世界

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「ねぇ…シンジ。」 私の髪を潮風が凪いでいく。夕焼けが妙にまぶしい。海に沈む夕日は紅く水平線の向こうに沈み始めていた。 私の顔は夕日に照らされ赤く、そして… 「ねぇ…シンジ。」 私はもう一度呟く。愛しい人の名を…かけがえのないシンジの顔を思い浮かべながら。 少し肌寒くなってきた。暑くはなってきたがやはり夜が近づくと半袖では寒い位だ。私は両手で肩を抱き身体を小さく丸め込む。この寒さは果たして宵闇のせいか… それとも… 「ねぇ……シンジ。」 これで何度目か。私の唇から紡がれる言葉をもう日も落ち、暗くなった海から吹く風が言葉を破壊していく。 寒い… そんな感情を心に浮かべ、上を見上げた。空を覆い尽くす星々…都会では観ることの出来ない景色。しかし、私の心には何の感情も浮かびはしない。 色褪せた世界… もうこの世界に価値はない… 「ねぇ………シンジ…」 彼と見れば美しいと想えただろう。肌寒さなど感じなかっただろう。 でも… 彼は…シンジはもう居ない… シンジの居ない世界などに生きてる価値など… 私はそっと、立ち上がり歩き出す… 海に向かって… 「シンジ…今そっちに行くね」 私の足に波が触れる。一歩、また一歩。この先にはシンジがいる。私の歩みは止まらない。もう何も考えたくない。 早く…シンジの元へ… ―その瞬間 「アスカッ!」 嘘よ…聴こえるはずない。あの人は…シンジは。 波が私の腰にぶつかる。もうすぐでシンジに逢える… でも、私は立ち止まり後ろを振り向いた。 誰も居ない浜辺。漆黒の闇に砂浜だけが白く私の瞳に映る。 「まだ駄目なの?…シンジに逢いに行ったら駄目なの…」 何も無い砂浜に一瞬、微かな煌めきが… 私は急いで光の元に向かう。水に濡れた服がまとわりつくのも気にせず。ただ光の元へ…真っ直ぐに。 煌めきの正体は私の指輪だった。大事な結婚指輪…いつの間に外れたの?片時も外すことのなかった身体の一部ともいうべき私達の愛の形。 始めて気付いた… 「愛するアスカへ」 リングの内側の文字。私は指輪を握り締め泣き叫んだ。もう涙など枯れたと思ってたのに…… 【終り】

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