「彼女の見解」(2008/11/23 (日) 09:14:18) の最新版変更点
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**彼女の見解 ◆guAWf4RW62
「――――っ」
燦々と降り注ぐ日光の下、広大な草原に一陣の疾風が吹き荒れる。
月宮あゆは永遠神剣で身体能力を強化して、恐るべき速度で駆けていた。
向かうべき場所は只一つ、島の最北西に位置する工場だ。
工場まではまだまだ距離があるが、今の自分ならば然程時間を掛けずとも辿り着ける筈だった。
永遠神剣による強化は脚力のみに留まらず、基礎体力にまで及ぶ。
一息の休憩すらも必要とせずに、流れてゆく景色の中を一心不乱に走り続ける。
だがある事に気付いたあゆは足を止めて、周囲をゆっくりと眺め見た。
「此処は……ボクが最初に飛ばされた場所……?」
大草原の中にポツリと存在する、乱暴に踏み荒らされた藪。
見間違う筈も無い。
今あゆが立っているのは、初めてこの島に降り立った時の場所だった。
あゆは静かに目を閉じて、今まで自分が辿ってきた道程を思い返した。
「――あれから一日半、ホントに色んな事があったなあ……。ボク、一杯悪い事しちゃった」
――六人。
これまで自分が奪った命の数。
あの国崎往人すらも上回る程、沢山の人間を殺した。
ある時は邪魔者を排除する為に、ある時は鬱憤を晴らす為に、容赦無く武器を振るって来た。
故意では無かったものの、こんな自分に良くしてくれた鉄乙女と大石蔵人も殺してしまった。
もし死後の世界という物があるのなら、自分は間違い無く地獄に堕ちるだろう。
「うぐぅ……でもそんなの関係無いもん」
死後の世界など、現実から目を背ける為の空想に過ぎない。
死んだら終わり――残るのは、完全なる無だけだ。
それが、天地開闢以来続いてきた永久不変の原理。
どれだけ高潔な理想を抱いていようとも、どれだけ立派な行いを積み重ねようとも、死ねば全てが水泡と帰す。
「ボクは未だ死にたくない……だから、変わらなきゃいけなかった。奪う側に回る為に、ボクは強い自分に生まれ変わった」
所詮この世は弱肉強食。
弱き者は死に、環境に適応出来た強き者のみが生き残る。
自分は強くなったからこそ、数度に渡る死地を乗り越えられたのだ。
脳裏に去来するは、嘗て自分に向けて放たれた二つの言葉。
――仲間を守るという鳥風情でも理解できる感情が人間の貴様に解らんとはな
――『生きたい』っていう理想だけ掲げて、ただ流されているだけの弱者だよ
「仲間を守る? ボクが弱者? 下らない……所詮は負け犬の遠吠えだよ。
甘い戯言を吐いていた鳥は死んだ。『力』が足りなかった佐藤さんも死んだ。
何としてでも生き延びるという強い『意志』と、全てを凌駕する『力』こそが、この島で生き延びる為に必要な物……!」
殺人遊戯という過酷な生存競争を勝ち残る為には、良心など溝に投げ捨て、誰よりも強い『力』を得なければならない。
名も知らぬ鳥は、愚かな義侠心の所為で死んだ。
佐藤良美は、『力』が足りなかった所為で死んだ。
両者の命を奪った自分と、物言わぬ躯と化した良美達、どちらが勝者であるかなど考えるまでも無い。
だが自分もまた、油断出来るような状況ではない。
永遠神剣は確かに強力だが、この島で生き延びるに十分足り得る程かは、些か疑問が残る。
未だこの島で生き残っている人間達は、その殆どが数多くの激戦を潜り抜けているだろう。
今の自分すらも上回る強者が存在しても、決して可笑しくは無いのだ。
特に脅威なのは、廃線を越えて北へと進んでいた際に目撃した光景。
E-5とE-6の境界線辺りで、周囲一帯の木々が軒並み薙ぎ倒されていた。
空襲でも受けたとしか思えぬ程の惨状は、あの地で行われた戦闘がどれだけ激しかったのかを物語っている。
自分が全力で永遠神剣を用いたとしても、あれ程の破壊を引き起こせる者に勝てるとは思えない。
「だから……ボクにはもっと強い『力』が要るんだ。その為には、あそこに行かなくちゃ」
北西にある工場。
そこまで行けば、ディーが準備したと云う『力』を手に入れられる筈だった。
具体的にどんな物が置いてあるのかは分からないが、ディーはこの殺人遊戯を取り仕切る絶対者。
そのディーが準備したのだから、きっと工場には永遠神剣すらも凌駕する代物が隠されているだろう。
「殺し合いを開催した張本人の力すらも借りる、か……。祐一くんや乙女さんが知ったら、きっと凄い怒るだろうね……。
でも、ボクは迷わないよ。こんな所で殺されるなんて、絶対にやだもん。
もっと生きて、お腹一杯鯛焼きを食べたいもん。ボクさえ生き残れれば、それで良いんだよ」
少しでも甘い感情を残せば、後々必ず命取りになってしまう。
故にあゆは、自身の内に残っていた良心全てを否定する。
相沢祐一との想い出も、
水瀬名雪への罪悪感も、
この島で出会った様々な人々との触れ合いも、
他人を思い遣れた嘗ての自分自身すらも、
二度と思い出せぬように意識から削り取って握り潰した。
「ボクは死なない……。どれだけ罪を犯してでも、絶対に生き延びてやるッ……!!」
生への執着に取り憑かれた少女は、工場を目指して再び走り出す。
返り血に染まったその顔には、最早嘗ての面影は残されていない。
【D-2左/二日目 昼(放送直前)】
【月宮あゆ@Kanon】
【装備:永遠神剣第七位"献身"、背中と腕がボロボロで血まみれの服】
【所持品:支給品一式x3、コルトM1917の予備弾25、コルトM1917(残り2/6発)、情報を纏めた紙×2、トカレフTT33 0/8+1、ライター】
【状態:服と槍に返り血、魔力消費大、肉体的疲労大、ディーと契約、満腹、首に痣、背中に浅い切り傷、明確な殺意、生への異常な渇望、眠気は皆無】
【思考・行動】
行動方針:全ての参加者を皆殺しにして生き残る
0:死にたくない
1:工場に行って、『力』を手に入れる
2:生き残るため皆殺し
【備考】
※契約によって傷は完治。 契約内容はディーの下にたどり着くこと。
※契約によって、あゆが工場にたどり着いた場合、何らかの力が手に入る。
(アブ・カムゥと考えていますが、変えていただいてかまいません)
※ディーとの契約について
契約した人間は、内容を話す、内容に背くことは出来ない、またディーについて話すことも禁止されている。(破ると死)
※あゆの付けていた時計(自動巻き、十時を刻んだまま停止中)はトロッコの側に落ちています。
|195:[[覚醒、決意、そして……アサクラジュンイチ(後編)]]|投下順に読む|197:[[Miyanokoujimizuho's Mistery Reportage]]|
|195:[[覚醒、決意、そして……アサクラジュンイチ(後編)]]|時系列順に読む|197:[[Miyanokoujimizuho's Mistery Reportage]]|
|194:[[銀の意志、金の翼 ]]|月宮あゆ||
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**彼女の見解 ◆guAWf4RW62
「――――っ」
燦々と降り注ぐ日光の下、広大な草原に一陣の疾風が吹き荒れる。
月宮あゆは永遠神剣で身体能力を強化して、恐るべき速度で駆けていた。
向かうべき場所は只一つ、島の最北西に位置する工場だ。
工場まではまだまだ距離があるが、今の自分ならば然程時間を掛けずとも辿り着ける筈だった。
永遠神剣による強化は脚力のみに留まらず、基礎体力にまで及ぶ。
一息の休憩すらも必要とせずに、流れてゆく景色の中を一心不乱に走り続ける。
だがある事に気付いたあゆは足を止めて、周囲をゆっくりと眺め見た。
「此処は……ボクが最初に飛ばされた場所……?」
大草原の中にポツリと存在する、乱暴に踏み荒らされた藪。
見間違う筈も無い。
今あゆが立っているのは、初めてこの島に降り立った時の場所だった。
あゆは静かに目を閉じて、今まで自分が辿ってきた道程を思い返した。
「――あれから一日半、ホントに色んな事があったなあ……。ボク、一杯悪い事しちゃった」
――六人。
これまで自分が奪った命の数。
あの国崎往人すらも上回る程、沢山の人間を殺した。
ある時は邪魔者を排除する為に、ある時は鬱憤を晴らす為に、容赦無く武器を振るって来た。
故意では無かったものの、こんな自分に良くしてくれた鉄乙女と大石蔵人も殺してしまった。
もし死後の世界という物があるのなら、自分は間違い無く地獄に堕ちるだろう。
「うぐぅ……でもそんなの関係無いもん」
死後の世界など、現実から目を背ける為の空想に過ぎない。
死んだら終わり――残るのは、完全なる無だけだ。
それが、天地開闢以来続いてきた永久不変の原理。
どれだけ高潔な理想を抱いていようとも、どれだけ立派な行いを積み重ねようとも、死ねば全てが水泡と帰す。
「ボクは未だ死にたくない……だから、変わらなきゃいけなかった。奪う側に回る為に、ボクは強い自分に生まれ変わった」
所詮この世は弱肉強食。
弱き者は死に、環境に適応出来た強き者のみが生き残る。
自分は強くなったからこそ、数度に渡る死地を乗り越えられたのだ。
脳裏に去来するは、嘗て自分に向けて放たれた二つの言葉。
――仲間を守るという鳥風情でも理解できる感情が人間の貴様に解らんとはな
――『生きたい』っていう理想だけ掲げて、ただ流されているだけの弱者だよ
「仲間を守る? ボクが弱者? 下らない……所詮は負け犬の遠吠えだよ。
甘い戯言を吐いていた鳥は死んだ。『力』が足りなかった佐藤さんも死んだ。
何としてでも生き延びるという強い『意志』と、全てを凌駕する『力』こそが、この島で生き延びる為に必要な物……!」
殺人遊戯という過酷な生存競争を勝ち残る為には、良心など溝に投げ捨て、誰よりも強い『力』を得なければならない。
名も知らぬ鳥は、愚かな義侠心の所為で死んだ。
佐藤良美は、『力』が足りなかった所為で死んだ。
両者の命を奪った自分と、物言わぬ躯と化した良美達、どちらが勝者であるかなど考えるまでも無い。
だが自分もまた、油断出来るような状況ではない。
永遠神剣は確かに強力だが、この島で生き延びるに十分足り得る程かは、些か疑問が残る。
未だこの島で生き残っている人間達は、その殆どが数多くの激戦を潜り抜けているだろう。
今の自分すらも上回る強者が存在しても、決して可笑しくは無いのだ。
特に脅威なのは、廃線を越えて北へと進んでいた際に目撃した光景。
E-5とE-6の境界線辺りで、周囲一帯の木々が軒並み薙ぎ倒されていた。
空襲でも受けたとしか思えぬ程の惨状は、あの地で行われた戦闘がどれだけ激しかったのかを物語っている。
自分が全力で永遠神剣を用いたとしても、あれ程の破壊を引き起こせる者に勝てるとは思えない。
「だから……ボクにはもっと強い『力』が要るんだ。その為には、あそこに行かなくちゃ」
北西にある工場。
そこまで行けば、ディーが準備したと云う『力』を手に入れられる筈だった。
具体的にどんな物が置いてあるのかは分からないが、ディーはこの殺人遊戯を取り仕切る絶対者。
そのディーが準備したのだから、きっと工場には永遠神剣すらも凌駕する代物が隠されているだろう。
「殺し合いを開催した張本人の力すらも借りる、か……。祐一くんや乙女さんが知ったら、きっと凄い怒るだろうね……。
でも、ボクは迷わないよ。こんな所で殺されるなんて、絶対にやだもん。
もっと生きて、お腹一杯鯛焼きを食べたいもん。ボクさえ生き残れれば、それで良いんだよ」
少しでも甘い感情を残せば、後々必ず命取りになってしまう。
故にあゆは、自身の内に残っていた良心全てを否定する。
相沢祐一との想い出も、
水瀬名雪への罪悪感も、
この島で出会った様々な人々との触れ合いも、
他人を思い遣れた嘗ての自分自身すらも、
二度と思い出せぬように意識から削り取って握り潰した。
「ボクは死なない……。どれだけ罪を犯してでも、絶対に生き延びてやるッ……!!」
生への執着に取り憑かれた少女は、工場を目指して再び走り出す。
返り血に染まったその顔には、最早嘗ての面影は残されていない。
【D-2左/二日目 昼(放送直前)】
【月宮あゆ@Kanon】
【装備:永遠神剣第七位"献身"、背中と腕がボロボロで血まみれの服】
【所持品:支給品一式x3、コルトM1917の予備弾25、コルトM1917(残り2/6発)、情報を纏めた紙×2、トカレフTT33 0/8+1、ライター】
【状態:服と槍に返り血、魔力消費大、肉体的疲労大、ディーと契約、満腹、首に痣、背中に浅い切り傷、明確な殺意、生への異常な渇望、眠気は皆無】
【思考・行動】
行動方針:全ての参加者を皆殺しにして生き残る
0:死にたくない
1:工場に行って、『力』を手に入れる
2:生き残るため皆殺し
【備考】
※契約によって傷は完治。 契約内容はディーの下にたどり着くこと。
※契約によって、あゆが工場にたどり着いた場合、何らかの力が手に入る。
(アブ・カムゥと考えていますが、変えていただいてかまいません)
※ディーとの契約について
契約した人間は、内容を話す、内容に背くことは出来ない、またディーについて話すことも禁止されている。(破ると死)
※あゆの付けていた時計(自動巻き、十時を刻んだまま停止中)はトロッコの側に落ちています。
|195:[[覚醒、決意、そして……アサクラジュンイチ(後編)]]|投下順に読む|197:[[Miyanokoujimizuho's Mistery Reportage]]|
|195:[[覚醒、決意、そして……アサクラジュンイチ(後編)]]|時系列順に読む|197:[[Miyanokoujimizuho's Mistery Reportage]]|
|194:[[銀の意志、金の翼 ]]|月宮あゆ|203:[[命を懸けて(前編)]]|
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