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「心のかたち、愛のかたち」(2007/08/14 (火) 10:55:02) の最新版変更点
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**心のかたち、愛のかたち ◆VtbIiCrJOs
「もう大丈夫のようですね……」
ネリネは樹木の陰から背後を見る。
うっそうと茂る森には鳥の囀る音、木々がざわめく音以外は人の気配は無い。
それを確認するとネリネは木を背にして座り込んだ。
あのままトウカと戦っていれば間違いなく負けていただろう。
いくら永遠神剣の力で肉体を強化したとしてもトウカの身体能力や技量を超えるとは思えなかった。
あの女の身体能力は異常だ。魔族や神族ならあの身体能力の高さは理解できるがトウカは決してそれらの種族に思えない。
が、ただの人間とも思えない。
あの耳――猛禽類の翼を思わせる奇異な耳、あのような耳を持つ者は魔界にも神界にもいない、無論人間界にも――
「……どうでもいいですかそんなこと」
ネリネはこれ以上トウカの素性について詮索はしなかった。
確実に言えることは一対一で正面切って戦うのは不可能な相手である。
「しかし……とんだ邪魔が入りましたね……いや、この場合はラッキーというべきでしょうか」
対峙するトウカとネリネの前に現れた新たな人物。
数十キロはあろう重機関銃を軽々と扱う黒髪の少女。
彼女は一切表情を変えることなく、淡々と二人のいた場所に弾丸の嵐を叩き込んでいった。
ただそのおかげでトウカの下から逃げることができたのは全く僥倖であった。
「そろそろ……ですか」
太陽が中天に達しようとしている。
二回目の放送が近い。
ややあって、ひび割れたノイズ交じりの女の声があたりに響き渡る
『――参加者の皆さん、ご機嫌如何かしら?――』
二回目の放送が始まる。
ネリネは祈る、凛の名が呼ばれない事を願って。
※ ※ ※ ※ ※ ※
ネリネはほっと胸を撫で下ろす。
幸いにも稟の名前はまだ呼ばれていなかった。
「稟さまが無事でなによりです……」
メモ用紙に次の禁止エリアを書きとめながらネリネは呟いた。
ふと楓を思い出す。
自分と同じく土見ラバーズのひとり。
彼女はトウカとの戦いの末死んだ。
ネリネは後悔する。
首から噴水のように鮮血を撒き散らし、穿たれた腹部から内臓が零れ落ちながらも、トウカに向かって逝った最期。
その時自分は何をしていたか?
――何もできなかった。
その壮絶な光景を前にして身体は完全に硬直していた。
せっかくのチャンスを無駄にしてしまった。
「私もまだまだ未熟ですね……稟さまへの想いは」
――私は稟くんのお世話をするのが生きがいですから
いつか楓が言った言葉、その言葉に秘められた稟への病的なまでの想い。
依存、執着、偏愛。
何が彼女を稟に執着させるのか?
ネリネは知らない。幼い日、廃人寸前となった楓を救うため稟がついた嘘。
その言葉は結果的に楓を救う事になるが、後に嘘に秘められた真実を楓が知った時、それは呪いとなって楓の心を歪に変容させていった。
許されたいけどけど許されてはいけない。
愛しても愛されてはいけない。
稟への贖罪と奉仕を自己の存在理由とし、楓の想いは歪んだ形に形成されていった。
だが、どんな形であれ楓の想いは稟という男へ向けられた愛情であることに変わりはない。
愛に形の違いなんてない。
肉体が朽ち果ててもなおトウカに向かっていった楓。
あの時のネリネは楓の想いに圧倒されていた。
「少し妬いちゃいますね……でも」
今だけは楓の稟への愛情に嫉妬することなく敬意を払おう。
ネリネは目を閉じて静かに楓に黙祷を捧げた。
黙祷を済ませた後、ネリネはこの島で出会った人間を思い出す。
催涙スプレーを吹き付けた幼女。
博物館で襲った男女二人組み。
亜沙と行動を共にしていた男と女。
神社に乱入した女。
そして――
小町つぐみ
倉成武
朝倉音夢
朝倉純一
トウカ
オボロ
千影
名前の判明している七人、直接の面識が無い倉成武と朝倉純一を除けば、五人の人間。
「っ……」
ネリネは軽い歯軋りをした。
たった二人、二人しか始末できなかった。
ディパックの中の音夢は失神しているところに止めをさしただけ。
オボロは死に損なっているところを頭を吹き飛ばして殺しただけ。
自分の身体能力の低さがひどく恨めしい。
献身による身体強化は強力な反面、一瞬にして精神力の枯渇を招く諸刃の剣。
接近戦での使用は切り札として温存するしかない。
献身は遠距離で九十七式自動砲を撃つために使ったほうが良いだろう。
全長2m、重量約60kg、口径20mm。
それはライフルというにはあまりにも大きすぎた。――まさに鉄塊。
そもそもこれは銃座に据えつけて撃つものであり、腕に抱えて撃つことは想定されていない。
もっとも献身を使えば抱えて撃つことはできるが、腕に抱える状況に陥ったらそのままそれで殴ったほうが早い。
60kg近い鉄塊から振り下ろされる一撃はさぞかし強力だろう。
だがあくまで献身は撃った後の反動による照準のぶれを押さえ込むために使用するのに留めよう。
ネリネはデイパックから九十七式自動砲の予備弾薬を手に取りそれを眺める。
通常の拳銃の弾丸とは遥かに超えるサイズを持つ20mm弾。
その銃口から発射される銃弾は装甲車程度ならいともたやすく貫通する威力を持っている。
人に向かって撃てばどこに当たろうと確実にひき肉になるだろう。
ネリネは木に立てかけてある献身に視線を移す。
永遠神剣と呼ばれる魔力を持った武器。
七位の位階を冠する『献身』以外にも永遠神剣は存在している。
神社で交戦した千影が持っていた剣もそうだ。
古代の儀式用の短剣にも思えるそれにネリネは献身を遥かに凌ぐ魔力を感じていた。
そうあの時――楓の銃弾とネリネの一撃は確実に千影を捉えていた。
トウカのように銃口からの射線を見切って回避したとは思えない――
いや、あのタイミングではどんな身体能力を持った者でも回避できない間合いだった。
だがあの瞬間千影は一瞬の内に数メートルを移動した。
ありえない……あの動きはありえない。
『千影を確実に仕留めたと思ったらいつのまにか避けられていた』
こう表現するより他に無い。
他人が聞いたら何を言ってるかわからないだろう、ネリネ自身あの瞬間何が起こったのかわからなかった。
催眠術だとか超スピードだとかそんなものでは断じて違う。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったのである。
恐らくは――あれが千影の持つ永遠神剣の力。
それから感じる魔力の波動は献身よりも高位の位階を持ったものだろう。
「だけど……人の身でどこまで扱えるものでしょうか?」
千影は並外れた魔力を持っているがそれは人という範疇の中でのこと、
魔王の娘たるネリネとは魔力の総量に絶対的な開きがある。
あの不可思議な力の連発は確実に寿命を縮めるだろう。
「まあ私とて魔力が封じられている今では条件は同じだろうでしょうが」
あの戦いの最中、気がついたことがある。
献身を千影の肩口に突き刺した時、僅かであるが自身の魔力が回復したのである。
そして千影の神剣の魔力を求める献身――ここで導き出せる仮説。
魔力を持った人間及び永遠神剣の所有者を献身で殺すことで魔力の回復が計れるのではないか?
そして献身を通して流れ込む永遠神剣の気配、おぼろげに感じる四つの気配。
一つは千影が所持している永遠神剣のものだから、あと三つの神剣が存在することになる。
「永遠神剣を持った相手に献身で白兵戦を挑むのはいささかハイリスクですが……やってみる価値はありそうですね」
※ ※ ※ ※ ※ ※
小町つぐみ――トウカと共にネリネが復讐すべき人間の一人。
トウカと違った意味で苦戦しそうな相手である。
身体能力は常人よりも少し上と言ったところだろうが真に厄介なのは冷静さと機転の良さ。
あの女は殺し合いに乗った二人を前にして、臆することなく行動を共にしようと言ってのけた。
博物館でもネリネと音夢だけで行動させるように誘導していた。
もし、あの時自分が罠に嵌っていたら確実に音夢に殺されていただろう。
きっと彼女にとって襲撃にトラブルあった際、仲間割れを起こしてどちらかが死ぬことは織り込み済みだったのだ。
外見とは裏腹に短絡的で直情的な音夢はつぐみの思惑に気づくはずもなく、
そしてネリネ自身、動けなくなった音夢を見て好機とばかり止めをさした。
完全につぐみの手の平で踊らされていた。
「はじめてですよ……この私をここまでコケにした人は……まさかこんな結果になろうとは思いませんでした。許しません……絶対に許しません人間風情が……」
真紅の瞳に憎悪の炎をたぎらせ呪いの言葉を吐く。
「落ち着いてネリネ……冷静にクールにです……そう水でも飲んで落ち着きましょう」
昂ぶった感情を抑えるため水分を補給しよう、そう思いネリネはデイパックを開ける。
デイパックから白い半透明のビニール袋が顔を覗かせていた。
「――少し、臭いますね」
半透明の白いビニール袋に収められた丸い物体。
ネリネはビニール袋を外に出す。西瓜のようにずしりとした重みが手に伝わる。
袋の隙間からほんのりと腐敗臭を漂わせ、朝倉音夢が顔を覗かせていた。
「よいしょ……っと」
袋から音夢を取り出して両手に抱え、眼前に持ってくる。
紫がかった土気色の肌、だらしなく半開きととなった口、白く濁った眼、ドス黒く変色した切断面。
「私もあなたもまんまと乗せられてしまいました。どうですか今の気分は?」
頬を持ち、キスをするぐらい近い距離に音夢を近づけそっと語りかける。
「人の心はなかなか見えないものです。音夢さんは何か見えますか?」
体積が十分の一以下になってしまった音夢は何も答えず焦点の合わない瞳でネリネをじっと見る。
「うふふ、その目では何も見えるわけありませんよね」
意地悪なサディスティックな笑みを浮かべ、ネリネは嘲笑う。
「だから――見えないものを『視る』方法を教えてあげましょう」
くちゅ
ネリネの陶磁器のような白く細い人差し指が音夢の左目に突き入れられる。
指は眼球と眼窩の骨の間を滑り、眼底部に達する。
ぷるぷるとした触感が指に伝わる。
「古代の巫女やシャーマンは神や悪魔などこの世ならざるもの、そして人の心を見るために左目を潰すという風習があったそうです」
眼窩の骨に沿って円を描くようにネリネはゆっくりと指を回す。
「残された右目で現世を覗き、失くした左目で幽世を覗く……」
くちゅ
くちゅくちゅ
くちゅくちゅくちゅ
指をリズミカルにグラインドさせ音夢の眼孔を犯す。
音夢の眼球がネリネの指の動きに沿ってくるくるまわる。
くるくる、くるくるとまわる。
くるくる、くるくる
「どうして『左目』を潰す必要があるのか、なぜ『右目』ではなく『左目』なのか」
くちゅくちゅくちゅくちゅ……ぶつっ
ネリネはさらに中指を突き入れる。
中指を入れた拍子にぷちぷちとなにかが千切れたような音がした。
「いまとなってはそれを確かめる術はありませんが――」
ぶつっ……
そして親指。
「とりあえず古代の儀式に則り、『徴』を刻むとしましょう」
ぶちっ……ぶちっ……ぶち……
親指と人差し指と中指で白い眼球をつかむ。
視神経がぷちぷちとちぎれる感触を指に感じながらゆっくりと引き抜く。
真っ暗な眼孔から白い筋を引かせ、ピンポン球ほど大きさの眼球が露になる。
「どうですか音夢さん、何か見えますか?」
音夢は答えない。
「その眼で人の心は見えますか?」
音夢は何も答えることなくぽっかりと空いた穴でネリネを見つめていた。
「死んでからもこうして辱めを受ける気分はいかがですか?」
当然音夢は答えない、虚しい。
「はぁ……興が削がれました。もういいです」
ネリネは無造作に白い塊を茂みの中に投げ捨てた。
もう一度音夢の顔を見る。
「…………?」
ふと、半開きとなった音夢の口の奥に何か見えた。
ネリネは指を使って口をこじ開け舌の上に乗っているそれをつまみ出す。
「花びら……ですか?」
ひとひらの淡いピンク色の花弁。
しかし――
「桜の花びら……? でも桜なんてどこにも……」
この島にやって来てから桜の木は見かけていない、にもかかわらず桜の花びらがここに存在する。
そしてもう一つ不審な点、この花びらから僅かであるが魔力が感じられた。
これは一体何を意味するのだろうか?
「ここで考えてもしょうがないですね。さて……休憩もここまでとしましょうか」
ネリネは桜の花びらについて考えることをやめ、音夢を再びビニール袋に包みデイパックに戻した。
※ ※ ※ ※ ※ ※
移動する準備を終えてネリネは立ち上がり、大きく背伸びをする。
花びらは気になるので一応持っておくことにした。
相変わらず切った足首や右耳、打撲したところは痛むが行動に支障をきたすほどでは無い。
「これからどうしますか……」
禁止エリアはB-4とE-3、現在地はD-4とD-5の境あたりのはずだ。
博物館に戻るべきか?
つぐみが生きている以上、音夢が死んだことは放送で把握しているはず。
つぐみが博物館に戻る可能性はゼロではないが低いだろう。
結局、放送前に朝倉純一に絶望を味合わせることはできなかったがまあいい、どうせ殺すことには変わりは無い。
「一旦博物館まで戻るかそれとも……」
地図を開き次の目的地を考える。
近くに参加者が潜伏していそうな施設は二つ、ホテルと学校。
だが博物館につぐみが戻っている可能性も捨てがたい。
「うーん……迷いますね」
ネリネは次なる獲物を求め再び歩みを進める。
全ては愛する稟のために。
【D-4 南部 /1日目 昼】
【ネリネ@SHUFFLE】
【装備:永遠神剣第七位“献身”】
【所持品1:支給品一式 IMI デザートイーグル 9/2+1 IMI デザートイーグル の予備マガジン10】
【所持品2:支給品一式 トカレフTT33の予備マガジン10 S&W M37 エアーウェイト 弾数1/5、九十七式自動砲 弾数2/7】
【所持品3:出刃包丁@ひぐらしのなく頃に 祭 コンバットナイフ 朝倉音夢の制服及び生首(左目損失) 桜の花びら】
【状態:肉体的疲労小・魔力消費中、腹部に痣、左腕打撲、右耳に裂傷、左足首に切り傷、非常に強い意志】
【思考・行動】
1:博物館、ホテル、学校のどれかに移動する(行き先は次の書き手に任せます)
2:稟を探す。その途中であった人間は皆殺し。知人であろうとも容赦無く殺す(出来る限り単独行動している者を狙う)
3:ハイリスク覚悟で魔力を一気に回復する為の方法、或いはアイテムを探す
4:トウカを殺し、楓の仇を討つ
5:純一に音夢の生首を見せつけ殺す
6:つぐみの前で武を殺して、その後つぐみも殺す
7:亜沙の一団と決着をつける
8:桜の花びらが気になる
9:稟を守り通して自害
【備考】
私服(ゲーム時の私服に酷似)に着替えました。(汚れた制服はビニールに包んでデイパックの中に)
ネリネの魔法(体育館を吹き飛ばしたやつ)は使用不可能です。
※これはネリネは魔力は大きいけどコントロールは下手なので、 制限の結果使えなくなっただけで他の魔法を使えるキャラの制限とは違う可能性があります。
※永遠神剣第七位“献身”は神剣っていってますが、形は槍です。
※永遠神剣第七位“献身”は制限を受けて、以下のような性能となっています。
永遠神剣の自我は消し去られている。
魔力を送れば送る程、所有者の身体能力を強化する(但し、原作程圧倒的な強化は不可能)。
魔力持ちの敵に突き刺せば、ある程度魔力を奪い取れる
以下の魔法が使えます。
尚、使える、といってもウインドウィスパー以外は、実際に使った訳では無いので、どの位の強さなのかは後続の書き手に委ねます。
アースプライヤー 回復魔法。単体回復。大地からの暖かな光によって、マナが活性化し傷を癒す。
ウィンドウィスパー 防御魔法。風を身体の周りに纏うことで、僅かな間だけ防御力を高める。
ハーベスト 回復魔法。全体回復。戦闘域そのものを活性化させ、戦う仲間に力を与える。
※古手梨花を要注意人物と判断(容姿のみの情報)
※音夢とつぐみの知り合いに関する情報を知っています。
※音夢の生首は音夢の制服と一緒にビニール袋へ詰め込みディパックの中に入れてます。
※魔力が極端に消耗する事と、回復にひどく時間がかかる(ネリネの魔力なら完全回復まで数日)という事に気が付きました。
※トウカと、川澄舞(舞に関しては外見の情報のみ)を危険人物と認識しました。
※千影の“時詠”を警戒。ただし“時詠”の能力までは把握していません。
※魔力持ち及び永遠神剣の持ち主を献身で殺せばさらに魔力が回復する仮説を思いつきました。
※ある程度他の永遠神剣の気配を感じ取れます。
※桜の花びらは管理者の一人である魔法の桜のものです。
|117:[[歩き出す]]|投下順に読む|119:[[失ってしまった代償はとてつもなく大きすぎて]]|
|117:[[歩き出す]]|時系列順に読む|119:[[失ってしまった代償はとてつもなく大きすぎて]]|
|105:[[武人として/鮮血の結末 (前編)]]|ネリネ||
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**心のかたち、愛のかたち ◆VtbIiCrJOs
「もう大丈夫のようですね……」
ネリネは樹木の陰から背後を見る。
うっそうと茂る森には鳥の囀る音、木々がざわめく音以外は人の気配は無い。
それを確認するとネリネは木を背にして座り込んだ。
あのままトウカと戦っていれば間違いなく負けていただろう。
いくら永遠神剣の力で肉体を強化したとしてもトウカの身体能力や技量を超えるとは思えなかった。
あの女の身体能力は異常だ。魔族や神族ならあの身体能力の高さは理解できるがトウカは決してそれらの種族に思えない。
が、ただの人間とも思えない。
あの耳――猛禽類の翼を思わせる奇異な耳、あのような耳を持つ者は魔界にも神界にもいない、無論人間界にも――
「……どうでもいいですかそんなこと」
ネリネはこれ以上トウカの素性について詮索はしなかった。
確実に言えることは一対一で正面切って戦うのは不可能な相手である。
「しかし……とんだ邪魔が入りましたね……いや、この場合はラッキーというべきでしょうか」
対峙するトウカとネリネの前に現れた新たな人物。
数十キロはあろう重機関銃を軽々と扱う黒髪の少女。
彼女は一切表情を変えることなく、淡々と二人のいた場所に弾丸の嵐を叩き込んでいった。
ただそのおかげでトウカの下から逃げることができたのは全く僥倖であった。
「そろそろ……ですか」
太陽が中天に達しようとしている。
二回目の放送が近い。
ややあって、ひび割れたノイズ交じりの女の声があたりに響き渡る
『――参加者の皆さん、ご機嫌如何かしら?――』
二回目の放送が始まる。
ネリネは祈る、凛の名が呼ばれない事を願って。
※ ※ ※ ※ ※ ※
ネリネはほっと胸を撫で下ろす。
幸いにも稟の名前はまだ呼ばれていなかった。
「稟さまが無事でなによりです……」
メモ用紙に次の禁止エリアを書きとめながらネリネは呟いた。
ふと楓を思い出す。
自分と同じく土見ラバーズのひとり。
彼女はトウカとの戦いの末死んだ。
ネリネは後悔する。
首から噴水のように鮮血を撒き散らし、穿たれた腹部から内臓が零れ落ちながらも、トウカに向かって逝った最期。
その時自分は何をしていたか?
――何もできなかった。
その壮絶な光景を前にして身体は完全に硬直していた。
せっかくのチャンスを無駄にしてしまった。
「私もまだまだ未熟ですね……稟さまへの想いは」
――私は稟くんのお世話をするのが生きがいですから
いつか楓が言った言葉、その言葉に秘められた稟への病的なまでの想い。
依存、執着、偏愛。
何が彼女を稟に執着させるのか?
ネリネは知らない。幼い日、廃人寸前となった楓を救うため稟がついた嘘。
その言葉は結果的に楓を救う事になるが、後に嘘に秘められた真実を楓が知った時、それは呪いとなって楓の心を歪に変容させていった。
許されたいけどけど許されてはいけない。
愛しても愛されてはいけない。
稟への贖罪と奉仕を自己の存在理由とし、楓の想いは歪んだ形に形成されていった。
だが、どんな形であれ楓の想いは稟という男へ向けられた愛情であることに変わりはない。
愛に形の違いなんてない。
肉体が朽ち果ててもなおトウカに向かっていった楓。
あの時のネリネは楓の想いに圧倒されていた。
「少し妬いちゃいますね……でも」
今だけは楓の稟への愛情に嫉妬することなく敬意を払おう。
ネリネは目を閉じて静かに楓に黙祷を捧げた。
黙祷を済ませた後、ネリネはこの島で出会った人間を思い出す。
催涙スプレーを吹き付けた幼女。
博物館で襲った男女二人組み。
亜沙と行動を共にしていた男と女。
神社に乱入した女。
そして――
小町つぐみ
倉成武
朝倉音夢
朝倉純一
トウカ
オボロ
千影
名前の判明している七人、直接の面識が無い倉成武と朝倉純一を除けば、五人の人間。
「っ……」
ネリネは軽い歯軋りをした。
たった二人、二人しか始末できなかった。
ディパックの中の音夢は失神しているところに止めをさしただけ。
オボロは死に損なっているところを頭を吹き飛ばして殺しただけ。
自分の身体能力の低さがひどく恨めしい。
献身による身体強化は強力な反面、一瞬にして精神力の枯渇を招く諸刃の剣。
接近戦での使用は切り札として温存するしかない。
献身は遠距離で九十七式自動砲を撃つために使ったほうが良いだろう。
全長2m、重量約60kg、口径20mm。
それはライフルというにはあまりにも大きすぎた。――まさに鉄塊。
そもそもこれは銃座に据えつけて撃つものであり、腕に抱えて撃つことは想定されていない。
もっとも献身を使えば抱えて撃つことはできるが、腕に抱える状況に陥ったらそのままそれで殴ったほうが早い。
60kg近い鉄塊から振り下ろされる一撃はさぞかし強力だろう。
だがあくまで献身は撃った後の反動による照準のぶれを押さえ込むために使用するのに留めよう。
ネリネはデイパックから九十七式自動砲の予備弾薬を手に取りそれを眺める。
通常の拳銃の弾丸とは遥かに超えるサイズを持つ20mm弾。
その銃口から発射される銃弾は装甲車程度ならいともたやすく貫通する威力を持っている。
人に向かって撃てばどこに当たろうと確実にひき肉になるだろう。
ネリネは木に立てかけてある献身に視線を移す。
永遠神剣と呼ばれる魔力を持った武器。
七位の位階を冠する『献身』以外にも永遠神剣は存在している。
神社で交戦した千影が持っていた剣もそうだ。
古代の儀式用の短剣にも思えるそれにネリネは献身を遥かに凌ぐ魔力を感じていた。
そうあの時――楓の銃弾とネリネの一撃は確実に千影を捉えていた。
トウカのように銃口からの射線を見切って回避したとは思えない――
いや、あのタイミングではどんな身体能力を持った者でも回避できない間合いだった。
だがあの瞬間千影は一瞬の内に数メートルを移動した。
ありえない……あの動きはありえない。
『千影を確実に仕留めたと思ったらいつのまにか避けられていた』
こう表現するより他に無い。
他人が聞いたら何を言ってるかわからないだろう、ネリネ自身あの瞬間何が起こったのかわからなかった。
催眠術だとか超スピードだとかそんなものでは断じて違う。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったのである。
恐らくは――あれが千影の持つ永遠神剣の力。
それから感じる魔力の波動は献身よりも高位の位階を持ったものだろう。
「だけど……人の身でどこまで扱えるものでしょうか?」
千影は並外れた魔力を持っているがそれは人という範疇の中でのこと、
魔王の娘たるネリネとは魔力の総量に絶対的な開きがある。
あの不可思議な力の連発は確実に寿命を縮めるだろう。
「まあ私とて魔力が封じられている今では条件は同じだろうでしょうが」
あの戦いの最中、気がついたことがある。
献身を千影の肩口に突き刺した時、僅かであるが自身の魔力が回復したのである。
そして千影の神剣の魔力を求める献身――ここで導き出せる仮説。
魔力を持った人間及び永遠神剣の所有者を献身で殺すことで魔力の回復が計れるのではないか?
そして献身を通して流れ込む永遠神剣の気配、おぼろげに感じる四つの気配。
一つは千影が所持している永遠神剣のものだから、あと三つの神剣が存在することになる。
「永遠神剣を持った相手に献身で白兵戦を挑むのはいささかハイリスクですが……やってみる価値はありそうですね」
※ ※ ※ ※ ※ ※
小町つぐみ――トウカと共にネリネが復讐すべき人間の一人。
トウカと違った意味で苦戦しそうな相手である。
身体能力は常人よりも少し上と言ったところだろうが真に厄介なのは冷静さと機転の良さ。
あの女は殺し合いに乗った二人を前にして、臆することなく行動を共にしようと言ってのけた。
博物館でもネリネと音夢だけで行動させるように誘導していた。
もし、あの時自分が罠に嵌っていたら確実に音夢に殺されていただろう。
きっと彼女にとって襲撃にトラブルあった際、仲間割れを起こしてどちらかが死ぬことは織り込み済みだったのだ。
外見とは裏腹に短絡的で直情的な音夢はつぐみの思惑に気づくはずもなく、
そしてネリネ自身、動けなくなった音夢を見て好機とばかり止めをさした。
完全につぐみの手の平で踊らされていた。
「はじめてですよ……この私をここまでコケにした人は……まさかこんな結果になろうとは思いませんでした。許しません……絶対に許しません人間風情が……」
真紅の瞳に憎悪の炎をたぎらせ呪いの言葉を吐く。
「落ち着いてネリネ……冷静にクールにです……そう水でも飲んで落ち着きましょう」
昂ぶった感情を抑えるため水分を補給しよう、そう思いネリネはデイパックを開ける。
デイパックから白い半透明のビニール袋が顔を覗かせていた。
「――少し、臭いますね」
半透明の白いビニール袋に収められた丸い物体。
ネリネはビニール袋を外に出す。西瓜のようにずしりとした重みが手に伝わる。
袋の隙間からほんのりと腐敗臭を漂わせ、朝倉音夢が顔を覗かせていた。
「よいしょ……っと」
袋から音夢を取り出して両手に抱え、眼前に持ってくる。
紫がかった土気色の肌、だらしなく半開きととなった口、白く濁った眼、ドス黒く変色した切断面。
「私もあなたもまんまと乗せられてしまいました。どうですか今の気分は?」
頬を持ち、キスをするぐらい近い距離に音夢を近づけそっと語りかける。
「人の心はなかなか見えないものです。音夢さんは何か見えますか?」
体積が十分の一以下になってしまった音夢は何も答えず焦点の合わない瞳でネリネをじっと見る。
「うふふ、その目では何も見えるわけありませんよね」
意地悪なサディスティックな笑みを浮かべ、ネリネは嘲笑う。
「だから――見えないものを『視る』方法を教えてあげましょう」
くちゅ
ネリネの陶磁器のような白く細い人差し指が音夢の左目に突き入れられる。
指は眼球と眼窩の骨の間を滑り、眼底部に達する。
ぷるぷるとした触感が指に伝わる。
「古代の巫女やシャーマンは神や悪魔などこの世ならざるもの、そして人の心を見るために左目を潰すという風習があったそうです」
眼窩の骨に沿って円を描くようにネリネはゆっくりと指を回す。
「残された右目で現世を覗き、失くした左目で幽世を覗く……」
くちゅ
くちゅくちゅ
くちゅくちゅくちゅ
指をリズミカルにグラインドさせ音夢の眼孔を犯す。
音夢の眼球がネリネの指の動きに沿ってくるくるまわる。
くるくる、くるくるとまわる。
くるくる、くるくる
「どうして『左目』を潰す必要があるのか、なぜ『右目』ではなく『左目』なのか」
くちゅくちゅくちゅくちゅ……ぶつっ
ネリネはさらに中指を突き入れる。
中指を入れた拍子にぷちぷちとなにかが千切れたような音がした。
「いまとなってはそれを確かめる術はありませんが――」
ぶつっ……
そして親指。
「とりあえず古代の儀式に則り、『徴』を刻むとしましょう」
ぶちっ……ぶちっ……ぶち……
親指と人差し指と中指で白い眼球をつかむ。
視神経がぷちぷちとちぎれる感触を指に感じながらゆっくりと引き抜く。
真っ暗な眼孔から白い筋を引かせ、ピンポン球ほど大きさの眼球が露になる。
「どうですか音夢さん、何か見えますか?」
音夢は答えない。
「その眼で人の心は見えますか?」
音夢は何も答えることなくぽっかりと空いた穴でネリネを見つめていた。
「死んでからもこうして辱めを受ける気分はいかがですか?」
当然音夢は答えない、虚しい。
「はぁ……興が削がれました。もういいです」
ネリネは無造作に白い塊を茂みの中に投げ捨てた。
もう一度音夢の顔を見る。
「…………?」
ふと、半開きとなった音夢の口の奥に何か見えた。
ネリネは指を使って口をこじ開け舌の上に乗っているそれをつまみ出す。
「花びら……ですか?」
ひとひらの淡いピンク色の花弁。
しかし――
「桜の花びら……? でも桜なんてどこにも……」
この島にやって来てから桜の木は見かけていない、にもかかわらず桜の花びらがここに存在する。
そしてもう一つ不審な点、この花びらから僅かであるが魔力が感じられた。
これは一体何を意味するのだろうか?
「ここで考えてもしょうがないですね。さて……休憩もここまでとしましょうか」
ネリネは桜の花びらについて考えることをやめ、音夢を再びビニール袋に包みデイパックに戻した。
※ ※ ※ ※ ※ ※
移動する準備を終えてネリネは立ち上がり、大きく背伸びをする。
花びらは気になるので一応持っておくことにした。
相変わらず切った足首や右耳、打撲したところは痛むが行動に支障をきたすほどでは無い。
「これからどうしますか……」
禁止エリアはB-4とE-3、現在地はD-4とD-5の境あたりのはずだ。
博物館に戻るべきか?
つぐみが生きている以上、音夢が死んだことは放送で把握しているはず。
つぐみが博物館に戻る可能性はゼロではないが低いだろう。
結局、放送前に朝倉純一に絶望を味合わせることはできなかったがまあいい、どうせ殺すことには変わりは無い。
「一旦博物館まで戻るかそれとも……」
地図を開き次の目的地を考える。
近くに参加者が潜伏していそうな施設は二つ、ホテルと学校。
だが博物館につぐみが戻っている可能性も捨てがたい。
「うーん……迷いますね」
ネリネは次なる獲物を求め再び歩みを進める。
全ては愛する稟のために。
【D-4 南部 /1日目 昼】
【ネリネ@SHUFFLE】
【装備:永遠神剣第七位“献身”】
【所持品1:支給品一式 IMI デザートイーグル 9/2+1 IMI デザートイーグル の予備マガジン10】
【所持品2:支給品一式 トカレフTT33の予備マガジン10 S&W M37 エアーウェイト 弾数1/5、九十七式自動砲 弾数2/7】
【所持品3:出刃包丁@ひぐらしのなく頃に 祭 コンバットナイフ 朝倉音夢の制服及び生首(左目損失) 桜の花びら】
【状態:肉体的疲労小・魔力消費中、腹部に痣、左腕打撲、右耳に裂傷、左足首に切り傷、非常に強い意志】
【思考・行動】
1:博物館、ホテル、学校のどれかに移動する(行き先は次の書き手に任せます)
2:稟を探す。その途中であった人間は皆殺し。知人であろうとも容赦無く殺す(出来る限り単独行動している者を狙う)
3:ハイリスク覚悟で魔力を一気に回復する為の方法、或いはアイテムを探す
4:トウカを殺し、楓の仇を討つ
5:純一に音夢の生首を見せつけ殺す
6:つぐみの前で武を殺して、その後つぐみも殺す
7:亜沙の一団と決着をつける
8:桜の花びらが気になる
9:稟を守り通して自害
【備考】
私服(ゲーム時の私服に酷似)に着替えました。(汚れた制服はビニールに包んでデイパックの中に)
ネリネの魔法(体育館を吹き飛ばしたやつ)は使用不可能です。
※これはネリネは魔力は大きいけどコントロールは下手なので、 制限の結果使えなくなっただけで他の魔法を使えるキャラの制限とは違う可能性があります。
※永遠神剣第七位“献身”は神剣っていってますが、形は槍です。
※永遠神剣第七位“献身”は制限を受けて、以下のような性能となっています。
永遠神剣の自我は消し去られている。
魔力を送れば送る程、所有者の身体能力を強化する(但し、原作程圧倒的な強化は不可能)。
魔力持ちの敵に突き刺せば、ある程度魔力を奪い取れる
以下の魔法が使えます。
尚、使える、といってもウインドウィスパー以外は、実際に使った訳では無いので、どの位の強さなのかは後続の書き手に委ねます。
アースプライヤー 回復魔法。単体回復。大地からの暖かな光によって、マナが活性化し傷を癒す。
ウィンドウィスパー 防御魔法。風を身体の周りに纏うことで、僅かな間だけ防御力を高める。
ハーベスト 回復魔法。全体回復。戦闘域そのものを活性化させ、戦う仲間に力を与える。
※古手梨花を要注意人物と判断(容姿のみの情報)
※音夢とつぐみの知り合いに関する情報を知っています。
※音夢の生首は音夢の制服と一緒にビニール袋へ詰め込みディパックの中に入れてます。
※魔力が極端に消耗する事と、回復にひどく時間がかかる(ネリネの魔力なら完全回復まで数日)という事に気が付きました。
※トウカと、川澄舞(舞に関しては外見の情報のみ)を危険人物と認識しました。
※千影の“時詠”を警戒。ただし“時詠”の能力までは把握していません。
※魔力持ち及び永遠神剣の持ち主を献身で殺せばさらに魔力が回復する仮説を思いつきました。
※ある程度他の永遠神剣の気配を感じ取れます。
※桜の花びらは管理者の一人である魔法の桜のものです。
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