『傷を舐めあって、ずっと生きていけるわけじゃないのよ』
結婚する前に、ミサトさんにそう言われた。僕とアスカの関係について、あまりよい印象を抱いていないようだった。でも、そんなのはどうでもいいことだ。 お互いがお互いを必要としているのなら。縋りついてしか生きていることができないなら、縋りあうしかないから、僕らは
「ぐえっ」
突然アスカの腕の力が強くなって、僕の思考は中断された。 ……これもいつものことだ。僕はアスカを起こさないようにそっと腕の位置をずらすと、苦しげな表情を浮かべるアスカの髪をそっと撫で、耳元で「大丈夫」と囁く。そうしているうちに、徐々にアスカの寝顔は穏やかになっていった。いつものように。 これでいつもの僕の仕事は終わり。最近は寝入りばなに一度うなされるだけ、くらいになってきた。その変化が僕と暮らしていることによるものだとしたら。僕なんかでも必要としてくれる人がいるということだ。そしてそれがアスカだというのが、何より僕にとって大事なことだ。だから、僕はこの生活を止める気は無い。たとえそれがミサトさんや、他の誰に止められようとも。
ふと思い立った。アスカに向き直り、頭を胸の辺りに抱え込む。正面から抱き合うような姿勢になり、僕は目を閉じた。 しばらくして。
「ねえシンジ」「なに?」「確かに暑苦しいわね」「そう? 離れようか」「……いや、いい」「そう」
「シンジ」「ん?」「おやすみ」「……ん、おやすみ」
アスカは今日も苦しそうだ。僕とアスカしか居ないこの世界では、微生物も細菌も存在しないようだ。あと、レイの顔もあったっけ。……半分崩れてずれているけど。
徐々に治りつつあるかもしれないのは、白血球の働きくらいはあるのだろうか?いつまでも汚れない包帯をめくりながら、アスカの顔色を見る。
傷痕は良くなっているようだ。元通りにはどうやら戻りそうもないけど。
意識がはっきりしたら、アスカはどう思うんだろうか。それともこのままのまま僕と二人だけの世界を意識することもなく拒み続けるのだろうか。
アスカが起きたら、いや、アスカが起きた時、うなされるアスカ以上にアスカを。
今のアスカはどうとでも出来る。アスカをこれ以上苦しめることも、もしかしたら喜ばせることも。目覚めたアスカは? いや、今はそうじゃない。目覚めるかどうかもわからないことを考えても仕方がない。もし叶うなら、アスカと二人でこの世界の先を見開いて行きたいんだ。
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