を思い出す。
あの時、過ごした時間は大切な思い出であり決して忘れることの出来ないもの。
そして今、二人は既になく自分だけが生き残っている。
だからどんなこともあっても、再び袖を通すことがなくてもこの服――風子の血と「生きろよ」と言った潤の心が染み付いた――だけは
絶対に持ち帰るつもりだった。
(なんだ、皆甘い奴ばかりじゃないか……)
大事そうに服を持つ梨花の言葉を聞きながらあゆは思う。
結局のところ他人に甘い奴が生き残り、乗った奴は次々とくたばっていったということか。
考えてみれば、沙羅やカニ、武だけに限らず瑞穂もアセリアも梨花も皆そうだ。
皆他人に甘く優しい奴ばかりがここに集っている。
(私も随分甘くなったと思ったけど、そいつはどうやら間違ってなかったみたいさ)
そう心の中でつぶやいた時、とても心地よかった。
Scene4:目指すもの、追うもの~~武・きぬ・瑞穂・アセリア・梨花・あゆ・沙羅・舞~
闇夜の森を一台の車がライトも点けず走り続ける。
その車内にはホテルを発った7人が乗り込んでいた。
「廃坑の北口……確かに地図には無い秘密の入口だわ。そしてここから羽入の封印を解く『ある場所』へ行ける……」
「俺だって意外だった。まさか地図には記されてない場所からそんな所へ行けるとは。その写真のことを聞かなかったら反対側の南口に行っているところだったさ」
武が運転する車の助手席で引き伸ばされた写真――写っているのは、隠し入口であり参加者の地図には記されてない廃坑の北口を記した詳細図――を手にしながらつぶやくのは梨花である。
一方で運転席の武は、地図と写真を見比べながら進路方向の指示を出す梨花の言うままにハンドルを切っている。
あの後、ロビーに集結した7人はそれぞれが沙羅ときぬの手で武器が再分配されたディパックと何が入っているのかを記したメモを手にし、ホテルを出発した。
車の方も地下駐車場にあったもっとも大きいものを選んだため、ホテル到着時とはことなり全員が余裕を持って乗り込んでいる。
ちなみに、出発にあたって沙羅ときぬは車に少しだけ準備を施しておいた。
正面の窓ガラスを外し、万一の戦闘に備えてすぐ発砲できるようにした上、サンルーフ上に九七式自動砲を据え付けた(といってもロープで固定しただけだが)のだ。
その為、助手席の梨花は沙羅から渡されていたコルトパイソン――電波塔の戦闘後にめざとく見つけた沙羅が回収しておいた――をディパックから取り出して準備しており、
後部座席ではあゆが暗視ゴーグルを装備し、九七式自動砲のグリップを握りしめていつでも撃てる準備をしていた。
(妨害がないという事は、やはり沙羅の推理したとおり主催者側も混乱しているのか?どっちにしても今sの状況は好都合だ)
ここまで、自分達が妨害をまったく受けずにいることから武はアクセルをさらに踏み込む。
エンジンの回転音が大きくなりスピードが増していく。
(見つけた……)
だが、その動きを捉えているものがいた。
既にあちこちが返り血と己の血、そして泥土や草木の汁で汚れた隻眼の少女、川澄舞。
公園での戦いの後、博物館で休養を取った彼女は博物館で武器になるものを探し、更にその後廃坑を探索するべく森に入ったところだった。
未だに疲労が完全には抜け切らない中で、地図にある廃坑の入り口を目指していたとき此方へ向かってくる車の音を聞きその姿を認めたのだ。
(どこを目指すつもり……? 少なくとも廃坑の方じゃない)
もっとも、その車へ不用意に近づくような真似をする彼女ではない。
自分がどう対処するかは車がどこに向かうのか様子を伺ってからだ。
(北……?その方向に何がある?)
こっちに気づくことなく走り去った車はライトを点けてなかった為、具体的に誰が乗っているのかまでは分からなかったが、結構な人数が乗っていることまでは分かった。
あれだけの人数が固まって移動するということはそれだけのものがあるということだろう。
どうするか?
あの車を追うのか、それともこのまま廃坑を目指すか?
遠ざかっていく車を見送りながら舞の下した結論は後者だった。
(私は、あなた達とは違う道を行く……)
隠れていた茂みから立ち上がった舞はその足で地図上に記された廃坑の入口を目指し歩き出す。
一方、舞に発見されていたことも知らず目的地たる廃坑の北口近くに到着した七人は車を降り、
注意しなければ思わず素通りしそうな位置にあった入口から内部へ進入した。
各々が手に手にランタンや懐中電灯を持ち、警戒しつつ奥へ奥へと進む。
廃坑内は途中で複数の坑道に枝分かれしてしたが、この時は隠された入口の詳細図が写されたのと同じ
フィルム内にあった坑内の道筋を記した図面があったため目的の場所へたどり着くのにそう時間はかからなかった。
「ここね……」
「思いっきりそれらしいものもあるしね。あれ……」
沙羅が指差す方向に他の全員が注目する。
そこは、岩を削って作った祭壇のようなもので、その最上段は何かを置く為の台座状になっている。
「ああ、いかにもな感じだな。あそこへ『三種の神器』を置けばいいということか」
「ですね。その『三種の神器』というがアセリアさんの持っている『国崎最高ボタン』」
「俺の持つ『天使の人形』。そして……」
「この『オオアリクイのヌイグルミ』ってことさ」
「まるで子供向けのなぞなぞね。暗号の答えがこんなに単純なものだったなんて」
「でもさ、普通気が付かないものだろ?このぬいぐるみも人形もどう見たってハズレにしか見えないじゃん」
「あるいは、それが支給品にこれらのアイテムを加えた人間の意図かもしれない。あからさまに『脱出アイテムでござい』というモノじゃ主催者が排除してしまうから」
「……とりあえず、あの祭壇へこれらを置きましょう。羽入さんの封印を解く為にも」
ことのほか早く目的地にたどり着いた一同は封印解除を前にしてそれぞれの思った事を口に出していたが、
それは『国崎最高ボタン』をじーっと見つめながら今にもそれを押しはじめそうなアセリアの様子を見た瑞穂の一言で終わることとなる。
まず武が祭壇の台座左側に『天使の人形』を置き、次にあゆが台座右側へ『オオアリクイのヌイグルミ』を置く。
そして、瑞穂に促されたアセリアが名残惜しそうに『国崎最高ボタン』を台座の真ん中へと置いた。
誰もが――特に梨花は――これで羽入の封印が解けたと考え、あるいはこれからまだ何か起こるのではないかと期待する。
だが、何も起こる気配がない……。
「もしかして三種の神器を置いた時点で封印は解けたんじゃないのか?」と誰もがそう考え、その場を離れようとしたときアセリアが祭壇の方へ近づいた。
「アセリアさん、こんなときに……」
「ん、最後にもう一度だけ」
アセリアの様子を見て瑞穂は少々あきれ気味になるもののこれで最後ならと止めようとはしない。
そんな瑞穂達を置いて祭壇の台座前に来たアセリアは、国崎最高ボタンを「ぽちっ」と押した。
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