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「信じる声-貫く声-偽る声」(2007/07/22 (日) 16:30:47) の最新版変更点
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**信じる声-貫く声-偽る声
うっそうと茂った森。ここにも肩を並べて移動する一組の男女がいた。
共にほとんど言葉を発しようとしないが、傍目には手を組んだペアにしか見えない。
この場所に集められたものの大半は特別な力を一切持たない十代の少年少女だ。
故に"殺し"の舞台において、自らを守るノウハウを持つものは当然極少数である。
だが参加者の中には、現実では考えられないような力を持った者が確実に存在している。
一般人とはかけ離れた身体能力を持つ者、歴史に名を残すような天才、魔術や超能力を扱う者など様々だ。
それでは。
そのどれも持たない者はどうなるのであろうか。
血と狂気に彩られた空間に飲み込まれ、それでもなお元居た世界の日常を捨てきれない者はどうなるのか。
ある者は力を持つ者に嬲られ、その命を落とすことになるだろう。
またある物は他の人間と手を結ぶことでそんな運命に抵抗しようとするだろう。
即席のチームを結成する者が発生することは、こんな状況においては必然とも言える。
たとえソレがガラスのように儚く脆いステージの上で成り立っているとしても。
ある意味において誰と知り合い、誰と同行するかは究極的とも言える命題だ。
ではこの二人はどうだろう。
片や鮮やかな金髪と釣り気味のブルーアイズが印象的な超絶美少女。
片や正直どこにでもいそうではあるが、芯の強さを感じさせられる精巧な顔立ちの青年。
どちらも戦闘に長けているとは思えない。
少女の手にはその可憐な指先とはまるで不釣合いな拳銃が握られてはいるものの、
彼女がこれを100%使いこなせるのかと言えば難しい。
むしろ青年の腰にぶら下がっているサバイバルナイフの方が役に立つかもしれない。
使い方はいたってシンプル。相手に突き刺し、肉を裂き、血管を断ち切るだけ。
素人の銃が本当に戦力になるかはいささか疑問が残る。
「……おい」
「…………」
無言。
いやこれは明らかに"無視"に近い。
祐一は彼女、大空寺あゆの態度に苛立ちを覚える。
今二人が隣を歩いているのは向かう方角が同じだから……ただそれだけである。
とはいえ祐一は自分が大して信用されていないことは重々承知してものの、それでも最低限の反応くらいは返してもらいたかった。
「あゆ、返事くらいしたらどうだ」
「……あ?」
人形のように整っていたあゆの表情が一瞬で歪む。
生来の釣り目故の強烈な目付きの悪さが更に酷くなる。
これほど『瞬間沸騰』という言葉がピタリとはまる人物も中々居ないだろう。
彼女はとにかくすぐキレる、怒鳴る、悪態をつく。
これほどの美少女だが、周りにほとんど人が寄り付かないのはコレが原因なのではないか。
「気安く名前で呼ぶんじゃないわよ、この糞虫」
「悪い悪い。呼びやすかったもんでさ、"あゆ"って名前が」
「……ああ、名簿の月宮あゆってアンタの知り合いか。
そういえばあの時、ブツブツ呟いてたもんなぁ」
うんうん、と納得する素振りを見せるあゆ。
「……んで、あにさ?何か言いたいことあるんだろ。
耳半分で聞いてやるからさっさと喋れや」
「……じゃあ遠慮無く。大空寺、オマエいつまで俺についてくんの」
「は?…………おいコラ、糞虫。……どうも私の耳がおかしくなったみたいさ。
訂正させてやるからもう一回言ってみろや」
(特に問題のある発言をしたつもりは無いんだが……)
一瞬の逡巡。
実際問題、宛も無くただ歩き回っているような状況は相当に好ましくない。
祐一の現在の目的はあゆに名雪、舞や佐祐理さん、それとまぁ北川といった知り合いと合流することだ。
ソレならば単独で行動したほうがより効率的である。
だが隣の彼女はどうだ。知り合いこそ参加者の中に存在しているらしいが、その人物に執着している様子はまるで見られない。
初めて会った時も堂々と食事を取っていたくらいだ。
(早めに大空寺とは分かれた方がいい。)
祐一としては自分の発言について、遠回しに別れることを示唆した程度の認識しか無かった。
「オマエいつまで俺につい……」
「うがああああああッ!!舐めんなやあああ!!殺されてぇのか、糞野郎!!」
「ちょっ、ま……銃はやめろって!!冗談にならん!!」
祐一が素直に同じ台詞を言おうとするも、あゆの怒号に掻き消される。
しかも右手のS&W M10を祐一に向けながら、だ。
廃屋で彼女が放った弾丸は結局、腐ったタイルに穴を空けるという結末だった。
状況はアホらしいほど似通っている。一応先程は冗談で済んだ。
しかし今回もまた最終的に軽口の言い合いと謝罪で解決出来るとは限らない。
物事に絶対は無い。
「くそ……ッ!!」
祐一の行動は迅速だった。
ひとまずは銃口を逸らすためにあゆの右手首を掴みにかかる。
いくらおそらくコレが一時の乱心であろうとも、発砲されるのだけはまずい。
彼女の銃―S&W M10―はリボルバーである。つまり安全装置が存在しない。
もしもオートピストルならば"本当に"殺すつもりが無ければ銃弾は発射されることは無い。
だがリボルバーは引き金を引けばそのまま弾が出てしまう。
特に祐一はガンマニアという訳でも無いが、それくらいの知識はある。
意味も無く銃で他人を撃とうとするのは自らをも危険に晒す行為だ。
しかし。
「がッ!!だ……、大空寺!?」
「ボケお前、甘過ぎさ。ボディーがお留守になってるっつーの」
訪れたのは祐一がまるで予想だにしない展開だった。
銃を持つ手を掴みに行った祐一の腹を、あゆが思い切り蹴っ飛ばしたのだ。
しかもか弱い少女のソレではなく、しっかりと腰の入った蹴りで、だ。
(な!?この蹴りは……。)
急所からは外れているため、無様に地面とキスをするまでは至らない。
せいぜい軽く片膝を付いたくらいで済んだのは幸いだったかもしれない。
だが祐一にとってはそれよりも、"あゆが自発的に自分を蹴りつけて来た"ということの方が衝撃的だった。
彼はあゆが自分に銃を向けたのは一時の気の迷い程度にしか思っていなかった。
彼女が自分を襲うわけが無い、そんな根拠の無い確信が心の内に存在していたからだ。
だが現実はどうだ。
なぜならあゆの蹴りは完全に"攻撃"に分類されるものだったからだ。
「おい、何『幽霊』でも見たような表情してるのさ。
まさか私がオマエみたいなカスに、あんな無礼な振る舞いをされて黙っているとでも思ったかい?」
「本気かよ……大空寺」
「あ?銃は勢いで撃つものじゃない、って最初に言い出したのはお前だろうが」
それはほんの数分前では想像も出来ない構図だった。
ベルトに括りつけたナイフを取り出す暇も無く、地面に膝を付く祐一。
若干離れた場所、常人のスピードならば大体二足ほどの絶妙な距離に立つ銃を構えたあゆ。
そして、彼女の手の黒鉄の凶器は寸分違わず祐一の眉間に狙いを定めている。
(……こんなことになるのならば何も言わずに勝手に離れてしまえば良かった。)
祐一は下手な発言をした自分に激しい自責の念を抱く。
勿論あゆの台詞が全て本当だとすれば、後ろを向いた所で発砲してきた可能性も高い。
とはいえ所詮素人の狙いだ。距離を取ってしまえば直撃させることは困難だったであろう。少なくとも命を取られることは無かったはずだ。
彼女は殺し合いに乗っていない。早々に判断した自分が浅はかだった。まさか全てが演技だったなんて。
「最期に……最期に一言良いか」
「……ん、言ってみな」
「大空寺、お前がどういうつもりでこの殺し合いに乗ったのかは分からん。
ただな……まだ人を殺したことは無いんだろう?
さすがにソレくらいはさっき銃をぶっ放した時の仕草とかで分かる。
まさか今から俺を逃がしてくれるなんて思っちゃいないよ。
だけど考えてみてくれ。人が死ぬって事の重大さを」
それは半ば遺言に近かった。
祐一はこの時、栞や舞のことを思い出していた。
その中でも特に栞だ。彼女の命が助かったのは本当に奇跡としか言いようが無くて、そしてその時命の重さを彼は知った。
「……くくく」
「…………?」
「ぷ、くはははははっ!!!アホ、軽い冗談に決まってんだろ。
マジになってんじゃねぇ、ド阿呆」
「は……?」
自らの判断の失敗を嘆き、あゆの本性を知り、深い皺を刻んでいたその顔が一気に緩む。
祐一はこのとき、彼女が何を言っているのか全く理解できなかった。
「アレさ、さっきのお返しって奴。
まぁ糞虫如きが、なんとこの私を出し抜けたという事実で、有頂天になってる間に死んじまってた方が幸せだったかもしれないけど。
つーか仮にも男が女に良いようにボコられてどうするよ、無能にも程があんだろうが」
「ッ!!てめぇ、大空寺!!」
「あぁ言っとくが謝らんからな、糞虫。
いくら凡夫の頭とはいえ、元々お前が餓鬼みたいな真似したのが発端なのは理解してるだろう?」
「馬鹿!!やって良いことと悪いことってものがあるだろ!!
冗談なんかで済む問題か、悪ふざけにも程がある!!」
思わず祐一は手を振り上げる。それは完全に衝動的な行動だった。
女に手を上げるのは男として最低の行為。
極端なフェミニズムとは行かないまでも意識的にそんな風には思っていた。
しかし、この場合は例外だ。
こんな状況で、しかも拳銃を使ってやるおふざけとしては度が過ぎている。
「おい、相沢」
「!?」
祐一の背筋に悪寒が走る。
加速した右手はあゆの頬に触れる寸前で緊急停止。
"糞虫"でも"お前"でも"害虫"でも無く突然あゆは自分の名前を、それも今までに無いくらい冷めたい声で呼んだ。
「甘いよ。甘過ぎさ、相沢祐一」
「…………俺が甘い?」
「そうさ。認識、行動、性格全部だ。お前小学生の餓鬼か、ボケナス。
実際私が本当に殺し合いに乗ってたら、今頃眉間から血流して死んでんだぞ。
同行者でも無い、まるで信用出来るか分からない人間相手でコレだ。
もし悪意ある他人が感じの良い台詞と態度でもって近づいてきたら、それこそ寝耳かかれて終わりだよ」
(甘い?他人を信用することが間違いだとでも言うのか。)
こんな状況だ。ほとんどの奴は戦うことも出来ずに震えているに違いない。
そんな中で他人を信用できなくなったらどうなる?そっちこそ一貫の終わりだ。
「だからって全ての人を疑え、とでも言うのか?
こんな状況なのに本気で一人でも大丈夫なんて言えるのかよ!!」
「一人で全て何とかなる……とは思ってないさ。
私は戦士でも何でも無いんだし。戦って殺し尽くすなんて不可能さ。
ただな。この島にはウサギだけじゃない、オオカミだっていることを学びな。
勿論ウサギの皮を被ったオオカミだってウヨウヨしているかもしれない」
あゆは断言する。
祐一の主張もあゆの主張もどちらも決して、間違っていない。
祐一の人を信じたいという心もあゆの誰もが搾取される立場でいるわけが無いという心も。
微妙に気まずい空気が流れる。会話は完全に止まった。
聞こえるのは木々の擦れ合う音と、鳥が飛び立った音ぐらいのもの。
何分ぐらいこの状態が続いたのだろうか。
時間の感覚も麻痺するほどの沈黙の後、あゆがゆっくりと口を開く。
「おい、糞虫……一緒にいる意味も理由もねぇ。この辺で別れるか」
「そう……だな。短い、付き合いだった」
(最後は糞虫か……。)
なぜか今更になって"糞虫"と呼ばれたことに祐一は深く心を抉られた。
■
「じゃあ私はこっちに行くから。
一人でいるのが怖くなっても引き返して来んなよ。もう構ってやらねぇよ」
「そっちこそ。さっきの台詞、撤回するなら今だぜ?」
「あぁ?言ってろ、アホ」
二人は先程争っていた場所から少し先、丁度森が開けた場所に出てきた。
どうもここは地図で言うA-5とB-5の境界線付近らしい。
「……とりあえず、ここでお別れだな。俺はとりあえず鉄塔の方に向かってみようと思う。 大空寺は何処に行くんだ?」
「懲りねぇーなぁお前。そう行き先をその汚い口からペラペラ垂れ流すんじゃねぇ。
それに誰が教えるか、ボケ。足りない脳味噌使って考えろや」
「……ああ、考えれば俺でも分かる場所ってことか?何だかんだ言って教えてくれてるじゃないか」
「……ッ、勝手に言ってろや。じゃあな……っと真夜中から歩きっ放しでダレてるのに。
無駄に馬鹿の相手したせいで余計疲れちまったよ」
そうボヤキながらあゆは西の方向に向かって歩いていった。
彼女は何処に行くのだろうか。祐一はぼんやりと考えながらその背中を見送る。
(方向的には……何だ。身体を休めるのに絶好の場所があるじゃないか。
あそこなら寝床としては申し分ない。いっそ自分も行けば良かったと思えてくるくらいだ。)
「ま……アイツと一緒じゃ無理かな。
意見が違い過ぎるのも問題だし」
あゆの姿が見えなくなると祐一も歩き出す。
目的地はとりあえず鉄塔。
いったいどんな建物なのか気になるし、同じことを考える人間も居るかもしれない。
【B-5 森/1日目 早朝】
【大空寺あゆ@君が望む永遠】
【装備:S&W M10(5/6)】
【所持品:予備弾丸20発・支給品一式・ランダム支給品x2(あゆは確認済み)】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:ホテルに移動。
2:殺し合いに乗るつもりはない。
3:基本的にチームを組むつもりは無い
■
彼はまず自分がこの殺し合いに参加させられた理由に疑問を持った。
人語を理解し、他人の言葉を真似、人並みに人権を主張したりはするものの、あくまで自分は鳥なのである。
(あのタカノという女は我輩に何をさせようというのだ。
積極的に"殺し"を担う役目か?それともただの人数合わせか?
人と人の醜き争いの中に鳥類が参加していていいのか……。)
『鳥であること』は長所にも短所にも成り得る。
まず自分が参加者であることがばれ難いというのは大きい。
首輪に関しても、余程接近されなければその存在に気付かれることは無い。
適当に木に止まって高見の見物と洒落込んでいればいいのだ。
だが問題は自分が『鳥であること』を知っている人物が数名参加しているということだ。
対馬レオ、霧夜エリカ、鉄乙女、佐藤良美、蟹沢きぬ、スバル……。
この六名がいる限り、時間の経過と共に自分のアドバンテージは消滅して行く。
そして危険ばかりが膨らんでいく。
自分はあくまでこの戦いにおいて勝者となるつもりだ。
それならば当然、確実に障害となるものは取り除いておきたい。
(心苦しいが、奴らに関してだけは積極的に"攻め"に回る必要がありそうだな。)
確かに彼は深夜、獣のような耳が生えた武人に蟹沢きぬの声で攻撃を加えているのだが、それ失敗に終わっている。
理由は彼女が一般人とは比べ物にならない反射神経を持っていたこと。
そして彼の支給品がスペツナズナイフという刃を一度だけ弾丸のように発射できる道具だったからだ。
通常この武器はナイフとして使用し、隠し玉として刃の射出を行う、という使い方がベターなように思える。
だが、彼の場合刃物を振り回して戦うことは逆に自分の命を縮める結果を招きかねない。
『空を飛んでいるということ』これが自分の最大のアドバンテージだからだ。
「ッ!!てめぇ、大空寺!!」
「あぁ言っとくが謝らんからな、糞虫。
いくら凡夫の頭とはいえ、元々お前が餓鬼みたいな真似したのが発端なのは理解してるだろう?」
「馬鹿!!やって良いことと悪いことってものがあるだろ!!
冗談なんかで済む問題か、悪ふざけにも程がある!!」
聞き取れるギリギリの距離から男女の話し声が聞こえる。
二人とも相当ボルテージが上がっているのだろう。先程までは聞き取れなかった会話が筒抜けだ
(近いな。相手の性格な数も能力も分からん。
攻撃するには条件が悪過ぎる。ひとまず偵察するべきか。)
太陽も昇り最低レベルの視野は確保出来ている。
彼は荷物と木の枝にぶら下げたままのランタンを置いて、声のする方向へと飛んでいった。
「だからって全ての人を疑え、とでも言うのか?
こんな状況なのに本気で一人でも大丈夫なんて言えるのかよ!!」
声の主は一組の男女だった。
ド派手な金髪の少女と深い緑のブレザーを着た青年。何やら意見の不一致で言い争っているように見える。
彼は二人の会話を聞き取ることの出来るギリギリの高さの枝に着地。経過を見守ることにする。
「一人で全て何とかなる……とは思ってないさ。
私は戦士でも何でも無いんだし。戦って殺し尽くすなんて不可能さ。
ただな。この島にはウサギだけじゃない、オオカミだっていることを学びな。
勿論ウサギの皮を被ったオオカミだってウヨウヨしているかもしれない」
(あの女、エリカに似ているな。
見た目だけじゃない。言ってること、どこか筋が一本通ってそうな所もだ。
顔つきはこちらの方が若干幼いが雰囲気も良く似ている。)
確かに霧夜エリカと大空寺あゆは似ている。
バックに強烈なグループがついていること、常人とは比べ物にならない知性と行動力、そして何よりも彼女達を支える確固たる信念。
同じような素質を鉄乙女も持ち合わせているが彼女は優し過ぎる。
優しさ、甘さは時に人の身の破滅を招くことになる。
だがそんな心配は霧夜エリカには不要だ。彼女は自らの理想、目的のためにはとことんドライになれる人間だからだ。
故に彼の知り合いの中で最も強敵となるのはおそらく彼女、霧夜エリカだということは明らかだった。
「そうだ。そういえば支給品に"アレ"があったのを忘れていたなぁ。
……これは使えそうだ」
彼は誰にも聞こえない小さな声で呟く。
既に地上は完全な沈黙状態だった。金髪の少女もブレザーの青年も黙ったままだ。
(なるほど……。もう十分だな。)
そろそろ頃合である。
急いで"仕掛け"の準備をすることにしよう。
彼は堂々と羽音を立てながら、思いついた計画のために荷物のある場所へ引き返して行った。
■
あゆと別れた祐一はB-6エリアに足を踏み入れた。
この辺り一帯も一面森である。しかも今まで居た場所以上に森が深い。
今までは昇りつつある太陽の光が木々の隙間から漏れていたのだが、ここはあまり光が入ってこない。
早朝に近いというのにまだ黎明のような暗さだった。
これでは下手をすると、迷って目的地とは違う場所に着いてしまう可能性も出てくる。
「ん……?アレは……?」
ぼんやりと、祐一の前方から光が差し込んだ。
時間的には太陽、という可能性もあるがソレは無い。明らかに方角が違っている。
もしかすると他の参加者がランタンか何かを使っているのかもしれない。
「おい!誰かいるのか?いるなら返事をしてくれ!」
祐一はゆっくりとその光に近づいて行く。
本心としては一気に駆け寄ってしまいたいのだが、あゆに言われた台詞が嫌でも胸の中に残っている。
考えたくは無いがいきなり隠れていた他人に攻撃される可能性もあるのだ。
慎重になるのは悪いことではない。そう自分に言い聞かせる。
「何だ、ランタンだけしか無いじゃないか……。ん……これは?」
予想通り、その光は木の枝に吊るされたランタンだった。
しかし辺りに人の気配は無い。周りを見回して見たものの目に入るのは適当に伸びた草木や、自由気ままに枝葉を伸ばした樹木ぐらいのである。
だがランタンが引っ掛けられた木の下に祐一にも見覚えのある物が落ちていた。
「これは……ボイスレコーダー?しかも最新のものっぽいな」
丁度手の平に納まる程のシルバーメタリックのボディに収納式のアンテナや、何やら様々なダイヤルが付いている。
「なんでこんな物がこんな場所に。……録音済みが一件あるのか」
思わず祐一は右向きの三角形のボタンを押す。
ボディに内蔵されたスピーカーから再生が始まる。
『……くそっ!!えーと俺は対馬レオ。分かるか?
最初のホールで見せしめに殺された男がいるだろ?そいつに駆け寄った二人の男の片割れだ。 俺は今ある奴に追われている。……そいつの名前は霧夜エリカ。俺と同じ学校の生徒会長だ。 いいかよく聞け。コイツは殺し合いに乗っている。今も俺は奴に追われているんだ。
だけど一筋縄で行く相手じゃない。頭も身体能力もおそらく参加者の中でトップクラスだ。 いきなり襲ってくるかもしれないし、どこかの集団に紛れ込んでいるかもしれない。
どちらにしろコイツは信用出来ない。何を言われても信じるんじゃないぞ!!
…………ッエリカ!!こんな近くまで……』
「な……!?」
祐一は我が耳を疑う。
もう一度再生ボタンを押してみるが、当然流れてくる内容に変化があるわけも無い。
流れて来た声は確かに、最初のホールで聞いたような気がする。
おそらく対馬レオ、本人だろう。
先程あゆに対して"人を信じること"を力説しただけに、こんなに早く殺し合いに乗っている人間の存在を知ることになるとは思ってもみなかった。
「くそっ!!どうして皆そんなに殺し合いがしたいんだよ!!」
祐一はボイスレコーダーを掴んだまま駆け出す。
方向的には目的地であった鉄塔の方角にこそ向かっているが、既に"寝床を確保する"という目的は消え失せていた。
こんなに近くで襲われた人間がいるのだ。呑気にそんなことをしている暇は無い。
ひとまず霧夜エリカを探さなければならない。
【B-6 森/1日目 早朝】
【相沢祐一@Kanon】
【装備:サバイバルナイフ】
【所持品:トランシーバー(二台)・支給品一式・多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:鉄塔へ向かう
2:霧夜エリカを止める
3:霧夜エリカと接触時、が不信な行動を取った場合攻撃する可能性有り
4:協力的な参加者と接触し、情報を掻き集める(優先人物は前原圭一)。
5:出来れば舞に佐祐理、北川、名雪との合流。
6:遭遇した相手がステルスマーダーである可能性を危惧
【備考】
トランシーバーの通信可能距離は半径2キロ内の範囲
霧谷エリカがマーダーであるという情報(偽)を得ています
多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)
様々な機能が付いています。
他に何が付いているかは続きを書かれる方にお任せします。
・ラジオ(周波数は様々)
定時放送チャンネル:過去の定時放送が延々と流れています。
ロワチャンネル:不定期放送。役に立つ情報が聞けるかも。MCは勿論あの人……。
■
「悪いな坊主。……上手く掻き回してくれよ」
祐一が走り去った少し後、ランタンが吊るされている枝の上に土永さんが着地する。
オウムならではの能力……声真似。
先刻通り掛かった剣士には蟹沢きぬの、そして今回出くわした青年には対馬レオの声で嘘の情報を流した。
ちなみにレオの声を真似たのに深い理由は無い。
先程は蟹沢きぬの声だったので今回はレオにした、それくらいの軽い理由である。
「さてと……太陽が出て来たな。そろそろ移動するか」
彼は鳥であるゆえ、普通に行動していれば他人に見つかることはそうそう無いはずだ。
もしも見られたとしても首輪さえ見えなければ、野性の動物と勘違いされる可能性も高い。
とはいえ問題もある。デイパックの存在だ。
コレは何故かは分からないが重さを感じないため、持って移動することに支障は無い。
だがぶら下げたまま飛行していれば、どんな馬鹿であろうと自分が参加者であることに気付いてしまう。コレは厄介だ。
ならばどこかに網を張るのが良い。
縁日で売られていた彼としては巣を作った経験も無いのだが。
それでも自分にとって有利に行動出来る場所にベースを作るべきだ。
加えてまともに使える武器が必要である。手榴弾などの投擲出来る爆薬が手に入れば最高だ。
「祈……我輩は必ず生きてお前の元に帰るぞ。そのためならば何をしてもいい」
一匹の鳥が主のため、鬼になった瞬間だった。
【A-5 森/1日目 早朝】
【土永さん@つよきす-Mighty Heart-】
【装備:スペツナズナイフ】
【所持品:支給品一式、祈の棒キャンディー@つよきす-Mighty Heart- 多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き) 】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:最後まで生き残り、祈の元へ帰る
1:自分でも扱える優秀な武器が欲しい
2:どこか一箇所留まったままマーダー的活動が出来る場所を探す
3:基本的に銃器を持った相手には近づかない
|:[[]]|投下順に読む|:[[]]|
|:[[]]|時系列順に読む|:[[]]|
|:[[]]|大空寺あゆ|:[[]]|
|:[[]]|相沢祐一|:[[]]|
|:[[]]|土永さん|:[[]]|
**信じる声-貫く声-偽る声◆tu4bghlMIw
うっそうと茂った森。ここにも肩を並べて移動する一組の男女がいた。
共にほとんど言葉を発しようとしないが、傍目には手を組んだペアにしか見えない。
この場所に集められたものの大半は特別な力を一切持たない十代の少年少女だ。
故に"殺し"の舞台において、自らを守るノウハウを持つものは当然極少数である。
だが参加者の中には、現実では考えられないような力を持った者が確実に存在している。
一般人とはかけ離れた身体能力を持つ者、歴史に名を残すような天才、魔術や超能力を扱う者など様々だ。
それでは。
そのどれも持たない者はどうなるのであろうか。
血と狂気に彩られた空間に飲み込まれ、それでもなお元居た世界の日常を捨てきれない者はどうなるのか。
ある者は力を持つ者に嬲られ、その命を落とすことになるだろう。
またある物は他の人間と手を結ぶことでそんな運命に抵抗しようとするだろう。
即席のチームを結成する者が発生することは、こんな状況においては必然とも言える。
たとえソレがガラスのように儚く脆いステージの上で成り立っているとしても。
ある意味において誰と知り合い、誰と同行するかは究極的とも言える命題だ。
ではこの二人はどうだろう。
片や鮮やかな金髪と釣り気味のブルーアイズが印象的な超絶美少女。
片や正直どこにでもいそうではあるが、芯の強さを感じさせられる精巧な顔立ちの青年。
どちらも戦闘に長けているとは思えない。
少女の手にはその可憐な指先とはまるで不釣合いな拳銃が握られてはいるものの、
彼女がこれを100%使いこなせるのかと言えば難しい。
むしろ青年の腰にぶら下がっているサバイバルナイフの方が役に立つかもしれない。
使い方はいたってシンプル。相手に突き刺し、肉を裂き、血管を断ち切るだけ。
素人の銃が本当に戦力になるかはいささか疑問が残る。
「……おい」
「…………」
無言。
いやこれは明らかに"無視"に近い。
祐一は彼女、大空寺あゆの態度に苛立ちを覚える。
今二人が隣を歩いているのは向かう方角が同じだから……ただそれだけである。
とはいえ祐一は自分が大して信用されていないことは重々承知してものの、それでも最低限の反応くらいは返してもらいたかった。
「あゆ、返事くらいしたらどうだ」
「……あ?」
人形のように整っていたあゆの表情が一瞬で歪む。
生来の釣り目故の強烈な目付きの悪さが更に酷くなる。
これほど『瞬間沸騰』という言葉がピタリとはまる人物も中々居ないだろう。
彼女はとにかくすぐキレる、怒鳴る、悪態をつく。
これほどの美少女だが、周りにほとんど人が寄り付かないのはコレが原因なのではないか。
「気安く名前で呼ぶんじゃないわよ、この糞虫」
「悪い悪い。呼びやすかったもんでさ、"あゆ"って名前が」
「……ああ、名簿の月宮あゆってアンタの知り合いか。
そういえばあの時、ブツブツ呟いてたもんなぁ」
うんうん、と納得する素振りを見せるあゆ。
「……んで、あにさ?何か言いたいことあるんだろ。
耳半分で聞いてやるからさっさと喋れや」
「……じゃあ遠慮無く。大空寺、オマエいつまで俺についてくんの」
「は?…………おいコラ、糞虫。……どうも私の耳がおかしくなったみたいさ。
訂正させてやるからもう一回言ってみろや」
(特に問題のある発言をしたつもりは無いんだが……)
一瞬の逡巡。
実際問題、宛も無くただ歩き回っているような状況は相当に好ましくない。
祐一の現在の目的はあゆに名雪、舞や佐祐理さん、それとまぁ北川といった知り合いと合流することだ。
ソレならば単独で行動したほうがより効率的である。
だが隣の彼女はどうだ。知り合いこそ参加者の中に存在しているらしいが、その人物に執着している様子はまるで見られない。
初めて会った時も堂々と食事を取っていたくらいだ。
(早めに大空寺とは分かれた方がいい。)
祐一としては自分の発言について、遠回しに別れることを示唆した程度の認識しか無かった。
「オマエいつまで俺につい……」
「うがああああああッ!!舐めんなやあああ!!殺されてぇのか、糞野郎!!」
「ちょっ、ま……銃はやめろって!!冗談にならん!!」
祐一が素直に同じ台詞を言おうとするも、あゆの怒号に掻き消される。
しかも右手のS&W M10を祐一に向けながら、だ。
廃屋で彼女が放った弾丸は結局、腐ったタイルに穴を空けるという結末だった。
状況はアホらしいほど似通っている。一応先程は冗談で済んだ。
しかし今回もまた最終的に軽口の言い合いと謝罪で解決出来るとは限らない。
物事に絶対は無い。
「くそ……ッ!!」
祐一の行動は迅速だった。
ひとまずは銃口を逸らすためにあゆの右手首を掴みにかかる。
いくらおそらくコレが一時の乱心であろうとも、発砲されるのだけはまずい。
彼女の銃―S&W M10―はリボルバーである。つまり安全装置が存在しない。
もしもオートピストルならば"本当に"殺すつもりが無ければ銃弾は発射されることは無い。
だがリボルバーは引き金を引けばそのまま弾が出てしまう。
特に祐一はガンマニアという訳でも無いが、それくらいの知識はある。
意味も無く銃で他人を撃とうとするのは自らをも危険に晒す行為だ。
しかし。
「がッ!!だ……、大空寺!?」
「ボケお前、甘過ぎさ。ボディーがお留守になってるっつーの」
訪れたのは祐一がまるで予想だにしない展開だった。
銃を持つ手を掴みに行った祐一の腹を、あゆが思い切り蹴っ飛ばしたのだ。
しかもか弱い少女のソレではなく、しっかりと腰の入った蹴りで、だ。
(な!?この蹴りは……。)
急所からは外れているため、無様に地面とキスをするまでは至らない。
せいぜい軽く片膝を付いたくらいで済んだのは幸いだったかもしれない。
だが祐一にとってはそれよりも、"あゆが自発的に自分を蹴りつけて来た"ということの方が衝撃的だった。
彼はあゆが自分に銃を向けたのは一時の気の迷い程度にしか思っていなかった。
彼女が自分を襲うわけが無い、そんな根拠の無い確信が心の内に存在していたからだ。
だが現実はどうだ。
なぜならあゆの蹴りは完全に"攻撃"に分類されるものだったからだ。
「おい、何『幽霊』でも見たような表情してるのさ。
まさか私がオマエみたいなカスに、あんな無礼な振る舞いをされて黙っているとでも思ったかい?」
「本気かよ……大空寺」
「あ?銃は勢いで撃つものじゃない、って最初に言い出したのはお前だろうが」
それはほんの数分前では想像も出来ない構図だった。
ベルトに括りつけたナイフを取り出す暇も無く、地面に膝を付く祐一。
若干離れた場所、常人のスピードならば大体二足ほどの絶妙な距離に立つ銃を構えたあゆ。
そして、彼女の手の黒鉄の凶器は寸分違わず祐一の眉間に狙いを定めている。
(……こんなことになるのならば何も言わずに勝手に離れてしまえば良かった。)
祐一は下手な発言をした自分に激しい自責の念を抱く。
勿論あゆの台詞が全て本当だとすれば、後ろを向いた所で発砲してきた可能性も高い。
とはいえ所詮素人の狙いだ。距離を取ってしまえば直撃させることは困難だったであろう。少なくとも命を取られることは無かったはずだ。
彼女は殺し合いに乗っていない。早々に判断した自分が浅はかだった。まさか全てが演技だったなんて。
「最期に……最期に一言良いか」
「……ん、言ってみな」
「大空寺、お前がどういうつもりでこの殺し合いに乗ったのかは分からん。
ただな……まだ人を殺したことは無いんだろう?
さすがにソレくらいはさっき銃をぶっ放した時の仕草とかで分かる。
まさか今から俺を逃がしてくれるなんて思っちゃいないよ。
だけど考えてみてくれ。人が死ぬって事の重大さを」
それは半ば遺言に近かった。
祐一はこの時、栞や舞のことを思い出していた。
その中でも特に栞だ。彼女の命が助かったのは本当に奇跡としか言いようが無くて、そしてその時命の重さを彼は知った。
「……くくく」
「…………?」
「ぷ、くはははははっ!!!アホ、軽い冗談に決まってんだろ。
マジになってんじゃねぇ、ド阿呆」
「は……?」
自らの判断の失敗を嘆き、あゆの本性を知り、深い皺を刻んでいたその顔が一気に緩む。
祐一はこのとき、彼女が何を言っているのか全く理解できなかった。
「アレさ、さっきのお返しって奴。
まぁ糞虫如きが、なんとこの私を出し抜けたという事実で、有頂天になってる間に死んじまってた方が幸せだったかもしれないけど。
つーか仮にも男が女に良いようにボコられてどうするよ、無能にも程があんだろうが」
「ッ!!てめぇ、大空寺!!」
「あぁ言っとくが謝らんからな、糞虫。
いくら凡夫の頭とはいえ、元々お前が餓鬼みたいな真似したのが発端なのは理解してるだろう?」
「馬鹿!!やって良いことと悪いことってものがあるだろ!!
冗談なんかで済む問題か、悪ふざけにも程がある!!」
思わず祐一は手を振り上げる。それは完全に衝動的な行動だった。
女に手を上げるのは男として最低の行為。
極端なフェミニズムとは行かないまでも意識的にそんな風には思っていた。
しかし、この場合は例外だ。
こんな状況で、しかも拳銃を使ってやるおふざけとしては度が過ぎている。
「おい、相沢」
「!?」
祐一の背筋に悪寒が走る。
加速した右手はあゆの頬に触れる寸前で緊急停止。
"糞虫"でも"お前"でも"害虫"でも無く突然あゆは自分の名前を、それも今までに無いくらい冷めたい声で呼んだ。
「甘いよ。甘過ぎさ、相沢祐一」
「…………俺が甘い?」
「そうさ。認識、行動、性格全部だ。お前小学生の餓鬼か、ボケナス。
実際私が本当に殺し合いに乗ってたら、今頃眉間から血流して死んでんだぞ。
同行者でも無い、まるで信用出来るか分からない人間相手でコレだ。
もし悪意ある他人が感じの良い台詞と態度でもって近づいてきたら、それこそ寝耳かかれて終わりだよ」
(甘い?他人を信用することが間違いだとでも言うのか。)
こんな状況だ。ほとんどの奴は戦うことも出来ずに震えているに違いない。
そんな中で他人を信用できなくなったらどうなる?そっちこそ一貫の終わりだ。
「だからって全ての人を疑え、とでも言うのか?
こんな状況なのに本気で一人でも大丈夫なんて言えるのかよ!!」
「一人で全て何とかなる……とは思ってないさ。
私は戦士でも何でも無いんだし。戦って殺し尽くすなんて不可能さ。
ただな。この島にはウサギだけじゃない、オオカミだっていることを学びな。
勿論ウサギの皮を被ったオオカミだってウヨウヨしているかもしれない」
あゆは断言する。
祐一の主張もあゆの主張もどちらも決して、間違っていない。
祐一の人を信じたいという心もあゆの誰もが搾取される立場でいるわけが無いという心も。
微妙に気まずい空気が流れる。会話は完全に止まった。
聞こえるのは木々の擦れ合う音と、鳥が飛び立った音ぐらいのもの。
何分ぐらいこの状態が続いたのだろうか。
時間の感覚も麻痺するほどの沈黙の後、あゆがゆっくりと口を開く。
「おい、糞虫……一緒にいる意味も理由もねぇ。この辺で別れるか」
「そう……だな。短い、付き合いだった」
(最後は糞虫か……。)
なぜか今更になって"糞虫"と呼ばれたことに祐一は深く心を抉られた。
■
「じゃあ私はこっちに行くから。
一人でいるのが怖くなっても引き返して来んなよ。もう構ってやらねぇよ」
「そっちこそ。さっきの台詞、撤回するなら今だぜ?」
「あぁ?言ってろ、アホ」
二人は先程争っていた場所から少し先、丁度森が開けた場所に出てきた。
どうもここは地図で言うA-5とB-5の境界線付近らしい。
「……とりあえず、ここでお別れだな。俺はとりあえず鉄塔の方に向かってみようと思う。 大空寺は何処に行くんだ?」
「懲りねぇーなぁお前。そう行き先をその汚い口からペラペラ垂れ流すんじゃねぇ。
それに誰が教えるか、ボケ。足りない脳味噌使って考えろや」
「……ああ、考えれば俺でも分かる場所ってことか?何だかんだ言って教えてくれてるじゃないか」
「……ッ、勝手に言ってろや。じゃあな……っと真夜中から歩きっ放しでダレてるのに。
無駄に馬鹿の相手したせいで余計疲れちまったよ」
そうボヤキながらあゆは西の方向に向かって歩いていった。
彼女は何処に行くのだろうか。祐一はぼんやりと考えながらその背中を見送る。
(方向的には……何だ。身体を休めるのに絶好の場所があるじゃないか。
あそこなら寝床としては申し分ない。いっそ自分も行けば良かったと思えてくるくらいだ。)
「ま……アイツと一緒じゃ無理かな。
意見が違い過ぎるのも問題だし」
あゆの姿が見えなくなると祐一も歩き出す。
目的地はとりあえず鉄塔。
いったいどんな建物なのか気になるし、同じことを考える人間も居るかもしれない。
【B-5 森/1日目 早朝】
【大空寺あゆ@君が望む永遠】
【装備:S&W M10(5/6)】
【所持品:予備弾丸20発・支給品一式・ランダム支給品x2(あゆは確認済み)】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:ホテルに移動。
2:殺し合いに乗るつもりはない。
3:基本的にチームを組むつもりは無い
■
彼はまず自分がこの殺し合いに参加させられた理由に疑問を持った。
人語を理解し、他人の言葉を真似、人並みに人権を主張したりはするものの、あくまで自分は鳥なのである。
(あのタカノという女は我輩に何をさせようというのだ。
積極的に"殺し"を担う役目か?それともただの人数合わせか?
人と人の醜き争いの中に鳥類が参加していていいのか……。)
『鳥であること』は長所にも短所にも成り得る。
まず自分が参加者であることがばれ難いというのは大きい。
首輪に関しても、余程接近されなければその存在に気付かれることは無い。
適当に木に止まって高見の見物と洒落込んでいればいいのだ。
だが問題は自分が『鳥であること』を知っている人物が数名参加しているということだ。
対馬レオ、霧夜エリカ、鉄乙女、佐藤良美、蟹沢きぬ、スバル……。
この六名がいる限り、時間の経過と共に自分のアドバンテージは消滅して行く。
そして危険ばかりが膨らんでいく。
自分はあくまでこの戦いにおいて勝者となるつもりだ。
それならば当然、確実に障害となるものは取り除いておきたい。
(心苦しいが、奴らに関してだけは積極的に"攻め"に回る必要がありそうだな。)
確かに彼は深夜、獣のような耳が生えた武人に蟹沢きぬの声で攻撃を加えているのだが、それ失敗に終わっている。
理由は彼女が一般人とは比べ物にならない反射神経を持っていたこと。
そして彼の支給品がスペツナズナイフという刃を一度だけ弾丸のように発射できる道具だったからだ。
通常この武器はナイフとして使用し、隠し玉として刃の射出を行う、という使い方がベターなように思える。
だが、彼の場合刃物を振り回して戦うことは逆に自分の命を縮める結果を招きかねない。
『空を飛んでいるということ』これが自分の最大のアドバンテージだからだ。
「ッ!!てめぇ、大空寺!!」
「あぁ言っとくが謝らんからな、糞虫。
いくら凡夫の頭とはいえ、元々お前が餓鬼みたいな真似したのが発端なのは理解してるだろう?」
「馬鹿!!やって良いことと悪いことってものがあるだろ!!
冗談なんかで済む問題か、悪ふざけにも程がある!!」
聞き取れるギリギリの距離から男女の話し声が聞こえる。
二人とも相当ボルテージが上がっているのだろう。先程までは聞き取れなかった会話が筒抜けだ
(近いな。相手の性格な数も能力も分からん。
攻撃するには条件が悪過ぎる。ひとまず偵察するべきか。)
太陽も昇り最低レベルの視野は確保出来ている。
彼は荷物と木の枝にぶら下げたままのランタンを置いて、声のする方向へと飛んでいった。
「だからって全ての人を疑え、とでも言うのか?
こんな状況なのに本気で一人でも大丈夫なんて言えるのかよ!!」
声の主は一組の男女だった。
ド派手な金髪の少女と深い緑のブレザーを着た青年。何やら意見の不一致で言い争っているように見える。
彼は二人の会話を聞き取ることの出来るギリギリの高さの枝に着地。経過を見守ることにする。
「一人で全て何とかなる……とは思ってないさ。
私は戦士でも何でも無いんだし。戦って殺し尽くすなんて不可能さ。
ただな。この島にはウサギだけじゃない、オオカミだっていることを学びな。
勿論ウサギの皮を被ったオオカミだってウヨウヨしているかもしれない」
(あの女、エリカに似ているな。
見た目だけじゃない。言ってること、どこか筋が一本通ってそうな所もだ。
顔つきはこちらの方が若干幼いが雰囲気も良く似ている。)
確かに霧夜エリカと大空寺あゆは似ている。
バックに強烈なグループがついていること、常人とは比べ物にならない知性と行動力、そして何よりも彼女達を支える確固たる信念。
同じような素質を鉄乙女も持ち合わせているが彼女は優し過ぎる。
優しさ、甘さは時に人の身の破滅を招くことになる。
だがそんな心配は霧夜エリカには不要だ。彼女は自らの理想、目的のためにはとことんドライになれる人間だからだ。
故に彼の知り合いの中で最も強敵となるのはおそらく彼女、霧夜エリカだということは明らかだった。
「そうだ。そういえば支給品に"アレ"があったのを忘れていたなぁ。
……これは使えそうだ」
彼は誰にも聞こえない小さな声で呟く。
既に地上は完全な沈黙状態だった。金髪の少女もブレザーの青年も黙ったままだ。
(なるほど……。もう十分だな。)
そろそろ頃合である。
急いで"仕掛け"の準備をすることにしよう。
彼は堂々と羽音を立てながら、思いついた計画のために荷物のある場所へ引き返して行った。
■
あゆと別れた祐一はB-6エリアに足を踏み入れた。
この辺り一帯も一面森である。しかも今まで居た場所以上に森が深い。
今までは昇りつつある太陽の光が木々の隙間から漏れていたのだが、ここはあまり光が入ってこない。
早朝に近いというのにまだ黎明のような暗さだった。
これでは下手をすると、迷って目的地とは違う場所に着いてしまう可能性も出てくる。
「ん……?アレは……?」
ぼんやりと、祐一の前方から光が差し込んだ。
時間的には太陽、という可能性もあるがソレは無い。明らかに方角が違っている。
もしかすると他の参加者がランタンか何かを使っているのかもしれない。
「おい!誰かいるのか?いるなら返事をしてくれ!」
祐一はゆっくりとその光に近づいて行く。
本心としては一気に駆け寄ってしまいたいのだが、あゆに言われた台詞が嫌でも胸の中に残っている。
考えたくは無いがいきなり隠れていた他人に攻撃される可能性もあるのだ。
慎重になるのは悪いことではない。そう自分に言い聞かせる。
「何だ、ランタンだけしか無いじゃないか……。ん……これは?」
予想通り、その光は木の枝に吊るされたランタンだった。
しかし辺りに人の気配は無い。周りを見回して見たものの目に入るのは適当に伸びた草木や、自由気ままに枝葉を伸ばした樹木ぐらいのである。
だがランタンが引っ掛けられた木の下に祐一にも見覚えのある物が落ちていた。
「これは……ボイスレコーダー?しかも最新のものっぽいな」
丁度手の平に納まる程のシルバーメタリックのボディに収納式のアンテナや、何やら様々なダイヤルが付いている。
「なんでこんな物がこんな場所に。……録音済みが一件あるのか」
思わず祐一は右向きの三角形のボタンを押す。
ボディに内蔵されたスピーカーから再生が始まる。
『……くそっ!!えーと俺は対馬レオ。分かるか?
最初のホールで見せしめに殺された男がいるだろ?そいつに駆け寄った二人の男の片割れだ。 俺は今ある奴に追われている。……そいつの名前は霧夜エリカ。俺と同じ学校の生徒会長だ。 いいかよく聞け。コイツは殺し合いに乗っている。今も俺は奴に追われているんだ。
だけど一筋縄で行く相手じゃない。頭も身体能力もおそらく参加者の中でトップクラスだ。 いきなり襲ってくるかもしれないし、どこかの集団に紛れ込んでいるかもしれない。
どちらにしろコイツは信用出来ない。何を言われても信じるんじゃないぞ!!
…………ッエリカ!!こんな近くまで……』
「な……!?」
祐一は我が耳を疑う。
もう一度再生ボタンを押してみるが、当然流れてくる内容に変化があるわけも無い。
流れて来た声は確かに、最初のホールで聞いたような気がする。
おそらく対馬レオ、本人だろう。
先程あゆに対して"人を信じること"を力説しただけに、こんなに早く殺し合いに乗っている人間の存在を知ることになるとは思ってもみなかった。
「くそっ!!どうして皆そんなに殺し合いがしたいんだよ!!」
祐一はボイスレコーダーを掴んだまま駆け出す。
方向的には目的地であった鉄塔の方角にこそ向かっているが、既に"寝床を確保する"という目的は消え失せていた。
こんなに近くで襲われた人間がいるのだ。呑気にそんなことをしている暇は無い。
ひとまず霧夜エリカを探さなければならない。
【B-6 森/1日目 早朝】
【相沢祐一@Kanon】
【装備:サバイバルナイフ】
【所持品:トランシーバー(二台)・支給品一式・多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)】
【状態:健康】
【思考・行動】
1:鉄塔へ向かう
2:霧夜エリカを止める
3:霧夜エリカと接触時、が不信な行動を取った場合攻撃する可能性有り
4:協力的な参加者と接触し、情報を掻き集める(優先人物は前原圭一)。
5:出来れば舞に佐祐理、北川、名雪との合流。
6:遭遇した相手がステルスマーダーである可能性を危惧
【備考】
トランシーバーの通信可能距離は半径2キロ内の範囲
霧谷エリカがマーダーであるという情報(偽)を得ています
多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き)
様々な機能が付いています。
他に何が付いているかは続きを書かれる方にお任せします。
・ラジオ(周波数は様々)
定時放送チャンネル:過去の定時放送が延々と流れています。
ロワチャンネル:不定期放送。役に立つ情報が聞けるかも。MCは勿論あの人……。
■
「悪いな坊主。……上手く掻き回してくれよ」
祐一が走り去った少し後、ランタンが吊るされている枝の上に土永さんが着地する。
オウムならではの能力……声真似。
先刻通り掛かった剣士には蟹沢きぬの、そして今回出くわした青年には対馬レオの声で嘘の情報を流した。
ちなみにレオの声を真似たのに深い理由は無い。
先程は蟹沢きぬの声だったので今回はレオにした、それくらいの軽い理由である。
「さてと……太陽が出て来たな。そろそろ移動するか」
彼は鳥であるゆえ、普通に行動していれば他人に見つかることはそうそう無いはずだ。
もしも見られたとしても首輪さえ見えなければ、野性の動物と勘違いされる可能性も高い。
とはいえ問題もある。デイパックの存在だ。
コレは何故かは分からないが重さを感じないため、持って移動することに支障は無い。
だがぶら下げたまま飛行していれば、どんな馬鹿であろうと自分が参加者であることに気付いてしまう。コレは厄介だ。
ならばどこかに網を張るのが良い。
縁日で売られていた彼としては巣を作った経験も無いのだが。
それでも自分にとって有利に行動出来る場所にベースを作るべきだ。
加えてまともに使える武器が必要である。手榴弾などの投擲出来る爆薬が手に入れば最高だ。
「祈……我輩は必ず生きてお前の元に帰るぞ。そのためならば何をしてもいい」
一匹の鳥が主のため、鬼になった瞬間だった。
【A-5 森/1日目 早朝】
【土永さん@つよきす-Mighty Heart-】
【装備:スペツナズナイフ】
【所持品:支給品一式、祈の棒キャンディー@つよきす-Mighty Heart- 多機能ボイスレコーダー(ラジオ付き) 】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本:最後まで生き残り、祈の元へ帰る
1:自分でも扱える優秀な武器が欲しい
2:どこか一箇所留まったままマーダー的活動が出来る場所を探す
3:基本的に銃器を持った相手には近づかない
|063:[[オンリーワン]]|投下順に読む|065:[[紛れ込む悪意二つ]]|
|063:[[オンリーワン]]|時系列順に読む|065:[[紛れ込む悪意二つ]]|
|018:[[その少女、危険につき]]|大空寺あゆ|077:[[赤坂衛の受難]]|
|018:[[その少女、危険につき]]|相沢祐一|074:[[It’s a painfull life]]|
|021:[[羽の交錯]]|土永さん|:084[[私にその手を汚せというのか]]|
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