鉄道 (平井喜久松,岩波書店,1936年 第1刷,1949年 第7刷) > 第四編 線路選定

鉄道』は平井喜久松さんの著書で,岩波書店から1936年(昭和11年)に第1刷が,1949年(昭和24年)に第7刷が発行されました。
このページには「第四編 線路選定」を収録。

目次


第四編 線路選定 (p. 250)

第一章 緒言 (p. 250)

鉄道は公益事業であって時には軍事拓殖等の国家的見地から,全然損益から離れて敷設する場合もあるが,常にこれ建設費および営業費をできるだけ少額ならしめ,その線路より受ける鉄道自体ならびに社会一般の利益をできるだけ大ならしめるよう心掛ける事が必要である。
線路選定とは建設すべき線路の建設費を如何(いか)にして少額ならしめるか,または如何なる線路が建設後において同一運輸数量を輸送するに少額の運転費でなし得るかを考究する事である。
しかしながら建設費を軽減せんとすれば勾配および曲線は強くなり,運転費を軽減せんとすれば勾配および曲線を緩ならしめねばならない。即ちこれ等両者は両立しないのが常であって,如何なる程度の勾配および曲線を持った線路を選ぶ事が経済的であるかを研究する事が線路選定の目的である*1

第二章 線路選定測量 (p. 250)

線路の選定をなす場合の測量は通例次の3段に分けて施行する*2
  1. 踏査(reconnaisance)
  2. 予測(preliminary survey)
  3. 実測(final survey)

§1. 踏査 (p. 251)

踏査は線路を建設すべき地方を広い範囲に渡り跋渉(ばっしょう)*3し,地勢,交通状態を視察し,鉄道建設の可能性があると思わるる総ての線路の概略即ち延長,勾配,曲線,工事の難易等を測定調査し,各場所の地形上または生産上の利害得失を比較研究して大体の経過地を選定する作業である。
この作業には大体次の如き事柄を心得ねばならない*4
  1. 信頼し得る地図(我国では参謀本部の地図,最近は飛行機による写真測量が発達してきた)によって大体の通過地,良好な架橋地点等を充分研究して現場にこれを携行する。
  2. 村落,都市の分布状態,人口,産業状態等運輸収入の基本となる事柄を調査する。
  3. 河川に対しては洪水位,氾濫区域,土砂流出状態,急流か堪水性*5か等を調査する。
  4. 隧道に対しては地質の良否。
  5. 河川はなるべく河心に直角に横断し得る地点を調査する。

§2. 予測 (p. 252)

踏査の結果により建設の可能性のある比較線を数本予定し,その中心線を定めて ようやく精確なる各種の測量を行うのである
今日普通行わるる予測の方法は踏査によって選ばれた予定線について地形測量を行い地形図を作成し,これによって図上線路選定(paper location)をなし,更にその図上選定によって得た比較的確定的な路線に沿って中心線測量を行い,各予定線の得失を明瞭ならしむるものである*6

地形測量(topographical survey)は普通平板またはトランシットによるスタヂア測量によって行うものである*7

図上選定は地形図に基き,地形に適応した線路の方向,曲線半径または勾配等を図上にて計画するものであるから,この際線路の種別,目的,停車場の標準延長,曲線の最小半径および第三編において述べたる列車抵抗,制限勾配等の運転費ならびに運輸数量に影響する各項目を念頭に置き研究すべきである。
図上選定が終れば選定された線路に従って中心線測量を行う。この測量の精密度は実測により余り劣らないのである*8

§3. 実測 (p. 252)

予測によって選ばれた数個の路線を比較考究して最善のものを唯一本選定し,工事施行が決定すれば,ここに始めて実測が行われる。
実測は中心測量,高低測量,横断測量,平面測量の4つに分ち精確なる測量を行い,その他曲線の確定,河川の幅員,深浅等の調査,道路との横断関係等について更に精密な調査を行い,万遺漏*9なきを期すのである*10

第三章 建設費および営業費 (p. 253)

§1. 建設費 (p. 253)

建設費は用地,土工,橋梁,隧道,軌道,停車場,車輛,諸機械,電気設備等総て鉄道経営に必要な諸設備を造るに要する費用であって,その線路の運輸数量およびその構造規格が予定され,かつ測量の結果工事数量が得らるれば,これによって建設費の予算額を求め得る。工事の難易,土地の状況等によって費用に差異を生ずる事は勿論であるが,国有鉄道のような軌間1067mmの鉄道における標準を示せば大体第32表の如くである*11
第32表 1km当り建設費 (総係費および車輛費等は含まない)
平坦 (円) 丘陵部 (円) 山間渓谷部 (円) 険峻地形部 (円)
甲線 120,000 150,000 250,000 320,000
乙線 100,000 130,000 200,000 260,000
丙線 60,000 80,000 150,000 200,000
簡易線 55,000 75,000 135,000 180,000

精密な実行予算を造る場合には土工,構造物などの数量を算出し,これにその時の単価を乗じて算出するものである。なお既往*12における各線の建設費を挙ぐれば第33表の如くなる。
第33表 国有鉄道建設費平均1km当り費額

線名 区間 1km当り
平均建設費
線名 区間 1km当り
平均建設費
線名 区間 1km当り
平均建設費



自 明治26年
(1893年)
自 大正元年
(1912年)
自 昭和2年
(1927年)
至 明治45年
(1912年)
至 大正15年
(1926年)
至 昭和8年
(1933年)



東北 福島 - 青森 60,896 羽越 新発田 - 村上 57,019 越美南 板取口 - 白鳥 116,298
中央 八王子 - 名古屋 104,296 讃予 多度津 - 川ノ江 39,464 東紀勢 瀧原 - 三野沢 194,059
鹿児島 八代 - 鹿児島 102,415 房総 木更津 - 北条 76,213 西紀勢 藤並 - 南富田 134,070
山陰境 福知山 - 境 - 今市 88,781 舞鶴小浜 敦賀 - 新舞鶴 102,637 高山 白川口 - 小坂 141,365
山陰舞鶴 福知山 - 園部 - 舞鶴 94,770 讃予 川ノ江 - 西条 84,625 太多 美濃太田 - 多治見 68,821
篠ノ井 篠ノ井 - 塩尻 114,718 名寄 名寄 - 下湧別 73,402 名松 松阪 - 家城 68,913
北陸 敦賀 - 富山 48,123 留萌 留萌 - 増毛 156,086 信楽 貴生川 - 信楽 79,134
海田市 - 呉 106,347 房総 北条 - 松田 102,704 明知 大井 - 岩村 68,936
宇野 岡山 - 宇野 82,483 日豊 宮崎 - 佐伯 155,313 十日町 越後川口 - 十日町 715,505
日豊 宇佐 - 大分 61,287 山口山陰 浜田 - 山口 - 益田 - 萩 184,484 飛越 富山 - 坂上 160,006
参宮 山田 - 鳥羽 65,746 羽越 村上 - 秋田 145,184 会津 西若松 - 上三寄 42,954
今市 - 杵築 21,885 白備 154,567 会津 会津板下 - 会津柳津 67,640
平均 79,312 上越 長岡 - 高崎 142,038 輪島 和倉 - 穴水 83,553

高山 岐阜 - 高山 174,901 大糸 大町 - 森上 96,583
徳島 琴平 - 池田 - 山田 111,637 上越北 越後湯沢 - 茂倉岳 724,905
紀勢 和歌山 - 相可 156,021 今坂西 坂町 - 越後下関 63,790
房総 松田 - 勝浦 167,287 大船渡 摺沢 - 細浦 102,530
高知 山田 - 高知 - 須崎 126,122 花輪 赤坂田 - 花輪 74,336
讃予 西条 - 松山 185,768 山口 上米内 - 川井 220,934
長輪 長万部 - 輪西 151,514 仙山東 仙台 - 作並 89,692
久大 久留米 - 大分 57,500 久慈 八木 - 久慈 115,389
山田 盛岡 - 山田 170,861 釧網 別保 - 札鶴 44,612
熱海 真鶴 - 湯ヶ原 152,008 釧網 斜里 - 上札鶴 36,670
大郡 山分宿 - 上小川 417,781 石北 遠軽 - 上川 95,372
越美南 美濃町 - 板取口 128,101 羽幌 留萌 - 羽幌 90,740
上越南 沼田 - 後閑 100,674 長輪 静狩 - 伊達紋別 274,600
作備 美作追分 - 勝山 101,975 瀬棚 国縫 - 瀬棚 79,635
高知 須崎 - 高知 67,456 広尾 帯広 - 広尾 31,859
松山 今治 - 菊間 136,114 日高 苫小牧 - 日高三石 39,683
白備北 生山 - 足立 71,990 木古内 上磯 - 木古内 95,099
白備南 倉敷 - 木野山 252,360 札沼 石狩沼田 - 中徳富 47,780
峰山 舞鶴 - 宮津 131,989 標津 厚床 - 西別 32,549
峰山 丹波山田 - 峰山 149,132 雨龍 鷹泊 - 牛鞠内 59,233
高徳 高松 - 志度 91,673 安房 勝浦 - 安房鴨川 150,158
紀勢東 川添 - 瀧原 94,018 上越南 後閑 - 茂倉岳 706,326
紀勢西 箕島 - 藤並 183,272 水郡 笹川 - 川東 68,763
峰豊 峰山 - 綱野 124,373 水郡 常陸大子 - 棚倉 83,284
輪島 七尾 - 和倉 42,407 木原 大原 - 大多喜 95,099
高山 下麻生 - 上麻生 74,692 木原 木更津 - 久留里 39,176
豊肥 朝地 - 玉来 74,224 八高 小野 - 寄居 60,057
大川 川内 - 宮城 150,965 八高 八王子 - 飯能 108,523
長門 正明市 - 萩 58,305 八高 東飯能 - 小川 49,484
長門 小串 - 瀧部 130,160 松岸 佐原 - 松岸 47,646
石見益田 - 石見小浜 78,324 会津 上三寄 - 湯野上 230,736
萩 - 東萩 111,450 小海 小海 - 佐久海口 81,539
志布志 天吉 - 志布志 88,272 小海 小淵沢 - 清里 96,910
肥薩 日奈久 - 湯浦 191,038 東木原 大多喜 - 総元 73,727
肥薩 米津 - 水俣 103,139 松山 伊予北条 - 伊予松山 92,992
久大東 湯平 - 野矢 233,095 白備南 木野山 - 新見 164,502
正明市 於福 - 正明市 161,204 因美 津山 - 知頭 106,938
湯前 人吉 - 湯前 59,608 高徳 讃岐津田 - 引田 56,633
五能 五所川原 - 森田 117,224 作備 新見 - 中国勝山 109,316
五能 能代 - 岩舘 125,214 土讃北 讃岐財田 - 佃 538,472
横黒東 和賀仙人 - 大荒沢 720,016 土讃北 阿波池田 - 三縄 171,142
久慈 八戸 - 種市 68,615 八幡浜 松山 - 上灘 93,016
横黒西 川尻 - 大荒沢 199,217 三呉 三原 - 竹原 115,572
羽越北 亀田 - 岩谷 347,766 姫津 姫津 - 三明 62,997
羽越南 村上 - 鼠ヶ関 237,951 土讃南 角茂谷 - 杉 196,351
大船渡 一関 - 摺沢 136,045 戸田小浜 - 東萩 162,979
上越北 塩沢 - 湯沢 117,464 長門 瀧部 - 正明市 93,868
会津 若松 - 板下 72,190 岩徳 麻里布 - 岩国 125,040
花輪 平舘 - 赤坂田 94,008 岩徳 櫛ヶ浜 - 高水 135,258
今泉 米沢 - 今泉 80,810 肥薩 湯浦 - 水俣 159,735
天塩 稚内 - 幌延 62,432 高森 立野 - 高森 141,661
雨龍 深川 - 鷹泊 54,566 長原 長尾 - 原田 183,280
釧網 網走 - 斜里 78,438 久大東 野矢 - 天ヶ瀬 118,460
釧網 保利 - 標茶 56,160 久大西 久留米 - 日田 94,048
桐生 美幌 - 北見相生 48,488 豊肥 玉木 - 宮地 166,427
長輪 輪西 - 伊達紋別 142,663 有明 肥前山口 - 肥前浜 121,578
上士幌 帯広 - 士幌 47,935 長崎本 諫早 - 湯江 104,109
平均 133,463 国都西 西国分 - 大隅大原 133,978

伊佐 伊万里 - 志佐 89,881
国都東 西都城 - 大隅大川原 94,069
指宿 西鹿児島 - 五位野 72,844
佐賀 矢部川 - 大川 105,940
白備北 足立 - 新見 202,937
峰豊 豊岡 - 網野 129,386
若桜 郡家 - 若桜 68,511
三神 神代 - 東城 92,837
三神 備後庄原 - 西条 56,117
三江 石見江津 - 川越 183,452
木次 木次 - 三成 159,760
福塩 田幸 - 吉舎 79,445
五能 鯵ヶ沢 - 田ノ沢 79,456
五能 岩舘 - 岩崎 86,783
今坂東 今泉 - 沼沢 105,432
今坂西 越後下関 - 金丸 159,200
仙山西 羽前千歳 - 山寺 53,500
平均 118,136

平均



明治年間
(明治26〜45年)
(1893〜1912年)
79,312 大正年間
(大正元年〜15年)
(1912〜1926年)
133,463 昭和年間
(昭和2〜8)
(1927〜1933年)
118,136

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§2. 営業費 (p. 254)

営業費は総係費,保線費,保電費,運転費,修車費,運輸費等に大別されるが,大正8年以降の営業費を各費に分類してその費額および全体に対する百分率を示せば第262図および第34表の如くなる*13

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新設線において営業費を何程要するかと言う事を算出する事は至難である。鉄道省で試みて実験的公式を作ったが精確なる結果が求められないので,近来は統計に基き列車回数等の類似の線の実績を基礎として想定している。
次に営業費の比較をなっすに1列車km当りの営業費を単位に採ると都合の良い場合がある。国有鉄道の列車走行1km当り営業費を示せば第35表の如くである*14

第35表 国有鉄道列車走行キロ当り営業費 (円)
年度 昭和1 昭和2 昭和3 昭和4 昭和5 昭和6 昭和7 昭和8 平均

鉄道局
東京 1.74 1.66 1.63 1.53 1.42 1.26 1.20 1.17 1.45
名古屋 1.58 1.56 1.63 1.59 1.44 1.29 1.28 1.29 1.46
大阪 1.56 1.55 1.59 1.56 1.39 1.25 1.18 1.19 1.41
門司 1.53 1.57 1.60 1.57 1.44 1.32 1.28 1.29 1.45
仙台 1.50 1.53 1.57 1.54 1.40 1.26 1.21 1.23 1.41
札幌 2.03 1.99 2.07 2.02 1.94 1.77 1.73 1.72 1.91
平均 1.64 1.62 1.65 1.68 1.54 1.41 1.36 1.36 1.53

第四章 運輸数量 (p. 259)

§1. 総説 (p. 259)

鉄道敷設後の営業成績は客貨の運輸数量に左右されるものであるから,運輸数量の多寡は線路の勾配曲線等の制限を定むべき基礎となり,線路選定上第1に知らねばならない事柄である。しかし予定線路に対して的確なる運輸数量を想定する事は中々難事であって,各地方地方の交通状態ならびに経済状態によって著しく異なるものである。
乗客数は文化の程度によって差異はあるが,大体停車場の勢力範囲内の人口の密度に関係するものである。
貨物は旅客の場合と異なり人口に関係するものと全然無関係のものとがあるので,その算定は頗(すこぶ)る困難である*15

§2. 運輸数量調査方法 (p. 259)

我国有鉄道においては既成路線の統計を利用して運輸数量を算出している*16

1. 旅客 (p. 260)

旅客は人口に比例し停車場からの距離のn 乗に反比例するものと考えている。即ち次式によって算出する。
T = C1 x P / D n
*17*18
  • T:1箇年の乗車人員
  • P:停車場の勢力範囲における人口
  • D:停車場から都邑(とゆう)*19の中心に到る距離
  • C1n:地方的情勢によって定まる係数で,国有鉄道では毎年既設線路の統計によってこれを線路別に算出決定している。

2. 貨物 (p. 260)

各駅主要の貨物は特殊に算出するを要するので,これを除き普通貨物は人口に比例するものと考えて次式を用いている。
F1 = C2P ,F = C3P
*20
  • F1:重要貨物を除いた1箇年の到著*21数量(トン)
  • F2:重要貨物を除いた1箇年の発送数量(トン)
  • P:停車場勢力範囲内における人口
  • C2C3C1と同じ意味で定まる係数
ただし停車場の勢力範囲は旅客の場合と同一ではない*22

第五章 距離,曲線および勾配の経済的考察 (p. 260)

§1. 概説 (p. 260)

線路を選定する場合においては第1に輸送数量の最大なる地点を経過し,これが建設費は最小であり,かつこれを輸送するに最小の経費をもってなし得る線であらねばならぬ。しかしながら如何(いか)に輸送量が多くなるからといって,距離が如何に延びてもかまわず線路を蛇ののたくるように引回して各部落を通過せしめるが如き,または建設費を少なからしむるために急な勾配,急な曲線を用うるが如き,また運転費を節約せんとして前者とは反対に建設費の如何に関わらず勾配の緩和を図らんとするが如き何れも避けねばならなぬ事柄である*23

§2. 距離の経済的考察 (p. 261)

1. 距離と賃率との関係 (p. 261)

一般に客貨の運賃算出の基礎は距離によっているのであるが,営業費より言えば同一距離であっても曲線の大小多寡および勾配の緩急によって運転費は決して同一ではない。しかし此を考に入れて運賃を定める事は実際上不可能であるから,単に距離のみを運賃算出の尺度としているのである。鉄道の利益は一般公衆の利益と相俟(あいま)って進むべきものであるから,経済上の目的に副はない距離の増加は両者の損失となる事は明らかである*24

2. 距離の営業費におよぼす影響 (p. 261)

営業費の内には保線費の如く距離に比例して増減するもの,また運転費中の石炭費の如く約44%は距離に正比例するもの,あるいはまた運輸費の如く距離に関係なきものがある。大体距離の営業費に及ぼす影響は停車場の増設を必要としない範囲の短距離では約30%,停車場を必要とする距離においては約50%と見るのが至当であろう*25

§3. 曲線の経済的考察 (p. 262)

1. 曲線の障害 (p. 262)

曲線の障害として挙ぐべきものは次の如くである*26
  1. 衝突脱線等の危険。
  2. 動揺甚しく乗り心地悪し。
  3. 速度の制限を受け speed-up の大なる障害となる。
  4. 固定軸距に制限を与えるため機関車を使用できないから牽引力に制限を加える。
  5. 曲線抵抗のために余分の牽引力を必要とする。
  6. 軌道ならびに車輛の損傷大である。
  7. 保線従事員の数を増加する必要がある。

2. 曲線に起因する危険の経済的価値 (p. 262)

曲線部分は直線部分に比し事故の起こりやすい可能性を多分に有しているが,従来の実績によれば事故の原因が全然急曲線に基因するものであると断定し得るものは極めて稀である。従って経済上から事故防止のために曲線を緩和せねばならない場合は起こるとは考えられない*27

3. 曲線の運輸上に及ぼす影響 (p. 262)

曲線,特に急曲線の箇所では乗心地は悪いが,一方そのような箇所は海岸に沿う所または幽谷に沿う所であって,景色が良いから曲線のために旅客が減ずることはない。しかしながら急行列車を運転する区間の曲線は速度に制限を与えるから,この点より曲線はなるべく緩和する必要がある*28

4. 曲線の運転上に及ぼす影響 (p. 263)

曲線上においては曲線抵抗が加わるから曲線が勾配区間に存在する時,列車はその勾配以上に更に曲線抵抗に相当する勾配を加算した急勾配を運転するに等しい抵抗を受ける。
曲線が最急勾配または最急勾配に近い勾配中に存在する時にはこの曲線抵抗が加わったために,その区間の牽引定数が制限を受け,制限勾配第3編第1章§4参照)を形造ることがある*29

5. 曲線の営業費に及ぼす影響 (p. 263)

一般に曲線抵抗は曲線半径の小なるほど大となり運転費は増大する。その他保線費,修車費等も増大する。統計によれば営業費全体として曲線のために大体30%位増加する*30

§4. 勾配の経済的考察 (p. 263)

1. 勾配の種類 (p. 263)

機関車の牽引定数は第3編第1章において述べたように速度の大小,曲線の緩急によって影響を受けるが最も大なる影響を与えるものは勾配であって,勾配によって左右されると見ることができる。
勾配には運転上より次の如き種類がある*31
  1. 制限勾配(ruling grade):第3編第1章§4(206頁)参照
  2. 惰力勾配(momentatum grade):第3編第1章§4(206頁)参照
  3. 補助勾配(pusher grade):補助機関車を要する急勾配

2. 制限勾配 (p. 264)

制限勾配はその線の輸送能力を決定するものであるから,これを緩にする事は営業費軽減の方面から見ても望ましい事である。しかるに建設費は自然の地形ままに線路を敷設する場合が最も安く,従って山間にあっては急勾配となりがちである。この点が線路選定の場合に最も考慮を払わねばならぬ点である。
今,
  • A1a1なる勾配の建設費
  • A2a2なる勾配の建設費
  • C1a1なる勾配線における営業費
  • C2a2なる勾配線における営業費
  • r:建設費に対する利率
とすればA1r +C1A2r +C2 とを比較し,その額の小なる線が経済的な線路と言う事ができる*32

3. 勾配緩和の営業に及ぼす影響 (p. 264)

一定の輸送数量に得た収入は一定であって,これを輸送した列車の回数には無関係である。しかるに一定の運輸量を輸送する費用は列車回数によって増減するから,1区間における列車回数の節約は即ちその区間の営業費の節約となる。それ故に制限勾配の軽減は1区間における牽引力が増加せられ列車回数を減少せしめ,従って営業費が軽減せられるのである。
制限勾配を緩和して列車数を1箇減少した場合の営業費に及ぼす影響は,列車走行1km当り28%位減少することになる*33

次に緩勾配の場合の影響を調べて見ると,1列車kmの営業費に対する影響は上り勾配において機関車が普通以上の燃料を用い,下り勾配において制動機を使用しない場合は9%,上り勾配において機関車の全能力を出し下り勾配において制動機を使用する場合は11%位である*34

4. 補助勾配 (p. 265)

ある1区間において急勾配があり,その走行抵抗がその他の大部分の区間の走行抵抗に較べて約2倍になるような場合には,この急勾配区間に補助機関車を使用する事が経済的になる場合がある。このような場合の勾配を補助勾配と言う。補助機関車の営業費に及ぼす影響を実績について調べて見ると,走行1kmについて約36%位である*35

参考文献

(著者・編者の五十音順)

書籍
  • 平井喜久松『鉄道』岩波書店,1936年5月15日 第1刷発行,1949年7月15日 第7刷発行

辞典
  • 石井忠久,他『福武漢和辞典』福武書店,1991年11月1日 発行,初版
  • 岩波書店『広辞苑』〈シャープ電子辞書 PW-9600 収録〉岩波書店,1998-2001年,第5版

(書名の五十音順)



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更新日:2010年12月10日

最終更新:2010年12月10日 07:56
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*1 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 250

*2 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 250

*3 ) 山をふみ越え,水を渡ること。転じて,諸国を遍歴すること。--『広辞苑』第5版

*4 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 251

*5 ) 【堪】〔カン,コン,タン〕〔た・える〕--『広辞苑』第5版

*6 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 252

*7 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 252

*8 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 252

*9 ) 【遺漏】(注意が足りなくもれること。手ぬかりのあること。「万(ばん)—のないようにせよ」--『広辞苑』第5版

*10 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 252,253

*11 ) 平井喜久松『鉄道』1949, p. 283

*12 ) 過去のこと --『広辞苑』第5版

*13 ) 平井喜久松『鉄道』1949, pp. 254,256

*14 ) 平井喜久松『鉄道』1949, pp. 256-259

*15 ) 平井喜久松『鉄道』1949, p. 259

*16 ) 平井喜久松『鉄道』1949, pp. 259,260

*17 ) 【茲】〔シ,ジ〕〔ここ,ここに,この,これ,しげる,すなわち,ますます〕

*18 ) 平井喜久松『鉄道』1949, p. 260

*19 ) みやことむら。繁華なまち。--『広辞苑』第5版

*20 ) 【茲】〔シ,ジ〕〔ここ,ここに,この,これ,しげる,すなわち,ますます〕

*21 ) 「到著」の読みは〔トウチャク〕。意味は「到着」と同じで「目的地に行き着く」--【到】/【到着・到著】『福武漢和辞典』p136

*22 ) 平井喜久松『鉄道』1949, p. 260

*23 ) 平井喜久松『鉄道』1949, p. 261

*24 ) 平井喜久松『鉄道』1949, p. 261

*25 ) 平井喜久松『鉄道』1949, pp. 261,262

*26 ) 平井喜久松『鉄道』1949, p. 262

*27 ) 平井喜久松『鉄道』1949, p. 262

*28 ) 平井喜久松『鉄道』1949, pp. 262,263

*29 ) 平井喜久松『鉄道』1949, p. 263

*30 ) 平井喜久松『鉄道』1949, p. 263

*31 ) 平井喜久松『鉄道』1949, p. 263

*32 ) 平井喜久松『鉄道』1949, p. 264

*33 ) 平井喜久松『鉄道』1949, pp. 264,267

*34 ) 平井喜久松『鉄道』1949, p. 265

*35 ) 平井喜久松『鉄道』1949, p. 256