毎度毎度の小うるさい口喧嘩が葛城宅の玄関先から聞こえてきました。が、何やら今回は
様子が違うようです。ちょっと小耳を立てて見ることにしましょう・・・
「そんな湿気た顔すんじゃないわよ、ミサト!」
「ふん!五月蝿いのが居なくなってようやく清々するわよ!」
「ほら二人とも喧嘩しないで じゃあミサトさん御元気で」
「まぁ、気が向いたら遊びに来てあげなくもないわ」
「あはは!期待しないで待ってるわよ!」
どうやら先日、籍を入れたばかりのシンジ君とアスカさんが引越しをするようです。
しかし、会話を聞いた限りは別れ際だというのに感慨も何もあったものではありません。
困ったものです。
しかし、家の中に入ると、ひとり残されたミサトさんはそうもいかなかったようです。
「1人で居ると寂しいもんね、此処も・・・」とポツリと本音を漏らしてしまいました。
たまたま近くにいたペンペンが不思議そうに「クェ?」と小首を傾げます。
「そうね1人きりじゃ無かったわね」
そういうとペンペンを抱き上げ、今は誰もいないアスカさんの部屋に行って見ました。
当然、引越しの荷物は先に送ってあるので何も残ってはいないはずなのに・・・
「ん・・・ 手紙?」
しかし、まるで隠れんぼをしている子供のように部屋の片隅にある小さな便箋を見つけ
ました。そして、ミサトさんはその差出人も受取人の名前も書いてない便箋を開けて
みました。手紙にはこう書かれていました。
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親愛なるミサトへ
別れを口で言うのは恥ずかしすぎて、絶対に喧嘩別れみたいになっちゃうと思うので、
予めこうして手紙に残しました。すぐに見つかったかな?
色々書きたい事はあるけど、やっぱり恥ずかしくて長くは書けないとは思うけど、どうし
ても一言、ありがとうってミサトに伝えたかったから・・・
最初はドイツ時代のアタシを想って同情したか、ミサトの寂しさを紛らわすために同居さ
せたか分からないけど、アタシにとってここは間違いなくアタシの家だったわ。ミサトが
居てシンジが居てペンペンも居て、何気ない一日でも何か満たされるものがここには
あった。
使徒との戦いの中で一旦は壊れちゃったけど、またみんな戻って来れてとても嬉しかった
わ。あれから数年経ってシンジの大学進学が決まって、まぁ済崩し的に籍を入れて此処を
出て新しい家に行くけど、間違いなくアタシ達は家族よ。どんなに離れてもね。
ま、優柔不断なバカを見張んなきゃいけないからシンジと一緒に付いて行くけど暇を
見つけたら必ず遊びに帰るからね。楽しみにしときなさいよ!
碇 アスカ
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手紙を読み終えるとミサトさんは壁に寄りかかり、ずるずると座り込んでしまいした。
そして膝の上にいるペンペンの頭の上にぽたぽたと涙が落ちて来るのでした。それを見た
ペンペンは「クゥゥ・・・」とミサトさんを見て、訴えかけました。
そうするとミサトさんは
「大丈夫よ、ペンペン。 悲しくて泣いてるんじゃないから」
と答え、そのままペンペンをギュッと抱き締めて肩を震わせるのでした。
暫らくするとペンペンは何か思い出した様にミサトさんの膝の上から飛び降り何処かへ
行くと、何かを銜えて戻って来ました。
「クワ!」と言うとそれをミサトさんに渡しました。
そこには丁寧に宛名が書かれた手紙がありました。
「これは・・・シンジ君の手紙」
「・・・もう」
ミサトさんは今にも泣きたくなるのをグッと堪えて手紙を読んで見ることにしました。
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葛城 ミサト様へ
ミサトさんが1人っきりになると色々と心配なので書置きしておきます。
1.ちゃんとペンペンにご飯をあげて下さい。
2.少しでも良いから毎日掃除して下さい。
3.朝っぱらからビールを飲まないで下さい。
4.自分でもご飯が作れるようになって下さい。
以下略
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以上の事をちゃんと守ってください。忘れないようにこれを目に付くように冷蔵庫か
トイレに貼り付けて下さい。
追伸
冷蔵庫に三日分位の食事を用意しましたので温めて食べて下さい。カレーもありますが
くれぐれもインスタント麺にかけて食べないようにして下さい。
碇 シンジ
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「・・・・・・・・・」
てっきり、アスカさんの様な手紙を期待していただけに唖然としてしまいました。
どうやらアスカさんの手紙とは違ってシンジ君の家庭的な面が全面に出た手紙だった様
です。でも家庭的すぎてミサトさんの涙を止めるには持って来いだったみたいです。
こうしてこの二枚の手紙はミサトさんの宝物として大切に、大切に引き出しの奥に
保管されることになりましたとさ。