鉄道 (平井喜久松,岩波書店,1936年 第1刷,1949年 第7刷) > 第三編 運転,信号および保安 第二章 鉄道信号

鉄道』は平井喜久松さんの著書で,岩波書店から1936年(昭和11年)に第1刷が,1949年(昭和24年)に第7刷が発行されました。
このページには「第三編 運転,信号および保安 第二章 鉄道信号」を収録。

目次


第三編 運転,信号および保安 (p. 197)

第二章 鉄道信号 (p. 220)

鉄道信号(railway singal)には列車または車輛に対し「停止セヨ」「進行セヨ」等の運行の条件を指示するものと従事員に対し通告警戒等の通信を与えるものとある。信号機は腕木,燈光等によってこの信号を現示するものである*1

§1. 鉄道信号の種類 (p. 220)

信号機をその現示の方法によって大別すれば次の2種となる。
  1. 視覚信号(visible signal):物体の形状,色彩によって信号を現示するもの。
  2. 聴覚信号(audible signal):音響によって信号現示をなすもの。
視覚信号は遠距離より明瞭に見え,他のものと混視する虞(おそれ)なき事が必須条件である。
我国有鉄道では信号現示を
  1. 信号
  2. 合図
  3. 標識
の3つに別ち,また信号を次の4種に大別している*2
  1. 常置信号
  2. 臨時信号
  3. 発雷信号
  4. 手信号

§2. 常置信号機 (p. 220)

常置信号機(fixed signal)は一定の場所に設置せられた信号機であって,我国ではその現示は腕木または燈火による事に指定している。動力としては人力によるものと電力によるものとあるが,人力によるものを手動信号と言い,電気により自動的に作用するものを自動信号と言う*3

1. 常置信号機の種類 (p. 221)

これを目的により分類すれば次の如くである*4
  1. 場内信号機(home signal):停車場に進入せんとする列車に対し信号を現示し,その信号機より内方に進入の可否を指示するものである。
  2. 出発信号機(starting signal):停車場より出発せんとする列車に対し信号を現示し,その信号機より外方に進出の可否を指示するものである。
  3. 閉塞信号機(block signal):閉塞区間に進入せんとする列車に対し信号を現示し,その区間に進入の可否を指示するものである。
  4. 誘導信号機(calling signal):場内信号機または出発信号機に停止信号の現示ある場合,誘導を受くべき列車に対し場内信号機または出発信号機を越えて進行し得ることを示すものである。
  5. 遠方信号機(distance signal):主信号機(場内,出発,閉塞,掩護*5)に従属してそれに向って進行する列車に対し,運行の条件を指示するものである。即ち主信号機の現示状態を乗務員に予報して注意を促すものである。出発信号機に従属するものを特に通過信号機(advance starting signal)と言う。
  6. 援護信号機:可動橋,線路の平面交差等特に防護を要する箇所を通過せんとする列車に対,信号を現示し,その箇所通過の可否を示すものである。
  7. 入換信号機(shunting signal):列車または車輛の入換に対し信号を現示し,その信号機を越えて進行するの可否を指示するものである。

構造による分類
構造により分類すれば次の如くである。
(1)腕木信号機(semaphor signal)
柱上に腕木,燈等を取付け,昼間は腕木の位置,夜間は燈の色により信号現示をなすものを言う(第239図)*6

(2)円板信号機(disk signal)
昼間は円板の有無,色彩等により,夜間は燈色によりて信号現示をなすものである*7

(3)燈光信号機(light signal)
燈光によって信号現示するもので,色燈式(colour light signal)と燈列式(position light signal)の2種がある(第240図)。
信号機は地勢,見透,所属線路の状態等によりこれを張出桁(bracket)あるいは橋梁上設置する事がある。前者を信号桁(bracket signal),後者を信号橋(bridge signal)と言う(第241,242図)*8





操縦方法による分類
操縦方法によって分類するときは次の如くである*9
  1. 手動信号機(manual signal):取扱者において操縦する信号機。
  2. 機械信号機(mechanical signal):腕木を機械的に動作せしむる信号機。
  3. 電気信号機(electric signal):電気装置により腕木を操作し,または燈を点滅して信号現示をなすもの。
  4. 圧搾空気信号機(pneumatic signal):圧搾空気により信号機を操縦するもの。
  5. 電気圧搾空気信号機(electro-pnuematic signal):電力により圧搾空気に作用し信号機を操縦するもの。
  6. 自動信号機(automatic signal):軌道回路により自動的に制御され,取扱者において操縦せざるもの。
  7. 半自動信号機(semi-automatic signal):軌道回路により自動的に制御さるる機能を有し且つ取扱者において操縦するもの。

現示方法による分類
現示方法によって分類せば次の如くである*10
  1. 下向信号機(lower quadrant signal):腕木式信号機にして腕木が水平より下向に動くもの。
  2. 上向信号機(upper quadrant signal):腕木式信号機にして腕木が水平より上向に動くもの。
  3. 2位式信号機(two position signal):進行,停止の2様の現示をなす信号機である。
  4. 3位式信号機(three position signal):進行,注意,停止の3様の現示をなす信号機である。

2. 常置信号機の位置 (p. 225)

常置信号機はその種類によって建植位置が異なる。我国有鉄道では次のように定めている*11
  1. 場内信号機:
    1. 当該進路上最も外方の分岐器より外方60m以上。
    2. 当該進路上の背向分岐器または線路交差に附帯する最も外方の車輛接触限界より外方20m以上。
    3. 当該進路上列車の停止すべき区域より外方60m以上。
  2. 出発信号機:
    1. 当該進路上の最も内方の対向分岐器(側線に係るものはこれを除くを得)より内方。
    2. 当該進路の背向分岐器または線路交差に附帯する車輛接触限界(側線に係るものはこれを除くを得)より内方。
    3. 当該出発線上列車の停止すべき区域より外方。
  3. 閉塞信号機:閉塞区間の始点に設く
  4. 誘導信号機:場内信号機柱に添加す
  5. 遠方信号機:
    1. 主信号機の外方1km間の平均勾配10‰より急なる上りなる時は200m以上。
    2. 主信号機の外方1km間の平均勾配10‰および10‰より緩なる時400m以上。
  6. 掩護*12信号機:停車場外における可動橋,線路の分岐または交差等にて特に防護を要する箇所の外方60m以上。
  7. 入換停車場:入換進路の対向または背向分岐器または線路交差に附帯する車輛接触限界の内方。
また常置信号機はその所属線の直上または左側に設けるのを原則とし,地形その他特別な事情ある場合に限り右側に設ける。

3. 常置信号機の構造概要 (p. 226)

(1)機械信号機
機械的の操縦する腕木式信号機は下向2位式に限られ,その構成主要部分は次の如くである(第243図)*13

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  1. ピナクル*14
  2. 腕木
  3. 表眼鏡
  4. 裏眼鏡
  5. 燈挿金
  6. 軸承
  7. ベース
  8. ロッド
  9. ロッドガイド
  10. エスケープクランク
  11. ウェイトレバー
  12. カウンターウェイト
  13. スイープルホイール
  14. 鉄線装置

信号機においては故障のあった場合には必ず腕木は停止信号を現示することが必要である。信号機の距離が800m以上になれば鉄線は単線式にては操縦が困難であるから双線式とする*15

(2)電気信号機
交通頻繁なる線路および主要幹線では取扱の煩と労力を緩和し,取扱の敏活を期するため,電気信号機を用う。これには腕木式と燈光式とがある(第244,245図)。而(しか)して燈光式は更に色燈式と燈列式とに区別される(第240図 a,b*16


腕木式に比して色燈式が優れている点は次の如くである*17
  1. 昼夜を通じて現示が同一である。
  2. 構造簡単なるをもって障害少なく保守容易である。
  3. 背板が小であるから建築限界および透視に支障少ない。
  4. 建植位置の背景の影響がない。
  5. 建設費および保守費低廉である。
  6. 現示変化の時間短く運転上好都合である。
  7. 鉄塔その他適宜の場所に取付容易である。
  8. 電力の平均を保ち得。

次に燈光式の内で燈列式が色燈式に優る点は次の如くである*18
  1. 色で区別しないから色盲者でも認識を誤たない。
  2. 遠距離より透視得らるる。
  3. 3位以上の現示が可能である。
  4. 入換,誘導信号機の如きは主信号機と区別するために燈列式とするがよろしい。

(3)自動信号機
これは軌道回路により自動的に信号を現示するものであって,軌道回路の両端には軌条絶縁装置(第37,246図)および制御用電池,電磁石を設け,中間の軌条接目は電気抵抗を減ずるために rail bond を用い,軌条を電気的に接続せしめる*19

信号用電源は送電の確実を絶対的に必要とするから,発電所または変電所において母線より分岐して専用の配電盤により配電するを理想とする。信号装置に使用する電圧は一般に交流3,000V〜3,300Vを変圧して110Vとして用い,軌道継電器位相の関係上単相とし,電圧降下は普通10%以下に保つように電線の太さを決定する*20

4. 常置信号機の現示方式 (p. 229)

常置信号機の現示は2位式と3位式との2種あって,各信号機の現示方式は第247図の如くである。
常置信号機の腕の形,高さ,塗色および信号機の間隔は第248図の如くである。
腕木信号機の場合は夜間背面より識別するために背面光を現わし次の方式による*21

遠方信号機 その他の信号機
大なる白光 注意信号 停止信号
小なる白光 進行信号 進行信号

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第247図 信号機の現示方式 (左側半分&$041;

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第247図 信号機の現示方式 (右側半分)

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第247図 信号機の現示方式 (2)

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§3. 臨時信号機 (p. 231)

臨時信号機は線路の一部が災害のために一時不良に陥って平常運転を許さない時,あるいは工事施工中仮設備をなし列車を停止させたり徐行させたりする必要のある時にこれ等の現場に臨時に戦地する信号機である。
臨時信号機には次の如き種類がある*22

1. 停止信号機 (p. 231)

風水害その他の天災等の故障のために列車を停止せしむる必要がある場合に建植するもので,線路の障害箇所より200m隔った地点に建て,更に600m隔てて発雷信号を2箇所設置する。かくして列車を停止し乗務員にその停止の理由を通告する。なお停止信号機が600mの距離より認識できない場合は,停止信号機の外方400m以上の地点に徐行信号機を設置すべきである。
停止信号機の現示は第249図に示す如くである*23

2. 徐行信号機 (p. 237)

この信号機は線路の障害または修理のため,列車を徐行させる必要があるとき,その徐行を要する始端に設置すべきもので,予め乗務員に通告なき場合には徐行信号現示箇所の外方400m以上の距離に発雷信号を装置し,発雷信号の停止信号により列車が停止した時乗務員に徐行すうべき理由を通告するのである。徐行信号機が400mの距離から認め難い場合は徐行信号機の外方300m以上の地点に徐行予告標を設けねばならない。徐行信号機の現示は第249図>の如くである*24

3. 徐行解除信号機 (p. 238)

この信号機は徐行区域の終端に設置すべきものであって,線路が単線の場合は徐行信号機の背面を用いて差支えない。徐行解除信号機の現示は第249図の如くである*25

4. 徐行予告標 (p. 238)

この予告標は徐行信号機が400mの距離から認め難い場合に徐行信号機の外方300m以上の地点に設置するものである。この予告標の現示は第249図の如くである*26

§4. 手信号 (p. 238)

常置信号機および臨時信号機は一定の場所に信号の現示を要する場合に設置するものであるが,信号機あるいは線路に故障のある場合あるいは列車および車輛の入換をなす場合等には手信号(hand signal)をもって信号を現示する。我国有鉄道では手信号を次の如く定めている*27

1. 停止信号 (p. 238)

昼間は赤色旗,ただし止むを得ざる場合においては両腕を高く挙げ又は緑色旗以外のものを急激に振る。
夜間は赤色燈,ただし止むを得ざる場合は緑色燈以外の燈を急激に振る*28

2. 進行信号 (p. 238)

昼間は緑色旗,ただし止むを得ざる場合は片腕を高く挙げる。夜間は緑色燈*29

3. 徐行信号 (p. 238)

昼間は赤色旗および緑色旗を頭上高く交差する。夜間は明滅する緑色燈*30

4. 入換信号 (p. 239)

こには次の3種がある*31
  1. 信号者の方へ来れ:昼間を緑色旗を左右に振る。ただし止むを得ざる場合は片腕を左右に動かす。夜間は緑色燈を左右に振る。
  2. 信号者より去れ:昼間は緑色旗を上下に振る。ただし止むを得ざる場合には片腕を上下に動かす。夜間は緑色燈を上下に振る。
  3. 停止せよ:昼間は赤色旗を出すものである。ただし止むを得ざる場合は両腕を高く挙げてもよろしい。夜間は赤色燈。

§5. 発雷信号 (p. 239)

発雷信号(detonating signal)は天候の状態で信号の現示を認識する事ができない場合,あるいは列車乗務員の予期しない箇所で列車を停止る必要ある場合に用うるもので,雷管の爆音により停止信号を現示するものである。これはブリキ板で爆薬を包装し鉛製の帯を取付けたもので,鉛帯で軌条頭部に取付け,車輪がその上を通過する事により爆音を発するものである*32

§6. 合図および標識 (p. 239)

信号は列車または車輛に対して運行の条件を指示するものであって,列車の運転,車輛の入換上欠くべからざるものであるが,なおこの外にも作業上従事員間で色々の通告警戒あるいは要求等の通信をする必要がある。これを合図と言い,列車の出発合図,機関手の行う汽笛合図等その例である。標識は列車や車輛の種類状態あるいは線路上の分岐器その他の状態を示すために設ける符標であって,次の如き種類がある(第250図)*33

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参考文献

(著者・編者の五十音順)

書籍
  • 平井喜久松『鉄道』岩波書店,1936年5月15日 第1刷発行,1949年7月15日 第7刷発行

辞典
  • 岩波書店『広辞苑』〈シャープ電子辞書 PW-9600 収録〉岩波書店,1998-2001年,第5版

(書名の五十音順)



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更新日:2010年12月07日

最終更新:2010年12月07日 17:53
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*1 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 220

*2 [) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 220

*3 [) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 221

*4 [) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 221

*5 [) 「援護」とも書く --『広辞苑』第5版

*6 [) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 222

*7 [) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 222,223

*8 [) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 223

*9 [) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 224

*10 [) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 224

*11 [) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 225

*12 [) 「援護」とも書く --『広辞苑』第5版

*13 [) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 226

*14 [) 「ビナクル」かも?

*15 [) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 227

*16 [) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 227,228

*17 [) 平井喜久松『鉄道』1949,p.228

*18 [) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 228

*19 [) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 228,229

*20 [) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 229

*21 [) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 229

*22 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 231

*23 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 234,237

*24 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 238

*25 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 238

*26 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 238

*27 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 238

*28 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 238

*29 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 238

*30 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 238,239

*31 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 239

*32 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 239

*33 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 239,240