「暁に咲く詩」(2007/11/03 (土) 16:42:19) の最新版変更点
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**暁に咲く詩 ◆Noo.im0tyw
「稟くん、本当にいったいどこにいるんですか……?」
暁に映える、オレンジの髪を持つ少女、『芙蓉楓』は、ただひたすらに『土見稟』を探し、森の中を彷徨い歩いていた。
春原という男の情報によれば、ほとぼりが冷めたら神社で稟に会えるはずなのだ。
ならば放送が終わった今、稟が神社に向かってやってくることも十分可能性がある。
幸い、禁止エリアに指定された場所から神社は程遠く、稟と話す時間もたっぷりできることだろう。
「鉄乙女さんに純一くん、生きているんですね……」
ポツリとつぶやく。二人とも楓の中では既に死んでいる存在であった。
その二人が生きていることに楓は正直驚きを隠せなかったが、今の放送で『稟』がちゃんと生きているという証をつかみ笑顔になる。
「稟くん、早く会いたいです……」
頬を赤らませながらポツリとつぶやく。客観的に見れば、ただの可愛らしい少女の像になっていたであろう。だが、彼女は既に人を殺す決意をしてしまった悪魔である。
天使の仮面をつけた、悪魔はどこまでも1人の男を愛していた。故にとってしまった獣道。
無垢がゆえに気付かぬ己の闇。その闇はどこまでも深く、光が指すことはなかった。
「稟くんに会えたら、まずは一緒にご飯を食べましょう。そしてそれから……」
稟に会った後のシュミレーションを脳内で再生する。その光景に浸ってるがあまり、
『――――――――ガサガサッ』
と、背後から草を踏み分ける音に飛び驚く。だが、
「誰ですか?せっかくいい気分だったのに……!!」
自分の妄想が邪魔されたことに腹立ち、音のした方向に銃を向ける。しばらくした後、木の後ろから現れたのは、意外な人物だった。
「楓……?」
「純一、くん……?」
そう、楓がこの島で最初に会った男『朝倉純一』がそこには立っていた。純一も純一でポカンとした表情でその場に立ち竦んでいた。
(本当に生きていたんですね…。純一くんは、稟くんほどじゃないけど信頼できますし、情報だけでも手に入れましょうか…)
銃口は地面へと向けつつあくまでも思考を回転させ、笑顔で何時間振りになるかわからない挨拶を純一に向かって言った。
「おはようございます、純一くん」
と………。
◆ ◆ ◆
銃声を聞きつけ、ひたすらその方向に走っていた『朝倉純一』は森の中を彷徨っていた。
「くそ…っ!! どこにいるんだよ一体!?」
純一は汗だくになりながらも仲間を懸命に探していた。
そんな時だった…あの鷹野とかいう奴の定時放送とやらが始まったのは。純一は一端走るのを止め、その場に座り込む。
『禁止エリアは――――。既に命を落としたのは、――――以上、11名』
地図に禁止エリアを書き終えた純一は拳を地面へと打ちつける。
「たった、6時間で11人も死んだのかよ!? そんなに殺し合いがしたいのか!?」
地面を殴りつつも、どこか安心している自分に腹がたった。
「あぁ、俺は生きてるし、仲間も死んでない。でもそういうことじゃないだろ……」
顔も、性格も何もわからない者たちが死んでいった。今度死ぬのは自分かもしれない…。
そう思うと、怖くなるがなんとか自分を奮い立たせる。
「こんな状況、音夢やさくらやことりが耐えられるはずないだろ…」
そう、自分よりも弱き存在を守らなければ…と、腰を上げ音夢たちの捜索を再開する。
しっかりと大地を踏みしめ、一歩また一歩確実に進む。
そんな何気ない行為が彼を発見させられる要因となった。
『誰ですか?せっかくいい気分だったのに……!!』
誰だかわからない相手に先手をとられる。木の後ろに立って、瞬時に相手の様子を確認するが、銃口がこちらに向いているだけであとはよく判らなかった。
(どうする…? こんなところで時間を食ってる暇はないんだけどな…)
逃げるのも一手。向き合うのも一手―――――。
(信じろ…。必ずしも人殺しとは限らないだろ?)
純一は、意を決し銃を持つ者に姿を現すことにした。
―――開ける視界。その先に写るのは、自分がこの島で会った最初の人物、『芙蓉楓』その人だった。
「楓……?」
「純一くん……?」
お互いにポカンとした表情になるが、楓は銃を下げ笑顔で挨拶してくる。
楓と出会えた、そのことが純一をホッとさせた。
「楓……良かった、無事で…」
「はい。なんとか…」
楓ははにかみながら答える。数時間経っても変わらない眩しい笑顔。いつみても天使みたいだな、と純一は思った。
「純一くんは私とはぐれてからどうしてました?」
楓が俯きながら質問する。
「あぁ、確か目覚めたときにはもう楓がいなくて、必死にその場を逃げてきたんだ」
「すいません、私は怖くて先に逃げてしまいました……」
「いや、あの状況だ。しかたないだろ」
目覚めたとき楓がいなかったのはそのせいか……と純一は記憶の補填をしつつ話を続ける。
「その後は、港で休んで……そうだ、俺の友達をを見なかったか!?」
ハッと気付き楓に質問する。自分が共にいなかった時間、その間に会ったという可能性は否めない。
(頼む、少しでもいいんだ…。あいつらの情報。それだけでもあれば…)
祈りながら質問する。だが、楓から返ってきた答えは酷であった。
「すいません、純一くんのお友達にはお会いしてないです…」
その答えに純一はガクッとうなだれる。そこに、楓の冷たい声が純一に投げかけられる。
「純一くんは稟くんに会いました? 情報を手に入れましたか?」
「稟くん…あぁ、楓の探してる人か。すまない、まったく手がかりがない」
少なくとも自分がこの島に連れてこられたときから『稟』という言葉を聞いたのは楓の口からだけだった。
楓は満足いかない返答だったのかあきらかに落胆した表情を見せる。
「楓は俺とはぐれた後どうしてたんだ…?」
「私ですか…?私はまず春原さんにお会いしました。そして、次に鉄乙女さん、月宮あゆさんにお会いしました」
「いろんな人に会ってたんだな。その人たちはどうしたんだ?」
「春原さんは、稟くんが神社に向かってくれることを教えてくれました…」
「神社、か……」
呟き神社のあるであろう方角を見る。確かにこのまま行けば神社につくはずだろう。
「鉄さんと月宮さんは…?」
「月宮さんはどこかで生きてると思います。鉄さんは…」
「鉄さんはどうしたんだ…?」
まさか…と思い純一は楓を言及する。楓の顔は先程の落胆していた顔から打って変わり、笑顔になる。だがその顔は確実に狂気に染まっていた。
「鉄さんは…私が撃っちゃいました」
―――――楓が人を殺した……?
信じられない言葉に口が開いたままになる。こんな少女が人を殺す。そんなこと考えられないし、信じたくなかった。
「どうしてだよ、嘘だって言ってくれよ、楓!?」
純一はただ楓に向かって叫ぶ。楓が嘘をついているその可能性をただ信じて。
「嘘じゃないですよ…?私は確かに撃ちました。でも、まだ死んでないみたいですね」
純一のポカンとする表情を無視して楓は続ける。
「何で驚いてるんですか? 鉄さんは稟くんの敵です。だから撃ったんです」
一点の曇りもない笑顔。それは自分が正しいと言ってる楓そのものの自信を表していた。
「春原さんが言うには、稟くんはもうそろそろ神社に着く頃なんです」
楓は笑顔のまま言葉を紡ぐ。純一にとって『稟くん』とやらがどこへ向かおうがもうどうでもよくなっていた。ただ友人だと思っていた少女が人を殺してしまった。その悲しさがただ胸をしめつけていた。
(稟くん以外はみんな敵か……。なら、俺も死ぬんだろうな…)
純一はそう予期していた。
「だから、こんな所で時間を食ってる場合じゃないんです」
楓の銃口が再び自分のほうへと向く。
「かったりぃ……」
自分は不甲斐ない男だった。そう自嘲する。妹と従兄妹、そして祖母との約束――――。
何一つ守れなかった。ごめんな、皆。俺は本当にダメ人間だった。でも皆はどうか生き残ってくれよ―――。
「痛いのは嫌だからな。一発で殺してくれよ?」
最後のつよがりを楓に見せる。
「大丈夫ですよ。鉄さんの時に練習しましたから」
「そうか、なら安心だ」
「えぇ、ではこれでお別れですね」
そう言うと楓は狙いを定め始める。
(音夢、さくら、ことり…。杉並…あとは頼んだぞ)
目を瞑り、最後の言葉を紡ぐ。
「バイバイ、純一くん」
楓がそう言いトリガーを引き始める。――――その時だった。
『――――――――』
声にならない叫びが上空から聞こえ、純一の前に立ちはだかる。
そして、楓がトリガーを引いたのも同時であった――――。
◇ ◇ ◇
自分の身体につく血。純一は初めそれが自分の体液だと思っていた。
だが、自分の目の前で血を出しながら倒れている少女を見て驚愕する。
「さくら――――っ!?」
「にゃはは…、良かったぁ。お兄ちゃん守れたよ」
笑顔で返答するさくら。だが、純一は困惑する一方だった。
「どうして!? どうしてさくらが俺を庇うんだよっ!?」
「ボクはお兄ちゃんのプリンセスだからねぇ。そしてナイトでもあるからだよ」
純一はただただ涙が止まらなかった。これから死ぬであろうさくらの姿を見て、悔しさと共に悲しさが溢れ出る。
『誰だかわかりませんが急いでるんです。死んでもらえますか…?』
純一たちの会話を遮り、楓はもう一度銃口を二人に向ける。
純一は懸命にさくらを守ろうとするがさくらによって阻止される。
「むぅ…。せっかく良いところなんだから邪魔しないでくれるかなぁ?」
純一の手を振りほどきつつ、さくらは立ち上がり、持っていた銃を楓に向け発砲する。
銃声と共に発射された弾は確実に楓の腕を捕らえた。
「ヒィッ。稟くん、稟くーん!!」
楓は泣きながら森の中へと逃げ込む。
「待てっ!!お兄ちゃんを殺そうとした罪をここで償えー!!」
懸命に楓を追おうとするが、1歩進んだところで純一に抱きかかえられる。
「もういいんだ、もうやめてくれさくら……」
純一は泣きながらさくらを止める。
「うにゅ…。お兄ちゃんがそう言うならもういい、か、な……あ、れ?」
突如さくらの身体が崩れ落ちる。
「―――さくらっ!?」
「にゃはは。ごめんね、お兄ちゃん。ボク、ここでお別れかも…」
「やめろ! 絶対にそんなこと言うなよ、さくら…。頼むから…」
純一の涙が頬を伝い、さくらの顔へと落ちる。
「良かったぁ。お兄ちゃん、僕のために泣いてくれるんだ…」
さくらは微笑みながら話しかける。
「ボクね、人を殺しちゃったんだ。一人だけだけどね…」
「いい、もうそんなことどうでもいいから喋らないでくれさくら。どこか治療できるところに運ぶからな!」
純一はさくらの話を中断させ、さくらを運ぼうとするが、これもまたさくらによって阻止される。
「いいんだよ、お兄ちゃん。ボク、自分のことは自分が一番知ってるからね」
「―――ッ」
純一の目から見てもさくらの傷は重症だった。それでも純一はどうにかしたかった。
「お兄ちゃんは今はボクの話を聞いて欲しいな。ボクの最後の言葉。お兄ちゃんだけへの言葉」
凛とした声でさくらは自分に投げかける。純一は涙をぬぐい、さくらの言葉を聴く。
「でね、ボク、人を殺した後に思ったんだ。こんな手じゃお兄ちゃんには会えないなって。でもね、ボク環ちゃんから予言を授かってたの。お兄ちゃんが近日中に殺されるって予言」
さくらの言葉に、純一は戸惑っていた。
「俺が…殺される?」
「うん、ボクの目の前でお兄ちゃんが殺されちゃう。そう環ちゃんは言ってた。だからお兄ちゃんを見たときに他の何も考えずにお兄ちゃんを助けなきゃって思ったの。ボクはね、嬉しいんだよ、お兄ちゃん。好きな人を守れた事が。だからこれっぽちも後悔してないよ」
涙を流しながら純一はさくらに相槌を打つ。
「本当はボクとお兄ちゃん。それに音夢ちゃんたち皆で生きて帰りたかったなぁ…」
さくらが咳きをする度に血が吹き出る。純一はもうさくらを直視できなかった。
けれどさくらの手が純一の顔を彼女の方向へと向けさせる。
「いい、ここが一番大事だよ…?」
さくらの声は段々と小さくなっていく。純一は聞き逃さないようにさくらの口に耳を近づける。
「ボクは、お兄ちゃんのことが大好きだよ。死んでもそれは永遠。先にあっちで待ってるけどお兄ちゃんはまだ来ちゃダメだよ? 杉並くんと一緒ならお兄ちゃんは無敵なんだから。それに音夢ちゃんたちもちゃんと守らなきゃだよ? じゃあ最後に…」
そこまで言うとさくらは純一に口付けをする。
「バイバイ、お兄ちゃん。大好き、だ、よ……」
それ以降、さくらが喋ることはなかった。
「――――さくらっ!?………クッ……」
溢れ出す涙を抑えきれず、純一はさくらを抱えながら泣いた。
◇ ◇ ◇
一通り泣いた後、純一はさくらを埋葬する作業に取り掛かった。
あいにく自分の手持ちに穴を掘れるモノはなく、それどころか持っていたはずの鉄扇すら消えていた。
ふぅ、と息を吐き穴を掘れそうなモノを探す。
「こんなもんしかない…か」
回りを見渡してもあるのは大きな石。木の枝。それのみだった。
そこで純一は穴を掘るのをやめ、簡単な墓石を作ることにした。大きな石でさくらのまわりを囲み、その上から木の枝をかぶせるというとても質素なものだった。
「さくら、ごめんな。ちゃんと埋葬してやるからな…」
さくらの墓に合掌し、決意を新たにする。
「音夢、ことり、杉並……。俺らは生きて帰らなきゃな」
さくらのミニウージーを片手に純一はその場を立ち去っていった―――――。
&color(red){ 【芳乃さくら@D.C.P.S. 死亡】}
【E-3 森の中 1日目 朝】
【朝倉純一@D.C.P.S.】
【装備:ミニウージー(24/25)】
【所持品:支給品一式 エルルゥの傷薬@うたわれるもの オオアリクイのヌイグルミ@Kanon】
【状態:体力回復・強い決意・血が服についている】
【思考・行動】
基本行動方針:人を殺さない
1.何としてでも音夢を探し出して守る。
2.ことり、杉並を探す。
3.殺し合いからの脱出方法を考える。
4.さくらをちゃんと埋葬したい。
【備考】
芙蓉楓の知人の情報を入手しています。
純一の参加時期は、音夢シナリオの初キス直後の時期に設定。
【芙蓉楓@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【装備:ベレッタ M93R(21/18)】
【所持品:支給品一式 ブラウニング M2 “キャリバー.50”(ベルト給弾式、残弾200) ベレッタ M93Rの残弾40】
【状態:神社に向け逃走中 右腕に被弾】
【思考・行動】
基本方針:稟の捜索
1:何が何でも、最優先で稟を探す(神社へ)
2:稟を襲った可能性があるので、男性の参加者は皆殺しにする
(岡崎朋也の話を信用しているので彼は除くが、朋也の顔は忘れているのであくまで『春原陽平』を信用している)
3:その男性に知人がいる場合、分かる範囲でその人物も殺す
(竜鳴館のセーラー服を着衣している者は殺す)
4:できればネリネや亜沙とも合流したい
5:朝倉純一、彼を守った少女を殺す。
【備考】
稟以外の人間に対する興味が希薄になっている
朝倉純一の知人の情報を入手している。
水澤摩央を危険人物と判断
岡崎朋也を春原陽平と思い込む(興味がないため顔は忘れた)
朋也と(実際にはいないが)稟を襲った男(誰かは不明)を強く警戒→男性の参加者は稟と朋也(春原)以外全員警戒
鉄乙女は死んだと判断する
月宮あゆは自分に敵対しないと信用する(興味がないため顔は忘れた)
|075:[[信じる者、信じない者(後編)]]|投下順に読む|077:[[赤坂衛の受難]]|
|075:[[信じる者、信じない者(後編)]]|時系列順に読む|077:[[赤坂衛の受難]]|
|050:[[夢と決意と銃声と――]]|朝倉純一|100:[[I do not die; cannot die]]|
|052:[[許せる嘘か? 許されざる嘘か?]]|芙蓉楓|093:[[恋獄少女]]|
|057:[[二度と触れ得ぬキョウキノサクラ]]|芳乃さくら||
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**暁に咲く詩 ◆Noo.im0tyw
「稟くん、本当にいったいどこにいるんですか……?」
暁に映える、オレンジの髪を持つ少女、『芙蓉楓』は、ただひたすらに『土見稟』を探し、森の中を彷徨い歩いていた。
春原という男の情報によれば、ほとぼりが冷めたら神社で稟に会えるはずなのだ。
ならば放送が終わった今、稟が神社に向かってやってくることも十分可能性がある。
幸い、禁止エリアに指定された場所から神社は程遠く、稟と話す時間もたっぷりできることだろう。
「鉄乙女さんに純一くん、生きているんですね……」
ポツリとつぶやく。二人とも楓の中では既に死んでいる存在であった。
その二人が生きていることに楓は正直驚きを隠せなかったが、今の放送で『稟』がちゃんと生きているという証をつかみ笑顔になる。
「稟くん、早く会いたいです……」
頬を赤らませながらポツリとつぶやく。客観的に見れば、ただの可愛らしい少女の像になっていたであろう。だが、彼女は既に人を殺す決意をしてしまった悪魔である。
天使の仮面をつけた、悪魔はどこまでも1人の男を愛していた。故にとってしまった獣道。
無垢がゆえに気付かぬ己の闇。その闇はどこまでも深く、光が指すことはなかった。
「稟くんに会えたら、まずは一緒にご飯を食べましょう。そしてそれから……」
稟に会った後のシュミレーションを脳内で再生する。その光景に浸ってるがあまり、
『――――――――ガサガサッ』
と、背後から草を踏み分ける音に飛び驚く。だが、
「誰ですか?せっかくいい気分だったのに……!!」
自分の妄想が邪魔されたことに腹立ち、音のした方向に銃を向ける。しばらくした後、木の後ろから現れたのは、意外な人物だった。
「楓……?」
「純一、くん……?」
そう、楓がこの島で最初に会った男『朝倉純一』がそこには立っていた。純一も純一でポカンとした表情でその場に立ち竦んでいた。
(本当に生きていたんですね…。純一くんは、稟くんほどじゃないけど信頼できますし、情報だけでも手に入れましょうか…)
銃口は地面へと向けつつあくまでも思考を回転させ、笑顔で何時間振りになるかわからない挨拶を純一に向かって言った。
「おはようございます、純一くん」
と………。
◆ ◆ ◆
銃声を聞きつけ、ひたすらその方向に走っていた『朝倉純一』は森の中を彷徨っていた。
「くそ…っ!! どこにいるんだよ一体!?」
純一は汗だくになりながらも仲間を懸命に探していた。
そんな時だった…あの鷹野とかいう奴の定時放送とやらが始まったのは。純一は一端走るのを止め、その場に座り込む。
『禁止エリアは――――。既に命を落としたのは、――――以上、11名』
地図に禁止エリアを書き終えた純一は拳を地面へと打ちつける。
「たった、6時間で11人も死んだのかよ!? そんなに殺し合いがしたいのか!?」
地面を殴りつつも、どこか安心している自分に腹がたった。
「あぁ、俺は生きてるし、仲間も死んでない。でもそういうことじゃないだろ……」
顔も、性格も何もわからない者たちが死んでいった。今度死ぬのは自分かもしれない…。
そう思うと、怖くなるがなんとか自分を奮い立たせる。
「こんな状況、音夢やさくらやことりが耐えられるはずないだろ…」
そう、自分よりも弱き存在を守らなければ…と、腰を上げ音夢たちの捜索を再開する。
しっかりと大地を踏みしめ、一歩また一歩確実に進む。
そんな何気ない行為が彼を発見させられる要因となった。
『誰ですか?せっかくいい気分だったのに……!!』
誰だかわからない相手に先手をとられる。木の後ろに立って、瞬時に相手の様子を確認するが、銃口がこちらに向いているだけであとはよく判らなかった。
(どうする…? こんなところで時間を食ってる暇はないんだけどな…)
逃げるのも一手。向き合うのも一手―――――。
(信じろ…。必ずしも人殺しとは限らないだろ?)
純一は、意を決し銃を持つ者に姿を現すことにした。
―――開ける視界。その先に写るのは、自分がこの島で会った最初の人物、『芙蓉楓』その人だった。
「楓……?」
「純一くん……?」
お互いにポカンとした表情になるが、楓は銃を下げ笑顔で挨拶してくる。
楓と出会えた、そのことが純一をホッとさせた。
「楓……良かった、無事で…」
「はい。なんとか…」
楓ははにかみながら答える。数時間経っても変わらない眩しい笑顔。いつみても天使みたいだな、と純一は思った。
「純一くんは私とはぐれてからどうしてました?」
楓が俯きながら質問する。
「あぁ、確か目覚めたときにはもう楓がいなくて、必死にその場を逃げてきたんだ」
「すいません、私は怖くて先に逃げてしまいました……」
「いや、あの状況だ。しかたないだろ」
目覚めたとき楓がいなかったのはそのせいか……と純一は記憶の補填をしつつ話を続ける。
「その後は、港で休んで……そうだ、俺の友達をを見なかったか!?」
ハッと気付き楓に質問する。自分が共にいなかった時間、その間に会ったという可能性は否めない。
(頼む、少しでもいいんだ…。あいつらの情報。それだけでもあれば…)
祈りながら質問する。だが、楓から返ってきた答えは酷であった。
「すいません、純一くんのお友達にはお会いしてないです…」
その答えに純一はガクッとうなだれる。そこに、楓の冷たい声が純一に投げかけられる。
「純一くんは稟くんに会いました? 情報を手に入れましたか?」
「稟くん…あぁ、楓の探してる人か。すまない、まったく手がかりがない」
少なくとも自分がこの島に連れてこられたときから『稟』という言葉を聞いたのは楓の口からだけだった。
楓は満足いかない返答だったのかあきらかに落胆した表情を見せる。
「楓は俺とはぐれた後どうしてたんだ…?」
「私ですか…?私はまず春原さんにお会いしました。そして、次に鉄乙女さん、月宮あゆさんにお会いしました」
「いろんな人に会ってたんだな。その人たちはどうしたんだ?」
「春原さんは、稟くんが神社に向かってくれることを教えてくれました…」
「神社、か……」
呟き神社のあるであろう方角を見る。確かにこのまま行けば神社につくはずだろう。
「鉄さんと月宮さんは…?」
「月宮さんはどこかで生きてると思います。鉄さんは…」
「鉄さんはどうしたんだ…?」
まさか…と思い純一は楓を言及する。楓の顔は先程の落胆していた顔から打って変わり、笑顔になる。だがその顔は確実に狂気に染まっていた。
「鉄さんは…私が撃っちゃいました」
―――――楓が人を殺した……?
信じられない言葉に口が開いたままになる。こんな少女が人を殺す。そんなこと考えられないし、信じたくなかった。
「どうしてだよ、嘘だって言ってくれよ、楓!?」
純一はただ楓に向かって叫ぶ。楓が嘘をついているその可能性をただ信じて。
「嘘じゃないですよ…?私は確かに撃ちました。でも、まだ死んでないみたいですね」
純一のポカンとする表情を無視して楓は続ける。
「何で驚いてるんですか? 鉄さんは稟くんの敵です。だから撃ったんです」
一点の曇りもない笑顔。それは自分が正しいと言ってる楓そのものの自信を表していた。
「春原さんが言うには、稟くんはもうそろそろ神社に着く頃なんです」
楓は笑顔のまま言葉を紡ぐ。純一にとって『稟くん』とやらがどこへ向かおうがもうどうでもよくなっていた。ただ友人だと思っていた少女が人を殺してしまった。その悲しさがただ胸をしめつけていた。
(稟くん以外はみんな敵か……。なら、俺も死ぬんだろうな…)
純一はそう予期していた。
「だから、こんな所で時間を食ってる場合じゃないんです」
楓の銃口が再び自分のほうへと向く。
「かったりぃ……」
自分は不甲斐ない男だった。そう自嘲する。妹と従兄妹、そして祖母との約束――――。
何一つ守れなかった。ごめんな、皆。俺は本当にダメ人間だった。でも皆はどうか生き残ってくれよ―――。
「痛いのは嫌だからな。一発で殺してくれよ?」
最後のつよがりを楓に見せる。
「大丈夫ですよ。鉄さんの時に練習しましたから」
「そうか、なら安心だ」
「えぇ、ではこれでお別れですね」
そう言うと楓は狙いを定め始める。
(音夢、さくら、ことり…。杉並…あとは頼んだぞ)
目を瞑り、最後の言葉を紡ぐ。
「バイバイ、純一くん」
楓がそう言いトリガーを引き始める。――――その時だった。
『――――――――』
声にならない叫びが上空から聞こえ、純一の前に立ちはだかる。
そして、楓がトリガーを引いたのも同時であった――――。
◇ ◇ ◇
自分の身体につく血。純一は初めそれが自分の体液だと思っていた。
だが、自分の目の前で血を出しながら倒れている少女を見て驚愕する。
「さくら――――っ!?」
「にゃはは…、良かったぁ。お兄ちゃん守れたよ」
笑顔で返答するさくら。だが、純一は困惑する一方だった。
「どうして!? どうしてさくらが俺を庇うんだよっ!?」
「ボクはお兄ちゃんのプリンセスだからねぇ。そしてナイトでもあるからだよ」
純一はただただ涙が止まらなかった。これから死ぬであろうさくらの姿を見て、悔しさと共に悲しさが溢れ出る。
『誰だかわかりませんが急いでるんです。死んでもらえますか…?』
純一たちの会話を遮り、楓はもう一度銃口を二人に向ける。
純一は懸命にさくらを守ろうとするがさくらによって阻止される。
「むぅ…。せっかく良いところなんだから邪魔しないでくれるかなぁ?」
純一の手を振りほどきつつ、さくらは立ち上がり、持っていた銃を楓に向け発砲する。
銃声と共に発射された弾は確実に楓の腕を捕らえた。
「ヒィッ。稟くん、稟くーん!!」
楓は泣きながら森の中へと逃げ込む。
「待てっ!!お兄ちゃんを殺そうとした罪をここで償えー!!」
懸命に楓を追おうとするが、1歩進んだところで純一に抱きかかえられる。
「もういいんだ、もうやめてくれさくら……」
純一は泣きながらさくらを止める。
「うにゅ…。お兄ちゃんがそう言うならもういい、か、な……あ、れ?」
突如さくらの身体が崩れ落ちる。
「―――さくらっ!?」
「にゃはは。ごめんね、お兄ちゃん。ボク、ここでお別れかも…」
「やめろ! 絶対にそんなこと言うなよ、さくら…。頼むから…」
純一の涙が頬を伝い、さくらの顔へと落ちる。
「良かったぁ。お兄ちゃん、僕のために泣いてくれるんだ…」
さくらは微笑みながら話しかける。
「ボクね、人を殺しちゃったんだ。一人だけだけどね…」
「いい、もうそんなことどうでもいいから喋らないでくれさくら。どこか治療できるところに運ぶからな!」
純一はさくらの話を中断させ、さくらを運ぼうとするが、これもまたさくらによって阻止される。
「いいんだよ、お兄ちゃん。ボク、自分のことは自分が一番知ってるからね」
「―――ッ」
純一の目から見てもさくらの傷は重症だった。それでも純一はどうにかしたかった。
「お兄ちゃんは今はボクの話を聞いて欲しいな。ボクの最後の言葉。お兄ちゃんだけへの言葉」
凛とした声でさくらは自分に投げかける。純一は涙をぬぐい、さくらの言葉を聴く。
「でね、ボク、人を殺した後に思ったんだ。こんな手じゃお兄ちゃんには会えないなって。でもね、ボク環ちゃんから予言を授かってたの。お兄ちゃんが近日中に殺されるって予言」
さくらの言葉に、純一は戸惑っていた。
「俺が…殺される?」
「うん、ボクの目の前でお兄ちゃんが殺されちゃう。そう環ちゃんは言ってた。だからお兄ちゃんを見たときに他の何も考えずにお兄ちゃんを助けなきゃって思ったの。ボクはね、嬉しいんだよ、お兄ちゃん。好きな人を守れた事が。だからこれっぽちも後悔してないよ」
涙を流しながら純一はさくらに相槌を打つ。
「本当はボクとお兄ちゃん。それに音夢ちゃんたち皆で生きて帰りたかったなぁ…」
さくらが咳きをする度に血が吹き出る。純一はもうさくらを直視できなかった。
けれどさくらの手が純一の顔を彼女の方向へと向けさせる。
「いい、ここが一番大事だよ…?」
さくらの声は段々と小さくなっていく。純一は聞き逃さないようにさくらの口に耳を近づける。
「ボクは、お兄ちゃんのことが大好きだよ。死んでもそれは永遠。先にあっちで待ってるけどお兄ちゃんはまだ来ちゃダメだよ? 杉並くんと一緒ならお兄ちゃんは無敵なんだから。それに音夢ちゃんたちもちゃんと守らなきゃだよ? じゃあ最後に…」
そこまで言うとさくらは純一に口付けをする。
「バイバイ、お兄ちゃん。大好き、だ、よ……」
それ以降、さくらが喋ることはなかった。
「――――さくらっ!?………クッ……」
溢れ出す涙を抑えきれず、純一はさくらを抱えながら泣いた。
◇ ◇ ◇
一通り泣いた後、純一はさくらを埋葬する作業に取り掛かった。
あいにく自分の手持ちに穴を掘れるモノはなく、それどころか持っていたはずの鉄扇すら消えていた。
ふぅ、と息を吐き穴を掘れそうなモノを探す。
「こんなもんしかない…か」
回りを見渡してもあるのは大きな石。木の枝。それのみだった。
そこで純一は穴を掘るのをやめ、簡単な墓石を作ることにした。大きな石でさくらのまわりを囲み、その上から木の枝をかぶせるというとても質素なものだった。
「さくら、ごめんな。ちゃんと埋葬してやるからな…」
さくらの墓に合掌し、決意を新たにする。
「音夢、ことり、杉並……。俺らは生きて帰らなきゃな」
さくらのミニウージーを片手に純一はその場を立ち去っていった―――――。
&color(red){ 【芳乃さくら@D.C.P.S. 死亡】}
【E-3 森の中 1日目 朝】
【朝倉純一@D.C.P.S.】
【装備:ミニウージー(24/25)】
【所持品:支給品一式 エルルゥの傷薬@うたわれるもの オオアリクイのヌイグルミ@Kanon】
【状態:体力回復・強い決意・血が服についている】
【思考・行動】
基本行動方針:人を殺さない
1.何としてでも音夢を探し出して守る。
2.ことり、杉並を探す。
3.殺し合いからの脱出方法を考える。
4.さくらをちゃんと埋葬したい。
【備考】
芙蓉楓の知人の情報を入手しています。
純一の参加時期は、音夢シナリオの初キス直後の時期に設定。
【芙蓉楓@SHUFFLE! ON THE STAGE】
【装備:ベレッタ M93R(21/18)】
【所持品:支給品一式 ブラウニング M2 “キャリバー.50”(ベルト給弾式、残弾200) ベレッタ M93Rの残弾40】
【状態:神社に向け逃走中 右腕に被弾】
【思考・行動】
基本方針:稟の捜索
1:何が何でも、最優先で稟を探す(神社へ)
2:稟を襲った可能性があるので、男性の参加者は皆殺しにする
(岡崎朋也の話を信用しているので彼は除くが、朋也の顔は忘れているのであくまで『春原陽平』を信用している)
3:その男性に知人がいる場合、分かる範囲でその人物も殺す
(竜鳴館のセーラー服を着衣している者は殺す)
4:できればネリネや亜沙とも合流したい
5:朝倉純一、彼を守った少女を殺す。
【備考】
稟以外の人間に対する興味が希薄になっている
朝倉純一の知人の情報を入手している。
水澤摩央を危険人物と判断
岡崎朋也を春原陽平と思い込む(興味がないため顔は忘れた)
朋也と(実際にはいないが)稟を襲った男(誰かは不明)を強く警戒→男性の参加者は稟と朋也(春原)以外全員警戒
鉄乙女は死んだと判断する
月宮あゆは自分に敵対しないと信用する(興味がないため顔は忘れた)
|075:[[信じる者、信じない者(後編)]]|投下順に読む|077:[[赤坂衛の受難]]|
|075:[[信じる者、信じない者(後編)]]|時系列順に読む|077:[[赤坂衛の受難]]|
|050:[[夢と決意と銃声と――]]|朝倉純一|100:[[I do not die; cannot die]]|
|052:[[許せる嘘か? 許されざる嘘か?]]|芙蓉楓|093:[[恋獄少女]]|
|057:[[二度と触れ得ぬキョウキノサクラ]]|&color(red){芳乃さくら}||
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