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「退屈だなー」
空は青いのになぜ僕は暇なんだろう。高校2年の夏、放課後に何をするでもなしに残る僕。教室の机につっぷしながら、ぼんやりとする。
「あー、退屈だー」
今度は隣にいる奴に僕の気持ちよ届けとばかりに言ってみる。隣にいる『奴』などと言ってしまったけど、奴というのは少々失礼かも知れない。なにせ彼、いや彼女は世の男どもが泣いてうらやむ僕の幼なじみ様なのだから。彼女の名は市川真野香、成績優秀でもなければ、学年のアイドルでもない平々凡々、普通の女子高生だ。彼女は僕の言葉を無視するかのようにファッション誌を眺めている。
「まのかぁ、ちょっと話しようぜ。お前も暇なんだろ」
僕は真野香のかわいくもない顔を見ながら遂に話しかけた。真野香は僕に見向きもせずに
「べつにー」
などと気のない返事を返した。真野香とは何となくいつもつるんでいるけど、最近は昔みたいに相手してくれなくなってきたなあ。僕は窓の外に目を移す。青い空と白い雲が見える。おっ、あの雲はソフトクリームに見えるぞ。おっ、おっ、今度は犬になった。すごい勢いで形が変わっていくぞ。はは、お次は校長の顔ってか。物音がすぐ隣で聞こえた。振り向くと真野香が机を叩いて、僕を軽くにらみつけていた。彼女は興奮からかほっぺたをほのかに朱くしている。
「ねえ、話するならあんたが先になんか話してよ」
なんだ、ちっとも乗り気じゃない風だったのに実は話す気満々じゃないか。そう思うと、僕も少し気持ちが乗ってきた。
「じゃあさ、その雑誌みながら話ししようぜ」
僕は真野香の机と自分の机をくっつけると、雑誌をその真ん中辺りまで引っ張った。ぺらぺらと紙をめくると、僕はある項目を探した。しかし、見つからない。
「まのかぁ、ブラとかパンツのページってどこ?」
僕は単刀直入に聞いた。いよっ!男らしいね、僕。化粧っけのない真野香がじと目で僕を見ている。僕も彼女を見つめ返す。彼女の真っ黒な瞳に僕の上半身が映る。なんだかこれって、恋人同士みたいだね。なんて心の中で思ってみたり、
「なんだかこれって、恋人同士みたいだね」
と声にだしていって言ってみたりした。おや?彼女の顔が、彼女の顔が引きつっている。顔が引きつっているよ、ママン。真野香はすっと立ち上がると
「ちょっとあんたも立って」
と何食わぬ風を装いながら、命令してきた。僕は、彼女が何をしようとしていたのか分かっていたけど、これに逆らうと後々根にもたれるからな、しかたなく立ち上がった。待ってましたとばかりに唇を噛む真野香さん。せーの!というかけ声が聞こえそうなほど大振りのモーションで
「サイッテェッ!」
と一声バチンと全力の平手打ち。彼女は雑誌を手早く鞄に詰め込むと後の事は知らないとばかりにさっさと教室を出て行った。一見彼女はとても怒っているようだ。だけど、僕は見ていたのさ、彼女が教室を出て行くときにほくそ笑んでいた様を。僕は彼女の子供じみた気持ちが手に取るように分かったとき、頬の痛みが気にならないくらいとても愉快になった。