パイロットだったのが予備役に変わっただけで、以前と然程変わらない毎日。少しだけネルフに篭る時間が減った分、普通の中学生としての時間が増えた。サードインパクトの影響なのか、セカンドインパクト以前の四季が戻りつつあるらしい。廻る季節を感じながら、思い出を積み重ねる事が純粋に楽しく思える。何気ない会話がこんなに大切に感じるなんて思いもしなかった。偶に喧嘩もするけれど、それすらスパイスみたいな物かも知れない。愛情を育む事がどういう事か理解出来た気がする。ただ求めるだけじゃなくて、与える事も必要なんだって事が。サードインパクト直後の二人で過ごしたあの日々は、思えば一方的に求めるだけ。それ以前も見返りを得る為じゃないけれど、ただ周囲に愛情を求めただけで与える事は無かった。気付かなかったからこそ、アタシ達は狂った様に肌を合わせ、快楽に溺れ、傷を抉る事になったのだと思う。今とは正反対。無理に肌を合わせなくても、解り合えるって気付いたから。ままごとみたいな生活かも知れないけど、シンジと一緒に暮らす日々を愛しく思えるアタシは幸せ。
アタシはドイツで体験していたけど、シンジにとっては初めての冬。まだ完全に季節が戻った訳じゃなかったから、少し肌寒いだけの冬。アタシの誕生日はネルフの喫茶室で一緒にケーキセットを食べた。ショートケーキじゃなくてミルクレープしかメニューに無かったのは残念。「おめでとう、アスカ」って飾り気も何も無かったけど、シンジからのその言葉が一番のプレゼント。それだけでも嬉しい。クリスマスも雪は降らなかった。まだ完全に落ち着いた訳じゃなかったから、特に何かする事も無く普段と変わらない日。その頃再開した学校もまだ生徒が少なくて、見知った顔も疎ら。付き合いがあった中で一番最初に再会出来たのは相田だった。以前、シンジとの間に何があったのかは知らない。けど、溝があったのは知ってる。その溝を埋められるかどうか心配だったけど、取り越し苦労で済んだみたい。再会後にどういう話をしたのか、アタシは聞かなかった。それでもお互いぎこちない笑みで握手をしていたから、大丈夫だったんじゃないかな。男と男の友情なんて解らないけど、多分一つの区切りが付いたんだと思う。でも、アタシに向かって相田が言っていた事の意味は何だったんだろう?「良かったな、惣流」って何が良かったのかしら?深くは考えない事にした。
年も明けた頃、戻って来たのが確認されたのはミサトだった。ケージ直通の廃棄予定地区で倒れていたのを、巡回調査中の職員によって発見されたそうだ。アタシはちょっと複雑。使徒との戦いの最後の方は、アタシ達の共同生活は破綻していたから。シンジとの間に何かがあった事もアタシは何となく気付いてる。でも、あの頃は誰もが何処かで狂っていたと思うしか出来ないから、アタシは何も言えなかった。意識を失くしてICUに入っている彼女の意識は、まだあのLCLの中から戻って来ていないのかも知れない。見舞いを終えて病院から部屋に戻った後、塞ぎこんだシンジは部屋に閉じ篭ってしまった。アタシには何も出来ない。これはシンジとミサトの間の問題だから。苦しい時は何時だってアタシが聞いてあげるから、話せる時が来たら話して欲しい。そんな事を思いながら食事の用意をする。病院から戻る時の様子を聞いたリツコや、青葉さんが心配して電話をくれた。夜遅くには司令からも電話があった。何だかんだ言って、やっぱり司令も父親してると思う。本当にどうでも良ければ心配して電話なんか掛けて来ない筈だもの。アタシだけじゃない、他にもこんなに心配してくれる人が居るのよ?アタシの作ったご飯じゃ余り美味しくないかも知れないけど一緒に食べようよ、シンジ?
もうすぐバレンタインデー。多分、アタシの人生で初めての出来事。本当に好きな人にチョコレートを贈る事。加持さんに向けられていた気持ちは、子供の頃パパに甘える事が出来なかった分の裏返し。愛情と言うよりは憧れや、パパの面影を求めていたのだと、今なら理解出来る。手作りチョコを渡したくても、アタシの今の料理の腕じゃお菓子作りはとてもじゃないけど無理。相談するにも相手が居ない。ヒカリの消息もまだ分からないし、リツコは仕事が忙しいのもあるけど主婦って柄じゃない。渋々市販品のチョコにする事にした。その代わり、チェロのCDをリツコに頼んで手配して貰った。シンジにはチョコとCD。一応チョコは将来義理のパパになるかも知れない司令と、仕事の合間を縫ってはアタシ達を気に掛けてくれる青葉さんの分。後、おまけで相田の分も用意した。学校での他の女子への牽制のサポートのお礼の予定。アタシ達が二人だけで一緒に暮らしていて、付き合ってるのが判っていても、ちらほらとアプローチを仕掛ける人が居る。去年はお互いの気持ちが判っていなかったけど、今年からは違うもの。シンジの一番大切な人はアタシなんだって、解らせてあげなきゃ。絶対他の女子なんか一掃してやるんだからねっ!
春。ホントは卒業して高校に進学する筈だった。でも今年はサードインパクトの影響でもう1年、特別措置で日本は全学生が留年する事に。欧米みたいに9月が新学期なら良かったんだけど。これだけ世界中が混乱してる状態じゃ無理も無いかも。だからアタシ達はもう一度中学3年生。新しい制服になるかと思っていただけにちょっぴり残念。でも、その分嬉しい事があった。ヒカリと鈴原に再会する事が出来たから。また一緒のクラスで学生生活を送る事が出来る。3バカトリオの再結成?それはやっぱりまだ早いかな…。でも参号機の事故以来、シンジと鈴原は顔を合わせて居ない筈。気になったけど、アタシが口出しする事も出来ない。ヒカリにしても、シンジに対しては少し複雑だと思う。だって、ヒカリの好きな人は鈴原だもの。ただ見守る事しか出来ないのが歯痒い。ヒカリが足を引き摺る鈴原の介添えをしていたのを見て、怪我の具合がどうなったのか聞いていないのを思い出した。後でヒカリに聞いてみよう。アタシ達に手伝える事もあるかも知れない。あの時アタシはやられちゃったけど、一歩間違えばアタシがシンジの立場だっただろうし。ごめんね、ヒカリ。ごめんね、鈴原。シンジの事が好きだから、シンジの事を理解して欲しいって思ってる訳じゃないの。シンジにとってもアタシにとっても、二人は数少ない友達だと言える人だから。だからこれ以上友達は失くしたくないの……。今はぎくしゃくしてるかも知れないけど、少しずつ解り合えるよね?以前みたいにバカな話をして、笑いあえる友達にまたなれるよね?レイ、なんでアンタが一緒じゃないのよ……思い出しちゃったじゃないの、バカ!
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