今日はミサトが遊びに来た。ミサトのくせに生意気にも子連れだ。ズボラ女に家事も育児も務まるわけがない。加地さんは家事もこなすのかしら。ミライは、ミサトの娘のアリサちゃんと二人で大はしゃぎ。はしゃぎ疲れて二人ともソファーで寝てしまった。風邪を引かれると面倒なので、二人に毛布を掛けてやった。「うるさいのがやっと静かになったわね。お茶入れるわ」「ありがとう……でもアスカ、ちゃんとお母さんしてんのね。意外だなー」「…それをミサトが言うわけ?」「アハハそれは言わないでよ。最近はアリサに『ママ、ちゃんとお片付けしなさい』って怒られるんだから」「アリサちゃんは加地さん似なのかしら」「かもねーアハハ。…でも正直な話、あの頃の貴女を見ていたら、とても家庭に収まるタイプには思えなかった」「そう…ね。ぶっちゃけ自分でもそう思う。あの頃のままだったら結婚もしてなかったかも」
「それがなぜ変わったの?」「……結局は、あの戦いよ。昔は、自分は特別な人間になるんだって決めてた。そうなるのが当然だって思ってた。でも、あの戦いがあたしを変えたの。『選ばれし者』になるのなんか、もうたくさん。シンジと結婚して、あの子が生まれて、初めて自分で抱いた時に決めたの。もう自分のためだけに生きるのはやめよう。この子と彼のために生きてみようって。それがあたしなりのエヴァとの決着の付け方。ねぇ信じられる?セカンドチルドレンは専業主婦で、サードはしがないサラリーマンよ?笑っちゃうよねぇ」「でも幸せでしょ?」「うん。…結局、全ての人には、それぞれ相応しい場所があるの。あたし達には主婦やサラリーマンがそうで、エヴァのパイロットの座はそうじゃなかった。でも、世界を救う英雄が務まっても、主婦やサラリーマンが務まらない
人もいるはず。あたしは、シンジには英雄にも神話にもなって欲しくない。真面目が取り柄のサラリーマンで、家では子煩悩なパパでいてくれれば、後は何も望まない」「なるほどねぇ。シンちゃんはどうなのかな」「さあ。彼とはあの後、そのことについて一度も話したことがないの。だってほら、分かるでしょ?あの話題は地雷原だから。お互い、相手の地雷を踏みたくないし、自分のも踏まれたくないから」「…正直言うと私、あなた達が結婚するとは思わなかった。あの戦いの後、二人とも傷付いて、落ち込み方が酷かったものね…おしゃべりな貴女が無口になって、三人でいても気まずくて。だけど、少しずつ立ち直るにつれて、あなた達の仲が深まっていくのがわかった。それが不思議」「うーん…結局、わかってくれるのは彼しかいなかったから。高すぎる代償を払わされる辛さとか。それに、あたしには意地があった。いまさら逃げ出すのは許さない、コイツはあたしのものにするってね。でも、あたしなりに
努力もしたのよ?あたしは彼の『普通の彼女』になろうと決めたの。気付いてた?あの後あたしは、彼を呼ぶとき…」「『バカシンジ』と言わなくなった」「そう。とにかく、そういう小さなことから変えていこうと思った」「思い出すわ、貴女のお弁当。彼と自分の二人分のお弁当をこれから毎日作るなんて言い出して。シンちゃんは震え上がってたよね。どんな恐ろしいことになるかって」「しっつれーよねーアイツ」「で、『アスカ無理だよ、僕が作るよ』なんて言うから私、彼を物陰に引っ張って行って、こう言ったのよ。アスカに作らせなさい。そしてあなたは、それを毎日残さずに全部食べなさい。それがあなたの義務よって」「えー何それ!聞いてない!」「そしたらシンちゃん涙目になっちゃって、しょんぼり引き下がったわ」「ひっどーい!」「…でも今思うと、その頃には彼は貴女に好意を持っていたんじゃない?嫌いな女の弁当を無理して食べるわけないもの」
ないもの」「うぐぐぐぐどうしてくれようアホシンジ」「ありゃ?マズイかな?」「人があ・ん・な・に一生懸命作ってた弁当を、涙目で無理して食べてた…?」「よしなさいよ昔のことで怒るのは…」「うぐぐ」「ママー」「あらアリサ起きたの?じゃあそろそろ失礼しましょう。また来るわ、アスカ」「ぐぐぐ」
一方その頃、休日出勤が早目に終わったので、妻子へのお土産にケーキを買い、家に帰る足取りも軽いマイホームパパ碇シンジさん(29)の姿が。碇さんの運命やいかに!
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