「博物館戦争(後編)」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「博物館戦争(後編)」(2007/11/03 (土) 16:43:10) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
**博物館戦争(後編) ◆/P.KoBaieg
どれぐらい気絶していたのだろうか、音夢を起こしたのは頬をつつく硬い感触だった。
「ぁぇ……ぇ……(誰……ですか……?)」
「お目覚めの気分はどうですか、音夢さん?」
視界に入ってきたのはネリネの姿だった。
その手には槍が握られている。
「ぅ……ぁぁ……ぉ(遅すぎ……ます……よ)」
「何をされたのか知りませんが、マトモに口もきけないみたいですね。それにしても……」
そう、先ほどから音夢は口をきこうとしていたが、まともに言葉を発することが出来なかった。
それどころか、体がまるで言う事をきかない。
指先一つ、満足に動かす事ができなかった。
音夢には(加えて彼女を感電させた悠人や衛にも)分からなかったが、感電した時のショックで
全身の神経も筋肉もまともに機能しなくなっていたのだ。
そんな音夢を見て、ネリネは槍の穂先で音夢のワンピースをめくり上げ下着を露わにする。
「ぁぃ……ぅ……ぉ(何……する……の)」
「いい歳してお漏らしですか?それともおねしょ?どちらにしても恥ずかしいですね」
そう話すネリネの表情はサディスティックなものであり、「魔王の娘」と言われても誰もが納得するものだった。
一方、音夢は指摘されて初めて気が付いた。
かすかに漂うアンモニア臭。
そして、水に濡れた時とは明らかに異なる下着の生暖かい感触。
音夢は感電した時のショックにより、失禁していたのだ。
「ぃぁ……(いやぁ……)」
「音夢さんの探している方、純一さんでしたか?その方が聞けばなんていうでしょうね」
ネリネの言葉が無形の刃となって音夢の心臓に突き刺さる。
人の口から自分の粗相を大好きな兄に言われるなど死んでもいやだった。
「ゃ……ぇ(やめ……てぇ)」
「安心なさって、私の口から言うつもりはありませんから……」
その言葉に音夢はホッっとする。
すぐにどこかで着替えなければ、と思いかけたときだった。
「でも、私は音夢さんの事が大嫌いですから。計画の順序は変わりますけど、ここで死んでもらおうと思います」
「ぇ……(え……)」
「さようなら、短いお付き合いでしたね」
次の瞬間、ネリネの槍が音夢の腹部を貫いた。
直後、床へ撒かれた水に朱が混ざる。
「っっ!……ぁ……っ!」
「可哀想な音夢さん。悲鳴もあげられないのですね……でも、私にとっては都合がいいですわ」
「ぅっ……ぅぅ……ぃぁ……」
「ところで、なぜ私が音夢さんのお腹ばかり突き刺すのか、お分かりですか?」
ネリネは槍を引き抜くと、更に二度三度と槍を音夢の腹部「だけ」に突き立てる。
その度に音夢の腹部から鮮血が流れ出し、床を赤く染めていく。
「あなたが、私の腹部を、痣が出来るまで、何度も、蹴り飛ばした、から、ですよっ!」
「ぅぁぁっ!……ぁぅぃ…………ぅぅ……ぅぉ……ぅぇっ!」
ようやく満足したのか、ネリネは音夢の腹部から槍を引き抜く。
最後の一撃、とばかりに深く突き立てられた槍の穂先には腸だろうか?細長い物体が引っかかっていた。
一方の音夢は既に虫の息であり、眼の焦点はあわず口と鼻から血を垂れ流している。
皮肉な事に、朝倉音夢は自分が最初に殺した竜宮レナ、白鐘双樹と同じ死に方をするはめになってしまった。
しかし、音夢の最後は彼女が殺した二人以上に残酷で悲惨なものだったと言えるだろう。
メッタ刺しにされて死んだ二人が、気絶したまま殺された事も分からぬ内に死んだのに対して、音夢本人は
意識があり、痛覚も存在する状況でネリネの憎悪と怨念を込めた刺突を、柔らかな下腹に幾度も受けながら
苦しんで死ぬ事になったのだから……。
(ひどいな……同士討ちか?あの二人組んでいたんじゃないのか?)
その様子を、地下へ通じる階段の入り口あたりから悠人は見ていた。
遠くからなのでよくわからないが、後から来た少女が気絶している少女と何か話したかと思うと、おもむろに槍をつきたてたのである。
それも一度だけではない、二度、三度いや、十数回は突き刺していた。
悠人が二人の間にあった因縁を知るはずが無かったが、ただならぬ関係だったことは遠目から見ても推測ができた。
それより気になったのが、あの青い髪の少女が先ほどから倒れている少女に突き立てている槍の方だ。
(あれは、間違いない“献身”だ……)
薄暗い館内だが、間違いなくあの少女が持っているのはエスペリアの永遠神剣第七位“献身”……。
見間違えるはずがなかった。
一瞬、悠人の脳裏にエスペリアの顔が浮かぶ。
だが、それ以上に疑問なのは、なぜこの殺し合いの場に永遠神剣が存在するのかということだ。
(見たところ、あの少女が“献身”を使いこなしているようには思えない)
思わず、もっと近づいて確認しようかという誘惑に駆られる。
だが、先ほどから何度も槍を突き立てる少女の表情を見て「あっちの方がはるかに危険かもしれない」と判断した悠人は、彼女をおびき寄せる為
「わざと」大きな音を立てて地下1Fへの階段を駆け下りた。
その足音はネリネにもはっきり聞こえた。
槍を握り直したネリネは、もはや死の一歩手前にある音夢には眼もくれず、足音のした方向を目指した。
(地下に逃げ込んだということですか……)
階段の最後の一段を下りたネリネを待っていたのは、薄暗い廊下とその両側についた観音開きの扉、
そして廊下の突き当たりにある「機械室」のプレートが貼られた扉だった。
突き当たりの扉は半開きになっており、そこに誰かが隠れているように思える。
一方、廊下の方には奥に人間一人が入れるぐらいの大きさのダンボール箱が置かれており、階段側にはミカン箱ぐらいの
ダンボール箱が置かれていた。
そして、時折響く水滴の落下音。
天井を見ると、給気ダクトの一つから水滴が落ちている。
(多分、あの大きいダンボールか突き当たりの扉に隠れているみたいですね……天井から落ちる雫は無視していいでしょう)
もし、地階に下りたのが音夢だったなら、これらを全てブラフと考えて横の扉を手前から順に調べただろう。
単純に「そこに誰か隠れている」と考えたネリネの思考は、ある意味お姫様育ちの彼女らしいと言えばらしいと言える。
一歩ずつ、奥の扉に向かって進むネリネ。
そして、彼女が最初の扉を超えた辺りでいきなりモーター音らしき音が響いた。
キィィィィィン!
「な、何!?」
急に後ろから聞こえた音に振り向いたネリネは、足に鋭い痛みを感じる。
再び振り返ると、そこにあったのはカッターナイフを紐で車体に結びつけたラジコンカーだった。
よく見ると、ラジコンカーに結び付けられたカッターナイフに赤い液体が付着している。
そして、ネリネの足首からも切り裂かれた痕とともに血がにじんでいた。
(あの小さなダンボール箱にはラジコンカーが隠されていたのですね……ならば!)
ネリネは足の痛みを我慢しながら一気に奥へ走り、もう一つのダンボール箱へ槍を突き通す。
しかし、音夢を突き刺した時の様な手ごたえはまったくない。
そう、ダンボールのなかは空っぽだったのだ。
「いない!?それなら!」
ネリネはすぐに、天井の給気口へ槍を突き立てる。
給気口のギャラリーが外れ、ダクトの内部が露わになる。
しかし、そこもまた無人だった。
「ここにもいない!? それならばやはり!!」
機械室への扉を開いたネリネは、そのまま室内に飛び込んだ。
恐らくはここにあのラジコンを操縦していた――自分が狙っている人間――がいるはずと睨んだネリネは機械室の中を調べる。
機械室の内部は、非常用発電機や火災時のスプリンクラー設備がところ狭しと並んでおり、人が隠れられそうな場所はいくらでもある。
ネリネはその一つ一つを見ながら、時には槍を突き刺しながら奥へと進んだ。
だが、一番奥へ到達したものの人の気配は全く無い。
(ここを出て、廊下の両側にある扉を調べた方がいいのかもしれません)
そう思い、扉の方へ向かおうとした時、いきなり扉が大きな音をたてて閉じられた。
「!!」
すぐに駆け寄りドアを開けようとするネリネ。
しかし、押せど引けど扉はびくともしない。
扉の向こうでは「せーの!」という掛け声と、何か重い物を引きずるような音が聞こえてくる。
おそらく、扉の向こうに重いものを置いて出られぬようにしたのだろう。
外から階段を駆け上っていく音が聞こえたとき、ネリネは自分が完全に閉じ込められた事を知った。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「あの人大丈夫かな?」
「大丈夫だろう。時間が経てば出てくるんじゃないかな」
「だけど、ボクのこれがこんな形で役に立つなんて思わなかったな」
悠人と衛は階段を駆け上がり、1Fを目指す。
そして、悠人と衛が手にしているラジコンカーとコントローラー。
先ほど使用したのは、衛の支給品で唯一未確認だった「TVカメラ付きラジコンカー」だったのだ。
ラジコンカーのTVカメラに写された映像は、そのままコントローラーの液晶画面に表示される様になっている。
これにより、ラジコンカーを直接目で見ることなく二人はドアの閉じられた部屋から操縦し、ネリネをかく乱したのである。
そして、最後に一番奥の機械室へネリネが侵入したのを見計らって機械室のドアを閉め、その前に収蔵品を収めた重い木箱を置いて彼女を閉じ込めたのだ。
いずれは出てくるかもしれないが、遠くへ逃げる間の時間稼ぎは出来るだろう。
そう考えながら、二人は1Fへ駆け上がり、そして……。
「う!?」
そして見てしまった。
朝倉音夢の変わり果てた姿を。
彼女は既に息絶えていた。
死因は、生命を維持するのに必要な量の限界を超えて、体内から血液が流れ出してしまった事による失血死だった。
もはやその目は濁り、鼻と口からは血の流れた跡があり、表情は絶望と失望と苦痛が入り混じっている。
特に酷いのは腹部で、あの槍でメッタ突きにされた為にできた傷が多数あり、おまけに傷口からは内臓がはみ出していた。
「悠人さん、この人死んでる!」
「ああ、さっきの女に殺されたんだ……」
「ひどい……」
思わず口に手をあてて、目をそむける衛。
しかし、最初に遺体を見つけたときと異なり、怯えて小さく震える様子は無い。
悠人は音夢の目をそっと閉じてやると、そのまま事務室へ向かい置いていたディパックを回収する。
ついでに、音夢のディパックも回収しようかと思ったが、血塗れになったそれを回収する気にはなれなかった。
そして、悠人はもう一度音夢の遺体を見る。
(出来れば埋葬したいけど、流石に無理だろう)
顔をしかめつつ、悠人はそう思う。
あの車がいつこちらに戻って来るか分からない状況では、のんびり埋葬などしていられるわけがない。
「衛、正門から北へ向かうぞ」
「だけど、あっちには車が止まってるんじゃないの?」
「いや、なぜか分からないけど、車は他のところに行ったんだ。だから戻ってくる前にここを出よう」
あのときの事を説明した悠人は、そのまま衛と共に博物館の通用門を抜けて北を目指した。
暫くして、二人はC-3ポイントの北側にあるスーパーマーケットに身を隠した。
陳列されていた医薬品で傷口を消毒し、包帯を巻いて処置をした悠人は再び地図を拡げ、
菓子パンのひとつを頬張りコーヒーを飲みながら今後の事を考える。
一方、衛はディパックの中へスーパー店内の食料品、飲み物から医薬品や日用品を片っ端から詰め込んだ後、
今は隣で食事をしている。
(とりあえずは新市街を探索するとして、具体的にどうするかだ)
放送によると、C-2エリアは午前8時で禁止区域になるという。
それならC-2エリアを8時までに抜けて北へ行くというのはどうだろうか?
しかし、自分の足の怪我を考えると軽症といえど無理はできない。
だが、ここまで探索した建物は「プラネタリウム」「映画館」と先ほどの博物館であり、
北の方にはまだ探索していない「レジャービル」や「プール」が存在する。
どっちにしても、このエリアにとどまっている理由が無い。
なにしろ同じエリアの博物館には、まだ襲撃者の一人を閉じ込めたままなのだ。
(そうだな、C-2エリアとの境界線ギリギリを通って東のD-3に移動し、
そこから北のレジャービルとプールを探索するか)
悠人は決めた。
だが、今しばらくは休息が必要なのも確かだった。
もうしばらくは体力を回復するのに専念するしかない。
(腹が減っては戦は出来ぬと言うからな)
そう思った悠人は菓子パンの残りを口に放り込み、コーヒーで流し込む。
しかし、あの遺体を見た後ではトマトジュースとケチャップのかかった物体だけは口にしようと思えなかった。
(だけど、なぜ“献身”がここに……)
そして、悠人の頭から離れなかったのがあの“献身”の事である。
もしかして永遠神剣を模した模造品という気もしたが、それならばあのタカノをはじめとする主催者が
あらかじめ永遠神剣の形を知っていたという事になる。
どうせならば、あの地下1Fでの作戦を変更して彼女を捕獲し、永遠神剣についての話を聞きだせばよかったと後悔する。
まだ、あの機械室に彼女が閉じ込められたままならば扉を開けて話を聞く事も出来るかもしれないが、
さすがにそこまでやる気は悠人にも無かった。
「できる事なら聞き出したいところだけど……やはり無理か」
彼女と永遠神剣ついては別の機会にしようと考えて、悠人は別のことを考える。
博物館での戦闘で罠を張って襲撃者を撃退した後、ここまで逃げて落ち着き、ようやく気付いた事があった。
それは、今改めて地図を見てもハッキリ分かる事であり、悠人にすればもしかしたら脱出のヒントになるかも知れないという事だった。
(地図を見て気が付いたけど、この地図には名称を振った施設がいくつもある。だけど――)
(そこに「発電所」や「貯水ダム」といったライフラインに関連する重要施設の名前が一切無い……)
(博物館やこのスーパー、そして夜に探索した映画館やプラネタリウムもそうだけど、今思えば電気や水道が生きていた)
(よく考えれば、新市街だけでもこれだけのオフィスビルやいくつもの建物が存在する)
(ならば、それを維持する電気、ガス、水道はどこから供給しているんだ?)
そう、悠人は今改めてこの地図が持つ不自然さというものに気が付いていた。
もしこの島に発電所や貯水池、ガスタンク等があるなら、それらは重要施設として地図上にその名が記されて不思議ではない。
しかし、地図上にはそういった記載がなく、又どこから供給されているのかも明らかではない。
先ほどの戦場になった博物館には地下に非常用発電機が置かれていたが、あのようなもので全ての電力をまかなえるとは悠人も思っていない。
あるいは海底からケーブルやパイプラインを引いている可能性も考えてみたが、それならそのケーブル等はどこから引っ張っているのかという新しい疑問が生じる。
だがまてよ、と悠人は黙考する。
(もし、発電所などの重要施設を俺達参加者に、侵入されてはならない理由があるとしたらどうだろう?)
(つまり、俺達参加者の戦闘で重要施設を破壊される事が、主催者にとって都合の悪いことだとしたら……)
そこで悠人は上から見ていた地図を、おもむろに横にしてみる。
だが、地図は何の変哲も無いただの薄っぺらな紙に過ぎない。
(俺達は地図を上から見ているが、それじゃ上から見えるものしか分からない。重要なのはこの「横からの視点」なんだ)
悠人の隣では、衛が不思議そうな顔をしてその様子を見ている。
(この地図では横から見た島の様子は分からない。だけど実際には高低差があって、建物の高さも異なっている)
(そして、この島は山があって谷があって市街地等があるけど、ライフラインに関連する重要施設はそこに無い)
(まだ可能性の段階だけど、本当に重要な施設は全て「地下」にあるんじゃないのか?)
恐らくそれは、普通に島の地図を見ていただけでは思い浮かばない発想だったはずである。
(そう、重要な施設は地下に置けば、俺達参加者は必然的に見つけられなくなるし、手が届かなくなる)
(そして、そんなところに重要施設をおく理由はただ一つ……そう、この島の地下深くにあの「タカノ」をはじめとする主催者の本拠地が有るということだ)
(本拠地へ乗り込めば、このゲームをつぶす事は可能だろう。問題は一体どこからそこへ侵入するかだ)
(だけど、その前にこの首輪を何とかしないと)
首にはまった銀色の首輪を手でいじくりながら、悠人は思う。
(どういう方法か知らないけど、タカノは最初に遠隔操作でこの首輪を爆破してみせた)
(仮に連中の本拠地が地下深くにあるとしても、そこへの入り口を見つけた時点で察知されてドカンだ)
(先にこの首輪をどうにかしない事には、脱出も主催者の打倒も不可能だな……)
だが、主催者打倒に向けた糸口を見つける事が出来た悠人は少し希望が見えた気がした。
「さっきから何考えていたの?」
そんな悠人に声をかけたのは、先ほどからその様子を見ていた衛だった。
「ああ、もしかしたら色々何とかなるんじゃないかと思ったんだ」
悠人もそう笑って応えてみせた。
【C-3北のスーパー 新市街/1日目 時間 朝】
【高嶺悠人@永遠のアセリア -この大地の果てで-】
【装備:今日子のハリセン@永遠のアセリア】
【所持品:支給品一式×3、バニラアイス@Kanon(残り9/10)、トウカの刀@うたわれるもの、ベレッタM92F×2(9mmパラベラム弾15/15+1×2)、
予備マガジン×7、暗視ゴーグル、FN-P90の予備弾】
【状態:精神状態は普通、疲労中程度、左太腿に軽度の負傷(処置済み・歩行には支障なし)】
【思考・行動】
基本方針1:衛を守る
基本方針2:なんとしてもファンタズマゴリアに帰還する
1:休養後、C-2との境界線ギリギリを抜けてD-3に移動し、更に北上して「プール」や「レジャービル」を探索。
2:アセリアとエスペリアと合流
3:咲耶や千影を含む出来る限り多くの人を保護
4:ネリネをマーダーとして警戒(ただし、名前までは知らない)。また、彼女がなぜ永遠神剣第七位“献身”を持っていたのか気になって仕方が無い。
5:地下にタカノ達主催者の本拠地があるのではないかと推測。しかし、そうだとしても首輪をどうにかしないと……
6:蟹沢きぬとトウカをマーダーとして警戒。加えて相当の手練れとも判断。
7:鳴海孝之についてもマーダーの可能性があると推測
8:涼宮茜については遙の肉親と推測しているが、マーダーか否かについては保留。
9:マーダー二人については衛にも教えてやるとして、孝之と茜についてを話すべきかどうかは保留。
【備考】
バニラアイスは小型の冷凍庫に入っています。
上着は回収しました。
レオと詩音のディパック及び詩音のベレッタ2丁を回収しています。
遺体を埋葬、供養したことで心の整理をつけました。
【衛@シスタ―プリンセス】
【装備:TVカメラ付きラジコンカー(カッターナイフ付き バッテリー残量50分/1時間)】
【所持品:支給品一式、ローラースケート、スーパーで入手した食料品、飲み物、日用品、医薬品多数】
【状態:精神状態はまだ回復途中、疲労中程度】
【思考・行動】
基本方針:死体を発見し遙や四葉の死に遭遇したが、ゲームには乗らない。
思考:あにぃに会いたい
1:悠人の足手まといにならぬよう行動を共にする。
2:咲耶と千影に早く会わなきゃと思う。
3:ネリネをマーダーとして警戒(ネリネの名前までは知らない)。
4:鳴海孝之という人を悠人と共に探して遙が死んだことを伝える(どんな人物か情報はなし)。
【備考】
遙を埋葬したことで心の整理をつけました。
【備考】
※TVカメラ付きラジコンカーは一般家庭用のコンセントからでも充電可能です。充電すれば何度でも使えます。
※ラジコンカーには紐でカッターナイフがくくりつけられてます。
※スーパーで入手した食料品、飲み物、日用品、医薬品の詳細は次の書き手の方に任せます。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
悠人と衛がスーパーマーケットで休息を取っている頃、閉じ込められていたネリネはようやく機械室からの脱出を果たしていた。
「はぁ、はぁ……ようやく出られましたわ……」
安心しているものの、ネリネの表情には疲労の色が大きい。
ドアの隙間に槍を突き刺し、梃子の原理で扉を少しずつ開いてようやく人一人が通れるぐらいの隙間を作って脱出したのだ。
歩くたびに、ラジコンカーの攻撃で被った足首の傷がヒリヒリ痛む。
槍を杖代わりにして階段を昇り、ようやく1Fへたどり着く。
彼女が向かったのは、音夢が倒れている場所だった。
「音夢さん、死んだのですね……」
彼女の瞼が閉じているのと、その皮膚が血色を失っているのを見て、ネリネは呟いた。
音夢は死んだ。自分が殺したという一種の満足感が、ネリネの心の底から湧き上がる。
だが、ネリネは「まだ満足し足りない」という表情を浮かべ、床に落ちていたコンバットナイフを拾い上げる。
「あなたが死んで、多少気持ちが軽くなりましたけど」
「あのときの屈辱は忘れていませんから」
ネリネはコンバットナイフを握り、音夢の遺体に近づく。
それから更に暫くして、ネリネは一人北の通用門をくぐる。
来たときに停まっていたつぐみの車はどこかへ走り去ったのだろう、姿は無かった。
しかし、そのことで感傷的になる事は無い。
いずれは殺す相手なのだから、どこに行こうと今の自分にすれば知った事ではなかったからだ。
それよりも重要なのは、これからどうやって稟を探すかだ。
稟の手がかりといってもそんなものはどこにもない。
しかし、絶対に見つけなければならない。
見つけて、守って守り抜いて、最後に自分は自決するのだ。
(そして、できる事ならこっちの目的も果たしたいですね)
ネリネはそう考えて回収した音夢のディパックを見る。
そのうちの一つには、ビニール袋に音夢の制服と共にある「物」――音夢の生首――が詰められている。
しかし、ネリネはネクロフィリアではない。
そして、彼女の首を気に入ったから持ち去るのでもない。
ネリネがその様な行動をとる理由は一つ。
そう「朝倉純一を絶望の底に叩き落してから殺す」為――
「音夢さんはお兄さんに会いたがってましたよね……」
誰に言うでもなく、ネリネは呟く。
「そして、あなたみたいな妹を持った『純一さん』はさぞかし苦労されたことでしょう」
「あなたは死んで、それで終わりかもしれませんが、私はあなたとつぐみさんから受けた仕打ちを忘れてはいませんから」
「とりあえず、あなたのお兄さんには、妹であるあなたの行なった迷惑への『後始末』をしていただかねばなりません」
そこまで言ってネリネは一度眼を閉じ息を大きく吸い込み、そして眼を見開く。
その瞳に、もう遺体を見て怯えた時のような弱さは無い。
「では、参りましょうか『音夢さん』……」
ディパックの一つを軽く叩いたネリネはそう言うと、そのまま東へと歩き出した。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
戦場と化した博物館。
その薄暗い展示場の真ん中に大きな血溜まりと血塗れの死体がある。
しかし、その血溜まりの主の首はどこにもない。
そして鈍く光る首輪が一つ……。
&color(red){【朝倉音夢@D.C.P.S 死亡】}
【C-3博物館北門前 新市街/1日目 時間 朝】
【ネリネ@SHUFFLE】
【装備:永遠神剣第七位“献身”】
【所持品1:支給品一式】
【所持品2:支給品一式 IMI デザートイーグル 10/2+1 IMI デザートイーグル の予備マガジン10 トカレフTT33の予備マガジン10 S&W M37 エアーウェイト 弾数1/5】
【所持品3:出刃包丁@ひぐらしのなく頃に 祭 コンバットナイフ 九十七式自動砲弾 数5/7(重いので鞄の中に入れています) 朝倉音夢の制服及び生首】
【状態:肉体疲労大・精神疲労は若干回復、腹部に痣、右耳に裂傷、左足首に切り傷、強い意志】
【思考・行動】
1:稟を探す。その途中であった人間は皆殺し(現在東に向かって移動中)
2:出来れば次の定時放送までに純一を見つけ出し、音夢の生首を見せつけ最大級の絶望を味あわせた後で殺す。
3:つぐみの前で武を殺して、その後つぐみも殺す
4:稟を守り通して自害。
【備考】
私服(ゲーム時の私服に酷似)に着替えました。(汚れた制服はビニールに包んでデイパックの中に)
ネリネの魔法(体育館を吹き飛ばしたやつ)は使用不可能です。
※これはネリネは魔力は大きいけどコントロールは下手なので、
制限の結果使えなくなっただけで他の魔法を使えるキャラの制限とは違う可能性があります。
※永遠神剣第七位“献身”は神剣っていってますが、形は槍です。
※永遠神剣“献身”によって以下の魔法が使えます。
尚、使える、といっても実際に使ったわけではないのでどの位の強さなのかは後続の書き手に委ねます。
アースプライヤー 回復魔法。単体回復。大地からの暖かな光によって、マナが活性化し傷を癒す。
ウィンドウィスパー 防御魔法。風を身体の周りに纏うことで、防御力を高める。
ハーベスト 回復魔法。全体回復。戦闘域そのものを活性化させ、戦う仲間に力を与える。
※古手梨花を要注意人物と判断(容姿のみの情報)
※音夢とつぐみの知り合いに関する情報を知っています。
※音夢の生首は音夢の制服と一緒にビニール袋へ詰め込みディパックの中に入れてます。
※博物館の状況。
1:博物館北門(正門)の車両用通用門は閉じられてますが人間用の通用門は開いています。
2:博物館展示場は水がぶちまけられたため床が水浸しです。
3:博物館展示場の中央に音夢の首なし遺体及び首輪が放置されています。
4:ライトニングブラストハリセンにより音夢の遺体近く、大理石製の床がえぐれています。
5:職員用事務室と給湯室の電気がつきっぱなしです。
6:地下室はネリネが暴れた痕跡が放置されてます。
|081:[[博物館戦争(前編)]]|投下順に読む|082:[[Crazy innocence]]|
|081:[[博物館戦争(前編)]]|時系列順に読む|082:[[Crazy innocence]]|
|081:[[博物館戦争(前編)]]|小町つぐみ|100:[[I do not die; cannot die]]|
|081:[[博物館戦争(前編)]]|高嶺悠人|103:[[星の館]]|
|081:[[博物館戦争(前編)]]|衛|103:[[星の館]]|
|081:[[博物館戦争(前編)]]|ネリネ|087:[[魔法少女(前編)]]|
|081:[[博物館戦争(前編)]]|朝倉音夢||
**博物館戦争(後編) ◆/P.KoBaieg
どれぐらい気絶していたのだろうか、音夢を起こしたのは頬をつつく硬い感触だった。
「ぁぇ……ぇ……(誰……ですか……?)」
「お目覚めの気分はどうですか、音夢さん?」
視界に入ってきたのはネリネの姿だった。
その手には槍が握られている。
「ぅ……ぁぁ……ぉ(遅すぎ……ます……よ)」
「何をされたのか知りませんが、マトモに口もきけないみたいですね。それにしても……」
そう、先ほどから音夢は口をきこうとしていたが、まともに言葉を発することが出来なかった。
それどころか、体がまるで言う事をきかない。
指先一つ、満足に動かす事ができなかった。
音夢には(加えて彼女を感電させた悠人や衛にも)分からなかったが、感電した時のショックで
全身の神経も筋肉もまともに機能しなくなっていたのだ。
そんな音夢を見て、ネリネは槍の穂先で音夢のワンピースをめくり上げ下着を露わにする。
「ぁぃ……ぅ……ぉ(何……する……の)」
「いい歳してお漏らしですか?それともおねしょ?どちらにしても恥ずかしいですね」
そう話すネリネの表情はサディスティックなものであり、「魔王の娘」と言われても誰もが納得するものだった。
一方、音夢は指摘されて初めて気が付いた。
かすかに漂うアンモニア臭。
そして、水に濡れた時とは明らかに異なる下着の生暖かい感触。
音夢は感電した時のショックにより、失禁していたのだ。
「ぃぁ……(いやぁ……)」
「音夢さんの探している方、純一さんでしたか?その方が聞けばなんていうでしょうね」
ネリネの言葉が無形の刃となって音夢の心臓に突き刺さる。
人の口から自分の粗相を大好きな兄に言われるなど死んでもいやだった。
「ゃ……ぇ(やめ……てぇ)」
「安心なさって、私の口から言うつもりはありませんから……」
その言葉に音夢はホッっとする。
すぐにどこかで着替えなければ、と思いかけたときだった。
「でも、私は音夢さんの事が大嫌いですから。計画の順序は変わりますけど、ここで死んでもらおうと思います」
「ぇ……(え……)」
「さようなら、短いお付き合いでしたね」
次の瞬間、ネリネの槍が音夢の腹部を貫いた。
直後、床へ撒かれた水に朱が混ざる。
「っっ!……ぁ……っ!」
「可哀想な音夢さん。悲鳴もあげられないのですね……でも、私にとっては都合がいいですわ」
「ぅっ……ぅぅ……ぃぁ……」
「ところで、なぜ私が音夢さんのお腹ばかり突き刺すのか、お分かりですか?」
ネリネは槍を引き抜くと、更に二度三度と槍を音夢の腹部「だけ」に突き立てる。
その度に音夢の腹部から鮮血が流れ出し、床を赤く染めていく。
「あなたが、私の腹部を、痣が出来るまで、何度も、蹴り飛ばした、から、ですよっ!」
「ぅぁぁっ!……ぁぅぃ…………ぅぅ……ぅぉ……ぅぇっ!」
ようやく満足したのか、ネリネは音夢の腹部から槍を引き抜く。
最後の一撃、とばかりに深く突き立てられた槍の穂先には腸だろうか?細長い物体が引っかかっていた。
一方の音夢は既に虫の息であり、眼の焦点はあわず口と鼻から血を垂れ流している。
皮肉な事に、朝倉音夢は自分が最初に殺した竜宮レナ、白鐘双樹と同じ死に方をするはめになってしまった。
しかし、音夢の最後は彼女が殺した二人以上に残酷で悲惨なものだったと言えるだろう。
メッタ刺しにされて死んだ二人が、気絶したまま殺された事も分からぬ内に死んだのに対して、音夢本人は
意識があり、痛覚も存在する状況でネリネの憎悪と怨念を込めた刺突を、柔らかな下腹に幾度も受けながら
苦しんで死ぬ事になったのだから……。
(ひどいな……同士討ちか?あの二人組んでいたんじゃないのか?)
その様子を、地下へ通じる階段の入り口あたりから悠人は見ていた。
遠くからなのでよくわからないが、後から来た少女が気絶している少女と何か話したかと思うと、おもむろに槍をつきたてたのである。
それも一度だけではない、二度、三度いや、十数回は突き刺していた。
悠人が二人の間にあった因縁を知るはずが無かったが、ただならぬ関係だったことは遠目から見ても推測ができた。
それより気になったのが、あの青い髪の少女が先ほどから倒れている少女に突き立てている槍の方だ。
(あれは、間違いない“献身”だ……)
薄暗い館内だが、間違いなくあの少女が持っているのはエスペリアの永遠神剣第七位“献身”……。
見間違えるはずがなかった。
一瞬、悠人の脳裏にエスペリアの顔が浮かぶ。
だが、それ以上に疑問なのは、なぜこの殺し合いの場に永遠神剣が存在するのかということだ。
(見たところ、あの少女が“献身”を使いこなしているようには思えない)
思わず、もっと近づいて確認しようかという誘惑に駆られる。
だが、先ほどから何度も槍を突き立てる少女の表情を見て「あっちの方がはるかに危険かもしれない」と判断した悠人は、彼女をおびき寄せる為
「わざと」大きな音を立てて地下1Fへの階段を駆け下りた。
その足音はネリネにもはっきり聞こえた。
槍を握り直したネリネは、もはや死の一歩手前にある音夢には眼もくれず、足音のした方向を目指した。
(地下に逃げ込んだということですか……)
階段の最後の一段を下りたネリネを待っていたのは、薄暗い廊下とその両側についた観音開きの扉、
そして廊下の突き当たりにある「機械室」のプレートが貼られた扉だった。
突き当たりの扉は半開きになっており、そこに誰かが隠れているように思える。
一方、廊下の方には奥に人間一人が入れるぐらいの大きさのダンボール箱が置かれており、階段側にはミカン箱ぐらいの
ダンボール箱が置かれていた。
そして、時折響く水滴の落下音。
天井を見ると、給気ダクトの一つから水滴が落ちている。
(多分、あの大きいダンボールか突き当たりの扉に隠れているみたいですね……天井から落ちる雫は無視していいでしょう)
もし、地階に下りたのが音夢だったなら、これらを全てブラフと考えて横の扉を手前から順に調べただろう。
単純に「そこに誰か隠れている」と考えたネリネの思考は、ある意味お姫様育ちの彼女らしいと言えばらしいと言える。
一歩ずつ、奥の扉に向かって進むネリネ。
そして、彼女が最初の扉を超えた辺りでいきなりモーター音らしき音が響いた。
キィィィィィン!
「な、何!?」
急に後ろから聞こえた音に振り向いたネリネは、足に鋭い痛みを感じる。
再び振り返ると、そこにあったのはカッターナイフを紐で車体に結びつけたラジコンカーだった。
よく見ると、ラジコンカーに結び付けられたカッターナイフに赤い液体が付着している。
そして、ネリネの足首からも切り裂かれた痕とともに血がにじんでいた。
(あの小さなダンボール箱にはラジコンカーが隠されていたのですね……ならば!)
ネリネは足の痛みを我慢しながら一気に奥へ走り、もう一つのダンボール箱へ槍を突き通す。
しかし、音夢を突き刺した時の様な手ごたえはまったくない。
そう、ダンボールのなかは空っぽだったのだ。
「いない!?それなら!」
ネリネはすぐに、天井の給気口へ槍を突き立てる。
給気口のギャラリーが外れ、ダクトの内部が露わになる。
しかし、そこもまた無人だった。
「ここにもいない!? それならばやはり!!」
機械室への扉を開いたネリネは、そのまま室内に飛び込んだ。
恐らくはここにあのラジコンを操縦していた――自分が狙っている人間――がいるはずと睨んだネリネは機械室の中を調べる。
機械室の内部は、非常用発電機や火災時のスプリンクラー設備がところ狭しと並んでおり、人が隠れられそうな場所はいくらでもある。
ネリネはその一つ一つを見ながら、時には槍を突き刺しながら奥へと進んだ。
だが、一番奥へ到達したものの人の気配は全く無い。
(ここを出て、廊下の両側にある扉を調べた方がいいのかもしれません)
そう思い、扉の方へ向かおうとした時、いきなり扉が大きな音をたてて閉じられた。
「!!」
すぐに駆け寄りドアを開けようとするネリネ。
しかし、押せど引けど扉はびくともしない。
扉の向こうでは「せーの!」という掛け声と、何か重い物を引きずるような音が聞こえてくる。
おそらく、扉の向こうに重いものを置いて出られぬようにしたのだろう。
外から階段を駆け上っていく音が聞こえたとき、ネリネは自分が完全に閉じ込められた事を知った。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
「あの人大丈夫かな?」
「大丈夫だろう。時間が経てば出てくるんじゃないかな」
「だけど、ボクのこれがこんな形で役に立つなんて思わなかったな」
悠人と衛は階段を駆け上がり、1Fを目指す。
そして、悠人と衛が手にしているラジコンカーとコントローラー。
先ほど使用したのは、衛の支給品で唯一未確認だった「TVカメラ付きラジコンカー」だったのだ。
ラジコンカーのTVカメラに写された映像は、そのままコントローラーの液晶画面に表示される様になっている。
これにより、ラジコンカーを直接目で見ることなく二人はドアの閉じられた部屋から操縦し、ネリネをかく乱したのである。
そして、最後に一番奥の機械室へネリネが侵入したのを見計らって機械室のドアを閉め、その前に収蔵品を収めた重い木箱を置いて彼女を閉じ込めたのだ。
いずれは出てくるかもしれないが、遠くへ逃げる間の時間稼ぎは出来るだろう。
そう考えながら、二人は1Fへ駆け上がり、そして……。
「う!?」
そして見てしまった。
朝倉音夢の変わり果てた姿を。
彼女は既に息絶えていた。
死因は、生命を維持するのに必要な量の限界を超えて、体内から血液が流れ出してしまった事による失血死だった。
もはやその目は濁り、鼻と口からは血の流れた跡があり、表情は絶望と失望と苦痛が入り混じっている。
特に酷いのは腹部で、あの槍でメッタ突きにされた為にできた傷が多数あり、おまけに傷口からは内臓がはみ出していた。
「悠人さん、この人死んでる!」
「ああ、さっきの女に殺されたんだ……」
「ひどい……」
思わず口に手をあてて、目をそむける衛。
しかし、最初に遺体を見つけたときと異なり、怯えて小さく震える様子は無い。
悠人は音夢の目をそっと閉じてやると、そのまま事務室へ向かい置いていたディパックを回収する。
ついでに、音夢のディパックも回収しようかと思ったが、血塗れになったそれを回収する気にはなれなかった。
そして、悠人はもう一度音夢の遺体を見る。
(出来れば埋葬したいけど、流石に無理だろう)
顔をしかめつつ、悠人はそう思う。
あの車がいつこちらに戻って来るか分からない状況では、のんびり埋葬などしていられるわけがない。
「衛、正門から北へ向かうぞ」
「だけど、あっちには車が止まってるんじゃないの?」
「いや、なぜか分からないけど、車は他のところに行ったんだ。だから戻ってくる前にここを出よう」
あのときの事を説明した悠人は、そのまま衛と共に博物館の通用門を抜けて北を目指した。
暫くして、二人はC-3ポイントの北側にあるスーパーマーケットに身を隠した。
陳列されていた医薬品で傷口を消毒し、包帯を巻いて処置をした悠人は再び地図を拡げ、
菓子パンのひとつを頬張りコーヒーを飲みながら今後の事を考える。
一方、衛はディパックの中へスーパー店内の食料品、飲み物から医薬品や日用品を片っ端から詰め込んだ後、
今は隣で食事をしている。
(とりあえずは新市街を探索するとして、具体的にどうするかだ)
放送によると、C-2エリアは午前8時で禁止区域になるという。
それならC-2エリアを8時までに抜けて北へ行くというのはどうだろうか?
しかし、自分の足の怪我を考えると軽症といえど無理はできない。
だが、ここまで探索した建物は「プラネタリウム」「映画館」と先ほどの博物館であり、
北の方にはまだ探索していない「レジャービル」や「プール」が存在する。
どっちにしても、このエリアにとどまっている理由が無い。
なにしろ同じエリアの博物館には、まだ襲撃者の一人を閉じ込めたままなのだ。
(そうだな、C-2エリアとの境界線ギリギリを通って東のD-3に移動し、
そこから北のレジャービルとプールを探索するか)
悠人は決めた。
だが、今しばらくは休息が必要なのも確かだった。
もうしばらくは体力を回復するのに専念するしかない。
(腹が減っては戦は出来ぬと言うからな)
そう思った悠人は菓子パンの残りを口に放り込み、コーヒーで流し込む。
しかし、あの遺体を見た後ではトマトジュースとケチャップのかかった物体だけは口にしようと思えなかった。
(だけど、なぜ“献身”がここに……)
そして、悠人の頭から離れなかったのがあの“献身”の事である。
もしかして永遠神剣を模した模造品という気もしたが、それならばあのタカノをはじめとする主催者が
あらかじめ永遠神剣の形を知っていたという事になる。
どうせならば、あの地下1Fでの作戦を変更して彼女を捕獲し、永遠神剣についての話を聞きだせばよかったと後悔する。
まだ、あの機械室に彼女が閉じ込められたままならば扉を開けて話を聞く事も出来るかもしれないが、
さすがにそこまでやる気は悠人にも無かった。
「できる事なら聞き出したいところだけど……やはり無理か」
彼女と永遠神剣ついては別の機会にしようと考えて、悠人は別のことを考える。
博物館での戦闘で罠を張って襲撃者を撃退した後、ここまで逃げて落ち着き、ようやく気付いた事があった。
それは、今改めて地図を見てもハッキリ分かる事であり、悠人にすればもしかしたら脱出のヒントになるかも知れないという事だった。
(地図を見て気が付いたけど、この地図には名称を振った施設がいくつもある。だけど――)
(そこに「発電所」や「貯水ダム」といったライフラインに関連する重要施設の名前が一切無い……)
(博物館やこのスーパー、そして夜に探索した映画館やプラネタリウムもそうだけど、今思えば電気や水道が生きていた)
(よく考えれば、新市街だけでもこれだけのオフィスビルやいくつもの建物が存在する)
(ならば、それを維持する電気、ガス、水道はどこから供給しているんだ?)
そう、悠人は今改めてこの地図が持つ不自然さというものに気が付いていた。
もしこの島に発電所や貯水池、ガスタンク等があるなら、それらは重要施設として地図上にその名が記されて不思議ではない。
しかし、地図上にはそういった記載がなく、又どこから供給されているのかも明らかではない。
先ほどの戦場になった博物館には地下に非常用発電機が置かれていたが、あのようなもので全ての電力をまかなえるとは悠人も思っていない。
あるいは海底からケーブルやパイプラインを引いている可能性も考えてみたが、それならそのケーブル等はどこから引っ張っているのかという新しい疑問が生じる。
だがまてよ、と悠人は黙考する。
(もし、発電所などの重要施設を俺達参加者に、侵入されてはならない理由があるとしたらどうだろう?)
(つまり、俺達参加者の戦闘で重要施設を破壊される事が、主催者にとって都合の悪いことだとしたら……)
そこで悠人は上から見ていた地図を、おもむろに横にしてみる。
だが、地図は何の変哲も無いただの薄っぺらな紙に過ぎない。
(俺達は地図を上から見ているが、それじゃ上から見えるものしか分からない。重要なのはこの「横からの視点」なんだ)
悠人の隣では、衛が不思議そうな顔をしてその様子を見ている。
(この地図では横から見た島の様子は分からない。だけど実際には高低差があって、建物の高さも異なっている)
(そして、この島は山があって谷があって市街地等があるけど、ライフラインに関連する重要施設はそこに無い)
(まだ可能性の段階だけど、本当に重要な施設は全て「地下」にあるんじゃないのか?)
恐らくそれは、普通に島の地図を見ていただけでは思い浮かばない発想だったはずである。
(そう、重要な施設は地下に置けば、俺達参加者は必然的に見つけられなくなるし、手が届かなくなる)
(そして、そんなところに重要施設をおく理由はただ一つ……そう、この島の地下深くにあの「タカノ」をはじめとする主催者の本拠地が有るということだ)
(本拠地へ乗り込めば、このゲームをつぶす事は可能だろう。問題は一体どこからそこへ侵入するかだ)
(だけど、その前にこの首輪を何とかしないと)
首にはまった銀色の首輪を手でいじくりながら、悠人は思う。
(どういう方法か知らないけど、タカノは最初に遠隔操作でこの首輪を爆破してみせた)
(仮に連中の本拠地が地下深くにあるとしても、そこへの入り口を見つけた時点で察知されてドカンだ)
(先にこの首輪をどうにかしない事には、脱出も主催者の打倒も不可能だな……)
だが、主催者打倒に向けた糸口を見つける事が出来た悠人は少し希望が見えた気がした。
「さっきから何考えていたの?」
そんな悠人に声をかけたのは、先ほどからその様子を見ていた衛だった。
「ああ、もしかしたら色々何とかなるんじゃないかと思ったんだ」
悠人もそう笑って応えてみせた。
【C-3北のスーパー 新市街/1日目 時間 朝】
【高嶺悠人@永遠のアセリア -この大地の果てで-】
【装備:今日子のハリセン@永遠のアセリア】
【所持品:支給品一式×3、バニラアイス@Kanon(残り9/10)、トウカの刀@うたわれるもの、ベレッタM92F×2(9mmパラベラム弾15/15+1×2)、
予備マガジン×7、暗視ゴーグル、FN-P90の予備弾】
【状態:精神状態は普通、疲労中程度、左太腿に軽度の負傷(処置済み・歩行には支障なし)】
【思考・行動】
基本方針1:衛を守る
基本方針2:なんとしてもファンタズマゴリアに帰還する
1:休養後、C-2との境界線ギリギリを抜けてD-3に移動し、更に北上して「プール」や「レジャービル」を探索。
2:アセリアとエスペリアと合流
3:咲耶や千影を含む出来る限り多くの人を保護
4:ネリネをマーダーとして警戒(ただし、名前までは知らない)。また、彼女がなぜ永遠神剣第七位“献身”を持っていたのか気になって仕方が無い。
5:地下にタカノ達主催者の本拠地があるのではないかと推測。しかし、そうだとしても首輪をどうにかしないと……
6:蟹沢きぬとトウカをマーダーとして警戒。加えて相当の手練れとも判断。
7:鳴海孝之についてもマーダーの可能性があると推測
8:涼宮茜については遙の肉親と推測しているが、マーダーか否かについては保留。
9:マーダー二人については衛にも教えてやるとして、孝之と茜についてを話すべきかどうかは保留。
【備考】
バニラアイスは小型の冷凍庫に入っています。
上着は回収しました。
レオと詩音のディパック及び詩音のベレッタ2丁を回収しています。
遺体を埋葬、供養したことで心の整理をつけました。
【衛@シスタ―プリンセス】
【装備:TVカメラ付きラジコンカー(カッターナイフ付き バッテリー残量50分/1時間)】
【所持品:支給品一式、ローラースケート、スーパーで入手した食料品、飲み物、日用品、医薬品多数】
【状態:精神状態はまだ回復途中、疲労中程度】
【思考・行動】
基本方針:死体を発見し遙や四葉の死に遭遇したが、ゲームには乗らない。
思考:あにぃに会いたい
1:悠人の足手まといにならぬよう行動を共にする。
2:咲耶と千影に早く会わなきゃと思う。
3:ネリネをマーダーとして警戒(ネリネの名前までは知らない)。
4:鳴海孝之という人を悠人と共に探して遙が死んだことを伝える(どんな人物か情報はなし)。
【備考】
遙を埋葬したことで心の整理をつけました。
【備考】
※TVカメラ付きラジコンカーは一般家庭用のコンセントからでも充電可能です。充電すれば何度でも使えます。
※ラジコンカーには紐でカッターナイフがくくりつけられてます。
※スーパーで入手した食料品、飲み物、日用品、医薬品の詳細は次の書き手の方に任せます。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
悠人と衛がスーパーマーケットで休息を取っている頃、閉じ込められていたネリネはようやく機械室からの脱出を果たしていた。
「はぁ、はぁ……ようやく出られましたわ……」
安心しているものの、ネリネの表情には疲労の色が大きい。
ドアの隙間に槍を突き刺し、梃子の原理で扉を少しずつ開いてようやく人一人が通れるぐらいの隙間を作って脱出したのだ。
歩くたびに、ラジコンカーの攻撃で被った足首の傷がヒリヒリ痛む。
槍を杖代わりにして階段を昇り、ようやく1Fへたどり着く。
彼女が向かったのは、音夢が倒れている場所だった。
「音夢さん、死んだのですね……」
彼女の瞼が閉じているのと、その皮膚が血色を失っているのを見て、ネリネは呟いた。
音夢は死んだ。自分が殺したという一種の満足感が、ネリネの心の底から湧き上がる。
だが、ネリネは「まだ満足し足りない」という表情を浮かべ、床に落ちていたコンバットナイフを拾い上げる。
「あなたが死んで、多少気持ちが軽くなりましたけど」
「あのときの屈辱は忘れていませんから」
ネリネはコンバットナイフを握り、音夢の遺体に近づく。
それから更に暫くして、ネリネは一人北の通用門をくぐる。
来たときに停まっていたつぐみの車はどこかへ走り去ったのだろう、姿は無かった。
しかし、そのことで感傷的になる事は無い。
いずれは殺す相手なのだから、どこに行こうと今の自分にすれば知った事ではなかったからだ。
それよりも重要なのは、これからどうやって稟を探すかだ。
稟の手がかりといってもそんなものはどこにもない。
しかし、絶対に見つけなければならない。
見つけて、守って守り抜いて、最後に自分は自決するのだ。
(そして、できる事ならこっちの目的も果たしたいですね)
ネリネはそう考えて回収した音夢のディパックを見る。
そのうちの一つには、ビニール袋に音夢の制服と共にある「物」――音夢の生首――が詰められている。
しかし、ネリネはネクロフィリアではない。
そして、彼女の首を気に入ったから持ち去るのでもない。
ネリネがその様な行動をとる理由は一つ。
そう「朝倉純一を絶望の底に叩き落してから殺す」為――
「音夢さんはお兄さんに会いたがってましたよね……」
誰に言うでもなく、ネリネは呟く。
「そして、あなたみたいな妹を持った『純一さん』はさぞかし苦労されたことでしょう」
「あなたは死んで、それで終わりかもしれませんが、私はあなたとつぐみさんから受けた仕打ちを忘れてはいませんから」
「とりあえず、あなたのお兄さんには、妹であるあなたの行なった迷惑への『後始末』をしていただかねばなりません」
そこまで言ってネリネは一度眼を閉じ息を大きく吸い込み、そして眼を見開く。
その瞳に、もう遺体を見て怯えた時のような弱さは無い。
「では、参りましょうか『音夢さん』……」
ディパックの一つを軽く叩いたネリネはそう言うと、そのまま東へと歩き出した。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
戦場と化した博物館。
その薄暗い展示場の真ん中に大きな血溜まりと血塗れの死体がある。
しかし、その血溜まりの主の首はどこにもない。
そして鈍く光る首輪が一つ……。
&color(red){【朝倉音夢@D.C.P.S 死亡】}
【C-3博物館北門前 新市街/1日目 時間 朝】
【ネリネ@SHUFFLE】
【装備:永遠神剣第七位“献身”】
【所持品1:支給品一式】
【所持品2:支給品一式 IMI デザートイーグル 10/2+1 IMI デザートイーグル の予備マガジン10 トカレフTT33の予備マガジン10 S&W M37 エアーウェイト 弾数1/5】
【所持品3:出刃包丁@ひぐらしのなく頃に 祭 コンバットナイフ 九十七式自動砲弾 数5/7(重いので鞄の中に入れています) 朝倉音夢の制服及び生首】
【状態:肉体疲労大・精神疲労は若干回復、腹部に痣、右耳に裂傷、左足首に切り傷、強い意志】
【思考・行動】
1:稟を探す。その途中であった人間は皆殺し(現在東に向かって移動中)
2:出来れば次の定時放送までに純一を見つけ出し、音夢の生首を見せつけ最大級の絶望を味あわせた後で殺す。
3:つぐみの前で武を殺して、その後つぐみも殺す
4:稟を守り通して自害。
【備考】
私服(ゲーム時の私服に酷似)に着替えました。(汚れた制服はビニールに包んでデイパックの中に)
ネリネの魔法(体育館を吹き飛ばしたやつ)は使用不可能です。
※これはネリネは魔力は大きいけどコントロールは下手なので、
制限の結果使えなくなっただけで他の魔法を使えるキャラの制限とは違う可能性があります。
※永遠神剣第七位“献身”は神剣っていってますが、形は槍です。
※永遠神剣“献身”によって以下の魔法が使えます。
尚、使える、といっても実際に使ったわけではないのでどの位の強さなのかは後続の書き手に委ねます。
アースプライヤー 回復魔法。単体回復。大地からの暖かな光によって、マナが活性化し傷を癒す。
ウィンドウィスパー 防御魔法。風を身体の周りに纏うことで、防御力を高める。
ハーベスト 回復魔法。全体回復。戦闘域そのものを活性化させ、戦う仲間に力を与える。
※古手梨花を要注意人物と判断(容姿のみの情報)
※音夢とつぐみの知り合いに関する情報を知っています。
※音夢の生首は音夢の制服と一緒にビニール袋へ詰め込みディパックの中に入れてます。
※博物館の状況。
1:博物館北門(正門)の車両用通用門は閉じられてますが人間用の通用門は開いています。
2:博物館展示場は水がぶちまけられたため床が水浸しです。
3:博物館展示場の中央に音夢の首なし遺体及び首輪が放置されています。
4:ライトニングブラストハリセンにより音夢の遺体近く、大理石製の床がえぐれています。
5:職員用事務室と給湯室の電気がつきっぱなしです。
6:地下室はネリネが暴れた痕跡が放置されてます。
|081:[[博物館戦争(前編)]]|投下順に読む|082:[[Crazy innocence]]|
|081:[[博物館戦争(前編)]]|時系列順に読む|082:[[Crazy innocence]]|
|081:[[博物館戦争(前編)]]|小町つぐみ|100:[[I do not die; cannot die]]|
|081:[[博物館戦争(前編)]]|高嶺悠人|103:[[星の館]]|
|081:[[博物館戦争(前編)]]|衛|103:[[星の館]]|
|081:[[博物館戦争(前編)]]|ネリネ|087:[[魔法少女(前編)]]|
|081:[[博物館戦争(前編)]]|&color(red){朝倉音夢}||
----
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: