書いたひと:249お題【復讐者】
「くくくっ・・・ 永かった、本当に長かったわ・・・ついに待ちわびた、この日が来たわ」闇の中、心のどす黒い炎を燃え上がらせて呟く者が一人。そのギラギラと輝かせるその眼には復讐の二文字が浮かび上がっていた。
「直接見る事が出来ないのが残念だけど、私が味わった屈辱、存分に思い知るがいいわ」
~ 某年 12月 4日 碇家 ~
ここに、幸せを絵に描いたような家庭像があった。「ママ、お誕生日おめでとう!」「おめでとう! アスカ!」「ありがとう!」
今日という日は、先程アスカと呼ばれた女性の誕生日である。最愛の人である夫、シンジと彼との愛の結晶である一人娘に囲まれ正に幸せ絶頂にあった。このあと彼女が不幸のどん底に突き落とされようとは誰が思ったであろうか。
「これね、パパと一緒に作ったの!」
食卓の中央に運ばれた手作りケーキを目の前にして眩しいまでの笑顔で娘は自慢げに言った。その娘に対してアスカは「流石、アタシの娘ね!」と返し、それに対してシンジは思わず突っ込みたくなった、が、必死の思いで飲み込んだ。何故かアスカに横目で睨まれた気がするが何かの間違いだろうか?
「ねぇ、ママ・・・」娘はおずおずとアスカに上目づかいで問いかけてきた。
「なに?」「ケーキ食べる前にママにおうた、歌ってもいい?」「OK、OK! その代りしっかり歌うのよ!」まだ小さい娘の頼みを当然断る理由もなく一言目で承諾するが、中途半端ということを嫌うアスカは自分の娘に対しても常に全力で取り組むことを望んだ。
そう言われるとよいしょと椅子のステージに立って小さく咳ばらいをすると娘は歌い始めた。
「ハッピ~バ~スデ~、マ~マ ハッピ~バ~スデ~、マ~マ」一生懸命に歌う幼い娘を目にして二人の顔が崩れる。
「ハッピ~バ~スデ~・・・」ここで一呼吸おいて驚愕の一言が言い放たれることになる。
「さ~んじゅうぅ~」
空気が一瞬の内に凍てつく。
しかし、それで終わりではなかった。空気をまだ読む事ができない娘は母親に向けて歌い続ける。
「ハッピ~バ~スデ~、ディア・・・」
「みそじぃ~」
「「・・・・・・・・・」」空気が完全に死んだ。
「へた・・・だった?」歌い終わった後、固まったままの両親を見て、娘は泣き出しそうになった。
「そ・・・ そんな事ないよ」「そうそう、とっても上手だったわよ」両親は揃って必死にそんなフォローを入れる。「えへへ!」そうのように上手と言われ天使の笑顔を浮かべる娘。
「ところで、何でその歌なのかなぁ」と引きつった笑顔で問う父、シンジ。「教えてもらったの!」「誰に?」「ミサトおねぇちゃん!」 先ほど褒められたのが嬉しかったのだろう自信満々に答える娘。その名に十分覚えのあるアスカは口から今にも出そうである怒りをぐっと堪えて胸の奥底で絶叫していた。
(ミ、ミサトの奴~~!!!)
アスカはミサトに対して殺意にも似た感情を膨らませていったが、シンジは別のことを考えていた。
あぁ、ミサトさん。仕返しがしたかったんだ。そういえば昔ミサトさんが30歳になった時にアスカが三十路、三十路と連呼して誕生日を祝ったのを、ず~っと恨んでたんだな。しかし、怒るに怒れないヒトの娘を使うとは、えげつない方法で仕返ししてくるなぁ使徒戦役の時もこれ位の綿密な作戦立ててくれたなら良かったのに・・・
と、シンジはシンジでのほほんと考えながら作ったケーキをみんなに切り分けていた。
嬉しそうにケーキを頬張る娘を見て笑みを顔に付けているものの折角の誕生日を無邪気な娘の手によって台無しにされ、その計画を立てた、この場にはいないミサトに対してアスカは心も奥底で呪詛の念を叫び続けていた。
(コ・ノ・ウ・ラ・ミ・ハ・ラ・サ・デ・オ・ク・ベ・キ・カ!)
この数日後のミサトの誕生日から、彼女達が年齢を重ねるごとに、このような嫌がらせが続いた。
「この流れどうにかして下さいよ」「ああなっちまったら止めようがない・・・」そして、とっくの昔に尻に敷かれた夫達はこの武力の応酬の連鎖に介入することはなかったという。
おしまい
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