鉄道 (平井喜久松,岩波書店,1936年 第1刷,1949年 第7刷) > 第二編 停車場 第六章 貨車操車場

鉄道』は平井喜久松さんの著書で,岩波書店から1936年(昭和11年)に第1刷が,1949年(昭和24年)に第7刷が発行されました。
このページには「第二編 停車場 第六章 貨車操車場」を収録。

目次


第二編 停車場 (p. 111)

第六章 貨車操車場 (p. 182)

貨車は客車と異なり1車1車はその行先を異にし,全線各駅から各駅に向って輸送せられるのであるから,各駅で連結された貨車あるいは各駅で解放すべき貨車を一定の順序に配列する必要がある。しかしながら各駅毎に連結車の整理をなすことは却(かえ)ってその煩に堪(た)えないから,一定区間に纏(まと)めて整理をする。この場所を貨車操車場(sorting yard, Vershiebebahnhof)と言うのである。而(しか)して貨車操車場には田端,品川,吹田,新鶴見,稲沢等の如く貨車操車場のみを掌(つかさど)る駅もあれば,また普通の駅構内に操車線を設けてその作業を行うものもある*3

§1. 操車場の位置 (p. 182)

操車場の位置は貨物輸送の実際即ち全線における物資移動ならびに貨車運用の実況を明らかにし,これに基き操車場の統一的計画を立て,然(しか)る上において決定すべきである。なおこの場合次の事項をも考慮せねばならない*4
  1. 地方的状況即ち大都会と小都会との分布に従い,貨物集散の状況に応じ大操車場集中主義か,あるいは小操車場分散主義とするかも決定せねばならぬ。何れにせよ大消費地または大連絡地点には大操車場を設置し,貨車の作業をできるだけ簡単にすべきである。
  2. 鉄道網中の位置:鉄道網による列車の運転系統,操車場に負担さすべき操車数,将来の鉄道網中における変化等を考慮する必要がある。
  3. 地形上有利なること即ち水平直線なる場所。
  4. 土工および構造物の必要少なき所。
  5. 将来拡張の可能性ある所。
  6. 相当広大な地積を要する関係上地価の安い所。

§2. 操車場の形式および種類 (p. 183)

1. 操車場の形式

本線と操車場との関係から次の3つに分つことができる。
(a)本線が操車場の中を貫通するもの
(b)本線が操車場の片側を通ぜるもの
(c)本線が操車場の両側を通過せるもの
以上3形式ともそれぞれ長所短所を有するから,地形,運輸,運転状態に応じ考究選定すべきである*5


2. 操車場の種類

操車の方法によって分類すれば次の如くである*6
  1. 並入換操車場(pull and push shunting yard):機関車の推進および牽引により車輛の入換をなす操車場
  2. ハンプ操車場(hump yard):ハンプと称する小高い所に車輛を押上げ,それより下降する重力を利用した仕分作業をなす操車場
  3. 重力操車場(gravity yard):操車場を勾配中に置き,重力により動きつつ適当に仕分作業をなすもの。

線群の配列により分類すれば次の如くである。
(1)単式操車場(single yard):上下両方向の操車を共通の線群を使用して行う操車場(第209,211図)

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(2)複式操車場(double yard):上下両方向に対し,各々独立せる操車場を互いに隣接して設けたる操車場(第210図)
我国においては並入換操車場は全国到るところにあるが,ハンプ操車場としては品川,田端,大宮,新鶴見,稲沢,吹田,鳥栖の7箇所がある。

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§3. 操車場を構成する諸線群 (p. 185)

操車場を構成する線路配線の主要素と見るべきものは
(a)到著*7
(b)出発線
(c)操車線(方向別仕分,駅別仕分)
(d)その他の諸線群
である。以上のうち到著線と出発線とを兼用することもあり,また方向別仕分線および駅別仕分線の何れか一つで目的を達し得る場合もある。その他の諸線群としては
  1. 小口車収容線
  2. 積替整理線
  3. 緩急車収容線
  4. 検車線および制動機試験線
  5. 留置線
  6. 修繕車収容線および修繕線
  7. 機関車回線および機関車線
  8. 予備線
  9. 対外専用線
などがある*8

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3. 到著線および到著線群(receiving track and-yard)*9 (p. 186)

これは到著*10列車を収容する線群である。到著線の長さは盈(えい)および空列車の長さ,ならびに平均および最大列車長等の要素から定まる(例:東海道線では460mである)*11

到著線の数
到著線の数は(1)そのヤードに到著する列車数,(2)車輛が仕分けられる能力,(3)列車の最小運転時間隔によって定むうべきである*12

本線と到著線との接続方法は第213図に示す如くである*13


4. 操車線および操車線群(sorting line and-yard)*14 (p. 187)

車輛の解放,連結の作業を行う線あるいは線群であって,操車場における主要部分である。操車線には方向別仕分線と駅別仕分線とある。前者は車輛の行先の方向,例えば東海道線方面,東北線方面の如く大別するもので,後者はこの大別されたものを更に著駅*15順に整理するものである。中小の操車場で4は一般に両作業を同時に行う。到著*16線と操車線との連絡は一般に引上線による。列車が到著すると牽引機関車を入換機関車と付替えた後,引上線Z に導き,操車線で所定の順序に仕分けて新しい列車を編成するものである。第214図は最も簡単な接続関係の一例である*17


§4. 並入換操車場 (p. 187)

1. 引上線の長さ (p. 187)

我国では最長列車に多少の余裕を見込んだものを原則とするが,列車を切って引上ぐる場合は列車長の半分でもよろしい*18

2. 操車線の作業能力 (p. 188)

操車線の配置には第215図の如く色々の方法がある。その作業能力は次の如き要素に支配せられる。
(1)操車線の有効長および数:線路延長長く,かつその本数も多いものは能力が大となるが,これにもある限度がある。線路延長と操車能力との関係は第216図に示す如くである。
最も簡単な場合の操車線の所要延長L は次式によって求めらる*19
L = N ÷ n /m x l

ただし
  • N:最大牽引車数
  • m:車輛間の余裕をとらずに線路に収容し得べき車数
  • n:作業に支障なき余裕をとった収容車数
  • n /m = 0.61(実績による)
  • l:車輛の長さ
}

(2)操車線上の滞留時間:貨車が操車線に入り作業のためにその線上に滞留する時間を知れば操車線の利用程度を知る事ができる。今
  • t:車輛の滞留時間(m)= 場所によりて異なるが6〜8時間
  • L:線路の有効長(m)
  • l:車輛の長さ(平均8m)
とすれば
線路利用度 = 24/'''t''' 1日の操車車数 = '''L''' /'''l''' x '''n''' /'''m''' x 24/'''t''' = 24'''Ln''' / '''ltm'''
故に1日に操車し得る車輛数は一時に収容し得る車輛数の4〜3倍である*20

(3)入換所要時間:ある列車を操車線群で操車するには一定の時間を要するから,線路の延長を如何(いか)に大にしてもその効力少なく,1列車を分解して次の列車を編成するのに大体1時間を要する。従事員の交代休憩時間,機関車の給炭水等の時間を4時間とすれば1日の実働時間は20時間となり,20箇列車分即ち約1000輛を操車し得るが,これ以上は他に線群を求めねばならない。即ち1操車線群の最大操車車数は線路延長が如何(いか)に長くとも1日1000輛で,普通は600〜800輛である'。

(4)操車線の数および1本の操車線の延長:方向別,駅別に分ち,その駅で行う仕分け分類の数と同一線数を必要とする。
1操車線群の線数は10本以下が普通である。而(しか)して1列車編成終って出発線に入換えて次の列車を解放するような場合には,各線の合計延長が1列車の長さとなれば良い理である。
1本の操車線の長さは60〜240mで,その中1本だけ300〜450mあれば好都合である*21


§5. ハンプ操車場(hump yard)(p. 190)

ハンプ操車場では列車をハンプと称する小丘の上に押上げ(第217図),その頂に達するまでの間に操車の順序に従って車輛の連結を切れば,頂に達した時切離された車輛だけは順次重力によって逸走する*22。これを方向別線の分岐を転換することにより思い思いの操車線に転入させて貨車の仕分けをするのである。
ハンプ操車場は次の要件を具(そな)うるような場合において利用さ□*23
(a)操車数が著しく多数で1日2,000車以上
(b)貨車の行先が多方面に渡り甚(はなは)だ複雑なる場合
(c)附近に多数の取扱駅または大取扱駅を有し,これに対する操車を各別になすを要する場合

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1. 操車線と作業方法 (p. 191)

ハンプ操車場の最も簡単な例は第218図に示す如くである。即ち到著*24線に進入した列車は機関車を取除き,後部より入換機関車でハンプに押上げ,順次切離した車輛を逸走せしめ,所定の線に仕分けするのである。
この押上速度は方向別線の分岐器転換所要時間,頂上より分岐器までの距離,車輛の自走速度,走行時間ならびに同時に切離す車輛数等によって異なるが普通は10km/h内外である*25

ハンプ操車場においてはハンプを降った車輛は方向別線の終端まで転走するようにハンプの高さを定める事を要するが,温度の関係,車輛の固有性質,通過線路の状態等により貨車の走行抵抗は異なり,従って貨車の逸走距離も異なるので,これを所定の位置において停止せしむるには制動を必要とする*26

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制動方法としては車輛自身の制動機によるものと,線路上にある装置をなし制動するものとある。前者は普通手用制動機で制動手が車輛に乗って制動するが,後者は次の如きものがある*27
(イ)制動桿
(ロ)挿入制動機
(ハ)ヘムシュー(Hemshoe)
(ニ)挽鉄
(ホ)砂線
(ヘ)輪止橇*28
(ト)カー・リターダー*29
今日広く用いらるるものはヘムシューとカー・リターダーである。
ヘムシューは第219図の如き鉄製のもので,これを軌条上に置くと車輪がこの上に乗り上げ,軌条上を滑ってある距離を走ればヘムシューの底面と軌条との間の摩擦によて車輛は停止する*30


カー・リターダーは次の如き目的をもって考案せられたものである*31
  1. 従業員の減少,転走速度の増加分等によって操車費を節約し得ることと
  2. 従業員の傷害を減少し得ること
  3. 貨車および積載貨物の破損を減じ得ること
  4. 操車能力を増加し,貨車の利用率を高め得ること
  5. 冬季の操車作業を夏季と大差なくなし得ること

カー・リターダーの種別としては次の5種がある*32
  1. Fölich型または Thyssenhütte型(制動力を得るために車輛の自重を応用して水圧によるもの)
  2. G.R.S.型(電動機およびスプリングによるもの)
  3. Jordan型または U.S.S.型(圧搾空気によるもの)
  4. Bäseler型回転電流制動機(車輪内に電流を生ぜしめ,電磁作用で制動を行うもの)
  5. Deloison型(ヘムシューを電気機械的に取扱うもの)
以上のうち(4)(5)を除き他は全部走行中の貨車の車輪をリターダー軌条で強く挟んで抵抗を与え速度を調節するものである(第220図)。

車輪を挟む圧力は4段位に低下し,貨車の種類,速度,停止位置等により適当に加減して制動する。これを設ける位置はハンプの勾配中または仕分線の頭である。カー・リターダーを設備せるハンプは一般に勾配を急とし,転走速度を大とする。我国では最近これを取付けて使用を開始した(第220図)が,その成績は非常によろしいようである*33

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2. 操車線の配列 (p. 194)

ハンプ操車場における操車線は押上線に対して左右対称であることが必要である(第221図 a)。
これは
  1. 車輛が両端操車線に入る場合,同様の抵抗となる。
  2. 監視が偏しない。
  3. 配列が規則正しい事
などの利益がある。

分岐器の配列は第221図(b)(c)の如く2種の方法がある。
(b)図の利点は分岐器が1箇所によく纏(まと)まり,各線路の有効長が経済的となるから用地費および軌道費が節約せらるる。(c)図の何れの線に入る場合も最大2回の分岐器の転換で目的を達し得る利益がある*34


3. 押上線の数 (p. 194)

1本のものと2本のものとある。1日の操車数1,500〜2,000輛程度のものでは1本で,それ以上の場合は2本とする*35

4. 操車線の数および延長 (p. 194)

操車線の数は経済上ならびに作業上の見地から30〜36本が最大である。この範囲内では作業が規則正しく安全に行われる。これは最大限であるが,実際は貨車の仕分けらるる方向の数と車輛数によって決定すべきは勿論である。延長については前節に述べた通りである*36

5. ハンプの能力 (p. 196)

ハンプの能力は押上速度によって支配される。押上速度は転走速度,分岐器転換時間によって制限せられる。転走速度は勾配を急にし,高いハンプを用いて大にすべきであるが,これも限度がある。ただ,カー・リターダーを用いた場合にのみ,転走速度を相当大にすることができる。
実例は1つのハンプで3,000輛取扱うのが目下の所では限度のようである*37

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参考文献

(著者・編者の五十音順)

書籍
  • 平井喜久松『鉄道』岩波書店,1936年5月15日 第1刷発行,1949年7月15日 第7刷発行

辞典
  • 石井忠久,他『福武漢和辞典』福武書店,1991年11月1日 発行,初版
  • 岩波書店『広辞苑』〈シャープ電子辞書 PW-9600 収録〉岩波書店,1998-2001年,第5版

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更新日:2010年12月10日

最終更新:2010年12月10日 07:53
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*1 ) この小節の番号「3」は原文ママ。

*2 ) この小節の番号「4」は原文ママ。

*3 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 182

*4 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 182,183

*5 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 183

*6 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 184

*7 ) 「到著」の読みは〔トウチャク〕。意味は「到着」と同じで「目的地に行き着く」--【到】/【到着・到著】『福武漢和辞典』p136

*8 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. p185

*9 ) この小節の番号「3」は原文ママ。

*10 ) 「到著」の読みは〔トウチャク〕。意味は「到着」と同じで「目的地に行き着く」--【到】/【到着・到著】『福武漢和辞典』p136

*11 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 186

*12 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 186,187

*13 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 187

*14 ) この小節の番号「4」は原文ママ。

*15 ) 原文ママ。◆「到著」の読みは〔トウチャク〕。意味は「到着」と同じで「目的地に行き着く」--【到】/【到着・到著】『福武漢和辞典』p136。このことから,「著駅」は「着駅」と同じ意味と思われる。

*16 ) 「到著」の読みは〔トウチャク〕。意味は「到着」と同じで「目的地に行き着く」--【到】/【到着・到著】『福武漢和辞典』p136

*17 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 187

*18 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 187,188

*19 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 188,189

*20 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 189

*21 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 190

*22 ) それて走ること --『広辞苑』第5版

*23 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 190,191

*24 ) 「到著」の読みは〔トウチャク〕。意味は「到着」と同じで「目的地に行き着く」--【到】/【到着・到著】『福武漢和辞典』p136

*25 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 191

*26 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 191

*27 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 191,192

*28 ) 【橇】〔キョウ,サイ,セイ,ゼイ〕〔そり〕

*29 ) 英語の綴は``car retarder''?

*30 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 192

*31 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 192

*32 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 193

*33 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 193,194

*34 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 194

*35 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 194

*36 ) 平井喜久松『鉄道』1949,pp. 195,196

*37 ) 平井喜久松『鉄道』1949,p. 196