収奪と白兵


貫く。敵の包囲網を。貫く。敵の甲冑を。貫く。己の生き様を。

たまたま休暇で訪れた中部インド洋、ディエゴガルシア島。
そこからそう遠くないコチンとセイロンの中間点で、彼女は戦っていた。いつものように。



「やっぱインドのジベは楽だわ~」

久方ぶりの再会の挨拶と共に申し入れた取材許可を快諾の後に、
インド洋の島に現れた彼女はスキピオの兜を脱ぎながら開口一番言った。
取材の前に数戦こなしてきたらしい。けらけらと笑う彼女はかつての姿より輝いて見える。
船を見ると、寡黙な髭面と爽やかな金髪の、道化服を着た副官ペアが収奪品であろうマスケット銃を整理していた。


私が知っているディアナ・アデールはもっとこう、陰の見え隠れする女性だった。
その頃の彼女はバルト海で黙々と海賊狩りをしていた。ただ強くなるために。奪うために。


その頃の彼女も魅力的ではあった。だが、1年前にセビリアのイベントで
顔を真っ赤にしながらも入ったばかりの商会の宣伝をしていた姿を見かけた時は
「いい仲間に巡り逢ったのだろうな」と思わせるには十分すぎるほどの笑顔をしていた。



私は戦闘は不得手なので詳しくは知らないが、白兵海事というのは成長が遅いのだという。
彼女も、同期の杯を交わしたかつての仲間がどんどん成長していくのを見て、
歯がゆい思いを幾度となくしているはずだ。

「まぁね。でもそういう生き方を選んだんだからしょうがないでしょ」

もうちょっとしたら砲術のリハビリも考えてるけどね、と付け足した彼女は、
今では大砲を撃つどころか、つけることさえしていないという。
そんな状態で戦場に出て怖くないのだろうか?

「私の白兵をカタナだとしたら、私の砲術はワキザシにも満たない彫刻刀みたいなものよ。
 カタナが通じなかったらさっさと逃げるわ」


……戦場に出る覚悟とはこういうものなのか?
相手から撃たれても撃ち返せない、ともすれば嬲り殺しのような状況にもなりかねない。
私は専ら逃げる側なのでよくわからないどころか、根本的なところが違っている。

「……撃ち返せるから沈まないってことはないでしょ?
 撃ち返せなくてもね、板ちゃんとつけててクリティカル貰わなければ沈まないんだから」

理解できないという気持ちが顔に出ていたのだろうか、幾分ふくれながら彼女はそう主張した。
戦闘を経ても乱れのない自慢の赤毛は時折陽に輝いて私の目を惹いたが、やはり私とは根本的なところが違う。


「ま、他人(ヒト)からみたら道楽とか酔狂のレベルだし、他人(ヒト)にオススメもしないけどね」

……理解するのは諦めてもらえたようだ。



彼女はジェノスクでさえ白兵メインで参加し、商会員の勅命援護の際はやはり大砲をつけなかったらしい。
艦隊参加で大砲を持たないというのはさすがにどうかと思うが、
それが通じるからこそ、彼女は今の商会で笑っていられるのだろう。

そうまでして白兵に、収奪に拘る理由はなんなのか。
この質問をした時、取材中ただ一度、かつての陰がちらりと垣間見えた。

「強くなって……取り戻したいから、かな。取り戻せるわけはないんだけどね」

ぺろっと出した舌を、私は「これ以上はダメ」のサインだと判断し、それ以上言及しなかった。
いつか、彼女自身が納得できる強さを手に入れた時、もしかしたら教えてくれる可能性に期待しながら。



「……あ!」

取材の終わりに、彼女は急に叫び、少しばつの悪そうな笑顔で言った。

「バルタザールの救助……ずっと放置しっぱなしだったわ」

(匿名記者)

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最終更新:2010年05月24日 21:43
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