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「ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(前編)」(2007/12/04 (火) 15:26:46) の最新版変更点
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**ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(前編)) ◆guAWf4RW62
放送。
それは全ての参加者達に深い悲しみを齎す、絶望の鐘。
僕――宮小路瑞穂は、C-4とC-3の境界線に位置する草原で、六回目となる放送に耳を傾けていた。
『……なんかよく判らなくなったので、この辺りで終わりにするよ。
それじゃあ、また次の放送で』
……放送が終わった。
呼ばれた人数は、八人。
生き残っていた人々の実に半数近くが、僅か六時間の間で命を落としてしまったのだ。
そんな驚くべき事実を聞いても、僕達は取り乱したりしなかった。
ノートパソコンに搭載されている、殺害ランキングと云う機能のお陰で、死亡者に関する情報は予め入手してある。
だからこそ、何とか冷静さを失わずに済んだ。
けれど、耐える事が出来たとは云え、悲しみは決して無くならない。
大切な人の死を改めて突き付けられたアセリアさんは、きっと心が裂けるような痛みを感じている筈だ。
「……ミズホ」
向けられたアセリアさんの視線は、消え入りそうに弱々しい。
青い瞳の奥底には、一目で見て取れる程の悲しみの色が浮かび上がっている
こんな時にどういう言葉を掛けてあげれば良いのか、僕には分からなかった。
だから僕は口を閉ざしたまま、アセリアさんの肩をそっと手を乗せた。
壊れやすいガラス細工を扱う時のように、出来るだけ優しく撫でる。
「ミズホの手……暖かい」
アセリアさんは小さく呟いて、静かに僕の手を取った。
触れ合っている肌の部分から、アセリアさんの存在が伝わってくる。
そうしていると、不思議と僕の心まで暖かくなって来た。
冷たい雪山の中でお互いを暖め合っているような、そんな感覚。
そのままの状態を暫く続けていたが、やがて梨花さんが声を投げ掛けてきた。
「瑞穂、アセリア、そろそろ……ね? 残酷なようだけど、私達には立ち止まってる時間なんか無いわ」
「……ん、分かった。ミズホ……もう大丈夫だから、行こう」
梨花さんの声に応えて、アセリアさんはゆっくりと僕から離れて行った。
そうだ――僕達はどんなに辛くても、歩き続けなければいけない。
それこそが死んでいった沢山の仲間達に報いる、唯一の方法に他ならない。
「そうですね……では改めて、役場に向かいましょう」
僕達は再び歩き出す。
それぞれの胸に、大きな悲しみを抱えながら――
◇ ◇ ◇ ◇
放送から一時間半後。
歩きやすい草原や市街地を通ってきたお陰で、僕達は大した苦労も無く役場に辿り着いた。
「……酷いの」
開口一番に、ことみさんが眼前の建物を眺めながら呟いた。
それは、僕が抱いた感想と全く同じもの。
役場らしき建物は、扉を中心に夥しい程の切り傷が刻み込まれている。
一目見ただけでも、この地で行われた戦いがどれ程激しい物だったか、容易に推し量る事が出来た。
しかし、だからといって尻込みしている訳にもいかない。
この役場の中の何処かに、『特別なゲームディスクを必要としているパソコン』がある筈なのだから。
「アセリアさん……如何ですか?」
「……ん、大丈夫。今の所……私達以外の、誰の気配もしない」
僕達は慎重な足取りで、役場の中へと侵入してゆく。
建物の内部は、一部がピンク色の粉に汚されていたものの、大きな損傷は見受けられなかった。
静まり返ったフロアの中で、案内所に掛けられた振り子時計の音だけが、規則正しく鳴り響いている。
「潤の話によれば、パソコンは此処に置いてあるらしいわ」
そう云って梨花さんが指差したのは、案内板の隅に載っている仮眠室という場所だった。
案内板の地図を参考にして移動すると、仮眠室は直ぐに見付かった。
早速アセリアさんが、扉のノブを掴んで押し開けようとする。
けれど扉はガチャガチャという音を立てるだけで、何度やっても開きそうには無かった。
きっと、鍵が掛けてあるのだろう。
「皆さん、ちょっと此処で待っていて下さい。鍵を取ってきますね」
建物の内部が安全なのは既に確認済み。
だから僕は、一人で鍵を取りに行こうとしたのだけれど――
「……ん、必要無い。開かないのなら……壊せば良いだけ」
「え――――」
掛けられた声に、慌てて振り返る。
するとアセリアさんが、永遠神剣第四位『求め』を天高く振り上げている所だった。
アセリアさんはそのまま、手にした大剣を扉目掛けて振り下ろす。
「てやああああああっ!!」
「…………っ」
鳴り響く轟音、飛散する木片。
アセリアさんの放った凄まじい一撃は、仮眠室の扉を粉々に粉砕し尽くした。
「うん……これで入れる」
余計な手間を省いてみせたと云わんばかりに、若干得意げな表情を浮かべるアセリアさん。
僕、ことみさん、梨花さんは僅かばかりの間呆然としていたが、やがて三人揃ってアセリアさんに歩み寄る。
そして大きく息を吸い込んだ後に、放ったのは。
「「「――アセリア(さん)っ!!」」」
軽率な行動を叱責する、怒りの叫びだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「ふう……」
……流石に、さっきは生きた心地がしなかったの。
仮眠室の奥に置いてあったパソコンが無事だと確認してから、私、一ノ瀬ことみは小さく溜息を吐いた。
仮眠室には色あせた畳が敷き詰められており、中央には布団も敷いてあった。
廊下では、今も瑞穂さんがアセリアさんに説教を続けている。
対するアセリアさんは、飼い主に叱られた子犬のように力無く項垂れていた。
少し可哀想な気もするけれど、今回ばかりは仕方ないの。
もし部屋の入り口付近にパソコンが置いてあれば、扉ごと壊されてしまったかも知れないのだから。
「やれやれね……。まあとにかく、パソコンが無事で良かったわ。
あんな事で希望が絶たれるなんて、笑い話の種にもなりはしない」
横に居る梨花ちゃんが、心底呆れた顔で呟いた。
出会ってからこの方、梨花ちゃんはずっとこのような口調だ。
艶やかな黒色の長髪、大きな瞳、そして私よりも数十センチは低い身長。
幼い外見をしているにも関わらず、随分と大人びた話し方をする女の子だと思う。
「それじゃ、早速パソコンを動かしてみましょうか」
「うん、分かったの」
私は小さく頷いた後、徐にパソコンの電源ボタンを押す。
そのまま暫く待っていると、やがて全く見覚えの無いOSが起動した。
……こんなOS、少なくとも私の知る限りでは存在しない。
もしかしたら、この殺し合いの為に用意された特殊な物かも知れない。
普通のパソコンなら、内部のデータを根こそぎ抜き出すという手もあったけど、それは不可能になった。
下手に弄って故障してしまったら、もう取り返しが付かないの。
此処は素直に、フカヒレさんのゲームディスクを起動させてみるべきだろう。
「準備良し……と」
ゲームディスクを挿入してから、ディスプレイ上にあるアイコンをダブルクリックする。
デフォルトされた女の子の顔をしたアイコンは、この島には不釣合いな程に可愛らしい。
けれどこれは、あくまでカモフラージュに過ぎない筈。
梨花ちゃんがじっとディスプレイを眺めながら、口元を笑みの形に歪めた。
「ふふ、鬼が出るか蛇が出るか――楽しみね」
「うん……きっと、何か凄いものが隠されていると思うの」
特別なディスクを必要とするパソコンと、特定の個人名が入ったゲームディスク。
どちらか片方が欠けてしまえば、このアイコンのプログラムは動かせない。
過酷な殺し合いの中で特定のアイテムを二つ共揃えるのは、決して容易では無い。
寧ろ、極めて困難であると云っても過言ではないだろう。
これだけの労力を必要とするのだから、起動に成功した暁には、きっと想像も付かないような物が手に入る筈なの。
それが何かは分からない。
とても重要な情報かも知れないし、主催者の準備した恐ろしい罠という可能性だってある……!
そう考えた私は梨花ちゃんと一緒に、期待と不安の入り混じった目でディスプレイを注視していたのだが――
やがてディスクの起動が完了し、ディスプレイにある画像が浮かび上がってきた。
「…………は?」
梨花ちゃんの口から、呆然とした声が漏れ出る。
ディスプレイに映し出されたのは、愛くるしい女の子達の顔、顔、顔。
画面上部に表示されているタイトルは、『ブルーベリー・パニック』……何だかとっても甘そうな名前なの。
何処から如何見ても、所謂恋愛ゲームのようにしか見えない。
つまり、このゲームディスクは――名前通り、フカヒレさんのギャルゲーだったのだ。
「……コメントする気も起きないわね」
梨花ちゃんは疲れた声で呟いた後、敷いてあった布団の中に潜り込んだ。
無理もない。
私だって今すぐそうしたい気分だ。
一縷の望みに懸けて、わざわざこんな遠くまで来たのに、得られた物が只のゲームでは余りにも報われない。
罠だったのなら未だ理解も出来るが、こんな毒にも薬にもならないような物を用意して、主催者は何がしたかったのだろうか。
まさかこんな殺し合いの最中に、暢気にゲームで遊ぶ人がいる訳――
そこまで考えた時、頭の中で何かが引っ掛かった。
殺し合いの最中にゲームで遊ぶ。
それは普通に考えれば有り得ない、愚か極まりない行動。
けれど私は少し前、その愚行を勧められた筈だ。
そう――六回目となる放送をした人物に、勧められたのだ。
一体、何故?
「梨花ちゃん、ちょっと聞いて欲しいの」
「……何?」
いかにも不機嫌といった表情で、梨花ちゃんが布団の中から顔を出す。
私は少し間を置いてから、浮かんだ疑問をそのまま口にした。
「さっきの放送をした人――鈴凛さんは、『適当にゲームとかして遊んだりしてもいいかもね』と云っていたの。
もしかしたらアレは、私達に向けられたメッセージだったのかも知れない」
「……タイミング的に考えるとそうかもね。でも、それがどうかしたの?
要するに、鷹野の手下が私達をからかったって事でしょ? 考えるだけでも苛立ってくるわ」
「ううん、それは違うと思う」
梨花ちゃんが吐き捨てるように云ったが、私は首を大きく横に振った。
勿論、梨花ちゃんの云い分が正しい可能性だってある。
鈴凛さんは、ゲームディスクに夢中になっている私達を嘲笑っていただけかも知れない。
けれど――
「死亡者発表をしている時の鈴凛さんの声……とっても悲しそうだったの。
皆の死を悲しめるような人が、私達を嘲笑う為だけに、あんな事を云ったりはしないと思う。
多分、ゲームディスクには何かしらの意味があるの」
高嶺悠人さんや千影さんの名前を呼んだ時、鈴凛さんの声は明らかに震えていた。
決して気の所為なんかじゃないと、思う。
人の死を悲しめる彼女は、鷹野のような悪魔とは明らかに違うタイプの人間だ。
「何か確証はあるの? それとも只の直感かしら?」
「確証は無いの。でもきっと、鈴凛さんは悪い人じゃない筈……」
値踏みするような梨花ちゃんの視線が、私に突き刺さる。
じっと見つめ合う事十数秒、やがて梨花ちゃんが表情を緩めた。
「分かったわ……貴女に懸けてみましょう。
サイコロは振らなきゃ目が出ない――何事もやってみなければ始まらないものね」
梨花ちゃんは力強い言葉と共に頷いてくれた。
こうして梨花ちゃんの同意も得られ、私は『ブルーベリー・パニック』というゲームをプレイする事になった。
まずはこのゲームに関する説明を一読して、『ブルーベリー・パニック』の大まかな内容を理解した。
説明文は、以下のような感じだったの。
――アストラエアの丘、そこには、三つの女学校が建ち並んでいました。
聖ミアトル女学園、聖スピカ女学院、聖ル・リム女学校。
そして、その敷地のはずれにある三校共通の寄宿舎である、ブドウ舎。
アストラエアの丘……それは男子が立ち入る事の許されない聖域でした……。
聖ミアトル女学園に編入する事になった蒼井渚(高校1年生・女子)は、新しい学園生活への期待と不安で胸がいっぱいです。
プレイヤーである貴方は渚を操作して、秘密の花園に集う乙女達との親睦を深めてあげて下さい!
説明は以上。
……何だかとっても危険な予感がするけど、きっと気のせいなの。
舞台は女子校。
常識的に考えて、女の子同士でいかがわしい行為をするなんて事は無いだろう。
このゲームは、女の子同士で友情を深めていくという、すこぶる爽やかな内容の筈。
一抹の不安を振り払った私は、意気揚々と『ブルーベリー・パニック』の世界に飛び込んだ。
『うう……間に合わないよ~~!!』
ポニーテルの美少女、蒼井渚は一生懸命走っていた。
転校初日から、遅刻しそうになっていたのだ。
だが努力の甲斐もあって、遅刻せずに学校の敷地地内へと駆け込む事が出来た。
『うわあ、この制服素敵……。あ、この制服も可愛いかも……!』
登校途中の女子学生達は皆華やかな制服を着用しており、渚は思わず目を奪われてしまう。
しかし、走りながらの余所見は非常に危険。
前方不注意だった渚は茂みに突っ込んでしまい、そのまま坂を数十メートル程転げ落ちた。
……とってもツッコミたい気分だけど、我慢するの。
気を取り直した渚は、何とか立ち上がって再び歩き始める。
そんな折、渚の前に一人の女性が現われた。
『すっごく綺麗な人……』
呆然としている渚の口から、そんな言葉が零れ落ちた。
これには私も同意出来る。
現われた女性は、銀色の長髪と切れ長の瞳を湛えた、とても美しい人だった。
女性は大人の風格を漂わせており、あくまでゲーム上の登場人物に過ぎないというのに、思わず私まで圧倒されてしまう。
その後幾つか会話を交わして、女性は花園静馬(はなぞのしずま)という名前である事が分かった。
『フフ……』
突然、静馬さんが穏やかな微笑みを浮かべた。
全てを包み込む聖母のような、見ているだけで心が癒されるような、そんな笑顔。
途端に渚は身体が硬直して、動けなくなってしまう。
渚の頬は、リンゴよりも真っ赤に染まっている。
そんな渚の肩を、静馬さんは優しく抱き寄せた。
徐々に近付いてくる、静馬さんの唇。
え……。
この展開は、まさか――――
『えぇ――――!?』
「えぇ――――!?」
パソコンから放たれる渚の絶叫と、私自身の放った絶叫が、部屋中に木霊する。
画面の中では、静馬さんが渚の額に口付けをしていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「――ことみさん、どうしたんですか!?」
「……コトミッ!?」
ことみさんの叫び声を聞き取った僕とアセリアさんは、部屋の中へと駆け込んでいった。
すると真っ赤な顔をして俯いていることみさんと、呆れ顔の梨花さんが目に入った。
事態を把握すべく、僕は梨花さんに質問を投げ掛ける。
「梨花さん、一体何があったんですか?」
「……瑞穂、実はね――――」
そうして僕とアセリアさんは、梨花さんから一通りの説明を受けた。
ことみさんはゲームディスクに重大な秘密が隠されていると考え、『ブルーベリー・パニック』というゲームをプレイしていた。
しかし予想を大幅に上回るハードな内容――平たく云えばレズ物だった為に、耐え切れなくなってしまったのだ。
「ことみはあんな様子で、もうゲームを続けられそうも無い。だから、代わりに貴女がこのゲームをやってくれないかしら?
このゲームをクリアすれば、何かが起こるかも知れないのよ」
「え、でも……」
「私はパソコンの操作方法が未だ余り分からないわ。如何考えても、貴女の方が適任よ」
「……分かりました、やれるだけやってみます」
正直な所、やる気は全くしない。
っていうか、する筈が無い。
何が悲しくて、レズ物の恋愛ゲームなどプレイしなくてはいけないのか。
女装したままレズ物のゲームをプレイする変態、宮小路瑞穂。
……自分で云ってて悲しくなってきた。
だけど、それでも僕がやるしかないのだ。
今のことみさんにプレイを強いるのは酷だし、アセリアさんや梨花さんでは上手くパソコンを扱えないだろう。
「あああ……なんでこんな事に…………」
僕はぼやきながらも、パソコンの画面と向き合った。
画面の中では、主人公の蒼井渚が目を醒ました所だった。
『――何だったの? 全部夢だったの?』
静馬さんにキスされた後、渚は気を失っていたようだ。
気絶したまま、近くにある校舎の病室まで運ばれたらしい。
暫くベッドで呆然としていた渚だったが、やがて横に居る人影に気付く。
『うわあ!? 貴女は一体……』
『ごめんなさい、驚かせてしまいましたね。あんまり寝顔が可愛いものだから、思わず見惚れてしまいました。
初めまして、私は涼水玉青(すずみたまお)です』
僕は渚を操作して、玉青さんとの会話を続けてゆく。
どうやら玉青さんは、渚と同じ寮、同じ部屋の、所謂ルームメイトであるようだった。
外見は可愛い子なのだが……明らかに態度が可笑しい。
『渚さんの可愛い寝顔を眺めていたら、あっという間に時間が過ぎていました』などという恥ずかしい台詞を、平気で云ってのける。
しかも初対面であるにも関わらず、3サイズまで測ってきたのだ。
レズ志向の子であると考えて、まず間違いないだろう。
「うう……このゲームはこんな子ばかりなのかな……」
僕が通っていた聖應女学院にもレズ志向の子は沢山居たが、ここまであからさまな子は初めてだ。
僕は頭が痛くなる感覚を覚えながらも、着々とゲームを進めてゆく。
その後も様々な女の子が登場したが、一人の例外も無くレズ志向だった。
そんな中でも特に印象的なのが、物語の始めにいきなりキスをしてきた静馬さんだ。
花園静馬――三校の生徒会を束ねるエトワール。
歩くだけで、周囲の視線を一身に集める程の美人。
因みにエトワールとは、現実世界で僕が就いているエルダー・シスターと同じようなものだ。
全校で最も人気のある者が就く、生徒達を纏めるリーダー的役職だと考えて貰えば、分かり易いだろう。
そんな名誉ある地位の静馬さんだが、渚に対する彼女の行動はとにかく凄まじい。
『ふふ……可愛い子ね』
そう云って、渚の身体を抱き寄せる静馬さん。
今彼女達が居る場所は大食堂で、当然他にも多くの生徒達が居る。
にも関わらず静馬さんは、堂々とキスしようと試みているのだ。
静馬さんが迫って来たのは、今回だけではない。
ある時は野外で、ある時は真夜中のプールで、場所も人目も気にせずキスしようとしてくる。
迫られる側の渚もまんざらではないらしく、大した抵抗はしない。
殆どは途中で邪魔が入って、キスの実行には至らないものの、両者の気持ちが通じ合っているのは明らかだった。
これだけ書くと、明らかに有り得ない。
人目も憚らず同性愛にのめり込む彼女達の姿は、常人から見れば異常としか云いようが無いだろう。
だけど……僕には、渚や静馬さんの気持ちが少なからず理解出来てしまった。
その理由は、もう少し後で述べる事にする。
物語は順調に進んでゆき、渚は静馬さんと共に舞台劇を行う事になった。
しかし練習初日、予期せぬ事態が起こる。
アクシデントが発生し、舞台セットの一部が倒れてしまったのだ。
『きゃあああああっ!』
渚に向けて、全長五メートルはあろうかという巨大な板が迫る。
このまま下敷きになってしまえば一溜まりも無いが、渚は腰が抜けてしまって動けない。
だがそこで渚に走り寄る、一つの影。
『――渚ぁぁぁぁっっ!!』
颯爽と駆け付けた静馬さんが、渚を抱き上げて離脱する。
お陰で渚も含めた全員が、怪我一つせずに済んだ。
静馬さんは美しいだけでなく、男の僕から見ても格好良い。
紫苑さんのような女性特有の色香と、武さんのような力強さ、その両方を持ち合わせているのだ。
流されるままエルダー・シスターになった僕とは比べ物にもならない、本物のリーダー。
これでは渚が惹かれてしまうのも、無理はないだろう。
そして渚もまた、静馬さんに釣り合うだけの魅力を持っている女の子だった。
『静馬様が、あれだけ熱心に教えてくれてるんだもの。私だって頑張らないと……!』
演劇のリハーサルが終わった後も、独り残って練習をし続ける渚。
何でも完璧にこなす静馬さんに比べ、渚の演技は余りにも稚拙。
はっきり云ってしまえば、役者としての才能が違い過ぎる。
それでも渚は諦めずに、昼夜を問わずに努力し続けていた。
元気だけが自分の取り得だと云って、何時も笑顔で頑張っていた。
その甲斐あって、劇の本番では素晴らしい演技を魅せる事が出来た。
どんな苦難にも立ち向かってゆける強い心と、全てを照らす太陽のような笑顔――それが、渚の魅力だ。
方向性こそ違うものの、誰にも負けない長所を持った渚と静馬さん。
そんな彼女達が惹かれ合うのは、ごく自然な事だったのかも知れない。
渚と静馬さんの距離は急速に縮まってゆき、やがて深い絆で結ばれるようになった。
……嘗ての、僕と貴子さんのように。
だが、幸せは何時までも続かない。
玉青さんの発言から判明した事実が、渚の心に大きな波紋を齎した。
『え……玉青ちゃん、それは本当なの?』
『はい。静馬さんには、嘗てパートナーが居ました。深く愛し合った末、共にエトワールに就かれた人が……』
その後も、静馬さんやエトワールに関する説明は続いた。
概要を纏めると、以下のようになる。
本来エトワールとは一人では無く、強い絆を持った二人が一丸となって務める役職だったのだ。
此処で云う強い絆とは、レズ的な意味を想像して貰えれば、大きな間違いは無いと思う。
レズ必須の役職って倫理的に考えて如何かとは思うけど……ともかく、そういう事らしい。
次に、静馬さんについてだ。
静馬さんには、共にエトワールとなったパートナーが存在した。
桜木花織(さくらぎかおり)さんという方だ。
花織さんは嘗て静馬さんと深く愛し合っていたが、持病の所為で既に他界してしまった。
最後に、これは玉青さんも知らない事だが――静馬さんの心には、今も花織さんの存在が深く根付いていた。
渚を、花織さんの代わりとして利用している部分があったのだ。
いかな静馬さんといえど、そのような気持ちを何時までも隠し通せる筈が無い。
真実に気付いた渚は、大喧嘩の末静馬さんと決別してしまった。
そして静馬さんとの仲は戻らぬまま、渚は新たな運命の奔流に巻き込まれる。
現在のエトワールは静馬さんだが、彼女は後半年で卒業する。
故に、次のエトワールを決める選挙――通称エトワール選が行われる事となった。
そのエトワール選に、渚は玉青さんと組んで出馬する事になったのだ。
エトワールに当選してしまえば、渚と玉青さんは否応無く恋人的な関係を強要される。
未だ静馬さんへの想いを吹っ切れていない渚が、自分からエトワール選に出る筈も無い。
渚が出馬したのは、他ならぬ静馬さんの命令によるもの。
静馬さんは、玉青と付き合わせた方が渚を幸せに出来ると判断し、そんな命令を下したのだ。
「これは……私に道を選べって事みたいね……」
此処で、パソコンの画面上に二つの選択肢が表示された。
静馬さんとの復縁を狙うか、もしくは玉青さんと新たな道を歩むか、である。
こういった類のゲームは、誰か一人と円満な仲を築ければ、それでゲームクリアになる。
心情的には渚を静馬さんと仲直りさせて上げたいが、それは恐らく難易度が高い筈。
ゲームオーバーになってしまう危険性も、十分考えられる。
逆に玉青さん狙いでプレイしてゆけば、何ら問題無くゲームクリアする事が出来るだろう。
仲直りの為の行動さえ起こさねば、このまま玉青さんと結ばれる筈なのだ。
時間は有限なのだから、最初からゲームをやり直しているような暇は無い。
故に僕は私情を捨てて、玉青さんとの道を選ぼうとしたのだが――その時、誰かが僕の肩を軽く叩いた。
「……アセリアさん、如何したんですか?」
背後へと振り返ると、アセリアさんの姿が視界に入った。
アセリアさんは何処までも澄んだ眼差しで、じっとこちらを見詰めている。
「……ミズホ、諦めたら駄目。何とかして……仲直りさせて上げて欲しい」
「――え?」
「このままじゃ……ナギサやシズマが可哀想」
縋るような表情で、必死に訴え掛けてくる。
アセリアさんは純粋な心を持っている分、ゲーム中の登場人物にも深く感情移入しまうのだろう。
……僕だって、出来れば渚は静馬さんと結ばれて欲しい。
この島は悲し過ぎる運命で溢れ返っているから、仮想空間の中だけでも幸せな結末を見たい。
流れに身を任せたまま、渚が玉青さんと結ばれたとしても、それは決して幸せな結末だとは云えないだろう。
「大丈夫――ミズホなら、きっとやれる」
揺るぎの無い、力強い言葉。
アセリアさんは、こんな僕の事をこれ以上無いくらい信頼してくれている。
だったら――応えないと。
アセリアさんの信頼に応えて、渚と静馬さんを助けて上げないと。
僕はアセリアさんに向けて大きく頷いた後、再びマウスを手に取った。
目標は静馬さんとの復縁。
エルダー・シスターとしての誇りに懸けて、絶対成し遂げてみせる。
僕が考えるに復縁の鍵となるのは、決して諦めずに何度も話し合う事だ。
確かに静馬さんは、渚を花織さんの代わりとして愛していた。
だけど、それだけじゃない筈。
少なからず渚自身の事も、愛していた筈なんだ。
お互いの気持ちを余す事無く伝い合えれば、きっと以前のような関係に戻れる。
だから僕は、渚を静馬さんの下に向かわせ続けた。
けれど静馬さんも軽い気持ちで、渚さんとの別れを決意した訳じゃない。
最初は上手く行かなかった。
『渚――貴女はエトワール選に出なければいけないのよ。
こんな所で油を売っている暇があったら、ダンスの練習でもしてきなさい』
一昔前からは考えられないような、素っ気無い言葉。
何度話し掛けようとも、静馬さんは渚を冷たくあしらうだけだった。
その度に渚は傷付いていったが、それでも僕は行動方針を曲げなかった。
今渚にとって重要なのは、痛みから逃げる事などではなく、静馬さんと一つでも多くの言葉を交わす事なのだから。
そうやって諦めずに静馬さんの所へ通っていると、徐々に変化は訪れてきた。
静馬さんの口調が心無しか柔らかくなって、会話も長続きするようになった。
冷たくあしらわれたりもしない。
少しずつ、だけど確実に渚と静馬さんの距離は縮まっていった。
だけど二人の仲を元通りに戻すには、余りにも時間が足りない。
審判の時――エトワール選決行日は、静馬さんとの復縁を成し遂げる前に訪れてしまった。
『(お願い……如何か、エトワールに選ばれませんように……)』
場所は教会の大聖堂。
全校生徒の視線を浴びながら、渚はひたすら祈り続けた。
エトワールに選ばれてしまったら、もう静馬さんとの復縁は絶望的になる。
パートナーであるもう一人のエトワール、玉青さん以外と交際するのは許されないからだ。
(玉青さんには悪いけど……お願い。渚さんをエトワールに選ばないであげて……)
僕も渚と同様、一生懸命祈った。
渚に、静馬さんと復縁し得るだけの時間を与えて欲しかった。
僕と貴子さんは離れ離れになってしまったけど、渚だけでも幸せになって欲しい。
『投票結果を発表します』
だけど、運命とは残酷なもので――
『次期エトワールは、蒼井渚さんと涼水玉青さんに決定致しました』
絶望を報せるアナウンスが、大聖堂内に流された。
どさりと、渚が膝から地面に座り込む。
……終わった。
僕はアセリアさんの期待に応えられなかったし、渚を幸せにしてあげる事も出来なかった。
ゲームディスクをクリアするという目的すらも、果たせなかった。
最初からやり直す事は可能だが、貴重な時間を浪費してしまったのは間違いない。
自分への怒りと失望が、僕の心を覆い尽くす。
だが――未だ、終わってはいなかった。
唐突に大聖堂の扉が開け放たれ、そこからとある人物が現われた。
『――静馬、様……?』
渚の口から、呆然とした声が零れ落ちる。
銀色の美しい髪、切れ長の澄んだ瞳。
現われたのは、静馬さんだった。
静馬さんは驚愕する生徒達の視線を一身に受けながら、呆然とする渚に歩み寄った。
『渚…………ッ! 他の誰でも……花織でもない……。私は貴女を――』
渚に向けて手を差し出しながら、張り裂けんばかりの声で叫ぶ。
『――――愛してるの!!!!』
大聖堂内に木霊する絶叫。
それは静馬さんの心から漏れ出た、魂の叫びに他ならない。
渚は強く地面を蹴って、静馬さんの胸へと飛び込んだ。
『静馬様…………、静馬さまぁ…………っ!!』
『渚……!』
ざわざわと騒ぐ生徒達の声も、今の二人には届かない。
すれ違っていたこれまでの時間を埋めるべく、強く、強く、抱き締め合う。
どれ程の間、そうしていただろうか。
やがて、静馬さんが悪戯っぽい微笑みを浮かべた。
『――渚、行くわよ』
『え……、わわっ!?』
突然、静馬さんが渚の手を引いて走り始めた。
大聖堂の扉を潜り抜けて、大きく広がる外の世界へと躍り出る。
ある程度教会から離れた所で、渚が足を止めて問い掛けた。
『静馬様、これから如何しましょう?』
『……さあ、如何しようかしら』
『え――何も決めてないんですか?』
エトワール選の最中にあのような行動をするなど、前代未聞の蛮行。
故に何か対策があると思っていたのだが、どうやら違うようだ。
静馬さんは紅く頬を染めた後、小さな声で呟いた。
『仕方無いでしょ……貴女をさらう事だけ考えていたんだから』
『はぁ…………』
渚が困った表情で相槌を打つ。
そんな渚の肩を、静馬さんは優しく抱き寄せた。
互いの吐息を感じ取れる程の距離となり、渚の顔が瞬く間に紅潮してゆく。
『渚――――愛してるわ』
触れ合う唇と唇。
熱き乙女の胸のたぎりは、遙かなる蒼穹に昇華し、気高く美しき新たなる星を産み落とす。
寄り添い合う二つの星は、鮮烈な光を放ち、永遠に輝き続けるだろう。
【ブルーベリー・パニック:HAPPY END】
……これ何て駆け落ちエンド?
それが僕の抱いた、最初の感想だった。
いや、渚と静馬さんが無事結ばれたのは、凄い良かったんだけどね。
僕が一息吐いていると、アセリアさんが労いの言葉を投げ掛けてくれた。
「……ミズホ、良くやった」
「ええ。でも、今の所何も起きませんね」
ゲームをクリアしたものの、パソコンの画面には何の異変も見られない。
もしかして、何の秘密も隠されていない、只のゲームディスクに過ぎなかったのだろうか?
そんな疑問も湧き上がったが、もう暫くは様子を見る事にする。
「瑞穂さん、お疲れ様なの」
「有り難うございます」
今度は、横からことみさんがペットボトルを差し出してきた。
僕はにっこりと微笑んでからから、それを受け取る。
「……でも、私知らなかったの」
「え、何をですか?」
発言の意図を理解しかねて、思わず僕は聞き返した。
一瞬の沈黙。
その後ことみさんが放った言葉は、予想だにしないものだった。
「瑞穂さん…………女の子同士で、というのが好みだったなんて」
「――――――ッ!?」
な……ななななな、何か壮絶に勘違いされてる――――!?
女装趣味の上、レスビアン嗜好の男、宮小路瑞穂。
……どう考えても変態です、本当にありがとうございました。
僕は力無く崩れ落ちて、地面に両膝と両手を付いた。
何故か周囲が暗くなって、僕の身体だけがスポットライトで照らし上げられているような錯覚に囚われる。
気だるい脱力感が全身を覆い尽くし、気力も萎えそうになってしまった。
だが――そんな僕の意識を覚醒させたのは、パソコンから発された一つの声だった。
『……あー、あー。そこの貴女達、聞こえてるかな?』
◇ ◇ ◇ ◇
「こ、これは……!?」
私、古手梨花の目には驚くべき光景が飛び込んで来ていた。
直ぐ傍では、瑞穂達も驚愕の表情を浮かべたまま立ち尽くしている。
突如パソコンの画面に、見知らぬ少女の顔が映し出されたのだ。
少女は頭に大きなゴーグルをつけており、歳は中学生位といった所だろうか。
少女の口が動き、それと同時にパソコンのスピーカーから声が聞こえて来た。
『私は鈴凛――覚えてると思うけど、さっきの放送を読み上げた本人だよ』
確かに、この声には聞き覚えがある。
第六回放送を行った者と同一人物であると考えて、まず間違い無い。
鈴凛――ことみの推測によれば、悪人では無い可能性が高い人物。
無警戒に信頼は出来ないが、取り敢えず話を聞いてみる価値はあるだろう。
「そう……それじゃ、用件を聞かせて貰いましょうか」
まどろっこしい腹の探り合いなどに興じるつもりは、毛頭無い。
単刀直入、余計な言葉を一切交えず私は問い掛ける。
それで私の意図は伝わっただろうに、鈴凛は念を押すように云った。
『……落ち着いて聞いてね。これは貴女達にとって、とても重要な事だから』
「前置きは要らないわ。早く本題に入って頂戴」
どうやら、余程重要な事を話そうとしているらしい。
ゴクリと、横で瑞穂が唾を飲み込む音が聞こえた。
鈴凛は意を決した表情で、ゆっくりと次の言葉を紡いだ。
『今なら――首輪を外せるよ』
瞬間、意識が凍り付いた。
いや、それどころでは無い。
余りの衝撃に、全身、手足の先までもが完全に硬直してしまっている。
『ゲームディスクをクリアしたお陰で、私の準備したプログラムが起動したんだ。首輪の機能を停止させるプログラムがね。
だから盗聴される心配も、遠隔操作で首輪を爆破される心配も無いよ』
成る程、と思った。
今の言葉が事実なら、確かに首輪を外す事は可能だろう。
聞いた話によれば、ことみは一度首輪の解除に成功している。
主催者サイドからの妨害さえ防げれば、生きている人間の首輪だって外せる筈。
首輪の解除は、主催者打倒の絶対必須条件して、最大の難関。
それを成し遂げられると云うのは、私達にとって最高の話だ。
「それで? まさか、そんな都合の良過ぎる話を信じるとでも思ってるの?」
『え…………?』
だから――当然、信じる事なんて出来なかった。
「梨花ちゃん、ちょっと――――」
「ことみは黙ってて。瑞穂もアセリアも、暫く口を挟まないで頂戴。
此処は私に任せて貰うわ」
諌めようとしてきたことみを、問答無用で一蹴する。
性格的に甘い所のある瑞穂とアセリアにも、しっかりと釘を刺しておいた。
人を信じる事の大切さは十分に理解しているが、それはあくまでも仲間内での話。
敵陣営に属している人間相手ならば、まずは疑って掛かるのが普通。
軽率な判断を下した所為で罠に嵌められてしまった、という事態は避けなければならない。
「鈴凛――首輪を作ったのは貴女よね? つまり貴女は、鷹野の協力者という事になる。
そんな貴女が、どうして今更私達に力を貸そうとしているの?」
『それは…………』
「私達に味方してくれる気があるのなら、もっと早くに行動すれば良かった。
そうすれば、潤や圭一達だって死なずに済んだのに……っ!」
首輪の機能を無効化出来るのなら、何故今頃動いたのだ。
殺し合いが始まってすぐに、そのプログラムとやらを起動してくれれば、皆死なずに済んだ筈。
大勢の人々を見殺しにしておいて、今更手を貸すなんて云われても、信じられる訳が無い。
『うん、梨花ちゃんの云う通りだね……。でも私は鷹野に監視されていて、自分からは行動を起こせなかったの。
だからディスクにプログラムの起動キーを組み込んで、誰かが攻略してくれるのを待つしかなかった』
「そう。つまり私達が泥水を啜っている間、貴女は保身に走っていたって訳ね。
そんな汚い人間…………信じられるもんかああああああっ!!」
『――――っ』
一喝。
自身の内に巣食っていた鬱憤を、鈴凛目掛けて思い切り叩き付けた。
鈴凛は、潤を、風子を、圭一を……皆を、見殺しにしたのだ。
許せない。
認められない。
信じられない。
怒りで頭が埋め尽くされ、何も考えられなくなった、その時。
懐かしい――とても懐かしい声が、直ぐ傍から聞こえてきた。
「……落ち着くのです、梨花」
「え――――」
私は、自分の目を疑った。
気が遠くなる程の永い時を共に過ごし、だけど私の前から消えてしまった友達。
ずっとずっと会いたくて堪らなかった、時の輪廻の大切な同朋。
それが今、目の前に…………立っていた……。
|199:[[第六回定時放送]]|投下順に読む|200:[[ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(後編)]]|
|201:[[ひと時の安らぎ]]|時系列順に読む|200:[[ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(後編)]]|
|199:[[かけらむすび]]|古手梨花|200:[[ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(後編)]]|
|199:[[かけらむすび]]|アセリア|200:[[ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(後編)]]|
|199:[[かけらむすび]]|宮小路瑞穂|200:[[ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(後編)]]|
|199:[[かけらむすび]]|一ノ瀬ことみ|200:[[ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(後編)]]|
|199:[[第六回定時放送]]|鷹野三四|200:[[ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(後編)]]|
|199:[[第六回定時放送]]|鈴凛|200:[[ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(後編)]]|
|193:[[贖罪/罪人たちと絶対の意志(後編)]]|羽入|200:[[ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(後編)]]|
|190:[[CARNIVAL]]|ハウエンクア|200:[[ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(後編)]]|
|190:[[CARNIVAL]]|桑古木涼権|200:[[ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(後編)]]|
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**ブルーベリー・パニック/決戦の幕開け~宣戦布告~(前編)) ◆guAWf4RW62
放送。
それは全ての参加者達に深い悲しみを齎す、絶望の鐘。
僕――宮小路瑞穂は、C-4とC-3の境界線に位置する草原で、六回目となる放送に耳を傾けていた。
『……なんかよく判らなくなったので、この辺りで終わりにするよ。
それじゃあ、また次の放送で』
……放送が終わった。
呼ばれた人数は、八人。
生き残っていた人々の実に半数近くが、僅か六時間の間で命を落としてしまったのだ。
そんな驚くべき事実を聞いても、僕達は取り乱したりしなかった。
ノートパソコンに搭載されている、殺害ランキングと云う機能のお陰で、死亡者に関する情報は予め入手してある。
だからこそ、何とか冷静さを失わずに済んだ。
けれど、耐える事が出来たとは云え、悲しみは決して無くならない。
大切な人の死を改めて突き付けられたアセリアさんは、きっと心が裂けるような痛みを感じている筈だ。
「……ミズホ」
向けられたアセリアさんの視線は、消え入りそうに弱々しい。
青い瞳の奥底には、一目で見て取れる程の悲しみの色が浮かび上がっている
こんな時にどういう言葉を掛けてあげれば良いのか、僕には分からなかった。
だから僕は口を閉ざしたまま、アセリアさんの肩をそっと手を乗せた。
壊れやすいガラス細工を扱う時のように、出来るだけ優しく撫でる。
「ミズホの手……暖かい」
アセリアさんは小さく呟いて、静かに僕の手を取った。
触れ合っている肌の部分から、アセリアさんの存在が伝わってくる。
そうしていると、不思議と僕の心まで暖かくなって来た。
冷たい雪山の中でお互いを暖め合っているような、そんな感覚。
そのままの状態を暫く続けていたが、やがて梨花さんが声を投げ掛けてきた。
「瑞穂、アセリア、そろそろ……ね? 残酷なようだけど、私達には立ち止まってる時間なんか無いわ」
「……ん、分かった。ミズホ……もう大丈夫だから、行こう」
梨花さんの声に応えて、アセリアさんはゆっくりと僕から離れて行った。
そうだ――僕達はどんなに辛くても、歩き続けなければいけない。
それこそが死んでいった沢山の仲間達に報いる、唯一の方法に他ならない。
「そうですね……では改めて、役場に向かいましょう」
僕達は再び歩き出す。
それぞれの胸に、大きな悲しみを抱えながら――
◇ ◇ ◇ ◇
放送から一時間半後。
歩きやすい草原や市街地を通ってきたお陰で、僕達は大した苦労も無く役場に辿り着いた。
「……酷いの」
開口一番に、ことみさんが眼前の建物を眺めながら呟いた。
それは、僕が抱いた感想と全く同じもの。
役場らしき建物は、扉を中心に夥しい程の切り傷が刻み込まれている。
一目見ただけでも、この地で行われた戦いがどれ程激しい物だったか、容易に推し量る事が出来た。
しかし、だからといって尻込みしている訳にもいかない。
この役場の中の何処かに、『特別なゲームディスクを必要としているパソコン』がある筈なのだから。
「アセリアさん……如何ですか?」
「……ん、大丈夫。今の所……私達以外の、誰の気配もしない」
僕達は慎重な足取りで、役場の中へと侵入してゆく。
建物の内部は、一部がピンク色の粉に汚されていたものの、大きな損傷は見受けられなかった。
静まり返ったフロアの中で、案内所に掛けられた振り子時計の音だけが、規則正しく鳴り響いている。
「潤の話によれば、パソコンは此処に置いてあるらしいわ」
そう云って梨花さんが指差したのは、案内板の隅に載っている仮眠室という場所だった。
案内板の地図を参考にして移動すると、仮眠室は直ぐに見付かった。
早速アセリアさんが、扉のノブを掴んで押し開けようとする。
けれど扉はガチャガチャという音を立てるだけで、何度やっても開きそうには無かった。
きっと、鍵が掛けてあるのだろう。
「皆さん、ちょっと此処で待っていて下さい。鍵を取ってきますね」
建物の内部が安全なのは既に確認済み。
だから僕は、一人で鍵を取りに行こうとしたのだけれど――
「……ん、必要無い。開かないのなら……壊せば良いだけ」
「え――――」
掛けられた声に、慌てて振り返る。
するとアセリアさんが、永遠神剣第四位『求め』を天高く振り上げている所だった。
アセリアさんはそのまま、手にした大剣を扉目掛けて振り下ろす。
「てやああああああっ!!」
「…………っ」
鳴り響く轟音、飛散する木片。
アセリアさんの放った凄まじい一撃は、仮眠室の扉を粉々に粉砕し尽くした。
「うん……これで入れる」
余計な手間を省いてみせたと云わんばかりに、若干得意げな表情を浮かべるアセリアさん。
僕、ことみさん、梨花さんは僅かばかりの間呆然としていたが、やがて三人揃ってアセリアさんに歩み寄る。
そして大きく息を吸い込んだ後に、放ったのは。
「「「――アセリア(さん)っ!!」」」
軽率な行動を叱責する、怒りの叫びだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「ふう……」
……流石に、さっきは生きた心地がしなかったの。
仮眠室の奥に置いてあったパソコンが無事だと確認してから、私、一ノ瀬ことみは小さく溜息を吐いた。
仮眠室には色あせた畳が敷き詰められており、中央には布団も敷いてあった。
廊下では、今も瑞穂さんがアセリアさんに説教を続けている。
対するアセリアさんは、飼い主に叱られた子犬のように力無く項垂れていた。
少し可哀想な気もするけれど、今回ばかりは仕方ないの。
もし部屋の入り口付近にパソコンが置いてあれば、扉ごと壊されてしまったかも知れないのだから。
「やれやれね……。まあとにかく、パソコンが無事で良かったわ。
あんな事で希望が絶たれるなんて、笑い話の種にもなりはしない」
横に居る梨花ちゃんが、心底呆れた顔で呟いた。
出会ってからこの方、梨花ちゃんはずっとこのような口調だ。
艶やかな黒色の長髪、大きな瞳、そして私よりも数十センチは低い身長。
幼い外見をしているにも関わらず、随分と大人びた話し方をする女の子だと思う。
「それじゃ、早速パソコンを動かしてみましょうか」
「うん、分かったの」
私は小さく頷いた後、徐にパソコンの電源ボタンを押す。
そのまま暫く待っていると、やがて全く見覚えの無いOSが起動した。
……こんなOS、少なくとも私の知る限りでは存在しない。
もしかしたら、この殺し合いの為に用意された特殊な物かも知れない。
普通のパソコンなら、内部のデータを根こそぎ抜き出すという手もあったけど、それは不可能になった。
下手に弄って故障してしまったら、もう取り返しが付かないの。
此処は素直に、フカヒレさんのゲームディスクを起動させてみるべきだろう。
「準備良し……と」
ゲームディスクを挿入してから、ディスプレイ上にあるアイコンをダブルクリックする。
デフォルトされた女の子の顔をしたアイコンは、この島には不釣合いな程に可愛らしい。
けれどこれは、あくまでカモフラージュに過ぎない筈。
梨花ちゃんがじっとディスプレイを眺めながら、口元を笑みの形に歪めた。
「ふふ、鬼が出るか蛇が出るか――楽しみね」
「うん……きっと、何か凄いものが隠されていると思うの」
特別なディスクを必要とするパソコンと、特定の個人名が入ったゲームディスク。
どちらか片方が欠けてしまえば、このアイコンのプログラムは動かせない。
過酷な殺し合いの中で特定のアイテムを二つ共揃えるのは、決して容易では無い。
寧ろ、極めて困難であると云っても過言ではないだろう。
これだけの労力を必要とするのだから、起動に成功した暁には、きっと想像も付かないような物が手に入る筈なの。
それが何かは分からない。
とても重要な情報かも知れないし、主催者の準備した恐ろしい罠という可能性だってある……!
そう考えた私は梨花ちゃんと一緒に、期待と不安の入り混じった目でディスプレイを注視していたのだが――
やがてディスクの起動が完了し、ディスプレイにある画像が浮かび上がってきた。
「…………は?」
梨花ちゃんの口から、呆然とした声が漏れ出る。
ディスプレイに映し出されたのは、愛くるしい女の子達の顔、顔、顔。
画面上部に表示されているタイトルは、『ブルーベリー・パニック』……何だかとっても甘そうな名前なの。
何処から如何見ても、所謂恋愛ゲームのようにしか見えない。
つまり、このゲームディスクは――名前通り、フカヒレさんのギャルゲーだったのだ。
「……コメントする気も起きないわね」
梨花ちゃんは疲れた声で呟いた後、敷いてあった布団の中に潜り込んだ。
無理もない。
私だって今すぐそうしたい気分だ。
一縷の望みに懸けて、わざわざこんな遠くまで来たのに、得られた物が只のゲームでは余りにも報われない。
罠だったのなら未だ理解も出来るが、こんな毒にも薬にもならないような物を用意して、主催者は何がしたかったのだろうか。
まさかこんな殺し合いの最中に、暢気にゲームで遊ぶ人がいる訳――
そこまで考えた時、頭の中で何かが引っ掛かった。
殺し合いの最中にゲームで遊ぶ。
それは普通に考えれば有り得ない、愚か極まりない行動。
けれど私は少し前、その愚行を勧められた筈だ。
そう――六回目となる放送をした人物に、勧められたのだ。
一体、何故?
「梨花ちゃん、ちょっと聞いて欲しいの」
「……何?」
いかにも不機嫌といった表情で、梨花ちゃんが布団の中から顔を出す。
私は少し間を置いてから、浮かんだ疑問をそのまま口にした。
「さっきの放送をした人――鈴凛さんは、『適当にゲームとかして遊んだりしてもいいかもね』と云っていたの。
もしかしたらアレは、私達に向けられたメッセージだったのかも知れない」
「……タイミング的に考えるとそうかもね。でも、それがどうかしたの?
要するに、鷹野の手下が私達をからかったって事でしょ? 考えるだけでも苛立ってくるわ」
「ううん、それは違うと思う」
梨花ちゃんが吐き捨てるように云ったが、私は首を大きく横に振った。
勿論、梨花ちゃんの云い分が正しい可能性だってある。
鈴凛さんは、ゲームディスクに夢中になっている私達を嘲笑っていただけかも知れない。
けれど――
「死亡者発表をしている時の鈴凛さんの声……とっても悲しそうだったの。
皆の死を悲しめるような人が、私達を嘲笑う為だけに、あんな事を云ったりはしないと思う。
多分、ゲームディスクには何かしらの意味があるの」
高嶺悠人さんや千影さんの名前を呼んだ時、鈴凛さんの声は明らかに震えていた。
決して気の所為なんかじゃないと、思う。
人の死を悲しめる彼女は、鷹野のような悪魔とは明らかに違うタイプの人間だ。
「何か確証はあるの? それとも只の直感かしら?」
「確証は無いの。でもきっと、鈴凛さんは悪い人じゃない筈……」
値踏みするような梨花ちゃんの視線が、私に突き刺さる。
じっと見つめ合う事十数秒、やがて梨花ちゃんが表情を緩めた。
「分かったわ……貴女に懸けてみましょう。
サイコロは振らなきゃ目が出ない――何事もやってみなければ始まらないものね」
梨花ちゃんは力強い言葉と共に頷いてくれた。
こうして梨花ちゃんの同意も得られ、私は『ブルーベリー・パニック』というゲームをプレイする事になった。
まずはこのゲームに関する説明を一読して、『ブルーベリー・パニック』の大まかな内容を理解した。
説明文は、以下のような感じだったの。
――アストラエアの丘、そこには、三つの女学校が建ち並んでいました。
聖ミアトル女学園、聖スピカ女学院、聖ル・リム女学校。
そして、その敷地のはずれにある三校共通の寄宿舎である、ブドウ舎。
アストラエアの丘……それは男子が立ち入る事の許されない聖域でした……。
聖ミアトル女学園に編入する事になった蒼井渚(高校1年生・女子)は、新しい学園生活への期待と不安で胸がいっぱいです。
プレイヤーである貴方は渚を操作して、秘密の花園に集う乙女達との親睦を深めてあげて下さい!
説明は以上。
……何だかとっても危険な予感がするけど、きっと気のせいなの。
舞台は女子校。
常識的に考えて、女の子同士でいかがわしい行為をするなんて事は無いだろう。
このゲームは、女の子同士で友情を深めていくという、すこぶる爽やかな内容の筈。
一抹の不安を振り払った私は、意気揚々と『ブルーベリー・パニック』の世界に飛び込んだ。
『うう……間に合わないよ~~!!』
ポニーテルの美少女、蒼井渚は一生懸命走っていた。
転校初日から、遅刻しそうになっていたのだ。
だが努力の甲斐もあって、遅刻せずに学校の敷地地内へと駆け込む事が出来た。
『うわあ、この制服素敵……。あ、この制服も可愛いかも……!』
登校途中の女子学生達は皆華やかな制服を着用しており、渚は思わず目を奪われてしまう。
しかし、走りながらの余所見は非常に危険。
前方不注意だった渚は茂みに突っ込んでしまい、そのまま坂を数十メートル程転げ落ちた。
……とってもツッコミたい気分だけど、我慢するの。
気を取り直した渚は、何とか立ち上がって再び歩き始める。
そんな折、渚の前に一人の女性が現われた。
『すっごく綺麗な人……』
呆然としている渚の口から、そんな言葉が零れ落ちた。
これには私も同意出来る。
現われた女性は、銀色の長髪と切れ長の瞳を湛えた、とても美しい人だった。
女性は大人の風格を漂わせており、あくまでゲーム上の登場人物に過ぎないというのに、思わず私まで圧倒されてしまう。
その後幾つか会話を交わして、女性は花園静馬(はなぞのしずま)という名前である事が分かった。
『フフ……』
突然、静馬さんが穏やかな微笑みを浮かべた。
全てを包み込む聖母のような、見ているだけで心が癒されるような、そんな笑顔。
途端に渚は身体が硬直して、動けなくなってしまう。
渚の頬は、リンゴよりも真っ赤に染まっている。
そんな渚の肩を、静馬さんは優しく抱き寄せた。
徐々に近付いてくる、静馬さんの唇。
え……。
この展開は、まさか――――
『えぇ――――!?』
「えぇ――――!?」
パソコンから放たれる渚の絶叫と、私自身の放った絶叫が、部屋中に木霊する。
画面の中では、静馬さんが渚の額に口付けをしていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「――ことみさん、どうしたんですか!?」
「……コトミッ!?」
ことみさんの叫び声を聞き取った僕とアセリアさんは、部屋の中へと駆け込んでいった。
すると真っ赤な顔をして俯いていることみさんと、呆れ顔の梨花さんが目に入った。
事態を把握すべく、僕は梨花さんに質問を投げ掛ける。
「梨花さん、一体何があったんですか?」
「……瑞穂、実はね――――」
そうして僕とアセリアさんは、梨花さんから一通りの説明を受けた。
ことみさんはゲームディスクに重大な秘密が隠されていると考え、『ブルーベリー・パニック』というゲームをプレイしていた。
しかし予想を大幅に上回るハードな内容――平たく云えばレズ物だった為に、耐え切れなくなってしまったのだ。
「ことみはあんな様子で、もうゲームを続けられそうも無い。だから、代わりに貴女がこのゲームをやってくれないかしら?
このゲームをクリアすれば、何かが起こるかも知れないのよ」
「え、でも……」
「私はパソコンの操作方法が未だ余り分からないわ。如何考えても、貴女の方が適任よ」
「……分かりました、やれるだけやってみます」
正直な所、やる気は全くしない。
っていうか、する筈が無い。
何が悲しくて、レズ物の恋愛ゲームなどプレイしなくてはいけないのか。
女装したままレズ物のゲームをプレイする変態、宮小路瑞穂。
……自分で云ってて悲しくなってきた。
だけど、それでも僕がやるしかないのだ。
今のことみさんにプレイを強いるのは酷だし、アセリアさんや梨花さんでは上手くパソコンを扱えないだろう。
「あああ……なんでこんな事に…………」
僕はぼやきながらも、パソコンの画面と向き合った。
画面の中では、主人公の蒼井渚が目を醒ました所だった。
『――何だったの? 全部夢だったの?』
静馬さんにキスされた後、渚は気を失っていたようだ。
気絶したまま、近くにある校舎の病室まで運ばれたらしい。
暫くベッドで呆然としていた渚だったが、やがて横に居る人影に気付く。
『うわあ!? 貴女は一体……』
『ごめんなさい、驚かせてしまいましたね。あんまり寝顔が可愛いものだから、思わず見惚れてしまいました。
初めまして、私は涼水玉青(すずみたまお)です』
僕は渚を操作して、玉青さんとの会話を続けてゆく。
どうやら玉青さんは、渚と同じ寮、同じ部屋の、所謂ルームメイトであるようだった。
外見は可愛い子なのだが……明らかに態度が可笑しい。
『渚さんの可愛い寝顔を眺めていたら、あっという間に時間が過ぎていました』などという恥ずかしい台詞を、平気で云ってのける。
しかも初対面であるにも関わらず、3サイズまで測ってきたのだ。
レズ志向の子であると考えて、まず間違いないだろう。
「うう……このゲームはこんな子ばかりなのかな……」
僕が通っていた聖應女学院にもレズ志向の子は沢山居たが、ここまであからさまな子は初めてだ。
僕は頭が痛くなる感覚を覚えながらも、着々とゲームを進めてゆく。
その後も様々な女の子が登場したが、一人の例外も無くレズ志向だった。
そんな中でも特に印象的なのが、物語の始めにいきなりキスをしてきた静馬さんだ。
花園静馬――三校の生徒会を束ねるエトワール。
歩くだけで、周囲の視線を一身に集める程の美人。
因みにエトワールとは、現実世界で僕が就いているエルダー・シスターと同じようなものだ。
全校で最も人気のある者が就く、生徒達を纏めるリーダー的役職だと考えて貰えば、分かり易いだろう。
そんな名誉ある地位の静馬さんだが、渚に対する彼女の行動はとにかく凄まじい。
『ふふ……可愛い子ね』
そう云って、渚の身体を抱き寄せる静馬さん。
今彼女達が居る場所は大食堂で、当然他にも多くの生徒達が居る。
にも関わらず静馬さんは、堂々とキスしようと試みているのだ。
静馬さんが迫って来たのは、今回だけではない。
ある時は野外で、ある時は真夜中のプールで、場所も人目も気にせずキスしようとしてくる。
迫られる側の渚もまんざらではないらしく、大した抵抗はしない。
殆どは途中で邪魔が入って、キスの実行には至らないものの、両者の気持ちが通じ合っているのは明らかだった。
これだけ書くと、明らかに有り得ない。
人目も憚らず同性愛にのめり込む彼女達の姿は、常人から見れば異常としか云いようが無いだろう。
だけど……僕には、渚や静馬さんの気持ちが少なからず理解出来てしまった。
その理由は、もう少し後で述べる事にする。
物語は順調に進んでゆき、渚は静馬さんと共に舞台劇を行う事になった。
しかし練習初日、予期せぬ事態が起こる。
アクシデントが発生し、舞台セットの一部が倒れてしまったのだ。
『きゃあああああっ!』
渚に向けて、全長五メートルはあろうかという巨大な板が迫る。
このまま下敷きになってしまえば一溜まりも無いが、渚は腰が抜けてしまって動けない。
だがそこで渚に走り寄る、一つの影。
『――渚ぁぁぁぁっっ!!』
颯爽と駆け付けた静馬さんが、渚を抱き上げて離脱する。
お陰で渚も含めた全員が、怪我一つせずに済んだ。
静馬さんは美しいだけでなく、男の僕から見ても格好良い。
紫苑さんのような女性特有の色香と、武さんのような力強さ、その両方を持ち合わせているのだ。
流されるままエルダー・シスターになった僕とは比べ物にもならない、本物のリーダー。
これでは渚が惹かれてしまうのも、無理はないだろう。
そして渚もまた、静馬さんに釣り合うだけの魅力を持っている女の子だった。
『静馬様が、あれだけ熱心に教えてくれてるんだもの。私だって頑張らないと……!』
演劇のリハーサルが終わった後も、独り残って練習をし続ける渚。
何でも完璧にこなす静馬さんに比べ、渚の演技は余りにも稚拙。
はっきり云ってしまえば、役者としての才能が違い過ぎる。
それでも渚は諦めずに、昼夜を問わずに努力し続けていた。
元気だけが自分の取り得だと云って、何時も笑顔で頑張っていた。
その甲斐あって、劇の本番では素晴らしい演技を魅せる事が出来た。
どんな苦難にも立ち向かってゆける強い心と、全てを照らす太陽のような笑顔――それが、渚の魅力だ。
方向性こそ違うものの、誰にも負けない長所を持った渚と静馬さん。
そんな彼女達が惹かれ合うのは、ごく自然な事だったのかも知れない。
渚と静馬さんの距離は急速に縮まってゆき、やがて深い絆で結ばれるようになった。
……嘗ての、僕と貴子さんのように。
だが、幸せは何時までも続かない。
玉青さんの発言から判明した事実が、渚の心に大きな波紋を齎した。
『え……玉青ちゃん、それは本当なの?』
『はい。静馬さんには、嘗てパートナーが居ました。深く愛し合った末、共にエトワールに就かれた人が……』
その後も、静馬さんやエトワールに関する説明は続いた。
概要を纏めると、以下のようになる。
本来エトワールとは一人では無く、強い絆を持った二人が一丸となって務める役職だったのだ。
此処で云う強い絆とは、レズ的な意味を想像して貰えれば、大きな間違いは無いと思う。
レズ必須の役職って倫理的に考えて如何かとは思うけど……ともかく、そういう事らしい。
次に、静馬さんについてだ。
静馬さんには、共にエトワールとなったパートナーが存在した。
桜木花織(さくらぎかおり)さんという方だ。
花織さんは嘗て静馬さんと深く愛し合っていたが、持病の所為で既に他界してしまった。
最後に、これは玉青さんも知らない事だが――静馬さんの心には、今も花織さんの存在が深く根付いていた。
渚を、花織さんの代わりとして利用している部分があったのだ。
いかな静馬さんといえど、そのような気持ちを何時までも隠し通せる筈が無い。
真実に気付いた渚は、大喧嘩の末静馬さんと決別してしまった。
そして静馬さんとの仲は戻らぬまま、渚は新たな運命の奔流に巻き込まれる。
現在のエトワールは静馬さんだが、彼女は後半年で卒業する。
故に、次のエトワールを決める選挙――通称エトワール選が行われる事となった。
そのエトワール選に、渚は玉青さんと組んで出馬する事になったのだ。
エトワールに当選してしまえば、渚と玉青さんは否応無く恋人的な関係を強要される。
未だ静馬さんへの想いを吹っ切れていない渚が、自分からエトワール選に出る筈も無い。
渚が出馬したのは、他ならぬ静馬さんの命令によるもの。
静馬さんは、玉青と付き合わせた方が渚を幸せに出来ると判断し、そんな命令を下したのだ。
「これは……私に道を選べって事みたいね……」
此処で、パソコンの画面上に二つの選択肢が表示された。
静馬さんとの復縁を狙うか、もしくは玉青さんと新たな道を歩むか、である。
こういった類のゲームは、誰か一人と円満な仲を築ければ、それでゲームクリアになる。
心情的には渚を静馬さんと仲直りさせて上げたいが、それは恐らく難易度が高い筈。
ゲームオーバーになってしまう危険性も、十分考えられる。
逆に玉青さん狙いでプレイしてゆけば、何ら問題無くゲームクリアする事が出来るだろう。
仲直りの為の行動さえ起こさねば、このまま玉青さんと結ばれる筈なのだ。
時間は有限なのだから、最初からゲームをやり直しているような暇は無い。
故に僕は私情を捨てて、玉青さんとの道を選ぼうとしたのだが――その時、誰かが僕の肩を軽く叩いた。
「……アセリアさん、如何したんですか?」
背後へと振り返ると、アセリアさんの姿が視界に入った。
アセリアさんは何処までも澄んだ眼差しで、じっとこちらを見詰めている。
「……ミズホ、諦めたら駄目。何とかして……仲直りさせて上げて欲しい」
「――え?」
「このままじゃ……ナギサやシズマが可哀想」
縋るような表情で、必死に訴え掛けてくる。
アセリアさんは純粋な心を持っている分、ゲーム中の登場人物にも深く感情移入しまうのだろう。
……僕だって、出来れば渚は静馬さんと結ばれて欲しい。
この島は悲し過ぎる運命で溢れ返っているから、仮想空間の中だけでも幸せな結末を見たい。
流れに身を任せたまま、渚が玉青さんと結ばれたとしても、それは決して幸せな結末だとは云えないだろう。
「大丈夫――ミズホなら、きっとやれる」
揺るぎの無い、力強い言葉。
アセリアさんは、こんな僕の事をこれ以上無いくらい信頼してくれている。
だったら――応えないと。
アセリアさんの信頼に応えて、渚と静馬さんを助けて上げないと。
僕はアセリアさんに向けて大きく頷いた後、再びマウスを手に取った。
目標は静馬さんとの復縁。
エルダー・シスターとしての誇りに懸けて、絶対成し遂げてみせる。
僕が考えるに復縁の鍵となるのは、決して諦めずに何度も話し合う事だ。
確かに静馬さんは、渚を花織さんの代わりとして愛していた。
だけど、それだけじゃない筈。
少なからず渚自身の事も、愛していた筈なんだ。
お互いの気持ちを余す事無く伝い合えれば、きっと以前のような関係に戻れる。
だから僕は、渚を静馬さんの下に向かわせ続けた。
けれど静馬さんも軽い気持ちで、渚さんとの別れを決意した訳じゃない。
最初は上手く行かなかった。
『渚――貴女はエトワール選に出なければいけないのよ。
こんな所で油を売っている暇があったら、ダンスの練習でもしてきなさい』
一昔前からは考えられないような、素っ気無い言葉。
何度話し掛けようとも、静馬さんは渚を冷たくあしらうだけだった。
その度に渚は傷付いていったが、それでも僕は行動方針を曲げなかった。
今渚にとって重要なのは、痛みから逃げる事などではなく、静馬さんと一つでも多くの言葉を交わす事なのだから。
そうやって諦めずに静馬さんの所へ通っていると、徐々に変化は訪れてきた。
静馬さんの口調が心無しか柔らかくなって、会話も長続きするようになった。
冷たくあしらわれたりもしない。
少しずつ、だけど確実に渚と静馬さんの距離は縮まっていった。
だけど二人の仲を元通りに戻すには、余りにも時間が足りない。
審判の時――エトワール選決行日は、静馬さんとの復縁を成し遂げる前に訪れてしまった。
『(お願い……如何か、エトワールに選ばれませんように……)』
場所は教会の大聖堂。
全校生徒の視線を浴びながら、渚はひたすら祈り続けた。
エトワールに選ばれてしまったら、もう静馬さんとの復縁は絶望的になる。
パートナーであるもう一人のエトワール、玉青さん以外と交際するのは許されないからだ。
(玉青さんには悪いけど……お願い。渚さんをエトワールに選ばないであげて……)
僕も渚と同様、一生懸命祈った。
渚に、静馬さんと復縁し得るだけの時間を与えて欲しかった。
僕と貴子さんは離れ離れになってしまったけど、渚だけでも幸せになって欲しい。
『投票結果を発表します』
だけど、運命とは残酷なもので――
『次期エトワールは、蒼井渚さんと涼水玉青さんに決定致しました』
絶望を報せるアナウンスが、大聖堂内に流された。
どさりと、渚が膝から地面に座り込む。
……終わった。
僕はアセリアさんの期待に応えられなかったし、渚を幸せにしてあげる事も出来なかった。
ゲームディスクをクリアするという目的すらも、果たせなかった。
最初からやり直す事は可能だが、貴重な時間を浪費してしまったのは間違いない。
自分への怒りと失望が、僕の心を覆い尽くす。
だが――未だ、終わってはいなかった。
唐突に大聖堂の扉が開け放たれ、そこからとある人物が現われた。
『――静馬、様……?』
渚の口から、呆然とした声が零れ落ちる。
銀色の美しい髪、切れ長の澄んだ瞳。
現われたのは、静馬さんだった。
静馬さんは驚愕する生徒達の視線を一身に受けながら、呆然とする渚に歩み寄った。
『渚…………ッ! 他の誰でも……花織でもない……。私は貴女を――』
渚に向けて手を差し出しながら、張り裂けんばかりの声で叫ぶ。
『――――愛してるの!!!!』
大聖堂内に木霊する絶叫。
それは静馬さんの心から漏れ出た、魂の叫びに他ならない。
渚は強く地面を蹴って、静馬さんの胸へと飛び込んだ。
『静馬様…………、静馬さまぁ…………っ!!』
『渚……!』
ざわざわと騒ぐ生徒達の声も、今の二人には届かない。
すれ違っていたこれまでの時間を埋めるべく、強く、強く、抱き締め合う。
どれ程の間、そうしていただろうか。
やがて、静馬さんが悪戯っぽい微笑みを浮かべた。
『――渚、行くわよ』
『え……、わわっ!?』
突然、静馬さんが渚の手を引いて走り始めた。
大聖堂の扉を潜り抜けて、大きく広がる外の世界へと躍り出る。
ある程度教会から離れた所で、渚が足を止めて問い掛けた。
『静馬様、これから如何しましょう?』
『……さあ、如何しようかしら』
『え――何も決めてないんですか?』
エトワール選の最中にあのような行動をするなど、前代未聞の蛮行。
故に何か対策があると思っていたのだが、どうやら違うようだ。
静馬さんは紅く頬を染めた後、小さな声で呟いた。
『仕方無いでしょ……貴女をさらう事だけ考えていたんだから』
『はぁ…………』
渚が困った表情で相槌を打つ。
そんな渚の肩を、静馬さんは優しく抱き寄せた。
互いの吐息を感じ取れる程の距離となり、渚の顔が瞬く間に紅潮してゆく。
『渚――――愛してるわ』
触れ合う唇と唇。
熱き乙女の胸のたぎりは、遙かなる蒼穹に昇華し、気高く美しき新たなる星を産み落とす。
寄り添い合う二つの星は、鮮烈な光を放ち、永遠に輝き続けるだろう。
【ブルーベリー・パニック:HAPPY END】
……これ何て駆け落ちエンド?
それが僕の抱いた、最初の感想だった。
いや、渚と静馬さんが無事結ばれたのは、凄い良かったんだけどね。
僕が一息吐いていると、アセリアさんが労いの言葉を投げ掛けてくれた。
「……ミズホ、良くやった」
「ええ。でも、今の所何も起きませんね」
ゲームをクリアしたものの、パソコンの画面には何の異変も見られない。
もしかして、何の秘密も隠されていない、只のゲームディスクに過ぎなかったのだろうか?
そんな疑問も湧き上がったが、もう暫くは様子を見る事にする。
「瑞穂さん、お疲れ様なの」
「有り難うございます」
今度は、横からことみさんがペットボトルを差し出してきた。
僕はにっこりと微笑んでからから、それを受け取る。
「……でも、私知らなかったの」
「え、何をですか?」
発言の意図を理解しかねて、思わず僕は聞き返した。
一瞬の沈黙。
その後ことみさんが放った言葉は、予想だにしないものだった。
「瑞穂さん…………女の子同士で、というのが好みだったなんて」
「――――――ッ!?」
な……ななななな、何か壮絶に勘違いされてる――――!?
女装趣味の上、レズビアン嗜好の男、宮小路瑞穂。
……どう考えても変態です、本当にありがとうございました。
僕は力無く崩れ落ちて、地面に両膝と両手を付いた。
何故か周囲が暗くなって、僕の身体だけがスポットライトで照らし上げられているような錯覚に囚われる。
気だるい脱力感が全身を覆い尽くし、気力も萎えそうになってしまった。
だが――そんな僕の意識を覚醒させたのは、パソコンから発された一つの声だった。
『……あー、あー。そこの貴女達、聞こえてるかな?』
◇ ◇ ◇ ◇
「こ、これは……!?」
私、古手梨花の目には驚くべき光景が飛び込んで来ていた。
直ぐ傍では、瑞穂達も驚愕の表情を浮かべたまま立ち尽くしている。
突如パソコンの画面に、見知らぬ少女の顔が映し出されたのだ。
少女は頭に大きなゴーグルをつけており、歳は中学生位といった所だろうか。
少女の口が動き、それと同時にパソコンのスピーカーから声が聞こえて来た。
『私は鈴凛――覚えてると思うけど、さっきの放送を読み上げた本人だよ』
確かに、この声には聞き覚えがある。
第六回放送を行った者と同一人物であると考えて、まず間違い無い。
鈴凛――ことみの推測によれば、悪人では無い可能性が高い人物。
無警戒に信頼は出来ないが、取り敢えず話を聞いてみる価値はあるだろう。
「そう……それじゃ、用件を聞かせて貰いましょうか」
まどろっこしい腹の探り合いなどに興じるつもりは、毛頭無い。
単刀直入、余計な言葉を一切交えず私は問い掛ける。
それで私の意図は伝わっただろうに、鈴凛は念を押すように云った。
『……落ち着いて聞いてね。これは貴女達にとって、とても重要な事だから』
「前置きは要らないわ。早く本題に入って頂戴」
どうやら、余程重要な事を話そうとしているらしい。
ゴクリと、横で瑞穂が唾を飲み込む音が聞こえた。
鈴凛は意を決した表情で、ゆっくりと次の言葉を紡いだ。
『今なら――首輪を外せるよ』
瞬間、意識が凍り付いた。
いや、それどころでは無い。
余りの衝撃に、全身、手足の先までもが完全に硬直してしまっている。
『ゲームディスクをクリアしたお陰で、私の準備したプログラムが起動したんだ。首輪の機能を停止させるプログラムがね。
だから盗聴される心配も、遠隔操作で首輪を爆破される心配も無いよ』
成る程、と思った。
今の言葉が事実なら、確かに首輪を外す事は可能だろう。
聞いた話によれば、ことみは一度首輪の解除に成功している。
主催者サイドからの妨害さえ防げれば、生きている人間の首輪だって外せる筈。
首輪の解除は、主催者打倒の絶対必須条件して、最大の難関。
それを成し遂げられると云うのは、私達にとって最高の話だ。
「それで? まさか、そんな都合の良過ぎる話を信じるとでも思ってるの?」
『え…………?』
だから――当然、信じる事なんて出来なかった。
「梨花ちゃん、ちょっと――――」
「ことみは黙ってて。瑞穂もアセリアも、暫く口を挟まないで頂戴。
此処は私に任せて貰うわ」
諌めようとしてきたことみを、問答無用で一蹴する。
性格的に甘い所のある瑞穂とアセリアにも、しっかりと釘を刺しておいた。
人を信じる事の大切さは十分に理解しているが、それはあくまでも仲間内での話。
敵陣営に属している人間相手ならば、まずは疑って掛かるのが普通。
軽率な判断を下した所為で罠に嵌められてしまった、という事態は避けなければならない。
「鈴凛――首輪を作ったのは貴女よね? つまり貴女は、鷹野の協力者という事になる。
そんな貴女が、どうして今更私達に力を貸そうとしているの?」
『それは…………』
「私達に味方してくれる気があるのなら、もっと早くに行動すれば良かった。
そうすれば、潤や圭一達だって死なずに済んだのに……っ!」
首輪の機能を無効化出来るのなら、何故今頃動いたのだ。
殺し合いが始まってすぐに、そのプログラムとやらを起動してくれれば、皆死なずに済んだ筈。
大勢の人々を見殺しにしておいて、今更手を貸すなんて云われても、信じられる訳が無い。
『うん、梨花ちゃんの云う通りだね……。でも私は鷹野に監視されていて、自分からは行動を起こせなかったの。
だからディスクにプログラムの起動キーを組み込んで、誰かが攻略してくれるのを待つしかなかった』
「そう。つまり私達が泥水を啜っている間、貴女は保身に走っていたって訳ね。
そんな汚い人間…………信じられるもんかああああああっ!!」
『――――っ』
一喝。
自身の内に巣食っていた鬱憤を、鈴凛目掛けて思い切り叩き付けた。
鈴凛は、潤を、風子を、圭一を……皆を、見殺しにしたのだ。
許せない。
認められない。
信じられない。
怒りで頭が埋め尽くされ、何も考えられなくなった、その時。
懐かしい――とても懐かしい声が、直ぐ傍から聞こえてきた。
「……落ち着くのです、梨花」
「え――――」
私は、自分の目を疑った。
気が遠くなる程の永い時を共に過ごし、だけど私の前から消えてしまった友達。
ずっとずっと会いたくて堪らなかった、時の輪廻の大切な同朋。
それが今、目の前に…………立っていた……。
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