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「それぞれの「誓い」(前編)」(2007/12/19 (水) 22:24:54) の最新版変更点
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**それぞれの「誓い」(前編) ◆/Vb0OgMDJY
(さて、困ったもんだ)
電波塔に寄りかかり、辺りを見回しながら、人知れずに短く溜め息をつく。
(電波塔に寄りかかり、桜吹雪を眺めながら、タツタサンドを食らう……か)
とりあえず自分には詩文の才能は無いな、などとどうでもいいことを考えながら、
先ほどからの溜め息の一因である、直ぐ近くでキャンプ用の椅子とテーブルを広げて堂々と食事を行っている当面の相方に目をやった。
「ふうん、見慣れない物だけど、なかなかイケルじゃないか」
長い銀髪で、そこそこ背が高く、そして、何よりも目立つウサギのような……いや、事実ウサギそのものにしか見えない長い耳を生やしている男を。
ウサギのような、といっても、俗に言うバニーガール等のデフォルメされた飾りでは無い。 人の耳の位置から、実際に生えているのだ。
似たような動物に近い耳の生えた参加者達と同じ世界からやって来た、立場的には「客人」。
名は、「ハウエンクア」
見たところ、そこそこ身に覚えはありそうだが、それでも客として扱うほどの相手には見えない。
彼がそのままで戦うのなら、だが。
「ん? 何だいカブラギ、君も食べたいのかい?」
と、そこでこちらの視線に気付いたのか、ハウエンクアが声を掛けてきた。
「いや、遠慮しておく」
(暢気だな、オイ)
なんて本音はおくびにも出さずに答え視線を外し、タツタサンドをまた一口齧った。
というか渡された食料がタツタサンドなのは嫌がらせだろうか……
「そうかい、まあ、ボクも珍しいから食べてるんであって、そこまで美味しいとは思っていないんだけどね」
聞きもしないのに答えてきた。
「まあ、折角だから少しくらい食べておこうかなと思ってね」
と、言いながら湯に入れて暖めておいた、先ほどとは別のルウの缶を開けて、茹でてあったパスタの上にかける
(お前は昨日到着してからずっとそればかり食べてるだろ……)
というか、コンビニやら缶詰やらのスパゲッティ程度でそこまで喜ぶなら、いつか本格的に釜茹でのスパゲッティを作って食わせてやろうか……
などとどうでもいい考えすら浮かんでくる。
まあ待て、落ち着け。
今はそんな事はどうでもいい、と思い直し、思考を元に戻す。
そうして、数歩前に進みながら顔だけ振り向いて、自分が守るべき対象を視界に入れた。
最重要施設である『電波塔』
暗示の護りを解かれたこの施設の防衛が、現在の自分の……いや、自分達の急務である。
その為に、あのよく分からないが強大な『力』によってこの場所へとやってきたのだが……。
(人員が、足りん)
辺りを見渡しながら、一人愚痴た。
この場所にいるのは、自分とハウエンクアの僅か2名のみ。
その他、自分が指揮する山狗部隊の人員は、全て地下に残ったままだ。
(これで電波塔を守れとは、無茶な事を言ってくれるな…)
確かに、戦力を単純に数値化して見るならば、十分すぎるほどの『戦力』が派遣されてはいる。
今居る電波塔の少し前に見える、小山のように蹲る物体を眺めながら思う。
アレは、反則だろうと。
自分もそれなりに、普通ではあり得ない物を見てきたと思ってはいる、というか自分自身の体も普通にはあり得ない物だ、がそれにしてもアレは際立っている。
全長五メートル程の、巨大な身の丈。
材質不明の砲弾すら防ぐ強固な鎧と、それを自由に動かすこれまた材質不明の肉のような稼動部。
全身を鎧で固めた巨人『アヴ・カムゥ』
現存するどのような兵器すらも凌ぐ機動性と汎用性を併せ持つ、悪魔のような機体。
というか人型の兵器というもの自体、フィクションでしか見た覚えがないのだが……
兎に角そんな『化け物』という呼称が相応しい代物だ。
確かに、コレならばこの島にいるちっぽけな参加者達など、皆殺しにしてもお釣りが来るどころの話では無い。
(コチラが狩る側なら、だがな)
だが、それを踏まえた上で、桑古木は難題と判断した。
事は防衛戦である。
如何にアヴ・カムゥが強力だろうと、電波塔を破壊されてしまってはコチラの負けなのだ。
そして重要施設なだけあって、電波塔はそれなりにデリケートな作りだ。
まあ外から拳銃の弾程度で破壊されはしないが、車で突っ込まれでもしたらそれなりに被害が出る。
さらに言うまでも無く、物は直すよりも壊す方が容易い。
が、今回はそんなレベルの話では無い。
何しろ、「壊れたら直せない」のだから。
無論、機械に詳しいスタッフ自体は、優をはじめ何人かいるのだが、自分達主催側の本拠地は、水中にあるLemuである。
この場所は出入り口である廃鉱に近いとはいえ、地上に出る為に減圧処置が必要なLemuから、スタッフを派遣するだけで、最低二時間は掛かる。
しかも必要な部品、資材等は、スタッフが故障箇所を調べてから、改めてLemuに要請しなければならない。
この、最低限の移動時間だけで四時間。
故障箇所の調査と修理の時間を含めると、……考えるのも馬鹿らしい。
が、これはあくまで直せるなら、の話である。
機械関係の総責任者であった鈴凛の裏切りは、致命的だった。
首輪に用いている装置は彼女のオリジナルであり、そこは他の人員ではどうにもならない。
だが、「それだけなら」そこまでは致命的では無い。
問題は、『彼女がどこまで裏切っていたのかがわからない』という点だ。
万が一、
万が一だ。
彼女が電波塔の資料そのものに手を加えていたとしたら、もうお手上げだ。
直したと思ったらドッカン、という事すらあり得る。
(まあ、そこまでした可能性は低いと思うんだが……それでもゼロじゃないな)
つまり、壊されてしまったら、そこまでなのだ。
さて、それを踏まえた上で、状況を見直してみよう。
戦場において、まず行うべきなのは相手を捕捉することだ。
平時なら、首輪の発信機と監視衛星によって簡単に行えるそれも、今の状況下では肉眼で行うしか無い。
そして、ここ電波塔は山頂に近い位置にあり、東西におおよそ150メートル、南北におよそ100メートルほどの楕円形に森が途切れている。
その楕円の西よりに山頂があり、円の中心から少し南東の位置に塔は立っている
施設そのものは巨大で、要するに島の何処からでも見る事が可能だ。
ついでに、その前には堂々と謎のデカブツが鎮座している。
敵からすれば、こちらの動向は丸見えだ。
それに対して、敵は何処から来るのかすら判らない。
電波塔の周囲から外側は、それほど深くは無いとはいえ、森に覆われている。
よほど運が良くなければ、たった四人の少女なんぞ捕捉出来る筈も無い。
最も単純に考えれば北の方から来る筈なのだが、あのデカブツを見て迂回するぐらいは考えるだろう。
そう考えると、いつ来るかすら不明だ。
さらに移動方法によっても到達時刻は変化する。
最もあり得る選択肢、車を調達した場合、
この森は車で通れはしないので、来るなら西と東に二つある林道のどちらかだ。
当然、そこは待ち伏せしやすい。
なら、近くまで車で来て車から降りて来るのが普通ではあるのだが……。
その、最も単純かつありそうな選択肢ですら、数十分程度の誤差が存在する。
この他にあり得そうな選択肢上げていくと、到着予想なんぞ最短の2時から、
監視設備の最も早い回復予定の6時くらいまでの4時間の何時かとしか立てられない。
(馬鹿らしくなって来るな)
中断していた双眼鏡による監視を再会しながら考える。
しないよりはマシだから。
…ちなみにハウエンクアはまだ食事中だ。
奴の頭には戦闘中という単語が存在するのかすら疑問に思えてきた。
まああんなものに乗っていては、戦闘なんて一方的な虐殺にしかならないから仕方が無いのかもしれないが、
正直、あの真面目そうな方の…確かヒエン…とまではいかなくても、山狗一個小隊の方がはるかに有り難い。
が、そうもいかない事情があった。
元々、山狗とは『東京』という組織から鷹野の指揮下に入るように言われているだけで、鷹野に忠誠を誓っているわけでは無い。
まあ、軍人である以上、命令には従うのだが、それでも鷹野のように楽しんでいる人間などごく少数、いや皆無かもしれない。
加えて山狗の中でも戦闘に秀でた連中は、前隊長である小批木の私兵じみたところがあった。
その小批木の死によって、数人が命令に従うことを拒否、このゲーム開始前に離脱している。
つまり、基本的に余分な人員は少ないのだ。
更に、その少ない人員から裏切り者――富竹と鈴凛の監視の人員を割き、
その他にも裏切り者がいないか洗い出す作業にもかなりの人手を回している。
そういうわけで、島のシステムが聖上なら兎も角、今の非常時には絶対的に人手不足なのだ。
そして、もう一つ根本的な問題がある。
そもそも、この島に居る連中の士気は、高いとは言えない。
まあ、突然変な島に連れて来られて、子供達の殺し合いを監視しろと言われてマトモな人間の士気が高いはずもないのだが。
加えて、見知らぬ人間が隊長に就任して、よく分からない人員も増えたと。
これでやる気を出せという方が無理だろう。
そんなわけで、山狗を派遣すると言う選択肢は無い。
「やれやれ、心配性だな、君は」
漸く食事を終えたハウエンクアが、僅かに小馬鹿にしたような声を掛けてきた。
どうやら、俺の行動が余り御気に召さないらしい。
(お前が能天気すぎるんだろうが……)
声には出さずに毒吐く。
そんな俺の感情になど当然気付かずに、続ける。
「このボクがここに居るんだ、何人来ようが皆殺しにしてあげるよ」
(だから、皆殺しにしても無意味なんだよ)
極端な話、一人も殺す必要は無い。
別に人道がどうとかの寝言ではなく、電波塔の破壊を諦めてくれればそれでいいのだ。
まあ、万に一つ程度の可能性だが…。
◇
(全く、何をそこまで警戒しなきゃならないんだろうね?
このボクが居る限り、虫ケラが何人来ようが意味なんて無いのに)
そう、この『アヴ・カムゥ』がある限り、地を這う虫が何匹寄ってこようと、全て踏み潰すだけなんだから。
(まあ、四人程度しかいないのが凄く残念だけどね)
気は進まないが、これも仕事だ。
本当なら、見える位置まで来てから乗り込みたいと思いながら、アヴ・カムゥの背中によじ登る。
アヴ・カムゥの使用は、以外と疲れるのだ。
だから余り長い時間乗り続けるのは御免蒙りたいのだけどね。
(全く、役に立たない連中だよ)
本部に居る連中は、無能揃いだね。
あんな小娘にいいようにやられて、それでボクの手を煩わせるんだから。
本当なら、あいつらが虫どもの位置を特定して、それからがボクの出番の筈なのに……
無能共のせいで余計な手間が掛かってしまう。
ついでに言えば、このカブラギが一緒に居るのも不満だ。
ボクの他に戦力なんて必要無いだろうに。
(まあ、カブラギ本人はそんなに嫌いじゃないが)
それにしたって、不満は募る。
まあ、監視してくれているっていうんだから、文句は言わないけどね。
「さて、これでもう何の心配も無いね」
アヴ・カムゥに搭乗して、カブラギに声を掛けてやった。
「まあ、一安心ではあるな」
うんうん、『一』安心ってのが多少気に食わないけど、まあ素直なのは良いことだよ。
もう、これでなんの心配も無いんだから。
「そうそう、大船に乗ったつもりでいなよ。
ボクが全部片付けてあげるから」
カブラギの方に、視線を向けて、言ってやった。
(でも、アレは何のつもりなんだ?)
ただそこでカブラギを見ていたら、再び不満が募って来た。
「それに君も出掛けに鷹野から何か貰っていたじゃあないか」
「ん、ああ」
…カブラギに対してじゃない、鷹野に対してだ。
カブラギが腰に差している赤黒い剣。
出掛けに、鷹野がカブラギに渡したものだ。
何で、そんな物を渡す必要がある?
ボク一人で十分に皆殺しに出来るのに。
◇
「それに君も出掛けに鷹野から何か貰っていたじゃあないか」
「ん、ああ」
適当に聞き流していたが、少し意味のある言葉が聞こえたので、監視を一時中断することにした。
そして、右手を腰に、左手を懐にやって、
「こいつのことか」
出掛けに渡された物を手に取った。
赤黒い剣と、青い宝石、
鷹野曰く強力な兵器らしいのだが……
「正直、こんな胡散臭い代物を使う気はしないんだがな……」
いきなり渡されても、使い道に困る。
まあ、剣の方はそれなりに役に立つだろうが…
「おや、勿体無いんじゃないのかい?」
全然
「よく分からない物よりは使い慣れた物の方が信頼できるからな」
「ふうん、まあ真理だね」
それで、興味を失ったのか、ハウエンクアは再び別の方向を向いた。
「………………」
再びしまいながら、考える。
『永遠神剣』
確かに、映像で見た限り、この剣の性能はかなりのものだ。
加えて、この宝石『マナ結晶』があれば、俺にも使用可能になるそうなのだが……
(余り有り難いとは思えん)
このマナ結晶とは固形燃料の類と考えればわかり易い。
燃料である以上は、当然消費されていくものだ。
で、使用出来る回数に限りがある以上試しづらい、ので性能が把握出来ない。
さらに、性能が把握出来たとしても、明確な消費がわからない代物など危なすぎる。
(ガソリンの残量が不明なバイクを渡された気分だ…
いや、ある程度は見れば性能が解るバイクの方がマシか)
考えれば考える程気が進まない。
そして、この他にも最も気に入らない点がある。
「『誓い』…とはな…」
何となく声に出した。
皮肉な名前だ。
恐らく、今の俺には最も相応しく無い言葉だ。
そして、最も相応しい言葉でもある。
かつて、共に助かると『誓った』仲間は、一人は死に、一人は今もこの島で戦っている。
その事は無論俺の心を乱す。
が、ソレらを強引に断ち切る。
俺は、その仲間を捨てて、ココだけを護ると『誓った』のだから。
だから、今の俺には相応しく、そして相応しくない。
(感傷…だな)
戦場でモノを考えるのは愚かな事だが、今はソレを自分に許した。
かつての『誓い』と今の『誓い』、俺は今の『誓い』を選んだ。
だが、恐らくあの男は、倉成武は、両方を選ぶと言うのだろう、
そう、確信している。
だから、思う。
今の俺を見て、武は何と言うのだろうか。
俺の事を、何と呼ぶのだろうか。
無意味な考えだ。
答えなど出はしないのだから…
(いや)
だから…考えた。
意味の無い事を。
…意味のある答えが見つかることを願って。
それ自体が無意味と知りながら
◇
(……せ…)
ん?
「ミズホ? 何か言ったか?」
「え? いえ、何も言ってませんよ」
前の座席―ジョシュセキというらしい―に座っているミズホが、わたしの方を向きながら答えてくれた。
「ん…そう…か?」
おかしいな
今、確かに誰かの声が聞こえた気がしたんだけど…
走っているクルマの中に居るのだから、ミズホにも聞こえる筈。
「別に羽入が近くにいる訳でも無いわね」
私の戸惑いを見て取ったのか、横に座っていたリカがそう言った。
ハニュー…
リカだけにしか見えない相手らしいけど、それが近くにいる訳でもないらしい。
「ん……」
空耳かな?
「もしかしたら、車酔いかもしれませんね」
ミズホが心配そうな声で言った。
クルマヨイ?
何だろう?
聞き返そうと思ったその時、甲高い音が鳴った。
それと同時に、体が前に流される。
「痛い」
前の椅子に体をぶつけてしまった。
見ると、隣のリカも同じような姿勢になっている。
「いたた……どうかしたんですか?」
前に居るミズホが、運転しているコトミに声を掛けた。
「何……なの?」
返事の変わりに、戸惑いが帰ってきた。
それはわたしが聞きたい。
そう思って体を起こして、
異変に気付いた。
「……?」
クルマの周りに、ピンク色の花が舞っていた。
◇
「……何、だっていうの……これは?」
車から降りて、辺りを見回す。
他の皆も、既に車を降りている。
「桜……でも、こんなに沢山、どこから?」
「おかしいの、桜の木自体は何箇所かで見かけたけど、どれも葉桜だったの」
「ん……綺麗」
あたり一面に舞い散る花びら、桜吹雪。
その美しい風景は、だからこそ不気味な印象を感じる。
だけど、不気味でありながらも、それを上回る美しさと儚さと、そして、神聖さすら感じる光景。
思わず、魅入ってしまいそうだ。
ああ、そもそも、――私が最後に桜を見たのは何時のことだったのかしら。
そんな…どうでもいい感傷すら湧き上がってきた。
瑞穂も、ことみも、呆然と見守っている。
アセリアは、なにやら興味深々といった感じで、キョロキョロと辺りを見回していたが……
「サクラ?」
「あ、ええ、これは桜と言う花が散って、花びらが風に舞っているのです……でも」
「その、肝心の桜の木が何処にも見あたらないの」
瑞穂の説明を、ことみが引き継いだ。
そうなのだ、コレだけ沢山の桜が舞っていながら、何処にも咲いている桜の木が見あたら無い。
どう考えても、異常な状態なのだ。
「ん……」
納得したのかしてないのかわからないが、アセリアは宙に舞う桜の花びらを眺めていたが、少ししてその一枚を掴み取って、それをじ~~~と眺めて、
やがて、掴んでいたそれを……口に入れた。
あ
「あ! アセリアさん! 駄目です!!」
「ん……平気……」
「平気じゃありません! ぺっしなさいぺっ!」
「ん……んぺっ」
何処の親子だこいつら……。
「アセリアさん! 何でもかんでも口に入れてはいけません、って親御さんに言われませんでしたか!?」
「ん…………違うんだミズホ」
「違いません! お腹を壊したらどうするんですか!」
「いや……そうじゃなくて」
「この……サクラ?からは、少しだけどマナみたいな力を感じるんだ」
「は……?」
マナ?
お菓子が……何?
「この、……花びらからですか?」
「ん」
「それは……興味深いの」
どうやら、私以外には通じているらしい。
……微妙に疎外感を感じるわね……
「ちょっと待って。 その『マナ』って何?」
「あ、そういえば説明していなかったの」
私の疑問に対してなされたことみの説明によると、アセリア達の世界に存在する力の事らしい。
なんでも生命の源みたいなもので、あの神剣という武器を使用するのに必要な力だとか。
フィクションでいうところの『魔力』と近しい代物かもしれない、とか。
実際に、千影という参加者が、その魔力で神剣を使っていたそうだ。
…まあ、私自身(というか羽入)がかなり非常識な存在なのは判ってるけど…
それにしたって…もう少し普通な人が多くてもいいんじゃないの?
◇
「ちょっと待つの、アセリアさん、この桜の花以外の植物からは、マナを感じないの?」
「ん……少し待ってくれ」
そういうとアセリアさんは、トテトテと近くに植えてある街路樹……イチョウの葉を一枚取って、またそれを口にした。
「……他に調べる方法は無いのですか?」
「ん……これが一番判る……ような気がする」
「確信が無いならやめなさい!」
「ん」
そうして、また“んぺっ”と吐き出した。
その吐き出した唾液が、少しして金色の光になって消えていく。
そうして残るのは少し噛み跡の付いたイチョウの葉のみ。
(もしかして、体外に排出された物質は、みんな消えてしまうの?
だとしたら、何てうらやまs……ゲフンゲフン、何て不思議な生態なの)
「特に感じない」
「そう、という事は」
「この花びらは、何か魔術的な物と見て間違い無いの」
アセリアさんの言葉から判断すると、そうなる。
でも、
「でも、これは妨害なんでしょうか?」
瑞穂さんが、私の気持ちを代弁してくれた。
そう、目的が見えないの。
「特に、敵意は感じない……ん、強いて言うなら……悲しいとかそんな感情を感じた気がする」
「悲しみ……ですか?」
「ん、でも微弱すぎて、詳しくは判らない」
悲しみ?
鷹野が悲しんでいる……ないの。
「鷹野の仕業ではないと?」
「断言は出来ない。 でも、多分違う気がする」
舞い散る桜は、止む気配を見せない。
けど、何一つ理解も出来ない。
私たちはしばらく、その場に居た。
◇
とりあえず、害は無さそうという事で、わたしたちは再び移動することになった。
でも、その前に…
「ところで、ミズホ、親御さんってなんだ?」
さっき気になった言葉について尋ねてみた。
「は?」
ミズホは何だか呆然としている。
コトミとリカも、同じような顔だ。
……もしかして、また何か変な事を言ってしまったのだろうか……
「えーと、両親の事ですよ。
お父さん、お母さんとか」
?
……あ、
「そうか、人間は、オヤから生まれるんだったな」
そう言えばエスペリアに聞いた事がある。
わたしたちと違って、母親のお腹から生まれるとか。
「……待って下さい。
アセリアさんは……違うんですか?」
ん、
ああ、
「ん…わたしたちスピリットは神剣と共に生まれる。再生の剣から生まれて、戦って、そしていつかはマナの霧となり、再生の剣に還る。
それが、わたしたちだ」
何だか驚いたような顔をしている。
何でだろう?
「いつ、どこで生まれたのかは覚えていない、わたしはラキオスの森の中にいたらしい」
「ちょ、ちょと待つの」
コトミが、慌てたような声を出した。
「えっと、その……神剣と共に生まれる?」
「ああ、わたしたちは、生まれたときから死ぬまで、神剣と共にある。
神剣と一緒に、戦う」
「戦う……」
何だか、また呆然としている。
「うん、戦うのはスピリットの定め。
それが、スピリットの生きる理由」
そう、教えられた。
少しの間、言葉が途切れた。
何か喋ろうと思って、そこで、
「アセリアさんは…それでいいのですか?」
ミズホが問いかけて来た。
ん…
それを疑った事は、無かった…少し前までは。
「そう、思ってた。
でもユートは、戦う以外の目的を見つけろと言った。
その時はよく判らなかったけど、この島に来て、何となく判って来た気がする」
まだ、上手くは言えないけど。
◇
この島で、最も長い間共にいたというのに、僕はアセリアさんの事を何も知らなかった。
いや、知ろうとしていなかった。
その幼い言動、無垢な眼差し、疑いを知らぬ心。
戦うことに躊躇いを持たず、死ぬことにすら恐れを抱かない。
そんな人間が、存在するとしたら、それはどのように育ったのだろう。
「アセリアさんは…それでいいのですか?」
聞いてしまった後に、失言だと気付いた。
良いも悪いも、無い。
「そう、思ってた」
それが当たり前だったのだから。
アセリアさんの返事がそう告げていた。
「でも」
え?
「ユートは、戦う以外の目的を見つけろと言った。
その時はよく判らなかったけど、この島に来て、何となく判って来た気がする」
その瞳は、戸惑いと、そして嬉しさのような色を放っていた。
ああ、そうか。
高嶺さんも、同じ事を思ったんだな。
この少女に、自分の幸せを考えて欲しいと
そう、思ったんだ。
「アセリアさん…」
「ん……?」
「何か、やりたいと思う事はありますか?」
「え?」
「高嶺さんが言ったように、戦う以外に、やってみたい事は、ありますか?」
「ん……?」
思わず、聞いていた。
何か、願いがあるなら……
それを、かなえてあげたいと思った。
願いがある事を、……望んだ。
「そうだな、わたしは…ハイペリアに行ってみたい」
やがて、帰ってくる答え。
「ハイペリア?」
「ん、ユートや、ミズホ達の世界。
星の向こうにあるらしい」
僕の問いに、アセリアさんの答え。
「人は、死ぬとハイペリアに行くのだと聞いた。
わたしはスピリット、人間じゃない、でも一度、ハイペリアをこの目で見てみたい」
「海の彼方……星の世界……龍の爪痕の彼方……
わたしは……ハイペリアに行ってみたい」
純粋な、ただ憧れだけを秘めた瞳を見て。
僕は、思わずアセリアさんを強く抱きしめていた。
「ん……どうした? ミズホ?」
少し戸惑ったようにアセリアさんが問いかけて来た。
でも、構わずに抱きしめ続けた。
そして、少しして、
「行きましょうね……アセリアさん」
「ん?」
「終わったら、何もかも終わって、この島から帰ったら、必ず、行きましょうね……ハイペリアに」
「…………うん!」
アセリアさんは笑顔だった。
僕も、笑顔で答える。
僅かに感じた哀れみに似た感情を、見せないように。
◇
「ん、そろそろ行こう」
「ええ、そうですね」
アセリアさんの声に答えて、車の方に向かう。
と、そこでことみさんが何だか複雑な目で僕の事を見ていた。
見ると、梨花さんも同じような……こちらは少し戸惑いといった感じだが……視線を向けていた。
「…………」
「…………」
沈黙
なんだろう、この微妙な空気は?
なんだか痛い。
なので、耐え切れずに声を出そうとした時、
「瑞穂さん……まさかとは思っていたけど……まさか、よ、よ……幼女趣味だった、の」
「みーー、寄るな変態。 なのですよ」
は?
え?
そ、それは、そ
「レズで幼女狙いだなんて、とんだ変態女郎なのです。 とりあえずボクの周囲半径5メートル以内には近づくななのです」
「レ……? ああ、そういえばそうだったの、梨花ちゃん、瑞穂さんは実は……」
「ま、待って下さい!! ことみさん!」
いくらなんでもそれは不味い。
レズの幼女好きと、女装趣味の幼女好きでは変態度が………………どっちにしろ変態です本当にありがとうございました。
我ながら……泣きたくなって来る。
行くも地獄、進むも地獄。
ああ、ここが終着点か、思ったよりも近かったな。
「ん…違う」
え?
ア、アセリアさん、今度も僕を助け……
「わたしは、幼くない」
てはくれなかった。
違うんですアセリアさん。
この場合、自己申告に意味は無いんです。
ああ、そして、この僕の思考自体が一番間違っている…
「どっちにしろ、ガチだったのは確かなのです。 つまりここに居る全員が危険ということは変わらないのですよ」
「まあ、そういう事なの」
アセリアさんの主張に、一定の譲歩を見せたけど、二人の態度は変わらなかった。
そうして、僕は空気に耐え切れずに、地面に突っ伏してしまった。
違うんです……ただ純粋に、アセリアさんの事が大切に思えた、それだけなんです。
断じて、邪な気持ちは、無いのです……………
◇
「まあ、冗談は此処までにしましょう」
「うん、そうするの」
動かなかった瑞穂が、私たちの会話に僅かに反応した。
「じょ……冗談、だったんですか?」
瑞穂が、縋る様な目を私たちに向けてきた。
なので、思いっきりの笑顔で、
「寄るな変態」
「………………」
叩きつけてあげた。
少し上を向いていた顔が、思いっきり沈んだ。
……うん、面白い。
思わず、かわいそかわいそと撫でたくなる位だ……やらないけど。
隣でことみが苦笑していたが、ややあって、
「瑞穂さん、ずるいの」
ことみが笑顔で言った。
「…………ずるい……ですか?」
「ええ、とっても、ずるいわね」
瑞穂の反応に、私もことみと同じ事を告げた。
瑞穂は、半泣きのままハテナ顔だ……器用ね
まあ、とにかく確実に解っていない瑞穂に、
「うん、ずるいの。 私も、私だって、アセリアさんと一緒にハイペリアに行ってみたいの」
「勿論、私もよ。 一人だけ抜け駆けなんて、ずるいわよ。
行くのなら『皆』で行きましょう」
ことみと私の、同じ想いを告げた。
◇
何だろう?
とても、暖かさを感じる。
理由は、判ってる。
皆のおかげだ。
でも、何でだか判らない…
だから、
「ありがとう、皆」
お礼を、言った。
「あ、いえ、お礼を言われるような事では無いと思うの……」
「みー、ボク達は、思ったことを言ったのです」
ううん、
「そのことじゃあ、無いんだ」
これは、そう思えたそのものに対する感謝。
「ミズホも、コトミも、リカも、
アルルゥも、エスペリアも、アカネも、
チカゲも、サラも、……ユートも」
この思いは、そう、
「皆が、私に色々なものをくれた。 それはきっと……
とても大切なもの…」
だから
「皆と出会えて…うん」
「…わたしは幸せ!」
精一杯の、感謝を伝えた。
「「「…………」」」
…………あれ?
もしかして、また何か変な事を言ってしまったのだろうか……
「あ…その、皆に会えた事に、感謝しているんだ…
別に、この戦いがどうとかそんなのじゃ……」
慌てて…とりあえず変なような気がする所を弁解してみる。
「「「クスッ」」」
え?
「違いますよ…アセリアさん」
「うん、少し驚いたの……嬉しくて」
「みー、少し敗北感を覚えた気がするのです」
?
「ええ、私も、…いえ、私たちも、アセリアさんと…
皆と出会えて、幸せです」
「辛い事や、悲しい事は、沢山あったの。
でも、幸せと思える事も、間違いなくあるの」
「アセリアだけじゃ無いわよ。
私たちも、確かに幸せだと思ってる」
…
「皆……うん!!」
そうか…私だけじゃないのか…
私が幸せと思うことが、皆も幸せと思える。
それは、凄く…嬉しいと思う。
そう、この気持ちも、皆に貰った。
だから、皆は、私が……守る!
|203:[[命を懸けて(後編)]]|投下順に読む|204:[[それぞれの「誓い」(後編)]]|
||時系列順に読む|204:[[それぞれの「誓い」(後編)]]|
|200:[[ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(後編)]]|宮小路瑞穂|204:[[それぞれの「誓い」(後編)]]|
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|202:[[私たちに翼はない(Ⅳ)]]|ハウエンクア|204:[[それぞれの「誓い」(後編)]]|
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**それぞれの「誓い」(前編) ◆/Vb0OgMDJY
(さて、困ったもんだ)
電波塔に寄りかかり、辺りを見回しながら、人知れずに短く溜め息をつく。
(電波塔に寄りかかり、桜吹雪を眺めながら、タツタサンドを食らう……か)
とりあえず自分には詩文の才能は無いな、などとどうでもいいことを考えながら、
先ほどからの溜め息の一因である、直ぐ近くでキャンプ用の椅子とテーブルを広げて堂々と食事を行っている当面の相方に目をやった。
「ふうん、見慣れない物だけど、なかなかイケルじゃないか」
長い銀髪で、そこそこ背が高く、そして、何よりも目立つウサギのような……いや、事実ウサギそのものにしか見えない長い耳を生やしている男を。
ウサギのような、といっても、俗に言うバニーガール等のデフォルメされた飾りでは無い。 人の耳の位置から、実際に生えているのだ。
似たような動物に近い耳の生えた参加者達と同じ世界からやって来た、立場的には「客人」。
名は、「ハウエンクア」
見たところ、そこそこ身に覚えはありそうだが、それでも客として扱うほどの相手には見えない。
彼がそのままで戦うのなら、だが。
「ん? 何だいカブラギ、君も食べたいのかい?」
と、そこでこちらの視線に気付いたのか、ハウエンクアが声を掛けてきた。
「いや、遠慮しておく」
(暢気だな、オイ)
なんて本音はおくびにも出さずに答え視線を外し、タツタサンドをまた一口齧った。
というか渡された食料がタツタサンドなのは嫌がらせだろうか……
「そうかい、まあ、ボクも珍しいから食べてるんであって、そこまで美味しいとは思っていないんだけどね」
聞きもしないのに答えてきた。
「まあ、折角だから少しくらい食べておこうかなと思ってね」
と、言いながら湯に入れて暖めておいた、先ほどとは別のルウの缶を開けて、茹でてあったパスタの上にかける
(お前は昨日到着してからずっとそればかり食べてるだろ……)
というか、コンビニやら缶詰やらのスパゲッティ程度でそこまで喜ぶなら、いつか本格的に釜茹でのスパゲッティを作って食わせてやろうか……
などとどうでもいい考えすら浮かんでくる。
まあ待て、落ち着け。
今はそんな事はどうでもいい、と思い直し、思考を元に戻す。
そうして、数歩前に進みながら顔だけ振り向いて、自分が守るべき対象を視界に入れた。
最重要施設である『電波塔』
暗示の護りを解かれたこの施設の防衛が、現在の自分の……いや、自分達の急務である。
その為に、あのよく分からないが強大な『力』によってこの場所へとやってきたのだが……。
(人員が、足りん)
辺りを見渡しながら、一人愚痴た。
この場所にいるのは、自分とハウエンクアの僅か2名のみ。
その他、自分が指揮する山狗部隊の人員は、全て地下に残ったままだ。
(これで電波塔を守れとは、無茶な事を言ってくれるな…)
確かに、戦力を単純に数値化して見るならば、十分すぎるほどの『戦力』が派遣されてはいる。
今居る電波塔の少し前に見える、小山のように蹲る物体を眺めながら思う。
アレは、反則だろうと。
自分もそれなりに、普通ではあり得ない物を見てきたと思ってはいる、というか自分自身の体も普通にはあり得ない物だ、がそれにしてもアレは際立っている。
全長五メートル程の、巨大な身の丈。
材質不明の砲弾すら防ぐ強固な鎧と、それを自由に動かすこれまた材質不明の肉のような稼動部。
全身を鎧で固めた巨人『アヴ・カムゥ』
現存するどのような兵器すらも凌ぐ機動性と汎用性を併せ持つ、悪魔のような機体。
というか人型の兵器というもの自体、フィクションでしか見た覚えがないのだが……
兎に角そんな『化け物』という呼称が相応しい代物だ。
確かに、コレならばこの島にいるちっぽけな参加者達など、皆殺しにしてもお釣りが来るどころの話では無い。
(コチラが狩る側なら、だがな)
だが、それを踏まえた上で、桑古木は難題と判断した。
事は防衛戦である。
如何にアヴ・カムゥが強力だろうと、電波塔を破壊されてしまってはコチラの負けなのだ。
そして重要施設なだけあって、電波塔はそれなりにデリケートな作りだ。
まあ外から拳銃の弾程度で破壊されはしないが、車で突っ込まれでもしたらそれなりに被害が出る。
さらに言うまでも無く、物は直すよりも壊す方が容易い。
が、今回はそんなレベルの話では無い。
何しろ、「壊れたら直せない」のだから。
無論、機械に詳しいスタッフ自体は、優をはじめ何人かいるのだが、自分達主催側の本拠地は、水中にあるLemuである。
この場所は出入り口である廃鉱に近いとはいえ、地上に出る為に減圧処置が必要なLemuから、スタッフを派遣するだけで、最低二時間は掛かる。
しかも必要な部品、資材等は、スタッフが故障箇所を調べてから、改めてLemuに要請しなければならない。
この、最低限の移動時間だけで四時間。
故障箇所の調査と修理の時間を含めると、……考えるのも馬鹿らしい。
が、これはあくまで直せるなら、の話である。
機械関係の総責任者であった鈴凛の裏切りは、致命的だった。
首輪に用いている装置は彼女のオリジナルであり、そこは他の人員ではどうにもならない。
だが、「それだけなら」そこまでは致命的では無い。
問題は、『彼女がどこまで裏切っていたのかがわからない』という点だ。
万が一、
万が一だ。
彼女が電波塔の資料そのものに手を加えていたとしたら、もうお手上げだ。
直したと思ったらドッカン、という事すらあり得る。
(まあ、そこまでした可能性は低いと思うんだが……それでもゼロじゃないな)
つまり、壊されてしまったら、そこまでなのだ。
さて、それを踏まえた上で、状況を見直してみよう。
戦場において、まず行うべきなのは相手を捕捉することだ。
平時なら、首輪の発信機と監視衛星によって簡単に行えるそれも、今の状況下では肉眼で行うしか無い。
そして、ここ電波塔は山頂に近い位置にあり、東西におおよそ150メートル、南北におよそ100メートルほどの楕円形に森が途切れている。
その楕円の西よりに山頂があり、円の中心から少し南東の位置に塔は立っている
施設そのものは巨大で、要するに島の何処からでも見る事が可能だ。
ついでに、その前には堂々と謎のデカブツが鎮座している。
敵からすれば、こちらの動向は丸見えだ。
それに対して、敵は何処から来るのかすら判らない。
電波塔の周囲から外側は、それほど深くは無いとはいえ、森に覆われている。
よほど運が良くなければ、たった四人の少女なんぞ捕捉出来る筈も無い。
最も単純に考えれば北の方から来る筈なのだが、あのデカブツを見て迂回するぐらいは考えるだろう。
そう考えると、いつ来るかすら不明だ。
さらに移動方法によっても到達時刻は変化する。
最もあり得る選択肢、車を調達した場合、
この森は車で通れはしないので、来るなら西と東に二つある林道のどちらかだ。
当然、そこは待ち伏せしやすい。
なら、近くまで車で来て車から降りて来るのが普通ではあるのだが……。
その、最も単純かつありそうな選択肢ですら、数十分程度の誤差が存在する。
この他にあり得そうな選択肢上げていくと、到着予想なんぞ最短の2時から、
監視設備の最も早い回復予定の6時くらいまでの4時間の何時かとしか立てられない。
(馬鹿らしくなって来るな)
中断していた双眼鏡による監視を再会しながら考える。
しないよりはマシだから。
…ちなみにハウエンクアはまだ食事中だ。
奴の頭には戦闘中という単語が存在するのかすら疑問に思えてきた。
まああんなものに乗っていては、戦闘なんて一方的な虐殺にしかならないから仕方が無いのかもしれないが、
正直、あの真面目そうな方の…確かヒエン…とまではいかなくても、山狗一個小隊の方がはるかに有り難い。
が、そうもいかない事情があった。
元々、山狗とは『東京』という組織から鷹野の指揮下に入るように言われているだけで、鷹野に忠誠を誓っているわけでは無い。
まあ、軍人である以上、命令には従うのだが、それでも鷹野のように楽しんでいる人間などごく少数、いや皆無かもしれない。
加えて山狗の中でも戦闘に秀でた連中は、前隊長である小批木の私兵じみたところがあった。
その小批木の死によって、数人が命令に従うことを拒否、このゲーム開始前に離脱している。
つまり、基本的に余分な人員は少ないのだ。
更に、その少ない人員から裏切り者――富竹と鈴凛の監視の人員を割き、
その他にも裏切り者がいないか洗い出す作業にもかなりの人手を回している。
そういうわけで、島のシステムが正常なら兎も角、今の非常時には絶対的に人手不足なのだ。
そして、もう一つ根本的な問題がある。
そもそも、この島に居る連中の士気は、高いとは言えない。
まあ、突然変な島に連れて来られて、子供達の殺し合いを監視しろと言われてマトモな人間の士気が高いはずもないのだが。
加えて、見知らぬ人間が隊長に就任して、よく分からない人員も増えたと。
これでやる気を出せという方が無理だろう。
そんなわけで、山狗を派遣すると言う選択肢は無い。
「やれやれ、心配性だな、君は」
漸く食事を終えたハウエンクアが、僅かに小馬鹿にしたような声を掛けてきた。
どうやら、俺の行動が余り御気に召さないらしい。
(お前が能天気すぎるんだろうが……)
声には出さずに毒吐く。
そんな俺の感情になど当然気付かずに、続ける。
「このボクがここに居るんだ、何人来ようが皆殺しにしてあげるよ」
(だから、皆殺しにしても無意味なんだよ)
極端な話、一人も殺す必要は無い。
別に人道がどうとかの寝言ではなく、電波塔の破壊を諦めてくれればそれでいいのだ。
まあ、万に一つ程度の可能性だが…。
◇
(全く、何をそこまで警戒しなきゃならないんだろうね?
このボクが居る限り、虫ケラが何人来ようが意味なんて無いのに)
そう、この『アヴ・カムゥ』がある限り、地を這う虫が何匹寄ってこようと、全て踏み潰すだけなんだから。
(まあ、四人程度しかいないのが凄く残念だけどね)
気は進まないが、これも仕事だ。
本当なら、見える位置まで来てから乗り込みたいと思いながら、アヴ・カムゥの背中によじ登る。
アヴ・カムゥの使用は、以外と疲れるのだ。
だから余り長い時間乗り続けるのは御免蒙りたいのだけどね。
(全く、役に立たない連中だよ)
本部に居る連中は、無能揃いだね。
あんな小娘にいいようにやられて、それでボクの手を煩わせるんだから。
本当なら、あいつらが虫どもの位置を特定して、それからがボクの出番の筈なのに……
無能共のせいで余計な手間が掛かってしまう。
ついでに言えば、このカブラギが一緒に居るのも不満だ。
ボクの他に戦力なんて必要無いだろうに。
(まあ、カブラギ本人はそんなに嫌いじゃないが)
それにしたって、不満は募る。
まあ、監視してくれているっていうんだから、文句は言わないけどね。
「さて、これでもう何の心配も無いね」
アヴ・カムゥに搭乗して、カブラギに声を掛けてやった。
「まあ、一安心ではあるな」
うんうん、『一』安心ってのが多少気に食わないけど、まあ素直なのは良いことだよ。
もう、これでなんの心配も無いんだから。
「そうそう、大船に乗ったつもりでいなよ。
ボクが全部片付けてあげるから」
カブラギの方に、視線を向けて、言ってやった。
(でも、アレは何のつもりなんだ?)
ただそこでカブラギを見ていたら、再び不満が募って来た。
「それに君も出掛けに鷹野から何か貰っていたじゃあないか」
「ん、ああ」
…カブラギに対してじゃない、鷹野に対してだ。
カブラギが腰に差している赤黒い剣。
出掛けに、鷹野がカブラギに渡したものだ。
何で、そんな物を渡す必要がある?
ボク一人で十分に皆殺しに出来るのに。
◇
「それに君も出掛けに鷹野から何か貰っていたじゃあないか」
「ん、ああ」
適当に聞き流していたが、少し意味のある言葉が聞こえたので、監視を一時中断することにした。
そして、右手を腰に、左手を懐にやって、
「こいつのことか」
出掛けに渡された物を手に取った。
赤黒い剣と、青い宝石、
鷹野曰く強力な兵器らしいのだが……
「正直、こんな胡散臭い代物を使う気はしないんだがな……」
いきなり渡されても、使い道に困る。
まあ、剣の方はそれなりに役に立つだろうが…
「おや、勿体無いんじゃないのかい?」
全然
「よく分からない物よりは使い慣れた物の方が信頼できるからな」
「ふうん、まあ真理だね」
それで、興味を失ったのか、ハウエンクアは再び別の方向を向いた。
「………………」
再びしまいながら、考える。
『永遠神剣』
確かに、映像で見た限り、この剣の性能はかなりのものだ。
加えて、この宝石『マナ結晶』があれば、俺にも使用可能になるそうなのだが……
(余り有り難いとは思えん)
このマナ結晶とは固形燃料の類と考えればわかり易い。
燃料である以上は、当然消費されていくものだ。
で、使用出来る回数に限りがある以上試しづらい、ので性能が把握出来ない。
さらに、性能が把握出来たとしても、明確な消費がわからない代物など危なすぎる。
(ガソリンの残量が不明なバイクを渡された気分だ…
いや、ある程度は見れば性能が解るバイクの方がマシか)
考えれば考える程気が進まない。
そして、この他にも最も気に入らない点がある。
「『誓い』…とはな…」
何となく声に出した。
皮肉な名前だ。
恐らく、今の俺には最も相応しく無い言葉だ。
そして、最も相応しい言葉でもある。
かつて、共に助かると『誓った』仲間は、一人は死に、一人は今もこの島で戦っている。
その事は無論俺の心を乱す。
が、ソレらを強引に断ち切る。
俺は、その仲間を捨てて、ココだけを護ると『誓った』のだから。
だから、今の俺には相応しく、そして相応しくない。
(感傷…だな)
戦場でモノを考えるのは愚かな事だが、今はソレを自分に許した。
かつての『誓い』と今の『誓い』、俺は今の『誓い』を選んだ。
だが、恐らくあの男は、倉成武は、両方を選ぶと言うのだろう、
そう、確信している。
だから、思う。
今の俺を見て、武は何と言うのだろうか。
俺の事を、何と呼ぶのだろうか。
無意味な考えだ。
答えなど出はしないのだから…
(いや)
だから…考えた。
意味の無い事を。
…意味のある答えが見つかることを願って。
それ自体が無意味と知りながら
◇
(……せ…)
ん?
「ミズホ? 何か言ったか?」
「え? いえ、何も言ってませんよ」
前の座席―ジョシュセキというらしい―に座っているミズホが、わたしの方を向きながら答えてくれた。
「ん…そう…か?」
おかしいな
今、確かに誰かの声が聞こえた気がしたんだけど…
走っているクルマの中に居るのだから、ミズホにも聞こえる筈。
「別に羽入が近くにいる訳でも無いわね」
私の戸惑いを見て取ったのか、横に座っていたリカがそう言った。
ハニュー…
リカだけにしか見えない相手らしいけど、それが近くにいる訳でもないらしい。
「ん……」
空耳かな?
「もしかしたら、車酔いかもしれませんね」
ミズホが心配そうな声で言った。
クルマヨイ?
何だろう?
聞き返そうと思ったその時、甲高い音が鳴った。
それと同時に、体が前に流される。
「痛い」
前の椅子に体をぶつけてしまった。
見ると、隣のリカも同じような姿勢になっている。
「いたた……どうかしたんですか?」
前に居るミズホが、運転しているコトミに声を掛けた。
「何……なの?」
返事の変わりに、戸惑いが帰ってきた。
それはわたしが聞きたい。
そう思って体を起こして、
異変に気付いた。
「……?」
クルマの周りに、ピンク色の花が舞っていた。
◇
「……何、だっていうの……これは?」
車から降りて、辺りを見回す。
他の皆も、既に車を降りている。
「桜……でも、こんなに沢山、どこから?」
「おかしいの、桜の木自体は何箇所かで見かけたけど、どれも葉桜だったの」
「ん……綺麗」
あたり一面に舞い散る花びら、桜吹雪。
その美しい風景は、だからこそ不気味な印象を感じる。
だけど、不気味でありながらも、それを上回る美しさと儚さと、そして、神聖さすら感じる光景。
思わず、魅入ってしまいそうだ。
ああ、そもそも、――私が最後に桜を見たのは何時のことだったのかしら。
そんな…どうでもいい感傷すら湧き上がってきた。
瑞穂も、ことみも、呆然と見守っている。
アセリアは、なにやら興味深々といった感じで、キョロキョロと辺りを見回していたが……
「サクラ?」
「あ、ええ、これは桜と言う花が散って、花びらが風に舞っているのです……でも」
「その、肝心の桜の木が何処にも見あたらないの」
瑞穂の説明を、ことみが引き継いだ。
そうなのだ、コレだけ沢山の桜が舞っていながら、何処にも咲いている桜の木が見あたら無い。
どう考えても、異常な状態なのだ。
「ん……」
納得したのかしてないのかわからないが、アセリアは宙に舞う桜の花びらを眺めていたが、少ししてその一枚を掴み取って、それをじ~~~と眺めて、
やがて、掴んでいたそれを……口に入れた。
あ
「あ! アセリアさん! 駄目です!!」
「ん……平気……」
「平気じゃありません! ぺっしなさいぺっ!」
「ん……んぺっ」
何処の親子だこいつら……。
「アセリアさん! 何でもかんでも口に入れてはいけません、って親御さんに言われませんでしたか!?」
「ん…………違うんだミズホ」
「違いません! お腹を壊したらどうするんですか!」
「いや……そうじゃなくて」
「この……サクラ?からは、少しだけどマナみたいな力を感じるんだ」
「は……?」
マナ?
お菓子が……何?
「この、……花びらからですか?」
「ん」
「それは……興味深いの」
どうやら、私以外には通じているらしい。
……微妙に疎外感を感じるわね……
「ちょっと待って。 その『マナ』って何?」
「あ、そういえば説明していなかったの」
私の疑問に対してなされたことみの説明によると、アセリア達の世界に存在する力の事らしい。
なんでも生命の源みたいなもので、あの神剣という武器を使用するのに必要な力だとか。
フィクションでいうところの『魔力』と近しい代物かもしれない、とか。
実際に、千影という参加者が、その魔力で神剣を使っていたそうだ。
…まあ、私自身(というか羽入)がかなり非常識な存在なのは判ってるけど…
それにしたって…もう少し普通な人が多くてもいいんじゃないの?
◇
「ちょっと待つの、アセリアさん、この桜の花以外の植物からは、マナを感じないの?」
「ん……少し待ってくれ」
そういうとアセリアさんは、トテトテと近くに植えてある街路樹……イチョウの葉を一枚取って、またそれを口にした。
「……他に調べる方法は無いのですか?」
「ん……これが一番判る……ような気がする」
「確信が無いならやめなさい!」
「ん」
そうして、また“んぺっ”と吐き出した。
その吐き出した唾液が、少しして金色の光になって消えていく。
そうして残るのは少し噛み跡の付いたイチョウの葉のみ。
(もしかして、体外に排出された物質は、みんな消えてしまうの?
だとしたら、何てうらやまs……ゲフンゲフン、何て不思議な生態なの)
「特に感じない」
「そう、という事は」
「この花びらは、何か魔術的な物と見て間違い無いの」
アセリアさんの言葉から判断すると、そうなる。
でも、
「でも、これは妨害なんでしょうか?」
瑞穂さんが、私の気持ちを代弁してくれた。
そう、目的が見えないの。
「特に、敵意は感じない……ん、強いて言うなら……悲しいとかそんな感情を感じた気がする」
「悲しみ……ですか?」
「ん、でも微弱すぎて、詳しくは判らない」
悲しみ?
鷹野が悲しんでいる……ないの。
「鷹野の仕業ではないと?」
「断言は出来ない。 でも、多分違う気がする」
舞い散る桜は、止む気配を見せない。
けど、何一つ理解も出来ない。
私たちはしばらく、その場に居た。
◇
とりあえず、害は無さそうという事で、わたしたちは再び移動することになった。
でも、その前に…
「ところで、ミズホ、親御さんってなんだ?」
さっき気になった言葉について尋ねてみた。
「は?」
ミズホは何だか呆然としている。
コトミとリカも、同じような顔だ。
……もしかして、また何か変な事を言ってしまったのだろうか……
「えーと、両親の事ですよ。
お父さん、お母さんとか」
?
……あ、
「そうか、人間は、オヤから生まれるんだったな」
そう言えばエスペリアに聞いた事がある。
わたしたちと違って、母親のお腹から生まれるとか。
「……待って下さい。
アセリアさんは……違うんですか?」
ん、
ああ、
「ん…わたしたちスピリットは神剣と共に生まれる。再生の剣から生まれて、戦って、そしていつかはマナの霧となり、再生の剣に還る。
それが、わたしたちだ」
何だか驚いたような顔をしている。
何でだろう?
「いつ、どこで生まれたのかは覚えていない、わたしはラキオスの森の中にいたらしい」
「ちょ、ちょと待つの」
コトミが、慌てたような声を出した。
「えっと、その……神剣と共に生まれる?」
「ああ、わたしたちは、生まれたときから死ぬまで、神剣と共にある。
神剣と一緒に、戦う」
「戦う……」
何だか、また呆然としている。
「うん、戦うのはスピリットの定め。
それが、スピリットの生きる理由」
そう、教えられた。
少しの間、言葉が途切れた。
何か喋ろうと思って、そこで、
「アセリアさんは…それでいいのですか?」
ミズホが問いかけて来た。
ん…
それを疑った事は、無かった…少し前までは。
「そう、思ってた。
でもユートは、戦う以外の目的を見つけろと言った。
その時はよく判らなかったけど、この島に来て、何となく判って来た気がする」
まだ、上手くは言えないけど。
◇
この島で、最も長い間共にいたというのに、僕はアセリアさんの事を何も知らなかった。
いや、知ろうとしていなかった。
その幼い言動、無垢な眼差し、疑いを知らぬ心。
戦うことに躊躇いを持たず、死ぬことにすら恐れを抱かない。
そんな人間が、存在するとしたら、それはどのように育ったのだろう。
「アセリアさんは…それでいいのですか?」
聞いてしまった後に、失言だと気付いた。
良いも悪いも、無い。
「そう、思ってた」
それが当たり前だったのだから。
アセリアさんの返事がそう告げていた。
「でも」
え?
「ユートは、戦う以外の目的を見つけろと言った。
その時はよく判らなかったけど、この島に来て、何となく判って来た気がする」
その瞳は、戸惑いと、そして嬉しさのような色を放っていた。
ああ、そうか。
高嶺さんも、同じ事を思ったんだな。
この少女に、自分の幸せを考えて欲しいと
そう、思ったんだ。
「アセリアさん…」
「ん……?」
「何か、やりたいと思う事はありますか?」
「え?」
「高嶺さんが言ったように、戦う以外に、やってみたい事は、ありますか?」
「ん……?」
思わず、聞いていた。
何か、願いがあるなら……
それを、かなえてあげたいと思った。
願いがある事を、……望んだ。
「そうだな、わたしは…ハイペリアに行ってみたい」
やがて、帰ってくる答え。
「ハイペリア?」
「ん、ユートや、ミズホ達の世界。
星の向こうにあるらしい」
僕の問いに、アセリアさんの答え。
「人は、死ぬとハイペリアに行くのだと聞いた。
わたしはスピリット、人間じゃない、でも一度、ハイペリアをこの目で見てみたい」
「海の彼方……星の世界……龍の爪痕の彼方……
わたしは……ハイペリアに行ってみたい」
純粋な、ただ憧れだけを秘めた瞳を見て。
僕は、思わずアセリアさんを強く抱きしめていた。
「ん……どうした? ミズホ?」
少し戸惑ったようにアセリアさんが問いかけて来た。
でも、構わずに抱きしめ続けた。
そして、少しして、
「行きましょうね……アセリアさん」
「ん?」
「終わったら、何もかも終わって、この島から帰ったら、必ず、行きましょうね……ハイペリアに」
「…………うん!」
アセリアさんは笑顔だった。
僕も、笑顔で答える。
僅かに感じた哀れみに似た感情を、見せないように。
◇
「ん、そろそろ行こう」
「ええ、そうですね」
アセリアさんの声に答えて、車の方に向かう。
と、そこでことみさんが何だか複雑な目で僕の事を見ていた。
見ると、梨花さんも同じような……こちらは少し戸惑いといった感じだが……視線を向けていた。
「…………」
「…………」
沈黙
なんだろう、この微妙な空気は?
なんだか痛い。
なので、耐え切れずに声を出そうとした時、
「瑞穂さん……まさかとは思っていたけど……まさか、よ、よ……幼女趣味だった、の」
「みーー、寄るな変態。 なのですよ」
は?
え?
そ、それは、そ
「レズで幼女狙いだなんて、とんだ変態女郎なのです。 とりあえずボクの周囲半径5メートル以内には近づくななのです」
「レ……? ああ、そういえばそうだったの、梨花ちゃん、瑞穂さんは実は……」
「ま、待って下さい!! ことみさん!」
いくらなんでもそれは不味い。
レズの幼女好きと、女装趣味の幼女好きでは変態度が………………どっちにしろ変態です本当にありがとうございました。
我ながら……泣きたくなって来る。
行くも地獄、進むも地獄。
ああ、ここが終着点か、思ったよりも近かったな。
「ん…違う」
え?
ア、アセリアさん、今度も僕を助け……
「わたしは、幼くない」
てはくれなかった。
違うんですアセリアさん。
この場合、自己申告に意味は無いんです。
ああ、そして、この僕の思考自体が一番間違っている…
「どっちにしろ、ガチだったのは確かなのです。 つまりここに居る全員が危険ということは変わらないのですよ」
「まあ、そういう事なの」
アセリアさんの主張に、一定の譲歩を見せたけど、二人の態度は変わらなかった。
そうして、僕は空気に耐え切れずに、地面に突っ伏してしまった。
違うんです……ただ純粋に、アセリアさんの事が大切に思えた、それだけなんです。
断じて、邪な気持ちは、無いのです……………
◇
「まあ、冗談は此処までにしましょう」
「うん、そうするの」
動かなかった瑞穂が、私たちの会話に僅かに反応した。
「じょ……冗談、だったんですか?」
瑞穂が、縋る様な目を私たちに向けてきた。
なので、思いっきりの笑顔で、
「寄るな変態」
「………………」
叩きつけてあげた。
少し上を向いていた顔が、思いっきり沈んだ。
……うん、面白い。
思わず、かわいそかわいそと撫でたくなる位だ……やらないけど。
隣でことみが苦笑していたが、ややあって、
「瑞穂さん、ずるいの」
ことみが笑顔で言った。
「…………ずるい……ですか?」
「ええ、とっても、ずるいわね」
瑞穂の反応に、私もことみと同じ事を告げた。
瑞穂は、半泣きのままハテナ顔だ……器用ね
まあ、とにかく確実に解っていない瑞穂に、
「うん、ずるいの。 私も、私だって、アセリアさんと一緒にハイペリアに行ってみたいの」
「勿論、私もよ。 一人だけ抜け駆けなんて、ずるいわよ。
行くのなら『皆』で行きましょう」
ことみと私の、同じ想いを告げた。
◇
何だろう?
とても、暖かさを感じる。
理由は、判ってる。
皆のおかげだ。
でも、何でだか判らない…
だから、
「ありがとう、皆」
お礼を、言った。
「あ、いえ、お礼を言われるような事では無いと思うの……」
「みー、ボク達は、思ったことを言ったのです」
ううん、
「そのことじゃあ、無いんだ」
これは、そう思えたそのものに対する感謝。
「ミズホも、コトミも、リカも、
アルルゥも、エスペリアも、アカネも、
チカゲも、サラも、……ユートも」
この思いは、そう、
「皆が、私に色々なものをくれた。 それはきっと……
とても大切なもの…」
だから
「皆と出会えて…うん」
「…わたしは幸せ!」
精一杯の、感謝を伝えた。
「「「…………」」」
…………あれ?
もしかして、また何か変な事を言ってしまったのだろうか……
「あ…その、皆に会えた事に、感謝しているんだ…
別に、この戦いがどうとかそんなのじゃ……」
慌てて…とりあえず変なような気がする所を弁解してみる。
「「「クスッ」」」
え?
「違いますよ…アセリアさん」
「うん、少し驚いたの……嬉しくて」
「みー、少し敗北感を覚えた気がするのです」
?
「ええ、私も、…いえ、私たちも、アセリアさんと…
皆と出会えて、幸せです」
「辛い事や、悲しい事は、沢山あったの。
でも、幸せと思える事も、間違いなくあるの」
「アセリアだけじゃ無いわよ。
私たちも、確かに幸せだと思ってる」
…
「皆……うん!!」
そうか…私だけじゃないのか…
私が幸せと思うことが、皆も幸せと思える。
それは、凄く…嬉しいと思う。
そう、この気持ちも、皆に貰った。
だから、皆は、私が……守る!
|203:[[命を懸けて(後編)]]|投下順に読む|204:[[それぞれの「誓い」(後編)]]|
||時系列順に読む|204:[[それぞれの「誓い」(後編)]]|
|200:[[ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(後編)]]|宮小路瑞穂|204:[[それぞれの「誓い」(後編)]]|
|200:[[ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(後編)]]|アセリア|204:[[それぞれの「誓い」(後編)]]|
|200:[[ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(後編)]]|一ノ瀬ことみ|204:[[それぞれの「誓い」(後編)]]|
|200:[[ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(後編)]]|古手梨花|204:[[それぞれの「誓い」(後編)]]|
|202:[[私たちに翼はない(Ⅳ)]]|大空寺あゆ|204:[[それぞれの「誓い」(後編)]]|
|202:[[私たちに翼はない(Ⅳ)]]|白鐘沙羅|204:[[それぞれの「誓い」(後編)]]|
|202:[[私たちに翼はない(Ⅳ)]]|桑古木涼権|204:[[それぞれの「誓い」(後編)]]|
|202:[[私たちに翼はない(Ⅳ)]]|ハウエンクア|204:[[それぞれの「誓い」(後編)]]|
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