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「復讐鬼とブリーフと」(2007/07/26 (木) 23:32:17) の最新版変更点
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**復讐鬼とブリーフと ◆guAWf4RW62
たっぷりと血を吸い込んだ地面は、赤く変色しつつある。
周囲は死臭で満たされており、傍らには霧夜エリカと相沢祐一の亡骸が転がっている。
そんな中、坂上智代は大地に膝を付き、がっくりと項垂れていた。
衝撃的な事件から暫く時間が経ち、ようやく智代の思考は僅かばかりの機能を取り戻しつつあった。
あの時――気付いたらもう、エリカが殺されてしまっていた。
そしてエリカを殺害した襲撃者もまた、永久に動かぬ骸と化している。
この男は、自分が殺したのだ。
エリカの仇だとか、殺人鬼を打倒するだとか、そういった明確な意思によるものでは無い。
混乱する思考と恐怖に身を任せ、訳も分からぬままに引き金を引いただけだ。
今になって考えてみれば、様々な疑問が浮かび上がってくる。
何故この男は、すぐに自分を仕留めようとしなかったのだろうか?
やろうと思えば出来た筈だ。
何故この男は『危ない所だったな』などという、訳の分からない事を言ったのだろうか?
どれだけ考えても、見当すら付かない。
ともかく……いつまでも此処に居るのは不味過ぎる。
先の銃声を聞きつけた何者かが、襲撃を仕掛けにやってくるという可能性も考えられる。
手早く荷物を纏めて、場所を移らなければならない。
智代は地面に落ちている荷物を整理し始め――銀色に輝くボイスレコーダーの存在に気付いた。
「何だ……コレは?」
戦闘の役に立つとは思えぬが、何か重要なメッセージが入っているという事も考えられる。
一瞬の思案の後、右向き三角形のボタンを押すと、驚くべき内容が流された。
『霧夜エリカは殺し合いに乗っている』という旨のメッセージが、対馬レオと名乗る人物により、録音されていたのである。
「莫迦な……有り得ない」
これは何かの間違いだ。
エリカは自分と行動を共にしていたし、殺し合いに乗っている訳が無い。
対馬レオだって、エリカとかなり親しい間柄である筈だから、彼女を貶めるような真似はしない筈。
そうだ――これは対馬レオでは無い何者かによって、仕組まれた物だ。
……何の為に?
そこまで考えた時、智代の脳裏に一つの推論が浮かび上がった。
「……そうか。全ては仕組まれていた事だったんだな」
無実の罪を被せる狙いなどただ1つ――何も知らぬ愚かな人間を騙してエリカと戦わせる、というものだろう。
恐らくは殺し合いに乗った人間が、ボイスレコーダーを『罠』として用いたのだ。
成る程成る程、確かにエリカは身体能力も知力も優れており、優勝を狙う者にとっては大きな障害だ。
エリカは有名財閥の跡継ぎ候補だという話だったし、彼女の実力を知っている者など幾らでもいるだろうから、『罠』の標的にされたのも頷ける。
では、何か。
先程の男は、ボイスレコーダーによりエリカを殺人鬼だと判断し、警告も無しに襲い掛かってきた。
恐らくは、エリカに圧し掛かられていた自分を救う為に。
だからこそ、『危ない所だったな』などという台詞を吐いたのだ。
そして、自分はその男を――
「……ああああああああああああああああああァァァァっ!!!」
全ての事実を正しく認識した瞬間、感情を抑えていた堤防が決壊した。
自分達は完全に嵌められたのだ。
一人として殺し合いに乗っていなかったのに、命を奪い合ってしまったのだ――『罠』を仕掛けた者の、目論見通りに。
これが、殺し合いだ。
ルール無用、何でも有りのデスゲームだ。
自分達は余りにも甘過ぎた。
まずは仲間を集めようなどと、寝惚けた考えを持ってしまっていた。
そんな事で、この殺し合いを止められる訳が無い。
卑怯極まりない外道共が生きている限り、主催者を打倒する以前の問題なのだ。
どれだけ大人数の集団を結成しようとも、そこに疑心暗鬼の種をばら撒かれては、どうしようも無いのだから。
「……良いだろう――この島の趣旨、よく理解した。ならば私も、その趣旨に則って行動させて貰うぞ」
殺し合いが何故起きる?
簡単だ。
殺し合いに乗っている人間がいるから、悪意を持った卑劣な者が存在するから、起きるのだ。
ならば自分が、悪意ある鬼畜共を殺し尽くしてやろうではないか。
殺人鬼共に卑劣な策を練る猶予など、もう一秒たりとも与えはしない。
何処まで逃げようとも、地の果てまで追い縋って殺してやる。
主催者の打倒や脱出方法の模索など、他の者達に任せておけば良い。
適材適所、その任務に適した人間にやって貰うべきだ。
そして、鬼畜共を駆逐するという任務には、飛び抜けた運動能力と――絶対の憎悪を併せ持った、今の自分こそが相応しい。
最早泣いて詫びようとも改心しようとも、絶対に許さない。
殺し合いに乗った人間は、血の一滴、髪の一本に至るまで、この世から消し去ってくれる。
「すまない……私が愚かな所為で、お前達を死なせてしまった。だけど安心してくれ――島に巣食った悪鬼達は、私が倒してやるからな」
智代は二人の死体に向けて頭を下げた後、鬼気迫る形相でその場を後にした。
◇ ◇ ◇
薄暗い森の中で、天高く聳え立つ四角錐状の鉄塔。
多少古ぼけてはいるものの、この大きさなら送電設備としての役目を十分に果たせるだろう。
その膝元では、憂鬱な表情を浮かべた少女――白河ことりが佇んでいる。
儚いものだけが持つ、限りある美しさが、ことりの瞳の奥に見え隠れしていた。
この島に連れてこられて以来、ずっと行動を共にしていた――そして友人になれた筈の、川澄舞と別れてしまった。
これからどうすれば良いのだろうか?
自分としては舞や純一を探し出したい所であるが、その行き先にはまるで心当たりが無い。
そして闇雲に動き回れば、殺し合いに乗っている人間と出会ってしまう可能性も高まるのだ。
僅か6時間で11人もの人間が死んでしまった以上、この島の至る所に殺人鬼が存在すると判断しざるを得ない。
万が一殺人鬼に出会ってしまえば、今の装備では――否、たとえ銃を持っていたとしても、自分では殺されてしまうだけだろう。
自分から動かなければ何も変わらないかも知れないが、動けば動く程危険は増す。
故に、完全な手詰まりだった。
「舞……大丈夫かな……どうしちゃったのかな……」
呟くことりの眼差しには、強い不安の色が映し出されている。
別れた時の舞の様子は、明らかに尋常で無かった。
あの状態で誰かに襲われでもしたら、ほぼ間違いなく殺されてしまうだろう。
それに運良く舞も自分も生き延びて、再会出来たとしても、また前のように仲良く過ごせるのだろうか。
あの時舞は、自分に対して銃口を向けてきた。
人に拳銃を突きつけるという行為が、この島ではどのような意味を持つか、十分に理解している筈なのにだ。
自分達はあの禍根を乗り越えて、再び友達になれるのだろうか。
そんな不安が、何度も何度もことりの脳裏を過ぎる。
その所為だろうか――肩を叩かれるまで、人が接近していた事に気付かなかったのは。
「そこの君……ちょっと良いかな?」
「――――ッ!?」
ことりは心臓が破裂しそうな感覚に襲われながらも、慌てて背後へと振り返った。
現れたのが襲撃者なら、間違いなく自分は終わりだろう。
この距離からではどうやっても逃げ切れまい。
逆に現れたのが善良な人間なら、現状を打開出来る好機かも知れない。
上手く協力し合う事が出来れば、きっと道は開けるだろう。
だが現れた人間はそのどちらでも無い、ブリーフ一丁の男、赤坂衛だった。
筋骨隆々な肉体と貧相に過ぎる格好は、筆舌に尽くし難い程アンバランスである。
その身体にこびり付いた汗は、陽を反射して禍々しく光り輝いている。
その顔には愛想笑いが浮かんでいるものの、この状況ではそれすらも不気味に見える。
ことりにとって、今の赤坂は紛れも無く――
「キャァァァァァァァァァァァァァァァッ!! 変態っ!!」
森の中に、甲高い悲鳴が木霊する。
赤坂の放つ圧倒的違和感、圧倒的変態感が、一瞬にしてことりの冷静さを奪い去っていた。
それも当然の事だろう。
ブリーフ一丁でぎこちない笑みを浮かべる男の姿は、怖い程にシュールだ。
「――おっ、落ち着いてくれ! 僕は別に変態なんかじゃ……」
「イヤアアアアアアアアアッ、来ないでえ!!」
赤坂は一歩歩み寄って弁明しようとしたが、それは完全に逆効果だった。
ことりは首をぶんぶんと横に振り、悲鳴は益々音量を増してゆく。
(クソッ……参ったな……)
予想外の事態を受け、赤坂は内心毒づく。
アルルゥと出会った時は武器を構えた所為か、怖がらせてしまった。
だからこそ今回は、極めて友好的且つ平和的に、素手の状態で話し掛けた。
駄目押しと言わんばかりに、作り笑いだって浮かべてみせた。
完璧な作戦である筈だった。
自分が今、ブリーフしか着用していないという一点さえ除けば。
――そして赤坂が打開策を考え出すよりも早く、それは現れた。
「――――ッ!?」
背筋に凄まじいまでの悪寒を感じ、赤坂は咄嗟に上体を捻った。
それとほぼ同時に銃声が鳴り響き、赤坂の背後にあった鉄柱が大きな衝突音を奏でた。
何があったか考えるまでも無い。
敵が現れ、今自分は狙われているのだ。
相手が銃まで持っている以上、此処は一旦引きたい所だが、そんな事をすれば傍にいる少女が殺されてしまうだろう。
(……やるしかないかっ!)
赤坂は目にも止まらぬ動作でトンファーを取り出し、続けて襲撃者の方へと視線を向ける。
するとそこには、拳銃を携えた――そして血塗れとなった制服を着た、一人の少女が立っていた。
少女の双眸には紅蓮の炎が宿っており、その殺気の凄まじさは肉食獣にも引けを取らぬだろう。
間違いなく、あの少女は殺し合いに乗っている。
そして、手加減が許されるような生易しい相手でも無い。
甘い感情に拘って、万が一にでも敗れてしまった場合、益々犠牲者が増えてしまう。
そう判断した赤坂は一切の躊躇無く、それこそ殺してしまうくらいのつもりで、前方へと駆けた。
「――フッ! ――ハッ!」
敵の――坂上智代の照準を定めさせぬよう、赤坂は小刻みに左右へと跳ねる。
銃の扱いに慣れぬ智代では、到底その動きを捉えきれない。
見る見るうちに二人の距離は縮まってゆき、手を伸ばせば触れれる程の距離となった。
瞬間、赤坂の鋭い眼光が、智代の瞳を射抜いた。
「――これ以上、人の命を奪わせはしないっ!」
全力全開、掛け値無しで本気の一撃が、智代の左即頭部に襲い掛かる。
豪腕により振るわれるトンファーが直撃すれば、一撃で頭蓋骨は砕かれてしまうだろう。
少々大振りではあったが、一介の女子高生では決して逃れられぬ死。
……あくまで一介の女子高生なら、の話ではあるが。
智代の運動能力は、女子高生という括りなど遥かに凌駕し、地元では伝説となっている程だ。
「――甘いっ!」
「――――ッ!?」
智代は素早く上体を屈めて、迫る一撃から身を躱した。
そのまま大きく腰を捻り、旋風を伴った凄まじい足払いを放つ。
だが赤坂が後方へと飛び退いた為、刃物さながらの足が獲物に食らい付く事は無かった。
智代は後退する赤坂を睨みつけ、憎々しげに吐き捨てた。
「人の命を奪わせないだと……殺人鬼が出任せを吐くなっ!! お前のような奴がいるから、皆……皆っ……!」
「な、何だと――――」
的外れな罵倒。
赤坂は驚愕に目を見開いたが、智代からすればこの判断は仕方の無い事だ。
先程のことりと赤坂のやり取りは、遠目から見れば襲撃者と被害者のソレにしか見えなかった。
悲鳴を上げる少女と、迫り寄る半裸男の姿など見せられては、誰でも智代と同じ結論に至るだろう。
そして赤坂からすれば、智代の方こそ殺し合いに乗っているようにしか見えない。
トウカとは明らかに違う。
智代の服は血に塗れており、瞳は昏い憎悪に支配されている。
それでも赤坂の判断力を以ってすれば、時間があれば誤解だと気付けた筈だが、二人の装備差がそれを許さない。
拳銃で狙われている状態で、悠長に会話している暇などある訳が無い。
赤坂は真空を巻き起こす程の勢いで、斜め左前へと大きく踏み込んだ。
続けて上体を低く折り畳んだ体勢となり、秒に満たぬ時間で攻撃可能範囲まで侵入。
そして間合いに入った瞬間にはもう、トンファーを振り上げ始めていた。
対する智代は近距離で必殺の一撃を放つべく、下に潜り込んだ赤坂へ銃口を向けようとする。
後は赤坂がトンファーを振り切る方が早いのか、智代が射撃動作を終える方が早いのか、という勝負。
赤坂も智代も、冷静に判断力を働かせるだけの余裕など無い。
――だから二人の戦いを止めたのは、第三者だった。
「…………二人とも待ってくださいっ!!!」
「「――――ッ!?」」
赤坂のトンファーが、智代の腕の動きが、ピタリと制止する。
二人の興奮を吹き飛ばす程の声量で、白河ことりが叫んだのだ。
先に疑問の声を上げたのは、智代だった。
「……何故止める? お前はこの男に襲われていたんじゃないのか?」
「いえ、私は何もされてませんよ。服装には驚かされましたけど……」
言われて智代は、前方へと視線を移した。
すると赤坂が、申し訳無いといった感じの苦笑いを浮かべていた。
それで智代は、ようやく事態を理解する。
――自分は勘違いをしていたのだと。
「しかし……何故裸なんだ? お前は露出狂なのか?」
「ち……違うっ! これには深い理由がっ……!」
露出狂の汚名を晴らすべく、慌てて弁明しようとする赤坂。
だが智代は大きく溜め息をついて、言った。
「まあ殺し合いに乗っていないなら、別に露出狂でも構わない。
それより、知り得る限りの危険人物の情報を教えてくれないか?」
「……どういう事だ?」
・
・
・
「そうか……つまり蟹沢きぬと名乗る人物が、殺し合いに乗っているかも知れないんだな?」
「ああ。可能性があるってだけで、まだ確定じゃ無いけどね」
十分後、三人は地面に座り込んで会話していた。
この島で情報の有無は生死に直結する――だからこそ、まずは情報交換をしなければならないのだ。
最初に智代が自らの経緯と行動目的を語った後、赤坂が『蟹沢きぬ』に関する事柄を話した。
続けて赤坂は、他の情報も伝えようとしたのだが――それを遮るように、智代が腰を上げた。
「悪いが私はもう行かせてもらう。今この瞬間も、悪鬼共が人を襲っているかも知れないからな」
「……もし殺し合いに乗っている人間を見つけたら、殺すつもりなのか?」
「無論だ。この島に巣食う悪漢共、私が許しはしない」
じゃあな、と言って智代が立ち去ろうとする。
だが赤坂は、その背中へ辛辣な忠告を撃ち放つ。
「智代さん。君が歩もうとしているのは、修羅の道だ――きっと後悔するぞ」
智代はぴたりと足を止める。
自分が今から歩こうとしているのは、修羅の道――その程度の事、当然理解している。
それでも自分がやらねば、エリカの仇は取れぬし、この殺人遊戯も破壊し切れぬだろう。
僅かばかりの沈黙の後、何の迷いも無い、そして固い決意の籠もった声で告げる。
「……善良な者達を救う為、そして私の友人の無念を晴らす為なんだ。後悔なんか、する筈が無い」
言い終えると、智代は振り返る事無く歩き去って行った。
赤坂には、去りゆく少女の背中が酷く儚げなものに見えた。
それでも何とか視線を横に移し、もう一人の少女――白河ことりへと語り掛ける。
「……ことり君、だったかな。さっきは驚かせて悪かったね」
「いいえ、私の方こそ取り乱しちゃってすいませんでした。赤坂さんはただ話し掛けてきただけなのに……。
私が怖がりな所為で……危ない目に合わせてしまいました……」
言葉を返すことりは、幾分か沈んだ表情をしていた。
元はと言えば自分が悲鳴を上げた所為で、無駄な戦いが生まれてしまったのだ。
何とか事無きを得たものの、一歩間違えれば死傷者が出ていたかも知れない。
だからこそことりは、自分の軽率な行動を深く恥じていた。
「いや、仕方無いよ! ほら、僕はこんな格好だしさ……これじゃ変態扱いされるのも無理ないって!
普段の僕がブリーフ一丁の奴なんて見つけたら、間違いなく逮捕するね、ハハハ……」
落ち込んだことりを励ますべく、赤坂は男としての尊厳をかなぐり捨てる。
身振り手振りを交えて、自身の服装の異常性を力説する様は、実に滑稽だ。
するとことりが、表情を一転させて笑い始めた。
「あは……あははははっ、貴方、良い人ですね」
「……そうかな?」
「はい、私には分かります。貴方の感じ、いつまでも割れないシャボン玉みたい」
笑ってくれたのは間違いなく僥倖だったが、発言の内容が理解出来ない。
赤坂は疑問の表情を浮かべ、ことりが言わんとしている事を確かめようとする。
「割れないシャボン玉? 何だいそれは?」
「屋根より高い所にあって、何時割れてしまうんだろうってつい気になっちゃうの」
「……ごめん、良く分からない」
「うふふふふ。説明すると私もよく分からないです、うん」
ことりがひとしきり笑って、小さく頷く。
こうやって話してみると、彼女は実に捉え所の無い少女だった。
とにかく赤坂は、ことりが落ち着いてくれたと判断し、本題に入ろうとする。
「まあそれはさておき、ことり君。一つ訊ねたいんだけど……」
「ことりって呼んで下さい」
「……ことり。一つ訊ねたいんだけど、良いかな?」
「はい、どうぞ」
ことりのペースに振り回されながらも、何とか話を進めていく。
「この鉄塔に、変な耳をした女の人達はいなかったかい? 仲間と此処で落ち合う予定だったんだ」
「いいえ、私が此処で出会ったのは、赤坂さんと坂上さんだけですよ」
「そっか……」
トウカ達と此処で合流出来れば良かったのだが、流石に戻ってくるのが遅過ぎたようだ。
まあこんな事もあろうかと、もう一つの集合場所・集合時間を指定してあるのだから問題無い。
放送でトウカ達の名前は呼ばれていなかったし、正午に神社へ行けば再会を果たせる筈。
赤坂はそれらの旨を、ことりへと伝えた。
「――そういう訳で僕は神社に行こうと思うけど、ことりはどうする? 一緒に来る?」
「はい、お邪魔にならないようでしたら是非っ!」
ことりの返答は迅速だった。
仲間を欲していることりからすれば、赤坂の申し出は正しく渡りに船だ。
赤坂は、見ず知らずの間柄に過ぎぬ自分を必死に励ましてくれた。
読心能力などに頼らずとも分かる――この男の人は、とても暖かい心の持ち主だと。
自分に何が出来るのか、誰かの役に立てるのかどうかすらも、まだ分からない。
それでも人を信じる事だけなら、出来る筈だから。
ことりは可憐な笑みを浮かべて、赤坂と共に歩き始めた。
――その道中で二人は情報交換を行っていたのだが、唐突にことりが頬を赤く染めた。
「あの――赤坂さん?」
「何だい?」
「神社に行く前に、服を手に入れた方が良いと思うんですけど、如何でしょうか?」
「……………………そうだね」
まずは、それが最初の課題だった。
【B-6 /1日目 午前】
【坂上智代@CLANNAD】
【装備:FNブローニングM1910 4+1発(.380ACP)】
【所持品:支給品一式×3、サバイバルナイフ、トランシーバー(二台)・多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)・十徳工具@うたわれるもの・スタンガン、ランダムアイテム不明】
【状態:軽度の疲労・血塗れ・ゲームに乗った人間に対する深い憎悪】
【思考・行動】
基本方針:まずは殺し合いに乗っている人間を殲滅する。一応最終目標は主催者の打倒
1:殺し合いに乗った人間を探し出して、殺害する。
【備考】
※智代は赤坂達から『蟹沢きぬ』に関する情報のみを入手しました。
※赤坂を露出狂だと判断しました。
【B-6 鉄塔/1日目 午前】
【白河ことり@D.C.P.S.】
【装備:竹刀 風見学園本校制服】
【所持品:支給品一式 バナナ(台湾産)(4房)虹色の羽根@つよきす-Mighty Heart-】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ゲームには乗らない。最終的な目標は島からの脱出。
1:赤坂と一緒に行動する
2:仲間になってくれる人を見つける。
3:朝倉君たちと、舞と、舞の友達を探す。
4:千影の姉妹を探す。
※虹色の羽根
喋るオウム、土永さんの羽根。
この島内に唯一存在する動物、その証拠。
【備考】
※テレパス能力消失後からの参加ですが、主催側の初音島の桜の効果により一時的な能力復活状態にあります。
ただし、ことりの心を読む力は制限により相手に触らないと読み取れないようになっています。
ことりは、能力が復活していることに大方気付き、『触らないと読み取れない』という制限についてはまだ気づいていません。
※第三回放送の時に神社に居るようにする(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化) つもりですが、
赤坂の判断や状況次第で変化するかも知れません
※坂上智代から、ボイスレコーダーを発端とした一連の事件について、聞きました。
【赤坂衛@ひぐらしのなく頃に】
【装備:デリホウライのトンファー@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式、椅子@SHUFFLE!】
【状態:疲労、左腿に怪我、首筋に軽い傷、ブリーフと靴のみ着用】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。
1:ことりと一緒に行動する
2:まずは服を取りに戻る
3:正午までに神社に向かいトウカ・アルルゥと合流
4:大石さんと合流したい。
5:梨花ちゃんが自分の知っている古手梨花かどうか確かめる。
【備考】
※赤坂の衣類はC-4の遥の墓のそばに放置
※あゆが遥を殺した人間である可能性を考えています(あゆと遥の名前は知りません)
※坂上智代から、ボイスレコーダーを発端とした一連の事件について、聞きました。
|087:[[魔法少女(後編)]]|投下順に読む|089:[[童貞男の孤軍奮闘]]|
|087:[[魔法少女(後編)]]|時系列順に読む|089:[[童貞男の孤軍奮闘]]|
|074:[[It’s a painfull life]]|坂上智代||
|077:[[赤坂衛の受難]]|赤坂衛|[[静かな湖畔?]]|
|084:[[私にその手を汚せというのか]]|白河ことり|[[静かな湖畔?]]|
**復讐鬼とブリーフと ◆guAWf4RW62
たっぷりと血を吸い込んだ地面は、赤く変色しつつある。
周囲は死臭で満たされており、傍らには霧夜エリカと相沢祐一の亡骸が転がっている。
そんな中、坂上智代は大地に膝を付き、がっくりと項垂れていた。
衝撃的な事件から暫く時間が経ち、ようやく智代の思考は僅かばかりの機能を取り戻しつつあった。
あの時――気付いたらもう、エリカが殺されてしまっていた。
そしてエリカを殺害した襲撃者もまた、永久に動かぬ骸と化している。
この男は、自分が殺したのだ。
エリカの仇だとか、殺人鬼を打倒するだとか、そういった明確な意思によるものでは無い。
混乱する思考と恐怖に身を任せ、訳も分からぬままに引き金を引いただけだ。
今になって考えてみれば、様々な疑問が浮かび上がってくる。
何故この男は、すぐに自分を仕留めようとしなかったのだろうか?
やろうと思えば出来た筈だ。
何故この男は『危ない所だったな』などという、訳の分からない事を言ったのだろうか?
どれだけ考えても、見当すら付かない。
ともかく……いつまでも此処に居るのは不味過ぎる。
先の銃声を聞きつけた何者かが、襲撃を仕掛けにやってくるという可能性も考えられる。
手早く荷物を纏めて、場所を移らなければならない。
智代は地面に落ちている荷物を整理し始め――銀色に輝くボイスレコーダーの存在に気付いた。
「何だ……コレは?」
戦闘の役に立つとは思えぬが、何か重要なメッセージが入っているという事も考えられる。
一瞬の思案の後、右向き三角形のボタンを押すと、驚くべき内容が流された。
『霧夜エリカは殺し合いに乗っている』という旨のメッセージが、対馬レオと名乗る人物により、録音されていたのである。
「莫迦な……有り得ない」
これは何かの間違いだ。
エリカは自分と行動を共にしていたし、殺し合いに乗っている訳が無い。
対馬レオだって、エリカとかなり親しい間柄である筈だから、彼女を貶めるような真似はしない筈。
そうだ――これは対馬レオでは無い何者かによって、仕組まれた物だ。
……何の為に?
そこまで考えた時、智代の脳裏に一つの推論が浮かび上がった。
「……そうか。全ては仕組まれていた事だったんだな」
無実の罪を被せる狙いなどただ1つ――何も知らぬ愚かな人間を騙してエリカと戦わせる、というものだろう。
恐らくは殺し合いに乗った人間が、ボイスレコーダーを『罠』として用いたのだ。
成る程成る程、確かにエリカは身体能力も知力も優れており、優勝を狙う者にとっては大きな障害だ。
エリカは有名財閥の跡継ぎ候補だという話だったし、彼女の実力を知っている者など幾らでもいるだろうから、『罠』の標的にされたのも頷ける。
では、何か。
先程の男は、ボイスレコーダーによりエリカを殺人鬼だと判断し、警告も無しに襲い掛かってきた。
恐らくは、エリカに圧し掛かられていた自分を救う為に。
だからこそ、『危ない所だったな』などという台詞を吐いたのだ。
そして、自分はその男を――
「……ああああああああああああああああああァァァァっ!!!」
全ての事実を正しく認識した瞬間、感情を抑えていた堤防が決壊した。
自分達は完全に嵌められたのだ。
一人として殺し合いに乗っていなかったのに、命を奪い合ってしまったのだ――『罠』を仕掛けた者の、目論見通りに。
これが、殺し合いだ。
ルール無用、何でも有りのデスゲームだ。
自分達は余りにも甘過ぎた。
まずは仲間を集めようなどと、寝惚けた考えを持ってしまっていた。
そんな事で、この殺し合いを止められる訳が無い。
卑怯極まりない外道共が生きている限り、主催者を打倒する以前の問題なのだ。
どれだけ大人数の集団を結成しようとも、そこに疑心暗鬼の種をばら撒かれては、どうしようも無いのだから。
「……良いだろう――この島の趣旨、よく理解した。ならば私も、その趣旨に則って行動させて貰うぞ」
殺し合いが何故起きる?
簡単だ。
殺し合いに乗っている人間がいるから、悪意を持った卑劣な者が存在するから、起きるのだ。
ならば自分が、悪意ある鬼畜共を殺し尽くしてやろうではないか。
殺人鬼共に卑劣な策を練る猶予など、もう一秒たりとも与えはしない。
何処まで逃げようとも、地の果てまで追い縋って殺してやる。
主催者の打倒や脱出方法の模索など、他の者達に任せておけば良い。
適材適所、その任務に適した人間にやって貰うべきだ。
そして、鬼畜共を駆逐するという任務には、飛び抜けた運動能力と――絶対の憎悪を併せ持った、今の自分こそが相応しい。
最早泣いて詫びようとも改心しようとも、絶対に許さない。
殺し合いに乗った人間は、血の一滴、髪の一本に至るまで、この世から消し去ってくれる。
「すまない……私が愚かな所為で、お前達を死なせてしまった。だけど安心してくれ――島に巣食った悪鬼達は、私が倒してやるからな」
智代は二人の死体に向けて頭を下げた後、鬼気迫る形相でその場を後にした。
◇ ◇ ◇
薄暗い森の中で、天高く聳え立つ四角錐状の鉄塔。
多少古ぼけてはいるものの、この大きさなら送電設備としての役目を十分に果たせるだろう。
その膝元では、憂鬱な表情を浮かべた少女――白河ことりが佇んでいる。
儚いものだけが持つ、限りある美しさが、ことりの瞳の奥に見え隠れしていた。
この島に連れてこられて以来、ずっと行動を共にしていた――そして友人になれた筈の、川澄舞と別れてしまった。
これからどうすれば良いのだろうか?
自分としては舞や純一を探し出したい所であるが、その行き先にはまるで心当たりが無い。
そして闇雲に動き回れば、殺し合いに乗っている人間と出会ってしまう可能性も高まるのだ。
僅か6時間で11人もの人間が死んでしまった以上、この島の至る所に殺人鬼が存在すると判断しざるを得ない。
万が一殺人鬼に出会ってしまえば、今の装備では――否、たとえ銃を持っていたとしても、自分では殺されてしまうだけだろう。
自分から動かなければ何も変わらないかも知れないが、動けば動く程危険は増す。
故に、完全な手詰まりだった。
「舞……大丈夫かな……どうしちゃったのかな……」
呟くことりの眼差しには、強い不安の色が映し出されている。
別れた時の舞の様子は、明らかに尋常で無かった。
あの状態で誰かに襲われでもしたら、ほぼ間違いなく殺されてしまうだろう。
それに運良く舞も自分も生き延びて、再会出来たとしても、また前のように仲良く過ごせるのだろうか。
あの時舞は、自分に対して銃口を向けてきた。
人に拳銃を突きつけるという行為が、この島ではどのような意味を持つか、十分に理解している筈なのにだ。
自分達はあの禍根を乗り越えて、再び友達になれるのだろうか。
そんな不安が、何度も何度もことりの脳裏を過ぎる。
その所為だろうか――肩を叩かれるまで、人が接近していた事に気付かなかったのは。
「そこの君……ちょっと良いかな?」
「――――ッ!?」
ことりは心臓が破裂しそうな感覚に襲われながらも、慌てて背後へと振り返った。
現れたのが襲撃者なら、間違いなく自分は終わりだろう。
この距離からではどうやっても逃げ切れまい。
逆に現れたのが善良な人間なら、現状を打開出来る好機かも知れない。
上手く協力し合う事が出来れば、きっと道は開けるだろう。
だが現れた人間はそのどちらでも無い、ブリーフ一丁の男、赤坂衛だった。
筋骨隆々な肉体と貧相に過ぎる格好は、筆舌に尽くし難い程アンバランスである。
その身体にこびり付いた汗は、陽を反射して禍々しく光り輝いている。
その顔には愛想笑いが浮かんでいるものの、この状況ではそれすらも不気味に見える。
ことりにとって、今の赤坂は紛れも無く――
「キャァァァァァァァァァァァァァァァッ!! 変態っ!!」
森の中に、甲高い悲鳴が木霊する。
赤坂の放つ圧倒的違和感、圧倒的変態感が、一瞬にしてことりの冷静さを奪い去っていた。
それも当然の事だろう。
ブリーフ一丁でぎこちない笑みを浮かべる男の姿は、怖い程にシュールだ。
「――おっ、落ち着いてくれ! 僕は別に変態なんかじゃ……」
「イヤアアアアアアアアアッ、来ないでえ!!」
赤坂は一歩歩み寄って弁明しようとしたが、それは完全に逆効果だった。
ことりは首をぶんぶんと横に振り、悲鳴は益々音量を増してゆく。
(クソッ……参ったな……)
予想外の事態を受け、赤坂は内心毒づく。
アルルゥと出会った時は武器を構えた所為か、怖がらせてしまった。
だからこそ今回は、極めて友好的且つ平和的に、素手の状態で話し掛けた。
駄目押しと言わんばかりに、作り笑いだって浮かべてみせた。
完璧な作戦である筈だった。
自分が今、ブリーフしか着用していないという一点さえ除けば。
――そして赤坂が打開策を考え出すよりも早く、それは現れた。
「――――ッ!?」
背筋に凄まじいまでの悪寒を感じ、赤坂は咄嗟に上体を捻った。
それとほぼ同時に銃声が鳴り響き、赤坂の背後にあった鉄柱が大きな衝突音を奏でた。
何があったか考えるまでも無い。
敵が現れ、今自分は狙われているのだ。
相手が銃まで持っている以上、此処は一旦引きたい所だが、そんな事をすれば傍にいる少女が殺されてしまうだろう。
(……やるしかないかっ!)
赤坂は目にも止まらぬ動作でトンファーを取り出し、続けて襲撃者の方へと視線を向ける。
するとそこには、拳銃を携えた――そして血塗れとなった制服を着た、一人の少女が立っていた。
少女の双眸には紅蓮の炎が宿っており、その殺気の凄まじさは肉食獣にも引けを取らぬだろう。
間違いなく、あの少女は殺し合いに乗っている。
そして、手加減が許されるような生易しい相手でも無い。
甘い感情に拘って、万が一にでも敗れてしまった場合、益々犠牲者が増えてしまう。
そう判断した赤坂は一切の躊躇無く、それこそ殺してしまうくらいのつもりで、前方へと駆けた。
「――フッ! ――ハッ!」
敵の――坂上智代の照準を定めさせぬよう、赤坂は小刻みに左右へと跳ねる。
銃の扱いに慣れぬ智代では、到底その動きを捉えきれない。
見る見るうちに二人の距離は縮まってゆき、手を伸ばせば触れれる程の距離となった。
瞬間、赤坂の鋭い眼光が、智代の瞳を射抜いた。
「――これ以上、人の命を奪わせはしないっ!」
全力全開、掛け値無しで本気の一撃が、智代の左即頭部に襲い掛かる。
豪腕により振るわれるトンファーが直撃すれば、一撃で頭蓋骨は砕かれてしまうだろう。
少々大振りではあったが、一介の女子高生では決して逃れられぬ死。
……あくまで一介の女子高生なら、の話ではあるが。
智代の運動能力は、女子高生という括りなど遥かに凌駕し、地元では伝説となっている程だ。
「――甘いっ!」
「――――ッ!?」
智代は素早く上体を屈めて、迫る一撃から身を躱した。
そのまま大きく腰を捻り、旋風を伴った凄まじい足払いを放つ。
だが赤坂が後方へと飛び退いた為、刃物さながらの足が獲物に食らい付く事は無かった。
智代は後退する赤坂を睨みつけ、憎々しげに吐き捨てた。
「人の命を奪わせないだと……殺人鬼が出任せを吐くなっ!! お前のような奴がいるから、皆……皆っ……!」
「な、何だと――――」
的外れな罵倒。
赤坂は驚愕に目を見開いたが、智代からすればこの判断は仕方の無い事だ。
先程のことりと赤坂のやり取りは、遠目から見れば襲撃者と被害者のソレにしか見えなかった。
悲鳴を上げる少女と、迫り寄る半裸男の姿など見せられては、誰でも智代と同じ結論に至るだろう。
そして赤坂からすれば、智代の方こそ殺し合いに乗っているようにしか見えない。
トウカとは明らかに違う。
智代の服は血に塗れており、瞳は昏い憎悪に支配されている。
それでも赤坂の判断力を以ってすれば、時間があれば誤解だと気付けた筈だが、二人の装備差がそれを許さない。
拳銃で狙われている状態で、悠長に会話している暇などある訳が無い。
赤坂は真空を巻き起こす程の勢いで、斜め左前へと大きく踏み込んだ。
続けて上体を低く折り畳んだ体勢となり、秒に満たぬ時間で攻撃可能範囲まで侵入。
そして間合いに入った瞬間にはもう、トンファーを振り上げ始めていた。
対する智代は近距離で必殺の一撃を放つべく、下に潜り込んだ赤坂へ銃口を向けようとする。
後は赤坂がトンファーを振り切る方が早いのか、智代が射撃動作を終える方が早いのか、という勝負。
赤坂も智代も、冷静に判断力を働かせるだけの余裕など無い。
――だから二人の戦いを止めたのは、第三者だった。
「…………二人とも待ってくださいっ!!!」
「「――――ッ!?」」
赤坂のトンファーが、智代の腕の動きが、ピタリと制止する。
二人の興奮を吹き飛ばす程の声量で、白河ことりが叫んだのだ。
先に疑問の声を上げたのは、智代だった。
「……何故止める? お前はこの男に襲われていたんじゃないのか?」
「いえ、私は何もされてませんよ。服装には驚かされましたけど……」
言われて智代は、前方へと視線を移した。
すると赤坂が、申し訳無いといった感じの苦笑いを浮かべていた。
それで智代は、ようやく事態を理解する。
――自分は勘違いをしていたのだと。
「しかし……何故裸なんだ? お前は露出狂なのか?」
「ち……違うっ! これには深い理由がっ……!」
露出狂の汚名を晴らすべく、慌てて弁明しようとする赤坂。
だが智代は大きく溜め息をついて、言った。
「まあ殺し合いに乗っていないなら、別に露出狂でも構わない。
それより、知り得る限りの危険人物の情報を教えてくれないか?」
「……どういう事だ?」
・
・
・
「そうか……つまり蟹沢きぬと名乗る人物が、殺し合いに乗っているかも知れないんだな?」
「ああ。可能性があるってだけで、まだ確定じゃ無いけどね」
十分後、三人は地面に座り込んで会話していた。
この島で情報の有無は生死に直結する――だからこそ、まずは情報交換をしなければならないのだ。
最初に智代が自らの経緯と行動目的を語った後、赤坂が『蟹沢きぬ』に関する事柄を話した。
続けて赤坂は、他の情報も伝えようとしたのだが――それを遮るように、智代が腰を上げた。
「悪いが私はもう行かせてもらう。今この瞬間も、悪鬼共が人を襲っているかも知れないからな」
「……もし殺し合いに乗っている人間を見つけたら、殺すつもりなのか?」
「無論だ。この島に巣食う悪漢共、私が許しはしない」
じゃあな、と言って智代が立ち去ろうとする。
だが赤坂は、その背中へ辛辣な忠告を撃ち放つ。
「智代さん。君が歩もうとしているのは、修羅の道だ――きっと後悔するぞ」
智代はぴたりと足を止める。
自分が今から歩こうとしているのは、修羅の道――その程度の事、当然理解している。
それでも自分がやらねば、エリカの仇は取れぬし、この殺人遊戯も破壊し切れぬだろう。
僅かばかりの沈黙の後、何の迷いも無い、そして固い決意の籠もった声で告げる。
「……善良な者達を救う為、そして私の友人の無念を晴らす為なんだ。後悔なんか、する筈が無い」
言い終えると、智代は振り返る事無く歩き去って行った。
赤坂には、去りゆく少女の背中が酷く儚げなものに見えた。
それでも何とか視線を横に移し、もう一人の少女――白河ことりへと語り掛ける。
「……ことり君、だったかな。さっきは驚かせて悪かったね」
「いいえ、私の方こそ取り乱しちゃってすいませんでした。赤坂さんはただ話し掛けてきただけなのに……。
私が怖がりな所為で……危ない目に合わせてしまいました……」
言葉を返すことりは、幾分か沈んだ表情をしていた。
元はと言えば自分が悲鳴を上げた所為で、無駄な戦いが生まれてしまったのだ。
何とか事無きを得たものの、一歩間違えれば死傷者が出ていたかも知れない。
だからこそことりは、自分の軽率な行動を深く恥じていた。
「いや、仕方無いよ! ほら、僕はこんな格好だしさ……これじゃ変態扱いされるのも無理ないって!
普段の僕がブリーフ一丁の奴なんて見つけたら、間違いなく逮捕するね、ハハハ……」
落ち込んだことりを励ますべく、赤坂は男としての尊厳をかなぐり捨てる。
身振り手振りを交えて、自身の服装の異常性を力説する様は、実に滑稽だ。
するとことりが、表情を一転させて笑い始めた。
「あは……あははははっ、貴方、良い人ですね」
「……そうかな?」
「はい、私には分かります。貴方の感じ、いつまでも割れないシャボン玉みたい」
笑ってくれたのは間違いなく僥倖だったが、発言の内容が理解出来ない。
赤坂は疑問の表情を浮かべ、ことりが言わんとしている事を確かめようとする。
「割れないシャボン玉? 何だいそれは?」
「屋根より高い所にあって、何時割れてしまうんだろうってつい気になっちゃうの」
「……ごめん、良く分からない」
「うふふふふ。説明すると私もよく分からないです、うん」
ことりがひとしきり笑って、小さく頷く。
こうやって話してみると、彼女は実に捉え所の無い少女だった。
とにかく赤坂は、ことりが落ち着いてくれたと判断し、本題に入ろうとする。
「まあそれはさておき、ことり君。一つ訊ねたいんだけど……」
「ことりって呼んで下さい」
「……ことり。一つ訊ねたいんだけど、良いかな?」
「はい、どうぞ」
ことりのペースに振り回されながらも、何とか話を進めていく。
「この鉄塔に、変な耳をした女の人達はいなかったかい? 仲間と此処で落ち合う予定だったんだ」
「いいえ、私が此処で出会ったのは、赤坂さんと坂上さんだけですよ」
「そっか……」
トウカ達と此処で合流出来れば良かったのだが、流石に戻ってくるのが遅過ぎたようだ。
まあこんな事もあろうかと、もう一つの集合場所・集合時間を指定してあるのだから問題無い。
放送でトウカ達の名前は呼ばれていなかったし、正午に神社へ行けば再会を果たせる筈。
赤坂はそれらの旨を、ことりへと伝えた。
「――そういう訳で僕は神社に行こうと思うけど、ことりはどうする? 一緒に来る?」
「はい、お邪魔にならないようでしたら是非っ!」
ことりの返答は迅速だった。
仲間を欲していることりからすれば、赤坂の申し出は正しく渡りに船だ。
赤坂は、見ず知らずの間柄に過ぎぬ自分を必死に励ましてくれた。
読心能力などに頼らずとも分かる――この男の人は、とても暖かい心の持ち主だと。
自分に何が出来るのか、誰かの役に立てるのかどうかすらも、まだ分からない。
それでも人を信じる事だけなら、出来る筈だから。
ことりは可憐な笑みを浮かべて、赤坂と共に歩き始めた。
――その道中で二人は情報交換を行っていたのだが、唐突にことりが頬を赤く染めた。
「あの――赤坂さん?」
「何だい?」
「神社に行く前に、服を手に入れた方が良いと思うんですけど、如何でしょうか?」
「……………………そうだね」
まずは、それが最初の課題だった。
【B-6 /1日目 午前】
【坂上智代@CLANNAD】
【装備:FNブローニングM1910 4+1発(.380ACP)】
【所持品:支給品一式×3、サバイバルナイフ、トランシーバー(二台)・多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)・十徳工具@うたわれるもの・スタンガン、ランダムアイテム不明】
【状態:軽度の疲労・血塗れ・ゲームに乗った人間に対する深い憎悪】
【思考・行動】
基本方針:まずは殺し合いに乗っている人間を殲滅する。一応最終目標は主催者の打倒
1:殺し合いに乗った人間を探し出して、殺害する。
【備考】
※智代は赤坂達から『蟹沢きぬ』に関する情報のみを入手しました。
※赤坂を露出狂だと判断しました。
【B-6 鉄塔/1日目 午前】
【白河ことり@D.C.P.S.】
【装備:竹刀 風見学園本校制服】
【所持品:支給品一式 バナナ(台湾産)(4房)虹色の羽根@つよきす-Mighty Heart-】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:ゲームには乗らない。最終的な目標は島からの脱出。
1:赤坂と一緒に行動する
2:仲間になってくれる人を見つける。
3:朝倉君たちと、舞と、舞の友達を探す。
4:千影の姉妹を探す。
※虹色の羽根
喋るオウム、土永さんの羽根。
この島内に唯一存在する動物、その証拠。
【備考】
※テレパス能力消失後からの参加ですが、主催側の初音島の桜の効果により一時的な能力復活状態にあります。
ただし、ことりの心を読む力は制限により相手に触らないと読み取れないようになっています。
ことりは、能力が復活していることに大方気付き、『触らないと読み取れない』という制限についてはまだ気づいていません。
※第三回放送の時に神社に居るようにする(禁止エリアになった場合はホテル、小屋、学校、図書館、映画館の順に変化) つもりですが、
赤坂の判断や状況次第で変化するかも知れません
※坂上智代から、ボイスレコーダーを発端とした一連の事件について、聞きました。
【赤坂衛@ひぐらしのなく頃に】
【装備:デリホウライのトンファー@うたわれるもの】
【所持品:支給品一式、椅子@SHUFFLE!】
【状態:疲労、左腿に怪我、首筋に軽い傷、ブリーフと靴のみ着用】
【思考・行動】
基本:ゲームには乗らない。
1:ことりと一緒に行動する
2:まずは服を取りに戻る
3:正午までに神社に向かいトウカ・アルルゥと合流
4:大石さんと合流したい。
5:梨花ちゃんが自分の知っている古手梨花かどうか確かめる。
【備考】
※赤坂の衣類はC-4の遥の墓のそばに放置
※あゆが遥を殺した人間である可能性を考えています(あゆと遥の名前は知りません)
※坂上智代から、ボイスレコーダーを発端とした一連の事件について、聞きました。
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